著者別(か)川端裕人

『竜とわれらの時代』 川端裕人

Ryu_kawabata 2008年、75冊目。川端裕人『竜とわれらの時代』

先日読んだ山本弘『MM9』は怪獣小説でしたが、これは恐竜小説です。

非常に長編ですが、最後まで飽きることなく読める作品です。長編ということもあってか、なかなか盛りだくさんの材料を含む内容ですが、それぞれをうまく料理してあり、破綻なくまとめてあるところは流石です。

メインとなるのは竜=恐竜なのですが、これに閉鎖的な共同体(=地域、科学者)という背景を重ね合わせるとともに、宗教の対立、宗教と科学の対立といったものが交錯するストーリーとなっています。そのため、逆にいえば、人間のドラマといったような感情を交わすような部分は相対的に(かなり)小さいものとなっており、感情移入で楽しむというよりも、いわゆるハリウッドの映画のように、次はどうなるんだという次々と起こるイベントに流されるといった印象を持ちました。

父子家庭の粗雑な生活を見るに見かねた祖母文ばあの提案で、風見大地(高3)、海也(高1)の二人は北陸・白山の麓手取郡の父忠明の実家に引き取られた。

そこで大地海也大地の同級生草薙美子とともに恐竜の化石を発見する。しかし、発掘には非常に大掛かりな作業が必要となることがわかった3人はこのことを秘密にし、大地が将来研究者として発掘することを約束する。

「アメリカ自然史博物館(AMNH)」のクリス・マクレモアが教授を務めるコネティカット州の大学で学ぶ大地は、クリスに<東アジアの白亜紀最初期の古生物化石発掘計画>(手取プロジェクト)を提案していたが、NSF(全米科学財団)からの予算がおりない。

そこへ救いの手をさしのべたのが「ザ・ファウンデーション(財団)」であった。彼らは当時クリスが悩まされてていた襲撃事件も援助できるという。

「財団」の資金援助により手取郡荘山村での発掘が開始され、母岩が切り出される。そこからは世界最大、推定体長40mの新種テトリティタンが発見されたが、その母岩が盗まれてしまう。大地が信頼する技官ロジャー・フォレストの失踪とともに・・・。

その頃、クリスを狙った襲撃は過激さを極め、AMNHの研究室が爆破される。犯行は進化論を認めないイスラム過激原理主義者組織『ファトワ』によるもの。先年、クリスの著作『恐竜の進化生物学』がアラビア語訳されたことで、クリスがターゲットとなったのだ。間一髪「財団」に救われたクリスは「財団」の若き理事ジョナサン・グッドマンとともにテキサスの「財団」施設に収容され、隔離される。

クリスが行方不明になったことから彼の学生であるカーチャ・エフレーモフベン・ベルカが手取の里の大地に合流する。

テトリティタンは盗まれてしまったが、手取層群からは次々と貴重な化石が発掘され、カーチャやベンもこの発掘、剖出に取り組んでいく。

クリスは「財団」施設で数多くの化石のコレクションに出合い、教授としてではなく、自身がプレーヤーとして研究に専念する思いを高めていた。そんな頃、運び込まれた(盗まれた)テトリティタンに遭遇するとともに、「財団」の会長ボビー・トーレから「財団」の趣旨を明かされる。

「財団」はキリスト教原理主義者福音派(エヴァンジェリスト)を支援するもので、科学を宗教に取り込むことを目的にしていた。そして科学の名のもと、無味無臭の教育プログラムを海外に輸出する中で、長い時間をかけて自身で気付かないうちに異教徒を変えていくことを。彼はそれを文化遺伝子(ミーム)爆弾といった。

クリスとテトリティタンの消息が明らかとなると大地は「財団」施設に向かった。既に自身の研究に専念するクリス大地たちの師匠としての任務を放擲しており、大地ベンはそれぞれ「財団」から資金援助を受ける形で独力で研究を進めたが、大地ベンの研究結果は、期せずしてクリスのこれまでの研究を否定するものであった。学会で打ちのめされたクリスは以後、「財団」のスポークスマンとも言えるクリスチャン・サイエンスの徒と化していった。

「財団」のボビー・トーレ死後、後継者候補として指名されたロジャー・フォレストジョナサン・グッドマンは、クリスの判定の下で後継者としての資質を試される。舞台は手取の里。

草薙美子海也と結婚して風見美子)の起案による手取の里を舞台とした「恐竜の共同体」というコンセプトの地方博はジョナサンの支援する勝峰町と(ロジャーが支援する)大地ベンカーチャ美子らの企画する荘山村・白泉村の2会場で行われることとなった。

いわゆる文化遺伝子の絨毯爆撃に業を煮やした『ファトワ』は反撃を開始した。7月4日のアメリカ独立記念日にはボストン、ミルストン、ニューヨーク、ワシントン、フィラデルフィアなど同時多発テロが実施される。

その翌日、地方博の初日、勝峰会場内に仕掛けられた(敦浜原発から強奪されたMOX燃料を抽出した)プルトニウム溶液の臨界点を超えさせるべく、サリム・ラーマンは最後の調整を行っていた。

サリムを追っていた大地の父忠明カーチャ大地海也貴子海也の娘)ら500人とともに会場に閉じ込められた。臨界点突破まで30分。



とにかく登場人物が多く、それぞれがそれぞれの背景、思いをもって作品中に登場しており、誰が当作品の主人公とはいいにくいものとなっています。大地は研究バカですし、海也は天然なのでしょう。文ばあ貴子が好い味を出しています。ちょっとジョナサンはよくわからない人物で、彼の行動はよくわからないのですが・・・。

場面展開も多いため、全体像をつかみながら、読み進めていくのはなかなか骨が折れます。登場人物が多く、場面展開も激しいストーリーは苦手な人もいるかもしれませんが、ストーリーは十分楽しめるのではないでしょうか。

勿論、古生物学に係る専門知識が多々登場しますが、特に深く理解しなくても話の流れには何の影響も与えません。そういう意味では登場人物の背景、感情に深くのめりこまなくていい分だけ、気楽に流して読めるとも言えるかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ふにゅう』 川端裕人

02463264 2008年の冊目は『夏のロケット』『銀河のワールドカップ』川端裕人

「ふにゅう」という何ともいえない不思議な響きに魅かれて、読んでみたものの、一言で言えば失敗。

残念ながら、従来の川端裕人が得意とする所謂「青春」を感じさせるような、ワクワク感には乏しい内容でした。

まとめてしまえば、この作品は子供を媒介にしてジェンダーを考えさせる5つの短編集。

「おっぱい」「デリパニ」「ゆすきとくんとゆすあしちゃん」「桜川エピキュリアン」「ギンヤンマ、再配置プロジェクト」の5編で構成されるが、特段5編の間に関係はない。

タイトルの『ふにゅう』は母乳に焦がれる子供への思いから主人公が欲する「父乳」から。

しかし、この作品に限りませんが、どうしてこういった子供を介した夫婦の話には、必ずといって良いほど、”子供が一番大事”、子供への愛情は素晴らしいといった論調になるのでしょうか。

「育児をすることは、自分の子供時代を生き直すこと。」といった文章がありますが、その眼でみたときに今の子供たちの在り様は甘やかされすぎじゃないのか、という気がしてなりません。

子供を育てるには「まず、褒めること」と各種の育児雑誌でも言われますが、本当なんでしょうか。それでは、すぐに自己満足してしまって、進歩は望めないんじゃないのかとそういった所謂専門家のコメントを聞く都度感じてしまいます。

そういった子供への愛情を謳うことだけは共通する夫婦の関係というのも、若干嘘くさいような気がしますが、どうでしょうか。そもそも子供の成長に向けたビジョンはマチマチのはずで、その意味では、この作品の中では最後の「ギンヤンマ、再配置プロジェクト」が、今後そういった深い(不快な)ところに踏み込んでいく話なのかもしれません。しかし、踏み込む前に、その決意だけでエンディングを迎えさせてしまう(=踏み込まない)ところに、この作品の限界があると言えるのかもしれません。

そういったところまで踏み込めば、読後感は悪いかもしれませんが、読者に考えさせる、心に残る作品になったかもしれないところ、現状では「あっさりとした」読後感、単に時間潰しに本を読んだという印象にとどまってしまいました。

好きな作家の一人である川端裕人の作品であっただけに、このテーマ、決着の中途半端さは残念でなりません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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