書籍・雑誌

『少年鉄人』 山下貴光

Syonentetsujin 2009年、113冊目。山下貴光『少年鉄人』

山田悠介のあとに読んだ作品だからでしょうか。非常に文章がこなれていますし、印象的な表現が多い。

うまく書くよなぁと印象的なシーンも多い作品です。

若干気恥ずかしい感じもしないではないですが、キャラクターもそれぞれに光っていて、読んでいて清清しく、気持ちよい。

 

限定フィギュアを買いに近道をした瀬尾太一は狭い路地で足を止められる。

ジャージ姿の二人組がフィギュアを買いに走る子どもから金を巻き上げるために網をはっていた。

窮する太一の前に姿を現われた正義の味方は坊主頭の中学生と思しき少年。彼は「助けてやる」と告げるとジャージの二人に向かっていくが、あっさりとやられてしまう。

世界を変えるために、やれることを放棄しない」ことを信条とした少年は困っている太一を見過ごせなかったのだ。

名前も聞かずに別れた二人だったが、翌日再会することになる。少年が6年2組に転校生としてやってくる。

少年の名は「今井鉄人」。

隣の地区の学校で変態教師の担任(ピーゴリ)を殴って転校してきたという専らの噂だ。

そんな評判もあってか、太一のほかにも鉄人を気にする者があった。クラスで王様然として振舞う大江和真である。クラスの王様であることにイライラとしながらも、寂しさを感じていた和真は、父親がいない(鉄人は死別、和真は離婚)という共通点もあって、気になって仕方がない。

当初は馴れ馴れしく振舞う鉄人に戸惑う和真だったが、太一や優等生の森崎義之、学級委員町村千秋を誘い、一方的に友達宣言する鉄人に、和真の頑なだった心も解けていく。

こうして鉄人のもと、なし崩しに友だちになった5人は秘密の共有をもって、友だちの証としようとする。

鉄人が紹介した自身の秘密は、鉄人仙人と称するホームレス。

やれることを放棄するな」の言葉も仙人から得たものだった。

太一仙人から得た助言は「強さを守れ

この言葉を受けた太一は強さを取り戻すため、ジャージの二人組との対決することを決意する。対決の傍らには友達である鉄人和真の姿もあった。(勿論、三人とも返り討ちに会うのだが・・・。)

一方、街は通り魔事件で持ちきりだった。

そして、とうとう身近な人間が通り魔の犠牲となった。

太一らがよく行くたこ焼き屋店主忍者さん服部善蔵)の想い人沙織さんだ。

自身の力で犯人を捕まえようとする忍者さん(と友人たち)に協力しようとする鉄人和真だったが、太一はこれに付き合うことができない。

義之と先約があったのだ。義之に連れられて太一が出会ったのは「喧嘩屋」と称する高校生。千円で喧嘩(制裁)を請け負うという喧嘩屋に、義之は「僕に喧嘩を教えてください」と申し込むのだった。

最初は断る喧嘩屋だったが、(太一には秘密の)事情を義之から聞いた喧嘩屋は自身の経験にも照らし、二人に喧嘩を教えることを承諾する。

忍者さんに協力を断られた鉄人和真だったが、翌日事情は変わった。和真も面識のできた鉄人の前の学校の友達公彦もまた通り魔に襲われたのだ。自身のこととして犯人探しに協力を申し出る鉄人たちに忍者さんも同行を認めるのだった。

間もなく、犯人が捕まるが、沙織さん公彦の事件は別人の犯行であることがわかる。

沙織さん事件の犯人は忍者さんに暴行を受けたサラリーマンの逆恨みだった。真犯人を捕まえた忍者さんだったが、犯人のサラリーマンの起こした事件は沙織の一件だけで、公彦の事件はまた別の者の犯行だった。

一方、一週間の約束で喧嘩修業を受けた義之は、千秋の家に乗り込んだ。千秋が父親から虐待を受けていることに気づいた義之は父親に立ち向かうため、喧嘩修業に励んだのだ。千秋が父親の虐待を受けていること。それが秘密だったのだ。

義之を制止できない太一鉄人喧嘩屋に電話し、喧嘩屋とともに千秋の家に乗り込むのだった。

圧倒的な喧嘩屋の力の前に、事態は漸く収束する。

 

そして、突然、鉄人がいなくなった。

鉄人は一人で厄介ごとを抱え込んでいるに違いないと睨んだ4人は仙人忍者さんらの協力も得て、ようやく鉄人を見つけ出すのだが、そこには・・・。

 

面白かった。

最初は風の又三郎的な役所かとも思いましたが、最後まで鉄人が主役といっていい作品です。ただし、鉄人は、ちょっと出来すぎのキャラクターで、少しずつ影・悩みを持つ太一和真といった等身大のキャラクターに比べると、キャラクターというよりも装置といった印象が強いのが玉に瑕でしょうか。

ストーリー自体も単に鉄人が新たに友人を作る過程で起こるいろいろな身近な出来事を語るだけでなく、前作の『屋上ミサイル』と同様に、裏で別のストーリーが走っています。

テレビで放送される内容が絡んでくるところなんかはよく似ていますし、今回はその内容が鉄人の父親の死に係わる話で、併せて楽しむことができます。

仙人和真の秘密基地が、そのサイドストーリーと関係するというのは、ちょっと出来すぎかもしれませんが、(若干わざとらしい部分もありますが)なかなか面白かったです。

後味の悪くない作品です。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『オール』 山田悠介

All 2009年、112冊目。山田悠介『オール』

山田悠介にしてはありきたりの話で、独特の毒のある設定ではありません。

何でも屋で働き始める青年の青春記といった感じでしょうか。

 

ゴミ屋敷

荻原健太郎(25)は2年前、アパレル関係の一流企業に就職し、東京に出てきたものの、刺激の少ない毎日に嫌気がさして退職してしまう。その後はバイトをして暮らす毎日。

田舎(高知)の母には退職のことは告げておらず、今でも一流企業に勤めているとの嘘を続けるのだった。

バイトを失くした健太郎は電柱の貼り紙に目を止めた。

有限会社花田・あなたも何でも屋で働いてみませんか?アルバイト募集・・・・・・短時間で稼げます

興味を持った健太郎は、そこで働き始める。

会社は社長花田彰三のほか、同僚に坊主頭の大男大熊徹(27)、痩せ細った天然パーマ長崎雄太(28)の二人。

働きはじめて間もなく、不思議な依頼が舞い込む。

メールで届いた依頼はこうだった。

題名「私を見つけて

本文「ゴミ屋敷となっている私の自宅を片づけにきてはもらえませんか。報酬として五百万円お支払いいたします。そのかわり、午後の五時までに全ての作業を終わらせてほしいのです。どうかよろしくお願いします。

不審な依頼であったが、報酬に目のくらんだ長崎花田を説得する。

現場はまさにゴミ屋敷。

誰もいない屋敷に不法侵入し、早速掃除を始めるのだが・・・。

 

運び屋

健太郎の恋人渡辺梓がニューヨークから突然帰ってくる。

健太郎が会社を辞めたことを知らず、健太郎もそれを言いそびれてしまう。

花田の留守中に長崎が受けた依頼は鍵のかかった黒いセカンドバッグを運ぶこと。明らかに怪しい依頼に躊躇する健太郎だったが、長崎はあっさり受けてしまう。

しかし、やはり中身はヤバイものだった。

届け先に向かう健太郎らの車を白いベンツがつけてくる。

逃げる健太郎らだったが、逃げ切ることはできない。更に、なぜか健太郎の携帯には白いベンツから電話が・・・。

 

政略結婚

中学生くらいの女の子三星尚子からの依頼は、親の反対で離れ離れとなった兄とその恋人を合わせたいというもの。

現代版ロミオとジュリエットという設定に健太郎は燃える。

 

連絡もなく、帰省もしない健太郎に痺れを切らした母が突然上京する。

しかし、面と向かって会社を辞めたことを告げることのできない健太郎花田に仕事を依頼する。母に健太郎が仕事をしているところをそれとなく見せることを。

母に仕事を見せる前日、花田健太郎に、大野家の老婦人の世話という名の、激しいホームヘルパー業務を肩代わりさせる。

 

最後の仕事

健太郎と母とのやり取りを見て、実家の畳屋を継ぐことを決意した長崎が何でも屋を辞めた。

しかし、その去り際は素っ気のないもので、大きな違和感を残す。

また、親密であったスナック『雫』のホステス中沢夏美にも告げずに、長崎は実家に戻ったのだ。夏美との間の約束が未だ履行されていないことを知った健太郎は、長崎の去り際の違和感を解消すべく、茨城の長崎の実家に向かうのだった。

 

こうやってありきたりの話だと、文章の稚拙さや設定の粗さが目立ちますね。

それに何でも屋っていうと、『まほろ駅前多田便利軒三浦しをん)』を思い出してしまうので、ちょっと分が悪すぎますね。

個人的に好きではありませんが、突拍子もない毒のある設定(世界観)というのが山田悠介の真骨頂なんでしょう。

ゲームの世界のように、「何人倒した(殺した)」といったことを競うような、命の重さを蔑ろにするような子どもっぽい設定が持ち味っていうのもどうかとは思いますが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『透明約束』 川上健一

Toumeiyakusoku 2009年、111冊目。川上健一『透明約束』

なぜかカナダをテーマにした短編集。

特に大きなイベントがあるわけでもない。ちょっとした出来事、転機を綴った話。

全体のバランスもいい。最初の方は、どちらかといえば淡々とした話ですが、少しずつ叙情的というか、ぐっとくるような作品になっていくという構成になっています。

 

カナダ通り

高校3年間を無遅刻・無欠席で通う、片道1時間35分の道のり。その途中の緑町商店街。カナダの国旗がかかった、その通りを由里絵はカナダ通りと名付けた。

カナダ通りで出会ったケーキ屋が由里絵の運命を変えた。

 

夜間飛行

有限会社笹井製作所。父が起こした会社(ネジ製作)を継いだ笹井周一は、堅実に働き続ける。とはいっても、小さなネジ製作のこと。生活が豊かになり、余裕が出てくるわけでもない。

そんな生活にあっても、彼には妻温子と約束した”カナダへの旅”の夢があった。

 

オーロラ爆発

仕事を優先し、娘メグミを母トシコに預けた彩子だったが、最近のメグミの行動に戸惑っていた。

タバコ、暴力、万引と次々と問題を起こすメグミを叱責する彩子だったが、メグミは聞く耳をもたない。そんなメグミと掴み合いの喧嘩になる彩子

そんな関係を修復するべく、彩子メグミをイエローナイフのオーロラ見物ツアーに誘った。

 

バンクーバーの雪だるま

青井友はカナダに住む坂崎広介に別れを告げるため、バンクーバーを訪ねた。

ギターを作るためにカナダに渡った広介と結婚を誓うだったが、両親の反対から結婚には至らなかった。更に、喘息で役所を休みがちになった父、寝込むことが多くなった母の世話、看病で、7年の月日はあっという間に過ぎ去っていった。

 

天国にもない島

不倫の果てに破局したエミは、12年前に離婚した父のもとを訪ねた。

父の住むソルト・スプリング・アイランドは”世界の中でも土地のエナジーが高い”と言われるところ。

何度か恋をして男女のことが少しは理解できるようになったエミは、父と母から父を奪った、腹違いの妹サラに会いに、そしてエナジー・チャージをするために、ソルト・スプリング・アイランドにやってきた。

 

全日本スキップ同好会

バンフ・スプリングス・ホテルのゴルフコースでのグルフ三昧のためにカナダを訪れた4人組は高校時代の同級生。

ゴルフが唯一の趣味の仲間は定年退職を迎える年に夢のゴルフコースでプレーしようと決意した彼らは毎月5千円の積み立てを始めたのだ。

2日の滞在でゴルフ以外の観光はせず、ゴルフを満喫した彼らは町外れのオープン・カフェで来られなかった仲間のことを話し始める。

 

ラッキーハンド

昌治は定年退職の日、妻郁恵に「カナダ VIA鉄道カナディアン号 バンクーバー・トロント間三泊四日の旅」の話を切り出す。朴念仁の夫の隠し球に驚く郁恵だったが、既に決意していた離婚を翻すことはなかった。

離婚をつきつけられた昌治は驚くが、最後の願いとしてカナダへの旅行に郁恵を誘う。

旅先の昌治は30年間の結婚生活では見ることのない別人だった。

 

二十五年目の愛してる

定年まで6年も残し、リストラされた不器用な夫康夫。うちひしがれてしょんぼりしている夫を目にして、突然、登美子の喉にせり上がってきた言葉があった。

『愛してる』

その一言を言うためだけに、登美子は『赤毛のアン』の舞台、プリンスエドワード島への旅を決めるのだった。

 

透明約束

信夫は末期ガンの宣告を受け、余命いくばくもない。その病室では息子たちが遺産相続でもめる。

雅子は眉を顰めるが、信夫はこだわらない。そんなとき、信夫がポツリと呟いた。

思い出した・・・・・・ 透明約束

透明約束。それは信夫の定年記念に訪れたルーネンバーグで交わした、最期のときの約束だった。

 

極夜

30年前、小学4年の塚田俊雄が母とともに通った喫茶店『白夜』(冬は『極夜』という店名)。そこの店主、アーマイさん(「アーマイ(イヌイット語で「私は知らない」の意)」が口癖)は俊雄を可愛がる。

アーマイさんの作る空想上の乗り物は俊雄を魅了し、俊雄は購入を申し出る。「予約済」の紙が張られた飛行船「白夜号・極夜号」だったが、購入にいたることなく、俊雄は町を離れてしまう。

 

どの作品もいいなぁと思うような(自身のこととして体験した場合に、何らかを感じるような)作品です。

全日本スキップ同好会も全体のなかでは一風変わっていて、ある種愉快な話でがあるのですが、その底流に人生の終盤に入って感じるもの、といったような寂しさもあって、味わい深い作品です。

そういえば、この短編集は大きく二つの流れに分類することができるのかもしれません。相対的に若い女性の人生の転機となる話と、人生の晩年を迎えて感じること、といったような2系統でしょうか。(夜間飛行極夜はちょっと違いますが・・・)

この作品の中で貶している、読んでしまったらすぐに忘れてしまうような作品でなく、記憶に残るような話でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『青春夜明け前』 重松清

Seisyunyoake 2009年、110冊目。重松清『青春夜明け前』

重松清流、青春小説短編集ってやつでしょうか。

爽やかというより、ベタベタで、馬鹿馬鹿しく、何だか気恥ずかしくなるような話です。

 

とんがらし

小学5年のヒロシ大西藤木の3人は秘密裡に「とんがらし同盟」を結成していた。

合言葉は『いざとなったら玉を出せ!』(by新八犬伝)で、自身の玉を出すのだ。とんがらしとは一緒に出るサオのこと。

秋から春にかけて閉ざされた板張りの小屋、通称”ちん小屋”でのエロの数々。

 

モズクとヒジキと屋上で

学年一の不細工を争うモズクヒジキは親友。

モズクは入学直後、門田モンちゃん)に一目惚れする。その態度がミエミエなだけに門田も気づくが、勿論そんな気はない。

修学旅行を前に、ヒジキが関心を持っていると言われたのは門田の親友小林ユウ)。

学年一凶暴なヒジキに呼び出された小林は、門田モズクを交際させるのに協力するか、自分(ヒジキ)と(小林が)交際することにするかという究極の二者択一を求める。

 

タツへのせんべつ

中学に入学して間もなく、突然親友のタツが東京に転校することが決まった。ヒロシは一人東京で戦うタツに素晴らしいせんべつを送ろうと考えた。

兄の進言で女性の陰毛がいいと知ったヒロシだったが・・・。

 

俺の空、くもり。

高校3年の夏。1年の頃からつるんできた5人(スギヤマ、ノムさん、イトー、シミズ、ヒロ)のなかから初めて、女とやった奴が現れた。

卒業までに次から次へと童貞を失っていくなか、最後まで童貞を守ってしまったヒロからの暴露話。

 

横須賀ベルトを知ってるかい?

転校生は黒のダボシャツに背広を羽織って教室に現れた。

オレ、流れ者だから」と自己紹介した伊達草平は大言壮語を地でいくアホだった。

上級生も様子見するなか、上級生から伊達を締めるよう命じられた松本吉冨だったが・・・。

 

でぃくしょなりぃ

「でぃくしょなりぃ」とは、誰が言い出したのか「男と女がデキている」こと。

オトコが命を賭けるのは、野球とバイクと矢沢永吉という、お馬鹿な中学2年の5人組、自称”五家宝連”。

彼らが倒すべき相手は、まじめで爽やかで勉強もスポーツもそこそこ得意で、女子とも気軽に話ができる奴ら、所謂(女)タラシである。

しかし、メンバーの一人ヒコゾウは下駄箱に入っていたラブレターが入っていたことで・・・。

 

春じゃったか?

高校卒業間際、中学時代の同級生ギュウちゃん牛田純一)の三回忌の知らせが届く。

乱暴でガラの悪いギュウちゃんに良い想い出はないものの、誰もが断る踏ん切りもつかない。

卒業を前に不安定に揺れるヒロは「友だち」のナベちゃんに相談する。

 

なぜでしょう。ヒロとかヒロシといった名前の主人公が多い作品です。おそらくつながりはないんでしょうが、妙に気になります。

いつものパターンですが、作者が作者自身の過去を語るとでもいった文体で描かれ、妙に生々しい。同世代には極めて懐かしい感じはするものの、あまりにもベタで、人にはなかなか推奨しにくいタイプの作品ですね。

一言でいって、「昔はバカなことばっかりしてたよなぁ」と子ども時代を振り返って、懐かしくも恥ずかしくなる作品集といえるでしょうか。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『よもぎ学園高等学校蹴球部』 松波太郎

Yomogi 2009年、109冊目。松波太郎『よもぎ学園高等学校蹴球部』

はっきりいって、つまらない。

タイトルに騙されちゃダメだな、と痛感した一冊。

確かにサッカーは描かれちゃいるものの、かなり添え物的で、こういったスポーツにつきものの団結・チームワークといったようなものも曖昧。

最低なのは、後年、故人となった監督を腐す態度。こういった人間の限界や外見と本音の違いを悲哀とみるのだとすれば、面倒くさい作品です。

 

よもぎ学園高等学校蹴球部

四日市東高校の自転車置き場では、名張工業高校戦のキックオフを前に、よもぎ学園高校の選手が泣いていた。

よもぎ学園高校の女監督森将子が突然、自身にとってもこれが最後の試合であることを告げたからだ。

やる気も実力もないよもぎ学園高校は監督だけが熱血。この日も3年生にとっては最後の試合であるにも関らず、レギュラーメンバー丸山哲太がユニフォームを忘れてくるなど、やる気のなさは一目瞭然で(監督が棄権を進言するほど)だった。しかし、監督の告白を受けて、実力差が明らかな”バリ工”(名張工業高校)に勝つべく、少しだけ燃えるよもぎ高校のイレブンだった。

しかし、気力だけで試合が覆るわけもなく、次々と点差を広げられてしまうよもぎ学園。

GKで主将の伊庭勝は、かつて伊庭をいじめていたバリ工の選手からの脅しを受け、萎縮していた。一方的な試合のなか、右MF星文規は3人の選手に周りを三角に取り囲まれボール回しで嘲弄するなど、やりたい放題のバリ工。

 

そんな試合を振り返りつつ、今や大人になった当時の3年生星文規伊庭勝からの連絡を受け、松波とともに3人で、嬉野にある亡くなった監督の家に向かうのだった。

印象的な試合を心のなかで反芻するとは裏腹に、松波らは監督を偲ぶでもなく、熱血だった(亡くなった)監督を嘲笑し、批判するのだった。

 

廃車

宝田は宇都宮大学国際学部の4年生。なぜか、無職の猫木豊に尽くす女。

猫木に魅力があるわけではなく、理不尽かつ小心者の男。

そんな猫木の中古のミラは故障がちで、時折動かなくなってしまう。もともと6万5千円という破格値の代物ではあったのだが・・・。

車の維持が面倒になった猫木は、知人のスミスさんの友人バドさん経由で宇都宮大学の中国人留学生何陶陽にミラをタダで譲る。

しかし、いつまでたっても名義変更を行わないにイライラしていた猫木のところへ、からミラを廃車にするとの連絡が・・・。

あなた、自分のやってることわかてる?

旅先で止まってしまったミラを前に大散財となったは、猫木が騙して壊れた車を押し付けたのだとなじるのだ。

中国人だから差別しているのだと非難するを前に戸惑う猫木だったが・・・。

 

三重県を舞台とした作品で、地元の人は面白いかもしれませんが、ただそれだけ。

途中に監督の卒論が長々と挿入されるものの、意図がよくわからない。話のなかで何か意味を持ったんでしょうか。

高校サッカー部の監督が女性で、サッカーへの情熱をもって指導するという設定の面白さはあるんですが、どうして(安直ではあるものの)ここに焦点を当てなかったのか不思議。

ましてや、試合後の再登場はガンによる病死の故人としてとは・・・。

全くよくわからない作品でした。

『廃車』もまた、よくわからない作品。主人公の性格が卑屈に、かつ小心者で、破綻しており、DV男的で、馴染めない。

加えて、時点が途中で前後することで、話が更によくわからなくなってしまいます。

中国人差別問題にしても、流されるだけで、自我が確立していないような危うさが非常に気持ち悪さを感じさせます。

宝田の存在もどうも落ち着きが悪く、最後まで、嫌な感じの残る作品でした。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『あるキング』 伊坂幸太郎

Aruking 2009年、108冊目。伊坂幸太郎『あるキング』

一人の天才(異能)バッターの神話といったような話。

野球が題材だから面白そうと考えるなら裏切られる。

試合がどうこうというよりも、打てばホームランというようなバッターの話が面白いはずもありません。通常の野球を題材とした小説では、試合での挫折等が用意されるのでしょうが、この作品では主人公が異能のバッターであるため、野球そのものでの挫折がありません。そのため、起伏をつけるべく、外的な要因で野球から離れさせるだとか、悪意がとりまくだとか、非常に面倒くさい話になっています。

野球の痛快さを求める人には向かない作品でしょう。

 

セ・リーグで万年最下位の仙醍キングスの熱狂的ファン山田亮桐子夫妻に子どもが生まれたのは仙醍キングスの英雄南雲慎平太監督の引退試合の日。

既に順位も確定し、南雲に花道を飾らせるものと思われた試合だったが、仙醍キングスは東郷ジャイアンツの前に14点差もの惨敗を喫する。加えて、ファウルボールを避けた南雲は転んだ拍子にベンチの端に頭を打ったことをきっかけに死亡してしまう。

そんな無惨な試合のなか、山田亮桐子夫妻の間に生まれた男の子は王求と名付けられた。

両親は王求が将来仙醍キングスで活躍することを夢見て(予見・確信して)、王求を支援する。

また、王求もそれが当然であるかのように野球に打ち込み、その才能を開花させていく。

10歳のときには全てホームランとしてしまう王求のバットの前に、対戦チームは敬遠を余儀なくされる。両親は敬遠を避けるために相手チームに金を支払う始末だった。

王求はチームへ野球指導にやってきた東郷ジャイアンツのピッチャー鈴木卓の本気の球さえホームランしてしまう。

しかし、王求の前の道は平坦なものではなかった。仙醍東第五中学に入学した王求は3年生森久信に目をつけられ、その暴力に見舞われる。これに気づいた父を諌めるべくの家まで赴いたものの、勢いあまって殺してしまう。(秘かに埋められたは行方不明扱いとなる。)

高校に入って間もなく、殺害の事実が発覚する。このことで王求は高校中退を余儀なくされるとともに、世間からも「殺人犯の息子」として非難の目を向けられることとなってしまう。

そんな王求の前に仙醍キングスへの道は閉ざされたはずであったが、中学時代の友人乃木洋の偽名でプロテストを受けた王求は当然のように合格してしまう。間もなく素性が発覚した王求の入団は取り消しとなるところであったが、偶然プロテストを覗きにきていたオーナー服部勘太郎は「面白い」の一言で王求を入団させるのだった。

王求の実力は本物だった。プロ野球でも王求はホームラン記録も次々と塗り替え、打率も6割・7割は当然という非常識な数値をたたき出す。

私はあまり認めたくない

生真面目な性格の仙醍キングス監督駒込良和は、いくら才能やセンスに恵まれていても、殺人犯の息子をプロ野球選手として育成することに抵抗を覚えていたのだ。

あからさまに王求へのいやがらせを行う駒込だったが、それで腐る王求でもなかった。

王求に逆恨みする男からの投書に少しずつ洗脳されていった駒込にとって、王求は許せない存在だった。

王求23歳の最終戦。試合途中、駒込の意を受けた打撃コーチは刃物で王求の腹を刺す。

そして王求は9回裏ツーアウトの最後のバッターボックスに立った。

 

出だしの平凡な熱狂的な野球(仙醍キングス)ファンの出産から始まった話が、なぜか神話(王=神)のような話になってしまうことに違和感を感じないではありません。

なぜ、王求が天才バッターであるのか、といった解説は全くなし。

オカルト的な何かとも言えないものの、南雲慎平太の幽霊や謎の3人の女性等、奇妙な登場人物が出ることで、不思議な雰囲気をかもし出しています。

そういう意味でも、無理に理屈をつめるというよりも、その不思議な出来事も素直にそのままに受け取って、純粋に事象自体をみる作品であり、神話なんでしょう。

作者としては高尚な作品を書いて、何がしかの賞を狙ったのかもしれませんが、小説の面白さとしてはどうでしょうか。あまり面白いとは思えない作品でした。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『デパートへ行こう!』 真保裕一

Depart 2009年、107冊目。真保裕一『デパートへ行こう!』

面白いものの、テレビ的。

設定が出来すぎで、あまりにもわざとらしい。

そのあたりの好悪で評価がわかれる作品かもしれません。

軽く読んでしまうタイプの作品で、あまり後に残らない。

時間つぶしに読むのに相応しい作品かもしれません。

 

老舗百貨店鈴膳百貨店は百貨店業界の荒波のなかで業績不振にあえぐ中、秋浦店での駅前再開発に係る贈収賄事件もあり、世間のバッシングを受け、伊住屋との合併に追い込まれようとしていた。

御曹司社長矢野純太郎(47)は役員会では副社長増田派の役員に吊るし上げられる始末。

矢野が秋浦店に飛ばした宮瀬和夫は本社カンパニーに戻ろうとして実績を挙げようとした。その策が贈収賄につながったのだ。

そんな荒波にもまれる鈴膳百貨店日本橋本店では創業百年祭の催しが行われていた。

残業の認められない土曜日の閉店後、なぜか百貨店内には闖入者が何人も残っていた。

妻と離婚し、娘からも邪険にされる加治川英人は職を失くし、最後に子どもの頃に母と楽しい思い出を作ったデパートにやってきた(忍びこんだ)。

鈴膳百貨店の山添真穂は不倫解消の手切れ金(退職金)がわりに、百年祭で警備の甘くなっている宝飾品を盗むため、秘かに忍びこんでいた。真穂は計画達成のため、警備の赤羽信とつきあい、警備体制を調べ、周到に準備をしていたのだ。

また、秋浦市からは親から逃げるように東京に出てきたユカコージの高校生2人組が紛れ込んでいた。親にキャッシュカードを止められた二人は、因縁浅からぬ鈴膳百貨店で夜を明かそうとしたのだ。

塚原仁士は身を持ち崩した元警察官。秋浦の贈収賄事件に関与した塚原は真相(黒幕)をつかみ、脅迫するために東京へやってきていたが、途中で暴力団関係者ともめ、手傷を負ったまま、デパートへ逃げ込んでいた。

加治川が投げ捨てた携帯電話を矢野が拾ったことをきっかけに、連鎖的にストーリーは動き始める。

 

多くの登場人物が出てきて、いろいろ背景を抱えながらも、最後は再生していくという「よくある」タイプの話で、新味には非常に乏しい。

登場人物の殆どが本性のところで極めて善人であるのも若干鼻につく。

ただ、いくつかの設定がラストに向けて組み合わさっていく、パズルのような面白みがこの作品の醍醐味で、そのあたりを楽しめるのであれば十分に楽しめるのでしょう。

登場人物のなかで直接鈴膳百貨店と関係のないのは加治川だけで、あとは直接・間接に鈴膳百貨店や贈収賄事件にかかわっており、あまりにも出来すぎ。

贈収賄事件の真相も見えてきますが、それをもって矢野の大逆転としないところは(爽やかではありますが)一風変わっているのかもしれませんが、それなら何故そんな真相を入れる必要があったのかな、と思ってしまいます。

ラストの警備員半田良作の母親登場というのは唐突だし、蛇足ですね。心優しい脇役にも光を当てるという意図以外に何か意図があったんでしょうか。

とにかく、この作品は妙に書き込みすぎと言うか、作りこみすぎで作為感が鼻につくのが、どうかという印象を受けてしまいます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『オイアウエ漂流記』 荻原浩

Oiaue 2009年、106冊目。荻原浩『オイアウエ漂流記』

面白い。

ラストが唐突で残念なんだけれど、無人島を探検するワクワクするような面白みと、それまでの都会・社会生活との歪みを嗤うような話で、楽しく読めました。

 

トンガ王国ファアモツ空港からラウラ諸島共和国へ飛び立った小型旅客機(ラウラ国際空港FR601便)が遭難する。

「オイアウエ」を連発するトンガ人の巨漢機長により、無事飛行機は海に着水する。”荷物(カーゴ)”と称する犬を助けようとした機長が飛行機と運命をともにしたほかは、乗客合わせて10人とセントバーナード1匹は何とか救命ボートで海へこぎだすことに成功した。

乗客は日本人3組とアメリカ人が1人。

1組目はトンガにゴルフ場を作るための視察にやってきた(株)パラダイス土地開発の開発事業部4人(河原部長安田課長菅原主任(34)、塚本賢司(28))と、スポンサー候補の泰豊グループ副社長野々村晃(30代前半)。

1組は新婚旅行でトンガを訪れた薮内昌人(36)と白川早織(32)。

1組は戦友慰霊の旅にやってきた中村喜介(84)と孫仁太(小4)。

唯一の外国人はジョセフ・サイモン。乗客名簿では米国の貿易商トニー・ルチアーノ(45)となっていたが、実はトニー・ルチアーノからチケットを奪った過激な環境テロリスト「マリンガーディアン」の一員だった。

彼らが辿り着いたのは小さな無人島。

一方、現地の救助は早々に打ち切られてしまう。

当初は無人島とも知らず、救助は早々にやってくると信じた面々だったが、一向に現れない救助という現実を認識していくうち、それぞれ建前を脱ぎ捨て本音で生きるようになっていく一行。

河原部長は当初は従来通りのパワハラぶりを発揮し、スポンサーである野々村に媚びへつらうのだが・・・。

安田課長は当初こそ河原部長の意見を汲々と受け入れるのだが、巨大な体躯を活かして一行に君臨しようと試みる。

白川早織薮内昌人と結婚してしまったことに不安を覚え、この遭難を機に人生を変えようと考えていた。

 

やっぱりラストが唐突なんですよね。

一行に救助が来ないまま、少しずつ減っていくページを気にしながら、「この作品って次巻へ続く」ってことになるのか、と思っていたんですが・・・。

えーっ、こんな終わり方!という驚きと怒りの声が上がりそうなラストでした。

結局、現代社会へ戻って彼らはどうなっていくのか、そのあたりもエピローグとして欲しかったですね。

それに、本当に「オイアウエ」の機長って死んでしまったんでしょうか。この作品のノリだと、”実は助かっていたんだけど、遭難者の救助要請をするのをすっかり忘れていた”というようなオチのような気がするんですが・・・。

うーん、このあたりの解決篇的な続編はないものなんでしょうか。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『リストラ屋』 黒木亮

Restruya_2 2009年、105冊目。黒木亮『リストラ屋』

カラ売り屋』の続編です。

カラ売り屋、北川が日本のスポーツ用品メーカーのリストラ屋に立ち向かう話。

 

大手投資ファンド、ボストン・インベストメンツに買収されたのは東証一部上場のスポーツ用品メーカー極東スポーツ。

ボストン・インベストメンツ駐日代表の三ツ谷高宏は、米系投資銀行の東京支店長山吹一郎に推薦された蛭田明を極東スポーツの社長に据える。

蛭田はこれまで過酷なコストカットを実施することで会社再建を請け負ってきた「リストラ屋」。

コストカットを重視するリストラは短期的には株価を上げるが、中長期的には会社を傷める劇薬だ。

リストラしたばかりの企業の経営者にリストラ屋を持ってくる無謀に、カラ売り専業ファンド「パンゲア&カンパニー」の北川靖はビジネスチャンスを見出だす。

採算性ではなく、アナリストによる受けを重視し、北米工場の閉鎖、中国へのシフトなど、大胆な対策を打っていく蛭田は、暗い過去を背負い、人を人と思わぬ非情さで次々と社員の首を切り、彼らを絶望の縁に追い込んでいく。

北川がボランティアで教師を務めるハーレムの少年マイケルの父フレデリックもまたそんな蛭田の犠牲者の一人だった。

実態を知るに連れ、早晩馬脚を現わすと考えた北川らだったが、役員たちを恐怖政治で支配して粉飾決算に荷担させ、アナリストを抱き込んで株価を上げさせる蛭田の前に、なかなか株価は下がらない。

会計上の疑惑を訴える北川だったが、それを否定する一方で、新興国向けの新商品「レインボー・プラスワン」を投入することで市場の信任を得た蛭田の前に、上昇する株価を見つめて歯噛みするのだった。

しかし、少しずつ極東スポーツの綻びが見え、北川らの投資が成功が見えてきたところで、思わぬニュースが入った。

イタリア系大手スポーツメーカー、ザネッティ社が極東スポーツの買収に基本合意したというのだ。これは新興国での極東スポーツの成功を評価してのことだという。

北川はおのれの見込み違いに頭を抱えるが、パートナーのアデバヨ・グボイェガは旅行先のメキシコで「レインボー・プラスワン」が叩き売られているのを見つけ、報告してくる。更に調査を進めると、至るところで、新興国での販売好調が虚偽であることを指し示す証拠が集まってきたのだ。やはり、蛭田のコメントは嘘だ。

キャッシュフロー不足に怯え、SBによる起債を行おうとする極東スポーツだったが、起債に際してのデューディリで躓く。

米系投資銀行と共同主幹事となった丸野証券でデューディリを担当した鮎川真次は極東スポーツの財務状況に深く切り込むとともに、訴訟提起の可能性も見てとると、丸野証券を主幹事から降ろさせたのだ。

これによりSB起債計画は破綻し、資金調達は山吹率いる米国系投資銀行によるMSCBで行うこととなる。

日米の経済誌で極東スポーツの不正会計が報道され、パンゲアによる新興国での販売不振に関する分析レポートが提出されると、一気に極東スポーツ株には売りが浴びせられる。

ここに至って、ザネッティ社も買収を取りやめ、蛭田の命運もここに窮まった。

 

カラ売り屋』収録作品の中では一番面白かった”カラ売り屋”の続編ということで楽しく読めました。

内容的にも、前回の短編では物足りなく感じていたため、ボリュームもそれなりにあって、満足です。

キャラクターとしては、主人公北川は仕事柄なのか、人に対しての思いいれが強くなく、小説の主人公としてはちょっと物足りない部分もあるのですが、ストーリーの面白さを楽しむ作品といったらよいのでしょうか。

前作もそうでしたが、苦境に立ったときに何らかのヒント(助け)が偶然目の前に現れるという”恵まれ感(出来過ぎ感)”はあるものの、ストーリーとしてはオーソドックスで面白かったですね。

更に続編があることを期待したいと思います。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『外科医須磨久善』 海堂尊

Gekaisuma 2009年、104冊目。海堂尊『外科医須磨久善』

「先駆者の栄光!日本初バチスタ手術…“神の手”の軌跡。医療エンタテインメントの人気作家が初めて取り組んだノンフィクション。」だそうです。

外科医須磨久善の半生記といったような内容です。

 

第一部 心臓外科医 須磨久善の旅

1章 未来への扉を開く-公開手術

   1992年 ベルギー・ブリュッセル(41歳)

2章 学会の熱風-米国留学

   1984年 ソルトレークシティ(33歳)

3章 回り道か抜け道か-外科研修と胃大網動脈バイパス手術

   1986年 (36歳)

4章 ニュー・ライフラインの発見-AHA(米国心臓協会)

   1988年 (38歳)

5章 外科医になろう-少年時代から医学生時代

6章 ローマへの道-ローマ・ジェメリ総合病院

   1994年 (44歳)

7章 バチスタ手術-湘南鎌倉総合病院

   1996年 (46歳)

8章 スマ手術への進化-バチスタ手術の完成形

   1997年 (47歳)

9章 医療の宝石を手に入れる-葉山ハートセンター

   2000年 (50歳)

10章 須磨久善はどこへ行くのか-心臓血管研究所へ

   2008年 (58歳)

第二部 解題 バラードを歌うように

   2008年7月

 

何ていうんですか、偉人の伝記みたいです。

確かに、ノンフィクションのもつ面白さがあり、知的好奇心も一定満足させられるんですが、ただそれだけ。

第二部でも書いているように、どうも成功の部分しか見えず、陰影に乏しいことから、どうも上っ面しか見えてきません。

須磨を取り巻く環境については、常々海堂尊が声高に述べている業(学)界・世の風潮批判をまたしても繰り返しているため、「またか」とうんざりするところもないではありません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『あの子の考えることは変』 本谷有希子

Anoko 2009年、103冊目。本谷有希子『あの子の考えることは変』

いつものように変な登場人物が繰り広げるドタバタ劇。

まさに「あの子の考える子は変」というタイトルのとおり、妙な考え・行動に溢れる作品。

あの子=日田だけでなく、主人公(巡谷)も十分変で、殆ど常識人が見られないという突き抜けてしまったような話でもあります。

 

高校時代の同級生、巡谷日田は高井戸のアパートに同居する。

高校時代から変な空気を醸しだしていた日田とは特に高校時代に仲が良かったわけでもなかったが、なぜか同居に至っている。

口元に矯正器をつけ、服にも無頓着、風呂にも入らない日田は汚らしく、日田スメルを吐き出しつづける。

日田は高井戸の清掃工場の大煙突から吐き出されるダイオキシンに侵されるXデーが来ることを怖れつつも、楽しみにする23歳。

一方の巡谷は常識人のように見えて、Gカップというおっぱいだけが命の女。彼女有りの”横ちん”とは(自称)セフレの関係。

巡谷は、海外に出ているという横ちんの彼女を見返す(?)べく、横ちんをデブに改造するなど、横ちん調教に余念がない。

しかし、横ちんの誕生日に、横ちんから巡谷の存在(想い)自身を否定されてしまった巡谷は完全にキレてしまう。

キレた勢いのままアパートに帰った巡谷は、自慰に耽っていたと思しき日田を罵り、ファブリーズを吹きかけるのだったが・・・。

 

主人公が巡谷であることから自ずと巡谷視線で物事が描かれるので、日田が変なのはすぐにわかる一方で、当初は「変な元同級生と暮らす常識人」のように巡谷を捉えてしまいます。

しかし、そのうち化けの皮が剥がれてくるというか、実は巡谷自身がかなり「変(奇矯)」である有様がうかがわれてきます。

最終的には日田巡谷ともに、変人同士だったというオチになってしまうんですが、主観って怖いなぁって感じですね。自分のことは変だとは思わないんですから。

振り返って、自分はどうなのかって、客観的に考えたくはないですが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ころころろ』 畠中恵

Korokororo 2009年、102冊目。畠中恵『ころころろ』

しゃばけ」シリーズ第八弾。

今回は若だんなの初恋話から始まって、目が見えなくなってしまうという話。

 

はじめての

一太郎が12歳の頃のお話。

日限の親分が伴ったお沙衣は母親おたつの目を治すために7つの宝が必要だという。

目医者古田昌玄の診立ては「目を患うのは生目八幡宮の主神品陀和気命のご機嫌を損ねたから」だという。生目社の再建のための鎮壇具である七宝(金、銀、真珠、水晶、琥珀、瑠璃、瑪瑙)が必要だと言われたのだ。

 

ほねぬすびと

朝、目を覚ますと一太郎の目から光が奪われていた。

騒然とする長崎屋であったが、商売の方でも大問題が生じていた。

伊勢久居藩の依頼で請け負った干物の輸送だったが、封印したはずの竹籠から干物が消えてしまったのだ。

久居藩の使者岩崎の息子藤九郎の思惑に感づいた一太郎は・・・。

 

ころころろ

一太郎の目を治すため河童探しに奔走する仁吉に、両国橋のたもとで声をかけたのは人形にとりついて妖となった小ざさ

河童を食べて悪鬼になる」と主張する小ざさは、自身が河童を喰らうために仁吉河童のところへ案内するという。

加えて、追っ手に追われた万太仁吉に助けを求めるのだった。妖を見ることのできる万太河童の囚われている見世物小屋で、妖探しに協力させられていたのだ。

更には同様に見世物小屋から逃げ出したろくろっ首骨傘仁吉の庇護を求めてくる。

困り果てる仁吉だったが・・・。

 

けじあり

佐助が女房おたきと営む小さな小間物屋多喜屋には妙なことが続いていた。

朝起きると帳場などに”けじあり”と記された紙が落ちているのだ。

誰が書いたものなのか、そもそも「けじあり」とは何なのか、さっぱり佐助にはわからない。

加えて、多喜屋に鬼が出るという。おたきは、鬼を退治すべく、玉子焼きに石見銀山鼠取薬を仕込むのだという。

そんなおたきの妙な情熱だけでなく、不可思議な現象は更に続いた。小さな小間物屋だったはずの多喜屋がいつの間にか手代や番頭まで備えた大店になっているのだ。

 

物語のつづき

いつまでも目の治らない一太郎を見かねた守狐に文句を言われた仁吉佐助の堪忍袋の緒が切れた。

二人は「神用取り罠」をしかけ、生目神をつかまえようとしたのだ。

上野の広徳寺に仕掛けた罠にまんまと嵌った生目神に、一太郎の目の光を戻させようとする仁吉らだったが、生目神は諾とは言わない。

生目神は、物語のつづきを話すことができたら、一太郎の目を治すという条件を出した。

桃太郎、浦島太郎と、出題する生目神だったが・・・。

 

面白いといえば面白いんですが、最後が拍子抜けですね。

若だんなの目の光を取り戻そうと奔走する妖たちという構造は、いつもどおりということで安心感を持って読めます。

表題作の”ころころろ”は仁吉が厄介ごとに巻き込まれるというドタバタ劇で(仁吉に似つかわしくない分だけ)素直に楽しめる作品でした。

また、佐助の話(”けじあり”)も一風変わっていて、どちらかといえば仁吉の陰に隠れがちな佐助メインの話ということで、これも面白く読めます。

このように話が膨らんできたところで、突然話を無理矢理閉じるかのように、「神用取り罠」で神を捕まえてしまおうという話はどうだったんでしょうか。安直というよりも、あまりにも大技すぎて、唐突感・違和感が非常に高い展開になってしまいました。

最後の生目神の条件という趣向自体は非常に面白かった分だけ、下手に1冊で話を閉じず、もうちょっと話を膨らませてから軟着陸させる手もあったんではないかと残念でなりません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ヒルクライマー』 高千穂遥

Hillclimber 2009年、101冊目。高千穂遥『ヒルクライマー』

久しぶりの小説ですね。

高千穂遥お得意の「今、興味を持っている」ものを題材とした作品。

今作はロードレース「ヒルクライム」。

最近、小説や漫画でも取り上げられることの増えた自転車(ロードレース)ですが、そのなかでも「ヒルクライム」に絞った非常にマニアックなテーマと言えるでしょう。

 

駅伝出場を拒否し陸上部を退部、大学も退学してしまった松尾礼二は、骨肉腫で急逝した兄の同級生田辺太一のロードレーサーを譲り受ける。

自転車の整備を依頼したサイクルショップCPSオーバで出会った社長大庭淳平(69)は素質を測るため、礼二を翌日行われるCPSオーバレーシングチームのトップランに誘う。

マラソンのトップランナーでもあった礼二は自転車を軽くみて参加するが、初めて走るチームメンバーの速さに驚嘆するとともに、自転車の面白さを感じるのだった。

最初はオーバの店員田畑由季、新宿のキャバクラ嬢浅倉美奈ら女性ローディにも叶わない礼二だったが、少しずつその素質を開花させ、エースである神音大作を目指すようになる。

神音大作は5年前白馬栂池高原のヒルクライムレースに出会い、チームに入ったサラリーマンだったが、今やチームのエースとなっていた。

しかし、生活の全てを自転車につぎ込む大作と妻洋子、娘あかりとの懸隔は大きくなっていた。

大作について走った礼二は偶然、大作の家の前で娘あかりと出会う。

大作に反抗するように、秘かに礼二と付き合うようになったあかりだったが、父を奪った自転車への気持ちは変わらない。

あかり礼二が付き合っていることに気づいた大作は心乱れ、重要なレースでも無心になれず、惨敗する。

礼二に、あかりとの交際を認めないと宣言する大作だったが、礼二はそれを受け入れない。

礼二は栂池のレースでの挑戦状を大作にたたきつけるのだった。

この無謀な試みを浅倉美奈らチームのメンバーは支援する。礼二とともにトレーニングし、その走力アップに協力するのだった。

迎えた栂池。

予選を大作と同じ組になった礼二は、決勝のタイムトライアルを顧みず、大作への勝利だけを狙って走りはじめた。

 

ヒルクライムというと、疲労も何のその、ひたすら坂を上り続けるという、かなりマニアックな世界。

ランニングでも平地もあれば、登りも、下りもあって、それぞれに走り方が違うので、登りの楽しさ(興味深さ)というのもわかりますが・・・。でも、嫌ですね。兎に角疲れますから。

そういう意味では、ストイックというかマゾヒスティックというか、なかなか個人的には受け入れにくいものですね。

ただし、そのあたり、無理に「ヒルクライム」はいいよ、と喧伝するのではなく、自然に登場人物の全てが「坂好き(坂馬鹿)」で”登る”ことが当たり前として処理しているので、あまり抵抗感なく読めてしまいます。坂の素晴らしさみたいなことを前面に出されてしまうと引いてしまいそうなところですが、そのあたりの処理は巧いですね。

ただし、ストーリーとしては単純で、起伏にも乏しいといった難点はあるでしょうか。

主人公自体に当初から素質があることをが見えているわけですから、サクセスストーリーや努力物語というわけでもない。そのうえレースで鎬をけずるという面白さもあまり見えません。

むしろ、自転車のせいで離れてしまった家族の再生が、伏線というにはかなり太く、全体のストーリーに絡んできます。

そういう面から見ても、レースがどうこうよりも、雰囲気として「自転車っていいんだぞ」という作者の想いが前面に出ている作品なのかもしれません。

読者としては、主人公の成長物語であったり、ロードレース自体の駆け引き等の楽しさが前面に出てくる方が良かったような気はするのですが・・・。『セカンドウィンド』(川西蘭)にように。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『一文無しが贋札造って捕まって』 坂野昭彦

Ichimonnashi 2009年、100冊目。坂野昭彦『一文無しが贋札造って捕まって』

ノンフィクションなんですよね。

といっても、贋札造りを詳しく描いちゃいけないからなんでしょうが、「贋札造り」の件はどうも曖昧で臨場感に欠けます。

どちらかというと、タイトルの「贋札造って」というところよりも、「捕まって」に重点をおいたような留置場での生活を紹介するような作品になっています。

 

かつて大企業から図面のデジタル化を請け負っていた企画設計会社社長であり、妻、3人の娘、母親の一家6人の大黒柱だった坂野昭彦は、バブル崩壊で会社倒産の憂き目に遭う。

始まる貧困のスパイラル。借金と母の介護で心労が重なり、家庭は崩壊、妻とも離婚する。

母と2人きりの不安定な生活のままタクシー会社に就職したが、詐欺的な待遇で退社せざるを得ず、再び失職、ついに一文無しに。

浮浪者になるか、自殺か、犯罪者になるか?

強盗など血腥い犯罪が性に合わない坂野は自分にだけ可能で独特な犯罪を思いついた。―通貨偽造。

得意のコンピューターを駆使して造った贋の1万円札は、すぐに見つかると思ったものの、なかなか捕まることはなかった。

が、タクシーで50枚使った後、漸く埼玉県警に逮捕された。

坂野は留置所で出会う人びとと親交を深めるとともに、来る裁判に備えるのだった。

 

留置場で出会う人々の様が物珍しく、面白い。

また、実話に即しているんでしょうが、犯罪に至るまでの環境、背景にドラマがあって、なかなか読ませます。勿論、本当のドラマ・小説のように、複雑な背景・環境が何らかをきっかけに一挙に解決するという物語でもありません。

今作のクライマックスは判決です。

贋札造りに至った過程を評価して情状酌量から執行猶予がつくのか否か、といったところがラストに向けてのテーマになってきます。

そのなかでは、よく耳にしながらも実際に詳しくは説明できないような裁判上の用語や慣例などが解説され、知的好奇心も満足させられます。

「贋札造り」という犯罪自体の記述はありますが、かなり淡々としたもので、ストーリー上も大きな起伏はありません。それでも、実際に自身の犯した罪への思い、語りたい言葉がそこはかとなく伝わってきて、説得力をもった話になっています。

何といえばいいんでしょうか、知人の個人的な(勿論、規模は段違いですが、)話を聞いているような感じといったような印象を持つ作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『裁くのは僕たちだ』 水原秀策

Sabaku 2009年、99冊目。水原秀策『裁くのは僕たちだ』

裁判員制度も始まり、なかなかタイムリーな作品です。

裁判員制度って、そうなっているのかと楽しめる部分に加え、ストーリーとしても正体不明の人物が数多く登場し、飽きさせません。

ちょっと手を広げすぎて、うまく収拾がついていない部分もなきにしもあらずですが、全般には楽しめる作品です。

 

ごく普通の勤め人・高尾慎一が裁判員に選任された事件は、現職の美人衆議院議員藤沢杏子による夫利明殺し。

動機も明らかで目撃者もいる、実に単純な裁判…のはずだった。だが公判初日の夜に高尾は、無罪の票と引き換えに被告人の事務所に金を要求した、と議員秘書を名乗る美女滝川美沙に糾弾された。

身に覚えのない疑いをかけられてからというもの、被告藤沢杏子と同じ党の衆議院議員小林一光事務所からの秘書伊達公正による脅迫など、次々と高尾に接触してくるものが増える。

差出元不明の500万円を受け取ってしまった高尾は、営業成績の振るわない職場、個人指導専門塾ミネルヴァ神楽坂校の成績を上げるため、エリア長光岡の言葉に従い、200万円を使ってしまう。

裁判は杏子の無実を証明するものは提出されず、少しずつ杏子有罪の証拠は積み上がっていく。杏子を無実だとする明確な裁判員は高尾のほかに見当たらず、有罪を確信する男や右往左往する裁判員など、かつて父の冤罪を目の当たりにした高尾は気が気ではない。

3人の裁判官も結局のところ有罪に誘導しようとする姿勢がはっきりしており、判決に向けて、高尾が挽回するチャンスは少しずつ失われていく。

一方、杏子の事務所に電話した高尾は、清水美沙が秘書でないことを知る。

また、小林一光の秘書と名乗った伊達も、伊達本人ではないことが発覚する。

裏で、誰かが糸を引いているのか?何の目的で?

被告人杏子の無罪を信じて、冤罪を防ぐべく動く高尾だが、やがて裁判にまつわるトラブルは、同居する妹良美や姪浅海にまで影響を及ぼすようになっていく。

 

最後の謎解きというか、各者の関係性、正体、動機については、どうも無理矢理の感は否めません。ご都合主義的というか、「えっ、そんなのってあり?」と言ってしまうような解決でしたね。

殊に、最重要人物であるところの弁護士依岡貴子の心情・動機がどうも理解不能で、そのあたりに残尿感が残ります。

また、浅海の病(というか不安定感)についても描写が乏しく、全体の中では蛇足の感じがしてなりません。

同様に、塾でのやりとりも、どうもうまく書ききれず、伏線だったのか、何だったのかよくわからないままに終わってしまいました。

最後の主人公の身の振り方も安直で、残念です。

全般の雰囲気は決して悪くありませんし、楽しめるのですが、細かいところを気にしはじめると、多くの綻びが目についてしまいます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『舶来屋』 幸田真音

Hakuraiya 2009年、98冊目。幸田真音『舶来屋』

「サンモトヤマ」創業者・茂登山長市郎。戦後の闇市から出発し日本にブランド・ビジネスを確立した男をモデルに、昭和の商人の半生を描く、痛快で心にしみる一代記だそうです。

 

銀座で古くから和紙を扱う「美濃屋」の跡取り国本洋司は喫茶店で粋な老人に出会う。

待ち合わせた友人片平あゆむは、その老人に躊躇なく語りかけた。

老人はフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレに黄金の扉を寄贈した茂里谷長市郎だった。『サン モリタニ』の会長を務める茂里谷は、あゆむの求めに応じて、その半生を語る。

 

戦時下の天津で出会った、西洋の一流品。その圧倒的な輝きは、東京の焼け野原に戻っても長市郎の胸から去らなかった。

運と縁から戦争を生き延びた長市郎は闇屋で財を成しつつ、エルメス、グッチをはじめ数々の高級品を初めて日本に紹介していった。

 

知的好奇心を満たすという意味では興味深いものがありましたが、小説としてはどうでしょうか。

作中で国本洋司が指摘するように、茂里谷長市郎(茂登山長市郎)は運が良かっただけとしか映りません。

「運と縁」ということが強調されますが、勿論実際にはそれだけではなかったのでしょう。しかしながら、この作品の中では純粋に運が良かっただけの恵まれた人生としか見えてきません。

そういう意味では実在の人物の半生記としては表面的で深みに欠けるように思われます。

そうでなかったとしても、その生き方から人生の指針を読み取るには力不足と言えそうです。

そのため、この作品の価値は、現在日本で流通するブランドの黎明期には、こんなストーリーがあったんだという歴史ものを読む楽しさしか残りません。そのことが逆に、小説という形態をとる意味があったのか疑問で、ちょっと残念です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ダッシュ!』 五十嵐貴久

Dash 2009年、97冊目。五十嵐貴久『ダッシュ!』

ストーリー自体に広がりはないものの、よくある青春ものの一つ。

海外へ電話しまくるという馬鹿馬鹿しさのような、荒唐無稽さもあるものの、それも青春ものの、お約束の一つなのかもしれません。

ラストの成田空港に向けてのスピード感(暴走感)はなかなか楽しめます。

 

私立春日部学園高校陸上部のスーパーレディ“ねーさん”こと菅野桃子先輩に思いをよせ、忠誠を誓ったイノケンたち陸上部(もと陸上部)4人。

井上健一イノケン)、門倉猛メタボン)、結城遼一リョーイチ)、富田裕助わび助)の4人。

3年になり陸上部を退部した”ねーさん”の様子がおかしい。

似合いもしない渋谷のクラブに誘う”ねーさん”の言葉をいぶかしく感じながらも忠実に従う4人だったが・・・。

骨肉腫にかかった”ねーさん”は右足を切断することになっていたのだ。

ねーさん”を励ますべく、願いを尋ねる4人に、”ねーさん”が切り出したのは非常に手のかかるミッションだった。

ねーさん”の願いは右足切断の前に、サーファーとして世界を放浪中のかつての恋人杉田達也に会うことだった。

今や家族さえも行方を知らない杉田であったが、”ねーさんの願いを叶えたい”との一心で、4人は世界各国のサーフスポットに電話をかけ続けるのだった。

奇跡的にハワイのモロカイ島で捕まえた杉田は、”ねーさん”の手術を知るとイノケンに帰ることを約束するのだが・・・。

 

右足を切断した”ねーさん”は表面上は元気そうに振舞うが、リハビリには不熱心で投げ遣りだった。

不可抗力ではあったが、結果として手術に間に合わなかったことから、”ねーさん桃子からつれなくされ、海外へ去った杉田。その杉田からイノケンに突然電話が入った。旅の途中で立ち寄る成田空港にねーさんを連れてこいというのだ。

意地を張って、杉田に会うことを頑なに拒む桃子だったが、最後の最後で、成田に向かうことを肯う。4人が安堵したのも束の間、向かった駅で、事故のため電車が不通であることが発覚する。

最後の手段として採ったのは、無免許のわび助の運転する車での命がけのドライブだった。

 

骨肉腫という悲壮感ただよう病気のわりには、そのあたりを淡々と書いていて話が重くならない。その分だけ、このストーリーにおいて、骨肉腫といった”病気”である必要があったのかは疑問。ちょっと安直というか、あざとい。

キャラクターについても、ちょっと中途半端かもしれません。

特に、4人の崇拝する”ねーさん”の魅力がどうもうまく伝わってこない。そのために、今回の騒ぎへの思いいれがどうも共感できない。

主人公であるイノケンの描写は相対的に多いのものの、これも内面はあまり描かれないため、何を考えているのかよくわからない。

その一方で、ラストに向けての無免許暴走は非常に切迫感と、暴走・迷走感があって楽しい。警察官との対峙も、無謀といえば無謀なものの、馬鹿馬鹿しいような緊迫感が漂います。

キャラクターの中途半端さや、ストーリーさの希薄さはありますが、最後数十ページの楽しさが救ってくれる作品かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『文化祭オクロック』 竹内真

Bunkasaioclock 2009年、96冊目。竹内真『文化祭オクロック』

ちょっと最近、不調つづきですね。

竹内真の新作ということで「今作こそ」と期待して読んだんですが、どうも今作も失敗作かもしれません。

青春ものというには焦点があいまいで、ミステリというにも弱すぎるようです。

 

東天高校文化祭初日、ブラスバンド部のオープニング曲終了とともに、突如校内放送から謎の男の声が流れてきた。

DJネガポジと名乗る男は、リクエスト曲を流しつつ携帯電話でのリレーインタビュー企画を進めていく。文化祭実行委員会と生徒会の合同企画だというが、どこか怪しい。

最初に取り上げられた野球部の山則之。動かなくなった時計塔の針にボールを当てて、復活させることを通じて、3-A組の斉藤優里への思いを示すようDJネガポジに焚きつけられたは時計塔に向かった。

突然、名を放送のなかで挙げられた斉藤優里DJネガポジに文句をつけるべく、”FM東天”の放送場所を探すが、ゲリラ的に行われる放送のために、ネガポジを見つけることはできない。

一方、物理部の窓が事故で割れるという事件が発生する。これをの投げたボールのせいとみた体育教師木部を捕まえる。

の逮捕劇に行き会った文芸部2年の古浦久留美はFM東天に出演し、自身の推理を開陳し、の冤罪を訴えるのだった。

DJネガポジの軽快な喋りに沸く生徒たちによって、無事には救出される。この救出劇のなかでめぐり合った斉藤優里と『探偵コーラ』こと古浦久留美は放送場所、そしてDJネガポジの正体を探り始めるのだったが―。

 

あんまりキャラクターが立っていません。

そもそも中心となる主人公が誰なのか最後までよく分かりませんでした。

ミステリものとして考えた場合は『探偵コーラ』こと古浦久留美が主人公なんでしょうが、どうも話に流されるだけで、どうも主人公の風格がありません。勿論、ミステリ自体がストーリーの中核であれば、探偵役の能動・受動に関らず、謎解き自体がメインとなりますので、探偵役のキャラクターが立つんですが、この物語はミステリ部分が極めて弱い分だけ、古浦久留美は主人公になりきれていません。

であれば、一番能動的に動き回る斉藤優里が主人公かといえば、そうとも言えなさそうです。こういうと何ですが、頭を使わずに、単に空回りしているだけの道化役といった印象が極めて強い。

一方、仕掛けている側にしても、共同企画の背景がよく見えず、そもそもの発端が私怨を晴らすことにあるという、非常に後ろ向きというか、暗い背景で、すがすがしさがありません。

「いじめ」について一言申したいという作者の思いはあるのかもしれませんが、どうも最後にとってつけたような感じで、これも作中では空回りしている気がしてなりません。

もうちょっとシンプルにならなかったものでしょうか。

今作はストーリー、キャラクターともかなり残念な作品となってしまいました。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『コカンセツ!』 南々井 梢

Kokansetsu 2009年、95冊目。南々井梢『コカンセツ!』

”男子新体操”を題材にって。もうそこからして面白い。

まずは、怖いもの見たさというか、誰もしらない「男子新体操」というものへの知的好奇心を満たします。

加えて、話の内容も、男子新体操という言葉から想像がつくとおり「周囲からの好奇の目で見られることの羞恥心」を根っこに据えて、そこからの脱却を図る青春ものってことで、非常に楽しめます。

 

私立誠南実業高校2年の夏休みの正午、炎天下の校庭に立ち尽くす広瀬悠太。同じく列を作るのは新体操部のチームメイトたち。

全国大会に出場するキャプテン林原賢郎の壮行会が行われたのだ。しかし、夏休み中ということもあって、生徒の出席は新体操部だけと、非常に寂しいものだった。

前日の寝不足が祟った悠太は校長の挨拶の途中、倒れてしまう。

目を覚ました悠太は見舞いにやってきた顧問の西谷(クン)孝太郎に退部を告げる。

かつて器械体操をやっていた悠太はなりゆきで新体操部に入っていたのだが、2年になり新人勧誘のために新入生歓迎会で披露した演技をきっかけに、周囲から面と向かって「キモい」といわれるようになり、もはや新体操部に在籍することに我慢できなくなっていたのだ。

新入部員はかつてJ事務所に属していたと噂されるアイドル顔の清宮文彦、学年1の秀才保田洋介、入院がちで練習の参加は少ない(心は女の)早川慶とタレント揃いで、実力も2年生をあっという間に抜き去った。

2年生は悠太のほか、理事長の甥中西豪、芸人を目指す浜野大輔と、河合雅樹の4人。

キモくて実力もないままに腐る2年生は清宮に伝授されたHIP HOPにはまり、中西の強引な指揮のもとクーデターを企てていた。

キャプテンが全国大会で留守の間に新体操部をHIP HOP部に変部してしまおうというのだ。

悠太が倒れた翌日、部室に集まった1年と2年の7人は変部について議論する。(保田が渋ったが)HIP HOP部への変更を決議してしまうと、豪の叔父である理事長に変部の届けを出してしまう。

そんなところへ舞い込んだのは、林原の全国大会優勝の知らせ。複雑な気持ちとともに、キャプテン林原に伝える憂鬱を抱える面々だった。

しかし、そんな役目を買って出たのは、新体操部の部員ではなかった。少し前から部に顔を出すようになった清宮ファンだという美少女乃木坂ひろみ。その不自然さに、止めさせようと主張する悠太だったが、誰も聞く耳を持たない。

凱旋するように練習場に帰ってきたキャプテンはテレビ局のクルーを引き連れていた。

名実ともに人気ナンバーワン俳優梶原崇が出演するドキュメンタリー番組『本気論』の題材に取り上げられたのだ。

インターハイ会場で陸上の名門校の取材を行う予定だった梶原だったが、大学時代の友人である新体操部顧問西谷に偶然出会い、林原の演技を見たのだった。

その演技に衝撃を受けた原とプロデューサー山城は急遽、番組内容を変更すると、取材対象を林原に切り換えたのだ。

テーマは「廃部寸前のマイナー競技男子新体操部をキャプテンが救い、そして後輩に託す」というものだ。

既に変部の届けは理事長に受理されてしまっている。もはや男子新体操部はないのだ。

そんな緊迫のなか、早川が倒れる。

一旦は緊迫が解けたものの、いつかははっきりさせなければならない問題だった。

どうしてよいかわからない悠太たちは取材に応じ、翌日からカメラの前で練習を続けた。

そんな中、乃木坂ひろみが芸能人であるということが発覚する。なぜか失恋したような気持ちになる悠太だったが、そんな悠太に女子部キャプテンの篠田が告白する。しかし、篠田に気のない悠太は泣きたい気持ちだった。

8月31日。ユニフォームを着込んだ男子体操部は最後の演技を前に、円陣を組む。

円陣の中、林原はHIP HOP部に変部することを知っているかのように、悠太らに部を託すことを告げる。感極まった悠太らは泣きながら林原に謝罪した。

周囲がざわめくなか、最後の演技が始まった。完璧な演技を大歓声と大きな拍手が包む。

にも関らず、こんなところでプロデューサー山城が切り出したのは、清宮の過去だった。番組の成立と天秤にかけさせ、清宮を自身の事務所に引き抜こうとしたのだ。

しかし、は男子新体操部が廃部となることを告げ、テーマから逸脱していることを示唆する。番組の制作云々は清宮の去就の取引材料とはならないのだと・・・。

ところが、山城は逆にこのクーデター事件の方に興奮し、絶叫する。「その企画、最高!!!!

早速、企画は変更された。『後輩によるクーデター!男子新体操部をHIP HOP部へ』

は練習場のフローリングにがっくりと膝をついた。

 

青春ものにありがちな、爽やかさや熱血はあまりありませんが、等身大の高校生が悪戦苦闘する有様が非常に楽しい。

物語を動かす2年生に殆どポリシーがないだけに、非常に迷走感は漂いますが、それはそれで、あまり中弛みもなく、一気に読めてしまいました。

男子新体操部という存在が周囲から好奇の目で見られるのはそうだろうなぁと思う反面、野球部からの冷笑(対立)はちょっと誇張が過ぎるような気がします。

ただ、やっぱり最後の啖呵

オレたちの股関節をなめんなよ!!

のためには、悪役”野球部”は必要不可欠なのかもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『幸せになっちゃ、おしまい』 平安寿子

Shiawaseni 2009年、94冊目。平安寿子『幸せになっちゃ、おしまい』

平安寿子のエッセイ。

うーん、どうも対象は20歳台からの女性って、ところでしょうか。

男にはちょっとわからない、というか、興味を持てない(持つべきとお叱りの方もいるのかもしれないかもしれませんが)話題がとにかく多い。

若干、女性にとっちゃ説教じみた感じに映るんじゃないかとも思いますが、性別が異なるものの目で傍観すると、それはそれで世の中には色んなことがあるんだなぁ、と好奇心が満たされるという利点があるのかもしれません。

例えば、”巨乳の悲劇”とかね。

話題としては、人生の先輩としての思いと海外での経験、バレエ鑑賞で示唆されるもの、といったものが多いようですね。

このあたり面白いと思うかどうか、本当に人それぞれでしょうね。

 

■幸せになっちゃ、おしまい

 -幸せになっちゃ、おしまい

 -心配しないで、ベイビー

 -働くおねえさん

 -ゲイの友達は働く女の憧れ

 -心も一緒に引っ越して

 -居心地のよさという不思議

■イギリスのばあさんを目指せ

 -元祖エレガンスの呪縛

 -素敵なオペラ座ライフ

 -スシ・ポリス断固反対!

 -お調子者が可愛くて

 -アジアン・ビューティの時代みたいよ

 -イギリスのばあさんを目指せ

 -ぼったくりタクシーinロンドン

 -フィンランドのヘレネ

 -心の弟は韓国人

■王子さまはお好き?

 -世界はひとりぼっちで一杯

 -片思いは報われるか?

 -玉の輿に乗らないシンデレラ

 -王子さまはお好き?

 -人魚姫は星に

 -噺家という人種

■頑張れ、わたし

 -来るぞ来るぞ。更年期が来るぞ

 -横もれ問題

 -こっちへお入り

 -「空気を読む」がわからない!

 -マイナスの記憶の不思議

 -三十怖い病

 -二十年、待って

 -巨乳の悲劇

 -ガールズトークはいつまでも

 -頑張れ、わたし

 

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『クロスカウンター』 井上尚登

Crosscounter 2009年、93冊目。井上尚登『クロスカウンター』

何だか、どこかで読んだような話。

どうも主人公の職業自体が嘘くさいし、敵役も安っぽい。

ちょっと入り込みにくい作品かもしれません。

 

第1章 砂の上のダンス

元アナリストの金融探偵、七森恵子は上得意の真壁杏子の求めに応じ、ナノテクノロジーの会社SEIUN社の調査を進めていた。

しかし、会社の沿革の怪しさのほか、奇妙な中国人からの電話があったり、開発担当の副社長北村健一と社長河野隆三との懸隔など・・・。

同じくフリーの金融調査を行う如月浩二郎とともに調べを進めると、丹波圭三という怪しい男が会社に出入りし、会社は経済産業相鹿沼武雄とも関係があることがわかってくる。

そんななか、突然北村が研究所所長という名ばかりのポストに更迭される。

 

第2章 偽りの扉

真壁杏子から中国の出版ビジネスの調査を依頼された七森恵子は北京でキーマンと言われる華想集団総経理劉文にビデオジャーナリスト李小佳を介してインタビューする。

は亡くなった党の実力者馬永春の隠し子と噂され、その噂が彼の信用の裏づけとなっていた。

小佳恵子に見せたビデオには、華想集団のパーティが映っていたが、そこには恵子がアナリストを辞めるきっかけをつくった、忘れることのできない男平川慶史郎が映っていた。

怪しさが増すなかで劉文の生まれ故郷を訪ねた恵子の生家での母栄美馬永春と写った写真を発見する。

しかし、劉文が生家を出て行く結果となった一冊の雑誌を読んだ恵子は一つの事実に気付いた。

 

第3章 危険な水

真壁杏子の目的がよくわからなくなっていた恵子杏子の依頼は断る決心をしていたものの、平川慶史郎絡みともなれば手がけるしかなかった。

アルカリプラズマ活性水”奇跡の水”を作る浄水器の会社、バイオライフ社が行う代理店説明会の会場に赴いた恵子は「東京での代理店を一手に引き受けたい」と申し出、会長っである平川への面談を求めた。

平川との面談のためにバイオライフ社へ向かった恵子だったが、そこで待っていたのは丹波圭三だった。

丹波に監禁された恵子は、バイオライフ社へ潜入取材していたというフリージャーナリスト坂巻良の助けを借り、逃げ出した。

真壁杏子にバイオライフ社の一件を報告したあと、恵子如月浩二郎杏子について調べさせる。果たして、真壁の邸宅は貸しスタジオだった。

 

第4章 懐かしい顔

坂巻からの情報で丹波圭三が三池商事にいることを知った恵子は清掃業者として三池商事に潜入する。

一方、如月浩二郎平川慶史郎について調べていた。調べてみると、インターネットの掲示板には平川が手がけてきた数々の詐欺事件が列挙されている。

そんなとき、恵子真壁杏子に紹介した元同僚木村敏夫が交通事故で死んだ。その捜査にあたったのは警視庁捜査二課の三田村。背後に平川の影を見た三田村は、木村の死の捜査の過程で恵子にも事情聴取を行う。

恵子は三池商事での丹波らの手口がSEIUNらで行われたものとは異なり、かなり荒っぽいものであることに気づき、違和感を感じていた。

よお、久しぶりだな、姉さん

清掃の求めに応じて赴いた部屋には丹波圭三が待っていた。

閉じ込められた恵子杏子の協力者神林の手引きにより辛くも逃げ出すことに成功した。

再び恵子の前に姿を現わした真壁杏子は本名を名乗った。かつて平川に会社を食い物にされ人間不信のすえ自殺したベンチャー企業社長松岡靖之の母松岡千賀子真壁杏子だった。

恵子を迎えたのは千賀子だけではなかった。迎えた面々は亡くなった木村の妻和江をはじめ、全て平川の詐欺の犠牲者たちだった。

 

第5章 女神の声が聞こえる

が目を覚ますと病院のベッドの上。

医師は有川哲生と呼ぶが、自分の名前ではない。医師は、が記憶するときから、時間も1年が経過しているのだという。

は病室から出て行こうとするが、医師は許可しない。ドアにも鍵がかかっていた。

夢うつつの病室での生活では、「終わりにしましょう」と誰かの声が囁き、を死へ誘う。が目を覚ますと、壁一面に黒く、「終わりにしたい」「終わりにしよう」「死ねば悪夢から逃れられる」「死、死、死」「Death,Death,Death」とびっしりと文字が・・・。

が絶叫すると、かけつけた医師が注射し、の意識は途切れた。

夢と現実が渾沌とするなかで、は少しずつ追い詰めらていく。

ベッドから飛び起きて病室を出たは勢いよく非常口から飛び出す。バランスを崩し、非常口から落下しようとしていたのを止めたのは磯田看護師だった。

ここであんたが落ちて死んでしまえば、もう終わりなんだけど、ひとが死ぬのは嫌なんだ

磯田はポケットから注射器を出して、の腕に刺した。

には、非常口から落ちようとする際に、下から見上げていた女に見覚えがあった。

七森恵子、金融調査員だ。が関った事件に何度も首をつっこんできた女だ。

疑惑を感じたは食後の薬を飲んだふりに留めて様子をうかがうと、夜中の12時過ぎに異変が起こった。環境音楽のような物憂い音楽とともに、死を誘う言葉が繰り返されたのだ。

七森恵子による芝居であることを確信した磯田に真相を求める。

磯田が示したのは2007年1月16日の新聞だった。

『連続詐欺事件の容疑者が逮捕される』とその新聞記事にはあった。

主犯は平川慶史郎丹波圭三という男だったが、平川は主犯は他にいると嘯いており、警視庁は坂巻良という20代の男を指名手配していた。

磯田坂巻を自殺に追い込もうとした筋書きを語った。

 

どうも各話とも薄っぺらい。

登場人物も表面的で、主人公である七森恵子ですら、正体不明に近い。

平川に騙された元アナリストという、それだけのキャラクターでしかなく、主観面は非常に乏しい。だからこそ、思いいれを持ちにくいのでしょう。

あまり目新しい話もないため、知的好奇心がくすぐられることもなく、どうも退屈。

まぁ、軽く読み飛ばす程度の作品と言えるでしょうか。

そのわりには、最後の坂巻良をはめる話は勧善懲悪の痛快な話というよりも、陰湿で非常に暗い雰囲気で、ラストを締めるにはあんまり、といった印象を受けます。

何だか後味が悪いです。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ぼくのキャノン』 池上永一

Cannon 2009年、92冊目。池上永一『ぼくのキャノン』

池上永一お得意の沖縄もの。

キャノンを神と崇める不思議な村の秘密を巡る話。

 

グスクの頂上から村を見下ろす砲台(キャノン様)が村の神であり、このキャノン様を祀るノロである喜屋武マカトが村を実質的に支配していた。

マカトの支配を支えるのは、男の子らの憧れ「男衆」と、女の子の憧れである「寿隊」。寿隊は、美をもって村を守り、飾るのだ。

キャノンを祀るほか、数々の制約が課される村の生活だったが、沖縄にあって、高い生活(福祉)水準を享受し、誰も文句を言うことはなかった。

しかし、そんな村には秘密があった。

今や老人となったマカトチヨ樹王の3人はキャノンを祀りながら、その秘密をかかえ、戦火に焼けてしまった村を再興したのだ。

自身の老いを感じる3人は、次世代へ村の秘密を繋ぐ必要を感じつつも、秘密の重さに躊躇しているうちに、外部から秘密に近づくものがあった。

アメリカ人のポール・シルバースタインと、小野寺トラスト社長紫織である。

9・11テロでアメリカ政府による嘘を知ったシルバースタインは調査の末、隠された秘宝が村にあることを確信し、学者を装って村に潜入した。

一方、紫織はかつて父がホテル建設を挫折させられた、この地を再度蹂躙するために、村にやってきたのだが、偶然、シルバースタインの探していた金貨「セント・ガウデンズ硬貨」を発見し、村の豊かさの秘密に気づくのだった。

シルバースタインの危険にいち早く気づいた樹王シルバースタインの配下を秘かに排除していくが、シルバースタイン自身は取り逃がしてしまう。

秘密を隠すマカトへの村人の不信をかきたて、育てるべく、紫織は秘密裡に桜花連合という架空の組織を作り上げると、マカトの施政に挑戦していく。

その秘密の重さの前に真相を明かすことのできないマカトマカトの指導力が疑われるなか、マカト樹王の孫である雄太博志は入ることを禁じられた密林に分け入り、ダグラスDC3を発見する。

戦時中、セント・ガウデンズ硬貨をオーストラリアに輸送中のダグラスDC3はキャノン砲により撃墜されていたのだった。

当時、撃墜されたダグラスDC3の搭乗員を発見したマカトチヨ樹王は、助けるとの篠塚少尉の言葉を信じ、篠塚に捕虜を託すが、軍部は見せしめのために捕虜を銃殺する。これを避難するマカトらだったが、マカトらもまた捕虜を託したことでスパイ容疑がかかってしまう。苦悩する篠塚少尉は身を呈してマカトらを逃がすのだった。

その後、村はアメリカ軍の報復を受けた。多量の爆撃を受けた村は火の海となり、ほぼ全滅の憂き目を見たのだ。

多量の不発弾を地面の下に抱えた村。この村を再興すべく、セント・ガウデンズ硬貨のことは秘匿したまま、魅力ある村づくりにマカトたちは励んだ。篠塚少尉の形見のキャノン砲を神に仕立てて・・・。

時折、村で起こる”キャノン様の祟り”とは不発弾の爆発のことだった。

マカトへの不信感が高まる中、紫織は秘かに不発弾を同時多発的に爆発させると、集まった村人たちに、不発弾の真実を告げるのだった。村人は不発弾の上に暮らしており、マカトはそれを知りつつ黙っていたのだと。

真実を紫織から知らされた村人はマカトから離反する。

そこを見計らって、マカトに迫ろうとする紫織だったが・・・。

 

元気のいいマカトら老人の言動が小気味いい。

むしろ若者らがどうも小粒。麗華も結局肩透かし。奇妙奇天烈な寿隊などの設定のなかで、少しずつ重要性を高めていくような描かれ方をしながら、結婚して途中離脱とは・・・。

孫の世代も登場する場面は多く、物語の展開に深く関っていくのですが、どうもキャラクターとしては力不足ですね。

一方、池上作品によく登場する敵役の悪女。今回は紫織ですが、これまた、いつものように無茶苦茶さを発揮していて、強い印象を与えます。

今回は何でもポイポイ捨ててしまうんですか。

シルバースタインはあまり印象に残りませんね。紫織という敵役かつ秘密への挑戦者がいるわけですから、ちょっと重複感が残ります。

もしかすると、もともと紫織はもうちょっと小粒な役だったのかもしれませんね。他作品でもそうですが、池上作品の悪女役って、(作者の筆がのってか)妙に行動がエスカレートしてしまっているような傾向もありますし・・・。

ただし、話自体が面白いかといえば、内容は決して濃くはない。(ちょっとキャラクターの結末も拡散気味でまとまりはありませんが)キャラクターで読む作品と言えるでしょうか。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『走れ!T校バスケット部3』 松崎洋

Hashiret3 2009年、91冊目。松崎洋『走れ!T校バスケット部 3』

T校シリーズ3作目。

だんだん蛇足になってきましたね。1作目で十分完結していた物語を2作目で引っ張り、完全に終わっていたはずの話を更に延長するのですから・・・。

今回は「走れ!T校~」というわりには、卒業後の話。

 

多摩川の増水により流された薄野賢司だったが、なんとか濁流の中、タロウを川岸へ放り投げる。自身も生きようともがく薄野だったが、激しい流れのなかのなかで気を失ってしまう。

気がついたときには薄野は右腕を失くし、記憶も失くして病院のベッドの上だった。身元不明のホームレスであることを迷惑がる病院の看護師の言葉を耳にした薄野はこっそりと病院を抜け出る。

空腹からコンビニ裏のゴミ袋から消費期限切れの弁当を漁っていた薄野は、そこを縄張りとするホームレス(ゴカイの)哲次に見つかる。

哲次薄野を連れ帰ると、何も語らない薄野丹下と名付け、ともに暮らすようになった。

T校の卒業式。在校生代表コロ根来修一)の送辞、卒業生代表の田所陽一の答辞を経て、田所陽一チビ川崎裕太)、メガネ川久保透)、矢嶋俊介のぞき魔牧園浩司)ら3年生は卒業する。

薄野が救ったタロウ陽一の家で飼われていた。最初が面倒がっていた陽一の父正道だったが、少しずつタロウが愛おしくなり、自身で散歩に連れ出すようになっていた。

正道が河川敷の公園でタロウを遊ばせていると二人の兄妹(村上清志かなえ)がタロウと遊ぶ。ボールで清志たちと遊ぶタロウの姿に目を止めたものがあった。

西尾老人はタロウにドッグスポーツの才能があると告げた。昨年のエクストリームオープン総合のチャンピオン犬ゴンを有していた西尾だったが、最近ゴンを交通事故で亡くし、沈んでいた。

そんな西尾の前にゴンを彷彿とさせるタロウが現れたことで、縁を感じた西尾正道タロウを引き取って訓練させて欲しいと頼み込む。

西尾の家で訓練するようになったタロウに会いに、清志かなえもやってくることで、家族のない西尾の心は癒されていく。

更に、西尾は父親がおらず生活の苦しい清志の母奈々に、西尾邸での同居を勧める。

取り巻く人々の声援や西尾の訓練の成果もあって、タロウの能力は徐々に開花していく。2年が経ち、関東地区大会に参加したタロウはハイジャンプ競技で優勝すると、続く総合競技の障害物でも圧倒的な速さを示す。しかし、誰もが勝利を確信したとき、タロウは突如コースアウトしたのだった。

見物客の足元に突っ込んでいき姿を消したタロウは一人の男に飛びついていた。

薄野賢司だった。

薄野西尾家に引き取られ、奈々が面倒を見るようになる。『いちじくの花』の印税等で最早、金を稼ぐ必要のない薄野は、清志かなえに勉強を教える延長で、無料の塾「薄野無料塾」を開く。

最初は無料という不思議さに敬遠されるが、その独自の教育法は世に広まり、会社経営にも活かそうと会社経営者まで訪ねてくるようにもなった。

一方、W大学に入学した陽一はバスケット部に入ってはいたものの、推薦で入部したメンバーが優遇されるなか、実力が測られることもなく、万年Cチームに甘んじていた。

現状に白けていたCチームの面々ではあったが、陽一の熱い思いに応え、何とか陽一を上へ上げようと画策する。先輩木梨が先導するなか、かつての木梨のチームメイト加賀が属するクラブチームとの試合を通じて、Cチームのレベルアップは進んだ。

GWの京王電鉄杯のあとに行われるAチームとBチームの試合。負けた方がCチームと試合をする。この試合で実力を監督らに認めさせようとしていたのだ。

始まったBチームとの試合。クラブチームとの試合で実力を磨いたCチームはBチームを圧倒する。

監督の森田はチームの入れ替えを検討し、陽一はAチームに大抜擢される。木梨加賀もまたBチームへ昇格する。(しかし、加賀はクラブチームに専念するため退部)陽一はすぐスタメンで起用されるようになる。

しかし、ら4年生が引退すると、スポーツ特待生をあまり採らなくなったW大の力は落ちていく。

去年優勝した関東大学バスケットボール大会では第一シードで5回戦からの出場となったものの、S大に初戦で敗退してしまう。

一方、D大に進学した健太斎藤健太)は、かつて”走れないデブ”と呼ばれたことが信じられない変貌をとげ、D大優勝の原動力となった。全日本学生選手権も期待されたD大だったが、初戦で健太が足首を捻挫し、秋のリーグ戦と合わせた大学三冠は夢と消えた。

2カ月に一度、T校の卒業生が寿司政に集まる日。

健太が悩みを訴える。足首の捻挫が癖になり、試合に出られなくなったのだ。監督やチームメイトらからも”穀潰し”呼ばわりさせる状況に、健太は嫌気がさしていたのだ。

明日にでも退学届を出すという健太の姿に、陽一は同情するとともに、指導者の重要性を痛感し、自らの進路として指導者を選ぶのだった。

 

別に悪い話じゃぁないんですが、2匹目のドジョウ、3匹目のドジョウと狙っていくうちに、だんだん話がくどくなってきましたね。

何だか教育制度や選手の指導等について世に問いたいといったような作者の思い込みがどうも前面に出てきて、鼻につくようになってきています。

そういった嫌らしさが作品自体をつまらなくしているような気がしてなりません。

これで完結してくれることを祈りますが、何となく、陽一が指導者を目指していく過程といったようなものが描かれる4作目が出てきそうな終わり方です。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆

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『宵山万華鏡』 森見登美彦

Yoiyama 2009年、90冊目。森見登美彦『宵山万華鏡』

奇妙な味のある作品です。

シュールな作品ではありますが、森見登美彦の作としては妙に真面目な感じを受けます。

何を気取ってるんだか、といった印象でしょうか。

 

宵山姉妹

小3と小4の姉妹は三条室町西入ル衣棚町にある洲崎バレエ教室に通っている。

今日は宵山。「寄り道をしてはいけませんよ」との先生の教えも聞かず、好奇心旺盛なを引きずって、蟷螂山を観るために雑踏へ踏み出した。

蟷螂山を眺めて安心したを見失い、途方に暮れる。

そんなの前に姿を現わした5人の赤い浴衣を着た少女たちは道案内を買って出るが・・・。

 

宵山金魚

奈良の高校時代の同級生乙川に宵山に誘われた藤田だったが、これまで二度、宵山では乙川に騙された経験を持つ。

今度こそは宵山を楽しみたいと考える藤田は「世紀亭」で乙川に釘を刺すのだが・・・。

宵山を楽しむにはルールがあるのだと乙川は言う。ルールを破ると祇園祭保存会の総元締め祇園祭司令部にしょっぴかれ、宵山様にお灸を据えられるというのだ。

乙川とはぐれた藤田はとある駐車場で”御用”提灯をかかげた祇園祭特別警務隊に捕まり、竹籠に押し込められる。藤田は竹籠に押し込められたまま、次々と移送されていくのだった。

その過程で出会うのは不可思議な舞妓大入道。漸く辿り着いた金魚鉾の御簾が上がって宵山様が現れるのだが・・・。

 

宵山劇場

室町通六角近くに住む小長井は、大学の中央食堂で友人の丸尾から「偽祇園祭を作る」という期間限定のサークル『祇園祭司令部』を作ることを告げられる。

一晩で3万円という高額な日当に釣られ、小長井は協力することを約束する。

この偽祇園祭計画は丸尾の奈良県人会の先輩乙川が友人藤田を騙すための計画だった。

金に糸目はつけないという丸尾の指図のもと集められた主要メンバー(計画のリーダー)は、洲崎バレエ教室の助手を務めるや、高藪という髭面の大男。そして小長井を劇団の裏方の道から足を洗わせるきっかけを作った女、山田川敦子

ゲリラ演劇プロジェクト「偏屈王」の豪腕美術監督として、小長井を翻弄し、工学部屋上に”風雲偏屈城”を作らせた経歴を持つ山田川は、その溢れ出る支離滅裂なイマジネーションと理不尽な采配で小長井を疲労困憊させ、劇団引退に追い込んだ張本人である。

山田川の挑発に乗せられるように、暴走する山田川のイメージを形にする小長井は奇抜な偽祇園祭の演出を進めるのだった。

 

宵山回廊

千鶴は祇園祭の宵山の日、四条烏丸の旅行代理店を訪ねた帰り、知人である三条高倉の画廊主、さんに声をかけられた。

画家である千鶴の叔父河野啓一と付き合いのあるとは顔見知りだった。

は「千鶴さん、これは私のお願いですが・・・先生を訪ねてあげてください」と奇妙な依頼をする。

叔父の家を訪ねた千鶴は急に老けたような叔父の風貌が気になった。

叔父千鶴に不思議な話をする。

宵山の夜、街に出た河野は15年前の宵山の日に失踪した娘京子を見つけるが、追いつくことはできず、疲労困憊して家へ帰った。しかし、その翌日も宵山だったのだという。

河野は宵山を何度も(毎日)経験しているのだという。だから、明日からは千鶴に会うことはできないのだと。

 

宵山迷宮

宵山の朝、母親が蔵で探し物をしている。

杵塚商会が父の遺品を探して欲しいといっているのだ。

は展覧会の相談のため河野画伯を訪ねたあしで、杵塚商会にも足を運ぶ。

宵山の街を歩き、四条通の産業会館ビル地下の喫茶店に入ると、窓のそと地下通路を過ぎる千鶴を発見するが、ガラス越しということもあり、声をかけるには至らない。

画廊に戻ったを訪ねてきた男は、杵塚商会の乙川と名乗った。杵塚商会が探しているという水晶玉は見つからないと断りを入れるに、「いつまでも待つ」という乙川だった。

翌朝、目覚めると、また母は蔵に入っていた。昨日と同じ光景、応対に不審を覚えるに、母は「今日は宵山」だと告げる。今日も宵山・・・。こうしての宵山の日々が始まった。

 

宵山万華鏡

の手を離してしまったは、悪戯心もあっては泣き出しそうなの後をつけた。

しかし、雑踏に見え隠れするうちに本当にを見失ったは道行く人が不思議な風船をもっていることに気づいた。

ふわふわと漂う丸い風船に金魚鉢のような水草や砂利の絵が描かれており、中は水が詰まっているらしい。

配っているらしい風船を手に入れてに謝ろうと考えたは配布場所を探すが、(宵山様が配っていた風船は)既になくなってしまったらしい。

風船を持つ髭もじゃの大坊主に頼むが、大坊主も狸谷の姪に渡すというあてがある。

根負けした大坊主は途中で出会った舞妓とともに、宵山様のところへ案内する。

 

6つの短編で構成されますが、大きなくくりでは2編づつ3組の作品といえるでしょうか。勿論、少しずつ絡んでいるところもあるので、全てセットということもできるのかもしれませんが・・・。

宵山姉妹」()-「宵山万華鏡」(

宵山金魚」(偽祇園祭に騙される男:藤田)-「宵山劇場」(偽祇園祭の舞台裏)

宵山回廊」(エンドレスの宵山:河野)-「宵山迷宮」(エンドレスの宵山:

このセットのなかでは、やはり「宵山金魚」-「宵山劇場」あたりがやはり森見登美彦らしくて、面白かったですね。イメージもなかなか奇妙奇天烈で、想像するのが難しいのですが、それもまた一興です。

エンドレスの宵山の話はちょっとシリアスな(真面目すぎる)わりには、新味に乏しく、今回の作品の興を損ねた感じですね。ちょっと何を狙ったのかがよくわかりません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『植物図鑑』 有川浩

Syokubutsuzukan 2009年、89冊目。有川浩『植物図鑑』

有川浩らしい、軽いラブストーリー。

というよりも、タイトルのとおり「植物(雑草)図鑑」か。

 

1.ヘクソカズラ

冬終わりかけの休日前夜。河野さやかはマンションのポーチの植込みに転がる男を発見する。

無一文で腹を空かせた男は「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」そう言った。

(いつき)と名乗る男は一宿一飯の礼に翌朝の朝食を作るが、それを見てさやかは大胆にも家事をすることを条件にイツキを家に置くことにした。

 

2.フキノトウ/フキ そしてツクシ

イツキが同居人になって1カ月ほどの3月中旬。

イツキに誘われて散歩に出たさやかは、イツキとともに河原のフキノトウ、フキ、ツクシを摘む。

 

3.ノビル/セイヨウカラシナ

3月の終わり。前回の狩りで味をしめたさやかイツキとともに河原へ繰り出した。

河原へ降りず、土手で採取したのはセイヨウカラシナ。土手の途中で掘り出した小さなタマネギ状の球根はノビル。

 

4.春の野花-タンポポ、イヌガラシ、スカシタゴボウ

散歩の途上、さやかは秘かに購入した植物図鑑のにわか勉強の知識を得々とイツキに語る。

今回は花を楽しむことに決めたイツキさやかに花冠の作り方を教える。

 

5.ワラビ/イタドリ

自転車を購入したさやかイツキとともに山菜採りに繰り出した。

山を越える途中でワラビとイタドリを採取する。

 

6.ユキノシタ/クレソン

川を遡り、川岸で見つけたのはユキノシタとクレソン。

川に落ちたさやかを拭ったブランドもののハンカチはイツキがバイト先でもらったものだった。

ただでさえ素性を語らないイツキのバイト先での行動が気になったさやかはこっそりと覗きにいくのだが・・・。

 

7.ノイチゴ

喧嘩の翌日、気まずく家に帰りにくいさやかは久しぶりに呑み会に参加するが、さやかを想う営業部の竹沢さやかを家まで送ろうとする。

追い返そうとするさやかだったが強引に、さやかの最寄駅までついてくるが、そこに待ち構えていたのはイツキ

これをきっかけに互いの気持ちを確認した二人。

週末、ノイチゴを摘みに出かける。

 

8.イヌビユ/スベリヒユ そしてアップルミント

梅雨のさなかなかなか外出できない二人だったが、小雨の中、傘をさして家を出る。

家を出てすぐの街路樹の根元で見つけたのはイヌビユ。その後、近くで見つけ、摘んだ雑草はスベリヒユ、アップルミント。

アップルミントはマンションの庭に移植した。

 

9.アカザ・シロザ/ヨモギ そしてハナミズキ

梅雨が明け、もうそろそろ狩りの季節も終わり。

川を遡る途中で見かけるビニールハウスそばに生えるヨモギを摘む。

8月15日のさやかの誕生日を経て、季節は秋へ。

誕生日が近づいたら教えるというイツキの約束は果たされなかった。

会社から帰ったさやかは、『ごめん。またいつか。』という一筆箋が一枚入った封筒を発見する。

 

10.巡る季節

イツキがいなくなった後も、イツキとの暮らしで得た生活、味覚をなくしたくないさやかイツキがいたころと変わらない暮らしのペースを続けた。

季節は巡り、さやか竹沢から交際を申し込まれるが、これを断り、イツキを待つ。

春が来て、夏が来て、ある日、書留が届いた。

ごめん。待たなくていいです。

それでも待ち続けるさやかに、秋が来て、冬が来る。

冬終わりかけの週末、さやかに届いた書籍封筒には差出人に日下部樹の名。中に入っていたのはイツキが写真を提供した『日本の野草・春編』。

これを手掛かりにイツキを探し出すと意気込むさやかの前にイツキは姿を現わす。

もう新しい犬、拾っちゃった?

 

カーテンコール ゴゴサンジ

さやかイツキが間違えて教えた花の名前を思い出した。

イツキに教えられた梅仁丹状の草。

イツキはハゼランの正式名称とともに、「午後三時ごろに咲くからゴゴサンジ」と教えるが・・・。

 

カーテンコール 午後三時

杏奈は柴犬のサクラとともに散歩するうちに一人のお兄さんに出会う。

植物にちなんだサクラ杏奈の名を褒め、雑草の名にも造詣の深いお兄さんに杏奈は魅了されていく。

その青年は地元の名士日下部家の長男だった。

幼稚園からの幼なじみ阿部太一とよそよそしくなっているサクラをみて、お兄さんは呟く。

もったいないことするね。せっかく会えるのに

声にわずか、ほんのわずか、責めるような-妬むような色が混じった。

 

植物の移り変わりで、四季、季節の流れを感じさせる作品。

軽いラブストーリーという主筋はあるものの、むしろ道端に生える雑草(?)の紹介作品といったイメージ、印象が強く残る。

道を歩いて、この草がコレか、とか、食べられるのかな、とか、そういった好奇心をくすぐるタイプの作品かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『レキオス』 池上永一

Lequios 2009年、88冊目。池上永一『レキオス』

得意の沖縄が舞台の物語。

レキオスの定義が今ひとつわかりにくく、単なる漠とした呪術的な災厄のイメージしかわからないとこをがちょっと残念。

ただし、1800年代と結ぶ時間的なスケールや数多くの登場人物が複雑に絡み合う関係性は非常に面白い。

 

天久開放地に描かれたペンタグラム(五芒星・魔方陣)が呼び覚ましたのは真嘉比のチルーと呼ばれる(名乗る)幽霊。

このペンタグラムは米軍のキャラダイン中佐の指揮のもと築かれたものだった。”レキオス”を呼び覚ますという秘密の計画(”プロジェクトL”)を遂行する中佐の下で、作業を受け持つ日系三世のブライアン・ヤマグチ(少尉)だったが、彼にも計画の詳細は知らされていなかった。

一方、自身を鼻のない姿に追いやった三世相、友庵を探すチルーは、アメレジアンであるデニス・カニングハムに憑依した。

チルーの懇請に従い、デニスはコザのユタ友庵の居場所を訊ね、今はマハラジャ商店のラジニに憑依した友庵にいきつく。

しかし、友庵にはかつてのような力はなかった。1800年代半ばに現れた”波上の眼鏡”ベッテルハイムに時間を操るすべを奪われたというのだ。

一方、CIAのコニーらのチームはハンビータウンにある「ブルーチャイナ」が秘密結社『GAOTU』の拠点であることを掴み、その主要人物であるキャラダインらの動向を探る。しかし、これを察知した「ブルーチャイナ」の店主は店に潜入したCIAのチームリーダー入松田を店もろとも爆破する。

復讐に燃えるコニーだったが、後任にはアフガニスタンからのチームが据えられ、コニーらはバックアップしかまかせてもらえない。

キャラダインの指示に納得のいかなくなっていたヤマグチだったが、首里城爆破というテロリストまがいの指令を受け、流石にキャラダインを信じられなくなっていた。

彼らとは別に、純粋に好奇心のなせるままにレキオスを負う痴女・天才人類学者サマンサ・オルレンショーはレキオスの真相に少しずつ近づいていた。奇矯な行動の多いオルレンショーの言動に眉をしかめるコニーヤマグチらではあったが、キャラダインへの対抗の便宜上、致し方なくオルレンショーに協力を仰ぐのだった。

デニスの従姉小百合がセーファ御嶽のノロを継ぐことになるが、実際に聞得大君の声を聞いたのはデニスだった。そのことに戸惑い、怒った小百合は、キャラダインに協力するようになってしまう。

もともと力を有していた小百合の助力を得たキャラダインは一夜にして歴史を改変すると、沖縄の解放されなかった世界を作り出した。改変された歴史では、キャラダインは首里城跡の民政府で高等弁務官として沖縄を統治するのだった。

更に、キャラダインは、天久開放地のペンタグラムと19世紀半ばのベッテルハイムキャラダインの前世)とを結ぶと、過去と現在で協調しつつ、着々とレキオス解放の手筈を進めるのだった。

しかし、アメリカ政府のなかにもキャラダインの歴史改変に気づいたものがあった。デニスの父カニングハム将軍の率いるアメリカ軍は沖縄に対して作戦行動を開始するが、その最中にレキオスが目覚めてしまう。しかし、目覚めさせたはいいものの、偽りのノロである小百合にレキオスを制御することはできなかった。

暴走するレキオスを楽しむキャラダインに立ち向かったのは、人間コンピュータ”ロミヒー”こと宏美を駆使するオルレンショーである。しかし、戦いの中で宏美が死んだことで苦戦を強いられるが・・・。

レキオスが暴れ狂う中で父を亡くしたデニスは覚醒し、”エケリ”であるヤマグチとともに、レキオスに立ち向かうのだった。

 

主人公がアメリカ軍人との混血であり、「基地=悪」という一元論が一般的な内地の人間にとって、基地問題への見方が目新しい。

とにかく登場人物が魅力的。

やはり筆頭はオルレンショーですが、ここまで突き抜けたキャラクターは初めて見たという程の変人・変態ぶり。もう常識的な判断がつかなくなりますので、人間コンピュータ「ロミヒー」も何の違和感もなく、受け入れられてしまいます。

残念なのは、そういったサブキャラクターが光る分だけ、主人公のデニスキャラダインが、あまりパッとしないように映ってしまうところでしょうか。デニスなんかは十分魅力的なキャラクターだとは思うんですが、対比するキャラクターたちのアクがあまりに強すぎるんですよね。

色々風呂敷を広げたあと、最後はかなり盛り上がりますが、どうもラストはインパクトがなかったですね。ちょっと惜しいという感じでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『骨の記憶』 楡周平

Honenokioku 2009年、87冊目。楡周平『骨の記憶』

なかなか全般に暗い話。

貧富の差など成長過程での精神的な虐げられ感から始まり、束の間の幸せの後は、汚職などの社会の裏側を歩む。金や地位を得ても、故郷に錦を飾ることもならず、乾いた心を埋めるものも見つからず、見つけたと思えば裏切られる。救いのないままに死んでいかなければならない主人公(長沢一郎)。

自身の不幸の源を恩人として、知らずに長きに渡って支えてきたという悔しさ。恨みを晴らすにも、相手は最早死に近く、恨みを十分晴らすこともできない。蓄えもなく、老いた自身を顧みて、空しさを感じるであろう清枝

各登場人物が全然幸せにならないというなかなか救いのない話。

 

不治の病多発性骨髄腫に苦しむ夫曽我弘明の苦しみを取り除くべく看護に努める妻清枝のもとへ宅配便が届けられた。

中身は古びた人間の頭蓋骨だった。添えられた手紙には、頭蓋骨の主は清枝が少女時代に失踪した実父杉下良治のものであること、そして、父の失踪の経緯が綴られていた。

差出人には、東京へ出てすぐに死んだはずの「長沢一郎」の名があった。

話は曽我弘明長沢一郎杉下清枝の少年(少女)時代に遡る。

美桑町一番の素封家曽我家の長男である弘明と仲の良かった長沢一郎は、弘明とともに曽我家所有の山にトンネルを掘っていた。

教師であった清枝の父杉下良治はキノコ採りの途中、二人の無謀な企てを知り、それを制止する。スコップを取り出すためトンネルに潜った良治だったが、突如穴が崩れ、生き埋めとなってしまう。しかし、誰もいない山の中のこと、少年2人では助け出すこともできなかった。体面を考えた弘明一郎に口止めするとともに、良治ごと穴を埋め戻してしまう。

町総出での捜索活動も空しく、良治は謎の失踪扱いとなり、娘である清枝は暗く沈んでいくのだった。

中学卒業後、集団就職で東京へ出た一郎は中野駅に近いラーメン屋珍来軒で働くようになるが、給与も低く、雑用ばかりで手に職もつかない。そんな状況に不満を募らせる一郎だったが、多くの弟たちも擁する実家に帰ることはできない。

そんな一郎の面倒をみたのは職場の先輩である松木幸介だった。羽振りのいい幸介の資金源は店の金の横領だった。

伝票の枚数から横領の事実が発覚し、幸介は店を出て行くことになったが、その金の恩恵を受けた一郎にも店主の厳しい目は向けられ、一郎も針の筵の状態が続く。

盆休みの前日、一郎のアパートに幸介が訪ねてくる。もはや幸介と関りを持ちたくない一郎は、寝ている幸介をおいて、自身の荷物をかかえて、美桑へ帰る汽車に乗るのだった。

しかし、その途中、かばんを幸介のものと取り違えたことに気づいた一郎は、あわててアパートに取って返したが、辿り着いたときにはアパートは焼失していた。

一郎が名乗り出ないなか、幸介の遺体は一郎の遺体として処理され、これを機に一郎幸介として生きていくこととなった。

幸介の名で運送会社で働いていた一郎だったが、幸介の祖母の遺産である千葉の三里塚の土地が収用され、その代金をもとに運送会社を作る。一郎は、その才覚で業績を伸ばしていった。

間もなく事務員の樋口多喜子と結婚し、ようやく安定を得た一郎だったが、多喜子は難産の末死んでしまう。子どもも助かることはなかった。

最早、仕事と金しかなくなった一郎は、政治家秋谷敬太郎と結び、開発前の用地の買収や、開発にあたってのコンサルティングなど、暗い金儲けに邁進する。

多喜子亡き後、満たされない一郎だったが、没落した子爵の末裔池之上の娘冬子清枝の面影を見た一郎は、満たされない思いを埋めるべく冬子に求婚する。

意外なことに求婚を受け入れ、一郎の妻となった冬子だったが、心の底では一郎を憎んでいた。子どもを欲しがる一郎の思いをよそに、秘かに何度も堕胎を繰り返していた。

偶然それを知った一郎は怒りのままに冬子に問い質すが、開き直った冬子は真情を吐露し、一郎の心を更にかき乱すのだった。

そんなとき、一郎は、かつて自身を精神的に虐げていた弘明の消息を知った。没落した弘明の資産はもはや二束三文の雑木山くらいしか残ってはいなかった。

もはや冬子に何も遺産を残したくないと考えていた一郎は、かつての曽我家の資産を自身の手に入れるという充足感とともに、その財産的価値のない山々を冬子に相続させるという思いつきのもと、秘かに曽我家の山を買い進めていった。

皮膚癌に侵され、死期を覚った一郎は少しずつ、自身の資産を切り売りし、冬子へ何も残すまいと努める。

かつて杉下良治を埋めた山を売却するのを最後まで渋っていた弘明だったが、不治の病に倒れてしまう。何も知らずに曽我家に恩を感じ、弘明と結婚した清枝は、弘明の入院資金を捻出するため父の埋まった山を売ってしまうのだった。

一郎は漸く手に入れた山に入ると、良治の遺体を掘り出し、清枝に送りつけたのだ。

 

父の失踪の原因が弘明にあったことを知った清枝の恨みは深かった。これまで弘明曽我家に恩を感じていただけに、その恨みは倍増した。死期の近い弘明を病院から自宅へ連れ帰った清枝は・・・。

 

面白いというのとは、ちょっと違うのかもしれませんが、なかなか読ませる話でした。

一郎が社会的に成功していくところは、(ちょっと後ろ暗いところもありますが)読んでいてサクセスストーリーを見ているようで、痛快です。

ただし、それ以外が救われないんですよね。特に、一郎個人に何かがあるというわけでもなく、運が悪いのか、間が悪いのか、どうも家庭に恵まれない。特に目端の利く、小ズルい性格でもなく、むしろ朴訥とした感じなんですが・・・。

結局のところ、一郎の生まれが貧乏であったことが、いろいろな一郎の人生の分岐点で影響を与え、最後まで足を引っ張り続ける。

やはり、なかなか救いのない話ですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『カラ売り屋』 黒木亮

Karauriya 2009年、86冊目。黒木亮『カラ売り屋』

「○○屋」を題材にした短編集。

なかなか粒揃いで、とても楽しめました。

 

カラ売り屋

北川靖(38)は霞ヶ関を飛び出し、米国MBAのクラスメート米国人ジム・ホッジス、ナイジェリア系米国人アデバヨ・グボイェガとともに、カラ売り専門の投資会社パンゲア&カンパニーを設立した。

数多のカラ売り屋が90年代の長期の上げ相場に耐えられず破綻していくなかで、パンゲア&カンパニーは持ちこたえてきた。

徹底的に案件を調べ上げる手法でやってきた北川が次のターゲットに狙ったのは昭和土木工業。

株主総会に出席した北川を待ち構えていたのは北川らを排斥するような、社員を総会屋に仕立てた総会だった。なかでも最前列に座った男は社畜根性丸出しの嫌な男だった。

この昭和土木工業が西アフリカで手がける海底トンネルの工事は現地作業員をあからさまに蔑視する社員らの言動もあって、難航を続けていた。通訳を務める菊谷一は現地の作業員との間に挟まれ、その待遇改善に苦心するが、改善は決して行われない。

更に北川が総会で出会い、社畜と蔑む男が現場に着任し、更に輪をかけて作業は滞る。

しかし、この情報は日本へ流れず、日本では昭和土木工業の財務諸表の改竄にも手を貸す幹事証券が昭和土木を支援するレポートを連発し、株価を押し上げ、パンゲアを窮地に追い込む。

北川は小耳にかじった西アフリカの現地に飛ぶと、無謀にも作業現場へ飛び込んだ。

情報管制の緩い作業現場では口の軽い社員水無瀬(26)が作業現場の自嘲交じりに現実を語る。

「昭和土木が西アフリカで巨額損失」。北川のレポートが市場の流れを変えた。

 

村おこし屋

福岡県の東端、大分県境の村を出て小倉の高校に進んだ井上は、そのラグビー部で堀井晃一に出会った。

親がリストラされるのを見て、世の無常を感じた堀井は、間もなくラグビー部を辞め、万引きした商品を売りさばくなどアンダーグラウンドの世界に入っていった。

東大入学後も堀井のスタンスに変化はなかった。信用保証協会を食い物にするなど更にスケールを大きくして、世の裏側を歩いていくのだった。

一時、高校の同級生である資産家の令嬢早川恭子と結婚し、その事業を継いだようにも見えた堀井だったが、その本質は変わらず、間もなく離婚して行方をくらませることとなった。

偶然井上の前に姿を現わした堀井は村おこしのアイデアを語った。税金をつかった「ふるさと創生」事業から、またしても金をかすめとろうとしていたのだ。

そのまま接点のないはずの井上だったが、父の死を契機に東京の外資系証券会社を辞め、実家に帰ったことで、堀井との接点が増えていく。

井上は亡くなった父のあとを継ぎ、農家に転身するとともに、村議会選挙にもうってでて、村議会議員を務めていた。

堀井は隣村で過疎債を使った事業、巨大日帰り温泉施設「四季楽」を企画、運営していた。

しかし、堀井の算段の上前を更に掠め取る村長や、その女婿石井虎彦(石井組)により、「四季楽」の経営は圧迫されていく。

村の財政悪化を憂える村議会議員のなかには、その不正を暴こうとする者も現れたが、村の実力者でもある村長の力のまえには蟷螂の斧でしかなかった。

井上にとってはあくまで隣村の事件であったはずだったが、市町村合併の動きのなか、自身のこととして対応せざるをえないようになっていく。

 

エマージング屋

大手邦銀のロンドン支店で国際金融の業務に携わるようになった西だったが、邦銀では「国際金融のプロ=外国人」という図式のもと、外国人だけが優遇される世界だった。

イアン・チャップマンマイルズ・ナッシュらの転職組は高給を得ながらも仕事ぶりは怠惰で、やっている仕事のレベルも決して高いようには見えなかった。

意を決した西ナッシュらが手を出さないエマージングの世界に足を踏み入れた。副支店長小谷のバックアップもあり、二の足を踏む東京を説得した西はジンバブエを皮切りに次々と実績をあげていった。

しかし、それを快く思わない者たちもあった。ナッシュら外国人ばかりでなく、日本人の同僚たちも西の業績を嫉視するのだった。

そんな中、SWDC(サウジアラビア淡水化公社)向け融資を取りまとめた西は、ロンドン支店近くで発生したIRAのテロに巻き込まれる。

 

再生屋

経営破綻に瀕した和歌山の渚ホテルは弁護士星野に数ヶ月後に裁判所に提出する再生計画の依頼を行ってきた。

多くの負債を抱える渚ホテルの再生計画を円滑に進めるためには、買収企業による高額買い付けが不可欠だった。

しかし、本命である荒神観光(荒神貞次郎)の回答は厳しく、加えて既存従業員を一旦解雇するという荒神観光の姿勢は従業員からも反感をかっていた。

大手債権者である日本開発投資銀行も、荒神観光の姿勢を危ぶみ、債権放棄についても色よい返事を出すことはなかった。

その一方で、渚ホテルのメインバンクである紀ノ国銀行の渋井周充頭取は荒神観光との関係を優先し、(債権放棄額は別として)荒神観光による買収を原則として、他の選択肢に聞く耳を持たなかった。

この苦境にあって、渚ホテルの再建に東都急行の桜内名誉会長が興味を示すが、荒神観光を慮った渋井が反対したことで頓挫してしまう。

関係者の折り合いがつかず、再生計画の目途もたたないなかで星野らが目をつけたのは北海道でいくつもの再生事業を手がけている北斗リゾートの北川重人だった。

突然の訪問に快く応じた北川は早速、渚ホテルを訪ねて、そのビジネスプランを即座に導く。しかし、その前途は厳しかった。

 

何だか短編では惜しい作品が多い。

村おこし屋」は堀井のちょっとドロドロした感じが気持ち悪く、後味もよくないのですが、その他の作品はどれも長編にしたものを読んでみたい作品です。

特に「エマージング屋」は過去の振り返りだけで、現在進行形では何も発生せず、ちょっと肩透かし。一番、黒木亮らしさが出そうな作品だけに、ちょっと残念です。

続編として『リストラ屋』があり、「カラ売り屋」の北川らを主人公にした作品のようですが、今から読むのが楽しみです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『かあちゃん』 重松清

Kaachan 2009年、85冊目。重松清『かあちゃん』

タイトルからいえば母親をメインにした連作だが、第一章、最終章の母親以外はちょっと添え物的で、どちらかというと「いじめ」がメインのような作品。

 

第一章

梶谷ヒロシは小学2年のとき父親を交通事故で亡くす。

センターラインをはみ出したトラックを避けるためハンドルを切った父親のライトバンが電柱に激突したのだ。その交通事故でライトバンに同乗していた上司の村上も亡くなっていた。

父親が悪いわけではなかったが、村上に詫びるように、は笑わなくなった。そして生命保険の外交員となったヒロシに厳しく、そして自分にも厳しくなっていった。

成長し、東京で妻美紀子、娘樹里との生活を送っていたヒロシのもとに、一本の電話が入る。

村上の墓の前で倒れたというのだ。

電話の主は村上の娘、河野友恵と名乗った。

ヒロシの知らないところで26年もの間、はひとり墓参りを続けていたのだ。

ヒロシは故郷に帰ると、友恵に会いにいった。

ヒロシの知らない事故以降のの事跡を、友恵ヒロシに語るとともに自身の息子啓太にも語って聞かせた。

東京に住んでいた啓太だったが、親友黒川久志のイジメに加わった良心の呵責に耐えかね、逃げてきていたのだ。

 

第二章 リセット

本多敏之もまたクラスの松谷に強いられ、親友黒川久志のいじめに加担したことを悔やみ、苦しんでいた。

親友であった河野啓太も転校して救いが得られない中、家庭内でもいじめ事件以降、敏之への視線は厳しかった。

そんな敏之に接近してきたのはいじめの張本人である松谷浩司である。

黒川へのお詫びのプレゼントを贈るからと称して敏之から金を巻き上げようとする松谷に、敏之は何も言い返すことができなかった。

GW明け、学校に戻ってきた河野啓太は、以前とは違っていた。

啓太松谷にいじめられている敏之を叱咤するのだった。

 

第三章 リピート

千葉文香は認知症で日に日に子どもに戻っていく祖母と、それを介護するの姿に滅入っていた。

黒川の自殺未遂事件以降、担任の熱血風教師水原の試みで始められた日記『心の対話』に、祖母への思いを綴るが、水原がこれを受け止めることはなかった。

一方、黒川のいじめの首謀者である幼なじみ松谷浩司の変容にも戸惑う文香は、浩司が上級生にいじめられている姿にも心を痛めていた。

そんな文香を呼び出した河野啓太本多敏之黒川文香のことを好きだったという事実を告げ、黒川に詫びに行くのに付き合ってほしいと誘う。

 

第四章 ジャンプ

かつて中学の校長も努めた伝説の名教師を母親に持つ水原邦彦は、自身が担任するクラスでいじめによる自殺未遂者をだし、その力量不足を思い知らされていた。

校長を退任した母親は、リタイヤ後も教育関係のNPOに参加するなどエネルギッシュな生活スタイルを変えることなく、それがかえって邦彦を追い込んでいた。

サラリーマン時代は実力を発揮していたもそんな母親に張り合うことに疲れ、定年後は毎日ぶらぶらし、そんなのスタイルに耐えかねたは家を飛び出していた。

邦彦母親と同じ中学教師の道を選んだこともあり、事あるごとにと比較され、肩肘張って頑張っていた。『心の対話』もの受け売りだったが、全て形だけの空回りだった。

しかし、あるとき、街をゆくの姿を見つけた邦彦があとをつけると・・・。

 

第五章 トライ

福田佳代水原と同僚の中学教師。

息子を保育園に預けての中学教師を務める生活は激務だった。加えて、は病弱ですぐに発熱するなど手がかかる。そんな都度、実家の母親に助けを求める佳代に、は仕事も子育ても中途半端になっている事実を突きつける。

イライラする佳代水原佳代が顧問を努めるバスケット部の部員森美帆について、厄介な問題を持ち込んできた。

美帆が義父に妊娠させられたと言っているらしいのだ。

練習に励む美帆と話をした佳代は、再婚したに子どもが出来たことの戸惑いからの嘘であることを見抜いた。

そんな美帆が無断欠席をした。助けを求める水原に、佳代美帆のもとへ電話することを請合った。

 

第6章 ドロップ

松谷浩司の家庭は崩壊していた。

不倫相手の女に貢ぐ金を会社から横領し、クビになった。そのに愛想をつかせて家を出て行った

家に残されたのは浩司と弟の修司(小5)だけだった。

そんな環境にあって、仲の良い黒川河野本多の3人がムカついたのだ。ただ、それだけで、松谷河野本多を脅して黒川をいじめさせた。

そんな松谷も上級生を相手にするといじめられる対象だった。

黒木ら先輩に呼びつけられると、その求めに応じて万引きをしなければならない。そんな日々が続いていた。

万引きを思いとどまった、その日。コンビニ前で松谷千葉文香森美帆に出会う。

文香河野本多とともに黒川に会いに行くことを告げ、松谷にも同行を誘った。

見透かすようなたちの声を振り切って、自転車をとばす松谷は車にぶつかってしまう。

怪我は大したことがなかったものの、入院することとなった松谷のもとをがそれぞれに訪ねてくるなか、松谷をとりまく環境も、心象風景も少しずつ変わっていった。

 

第七章 リメンバー

海の見える街に引っ越してきた黒川久志のことを両親は腫れ物にでも触るように扱う。

その心が少しずつ癒えてきたかのように見える夏休み。突然、元担任教師の水原邦彦からの電話が入る。黒川河野らが会いにいきたいというのだ。

その勝手な言い分に怒りを示す両親だったが、黒川は一人ずつ会うことを条件に受け入れる。

海岸で待つ黒川のもとを、4人(本多敏之千葉文香河野啓太松谷浩司)は次々と訪れた。

 

第八章 アゲイン、アゲイン

故郷から飛行機に乗ってが上京した。

河野友恵啓太に会うためである。

を妻子らとともに皇居前に連れ出したヒロシのもとに故郷の伯父康之からの電話が入る。体調不良で受けたの検査結果を病院に聞きにきてほしいという内容だった。

友恵啓太のいじめ事件以降、崩壊寸前に至った家庭を修復するきっかけを与えてくれたヒロシに、あらためて感謝の意を示した。

啓太もまた、黒川に会いに行った顛末を語った。

 

子ども(ヒロシを含む)たちが主人公で、子どもの目から捉えた母親像と、その母親との関りを意識して書かれた作品のようですが、必ずしも成功はしていないかもしれません。どうも、このテーマで一貫した内容・共通性は見えてこず、また、その母親像の濃淡も主人公ごとに大きく異なっています。

裏テーマとしてのいじめの捉え方、解決についても、どうも曖昧で釈然としない。

なんだか、なあなあで終わってしまったような感があり、あまり真面目に捉えているようにも思えない。自殺未遂までいったような事件で、こんな解決ってありまんでしょうか。

今回も重松清お得意(?)の「死」が暗示されますが、今作ではそれほど悲壮感は漂わない。いつもなら泣いてしまいそうな場面のはずが何故なんでしょう。

設定としても、耐えて耐え抜いて、ようやく得られた心の平穏も束の間、死ななければならない母親という、非常に悲劇的な設定なんですが・・・。

おそらく、主人公を変えて連作にしてしまった結果、ヒロシとその母のやりとりや心情面での深掘りがなされなかったために、思いいれが小さくなってしまったのかもしれません。

主人公をコロコロと変えてしまったことは、物語を重層的にしたかったのかもしれませんが、必ずしもプラスには働かなかったようです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『化物語 下』 西尾維新

Nisemono2 2009年、84冊目。西尾維新『偽物語 下』

なかなか面白かったものの、シリーズ最終巻としてはちょっと肩透かし。

月火がメインというわりには羊頭狗肉感の強い作品です。

 

阿良々木暦は妹火憐の求めに屈し、神原駿河火憐を紹介するための(肩車されながらの)道行きの途中、怪しげな女性に出会う。

そこな鬼畜なお兄やん-ちぃと訊きたいことがあるんやけど、かめへんかな

京都弁を操り、郵便ポストの上に立ち、叡考塾(忍野メメのいた廃墟)への行き先を訪ねた女性は影縫余弦(かげぬいよづる)と名乗った。

足を地面につけないように歩く影縫余弦は、火憐の見立てでは、火憐の師匠クラスの実力の持ち主だという。

心配しながらも、火憐駿河に預けて帰るに、再度叡考塾への道を尋ねたのは”僕っ子”だった。

ねえ、鬼のお兄ちゃん。知ってるんだったら教えてよ。僕の知りたい道のこと-僕はキメ顔でそういった

”僕はキメ顔でそういった”と語尾につけながらも、キメ顔でない少女は斧乃木余接と名乗った。

火憐八九寺真宵の正体にも気づいているような余弦余接のコンビに不審感を募らせるだったが、忍野忍にしても正確には回答しない。

そんなに彼女たちの正体は(シスタードーナツでばったり出くわした)詐欺師貝木泥舟である。貝木の財布と引き換えに語った余弦余接の正体は貝木と同じ専門家、ゴーストバスター(余接余弦の式神)であった。それも「不死身の怪異」を専門とする陰陽師だった。(後に、余弦は、自身と貝木忍野メメが大学のオカルト研究会同期であったことを語る。)

家に帰りついたは門前に余弦余接が揃っているのを発見する。

は彼女たちが自身を退治しに来たものと考えていたが、目標はの妹月火だった。

家の前に現れた月火の腰から上を余接は手にした巨大なハンマーで破壊するのだった。

しかし、再度月火に目を向けたは傷一つ負っていない月火の姿を見つけた。

余接は、月火は不死身の怪鳥”しでの鳥”に犯されていると語った。

ホトトギスの怪異でもある”しでの鳥”はの母の胎内に宿り、月火という人の姿を擬態しているというのだ。

月火を家に残し、火憐に門番を委ねると、とともに、叡考塾に向かった。

こうして、VS余弦VS余接の戦いは始まった。

 

今回は戦場ヶ原ひたぎは更正(ツンデレならぬツンドロと化して)してしまったためか、キャラが薄く登場なし。羽川翼も叡考塾の道案内をするための電話だけ。神原駿河もわずかしか登場しません。

その分、今回は(も)本編にほとんど関係ないにも関らず、八九寺真宵の登場時間が異様に長い。その多くはアニメ化情報。

先日から始まったアニメについては真宵の指摘のとおり、=鬼太郎を彷彿とさせる出来映えか。しかし、真宵期待のエンディングのダンスは結局なかったですね。

火憐も今回は登場が多く、シリアスな部分よりも圧倒的にギャグパートが多く、非常に愉快に読めました。の圧倒的な強さも久々で、なかなか痛快。

また、今回は月火がメインなのですが、そのわりには登場時間が非常に少ない。正体は兎に角として、これで終わり、これで最終話っていうにはちょっと寂しい。

まぁ、あとがきで、あと二話(羽川翼八九寺真宵)あるとのことでしたので、次作も期待したいと思います。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『風の中のマリア』 百田尚樹

Maria_vespa 2009年、83冊目。百田尚樹『風の中のマリア』

一切、人間が出てきません。でも十分、面白い。

単に昆虫を主人公にして、人間のドラマを語ろうというのではありません。

あくまでオオスズメバチの生態をわかりやすく説明する方便として、擬人化を試みているというような感じです。

オオスズメバチの世界の様々なドラマ、そして知られていない数々の生態。十分に知的好奇心を満足できる作品ではないでしょうか。

 

初秋に産まれたオオスズメバチ(ヴァスパ・マンダリニア:Vespa mandarinia)のワーカー(ハタラキバチ)のマリアは「疾風のマリア」と呼ばれていた。

羽化したマリアは30日ほどの短い命を毎日狩りに出ることで過ごす。狩りは危険が多く、仲間も次々と帰還せずに死んでいき、巣の中で命を落とすものは少ない。

メスでありながら卵を産むこともなく、恋もない生活は他の虫からは不審に感じられ、問われるが、それは遺伝子(ゲノム)の求めるところだった。

血縁選択によるゲノムの維持において、自身の子どもよりも妹を育成する方が遺伝子を残すうえでは効率が高いのだ。

女王バチ、アストリッドのもと、アストリッドの帝国の繁栄に向け、妹の育成、狩りに命をかけ、いつか狩りの中で死んでいくこともマリアにとっては当たり前のことだった。

秋が深まるにつれ、エサとなる虫たちが少なくなる一方で、妹たちの数は増す。

加えて、新たな女王となる妹たちが増えてくる中で、マリアたちは集団で、ミツバチやキイロスズメバチの巣を襲う。犠牲も大きいが、妹たちを育成するためには仕方がなかった。

アストリッドがワーカーを産むことを止め、オスバチを産むようになると、ゲノムの効率性は働かない。マリアは仲間らとともに、アストリッドを殺してしまう。

女王バチの巣立ちの日。巣の周りに飛び交うオスバチが女王バチ候補となる妹たちに群れるのを撃退するマリア。こうして、より優性な遺伝子を選別しているのだ。

羽化して30日を越え、老齢となったマリアは数多くのオスバチを殺したあと、力尽きる。

 

非常に危険な生き物という印象の強いオオスズメバチですが、実際、その生態ってあまり知らなかったんですよね。巣が1年でダメになってしまうとか、羽化してから1カ月程度の命だとか・・・。

オオスズメバチの怖さもいろいろ描写され、やっぱり怖いなぁと再確認もします。

やっぱり一番、今回驚いたというか知的満足が得られたのは、自身で卵を産まずに、利他精神を発揮するように見えるハチの動機と遺伝子の係わりについてでしょうか。

非常に説得力があると同時に、遺伝子って怖いよなぁとも感じてしまいます。

ニホンミツバチの蜂球の様子は驚きでしたし、外来生物の脅威であるセイヨウミツバチの盗蜂にも驚かされました。

無味乾燥な学術書でなく、こういったドラマ仕立てだと、なぜこんなに印象深いんでしょう。

また、こういったテーマの話も読んでみたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『レッド・ゾーン (上・下)』 真山仁

Redzone1Redzone22009年、81冊目、82冊目。真山仁『レッド・ゾーン (上・下)』

『ハゲタカ』シリーズの第3弾です。

これまた映画の原作のようですが、どうも雰囲気は違いそうですね。

少なくとも、芝野は今回はチョイ役というか、全体のストーリーの中で存在感が殆どありません。

 

マカオで鷲津政彦に声をかけたのはCIC(中国投資有限責任公司)の王烈

中国で立ち上げるSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)のスカウトだ。しかし、鷲津には興味はなく、すげなく断るのだった。

その頃、世界を代表する自動車メーカー、アカマ自動車に買収をほのめかす男が現れた。”中国の買収王子”、”上海の買収王”、上海投資公司の賀一華である。

この赤いハゲタカへの防衛を考えるため、アカマ自動車の社長古屋貴史と社長室室長大内成行鷲津政彦と面会すると、防衛策について相談する。

鷲津賀一華の後ろにCICが控えていると睨んでいた。賀一華に対するアカマ自動車の防衛策を見極めてから、CICが出てきて買収するのだ。

それを裏付けるように王烈からは再度、鷲津にアプローチがあった。その中で王烈アラン・ウォードの死の真相を仄めかす。

賀一華もまた鷲津に接触すると、アラン・ウォードの恋人であった美麗翁藍香)を鷲津に引き合わせた。

賀一華の年下の叔母だという美麗は記憶を失い、口もきけなくなっていた。

鷲津はアカマ買収に参加することに決め、その準備に取り掛かった。CICに対抗する人物として白羽の矢を立てたのは、香港随一の財閥、将集団の総帥将陽龍だった。

アカマ自動車でも防衛策の検討が進められた。外為法による防衛を「国防関連企業だけ」とし、アカマ自動車の防衛を期待できない政府の弱腰に、アカマ自動車では禁断の分野となっている防衛産業分野への進出を検討する。しかし、アカマ自動車の象徴たる最高顧問赤間周平翁はこれを認めない。

加えて、周平の甥である副社長赤間太一郎は、賀一華の買収提案を経営陣の不祥事と捉え、クーデターを画策していた。

そんなとき、密告があった。アカマ・アメリカの業績が太一郎が社長時代に改竄されていたのだ。この不祥事に震撼する大内だったが、社長室次長保坂時臣はこれを太一郎排除の好機と捉えていた。創業家を排除することの是非を問う難問に、周平への相談を考えた大内だったが、そこに入ってきたのは周平の事故死の知らせだった。

動揺するアカマ自動車に追い討ちをかけるように賀一華はTOBを仕掛けてくる。

 

芝野健夫は曙電機でのCROを辞し、かつて世話になった”なにわのエジソン”藤村登喜男に恩返しすべく、登喜男の死後経営の行き詰ったマジテック社に移っていた。

登喜男亡き後、職人桶本の職人技だけに頼るだけに弱体化した会社の将来を作り上げるのが、芝野の仕事だった。営業を買ってでた芝野は、放蕩息子であった次男を育成していった。

そんなとき、アカマ自動車のFAを務めていたアイアン・オックス・キャピタルの加地俊和芝野古屋たちの相談に乗るように求めてきた。

賀一華から送りつけられた、政界工作(贈賄)を行う東京支社長佐伯鶴男らの数々の不祥事の情報、醜聞は古屋を打ちのめし、古屋大内に辞任を仄めかす。秘かに賀一華と通じた太一郎もクーデターの準備を進めていた。

そんな中、古屋らに会った芝野は違法を認めず、佐伯の告訴を勧めるとともに、創業家を過度に慮らず、太一郎を切るよう進言する。会社は誰のものかを改めて語ったのだ。

古屋らは鷲津の言葉にも耳を傾け、太一郎を放逐し、佐伯を告発するとともに、防衛対策委員会を設置して、その委員長にニッポン・ルネッサンス機構の総裁飯島を就けた。鷲津もまた”白馬の騎士(ホワイト・ナイト)”に名乗りを上げた。

しかし、ここで買収に参加してきたのはCICではなく、鷲津の古巣であるKKLだった。総帥アルバート・クラリスが乗り出してきたのだ。

サブプライムローンの影響で経営不安となった自動車ビッグ・スリー(ユニオン・オート、プリマス、フォックス自動車)支援のための資金をCICが拠出するというのだ。アジア嫌い、共産主義嫌いのクラリスだったが、アメリカ政府に頼まれ、愛国心から仕方なく乗り出したのが実態だった。

クラリスの本心を斟酌した鷲津クラリスが妥協できる対案を出すことで、この危地を脱しようとしていた。

 

漸く、アラン・ウォードの件が解決しましたが、あんまり釈然とはしない死に様ですね。

今回はCICの脅威を背景にして書かれており、なかなか興味深い設定ではあるのですが、漠然とした不安感・脅威が中心で、どうも踏み込み不足といった感じでしょうか。

このシリーズ、いつもそうですが、長くするために、不要なキャラクターや不要なエピソードを盛り込みすぎかもしれません。

キャラクターでは、今回も存在感の乏しい(なぜ、登場する必要があったの?別に出てこなくても話には大きな影響はないのに?といったような)登場人物が多数ありました。

少なくとも今回のストーリーで芝野の登場する必要は全くなかったといっていいでしょう。殆どアカマ自動車と接点を持たないのですから・・・。

謝慶齢についてもそうですね。別にわざわざ、あそこまで行数を割いてまで描写する必要があったんでしょうか。結局、(本人が意識しないままに)アラン・ウォードの謎の鍵となっていたというだけで、本人に何ほどの意味もないのですから。

一方で掘り出し物だったキャラクターは大内成行でしょうか。非常に人間味があり、苦悩する一介のサラリーマンという感じで、芝野よりもいい味を出しているようにも感じます。

今回だけの登場というのはちょっと惜しいキャラクターといえるでしょう。

次回はもうちょっとスッキリすることを望みたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『アマルフィ』 真保裕一

Amalfi 2009年、80冊目。真保裕一『アマルフィ』

映画の原作、なんですか?

まぁ面白かったかな。

最初の方はテンポが悪いんですが、ラストは急展開で、なかなか楽しめましたね。

 

アテネでサミット妨害を図る過激な環境団体”ブルー・アース”の検挙に関与していた外交官黒田康作は外務次官片岡博嗣からローマに飛ぶよう指示を受ける。

テヴェレ川上流の日伊共同開発の調印式のためにローマを訪れる外務大臣川越亘の保護の任を受けたのだ。

外務省入省直後、中米に派遣された黒田だったが、現地大使の品性下劣さに嫌気がさし、大使と商社との癒着を調べ上げると、本省へ報告した。

しかし、本省高官のもみ消し工作により、大使は何事もなく、黒田の方が日本へ呼び戻された。その頃、邦人テロ対策室の設立に動いていた片岡黒田の経歴に目をつけ、黒田をテロ対策室のスペシャリストとして養成したのだ。

不正を暴く黒田は派遣される先々の大使館で警戒感をもたれ、白眼視された。

ローマでも大使菊原和夫と参事官西野利明黒田を隔離しようとする。

一方で、警備を進めようとする黒田は総務担当武藤暁彦(34)と警備担当の警察からの出向者、今村直也(42)に、警備・警戒の実状を尋ねるが、その対応は非常に甘いものだった。

間もなく、大使館に火炎瓶が投げ込まれる。イタリア国家警察警備局のカンピオ警視がこれに対応する。

続けて、日本人の誘拐事件が発生する。ローマを訪れた矢上紗江子(34)が同行した娘まどか(9)がホテルで行方不明になったのだ。迷子を疑う最中、紗江子の携帯に犯人から連絡が入る。

邦人保護担当領事として紗江子に応対していた黒田紗江子から電話を奪い取ると犯人の要求を聞く。犯人の要求は番号不揃いの使用済み紙幣で10万ユーロの身代金。

係わり合いを怖れた西野が示唆する、イタリアのマスコミの口の軽さを怖れた紗江子は警察に通報することなく、10万ユーロの要求を呑むことを決める。

外資系コックス銀行東京支店に勤める紗江子は会社からの融資を受けることに成功した。翌日、コックス銀行ローマ支店には、ロンドン本店のEU統括部長アンソニー・ハーディングが直々に駆けつけ、紗江子を励ました。

警察への通報を思いとどまった紗江子だったが、まどかの誘拐されたホテルが勝手に警察に通報したことから、イタリア国家警察ジョバンニ・バルトリーニ警部が紗江子のもとを訪ねてくる。誤報だと繰り返す黒田の言い分にバルトリーニは聞く耳を持たない。

大使館に場所を移し、事情聴取が行われる中、犯人から連絡が入る。

当初の予定通り、ユーロスターに乗れと。

事件への関与を避けようとする大使館だったが、邦人保護領事の本分として、黒田紗江子に付き添い、ユーロスターに乗るのだった。

更に犯人は、ナポリの先アマルフィへ行くことを指示する。アマルフィに着き、犯人の指示通り歩く紗江子は突然鞄を引っ手繰られてしまう。犯人による身代金の回収なのか、単なるスリなのかの判別がつかない中、秘かに見張っていた警察は引ったくり犯を追いかけてしまう。

犯人からは取引中止の連絡が入り、紗江子は絶望する。

絶望する紗江子を慰めたのは外交官補の安達香苗だった。まどかのために気を取り直した紗江子はローマに戻ると、秘かに調査を始めた。

大使館を避け、秘かに調査を続ける紗江子の態度に不審を感じた黒田紗江子のパソコンの履歴から、紗江子まどかが誘拐されたホテルの監視カメラの保守元を調べていることを突き止め、警備会社ミネルヴァ・セキュリティーへ向かった。しかし、応対する社員は守秘義務を楯に情報を開示しない。

ミネルヴァ・セキュリティーの日本人アシスタント光永鞠子からの好意と思われる社員名簿をもとに、関係者から地道に聞き取りをする二人は、ホスト・コンピュータのパスワードを盗み取ったとみられる怪しい人物マルセル・シモンに行き着く。しかし、犯人はマルセル・シモンではなかった。マルセル・シモンカルロ・オルシーニと名乗る男に名義を貸していたのだ。

カルロの住所チヴィタヴェッキアを訪ねた黒田紗江子は、連絡を受けて既に到着していた警察とともに、そこで夥しい血痕を確認する。誘拐事件に偽のカルロ・オルシーニが関与していたことを確信した黒田紗江子とともに、ミネルヴァ・セキュリティーに向かった。

ホスト・コンピュータに残された画像の分析の結果、誘拐時の映像データが上書きされていることが判明する。

バルトリーニらと復旧に立ち会っていた黒田だったが、事件の担当者として同席していた光永鞠子の様子がおかしいことに気付く。

突然、鞠子は隠し持った改造拳銃をかざすと、コンピュータ・ルームの非常ロックをかけた。更に、オペレータに携帯電話を渡すのだった。

オペラ座の回線をすべて切断しろ

携帯電話の声はオペラ座の警備を弱体化させるものだった。

この日、オペラ座ではサントーニ大統領夫妻が出席するコンサートが開催される予定だったのだ。

ジルヴァーゾ室長の機転で電源を全て切ると、照明もモニターも全てブラックアウトし、開いた扉からは警備員が押し寄せた。鞠子が取り押さえられるや、バルトリーニはオペラ座の警備強化を指示するのだった。

しかし、黒田は狡猾な犯人の思惑が更に深くあることを予想した。当日ローマを訪問中の要人は日本とロシアの外務大臣だった。川越外務大臣が狙われることを予想する黒田だったが、それも犯人たちのシナリオだった。

 

チェチェンとヴァチカンというなかなかタッチーな題材ではありますが、政治的な意図があるというよりも、盛り上げる舞台装置として使った感じです。

ストーリーはミネルヴァ・セキュリティーのホスト・コンピュータ停止からの展開が妙に速いのですが、それまでがちょっとつらいかもしれません。アマルフィでのひったくりはなかなか面白い趣向でしたが・・・。

一方で、キャラクター面では主人公の黒田の輪郭がわかりにくい。組織のなかで浮き上がってはいますが、その一方で、言っていることは真っ当で、それほど斜に構えているわけでもない。クセのあまりないキャラクターではあるのですが、その分面白みにも欠けるといえるかもしれません。

黒田とともに、娘の行方を追う矢上紗江子についても、あまり魅力的には映りません。事件を展開させる一つの歯車に過ぎず、どうも感情移入しにくいものがあります。

黒田のスタッフともいえる安達香苗については、今後に期待、という感じでしょうか。

そういう意味ではキャラクターで読ませる作品ではなく、ストーリーで読ませる作品といえるでしょう。

設定からして、何となく、続刊がありそうな、物語かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『パラドックス13』 東野圭吾

Paradox13 2009年、79冊目。東野圭吾『パラドックス13』

東野圭吾にしては珍しくSFですか。

ストーリーはまずまずなんですが、どうも根拠・設定が薄弱で最後まで違和感を持ってしまいました。

やっぱり、不思議な設定はどこかで腑に落ちないと作品の質を損なってしまいますね。

 

JAXA(宇宙航空研究開発機構)から首相に寄せられた情報は「P-13現象」と呼ばれる不可解な現象についてだった。

宇宙全体で3月13日13時13分13秒に時間が13秒だけ跳躍するというのだ。数学的に証明されるものの、何が起こるかわからないという現象を前に、パニックを防ぐという目的から緘口令が敷かれた。

ただし、この時間に(死亡)事件・事故を発生させた場合の不連続性を懸念した政府は警察などに、理由は伏せて同時間帯の警戒を呼びかけた。

警視庁捜査一課管理官久我誠哉は強盗殺人グループ検挙の指揮をとっていたが、そこへ同時間帯の捜査活動の自粛の要請連絡が入る。

しかし、先走った所轄の刑事でもある弟冬樹が逃げようとする犯人の車に飛びついた。慌てた誠哉は犯人確保の指示を出すが、狼狽した犯人の銃撃を受ける。

犯人の銃撃を受けて血を流す兄誠哉の姿を見て犯人ににじり寄る冬樹もまた銃撃を受けてしまう。

冬樹が気がつくと辺りには誰もおらず、事故った車やバイクが転々とするばかり。

誰も見当たらない街に不安を感じる冬樹はやがて一組の親子白木栄美子ミオに出会う。しかし、二人も冬樹と同様に事情が全くわからなかった。

銀座で巡りあったのは寿司屋で寿司を貪り食う太った男新藤太一

ラジオの呼びかけで他に生存者がいることを知った冬樹は三人を寿司屋に残すと、様子を探りに、呼びかけのあった「東京駅八重洲地下中央口」に向かった。

そこには兄誠哉のほか、大手建設会社のサラリーマン小峰義之、同専務戸田正勝。女子高生中原明日香、老夫婦山西繁雄春子。看護師富田菜々美の7人がいた。

ここに銀座の3人が合流し、合計11人となった。

誠哉をリーダーとして進む一行は赤ん坊の泣き声を聞く。マンションの一室に一人残された赤ん坊は勇人という名付けられていた。

相次ぐ地震により建物は倒壊し、道路は裂け、一行を取り巻く環境は刻一刻と厳しくなっていった。時間の経過とともに生鮮食料品は腐り、食べ物の補給もままならなくなっていく。

学校の体育館に避難する一行を残し、探索に出た誠哉は首相官邸で「P-13現象」の真実に辿り着いたが、これを他の人びとに伝えることはできなかった。

相対的に安全な首相官邸へ避難する途中、山西春子が転倒し、意識不明に陥る。病院もなく回復も見込めない春子の姿に、繁雄は全体利益のために春子の安楽死を選択する。

誠哉もまた新たな社会のルールの策定の必要を感じるのだった。

官邸に向かう途中で避難したホテルで、インフルエンザに苦しむヤクザ河瀬を見つけた一行は、仲間に加えるかどうかで議論になる。

加えて、河瀬のインフルエンザは山西繁雄にも感染していった。

山西を助けるべく、タミフルを求めて病院に向かった冬樹明日香だったが、途中で明日香もまた発症してしまう。明日香を抱えて立ち往生となった冬樹を助けたのは河瀬だった。

山西の死後、出発した一行は浸水した東京の街を津波を避けながら彷徨う。

総理官邸を目前に太一が地面の陥没に吸い込まれ、結局、官邸に辿り着いたのは13人中10人になっていた。

官邸について、初めて誠哉は一行に「P-13現象」について説明する。

13時13分13秒に死亡した動物は連続性が絶たれたために、このパラドックス解消の世界に残ったのだ。

元の世界に戻れるかもしれないと考えていた者たちにとって、ショックは非常に大きかった。自暴自棄に陥る人びとを前に、誠哉はこの世界で新たな社会を築くことを語るが、同調するものはなかなか現れなかった。

「P-13現象」の資料から36日後(4月18日13時13分13秒)に再度、「P-13現象」が起こることを知った小峰河瀬は、その時刻に再度死ぬことによって、元の世界に戻ることを夢見る。

正確な時間を知るために、電波時計を集める彼らだったが、どれも微妙にずれており、河瀬はその平均値を採用しようと提案する。

一方で、東京の浸水は進み、首相官邸も安全ではなくなってくる。誠哉は新たな土地を目指して出発しようと呼びかけるが、結局同調したのは白木栄美子ミオ富田菜々美勇人の4人だった。

約束の時間まで、あと2日。

誠哉たちが後にした官邸を強烈な地震が襲う。轟音とともに倒壊した官邸に閉じ込められた冬樹明日香は、瓦礫の中でそのときを待った。

しかし、地震による地盤沈下で上がった水が二人を沈めるのはそれよりも早い・・・。

 

東野圭吾によるSFという意外感だけで何とか読み終えましたが、やはり最後まで、どうも釈然としないままに終わってしまいました。

そもそもの設定自体が説明不足で、たった13人なのか、13人も、というべきなのか、「P-13現象」の起こった、その瞬間(この瞬間っていうのも、どうも微妙ですが・・・)に同時に亡くなったというのは、どうも納得感に乏しい。

突き詰めれば、10の何乗分の1かもわからない天文学的な極少の確率に合致するケースがそうそうあるわけでなし、東京の千代田区、中央区といった狭い範囲にそんな偶然が重なるとも思いにくい。

誠哉冬樹が同時にというのも何だし、同乗していたといえ小峰戸田ですら、死亡するタイミングは必ずしも同じとはいえないでしょう。

そう考え出すと、どうも基盤が脆弱で、ストーリー自体の面白さも半減です。

結末もよくわからなかったですね。

元の世界に戻ったのか、誠哉が語ったようにパラレルワールドへの復帰となったのか、これまた釈然としません。

ただ、そもそも今回の現象で取り上げられているような、極めて刹那的な意味で同時に死亡するという可能性は殆どないことを考えれば、この結末もお粗末ということになるのでしょうか。

ちょっと失敗作かもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『神去なあなあ日常』 三浦しをん

Naa2 2009年、78冊目。三浦しをん『神去なあなあ日常』

三重県の田舎での、林業のある生活。

自然と、神と、人が近い生活。

横浜の実家から追い出された主人公の、そんな生活が綴られます。

 

高校卒業後、フリーターのつもりの平野勇気だったが、卒業式の日、担任の熊谷、そして母親から就職が決まったと告げられる。

国が助成金を出している『緑の雇用』制度で三重県の神去村への派遣が決まったのだ。

そのまま追い出されるように、新横浜駅から神去村へ着いた勇気を山間の駅で迎えたのはヨキ飯田予喜)という男。

森林組合の事務所で20日間の研修を受けた勇気は、ヨキに村の最奥部の「神去」地区にある中村林業株式会社に連れていかれ、”おやかた”中村清一の率いる班に組み入れられた。

メンバーは、清一ヨキ、50代の田辺巌、74歳だという矍鑠たる老人小山三郎勇気を加えて5人。

勇気ヨキの家で生活することになる。ヨキは妻みきと祖母繁ばあちゃんとの三人暮らしだった。

何もない生活と、厳しい林業の実態に逃げ出そうとする勇気だったが、慣れるにつれて、その生活が大事なものになってくる。

清一のもとへ時折訪れる妻祐子の妹直紀に憧れる勇気だったが、直紀にその気はなかった。直紀もまた清一に憧れていたのだ。

清一の息子山太の神隠し事件、花粉症発症、神去桜の花見、夏祭り、直紀への告白、と山の自然、山の神々との触れ合いのなかで、いくつかの経験を経て、秋。

”オオヤマヅミさん”の祭りを迎える。

由緒正しい祭りに際して、余所者の勇気を参加させないという雰囲気もあった。しかし、山火事に立ち向かう勇気の姿は村人をして勇気の参加を認めさせた。

祭りの当日。深夜2時にホラ貝の音が村中に響き渡った。

 

おそらくモデルとなっている村は三重県の一志郡美杉村(現在は津市に編入)。

松阪から名松線に乗った終点にある奈良県との県境の村です。

ただし、物語を面白くするためか、かなり大げさに書かれている部分はありますね。方言もどうなんでしょう。ちょっと不自然な気がしないではありません。あのあたりでも、こんな方言はなさそうな・・・。

しかし、こういっちゃなんですが、珍しい土地をモデルにしていますね。何か地縁でもあるんでしょうか。

話自体は、特に何があるというわけではありませんが、現在に残された奥深い村の生活、林業の実態を疑似体験するような話で、ほのぼのとした雰囲気を味わいつつ、知的好奇心を満足させるものになっています。

(横浜で育った少年が、そんなにすぐに田舎の生活に馴染んでしまうものか、という違和感がないではないものの、)主人公も変に優等生でなく、等身大に描かれており、非常に楽しく読めるものになっています。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ガール・ミーツ・ガール』 誉田哲也

Girlmeets 2009年、77冊目。誉田哲也『ガール・ミーツ・ガール』

『疾風ガール』の続編。

面白かったですね。前作と比べると、ミステリ的な要素は全くありませんが、純粋に青春小説となっています。

 

宮原祐司の誘いを受け、フェイス・プロモーションに属することとなった柏木夏美は早速デビュー作『Thanks!』の録音を急がされる。専務である梶尾恒晴のツテでテレビCM出演が決まったのだ。

旭ビバレッジの『アミノスウェット』のCMに夏美が出演し、そのバックに『Thanks!』が流れる予定。

しかし、フェイスプロの音楽製作全般を担当することとなった専属プロデューサー石野克己の意見は夏美とは相容れなかった。険悪になる二人を取り持つように、梶尾の機転で有名なスタジオ系ドラマー池上”ゴンタ”淳一を参加させることで、無事録音は終了したが、夏美はソロとしての売り出しに違和感を覚え、バンドを作ることを宣言した。

そんなとき、フェイスプロにやってきたのは、映画監督の島崎潤一、妻の女優香川よう子、娘島崎ルイである。

所属事務所『アスカ企画』取締役でもある恋人秋吉ケンジとの破局から、事務所のバックアップを失ったルイの苦境を見かねた両親は、かつて香川よう子が属していたフェイスプロに相談に来たのだった。ルイも『アミノスウェット』のCMを見て夏美が気に入り、自身のバックバンドのギタリストに夏美を指名してきたのだ。

ルイのことは昔から気に入らない夏美だったが、梶尾に400万円の借金と引き換えに、この申し出を受けることとした。

夏美のもとに6年前に失踪した父親春彦から電話があったのだ。街金から借金し、生活に困窮する父親を見かねた夏美は、ルイとの共演の条件として、梶尾に借金を申し込んだのだ。

メンバーには夏美に希望があった。広告代理店白広堂の藤巻に連れられていった『ブラック・ヴェルヴェット』で偶然聴いた井場”GAKU”岳彦の演奏だった。

10年前にデビューした後、すぐに引退してしまったガクをピアノ(キーボード)に迎えたいと考えた夏美は、ルイとともに早速、御茶ノ水の『井場楽器』を訪ねる。

しかし、ガクは二人の要請に取り合わないばかりか、二人の音楽を非難する。非難の言葉に納得のいかない二人は『井場楽器』でバイトを始める。

ルイ夏美という全く異なる個性は食い違うことも多々あったが、バイトを続ける中で少しずつ馴染んでいった。また、ガクの仕事を手伝い、楽器のレンタルを通じて多くの人々に接する中で多くのことを学んでいった。

一方、祐司夏美に任せられたバンドのメンバー集めが遅々として進まない。

『アスカ企画』と契約を結ぶ『エクセル・レコード』の妨害工作で、池上”ゴンタ”淳一も渋るのだった。

大晦日に急遽、初のTV生出演が決定したルイだったが、結局ガクの協力を得ることもできず、夏美と二人で臨む。

 

前作では名前だけだった島崎ルイが登場しますが、祐司の感想から想像していた姿と対比するとちょっと期待はずれかもしれません。

勿論、夏美は相変わらずで非常に魅力的ですが。

その他、夏美の父親が登場するのですが、どうも全くのダメ親父っぷりで、なかなか感想が持ちにくいキャラクターです。今回のラストも単に恵まれただけという感じで、今後も夏美の周囲を引っ掻き回す予感はたっぷりです。

最後のコンサートではキーボード(ガク)、ベース(ジン)、ドラム(ゴンタ)も揃って、漸く夏美の念願のバンドも出来上がり。

是非、更なる続編を期待したいところです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『用もないのに』 奥田英朗

Youmo 2009年、76冊目。奥田英朗『用もないのに』

奥田英朗のエッセイ。

アテネ五輪のときの野球観戦記『泳いで帰れ』に続く、主として野球や音楽をテーマ(?)にしたエッセイ集です。

毒舌というか、とにかく思ったことを忌憚なく、かつ皮肉もこめながら綴られる内容は、思わずニヤリとします。

北京オリンピックの野球観戦記はまぁ最近の話(とは言え、WBCが終わった後だと、もはや陳腐化してしまっているかもしれません)ですが、古いものだと2004年のエッセイもあり、ちょっと時代の流れを感じさせます。

 

【野球篇】

再び、泳いで帰れ(「スポーツ・グラフィック ナンバー」2008年9月18日号、2008年10月号)

 北京オリンピックにおける野球”星野ジャパン”観戦記 & 北京の街の活写

アット・ニューヨーク~または小説家は如何にして心配するのをやめて野球とジャズを愛するようになったか(「野生時代」2004年1月号)

 気分転換(?)にと誘われた初めてのニューヨークでヤンキースの試合を観戦。

松坂にも勝っちゃいました~楽天イーグルス地元開幕戦寒中観戦記(「オール讀物」2005年5月号)

 楽天イーグルス地元開幕戦における地元の熱気を感じつつ、寒中で観戦を続けたが・・・。

【遠足篇】

おやじフジロックに行く。しかも雨・・・・・・。(「小説すばる」2005年10月号)

 思い腰をあげ、念願だったフジロックフェスティバル(第9回)に参戦

灼熱の「愛知万博」 駆け込み行列ルポ(「週刊文春」2005年9月8日号)

 長蛇の列に、何か楽しいことがあるんじゃないかと、猜疑心から向かった先は長久手。

世界一ジェットコースター「ええじゃないか」絶叫体験記(「週刊文春」2006年10月19日号)

 年をとるごとに不可能となるであろうジェットコースター体験に、富士急ハイランドの回転数世界一の「ええじゃないか」を選んだが・・・。

四国お遍路 歩き旅(「オール讀物」2009年1月号)

 讃岐うどんの食べ歩きをエサに誘い出されたが・・・。

 

気取らず、歯に衣着せぬというか、思い切った発言で非常に心地良い。

また、年相応というか、年代が近いこともあって、”わかる”部分もあり、非常に楽しめました。

「ええじゃないか」は喜劇のような展開で、純粋に楽しめます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『シャングリ・ラ』 池上永一

Shangrila 2009年、75冊目。池上永一『シャングリ・ラ』

とにかく、このボリュームに脱帽。

非常に読み応えのある作品。情報量が多すぎて、遅々としてページが進まない。

ただ、前半の進展のなさに挫折してしまいそうになるが、そこで止めたら勿体無い。最後のスピード感を体験するためにも、是非、最初は辛抱強く読みすすめるべき。

 

環境悪化が進む中、世界経済は従来の資本主義から炭素経済へ移行していた。国連監視のもと、炭素排出の多い国には炭素税と称する関税が付され、国家経済の死命を制するようになっていた。

50年前。炭素経済への移行の中、東京都は山手線の中心部に人工地盤を重ねた空中積層都市アトラスの構築を始め、地上の森林化計画を進めた。

しかし、東京住民の全てがアトラスへ移住できたわけではなかった。アトラスへ移転するためには高額のアトラス国債を購入するか、アトラスくじと呼ばれる宝くじに当選するしかなかった。

多くの住民は住む土地を追われ、森林の中で自身たちのコロニーを作り、アトラスに対抗する反政府ゲリラ「メタル・エイジ」を構成し、炭素排出を繰り返すなど、政府への対抗姿勢を示していた。

メタル・エイジを率いる老婆北条凪子の跡を継ぎ、本拠のコロニー”ドゥオモ”で総統の職に就いたのは凪子の養子北条國子。2年前、政府の牽制に会い、通う名門高校で逮捕され、少年院暮らしを続けてきた少女だった。

國子を実質的に育ててきたのは、かつて六本木でニューハーフパブ『熱帯魚』を営んでいたニューハーフ、モモコ

國子の出所を祝うモモコモモコのニューハーフ仲間ミーコだったが、再会も束の間、ミーコがアトラスくじに当選し、別れのときが来る。別れを惜しみつつも、ミーコはアトラスへ移住していった。

アトラス第6層「新迎賓館」の主、美邦はアトラス公社の庇護のもと多くの家臣に傅かれていた。美邦に仕える家臣らには特権が与えられていた。膠原病のため、日光を浴びることのできない美邦を支える女医博士小夜子はアトラスにおける身分”アトラスランク”を自由に上下させる権限をも与えられていた。

美邦は、美邦に嘘をつくものに死を授けるという特殊能力の持ち主であり、特権と引き換えに、その家臣は緊張を強いられる毎日だった。

アトラスへ移住したミーコは偶然、美邦と出会い、その家臣に取り立てられる。嘘をつかないミーコ美邦の信頼を得るようになっていった。

炭素経済は、実際の炭素排出とは別の概念である「経済炭素」の増減が炭素税と直結していたが、その歪みにビジネスチャンスを見た若者らがあった。

飛び級の末、通信教育でハーバードのMBAを取得したアトラスの住人石田香凛はハーバードで知り合った若きカーボニストたちと、香凛の提唱するビジネスモデルの実証に入る。

香凛は海抜ゼロメートル地帯であるタックスヘイブン、マーシャル諸島の一つに『石田ファイナンス』を設立すると、最高水準のコンピュータ(プログラム)『メデューサ』を設置した。

『メデューサ』は各地の炭素税を決定する”炭素指数”を自由に操作することが可能だった。国家の疲弊にあえぐ高炭素債務国は『メデューサ』の前にひれ伏し、香凛らに多額のマネーをもたらすのだった。

しかし、『石田ファイナンス』と同様のビジネスを行う別勢力が現れた。香凛らの仲間の一人であるはずのニューヨーク在住のセルゲイ・タルシャンが、メデューサをコピーしたプログラムを、モルジブに設置したのだ。タルシャンの真意をつかみかねる香凛だったが、これを防戦するよう動く。

また、炭素市場の混乱を警戒した日本政府は、最高性能のコンピュータの出所から、所在地であるモルジブを見つけ出すと、新たに開発された擬態装甲板で作られた空母ペルセウスをモルジブに派遣し、メデューサのコピーを消滅させる。

この人間による対抗策に学んだメデューサは気候を操作し、自身を防衛するためマーシャル諸島に台風を設置すると、攻撃を寄せ付けないようにするのだった。

メデューサの存在を知った日本政府はメデューサへの攻撃を決行するが、台風の前に徹底を余儀なくされる。加えて、英国軍艦に欺瞞していたペルセウスはメデューサの企みにより、当の英国軍艦と遭遇させられ、相打ちの末、沈められてしまう。これに乗り込んでいた乗員が全滅するなかで、乗艦していた軍人草薙国仁だけが、なぜか助けられていた。

アトラス計画とは地上と天空を循環的に繋ぐ計画だった。しかしながら、超高層建築に伴う固有振動により安定しない構造体を鎮めるためには、唯一の”帝”を選定することが不可欠だった。

アトラスの身分制度の実態は、帝への即位へのランク付けであった。現在”帝”候補とされていたアトラスランク”AAA”の3人こそ國子(太陽)、美邦(月)、草薙(大地)のだった。

月よ、天へ昇り、闇夜を照らせ

アトラスを統べるコンピューター”ゼウス”からの声(暗号鍵)を受け取った美邦だったが、既に國子もまた”ゼウス”からの声を受け取っており、即位の決定には至らない。美邦への決定に至らない”ゼウス”に焦れた小夜子は真相を探るべく、”ゼウス”にハッキングをしかけるが、逮捕されてしまう。

美邦の懇請に従って小夜子の救出を請け負ったミーコだったが、小夜子を救い出したものの、自らが捕まってしまう。加えて、アトラスの構造を呪術的に支える仕組みの源でもある巫女水蛭子に憑依され、身体を奪われてしまう。

森に侵食され”ドゥオモ”での将来が危ぶまれる中、國子を総統に戴くメタル・エイジはアトラス第5層の政府施設の制圧を狙った起死回生の攻撃を行う。空からの侵入を試みた國子だったが、アトラスの対空防御は堅く、撤退を余儀なくされる。しかし、そこを突然地上から激しい火線が襲う。

このどさくさで何とか第5層に辿り着いた國子だったが、火線の正体を知り、慄然とする。これまでも散発的に繰り返される政府とゲリラの交戦の中で見られた正体不明の攻撃の源は新種の植物だったのだ。熱源に対して、高速で種を打ち込む植物は構造材グラファイトをも侵食していた。國子は政府との争い以上に、新種植物”ダイダロス”の危険性を感じ、政府に休戦を訴える。

一方、メデューサによって”ゼウス”のハッキングを受けたアトラス公社は大株主セルゲイ・タルシャンの指示のもと、”ゼウス”の初期化を行うが、ゼウスの初期化に伴い、国防力は著しく減退。政府は首相梅宮綾子の指示のもと国防省の幹部を更迭すると、國子との休戦交渉を行う。

国際司法裁判所の仲裁人として選任されたのはタルシャンだった。タルシャンは第5層をメタル・エイジら難民に明け渡すようにとの裁定を下すのだった。

人間同士の抗争の後、メタル・エイジと草薙の指揮する政府軍は協力して、森林を焼き払い、ここに50年にわたるメタル・エイジの念願が成る。

アトラスへの攻撃の最中で養母凪子がアトラス公社の初代総裁であることを知った國子は、その裏切りに憤り、凪子を”ドゥオモ”から追放する。追放された凪子はアトラスのタルシャンと合流する。もともと「アトラス計画」は凪子タルシャンが50年前に計画したものだったのだ。

美邦を”帝”の候補者たる皇太子に擁立するよう奔走する小夜子の前に現れたのは、元総理大臣鳴瀬慶一郎の孫涼子。学生時代から小夜子の前に現れ、小夜子を虐げる涼子は万能の天才だった。涼子小夜子を虐げることに喜びを感じていたのだ。

涼子小夜子の邪魔をする過程で、アトラス計画の真相を知ると、自身が帝となるべく動き始めるのだった。

アトラス計画の真相を知ることになった國子草薙だったが、ともに”帝”への関心は薄かった。しかし、難民を救うべく國子は即位を目指し、アトラス公社へ向かった。

また、美邦のために小夜子が、そして自身が即位するという夢をみて涼子も第四の神器”天の沼矛”の争奪戦が始まる。

一旦は國子の手により破壊されたメデューサだったが、一部残った機能を使って国連にハッキングすると、国連管理となっていた核兵器を東京などの主要都市に照準を合わせた。

一方、帝即位を間近に控え、アトラス計画の完遂を確信した凪子は、ゼウスに宿らせた擬似人格である神武天皇の排除を目論むが、既にそれを見切っていたゼウス(神武天皇)の逆転にあい、タルシャンとともに幽閉されてしまう。

木乃伊を復活させたゼウス(神武天皇)は皇太子として天の沼矛を携えた美邦を排除しようとする。そこへ駆けつけたのは、核兵器の発射を止めるべく、急行した國子だった。

 

スピード感が前半と後半で全く違います。

物語の背景説明に膨大な情報量を費やす前半は、物語の展開も緩やかで、新世界案内といった感じです。

一方で、後半は次から次へとイベントは起こるは、秘密が次々と明かされていくは、で、とにかくめまぐるしい。

キャラクターでいえば、モモコ武彦などのように前半登場のキャラクターはあくまで前半だけのキャラクターで、後半になるとどうも失速してしまうような印象です。

また、長丁場ということもあってか、少しずつキャラクターの描写が変わってきます。特に小夜子がそうですね。前半では全くの敵役というか、悪の権化的な扱いですが、後半は母性の強い女性の印象が極めて強くなっています。これは後半から登場する涼子の毒々しいまでの悪役ぶりとの対比を強調するためなのかもしれませんが・・・。

なぜ神武天皇が女性?とか、いろいろ不思議な点もありましたが、一番不思議に思ったのは美邦の特殊能力。あれって、何なんでしょう。最後まで特に解説もなく、どうもよくわかりませんでした。

もうひとつ、理解できなかったのは、メデューサが行う炭素を減らす仕組み。ちゃんと説明はされているんですが、どうも理解できません。

そうだ。あと、もうひとつ。メデューサが意識していたのは、仮想海面水位であるはずなのに、ラストで堤防の閘門を開けたところが、どうも釈然としませんでした。

どうもこれだけ長いと、いろいろわからないところが出てくるものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『少年少女飛行倶楽部』 加納朋子

Syonensyojo 2009年、74冊目。加納朋子『少年少女飛行倶楽部』

うーん、ちょっとタイトル負けの内容。

「飛行クラブ」を巡る青春小説なんですが、どうも中身が薄い。

中学に入学した主人公が親友に誘われるようにして、正体不明の「飛行クラブ」に属することになり、(不平たらたら)無気力な部員らを引っ張りながら、熱気球による飛行を成し遂げるまでの話です。

 

中学1年の佐田海月(くーちゃん)は幼なじみの大森樹絵里(ジュジュ)にひきづられるように、謎のクラブ「飛行クラブ」に入部することになる。

”空を飛ぶことを目的とする”という、不可思議なクラブはまだ部としては認定されていなかった。

なにしろ、部員といえば、とにかく偉そうで何もしない部長斎藤神(カミサマ)と、斎藤の近所の同級生中村海星(野球部と兼部)の二人だけ。

5人揃わないと部にならないため、内申書のため仕方なく海月は部員探しに奔走する。

見つけたのは、入学直前に自殺未遂を起こしたと噂される少女仲居朋(るなるな)。

高所平気症のは変人の”カミサマ”部長にも臆せず、入部に同意する。

また、野球嫌いの野球部1年餅田球児中村は飛行クラブへ誘う。

こうして部員は5人揃ったが、顧問となった立木信長は全くやるきがない。新年度に入ってからの部活動に予算はつかず、海月たちは資金もなしに部活動を始めることとなる。

しかし、金もなく、部活動の方針もたたない中、部長の斎藤は不平をならすだけで、自身では何をするでもない。

見かねた海月は子ども向けに実施されるトランポリン教室に参加させるなど、斎藤にかわって部を引っ張る。

職場体験で派遣された先(スーパー星川)で熱気球を発見した海月は、店主星川に借用を願い出る。何とか借り受けることに成功した海月だったが、飛ばすためには球皮の修繕が必要だった。

アルバイト禁止の彼らは夏休みを利用しての古本回収や小動物の預かり等で、小金を貯めると、気球の修理にあてるのだった。

人のネガティブ情報を好んで探し回り吹聴する問題児戸倉良子(イライザ)も入部するなど、問題山積の飛行部だったが、文化祭でのテイク・オフを目指す海月だった。

しかし、顧問の立木は熱気球の話を聞くと目を剥き、猛反対する。何かあった際に立木の責任問題になるからだ。これに猛烈に反論する海月の剣幕に慄き、良子の囁く脅迫めいた言葉に、一旦は引き下がった立木だったが、星川に中止を要請することは容易に想像できた。

先手を打って星川に談判する海月たちのもとに、立木が現れた。立木の言葉にうなずく星川だったが・・・。

 

「飛行クラブ」という正体不明のクラブ名は『屋上ミサイル』の屋上部を彷彿とさせますが、どうもうまく調理できていない印象です。

屋上部と比較すると、やはり「飛行」ということで(作品中では範疇が定まらないことが連呼されていますが)それなりに活動が限定されてしまいますし、どうも活動へ至る道のりがどうも迂遠です。

キャラクターもどうもぱっとしない。主人公の海月こそ描写は細やかですが、変人の部長は単に極度に内向的な性格にしか見えず、その魅力がどうも伝わりません。極度のシスコンで、どうもひいてしまうような設定です。

友人の樹絵里にしても、(樹絵里はちょっとシリアスな部分もありますが)単なる変人の域を出ておらず、なかなかまとまりがありません。

他のキャラクターについても同様で、どうも薄っぺらい感じは否めません。

ストーリーが秀逸かといえば、必ずしもそうとはいえず、ラストも無理矢理盛り上げようという意図が見え見えで、ちょっと興を削がれてしまいます。だからといって、何も事件もなしに終わるには、ちょっとツライ展開ではありますが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『バイアウト (上・下)』 真山仁

Buyout1Buyout2 2009年、72冊目・73冊目。真山仁『バイアウト (上・下)』

『ハゲタカ』の続刊。

今回は鐘紡の買収劇をモデルにした話と、海外有力投資ファンドとの攻防を巡る話の二本立て。

隠蔽されていた三葉銀行、政財界の不正を暴いたことで日本にいられなくなった鷲津が、日本を離れて放浪するところから始まります。

 

1年の海外放浪を追え帰国した鷲津を迎えたのは、鷲津の後任社長であるアラン・ウォードの死の知らせだった。

アランの死には不審な点が多く、自身の身代わりとなって殺されたのではないかと気に病む鷲津だった。

アランの後任としてアメリカから送り込まれたピーター・マイスキーは日本の流儀を無視し、次々と国内の布石を潰していっていた。

その余波は松平貴子のミカドホテルをも襲った。鷲津の仲介で、ミカドホテルの株式の75%を有するふるさとファンドが、ホライズン・キャピタルとの繋がりを無視し、ゴールドバーグ・コールズにミカド株を売却してしまったのだ。

日本へ戻った鷲津アランが手がけていた鈴紡の企業再生案件に乗り出す。

UTB銀行頭取となっていた飯島は、アルコール中毒で入院中の妻亜希子のもとに通う芝野を呼びつけると、鈴紡の名誉顧問岩田春雄に引き合わせると、鈴紡のCRO(最高事業再構築責任者)に就任させるのだった。

不良債権の処理のため、鈴紡の化粧品部門を月華に売却しようと画策するUTBコーポレート銀行だったが、鈴紡の中では意見が錯綜していた。月華への売却を支持するメインバンクUTB出身者らに対し、社長らによるMBOを狙うアイアン・オックス陣営、そして化粧品事業担当役員らによるMBOを狙うホライズン・キャピタル陣営である。

月華買収案が優位となるなかではあったが、組合・販売店会の支援を受けたホライズン勢が盛り返す。鷲津に対してはある種の思いを抱く芝野ではあったが、CROの責務として、UTBの影を排するべく、化粧品事業をホライズンに委ねるとともに、残った部分の民事再生法適用を画策する。

しかし、鈴紡の破綻はUTB破綻の引き金にもなりかねないと考えたUTBは、第2の産業蘇生機構であるニッポン・ルネッサンス機構(NRO)への救済に持ち込んでしまう。

歯噛みをする鷲津芝野だったが、如何ともすることはできなかった。

曙電機は老舗の総合電機メーカーではあったが、業績悪化のなかリストラクチャリングが急務。芝野もまたCROとして招聘され、再生に意欲的な諸星恒平社長のもと、再生作業に向かおうとする矢先、ゴールドバーグ・コールズよりベア・ハッグを仕掛けられる。

GCの背後には政府にもパイプを持つ世界最大の軍産ファンド、プラザ・グループの姿があった。曙電機の持つミリ波の技術を欲したプラザは、曙電機の特機部を買収しようとしたのだ。

悩んだ末、芝野鷲津に相談する。

鷲津芝野とともにNROの総裁に就いていた飯島を脅迫にも似た話法で、NROに特機部門を買い上げさせることに成功する。勿論、こっそりと商業価値の高いミリ波の技術などを他部に移して・・・。

煮え湯を飲まされたプラザ・グループが黙っているはずもない。KKLに圧力をかけると、鷲津をホライズン・キャピタルから解雇する。また、病院から一時自宅に戻っていた芝野の妻亜希子に酒を送りつけ、アルコール中毒の再発へ誘った。

諸星を叱咤激励しつつ、曙電機の再生に向けて取り組む芝野だったが、曙電機のテレビ事業を欲していたシャイン社長滝本誠一郎と組み、再度プラザ・グループは曙電機のTOBを狙う。

一方、曙電機買収失敗の煽りを食らってGCを解雇されたリン・ハットフォード鷲津を慕う人びととともに、鷲津に再戦を促した。鷲津を代表として、新たに組成されたファンド、「サムライ・キャピタル」もまた、曙電機のTOBを狙うのだった。

資金力、政治力に優れたプラザの前に窮地に陥る曙電機を前に、芝野鷲津は手を組み、これに立ち向かうのだった。

 

今回、ホライズン・キャピタル会長という肩書きを捨てることで、「ハゲタカ」と巷間揶揄される強欲外資の枠から外れることで、何となく行動と肩書きが近づいた感のある鷲津です。そのわりには、現在は改題されて『ハゲタカ2』というそうですが・・・。

結局のところラストは鷲津芝野の共闘にも近い形になっており、鷲津がマスコミに触れたように、「日本対アメリカ(外資)」というわかりやすい構造になって、読みやすくなっています。

しかし、あまりにも単純化されてしまって、逆に物語の厚みが薄くなってしまったような気がしてなりません。

キャラクターでは松平貴子がまたしても登場ですが、前作に比して更に印象が薄く、そもそも出て来る意味が不明。結局役に立ったのは、ラストでアランと付き合っていた女性の素性を鷲津に明かしたことくらいでしょうか。

アランの謎の死から始まった物語ですが、結局のところ最後まで真相は謎のまま終わってしまいました。次巻以降に期待です。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ZOKURANGER』 森博嗣

Zokuranger 2009年、71冊目。森博嗣『ZOKURANGER』

Zシリーズの3巻目。毎回思うんですが、これ何なんでしょう。面白さがよくわからないんですが・・・。

人物名、性格設定は同じなんですが、毎回環境が異なっていて・・・。

前作までは善と悪という二陣営の抗争?とでもいうような外枠があったんですが、今回は戦隊ヒーローものをモデルとした、不可思議な変人サークルといったノリですね。

 

Part1 Yellow disloyality 第1話「黄色の背信」

10年以上勤めた研究所を辞め、大学の准教授となったロミ・品川は研究環境改善委員会の委員に任命される。

委員長木曽川大安の下、揖斐純弥准教授、バーブ・斉藤准教授、ケン・十河助教、永良野乃助教で構成される委員会。初めて参加した品川には、なぜか黄色いヘルメットとユニフォームの配給があった。

何に使うかわからないユニフォームに戸惑う品川だったが・・・。

 

Part2 Pink excitation 第2話「桃色の励起」

男嫌いの永良野乃木曽川の指示のもと、ユニフォームを着せるため品川のもとに向かった。

 

Part3 Blue idleness 第3話「青色の有閑」

RPGがマイブームのケン・十河の頭のなかでは永良野乃がパートナーであることは決定事項。木曽川の指示と称して、ユニフォーム姿の写真をとるよう野乃を誘い出すのだが・・・。

 

Part4 Green persona 第4話「緑色の位格」

バーブ・斉藤は未来を予測することができた。

新しい司書の庄内承子はそれを信じるが、品川は鼻先で嗤う。

 

Part5 Red investigation 第5話「赤色の研究」

選ばれた5人に何か理由があるのではないかと考えた品川揖斐に問い質す。

特殊能力を問われた揖斐は、おもむろにテーブルに手をかざすと、手も触れずにテーブルを持ち上げるのだった。

 

いつか面白さがわかると信じてついてきたシリーズですが、そろそろ限界かもしれません。

各キャラクターの内心の突飛さや非常識さが、面白さの源泉かもしれませんが、ちょっと逝ってしまっているので、なかなかツライですね。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『スイッチを押すとき』 山田悠介

Switch 2009年、70冊目。山田悠介『スイッチを押すとき』

先日読んだ『モニタールーム』に先んじる話です。

またもや、山田悠介らしい、とにかく不思議な設定です。

なぜ、自殺する少年たちの心理を探るために、YSCプロジェクトが実施されるのか、全く説明がなく、納得感に乏しい。

そもそも、世論で多少の批判があるというレベルの話ではなく、こんなプロジェクトが公の場で法案として通過するはずもない。人権無視で国際社会から批判を浴びるのは必至の内容で、とにかく現実感に乏しい。『リアル鬼ごっこ』のように独裁社会であって、はじめて現実味を帯びる設定なんでしょう。

いかに奇想天外な話にしようという場合でも、やはり一定の納得感は不可欠ではないでしょうか。

 

2008年、若年齢層の自殺者増加を受けて、政府は通称YSC(Youth Suicide Control)と呼ばれる青少年自殺抑制プロジェクトを立ち上げた。その内容は、青少年の深層心理解明のため、全国から無作為に選出された子どもを高ストレス環境におき、その精神構造を解明するというもの。無作為抽出された子どもは5歳で心臓に手術を施され、10歳で収容される。子どもらには真ん中に赤いスイッチのついた機械が渡される。スイッチを押せば、それで心臓は停止する・・・。

2030年。監視員南洋平(27)は本部長堺信秀から横浜の施設に異動することを命じられる。

横浜の施設は特殊だった。本来、収容してからわずかの期間に死に絶えてしまうはずの収容者であったが、ここでは既に収容から7年を経過した者が4人残っていた。

高宮真沙美新庄亮太小暮君明池田了の4人。

真沙美を除く3人はそれぞれ、収容前の約束を果たすため、生きる希望を捨てずにやってきた。真沙美もまた他の3人に励まされるように、7年間生き抜いてきた。

車椅子の君明に親身に接するの姿に、徐々に心を許すようになった池田了は自身と同じく平塚センターに収容されている矢田遥への伝言をに言付ける。

4人に同情するは平塚に赴き、の消息を探るとともに、センターの監視員に宛ての手紙を託すのだった。

と同時期に平塚に収容されたもまた生き続けていた。しかし、がそれを知り安心したのも束の間、母親の死を契機にはスイッチを押してしまう。それを知ったもまたスイッチを押す。

自身を責めるは残りの3人を救い出すことを決意する。

警備員らを排除し、3人を連れて逃げ出したを警察らは執拗に追い詰める。

一時、人里を離れて潜伏したものの、一向に捜査の手は緩まない。

約束を果たしたいと考える君明亮太は危険を顧みず、家族のもとへ向かうのだった。

願いは叶ったが・・・。

二人と別れ、身寄りのない真沙美を連れてが向かったのは、真沙美の育った養護施設。

園長から、(真沙美を捨てた)母親の手紙を見せられた真沙美は・・・。

その頃、らはらの足取りを捕捉して部下に尾行させるとともに、真沙美の母笹本真琴に面会し、同道を促していた。

 

登場時間は短いながらも、生き続ける4人の存在感は比較的鮮明であるものの、主人公たる南洋平のインパクトが希薄。

ラストで明かされる真沙美との関係や、素性を秘匿するために、伏せられた部分が多くなっているので、どうも人物像がぼんやりしてしまっています。

また、敵役である堺信秀にしたところで、ラストで執着の理由が明らかにされますが、それでも今ひとつ、その考え方がわかりにくいところがあります。このYSCについて肯定的でなければ、こういったへの仕打ちはないわけですが、そのあたりの説明がないため、単なる”敵役”としての無機質な装置以上の興趣を誘いません。

結局のところ、ストーリーにも無理があり、主人公の描写も曖昧となっており、ちょっとツライ作品といえるでしょう。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『ハゲタカ (上・下)』 真山仁

Hagetaka1Hagetaka2 2009年、68冊目・69冊目。真山仁『ハゲタカ (上・下)』

M&Aに絡む”ハゲタカ”外資の話ではありますが、よくある「外資=悪者」論に組みする話ではありません。

確かに、強欲に利益を収奪するような場面も多く見られますが、むしろバブル崩壊後の日本の危機にリスクマネーを投入した”救い主”的な評価を高くする作品になっています。

タイトルからは、外資の嫌らしさが漂う話かと思いましたが、必ずしもそういう感じではありません。

 

1989年12月、大蔵省で腹をかっさばいた男があった。大阪の大手繊維卸販売「ワープ・ジャパン」社長花井淳平(51)である。

ニューヨークでジャズ・ピアニストを目指す鷲津政彦だったが、生活費を稼ぐためにはじめたハゲタカ・ファンドのビジネスにおいて頭角を現わし、「バイアウトの神様」とも言われるアルバート・クラリスに見込まれ、ピアノから足を洗って、本格的にビジネスに加わることを誘われていた。ピアノの道を諦めきれない鷲津だったが、花井の凄惨な最期を知ると、誘いに応じるのだった。

1997年、アメリカで名を馳せた買収ファンドの雄KKLの日本法人ホライズン・キャピタルの社長となった鷲津は、メガバンク三葉銀行のバルクセールを手がけていた。

三葉銀行でバルクセールを担当するのは総合企画部内に設けられた不良債権処理チーム資産流動化開発室の芝野健夫だった。

三葉のFAを務める米国投資銀行ゴールドバーグ・コールズだったが、日本では利益相反が問われないことに胡坐をかき、担当のリン・ハットフォード鷲津とともに案件を買い叩くのだった。

三葉の経営陣はバルクセールの中に公にできない案件を多数放り込んでおり、鷲津の思うがままに跳梁を許すこととなる。芝野は切歯扼腕するが、如何ともしがたい。

灰色の案件の処分に味を占めた経営は更にバルクセールを行うよう芝野に求める。鷲津リンの横暴を止めようと努める芝野だったが、鷲津らの動きはその上を行った。不本意なバルクセールを鷲津とこなしたあと、上司飯島亮介から告げられた異動を蹴った芝野は友人瀬戸山の誘いに応じて、瀬戸山が社長を務める栃木県のスーパー「えびす屋」再建のために乗り出した。

日光の名門ホテルであるミカドホテルもまた業績悪化に苦しんでいた。顧客、社員を顧みない社長(オーナー)の経営方針に辟易していた娘松平貴子はローザンヌホテル大学で学んだ後もミカドホテルに戻らず、東京のロイヤル・センチュリーホテルで働いていた。父、祖母らの招請にも応じなかった貴子ではあったが、ホテル破綻を目前にするや旧弊を廃するかのように半ばクーデターのように社長ら旧経営陣を一掃して社長に就いた。

2001年。「10年で必ず、日本をバイアウトする」と豪語する鷲津はバルクセールに続いて、東京相愛銀行を買収する。これをテコに次に、鷲津が狙ったのは「ハニーコーン」で有名な菓子メーカー太陽製菓。

乱脈経営を繰り返し、会社を私物化する経営陣の抵抗にあいながらも、鷲津らは太陽製菓獲得に成功する。

2003年。栃木の地銀足助銀行が破綻する。

えびす屋の再建で名を挙げていた芝野は足助銀行の社外取締役に招聘される。一方、地銀の重要性を認識していた鷲津は足助銀行の受け皿に名乗りを挙げる。

貴子の奮闘で再建の目途が見えてきていたミカドホテルだったが、メインバンクである足助銀行の破綻により、危機に陥る。

 

案件(ディール)が複数出てくることで、話がいくつかのパーツに分かれ、小気味よく進みますが、同じようなリズムになってしまうので、ちょっと飽きが来ないでもありません。

鷲津の父花井の死の真相に、飯島芝野が絡むということで、この3人の関係性を高めようという意図はわからないではないのですが、ちょっと蛇足の感があります。もっとシンプルでも良かったんじゃないでしょうか。

また、同様に松平貴子についても、この作品において焦点を置かれるキャラクターではありますが、いなくても十分作品としては成立しますし、ちょっと中途半端な位置づけでした。

主要登場人物である鷲津芝野については、一応は対立関係という構造をとろうとしているのかもしれませんが、必ずしもそんな単純な関係ではありませんし、ましてや飯島においてをや、といった感じでしょうか。

現実の世界と同様に、簡単には割り切れない関係性のなかでストーリーが進むので、単純明快さからは程遠いものの、逆にそれが話を現実感の漂うものにしています。

ただし、東鳩をモデルとしたような各種の案件紹介や人物の環境設定の説明に力点をおくあまり、主要キャラクターについて深みが足りないのが玉に瑕かもしれません。

次巻『バイアウト』で、もうちょっとキャラクターが見えてくることに期待しましょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『極北クレイマー』 海堂尊

Kyokuhoku 2009年、67冊目。海堂尊『極北クレイマー』

東城大学から離れていますが、田口・白鳥シリーズと密接につながった作品になっています。

『ジーン・ワルツ』『イノセントゲリラの祝祭』で取り上げられている三枝医師逮捕の話です。

田口白鳥は登場しませんが、”氷姫”姫宮が登場しています。

 

極北大学から極北市民病院に赴任した今中良夫は戸惑う。外科部長とは名ばかりの非常勤扱い。

人口10万の北海道極北市は地場産業に乏しく、そこで狙った観光でのテコ入れにも失敗し、駅前の「ファーノース・ホテル」やスキー場、「北の大地の遊園地」などを抱え、財政は逼迫していた。

赤字を続ける極北市民病院もまた極北市からは冷遇される。院長の室町は病院を節約して運営しようとする一方で、市からの助成も取り付けるとともに、病院の改善を図ろうと躍起になるが、殆ど誰も協力しようとはしない。

市から送り込まれた事務長平松は市役所市民安全課加藤寅雄(課長)とともに、病院での経費支出を絞り込む。

そんな環境下にあっては看護師らの勤労意欲も低い。

一方で、一人病院を支える良心があった。産婦人科の三枝久広である。一人真面目に外来を見続け、市民らの信頼も厚い。これに気の強い看護師並木が従う。

不平は数あれど、何とかできる範囲で仕事を始めた今中だったが、室町院長は今中を「病院環境改善検討委員会委員長」「リスクマネジメント委員会委員長」に任命する。

今中三枝が経験した異常妊娠に伴う事件を室町から知らされる。あくまで不幸な事故でしかなく、遺族からも声はあがってはいなかったが、これを契機とみた組織があった。

警察庁刑事局新領域捜査創生室室長”無声狂犬”斑鳩芳正が指嗾するなか、極北市監察医務院の”土蜘蛛”南雲忠義(院長)から情報を得た医療ジャーナリスト西園寺さやかは、遺族である消防士広崎宏明に声をかけて、医療事故として訴えを起こさせようとする。

そんな不穏な雰囲気の中、極北市民病院に皮膚科の医師として着任したのは姫宮香織である。「天然」の姫宮の挙措に誰もが翻弄されつつも、病院は少しずつ改善される。

しかし、姫宮の使命は病院に「医療事故調査委員会」を立ち上げさせることだった。渋る室町今中だったが、脅しにも似た言動で、姫宮室町に委員会の設置を約束させると、病院を去っていった。しかし、三枝を慮って、事故調査委員会の日程がなかなか決まらない。

一方、病院の改善を図るべく、室町院長は日本医療業務機能評価機構の評価を受けようと言い出す。これで高い格付けが取れれば良し、そうでなくともそれを契機に病院の改善を図ろうと狙ったのだ。

しかし、評価機構から送り込まれたサーベイヤー武田多聞布崎夕奈は傲慢な態度で裁量権を振りかざすだけ。評価に実質的な益は見当たらない。一方、コストだけは莫大に要することは明白で、平松らに泣きつかれた今中は彼らを早々に追い出してしまう。

西園寺さやか広崎に告訴を焚きつけながら、一方で広崎に黙って、広崎の名前で病院と市役所にそれぞれ損害賠償の訴えを起こすことを通知する文書を送りつける。病院は不幸な事故であることを一貫して主張するが、問題を大きくしたくない市役所は秘かにこれを解決しようと動いた。

市役所は病院に無断で、三枝の事件は医療事故であることを認める報告書をでっちあげ、広崎に示談金を握らせようとしたのだ。

西園寺は中央への復権を目指す極北署の木村署長を焚きつけると極北地検の漆間検事正にも働きかけ、三枝の事件を刑事事件として立件させ、三枝逮捕に導く。

三枝と同期の友人、帝華大医学部産婦人科学教室准教授清川吾郎はこの暴挙に憤り、上司の屋敷教授を動かし、日本産婦人科学会の宣言を引き出す。

病院の良心である三枝の逮捕により閑古鳥の鳴くようになった病院に乗り込んできた福山市長は職員を集めると、病院の閉院を告げる。市役所からの出向でありながら、自身の雇用が守られないことを知った平松はこれに福山市長に叛旗を翻す。

市の不正を暴き立てる平松の言葉に激した福山市長は突然の心筋梗塞で倒れ、福山の息子でもある、病院の不良研修医後藤継夫が看取るなか、亡くなってしまう。

福山市長の死後、閉院が有耶無耶となった病院は正常業務に戻ったが、そこを新たに激震が襲う。極北市が財政再建団体に指定されたのだ。

室町院長は一足先に評価機構の武田多聞をたよって病院を去る。今や院長代理となった今中にも極北大から帰還命令が下るが、今中は病院に残ることを決意し、極北救命救急センターのセンター長代理速水と連携をとり、病院の運営を継続した。

そこへ極北市民病院の新院長としてやってきたのは、病院再建の専門家と評される男、世良雅志である。

 

やっぱり西園寺さやかの正体って桜宮小百合ってことでいいんでしょうか。

また、何だか軽くなって登場した世良雅志ですが、あの真面目だった世良がこんなにかわってしまうなんて、何が彼の身の上にあったんでしょうか。花房を奪った速水とも再会するのでしょうし、極北でもまだ一波乱も二波乱もありそうです。本体の東城大学の話よりも、何だか期待したくなってしまいます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『モニタールーム』 山田悠介

Monitor 2009年、66冊目。山田悠介『モニタールーム』

”らしい”といえば”らしい”んでしょうか、山田悠介らしい、兎に角、救いのない作品です。

『リアル鬼ごっこ』と同様に、時間の制約というもので危機感を煽るという手法をとりますが、結局それだけが興趣を呼ぶ仕掛けなのかもしれません。

”奇想天外”というと聞こえがいいですが、正確にいえば設定自体に説得力がなく、どうも落ち着きが悪いなか、話が進んでいきます。

 

徳井正也(22)は東京都八王子にある高尾刑務所の看守として雇われる。

しかし、徳井の仕事は通常の看守とは異なった特殊なもの(観察員)だった。

モニタールームでモニターを眺め、一人の受刑者への食事の世話等をするだけというもの。

モニタールームに映るのは、ミン(地雷)村と呼ばれる四方を地雷で囲まれた5人だけの村の生活。

アリサダイチヒカルゲンキという4人の少年少女(14)とセイおじさんの5人が暮らす生活は、ヘリコプターで運ばれる物資でなりたっていたが、物心つく前からそこで暮らす4人はこの異常な生活を普通のことと考えていた。

これは徳井が監視する受刑者豊田聖子(44)への実験的な刑罰であった。青少年自殺抑制プロジェクト”YSCプロジェクト”に次いで発案され、秘密裡に行われている刑罰である。

15年前、交際相手をバラバラにして遺棄した豊田を捕捉した政府は、豊田の娘が生まれる前に、この刑罰を制定して地雷村を作り、豊田の娘(アリサ)が生まれるやミン村に送り込んだのだ。刑務所の中で、豊田は地雷に囲まれた危険極まりない村でのの身を案じる日々を強いられていた。

この非人道的な刑に憤りを覚えて看守長秋本を問い質す徳井だったが、秋本は相手にしない。

しかし、豊田の刑期は15年。間もなく刑期は終わる。

刑期満了まで、あとわずかというところで、悪魔的な行動がとられる。

15歳の誕生日を迎えたアリサたちに、セイおじさんが与えたプレゼントは「真実」だった。世界は広く、豊かで、アリサらにも親という存在があることが告げられる。

ミン村での生活に満足していた4人だったが、真実を知ってしまえば、その生活も色褪せて見え、本当の世界に戻ることを熱望する。

そんな4人にセイおじさんは地雷探知機等を与え、地雷を少しずつ除去していけば、5日程で街に辿りつくことを明かした。

セイおじさんを残し、地雷地帯に恐る恐る踏み込む4人だったが、地雷の除去には時間がかかり、精神的にも困憊の度を深めていく。

豊田アリサの行動に身もだえし、徳井もまた4人の行動に危惧を感じ、4人を即刻救うよう秋本に詰め寄るのだが、秋本は一向に相手にしない。

この秋本の態度にも、政府の対応にも、それをモニターするしかない自分にも我慢できない徳井だったが、この仕事は辞められなかった。植物状態となってしまった妹一美の入院費用を賄うため、月給100万円という高待遇を捨てることはできなかったのだ。

徳井以上に、アリサの行動に気を揉んでいたのは豊田である。しかし、豊田にも何もすることはできず、憔悴していくだけだった。

4人は地雷を除去し、着実に歩を進めていったが、食料が足らなくなってくる。北に5日かかると告げたわりには、セイおじさんのもたせてくれた食料はそれを下回るものだったのだ。

食糧不足からセイおじさんへの疑心が高まり、疲労が蓄積する中にあっても励ましあって進む4人だったが、5日たっても街は姿形も見えず、地雷がなくなることもなかった。

そして、犬を追ったヒカルが、疲労から錯乱したゲンキが、地雷を踏んでふっとんでしまう。

最後に残ったアリサダイチだったが、精神的に追い詰められたダイチは精神の平衡を失い、徐々に荒々しくなっていった。

出発して9日目。絶望したダイチアリサに襲いかかるが、その矢先、地雷を踏み、死んでしまう。

その翌日、豊田の刑期が満了した。

アリサのいるというクダウという国へ赴くため、付設のヘリポートに向かった豊田だったが、その豊田を呼びとめた娘があった。

お前が豊田聖子か

お前のせいで私の人生は不幸になったんだ

15~16歳くらいのその娘にナイフで心臓を刺し貫かれた豊田は絶命する。

 

どうも設定自体に説得力がなく、話全体の落ち着きが悪い。

キャラクター自体にも魅力が乏しく、結局のところ「時間との戦い」という仕掛けだけで読ませる(それで読むしかない)作品になってしまっています。

設定に説明力がなくていいなら、何でもありですが、せめて、そこを割り切るのであれば、もうちょっと救いのある話であって欲しかったですね。

ラストのYSC東日本統括本部長堺信秀とか南洋平についても、あまりにも唐突すぎてわからないですね。

『スイッチを押すとき』を読んでいないと、このラストは意味をなしません。結局、『スイッチを押すとき』の事件以降の、監視員のなり手を選抜する仕組みの一つとして、今回の作為があったという了解をすればよいのでしょうか。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『疾風ガール』 誉田哲也

Shippu 2009年、65冊目。誉田哲也『疾風ガール』

『武士道シックスティーン』とか、ああいった青春小説のイメージかと思いきや、一応はミステリだったんですね。

主人公は宮原祐司夏美の二人になるのかもしれませんが、祐司は殆ど霞んでしまっています。

 

宮原祐司は17歳でデビューした島崎ルイの才能を前に、27歳でバンド活動を断念し、かつて同じバンドに在籍していた梶尾恒晴が専務取締役を務める芸能事務所「フェイス・プロモーション」に入社した。

しかし、入社して3年、祐司がスカウトできたのはたった一人、日野原(佐藤)蛍子だけ。しかし、その蛍子も売れることはなく、クビにしたばかりだった。

梶尾の雑事に追われる祐司は、目黒のライブハウス『ロックステーション』のオーナー松岡幸弘のもとに梶尾の名代で謝罪に行くよう命じられる。

『ロックステーション』はかつて祐司のバンドも出演したことのあるライブハウスで松岡とも祐司は顔見知り。松岡はフェイスプロの開けた穴を埋めることとなったバンド『ペルソナ・パラノイア』を誉めそやし、祐司にも観ていくよう勧める。

祐司はギターの夏美の才能に特別なものを感じ、スカウトを考えるが、梶尾の路線である”ロリ顔・巨乳”には全く見合わない。諦めきれない祐司梶尾には黙って、夏美へのアプローチを始めた。

夏美の属する『ペルソナ・パラノイア』はギターの夏美のほか、リーダーのドラムス畑中出、ベースの木村”ジン”仁志、ボーカル城戸薫の4人。

祐司のアプローチに、『ペルソナ・パラノイア』で上がっていきたいと考える夏美はそっけないが、夏美を信奉するスタッフ平泉真緒夏美に更に高みに上って欲しいと考え、祐司夏美のバイト先を教えるのだった。

夏美がバイトし、『ペルソナ・パラノイア』が練習する池袋のレンタルスタジオ『スカイ』(オーナー大代)に通いつめるようになった祐司はメンバーとも顔見知りになる。夏美は自身が『ピンクノイズ』から『ペルソナ・パラノイア』に移籍するきっかけともなった尊敬するボーカルに、夏美のスカウトについて意見を求めるのだが、はそっけなく、相手もしてくれない。

傷心の夏美のもとに、翌日、の自殺のニュースがもたらされる。

『スカイ』でバイトする夏美と(顔を出した)祐司のもとへ池袋署の刑事新田茂(巡査部長)が訪ねてきたのだ。新田は事情聴取のために署へ案内した宮原に事件の概要を語る。は頚動脈をバタフライナイフで切っての失血死で、自殺に疑いはなかった。しかし、疑問がいくつか残った。右手首に死亡直前にきりつけられたと思しき傷が残っていること。城戸薫が偽名であり、身元不明であるということ。

と同棲していたキャバ嬢真島塔子もまた、城戸薫という名が偽名であることを知らず、身元も全く知らなかったのだという。

の死に、パニックの末、部屋に引き篭もってしまった夏美のもとへ通う祐司の前に(弁当につられた)夏美が漸く姿を現わす。

祐司から事情を聞いた夏美の遺体を確認すべく、遺体を引き取ったはずの塔子の部屋に向かうが留守。事件後、塔子は部屋に戻っていない様子だった。

次に、の身元を探そうとする夏美はかつてが懐かしそうに見ていた『長者盛』という日本酒の小瓶のことを思い出した。それだけを頼りに、祐司夏美に引きずられるように新潟県に向かった。

越後湯沢の『ぽんしゅ館』で情報を得られなかった二人は蔵元新潟銘醸のある小千谷市に向かう。新潟銘醸に勤める石毛美智子から紹介された”J・B馬場淳一郎がかつて地元局の番組に出ていたことを告げた。更にJ・Bの紹介で訪ねた新潟市内のライブハウス『ファンク・ジャンク』のオーナー志村は、夏美のこともの自殺のことも知っていた。

は地元のバンド『ラヴクラフト』のメンバー奥田”KID”郁であることが判明。実家は湯沢駅のそばで、父親は地元では有名なチェリスト奥田謙造だった。

翌日、湯沢に戻った二人は道を歩く真島塔子を見かけ、三人で奥田謙造のもとに赴く。

謙造)の死を従容として受け入れるとともに、の生い立ちを三人に語った。の母親と姉は12年前に交通事故で亡くなっていたが、は事故を自身のせいだと責め続けた挙句、東京に出る予定だったに代わって、自身が東京で(音楽で)成功すべく上京したのだった。

そして、なぜか謙造夏美にピアノとバイオリンを弾かせる。

 

ストーリーとキャラクターでいうなら、やはり圧倒的にキャラクターで読ませる作品ですね。とにかく、夏美の造形が秀逸。

自信家で、生意気な口を叩くわりには、喧嘩が弱くて日和ってしまうところや、コーラやオリジン弁当を愛好するという等身大というか、親しみのわくキャラクターになっています。才能ある、こういった高飛車なキャラクターはストーリーへの落ち着きが悪くなりがちですが、才能とは別のごく平凡な私生活が親しみやすく、うまく他のキャラクターとも絡んできます。

祐司も結局のところ、夏美の下僕のように働きながらも、うまく夏美の手綱もとっているようで、今後の展開が期待されます。

この後日譚が『ガール・ミーツ・ガール』として発行されたようですので、それも今から楽しみです。

最近『ジウ』シリーズを読んできましたが、やはりこういったキャラクターの生きる作品の方が面白いですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『君と一緒に生きよう』 森絵都

Kimitoissyo2009年、64冊目。森絵都『君と一緒に生きよう』

ノンフィクション。

捨て犬、野良犬、迷い犬、保健所から救出された犬など、そういった保護された犬を希望者に譲渡する保護活動の紹介。

それぞれ、保護された経緯と貰われるまでの道筋、犬の回復の有様が紹介されます。

 

序 スウ

1 梅花姉妹

2 女王くるみ

3 北アルプスの麓で

4 犬猫里親会

5 ミスティとモモ

(イラストコラム)介護

6 マレアと七頭の子犬たち

7 猟犬ひめ

8 オレオ

(イラストコラム)ボランティア

9 ブリーダー崩壊

10 二頭目のハク

11 土手に生きる犬たち

12 シェルターリポート

(イラストコラム)定時定点回収

13 救われない命たち

 

この作品でも最後に繰り返し述べていますが、命の尊さが軽視されていることを危惧するのには同感。

最近の風潮をみていると、ペットに限らず、何もかもが刹那的に求められているような気がしてなりません。そのときに欲しいものがあれば買う。それが1カ月後、1年後、どうなるかといったことは考えない。要らなくなったら、捨てれば(誰かにあげれば)いい。そんな風潮が世の中に溢れているような気がします。飽食の時代と言われて久しいですが、食だけでなく、物もそんなふうになってきて、そして命です。

特に、命の場合は非常に尊いからこそ、こんな警句が打たれますが、おそらくはもっと根本的なところで見直さなければならないんじゃないでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子

Nekodaite 2009年、63冊目。小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』

実在の人物とも思わせる不思議な主人公”盤下の詩人”リトル・アリョーヒンの物語。

チェスがわかっているともっと面白いんだろうな、と思わせるチェスの話。

ただ、チェスの巧拙や勝負の醍醐味というよりも、むしろチェスに詩を感じさせるような雰囲気のある作品といったらいいでしょうか。

 

祖父母と暮らす無口な少年はある日、学校のプールで死体を発見する。

死体となった男の働いていたバス会社の独身寮を興味本位で覗きに言った少年は、そこで廃車となったバスの中で暮らす肥満体のと出会った。

そこが気に入った少年はそこでからチェスを習うこととなる。マスターと呼ぶようになった少年だったが、難局となった際にはチェス板となったテーブルの下にいる「ポーン」という名の猫をなでながら考えるという癖がついていく。そのうち、対局の間中、テーブルの下に籠もるという独自のスタイルを身につけてしまう。

マスター少年に新たな対戦者を見つけるべく「パシフィック・チェス倶楽部」に少年を誘うが、その入会審査で、テーブルの下に隠れる少年の指し方は失格負けになってしまう。

また、マスターとの二人でのチェスに戻ったが、程なくマスターは巨体を持て余し、死んでしまう。

傷心の少年を迎えに来たのは、パシフィック・チェス倶楽部の事務局長。アンダーグラウンドのチェス倶楽部「パシフィック・海底チェス倶楽部」に用意された自動チェス人形「リトル・アリョーヒン」の内部に潜んで、少年にチェスを指すことを求めたのだ。

グランドマスター、アレクサンドル・アリョーヒンに因んで作られた人形と同じくリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになった少年は、記録係としてついた少女ミイラとともに、来る日も来る日も人形のなかで会員とチェスを指し続けるのだった。

巨体のせいで死んだマスターを目にしたリトル・アリョーヒンの心は身体の成長を拒み続け、11歳の身体のまま大人になっていった。

ある日、酒に酔った会員により人形を壊されてしまったリトル・アリョーヒンは「人間チェス」を任される。人間が駒の代わりをするチェスに戸惑いながらもリトル・アリョーヒンは勝利するが、期せずしてミイラを傷つけてしまう。

海底チェス倶楽部を離れることを決意したリトル・アリョーヒンは家具職人である祖父に”リトル・アリョーヒン”を分解して持ち運べるよう改造することを依頼する。傷ついたリトル・アリョーヒンが海底チェス倶楽部を離れようとしているのを察していた、人形製作のパトロン老婆令嬢リトル・アリョーヒンと最後のチェスを指し、リトル・アリョーヒンに進むべき道を示す。

老婆令嬢の案内によりリトル・アリョーヒンが辿り着いたのは”老人専用マンション・エチュード”。エチュードはチェス連盟の前々会長が創設したチェス連盟メンバーのための老人施設だった。

雇われたリトル・アリョーヒンは夜間にチェスを求める入居者たちとチェスを指すのだった。

 

決して、大きな事件が起きるわけではありませんし、どちらかといえば主人公が純粋ではあるものの夢見がちという設定もあるのでしょうか、淡々と起伏なく物語は進行します。

勿論、マスターの死や祖母の死、海底チェス倶楽部からの逃走、国際マスターS氏との対戦といった相対的には大きなイベントもあるのですが、どちらかというと事象よりも心情中心の描写は、ストーリーとして読ませるものではありません。

”盤上の詩人”とも言われるような棋譜と同様、この物語自身も心情中心の詩的なイメージを感じさせるようになっています。そのためか、殆ど人名が存在しません。また、客観的に見れば、貧しく教養を培うこともできないままに、その無教養のまま、貧困から脱出することもできず、上流階級に食い物にされるだけの、悲しい存在にも見えます。そんな境遇にあっても、その才能、感情の豊かさを称揚すべきなのかもしれませんが、ちょっと全体のトーンが暗いような気がしてなりません。

人物描写については、その設定の奇妙さが逆に真に迫って感じさせます。唇に脛の皮を移植したせいで、唇から脛毛が生えてくるという奇妙な設定や、ミイラや老婆令嬢という名称。引っかかり、その醜悪さを感じながらも、だからこその存在感を感じさせられます。

でも、この描写って、全体とどうマッチングするんでしょう。作品全体の背景に流れるマイナスのトーンを強める効果なんでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ジウⅢ』 誉田哲也

Jiu3 2009年、62冊目。誉田哲也『ジウⅢ』

『ジウ』シリーズ最終巻です。

こんなことになってしまいますか?警察小説といったイメージで読み始めた物語ですが、ちょっと行き過ぎてしまった感のある展開です。

真面目な、オーソドックスな警察小説をイメージしていると意表をつかれます。

 

SATに戻った基子は新たに編成されなおした制圧一班の班長に指名される。基子の部下として配属された5名もまた新規に募集された隊員であったが、極めて優秀な5名(白石守平山浩一吉田謙三上英司千葉貴匡)が揃っていた。

一方、捜査本部では歌舞伎町で伊崎基子ジウを追っていたという証言が得られる。美咲もまた基子を迎えに行った事実をに伝える。そんなところへ、美咲に接触をとってきたのはSAT第一小隊の小隊長小野である。小野は復帰後の基子の様子に不審を感じていたのだ。小野の態度に半信半疑だったが、美咲小野の言葉に信ずるに足る印象を感じていた。

公安部は捜査本部に竹内亮一の携帯電話の通話記録を求めてきた。捜査本部に現れた公安一課の間山に資料提出を求めるが、間山の持っている情報と資料の交換を申し出た。間山雨宮が殺されたのには理由があるのではないかと疑っていた。竹内は何者かに指示され、雨宮を殺したのではないか、と考えた間山竹内の携帯電話に残された通話記録を調べようとしていたのだ。

しかし、携帯電話の通話記録には、間山の疑いを示唆するような記録は残っていなかった。

これにヒントを得た美咲竹内がもう一台携帯電話を持っていたのではないかと疑い、再度現場を虱潰しに探すのだった。

SATに命令が下った。衆議院議員選挙の選挙演説の警備だ。このつまらない指示にシラける基子だったが、部下の5名は違った。警備の本当の意味がわかっていたのだ。部下から基子に手渡された携帯からは基子の声が・・・。部下5名は宮路の差配で基子の部下につけられた宮路の仲間だったのだ。

選挙演説の当日、宮路の手配した爆竹が炸裂する中、どさくさに紛れて内閣官房長官渡辺和智を殺害し、総理大臣大沼堅次郎を警備用の車で攫ったのは警備を担った基子の指揮するSAT第一小隊制圧一班だった。

基子らは宮路の仲間らによって封鎖された歌舞伎町へ大沼を連れていき、ジウに引き渡す。歌舞伎町へ至る通路の全てはパネルバン・トラックなどにより閉ざされ、宮路を信奉する男たちが銃をもって蜂起していたのだ。

いまや歌舞伎町は暴挙の坩堝と化していた。ミヤジの提唱する現世界の秩序には属さない「新世界」が現出しようとしていたのだ。

カメラの見守る中、基子は狩り出されたの部下沼口を射殺するなど、警察からはジウのグループの実行犯とみなされるようになっていった。SATの面目は丸つぶれとなり、警備部の太田も最早語る言葉はなかった。

ホームページで公開された犯行声明では「歌舞伎町の治外法権を求める」という要求がつきつけられる。「新世界秩序(NWO)」を名乗るグループは24時間以内の回答を求めた。

この映像で見た基子の部下に美咲は見覚えがあった。竹内亮一ら自衛隊員の同僚だったのだ。この発見を聞いたは公安の間山の動きとも合わせ、上層部にジウらの協力者の影を感じるのだった。

通路を封鎖され、銃をもった男たちに見張られた歌舞伎町への潜入は人的被害が甚大となることが予想され、西脇らは二の足を踏み、手詰まりの状態が続く。そんななか、基子を改心させるべく、小野は単身歌舞伎町に潜入しようとする。それを見かけた美咲もまた、小野に同行するのだった。

一方、基子は事件後、白石らの言葉の端々からミヤジへの不審を深めていた。雨宮ミヤジの仲間とは思えなくなってきたのだ。白石らの制止を振り切り、「新世界」に押し入った基子だったが、そこにミヤジの姿はなかった。

「新世界」に潜入した小野は、基子白石を射殺しようとするのを見て、制止のために飛び出し、咄嗟のことに反応した基子の銃弾を浴びる。これを見て飛び出した美咲の姿をも目にして怒りが更に増す基子だったが、雨宮ミヤジの仲間ではなく、愛を説いていた姿が真実だったことに気づいたとき、美咲とともに立ち上がっていた。向かう先はミヤジが籠もる早川不動産。

 

ちょっと派手ですね。

この歌舞伎町封鎖をするために、どれほどの資金が必要なんでしょう。なんとなく、それを用意できるだけの資金が宮路にあるのだとすれば、わざわざ治外法権なんて要求しなくてもいいんじゃないかと思ってしまいます。

それとも宮路が博愛主義者というか、自身が撒いた虚無に賛同した信者らのために、新たな世界を築こうとしていたとでもいうんでしょうか。馬鹿馬鹿しいほどの派手さの裏側の根拠がどうもしっくりこないところが欠点でしょうか。

でも、こんなところに着地するとは思わなかったですね。何というか警察ものとしてはイロモノの部類にはいるような感じです。

あと、シリーズを通じてで言えば、竹内亮一の死因って、何となく伏線っぽかったですが、結局あのときの推理で完結してたってことなんですか。

ジウ、タイトルにもなっているわりには最期まで存在感が薄かったですね。動機は美咲がキレイに解明したような形になっていますが、どうもやってきたことと、最期の悲劇性のようなものとがどうもそぐわない感じですね。ここまで派手に死者等を出しているわりには、圧倒的な悪者の存在をおかないのが、ちょっと気持ち悪いかもしれません。別にキレイな勧善懲悪を求めるわけじゃないですが、それにしてもちょっと消化が悪いような感じ。

『ジウⅡ』から匂わされてきた警察幹部の関与って、結局あんな下っ端だったんですか。ちょっと拍子抜けです。せめて太田部長であったり、警視総監くらいでないと、ぶち上げた花火との対比で、どうも落ち着きが悪いんですよね。

まぁ終わってしまった物語ですが、もうちょっと最初からストーリーの外枠がわかってたら、と思ってしまいます。言ってみれば、社会のつもりで勉強を始めたら、実は理科だったというような騙された印象を受けます。別にそれが、プラスでもマイナスでもなく、もうちょっと整理しておいてほしかったな、という感じでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ステップ』 重松清

Step 2009年、61冊目。重松清『ステップ』

妻を亡くして娘美紀と二人の生活を始める男性武田健一の子育て連作集。美紀の2歳から小学校卒業までのお話。

重松清にしては珍しく、舞台は地方都市ではなく、東京や横浜となっています。

そして、冒頭そして最後に人が亡くなるというエピソードが入ります。やっぱり泣けます。

 

ケロ先生美紀:2歳]

武田健一(30)は結婚3年目にして妻朋子(30)を亡くす。残されたのは1才半の娘美紀

美紀を引き取るという義父母などの言葉に感謝しつつも、健一美紀と二人で暮らす道を選ぶ。健一は会社の人事部長、役員にも直訴し、営業から離れて総務課へ移るとともに、8:00~16:00という変則的な勤務時間(フレックス)を認めてもらう。

こうして始まった美紀との二人暮らし。まず、乗り越えるべきは美紀の保育園デビューだ。

保育園の二歳児クラス『すみれ組』で美紀を担当したのは愛称”ケロ先生”(天賀先生)だった。

人見知りの激しい美紀を心配した健一だったが、美紀ケロ先生になついていく。ケロ先生もまた、美紀と同じく母を早くになくしており、他の園児以上に美紀に気を配るのだった。

そんなケロ先生に感謝する健一だったが・・・。

 

ライカでハロー・グッバイ美紀:5歳]

ひな祭りに際して、義父母が用意したのは立派な七段飾りの雛人形。美紀もひな祭りの晴れ着を着る。

そんなひな祭りの記念撮影を依頼したのは、朋子の実家で家族の歴史の節目節目を撮って来た『大橋写真館』。

しかし、大橋写真館の店主がぎっくり腰になったことから、その娘礼香が代理としてやってくる。礼香は海外の難民キャンプなどを回るプロのカメラマン。たまたま帰省していたところだったのだ。

美紀ともうまく接する礼香に、順調に撮影は始まったのだが、義父母が雛人形らを美紀に示して喜ばせたりする姿に、礼香の視線は冷たい。

雛人形や晴れ着を台無しにするような礼香の発言に、義父母のいらだちは増していく。

 

あじさい美紀:小学校1年生]

美紀が小学校に入学し、集団登校するようになると、健一にも朝カフェでコーヒーを飲む余裕も出来てきた。新たにオープンしたカフェのお気に入りのアルバイト店員成瀬さんに亡き朋子の面影をみて、和むのだった。

母の日を前に、小学校のクラス担任からの手紙は「お母さんの絵」をどうするのかという照会だった。相談するといいながらも、健一と話をするは、写真を見て描くことで結論は出ていた。「母親は家にいる」という美紀の言葉は嘘だ、と切って捨てるの言葉に健一には納得のできないものを感じていた。

 

キュウリの馬に乗って美紀:小学校2年生]

健一美紀がお盆にやってきたのは義母の母(朋子の母方の祖母)の家。

お盆には亡くなった人が還ってくるのだと、迎え火を焚く。

義父母朋子の子ども時代の頃を語り、祖母もまた美紀に対して朋子のように接するのだが、祖母朋子美紀の区別は十分についていた。

かつての営業部時代の上司榎本部長からの話で見合いを引き受けざるを得なかった健一美紀を残し、東京に帰るのだが・・・。

 

サンタ・グランパ美紀:小学3年生]

朋子の小学校時代の同窓会の案内が義父母らの元に届く。

立腹する義父だったが、彼もまた寂しい思いを抱えていた。

一部上場企業の専務として活躍してきた義父だったが、社内の派閥抗争の末、退職を余儀なくされたのだ。会社を離れて、自身の来し方を振り返ると、娘朋子を早くに亡くし、息子良彦にも子ども(孫)ができないという状況に、無常感を感じていた。

朋子の思い出のない美紀にとっては、義父母の語る話や実家に残る写真が思い出の全てだったが、既に亡くなった朋子の思い出が増えるわけもなく、その限界は美紀だけでなく義父をも悲しませていた。

 

彼岸過迄美紀:小学4年生]

バレンタインデーを前に、手作りチョコレートを作るために、美紀が家に呼んだのは伯母(良彦の妻)

なかなか子どものできない良彦の夫婦は不妊治療に努めたが、甲斐なく、が43歳のときには諦めていた。しかし、子どもができない、また、その原因がにあるというストレス、悲しみは翠を責め苛んだ。精神的に追い詰められた義父母が二世帯住宅を計画したのを機に、良彦とともに都心の新しいマンションに移ってしまったのだ。これで義父母良彦たち夫婦の間はぎくしゃくしていた。

しかし、健一には何も言うことはできなかった。

その頃、健一が課長を務める総務部資材課では中国からの研修生を受け入れていた。極めて優秀ではあるものの、同僚と一切馴染もうとしないヤンさんに、健一も困惑していた。

 

バトン美紀:小学5年生]

運動会を前にして、クラス対抗リレーの選手となった美紀はバトンの練習に余念がない。足は速いのだが、バトンがうまくないのだ。

美紀が苦手としている熱血の同級生池内さんが張り切っているのだ。

健一は4月の人事異動で営業開発部に異動していた。そして、健一がそこで出会ったのは広告代理店のシンクタンクからの出向でやってきていた斉藤奈々恵(35)。

健一奈々恵美紀に会わせたいと考えていた。

 

ホップ、ステップ美紀:小学6年生]

奈々恵の亡くなった息子剛史の墓参りのために、元夫の実家のある街に向かう健一奈々恵の二人。美紀はついていくのを拒んだのだ。

美紀には前年の暮れに奈々恵と会わせていた。会っている場では自然に振舞う美紀だったが、別れた後にはその都度具合が悪くなるという状態が続いていた。

墓前で美紀を連れてくることを剛史に誓う健一は、観光や何やらで美紀をつろうとするが、その邪道を美紀は責める。

中学になれば義父母の家に行くという美紀だった。

 

ジャンプ美紀:小学校6年生]

義父が癌で入院する。転移が進み、余命は3カ月から半年。

告知を受け入れた義父は淡々と身辺の整理を進めた。

やせ衰えた姿を見せたくないとの思いから、美紀の見舞いは断って・・・。

義父健一に尋ねる。

伝言があるなら、今度教えてくれ。朋子に・・・・・・もうすぐ会えるんだから、俺は

 

健一美紀の話ではあるんですが、そこに絡む登場人物として義父母伯父叔母の存在感が大きいですね。それでいて、健一の両親については殆ど登場しない。

このあたりは何か意図的なものがあるのでしょうか。

実際には、なかなか義父母との関係って難しいような気もするんですが、それがマスオさん的というといいすぎかもしれませんが、それに近いような距離感で接するというのが、どうにもしっくりこない。

朋子が若くして亡くなった、孫が美紀だけ、という事情はあるんでしょうが、義父母からのアプローチは当然として、健一の方のスタンスがどうも釈然としません。優しい性格なのか、流されやすいという性格なのか、敢えて自身の両親との接点よりも亡き妻の両親の接点が多いというのが、どうしても設定として気になって仕方がありませんでした。

まぁ、そういう設定を映してか、健一の性格設定が若干曖昧かもしれません。状況の語り部的な役回りが多く、あまり自己主張がみえてきません。

同様に、多くの出来事の中心にいる美紀ではありますが、これもはっきりした姿が見えてこないような気もします。

その意味では登場人物云々で読むというよりも、ストーリーを読む作品なのかもしれません。勿論、特徴が強くなくとも、繰り返し登場することによって少しずつ印象は深まりますから、義父の最期を迎えるにあたっての喪失感はやはり大きなものにはなります。

朋子が亡くなったことで始まり、奈々恵を迎えて新たな生活が始まるところで終わるこの物語。結局は美紀の成長物語というよりも健一の物語だったのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『ホペイロの憂鬱 JFL篇』 井上尚登

Hopeiro 2009年、60冊目。井上尚登『ホペイロの憂鬱 JFL篇』

これ「JFL篇」って、今後「J2篇」とか「J1篇」って続くんでしょうか?

舞台はJFLのクラブってことなんですが、印象としては同じ東京創元社の『タルトタタンの夢』(近藤史恵)や『配達あかずきん』(大崎梢)に似た感じの軽いミステリというところでしょうか。

舞台はサッカークラブということですが、特にサッカーを知らなくても十分楽しめる作品ですし、逆に知っていてもそれほど何かしら面白さが増すというわけでもないような作品です。

 

神奈川県相模原市をホームタウンとする日本サッカーリーグ(JFL)所属のサッカークラブ、ビッグカイト相模原。

坂上栄作はそこのホペイロ兼雑用係。

クラブの広報三島撫子(28)に雑用をいいつけられ大変な毎日だが、ボランティアでクラブを手伝う女子大生山岸奈々子(20)や新人選手神坂元気にも助けられ、なんとかホペイロを務める毎日。

  

カンガルーの右足

ホペイロ(用具係)の仕事のほかに洗濯もこなさなければならない坂上には殆ど休みもない。そんな洗濯をする坂上に声をかけたのは60代のおばあさん。

光恵さんだよ

と名乗るおばあさんは、坂上の上司にあたる桑原峰太郎やクラブの社長御子柴とも知り合い。ビッグカイト相模原の母体ともなった相模ベアリングサッカー部の寮母をしていたのだ。

その伝手で光恵さんはクラブの洗濯を手伝ってくれることとなった。

この頃、坂上には不思議なことがあった。クラブのスター選手ヤマケンさん(山形建一)がまだ使えるスパイクを廃棄することが多くなってきたのだ。

光恵さんは、山形が何かを坂上に隠すためにしていることだと言うのだが・・・。

 

ヤム芋ストライカー

ナイジェリアからやってきている選手アモちゃん(ヌワンコ・アモカチ)が警察につかまる。

農大のヤム芋畑をアモちゃんが荒らしたというのだ。しかし、ヤム芋の生長をアモちゃんは単に見守っていただけ。濡れ衣だ。

アモちゃんの濡れ衣をはらすよう撫子(通称”オニアザミ”)から命じられた坂上は畑を管理する倉持教授に事情を聞きにいく。しかし、倉持は大のサッカー嫌いだった。

 

迷惑フラッグ

全国どこへでも駆けつける名物サポーター”旗振りくん”が元気がない。

練習に持ってきていた、たくさんの旗が盗まれてしまったのだ。

広報誌『ピープル』に旗振りくんをとりあげるつもりだった撫子は困って坂上になんとかさせようとする。黙殺しようとする坂上だったが、「旗振りくんの応援がないと調子がでない」という神坂元気の言葉を受けて山岸奈々子からお願いされれば仕方がない。奈々子との親睦を深めるべく捜索に立ち上がった坂上だったが、その夢は儚く破れた。奈々子撫子の手伝いで手一杯だったのだ。

仕方なく、坂上元気とともに旗振りくんこと大垣浩介に会いに城山町に向かった。

 

忘れ物リング

長崎県の佐世保での試合後のユニフォームの洗濯をしようとした坂上は、ユニフォームからこぼれ落ちた指輪を拾い上げ、ポケットに入れる。誰のものかわからない指輪は細い女性ものの指輪。

洗濯が終わったのも束の間、坂上は佐世保の街で飲んでいる撫子に呼び出された。ハンカチを取り出すときに、転げ落ちた指輪に、「ホペイロ坂上、女ができたね」と撫子の目が光る。

酔っ払った山形坂上を祝福するなど、話は一人歩きを始めた。

撫子が触れ歩くこともあって噂は広がっていくが、坂上は持ち主が名乗り出れば消えるだろうと軽く考えていたのだが・・・。

 

盗まれポスター

スーパー相模の協賛で新たにポスターが作成される。

撫子は、女子高生に人気の神坂元気がモデルだった前回のポスターが多く盗まれてしまったことを反省し、今回は女子高生の人気のない”チャラ男”森陽介をモデルにする。

盗まれることを心配する店長に、撫子は太鼓判を押す。

しかし、撫子の言葉は裏切られた。

ポスターが盗まれてしまったのだ。

盗まれてしまったことを喜ぶの言葉は撫子の神経を逆撫でした。早速、撫子はポスターが盗まれた現場へ、坂上神坂を連れて向かうのだったが、現場につくとは少しずつ言葉少なになっていった。

 

行方不明ベア

最終節を控え、首位のビッグカイト相模原だったが、混戦の上位陣にあって、最終戦で負けた場合には5位に陥落し、J2昇格が流れてしまう。

縁起をかつぐ監督樫井亮介坂上撫子光恵にも、勝利した前々戦で着用したのと同じパンツをはくよう厳命する。

そんな樫井の部屋から勝利の熊のぬいぐるみが消えていた。

目を血走らせ、坂上に熊の行方を追うよう樫井は依頼するのだが、誰も思い当たる節はない。

犬エレルギーの樫井のくしゃみ、開いていた窓などから、坂上は熊のぬいぐるみのありかに迫るのだが、時すでに遅く・・・。

 

当初は光恵が探偵役かと思いきや、結局は主人公坂上が探偵役。(「忘れ物リング」は微妙ですが)一応、各話それなりの解決はみるものの、どうも話が小粒。

サッカークラブを舞台にしているのなら、もうちょっとサッカー色が強くってもいいんじゃないでしょうか。サッカーに馴染みのない人にも、ついてこれるようにとの配慮なのかもしれませんが、逆に特徴をなくしてしまっています。こういった話であれば、別にサッカークラブでなくて、クリーニング屋が主人公でもいいんじゃないの?といった印象を受けてしまいます。

撫子がなかなか面白そうなキャラクターの片鱗は見せるのですが、どうもストーリーにうまく乗ってこないような感じですね。問題を持ち込む役は果たすんですが、物語が動くところで絡んでこないので、どうも印象が薄くなってしまいがちです。

今後(があるのだとすれば)は、もうちょっと(坂上撫子)コンビでの活躍が見たいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『疑心 隠蔽捜査3』 今野敏

Inpei3 2009年、59冊目。今野敏『疑心 隠蔽捜査3』

隠蔽捜査シリーズ第3弾です。

今回はあの頭の固い主人公竜崎が恋愛・不倫に悩んで惑乱するという、なかなか楽しい話になっています。勿論、主筋は大統領訪日の警備でテロリストと対峙するという硬い話なんですが、それ以上に、今回は竜崎が悩む姿が非常に印象的な話になっています。

伊丹も勿論出てきますが、今回はチョイ役ですね。

 

アメリカ合衆国大統領の来日が決まる。

警察にとっては重大事であるが、所轄署にとっては警察庁や警視庁の指示に従えばよいだけと、竜崎伸也(大森署署長、警視長)も高をくくっていた。

しかし、突然、竜崎に方面警備本部の本部長に任命するという辞令が下りる。しかし、大森署の属する第二方面本部には本部長がおり、なぜ所轄署の署長にそんな辞令が下されるのか竜崎には納得がいかなかった。

本庁の刑事部長である伊丹俊太郎を通じて、警備部長藤本実(警視監)に確認をとると、警察庁警備局警備企画課長落合貴幸(警視長)の案であるという。

大森署の業務も並行してこなせるよう竜崎は方面警備本部を大森署に設置した。第二方面本部の本部長長谷川弘(警視正)は副本部長の任につき、野間崎管理官はその秘書官として、大森署に設けられた方面警備本部に乗り込んでくる。

負担の重くなった大森署では署員の不満の声も聞かれるが、竜崎はそんな不満分子の一人刑事課の戸高ら3人を本部に吸い上げる。

特命班に配属された戸高は早速、平和島で発生した車両事故に駆り出される。事故自体の処理は早急に行われ、大統領の警備計画に支障を及ぼすものではなかったが、事故現場から運転手の男が行方不明となっていた。これを追おうとする戸高を制止する竜崎だったが、制止しきれず、戸高の行動を黙認する。

竜崎はそれどころではなかったのだ。

藤本警備部長から竜崎のもとに配されてきた秘書官は畠山美奈子という女性キャリア。8年ほど前に入庁した畠山は研修期間に警察庁の竜崎のいた総務課広報室に来たことがあり、竜崎にも面識があった。

竜崎はこの畠山に魅了されてしまう。畠山が話しかける誰に対しても嫉妬の念を覚える有様で仕事が全く手につかない。常に理性を優先してきたはずの竜崎だったが、自身でも制御できない感情の在り様に懊悩し、夜も寝られない。

竜崎の失脚を秘かに狙う落合警備企画課長や長谷川本部長、野間崎管理官らの前で、失策をおかすことのできない竜崎は気を引き締めなおそうとするが、竜崎にもどうしようもなかった。

そんな中、アメリカ国土安全保障省に所属するシークレットサービスから二人の男が先遣部隊としてやってくる。

その一人ジョン・ストリングフィールドはイスラム過激派のテロ・ネットワークがテロを画策している情報をもたらす。同ネットワークに協力する日本人がいるというのだ。ただし、この日本人らの身元は不明のまま。

これを聞いた警備担当者らは緊張の色を隠せない。

羽田空港を管轄する第二方面警備本部へ詰めることとなった、もう一人のシークレットサービスエドワード・ハックマンはこれまでに録画された防犯カメラを不眠不休で調べ始めた。

防犯カメラの映像から、羽田空港で1日ごとに現れる不審な男を発見したハックマン竜崎に羽田空港を閉鎖することを迫る。ハックマンの危機意識は共有できる竜崎だったが、羽田空港の閉鎖は簡単にできるものではない。

竜崎藤本に連絡し、国交省や外務省からの回答を待つが、当然のように閉鎖不可の決定だ。しかし、ハックマンはこれに納得しない。

羽田空港内をくまなく調べるよう羽田空港署に命じる竜崎だったが、現場を知るハックマンにしてみれば日本の警察官の捜査は極めて危機意識の低いものだった。

引き続き空港閉鎖を唱えるハックマンらの攻勢に耐えかねた藤本は空港の件について竜崎を責任者に任命し、対処するよう命ずる。

ストリングフィールドは責任者である竜崎に空港閉鎖を求めるが、竜崎は受け入れることはできない。厳格な「責任」を求めるストリングフィールドに、テロ計画の陰謀を暴き、首謀者の身柄を拘束することを確約してしまう竜崎だった。

確約したはいいものの、畠山のことで悩む竜崎には良い知恵が浮かぶはずもなく、悩みは深くなるばかりだった。

竜崎畠山のことを相談したのは伊丹だった。伊丹のアドバイスに従って、禅に救いを求めた竜崎は買い求めた書で発見した一つの公案「婆子焼庵」から、一つの答えを得た。

そのことで、少し心の平安を得た竜崎は解決に向けて一歩動き出した。

竜崎は行方不明の運転手を追っている戸高を警備本部に呼び寄せると、テロリストを探るヒントを求めたのだ。しかし、防犯カメラを見た戸高は、自身が追っている運転手とカメラの男が同一人物であることを示唆する。

竜崎は既に運転手のことを調べ上げていた戸高の情報を本庁に伝えると、公安部、警備部、刑事部、組織犯罪対策部を動かすのだった。

 

話自体は戸高が運転手を追ったあたりから、これがテロリストと関係があるんだろうな、という想像がつくので、あまり盛り上がりがあるわけではありません。現に、公安部等が動き始めたら、特に何の波乱もなく、あっさり決着ですから。

もうちょっと、伏線というか、事件があっても良かったんですけどね。

今回はコメディというか、石頭(唐変木)の竜崎のドタバタを楽しむ話といったらいいのでしょうか。微笑ましいのか、あざといのか、ちょっと評価が難しい作品かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『胡蝶の失くし物』 仁木英之

Bokuboku3 2009年、58冊目。仁木英之『胡蝶の失くし物』

僕僕先生シリーズ第3弾です。

新キャラクター劉欣が登場しますね。途中から旅の道連れになるのは劉欣だけではありません。蚕嬢という蚕も蒼梧から同行することになります。

出だしが、いきなり皇子の暗殺からですから、ちょっと殺伐としていますが、全体のトーンは僕僕先生王弁の関係のような緩い感じとなっています。

 

職業兇徒(闇に囚われた者)

御史台察院で暗殺を請け負う胡蝶房に属する劉欣が皇子李敏暗殺のあと命じられたのは、「光州仙居県黄土山から失踪した仙人の始末」である。

淮南の寿州に捨てられた孤児であった劉欣は、申州郊外に住む富農、子のない劉徳夫妻に拾われ、育てられた。

劉欣は桂州の始安まで南下していた僕僕先生に迫る。

始安に入った僕僕先生らは街中の人びとが下痢で苦しんでいるのを知ると、早速治療に取り掛かり、大変な評判となっていた。

そんな僕僕先生らを吹き矢で狙った劉欣は、突然母から貰った護符にヒビが入ったことで胸騒ぎを覚える。暗殺を一旦とりやめた劉欣は、両親のもとへ戻るが、母は始安で流行っているのと同じ下痢に苦しみ、虫の息だった。

劉欣は再度始安にとって返すと、僕僕先生に薬を求めるが、暗殺の企てに気づいていた僕僕先生劉欣に簡単に薬は渡すことはなかった。

この薬には術がかけてある。私たちが死ねば効力を失い、薬を服用した者も死ぬ。

 

相思双流(せっかちな女神)

桂州城内を南に流れる漓江沿いに南下を続けた僕僕先生たち。

相思水という川の分岐点を示す石碑の上に腰かけ、恋しい賈震のことを考えていた薄妃の腰の下から声がする。

とっととそのおっきなお尻をどけるのじゃ。じゃないと天罰を加えるぞよっ

石碑から顔を現わした少女は相思水の女神劫鰓と名乗った。

劫鰓薄妃の素性を見抜くと、僕僕先生に代わって薄妃に気を吹き入れることを提案する。僕僕先生が、なぜか”きっちりした”気を吹き入れていないから、毎日気を入れなおさなければならなくなるのだと劫鰓は言うのだ。

劫鰓に気を入れられた薄妃は醴陵に向かって飛ぶが、醴陵の直前で眩暈を覚えて墜落してしまう。

帰ってきた薄妃に驚きもせず、劫鰓は再度気を吹き入れる。しかし、またしても同じ場所で眩暈から墜落する薄妃だった。

同じく墜落したのはとある寺院。そこは扁額も掲げない退魔の寺だった。

寺で保護する李双に妄執を持つ妖魔を退治すべく待ち構えた僧は、薄妃を焼き尽くそうとする。

僕僕先生に助けられた薄妃李双劫鰓の因縁を聞く。

 

主従顚倒(夢に笑えば)

賀州の臨賀城に入った僕僕先生一行だったが、路銀が尽きてきた。そんなことは気にしない僕僕先生だったが、普通の旅がしたいと願う王弁は働き場所を探していた。

そんなとき出会ったのは、かつて衡山で出会った薬種屋兄妹の弟蔣実。なぜか旅商人の用心棒をしている蔣実は記憶をなくし、李武と名乗っていた。

旅商人李馬太李武の知人ということで、王弁を臨賀城内の薬種屋周典に紹介する。

周典王弁が”通真先生”であることを知ると、自身の病を治して欲しいと訴えた。

眠ると夢のなかで使用人として働かされるのだという。

僕僕先生の用意した薬で、周典の夢に入り込んだ王弁だったが、そこは周典の店の使用人趙呂が主人となり、周典が使用人となっている世界だった。

 

天蚕教主(惑う殺し屋)

臨賀を離れ、更に南下を続ける僕僕先生たちの前に現れたのは、数人の官吏と20人ほどの兵士。

彼らは僕僕先生たちを丁重にもてなしながら、梧州蒼梧に案内する。

城内での酒席で妖艶な女性の姿になった僕僕先生に視線が集中するのが王弁には面白くない。席を抜け出した王弁の前に姿を現わしたのは長沙で出会った面縛の道士

彼は王弁に長沙でのことを謝罪するとともに、僕僕先生王弁の関係を劇的に変化させる道を示すであろう存在を示唆した。

蒼梧で神と崇められる存在が蚕室にいるというのだ。

一方、胡蝶房の裏切者として追われる劉欣だったが、依然僕僕先生の後を追っていた。今回劉欣に迫ったのは劉欣が養成した使い手元綜。両親を人質にとられた劉欣僕僕先生らを始末するしか手がなかった。

蚕室に向かう王弁を追った劉欣王弁が巨大な蚕と言葉を交わすのを目撃するが、頓着せずに吹き矢で巴蛇の毒を放つ。

しかし、そこに現れ、吹き矢を払ったのは薄妃だった。

薄妃から逃げようとする劉欣を捕まえた僕僕は、どさくさに紛れて蚕を持ち出そうとする面縛の道士を撃つよう劉欣に命じる。

 

回来走去(誰かのために流す涙)

蚕嬢と名付けられた蒼梧の蚕が吐き、薄妃が紡いだ糸を僕僕先生が織り上げた布で、薄妃の衣が出来上がった。

既に食事をし、体を維持することのできるようになった薄妃はこの衣で、醴陵に帰るのだ。

寂しく見送る王弁だったが、僕僕先生は(蒼梧から旅の道連れとなった)劉欣薄妃のあとをつけさせるのだった。

意気揚々と醴陵に戻った薄妃を待ち受けていたのは、賈震の結婚という事実だった。

消沈し、路傍の柏の枝に引っかかって揺れる薄妃を見つけた劉欣に、薄妃賈震と妻、そして自身を殺すことを依頼する。

 

恩讐必報(失くし物、見つけた物)

広州に辿り着いた一行は苗族の商人に扮すると、苗の商館に向かった。そこで出会ったのは衡陽の市場で黒卵に殺されそうになっていた苗族の二人の兄妹だった。

引飛虎推飛虎と名乗る兄弟は僕僕先生たちを歓待する。商館に泊まった僕僕先生たちだったが、その夜、元綜が演出した騒ぎか、苗族が二つに分かれて争う騒ぎが起こる。

激しくなる騒乱を収めたのは薄妃だった。

実際には僕僕先生薄妃の体に蚕嬢の人格をおさめて、解決させたのだ。

翌日、僕僕先生らを訪ねてきた引飛虎神姫との面会を求めた。

神姫とは、六合峰の頂にある社で12年おきに行われる信託で選ばれる巫女のこと。神の妻とも呼ばれる神姫は峰の麓の苗族をまとめていたが、ある日姿を消したことを契機に麓の苗族も峰西と峰東に別れて争うようになっていたのだ。

しかし、僕僕先生は、自分勝手なことを数え上げる引飛虎らに蚕嬢神姫)を渡すつもりはなかった。

そんななか、商館を正規の軍隊が取り囲んでいた。

これを指揮する元綜を目指した劉欣だったが、これは罠だった。誘い込まれた劉欣元綜に弄ばれ、いたぶられる。愛する者を殺すことに喜びを感じる元綜は喜々として劉欣を追い込み、劉欣の命も風前の灯。しかし、仙骨の力を無意識のうち発動させた劉欣元綜を撃退することに成功した。

一方、僕僕先生もまた敵方の術師の力もあり、多くの者を守ることは難しかった。蚕嬢の助言もあり、秘密の地下通路から引飛虎ら苗族を逃がしたものの、僕僕先生たちにはこの難局を打開する方法がなかった。

 

薄妃の話は今回で決着してしまいましたね。でも、このまま道連れのままというのは、これから薄妃の素性探しもあるということなのでしょうか。まぁ、その前に、蚕嬢の神姫への回帰など苗族の話でゴタゴタしそうですが。

ちょっと、このシリーズの中では異色のキャラクター劉欣ですが、仙骨があり、その使い方も知ったわけですから、今後は仙人への道を歩んでいくんでしょう。

また、登場しました面縛の道士。これ一体なんなんでしょう?王方平の弟子なのか、そうでないのか、よくわからない存在ですね。この正体が明らかになるエピソードもあるんでしょうね。

こう考えると、まだまだお話は続いていきそうです。

でも、王弁は最後的にはどうなるんでしょうか。

今回は明らかに次巻へ続くという感じが色濃く出ていますので、次巻を楽しみに待ちましょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『悶絶スパイラル』 三浦しをん

Monzetsu 2009年、57冊目。三浦しをん『悶絶スパイラル』

『乙女なげやり』『桃色トワイライト』に続くエッセイ。

まぁ、いつものノリです。

自堕落というか、自分の趣味だけに生きている感じの日常を綴る。

最近、”無気力のまま食べ続けて超肥満”といったような番組をみましたが、なんとなく、そんなふうになってしまうんじゃないの、と心配になるような日々です。

 

まえがき「衝撃インペリアル」

 

一章 魂インモラル

 きれいなお姉さんも下痢で苦しみます[弟]

 ボギーは肉をがっつく[アパートの学生たち]

 月日は百代の過客にして、しかももとの水にあらず[男友だち、友人Mちゃん]

 唄ってよイカリちゃん、ダメ人間のテーマを![友人あんちゃん、イカリちゃん]

 迷い猫の論理[タクシー運転手]

 ききみみ頭巾[ファミレスの若い男性3人組、担当編集者Cさん]

 いろいろ滴る[友人ぜんちゃん、友人あんちゃん、堂本剛]

 家族サービスのありかた[父、母、弟、ゲイカップル]

 時の流れに身を任せすぎ

 なんでもベスト5「私のイタ・セクスアリス漫画」「泣ける漫画」

 

二章 日常ニュートラル

 頼むから手は洗ってください[父、母、弟]

 悪霊に取り憑かれる[女犯坊、あんちゃん、オダジョー、寄付を募る少年]

 波紋法でこなごなにしちゃってください[友人H、えなりさん、漫画愛好家友だちUさん]

 スタンド「三人称」[レジの店員]

 なんだかんだで楽しくすごす[レミングくん]

 怒りの反射速度[古本屋のアルバイト仲間(あんちゃん、女犯坊、ふーみんさん、タミーさん)]

 すべて感性で乗りこえろ[死国のYちゃん]

 革命を我に![母、父]

 なんでもベスト5「理想のヒーロー」「理想のヒロイン」

 

三章 豪速セントラル

 かなわぬ夢を夜に見る[タクシー運転手]

 新作落語「カツラ山」[友人ナッキー、友人H、ぜんちゃん]

 怠惰な生活[「ロハス」を聞く知人]

 おそるべき計測器[知人のOさん]

 理不尽な思考回路[母、蕎麦屋の主人、蕎麦屋の奥さん]

 手を取りあって生きていこうよ[ヤモリ、友人H]

 島根紀行 その一

 島根紀行 その二

 なんでもベスト5「ダイエットを決断した瞬間」「死ぬかと思った瞬間」

 

四章 妄想カテドラル

 Tシャツ三昧[弟]

 日はまた昇る[友人あんちゃん、知人の弓さん]

 難問もんもん[文部科学大臣]

 そろそろ血管が切れるころ[父、母、弟、親戚のチビッコたち]

 さぼってたあいだにしたこと[タクシー運転手、父]

 いいかげん大人になりたいものだ[アパートの住人、友人あんちゃん、国立劇場の老婦人]

 今生は手一杯[友人あんちゃん]

 桃色禅問答[古本屋のアルバイト仲間(女犯坊、ふーみんさん、Mさん、あんちゃん)]

 このごろのあんちゃんと私[友人あんちゃん]

 なんでもベスト5「宝くじで一億円当ったらなにをする?」「透明人間になったらなにをする?」「ドラえもんの道具でほしいもの」

 

あとがき「ひげもじゃアドミラル」

 

 

今回は珍しく大河ドラマの話はなかったですね。

殆どがいつものとおり、どうでも良い話ばかりなんですが、真理を説くような話が唐突にあって驚きました。

唄ってよイカリちゃん、ダメ人間のテーマを!

タイトルからしてふざけているようにも見えますが、内容はなかなか辛辣です。わかるんですけど、その大人の批判はイカリちゃんには可哀想にも思えてしまいます。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』

Jiu2 2009年、56冊目。誉田哲也『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』

「ジウ」シリーズ2作目。

前作では警備部長のところへ伊崎基子が乗り込んでいって終わりましたが、その決着は若干肩透かし。

基子は昇進を勝ち取るんですが、現場に立ちたい基子にとって、そんなに昇進って重要なんでしょうか。ちょっと違和感のある決着ですね。その昇進のために、SATを去らなければいけないとなれば、なおさら疑問も残ります。雨宮が殉職したからって、それが基子のモチベーションにどれほど影響があるというのでしょうか。

さて、SATを去った基子ですが、本質的には何も変わらないわけですから、もう一人の主人公門倉美咲とのあいだに交点が生まれることはありません。

むしろ、ジウのターゲットとなった基子が秘かに追い込まれていくというところが、今作のメインでしょう。

 

太田警備部長にとって基子が苦情を言いに来るのは予想済み。写真週刊誌に情報を流したのはそもそも太田だったからだ。

久しぶりのSAT出動に際して殉職一人という実体がクローズアップされることで、SATに批判的な世論が形成されることを怖れた太田は世の目を逸らさせるために、基子に注目を集めさせたのだ。

釈然としない基子ではあったが、その代わりとして、一階級特進(巡査部長昇進)を太田に認めさせることで手を打つ。昇進した基子は同じ部署にはいられない。SATを出て、配属になったのは、上野署交通捜査課。

捜査に加わった基子だったが、写真週刊誌で注目を浴びた基子にはマスコミがついて回った。捜査を進める事案の容疑者が政治家の息子であったことから、マスコミの注目を集めることはマズイ。基子は捜査自体に面白みを感じていなかったこともあり、自身から身を引くことを申し出た。

これで暇になった基子に近づいてきたのは写真週刊誌に基子の記事を掲載させたフリールポライター木原毅。現在、仕事を干されている木原は危険なネタの取材に、基子の協力を求めた。

木原が狙っているのは”ジウ”。警察のジウ捜査網が歌舞伎町一帯に広がる中、同じく暴力団も独自にジウを追っていた。どうもジウは拳銃を入手するため、手当たり次第に、歌舞伎町にある組事務所を襲っているらしいのだ。

「利憲くん誘拐事件」「沙耶華ちゃん誘拐事件」等の裏に存在し、冷酷な手口を繰り返すジウの話に、危険を欲する基子はひかれていった。

一方、「沙耶華ちゃん事件」で逮捕された竹内亮一を尋問する美咲だったが、なかなか竹内の重い口を割らせることはできなかった。怪我をおして復帰した竹内の動機を調べるが、竹内が語りはじめた話は誰もが納得できる内容ではなかった。

現在の社会秩序を否定し、新秩序を目指す独自の概念に、美咲も戸惑うばかりだった。竹内ジウとの接点として同じ隊の西尾克彦の名を挙げるが、西尾は既に失踪した後だった。次に、ジウの犯行のヒントとして竹内が挙げたのは新日本大学教授の宇田川光浩の名だった。

宇田川に事情聴取をした美咲宇田川の態度から、宇田川の娘が誘拐されたことがあるのではないかと睨み、自宅へ事情聴取に訪れる。観念した宇田川の妻律子は娘が誘拐されていたことを告白し、もまた誘拐された際のことを語る。しかし、ジウを崇拝するかのように語るの口調に美咲たちは不安を感じていた。

一方、歌舞伎町の組事務所を見張っていた基子たちはついにジウに遭遇する。逃げるジウを追いかけた基子は、ジウと対決するが、手も足も出ない。あっさりとジウに屈し、監禁されてしまう。

薄暗い部屋に監禁された基子のもとへ現れたのはレスラー崩れの男。基子を殺そうとする男に基子も反撃し、男の首を締め上げる。その最中、基子は「殺しちゃおうかな」と考えるや、そのまま男の息の根を止めてしまう。

その後、ナイフを持って現れた少女(宇田川舞)も躊躇なく、殺してしまう。

次に現れたのは木原毅だった。木原基子ジウに殺させるために雇われていたのだ。武器を取り上げられた基子木原の頚動脈を食いちぎり、木原をも殺してしまう。

気がついた基子の前に現れたのはジウのパトロンを務める男、宮路。新潟の寒村から覚醒剤を足がかりに、力を手に入れた宮路は政財各界に影響力を有していたが、ジウと共感する新世界秩序の実現のため、奔走していたのだ。

宮路基子の”人を殺すことを躊躇わない”素養を賞賛し、仲間になることを勧める。虚脱状態の基子だったが、殉職した雨宮が実は宮路らの同志であったことを知り、仲間になることを肯うのだった。

美咲の携帯が鳴った。基子の携帯からかかった電話は、男の声で、基子を拉致し、解放することを告げた。新宿コマ劇場前に呼び出された美咲は、いくつかの場所を引き回された後、大久保公園前で基子を保護した。しかし、基子に感謝の色はなかった。

その頃、城西信用金庫西大井支店で強盗籠城事件が発生していた。その犯人の一人が失踪した西尾克彦であることが判明し、捜査本部は一気に緊迫感を増す。

この籠城事件に突入したのはSAT第一小隊。しかし、突入するや店舗は爆破され、突入部隊は事件関係者諸共、壊滅する。

SATでは第一小隊を再編成するため、新たに隊員を採用するが、その際、制圧一班を率いる班長に任命されたのは基子だった。

 

前作ラストで漸く登場したジウですが、残念ながらこの作品でもあまり出番は多くはありません。最終巻で大きく前面に出てくるのか、あるいはジウは象徴でしかないのか、そんな疑問を残したまま次巻へ続いてしまいます。基子ジウ側に取り込まれてしまって、この話、いったいどうなってしまうんでしょう。

今作ではジウの実質的なパトロンである宮路の生い立ちが延々と語られます。凄惨といえば凄惨な生い立ちですが、なぜここまで細かく描写したんでしょう。それは最終巻で意味を持ってくるのでしょうか。少なくとも、この巻単体では、情報過多でちょっと浮いてしまっている感じです。

基子には大きな変化が訪れるわけですが、美咲の方は今回あまり出番なしというか、あまり変化はないですね。殆ど竹内の尋問であったり、のことで気を揉んだり、とか、ストーリーの牽引面ではあまり役にはたっていない。

いってしまえば、今作はジウまたは宮路が絵を描いて、それに皆が乗せられて、流されていっているだけ、ということなのかもしれません。警察側が主体的に動いているような感じはしないですね。

宮路のシンパである警察幹部は誰になるんでしょうか。やはり太田なんでしょうか。

さて、最終巻はどうなるんでしょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]』

Jiu1 2009年、55冊目。誉田哲也『ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]』

姫川玲子シリーズとかぶっている警視庁捜査一課の別シリーズ。

一瞬、今泉とすれ違ったり、日下が登場するシーンもあって、同じ舞台上の別の話という趣きがあります。両シリーズの主人公たちが、同じ現場に立って共闘するという可能性も感じさせないではありません。

とはいえ、二人の主人公門倉美咲伊崎基子も早々に捜査一課から離れてしまっているので、どこまで接点があるといってよいのか。また、主人公らの在り様も、ちょっと姫川玲子とは異なっており、あまりうまく噛み合いそうにはありません。

まぁ、今後のことはとにかくとして、全く性格の異なる二人の主人公が、(お約束のような協力関係を持つことなど一切なく)別々の視点で、別々の向きに進んでいく話になっており、なかなか馴染みのない面白い(興味深い)ストーリー展開になっています。

 

警視庁捜査一課第一特殊犯捜査第二係(麻井憲介係長警部以下13人)。

門倉美咲は目白署交通課から抜擢された巡査。営利誘拐を想定した訓練で見事に演技してのけた美咲は「カンヌ」と呼ばれて親しまれ、美咲も第二係に居心地のよさを感じていた。

一方、美咲よりも年下の巡査伊崎基子は実戦をこよなく愛し、そのために警視庁に入った変り種。協調性よりも自身を鍛えぬくことに熱心な基子は、演技とはいえ簡単に泣けてしまえる美咲のことを軽んじていた。

荻窪署管内で立て籠もり事案が発生した。

職質をかけた地域課警官に切りかかった不審者は、逃げ込んだ民家の住人伊東久子を人質にとって立て籠もったのだ。

食事の差し入れに民家に立ち入った美咲だったが、犯人に人質をとられた状態で、服を脱ぐよう命じられる。従った美咲は下着姿のまま、久子とともに縛り上げられてしまう。

逃走しようとする犯人は美咲らを連れて玄関に出てくると、突然大声をあげる。激昂した犯人に切りつけられた美咲は、左肩から喉元にかけて16センチの切創を受ける。しかし、その場で基子が犯人を取り押さえた。

この玄関先に下着姿で現れた美咲の写真がタブロイド紙1面を飾る。これを見た刑事部長(警視長)西脇吾郎はキレる。「利憲くん誘拐事件」で失態を演じて警備部長の太田から揶揄されていた矢先のことだったからだ。

西脇美咲を所轄に飛ばすように命じる。不可抗力であることは誰の目にも明らかであったが、麻井にも捜査一課長(和田)にも西脇を制止することはできなかった。

しかし、この「写真」をキーワードに麻井には一つ気がついたことがあった。

今回捕まえた犯人岡崎和紀(42)が「利憲くん誘拐事件」の犯人の一人に似ていたのだ。

捜査一課特設現場資料班の警部補から入手した似顔絵は確かに岡崎とよく似ており、加えて岡崎の有していた現金の札番号も「利憲くん誘拐事件」の身代金のものと一致したのである。

美咲麻井の配慮により碑文谷署生活安全課に配属されるが、実質は碑文谷署におかれた「利憲くん誘拐事件」の帳場で捜査を担当することになった。

一方、立て籠もり事件の犯人岡崎を見事逮捕した基子は、警備部長太田信之警視長に呼び出され、警備部の特殊強襲部隊(SAT)にスカウトされる。

危険に身を晒したい基子はそのスカウトを了承する。

SATの入隊試験も無事に合格した基子だったが、SATの同期の訓練生3人がシャワーを浴びたばかりの基子を襲う。しかし、基子は完膚なきまでに3人を叩きのめすとともに、SATからもたたき出した。

そんな基子に興味をもったのはSAT第一小隊の雨宮崇史巡査。雨宮に他には感じない強さを感じる基子は、宗教のように「愛」を語る雨宮に閉口しながらも、雨宮と付き合うようになっていった。

美咲も「利憲くん誘拐事件」を取り仕切る本庁捜査一課殺人犯三係東弘樹警部補とともに捜査に参加する。

碑文谷署に移送された岡崎を尋問する美咲は、主犯が身元不明の”ジウ”と名乗る少年であることを突き止める。

岡崎の証言から確認された拠点を探るなかで、誘拐事件実行犯の三人の中国人が殺されているのが発見される。

ジウ”の拠点が廃墟であることを知ったたちは手分けして都内の廃墟を調べ始める。

空振りが続くが、少しずつ”ジウ”の痕跡も見つかる中、険悪となっていた班の空気も少しずつ穏やかなものにかわっていった。

そんなとき、葛西臨海公園近くの花村旅館ホテル跡で、まだ新しい”ジウ”の痕跡が発見される。

たちは同ホテルを見張ってジウを待ち構えるが、そこへ現れたのは誘拐した少女”本木沙耶華”を連れ込もうとする犯人たちのグループだった。らは期せずして、別の誘拐事件の現場に立ち会ってしまったのだ。

太田警備部長のごり押しで、現場に急行させられたのはSAT。

ホテル内で見張っていた美咲は犯人たちがホテル内に入ってきたことで身動きがとれなくなっていた。携帯電話もつながりにくい中、美咲は隠れて様子を伺う。監禁されている少女を救おうとしただったが、逆に捕まってしまう。

一方、現場に到着したSATではホテルの屋上から潜入しようとするが、雨宮が屋上に達したところで、銃を持った犯人に雨宮は左肩を撃たれてしまう。なんとか屋上へ辿り着いた基子は負傷した雨宮を残し、一人ホテル内に潜入していった。

麻井と連絡のついた美咲は、犯人たちの居場所を確認するよう命じられる。そんなとき、雨宮たちの起こした騒ぎで犯人が部屋を空にする中、美咲沙耶華を確保することに成功した。

SATと犯人たちの抗争が続く正面玄関を避け、沙耶華を連れて非常階段に向かった美咲だったが、そこで犯人の一人と鉢合わせしてしまう。その悲鳴を聞いて駆けつけた雨宮だったが、沙耶華を人質にとられ、銃を放棄させられてしまう。

雨宮沙耶華を庇って、犯人の無数の銃弾を浴びて殉職する。

基子は犯人を容赦なく一人ずつ排除していく。最後の犯人は雨宮を殺し、美咲の右耳を切り裂いた男。

犯人は美咲に銃を突きつけて人質として利用しようとするが、基子に全く躊躇はなかった。歩を進めると、強引に犯人を確保するのだった。

雨宮を殺し、美咲を人質にとったのは元自衛隊第一空挺団の竹内亮一(29)。そのほか、通訳として笹本英明のほか、三人の中国人が誘拐に加わっていた。

5人はそれぞれジウに誘われて今回の犯行に加わっていたが、肝心のジウは現場には不在だった。

事件の3日後、写真週刊誌に基子の写真と経歴が載る。驚きと憤りの中、基子太田警備部長の部屋へ押し入った。

 

なかなか面白い登場人物ですね。

門倉美咲はあまりこの手の作品には合わないタイプの性格設定ですね。真面目ではあるんでしょうが、どうもおっとりしているというか、目先の捜査よりものことばかり考えているというか、どうも調子が狂うような気が抜けるタイプです。

一方で、基子の性格設定は、これは全く事件の「犯人像」ですね。あるいはダーティーヒーローとでもいうのでしょうか。少なくとも警察に所属するものの姿、性格ではないですね。まぁ、これが次巻以降意味を持ってくるのですが・・・。

このシリーズ、一冊、一冊で完結しているというよりも、三巻『ジウⅢ』まで延々続く話を単に切りのいい(?)ところで、切っているという感じです。この一巻にしても、基子太田のところへ怒鳴り込んでいったところで終わっていますし・・・。なぜ、一冊にしなかったんでしょう。

まぁ、仕方がないので次に『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』を読みましょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『喋々喃々』 小川糸

Chou2nan2 2009年、54冊目。小川糸『喋々喃々』

一応、妻子ある男との不倫(?)というような主筋と複雑な家族関係や別れた恋人の消息等の脇筋もあるんですが、どうもメインは東京の下町・谷中の歳時記といった印象の強い作品です。

はっきりと章立てはされていませんが、1月から12月まで一月一話という構成になっており、その四季折々の行事を巡っていく、といった佇まいです。

 

横山栞は東京・谷中でアンティーク着物の店「ひめまつ屋」を営む。そこを訪れるのは、客のほか、茶のみ話に訪れるまどかさん、靴のお下がりを持ってくる、近所の寺の住職夫人”イメルダ夫人”等多彩。

正月もあけ、仕事始めの日。「ひめまつ屋」を訪れたのは、初釜の着物を探しにやってきた木ノ下春一郎だった。妻も子”小春”もある春一郎に惹かれるだったが、春一郎もまたに惹かれるようになっていく。

清い交際を続ける春一郎の家庭を壊すつもりは毛頭なかった。

の両親もまた母親の不倫をきっかけにして離婚しており、の家族関係も複雑だったのだ。

両親が離婚したときには父親についていっただったが、今は北陸で自給自足の生活を送る父とは音信もまれになっていた。父は北陸で同じくバツイチの染色家鈴乃と再婚していた。

母親良子の妹花子、不倫した若い美容師との間にできた娘楽子とともに三人暮らし。良子は今は若いロックバンドの追っかけをやっている。

花子はちょっと変わったアルバイトをして生計を立てており、ひめまつ屋とも関係があった。外国から来た観光客と着物を着て手をつないで表参道を歩くというアルバイトがそれだ。はデートクラブもどきと心配するが、花子は国際交流といって譲らない。また、花子はかつてが付き合っていた雪道を別れさせる原因を作ったとの負い目をもっており、もまだ少なからず根に持つところもあった。楽子は感受性が強く、通う学校からは特別学級や専門の学校に移るよう勧められていた。

1月:

ひめまつ屋に木ノ下春一郎が客としてやってくる。

[(まどかさんのお土産)桃林堂:五智果]

2月:

千駄木倶楽部でお茶(あずきオ・レ)をしているところで、外を歩く春一郎に気づいて声をかける。

後日夕刻、春一郎がパンを持って、ひめまつ屋を訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)オザワ洋菓子店:いちごシャンデ]

3月:

TIES」で待ち合わせした春一郎と湯島天神の梅を見に行き、初めて気持ちを確認する。

父親が万引きで捕まり、花子と二人で北陸の父のもとへ。鈴乃は家を出て行っていた。

4月:

夜桜をみるため、春一郎がひめまつ屋にやってくるが、雨のため行かず。後日、谷中霊園の鬱金桜を見に行く。

ひめまつ屋()をひいきにしてくれる老人イッセイ早乙女一成)さんが入院していることをイメルダ夫人から聞き、見舞いにいく。

[(まどかさんのお土産)イナムラショウゾウ:シュークリーム]

5月:

海外出張に向かう春一郎の無事を根津神社に祈る。

人手の増えるゴールデンウィークに、店を手伝いにやってきた花子がひめまつ屋に泊まる。花子はあらためて雪道とのことを謝罪する。

6月:

退院したイッセイさんとデート(天丼屋→甘味処→アンヂェラス)。

春一郎と鳥鍋。

7月:

隅田川花火大会の日。突然、鰻重をもって春一郎が訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)つる瀬:餡蜜、白玉ぜんざい]

8月:

鈴乃が上京した機に、ひめまつ屋に立ち寄る。父とはうまくいっている模様。

雪道の妻聡美がひめまつ屋を訪ね、手紙を置いて去る。

手紙には、雪道が4年前に病を得て亡くなっていること、それ以降の年賀状や暑中見舞いは事前に書かれていたものを聡美が投函してきたものであることが記されていた。

9月:

雪道からの葉書を見返して、思い出にひたる。

春一郎と向島百花園の月見の会に行く。

10月:

春一郎とともに雪道の墓参り(御殿場線松田)に行く。帰り、途中で別れた二人だったが、春一郎はひめまつ屋前でを待っていた。

11月:

栗ご飯を作りに花子たちが暮らす都営住宅を訪ねる。もう花子とは家族には戻れないことを痛感し、離婚の重さを思い知る。

楽子から風邪をうつされて寝込むの看病に春一郎がひめまつ屋を訪れる。これ以上、春一郎に溺れ、春一郎の家庭を壊すことを怖れた春一郎に別れを告げる。

イッセイさんからデートの最中、谷中から離れて娘夫婦(湯河原)と同居することを告げられる。

12月:

花子が留学の決意を伝えにやってくる。

大晦日、すきやきの材料をもって、春一郎がひめまつ屋を訪ねてくる。

 

谷中あたりの風物詩を綴る話がメインで、何となく、ストーリーは付け足しのような感じがしてなりません。

全体の話が淡くて、春一郎との話もどうでもいいようなものが多く、結局何だったんだろうという感じです。春一郎も女々しい男というか、非常に虫のいい男という感じがして、あまりいい印象は持てません。

特に、家庭のことをどう思っているのかが全くわからず、勘繰れば、結局はのことを都合の良い女としてみているだけの嫌な男にも見えます。一方で、に惹かれているものの踏ん切りのつかない優柔不断な男なのか、というあたりが判然としません。

の複雑な家族関係も今ひとつ整理されないままに放置されており、実話なら「1年で何もかもが整理される訳がない」と納得もいくところではあるんですが、小説だと、こう落ち着き悪いまま終わってしまっていいの、という不安感が残ってしまいます。

結局、何なんでしょうか。作者が直接的な表現を避けるあまりに、ストーリーがぼんやりとしてしまったということなんでしょうか。

前作『食堂かたつむり』と同様、食べ物の話が出てきて、特に実在する店のお菓子だとか雰囲気があって良かったんですが、だからこそ、いずれにしても谷中近辺の観光案内の色合いが強く感じられます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『恋文の技術』 森見登美彦

Koibumi 2009年、53冊目。森見登美彦『恋文の技術』

何ていったらいいんでしょう。

書簡集です。それも往復の書簡ではなく、たった一人の書いた手紙だけが綴られます。相手の返事は主人公の書く内容から類推するしかありませんが、それでも十分に阿呆が滲み出た話になっています。

作者である森見登美彦を含め、いろいろな人物が登場し、『夜は短し歩けよ乙女』のいくつかのエピソードは、この作品の主人公守田一郎によりもたらされたという裏話も示されます。

 

卒業後も大学院(研究室)に残った守田一郎だったが、その甘えた根性を教授に喝破され、能登半島七尾にある能登鹿島臨海実験所でクラゲの研究をすることを命じられる。この人里離れた研究所では、鬼軍曹ともいうべき谷口誠司が待ち構え、来る日も来る日も守田を無知呼ばわりする。そんな中、守田は一念発起し、この機会を利用して「恋文の技術」を開発すべく、文通武者修業に邁進することを決意した。

そんな彼の書簡集。

4月9日

 (小松崎友也宛)文通武者修業決意の表明。

 (大塚緋沙子宛)近況報告。相変わらず、研究室で傍若無人に振舞う大塚への苦言。

 (間宮少年宛)近況報告。

4月14日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡①

4月15日

 (小松崎友也宛)花見会報告の礼。小松崎からの恋(花見会で一目惚れした三枝さん)の相談に、吉田神社に願をかけることをアドバイス。

4月16日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師に不安がる間宮少年への助言。

4月19日

 (大塚緋沙子宛)花見会報告の礼。

4月23日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師を追い出して得意がる間宮少年への苦言。「おっぱい」から卒業するようにとの助言。

4月29日

 (守田薫宛)近況報告。人生相談の受付希望。ビデオデッキの要請。

4月30日

 (小松崎友也宛)近況報告(和倉温泉へ谷口さんといったこと)。

 (伊吹夏子宛)失敗書簡②

5月2日

 (大塚緋沙子宛)小松崎に「恋が成就するまではパンツを脱がないことを吉田神社に誓わせる」ようなことがないよう苦言。就職した伊吹夏子の近況報告の礼。

5月11日

 (小松崎友也宛)三枝さんに向けた小松崎の詩にダメだし。迂遠なことをするよりも、まず三枝さんのことを知るべしと助言。

5月13日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師マリ先生とうまくやっている間宮少年への賞賛。マリ先生の書く森見登美彦へのファンレターに嫉妬する間宮少年へ、森見登美彦の住所を教える。[天狗ハムを送る]

5月15日

 (大塚緋沙子宛)「能登の海で雌イルカを追い回している」とのデマを流すことへの苦情。

5月18日

 (森見登美彦宛)近況報告。文通へのお誘い。

5月21日

 (大塚緋沙子宛)伊吹さんが某男性と幸せにやっているとの情報への礼。伊吹さんの恋人の素性情報を乞う。[天狗ハムを送る]

5月27日

 (守田薫宛)ビデオデッキの礼。もうちょっとやわらかい相談を希望。[天狗ハム送る]

5月29日

 (森見登美彦宛)近況報告(和倉温泉に行ったこと)。森見のところへ届いた脅迫状は守田一郎が家庭教師をしていた小学生のものらしいことを報告。どんな美女でも手紙一本で籠絡する「恋文の技術」伝授を懇請。

5月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡③

6月4日

 (間宮少年宛)近況報告(羽咋へUFOを見に行ったこと)。森見登美彦間宮少年が送った手紙は「脅迫状」にあたることを戒める。マリ先生にストーカーがいるとの報告は誤解だと。

6月5日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(羽咋へUFOを見に行ったこと)。

6月10日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(和倉温泉に行った際に谷口に置き去りにされたこと)。伊吹さんの恋人の素性情報の督促。

6月11日

 (森見登美彦宛)ファンレターへの返事も出せない森見に代筆の提案。処女作の文庫化祝。伊吹さん、マリ先生、守田の妹森見ファンであることへの疑問、妬み。

6月12日

 (森見登美彦宛)長い長い追伸への苦言。「これを書いている間に仕事しろ!

6月13日

 (森見登美彦宛)「森見さん、あんた手紙書きすぎ。」「人生と小説の行く末を相談されても困ります。

6月16日

 (小松崎友也宛)研究室の仲間たちと金沢まで来ておきながら、寄らなかったことへの苦情。三枝さんのストーカーと化している小松崎へのダメだし。

6月17日

 (間宮少年宛)近況報告(和倉温泉に行ったこと)。マリ先生のストーカーをつけ、その男を操る謎の女の存在を確認した間宮少年の身を危ぶむ。

6月20日

 (大塚緋沙子宛)金沢まで来ておきながら、研究室の面々に「文通武者修行中」の守田には会わないようにとのお達しを出したことへの苦情。伊吹さんが三枝さんとともに、森見登美彦と「東華菜館」で食事をしたとの情報感謝。伊吹さんの恋人の素性情報の再督促。

6月21日

 (森見登美彦宛)近況報告。ファンレターへの対応等、助言。

6月23日

 (守田薫宛)森見登美彦に近づくことへの警告。

6月29日

 (大塚緋沙子宛)伊吹さんの恋人評価に関する報告の礼。恋人の名前を求める。

6月30日

 (小松崎友也宛)森見登美彦女性ファンクラブ「大日本乙女会」に加盟する三枝さんの機嫌を治すため、お菓子を買い与えろとの助言。

7月3日

 (守田薫宛)子どもの頃の「督促状」を送ってきたことへの苦情。高等遊民を目指す妹への苦言。

7月5日

 (森見登美彦宛)近況報告(円形脱毛、ダルマをかじったこと)。「三嶋亭」のすき焼きの描写への苦言。ナメクジ退治方法伝授の礼。

7月10日

 (小松崎友也宛)小松崎三枝さんに買い与えた「ぷくぷく粽」の責任を転嫁されるのは筋違い。見舞いには花を持っていくようにとの助言。

 (間宮少年宛)近況報告(駅そばの本屋でビデオを借りて観ていること)。マリ先生がおなかを壊したとの報に、見舞いはマシマロではなく、花がいいとの助言。

7月12日

 (大塚緋沙子宛)昨年の七夕、大塚の命で植物園に竹を切りにいかされ、管理人に見つかった後、大塚が逃げたことへの苦言。小松崎の件の報告。伊吹さんの件についての慰めの礼。伊吹さんの恋人の更なる情報の要請。

7月13日

 (森見登美彦宛)森見のかつてのアドバイスに従って小松崎に「花を持っていけ」とアドバイスできたことへの感謝。就職を考えていることの告白。

7月15日

 (小松崎友也宛)三枝さんは、小松崎が見舞いに持っていったカーネーションのアレルギーだったと言われても困る。恋愛指南からは手を引くと通告。

7月16日

 (間宮少年宛)「ぷくぷく粽」のキーワードからストーカーの正体が小松崎であることがわかり、小松崎を庇う。マリ先生への見舞いから、宵山デートが決まった間宮少年への賞賛。

7月22日

 (小松崎友也宛)祇園祭の宵山で三枝さんに出会ったこと。そこで三枝さんが逃げ出したこと。小松崎がインドへ逃げようとしていること。断片的な情報しかない小松崎の手紙の詳細を求める。

 (大塚緋沙子宛)錯乱してインドへ逃げようとする小松崎をひき止めるよう要請。伊吹さんの恋人が「人畜無害のふりをして、言葉巧みに乙女たちをたぶらかし、日本全土を股に掛けた恋の火遊びに耽っているプレイボーイ」であるはずがないと断言。

7月23日

 (森見登美彦宛)小松崎の恋の迷走についての報告。

7月28日

 (守田薫宛)研究室へ赴いた由の報告に、小松崎を庇う。兄の心配をする妹に心配無用。

7月29日

 (間宮少年宛)マリ先生小松崎と付き合うことになったことへの慰め。

7月30日

 (小松崎友也宛)なぜか、三枝さんとうまくいってしまった小松崎へ、文通はやめるとの通告。

7月31日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡④

8月1日

 (森見登美彦宛)小松崎の恋がうまくいったことへの愚痴。大塚伊吹夏子にかかる大嘘についての愚痴。森見への牽制。近況報告(和倉温泉で「金曜倶楽部」と名乗るおっさん連中に全裸に剥かれてしまったこと)。

8月2日

 (大塚緋沙子宛)小松崎の恋の大団円の報告感謝。伊吹さんの恋人の件が大嘘であったこと、守田をもてあそんだことへの大苦情。この恨みをはらすとの予告。

8月6日

 (小松崎友也宛)絶縁状を出したにも関らず、手紙を書いてくる小松崎への苦言。守田の不幸のうえにあぐらをかいている小松崎へ自省を求め、自身を見つめなおすことを求める。

8月8日

 (森見登美彦宛)なにもうまくいかないことへの愚痴。恋文代筆のベンチャー企業創設の誓い。

8月9日

 (間宮少年宛)和歌山からの手紙への返礼。南方熊楠記念館の推奨。

8月11日

 (小松崎友也宛)「おっぱい」への憧憬を断ち切れない小松崎の告白文への驚き。「おっぱい」問題を乗り越えるよう励ます。

8月12日

 (守田薫宛)兄の心配は無用。

8月15日

 (小松崎友也宛)「方法的おっぱい懐疑」の提唱。

8月16日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑤

8月17日

 (間宮少年宛)古本市の報告の礼。

8月18日

 (小松崎友也宛)「おっぱい」問題再考。

8月19日

 (森見登美彦宛)五山送り火を美女たちと眺めた森見への妬み。森見の小説への忌憚ない意見(御都合主義的すぎます)。

8月20日

 (間宮少年宛)京都へ行くことの報告。三嶋亭への招待。

8月21日

 (小松崎友也宛)近況報告(小松崎との文通に毒され、何もかもが「おっぱい」化していくこと)。①おっぱい絶対主義を打ち砕くこと、②研究室における大塚緋沙子の支配を覆すため、8月25日、京都に向かうことの予告。

8月22日

 (森見登美彦宛)新作原稿で守田からの文通が数々使用されていることへの苦情。明日、森見のところへ原稿料を取りに行くとの宣言。三嶋亭へ連れていけと。

8月25日

 (小松崎友也宛メモ)研究室へ寄ったこと。

8月27日

 (小松崎友也宛:京都駅近鉄名店街「ジェーン」にて)25日の出来事の振返り(三嶋亭森見間宮少年が姿を消した後、研究室のプロジェクターで拡大した「おっぱい」を鑑賞していたところを、森見間宮と連れ立ってやってきた「大日本乙女会」の面々(伊吹夏子三枝麻里子守田薫)に見られてしまったこと)。呟き、面々に聞かれてしまった「おっぱい万歳」への言い訳。

 (大塚緋沙子宛)研究室の大塚のパソコンを盗んだことの犯行声明。要求は①今後、守田一郎を顎で使わない、②朝と晩には必ず守田一郎のおわします方向にむかって礼拝、③守田が食べたいと言ったら、必ず猫ラーメンを奢る(無期限)。

 (森見登美彦宛)「おっぱい上映会」での醜態を晒す原因を作った森見への苦情。預けたパソコン堅持のお願い。

 (間宮少年宛)「おっぱい万歳」の言い訳。

 (守田薫宛)「おっぱい万歳」事件、後始末。

8月28日

 (大塚緋沙子宛)実験所からパソコンと実験ノートを盗んだことへの抗議。

8月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑥

9月4日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還督促。

 (間宮少年宛)「おっぱい」への開き直りと教訓。

9月10日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還再督促。

 (森見登美彦宛)森見の愚痴への苦言。近況報告(大塚にパソコンを盗まれてしまったこと)。

9月15日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還に応じたことへの感謝。大塚のパソコンは返還しないことを宣言し、三要求の履行を求める。

 (森見登美彦宛)大塚に勝利したことの宣言。くれぐれも大塚のパソコンの保管に怠りのないようにとのお願い。

9月17日

 (間宮少年宛)大塚からの勝利宣言。小松崎を庇う。

9月18日

 (大塚緋沙子宛)再度、盗まれたパソコンと実験ノートの返還要請。

9月19日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還督促。

9月20日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還再督促。

 (森見登美彦宛)パソコン保管の徹底のお願い。

9月22日

 (大塚緋沙子宛)パソコンを大塚に返してしまった森見登美彦の行動への愚痴。大塚の要求(①恋文の技術を開発します、②伊吹さんを元気づける会を開きます、③伊吹さんに恋文を渡します)を呑む。

 (森見登美彦宛)大塚のパソコンを返してしまった森見への苦情。

9月24日

 (大塚緋沙子宛)鬼軍曹谷口誠司大塚緋沙子が付き合っていたことの驚きと、パソコン盗難のカラクリの了解。パソコン返却の報告。

9月25日

 (守田薫宛)近況報告(実験上のいざこざ)。心配無用。宇宙飛行士を目指す妹への励まし。

9月28日

 (間宮少年宛)運動会報告の礼。近況報告(小松崎が実験所に来たこと)。

9月29日

 (森見登美彦宛)恋文の技術伝授を条件に森見を許す。

9月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑦

10月5日

 (森見登美彦宛)森見のいう恋文の奥義(熱い情熱で彼女のハートを鷲摑み)への落胆。

10月8日

 (間宮少年宛)近況報告(能登鉄道の終点「穴水」まで行ったこと)。マリ先生への恋文をどうするかへの助言。

10月10日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(実験所へやってきた小松崎と能登鉄道の終点まで行ったこと)。11月初に京都への帰還が決定したことの報告。

10月11日

 (森見登美彦宛)近況報告(実験ノートとエントリーシートを書く毎日)。京都へ帰還が決まったことの報告。

10月15日

 (守田薫宛)近況報告。の手紙の最後の詩についての解釈。

10月17日

 (森見登美彦宛)森見の恋文指導への愚痴。

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑧

10月20日

 (守田薫宛)詩の謎の解読に成功。

10月21日

 (森見登美彦宛)「恋文」考。

10月26日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑨

10月27日

 (森見登美彦宛)伊吹さんへの恋文についての諦念。近況報告(和倉温泉「海月」で谷口さんに送別会をしてもらったこと)

11月3日

 (守田薫宛)近況報告(和倉温泉、恋路海岸にいったこと)。兄としての心情の吐露。

 (間宮少年宛)マリ先生が家庭教師を辞めてしまったことへの励まし。

11月5日

 (伊吹夏子宛)卒業後の動向を報告。文通武者修行の告白。8月の「おっぱい事件」の懺悔。大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

11月6日

森見登美彦より守田薫宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

守田薫より森見登美彦宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

谷口誠司より大塚緋沙子宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

大塚緋沙子より谷口誠司宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

三枝麻里子より間宮少年宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

小松崎友也より三枝麻里子宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

守田一郎より小松崎友也宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

 

人の手紙を覗きみるという機会はなかなかあるもんじゃありませんが、それも全く知らない人間の手紙ともなれば、出てくる登場人物は例え実在であったとしても、それは小説の登場人物と同じ。そういう意味では、こういった書簡集という形で提示されて、いろいろな生き様それぞれが一編の小説になっているかのようなことを思い知らされます。

先日読んだ英雄の書宮部みゆき)をはじめ、多くの作品でそれっぽいことはよく語られますが、今回のような阿呆な作品で、なんとなくそのことが腑に落ちたような気がします。

本当に、手紙の宛名の小松崎大塚さん、間宮少年って実在するんだろうか。単に守田の文通武者修業のための妄想に過ぎないんじゃないだろうか、とか考えてみると、突き詰めれば、実在であっても、架空であっても、他人(読者)にとってはどちらでもよいのだと気づいてしまいます。

書簡集という構造の話はとにかく、内容もいつものように極めて滑稽(阿呆)。残念なのは、やはり小松崎大塚さんの手紙を読むことができないことでしょうか。小松崎三枝さんを称える「ラブリー、ラブリー」な詩は是非とも読んでみたかった。悪の権化のように描かれる大塚さんの返事とは、どんなものなのか、これも一読の価値ありでしょう。

その一方で、主人公守田一郎の多彩な人格には兎に角脱帽。一体、本当の彼はどういった人間なのか、最後まで全くわからなかった。小松崎森見登美彦との馬鹿げた(阿呆らしい)文通の数々で作品の色合いが明確ではある一方で、間宮少年を諭すような一面もあれば、大塚さんへの復讐に燃える大人気ない面もあり、それでいて最後の伊吹さんに示すような真面目な一面、等々、最後まで謎の人物でした。

あと謎といえば、和倉温泉に現れ、守田を全裸にした「金曜倶楽部」とは何者?今後の作品で登場するのでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『The MANZAI 5』 あさのあつこ

Manzai5 2009年、52冊目。あさのあつこ『The MANZAI ⑤』 

今回は特に盛り上がりもなく、なんとなく中休み的なお話。

受験を控えるなかではあるものの、(蓮田の受験問題はあったものの)あんまり受験話が盛り上がるわけでもなく、もう高校に入学してからの話の序章という感じになっています。

すなわち、今回は高校へ入学してからの貴史の目標が提示されます。

『漫才甲子園』の第一回優勝がそれです。いつものように渋るですが、やはり流れのままに流されていきます。

 

除夜の鐘の聞こえる新年の夜。瀬田歩のもとを訪ねてきたのは、いつものように秋本貴史

●●(伏字)で邪険に迎えるだったが、貴史は約束を失念しているを初詣に迎えに来たのだった。

マンション前の広場で待っていたのは元文芸部部長森口京美森口の親友篠原友美、学年トップの秀才高原有一

「チーム・ロミジュリ」は二人が不参加だ。

萩本恵菜は栗きんとん製作に悪戦苦闘のため不参加。

蓮田伸彦も不参加だった。蓮田の実家の「蓮田運送」が経営不振のため、高校への進学が危ぶまれるなか、ふさぎ込んでいたのだ。高校サッカーでの活躍を夢見てきた蓮田にとってショックは大きかったのかもしれない。

神社では樽酒が振舞われていた。

樽酒を振舞うおばちゃんに絡む若者、という構図に、貴史は腕力に訴えることなくとともに漫才でその場を収めてしまう。しかし、その後もなつく貴史を避けた拍子に躓いたは樽酒を全身に浴びてしまう。

酔っ払ってしまったは突如駆け出し、石段から転げ落ちてしまう。(ついでに、を追いかけた貴史も足を滑らせて、の上に落っこちた。)

救急車で市民病院に運ばれたのもとへ、初詣には不参加だった萩本恵菜メグ)も蓮田もかけつける。に特に怪我はないようだったが、萩本先生の言葉もあり、大事をとって一晩、は入院することとなった。

心配してくれる面々に謝りどうしの貴史は励ます。自己評価の低いを諭し、そして感謝する貴史だった。

が入院したのは6人部屋の301号室。

目が覚めて知った同室の患者は栗原さん、スゲさん、モリエさん、イケウチさんという老女4人。の姿をみて思い出したのか肉親に会えない寂しさを訴えて泣く彼女らの姿に困惑するだった。

そんなところへ着替えを持って現れた貴史はいつものようににぼけて漫才が始まる。

もう朝からテンション、高いわ。さすが『ロミジュリ』やね

そんな二人を茶化すように、声援をおくるのは看護師の同級生多々良覚の母だった。

その言葉を聞いて、”漫才にうるさい”という栗原は二人に「お題」を出した。

らの漫才はスゲさんら三人には受けたものの、最後にクシャミをしてしまった栗原の採点は辛い。

「明日も練習に来なさい」という栗原だったが、受験生にはとても無理だ。しかし、なぜか、多々良の母や貴史に流されるまま、は週一回、毎週土曜日午後が練習の日と決まってしまう。

間もなく卒業というなか、貴史の策略もあり、は否応なく漫才甲子園(漫才全国高等学校選手権大会)に向かうレールの上にあった。

 

いつものノリなので、軽くは楽しめるものの、特にクライマックスもない分だけ、それだけという感じですね。

時折、の心情が表出し、それを貴史が理解するという、ちょっと「一種気持ち悪い」ようなシーンがないではないですが、これがこの作品の深みを増しているというわけでもありません。なかなか、漫才の部分とウェットな部分がどうもそぐわないような感じ。即ち、が二重人格であるかのように見える不思議さがなんとなく漂います。

その意味で個人的にはもうちょっと表面的な漫才的な掛け合い中心であるお話のほうが好みですね。

さて、次巻ではどこまでいくんでしょうか。まだ、卒業式くらいなのか、一足飛びに高校の話、漫才甲子園予選あたりまでいくんでしょうか。

「漫才甲子園」、どんなライバルが現れるのか楽しみです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『三匹のおっさん』 有川浩

Sanbiki 2009年、51冊目。有川浩『三匹のおっさん』

愉快、痛快な老人達の活劇。

どこにでもいるような、それでいて実際にはありえないような子どもの心を残した還暦の老人ならぬ”おっさん”たちの夜回り。

カツアゲの取締り、ちかん退治、詐欺師退治、催眠商法への潜入、と町内の悪を懲らす活躍に胸躍るストーリー展開。

 

第一話

会社員清田清一は父の跡をついで敷地内の剣道教室を続けてきたが、最早通う生徒もいなくなった3月、会社も60歳で定年退職を迎えた。

家族は妻芳江のほか、二世帯住宅になっている自宅の二階には息子健児、嫁貴子、孫祐希が同居する。

清一は定年後、会社(地元ゼネコン)の系列会社であるアミューズメントパークに経理責任者に就くことになっていた。

そんな清一は赤提灯「酔いどれ鯨」の前店主立花重雄から私設自警団を作ることを持ちかけられた。

子どもの頃、清一重雄、そして有村則夫の三人は町内で「三匹の悪ガキ」の悪名をはせていたのだ。

還暦を迎えたとはいえ、まだまだ老人とは言えない三人は自分たちにできるボランティアを考えた。頭脳派の則夫、柔道歴の長い重雄、剣道三倍段の清一で、「三匹のジジイ」ならぬ「三匹のおっさん」で夜回りを始めようというのだ。

アミューズメントパークへ『エレクトリック・ゾーン』の出勤初日、清一はあまりの杜撰な経理に驚く。また、その店には偶然アルバイトとして祐希も入っていた。

アミューズメントパークの経理を整理するうちにゲームセンターの売上げが合わないことに気付いた清一は店長の須田良二に問い質した。

筐体から事務所に金を運ぶ際にカツアゲされることが多いのだという須田の言葉に半信半疑の清一だったが、実際にカツアゲの現場に出くわすや、思わず声をかけた。偶然目撃した祐希は店長に助けを求める電話をするが、須田はなかなか現れない。咄嗟に、祐希は警察に通報するフリでその場を収めるのだった。

カツアゲを主導していた男は須田の先輩。正道に戻った須田を脅迫し続けていたのだ。

清一に制止されたことを根に持った男は清一の弱点を須田に問い質す。

脅迫の挙句、祐希のことを知った男は祐希をターゲットにすることとした。

しかし、男と須田が話すテーブルの横では則夫がしっかりとレコーダーを回していた。

祐希を攫おうとする当日、現場に「三匹のおっさん」が現れた。

 

第二話

「ちかん出没、注意!」の立て看板。

町内で強姦事件、強姦未遂事件が頻発しているという。

それも「三匹」が夜回りをする深夜ではなく、20~22時という相対的に早い時間にだ。

有村則夫はこれを非常に憂慮していた。則夫には溺愛する高二の娘早苗がいた。

母親を亡くし、則夫が帰るまでは一人になってしまう早苗のことが則夫は心配だった。

「ちかん」に備えるべく、夜回りの時間を早めた「三匹」は別々に見回りを行うが、早速重雄が「ちかん」に遭遇した。

「ちかん」から女性を助けた重雄だったが、女性が重雄を見て気絶したために警官からは痴漢に間違われてしまう。

結局、重雄は「ちかん」を目撃はしたものの、取り逃がしてしまっていた。

その後、『エレクトリック・ゾーン』の駐車場で痴漢が捕まるが、三匹の面通しでは別人だった。

学校からの帰りが遅くなった早苗は公園前で突然自転車を引き倒される。

公園の植え込みに引きずり込まれ、危機一髪の早苗

そんなとき、アルバイトの帰りだった祐希は公園前に自転車が倒れているのを発見して早速清一に電話した。

もしもしジーサン?みどり公園の前で自転車が倒れてる。荷物が散乱してるのに持ち主がいなくて、荷物の中には栄女子高のナイロンバッグがある

 

第三話

重雄の妻登美子に声をかけたのは、仕立てのいい背広を着た年配の紳士。

男は小学校時代の同級生広田作治と名乗った。

登美子には記憶がなかったが、広田登美子のことを「僕の初恋」だという。

会社を経営してきた広田だったが、息子に会社の経営を譲って一人暮らしを始めるため、手頃な家を探していた。

友人としてつきあって欲しいという広田の名刺を登美子は戸惑いながらも受け取ってしまう。

家に帰っても女としては見てもらえず、「おばあちゃん」でしかない登美子の心の隙間に広田はうまく入り込んでしまったのだ。

そんな広田登美子の逢瀬を発見したのは祐希早苗

祐希は早速、清一に報告した。

 

第四話

清田家の前をうろうろしている中学生を清一の前に連れてきたのは祐希

中学生は3月で道場を辞めた工藤昴清一に相談があって、やってきたのだ。

相談とは中学で起こっている動物虐待事件についてだった。

学校で世話をしているマガモが片羽を切られたり、片足を切られたりという事件が連続しているという。事態を憂慮した学校はマガモを動物園に引き取ってもらおうとしていたが、ともう一人の飼育係新垣美和はこれに納得できず、犯人を捕まえてほしかった。

話を聞いた「三匹」は祐希早苗とともに動物虐待対策会議に乗り込むと、動物虐待が生徒たちに向かう危険性を校長らに訴えた。

そして則夫は校長を室外に連れ出して説得した。

会議室には盗聴器がしかけられていた。これを探知機で発見した則夫は犯人が学校関係者であることを仄めかし、校長の不安感を煽ったのだ。会議室に戻った校長は「見回り強化」の方針に転換し、「三匹」に協力を求めるのだった。

「三匹」は会議室の盗聴器はそのままにして犯人を誘導すると、飼育小屋の鍵を換えて待ち構えた。

 

第五話

学校近くのスーパーで偶然出くわした祐希早苗

そこに現れたのは早苗の学校の友人、富永潤子。デリカシーのない会話に閉口する祐希だったが、心優しい早苗は邪険にもできない。

そんな潤子は翌日の学校で、早苗祐希を紹介して欲しいと言い出す。

祐希との関係を自身の中でも整理できていない早苗は、またしてもイヤだとは言えずに、なし崩しに祐希を紹介することになってしまう。

一方、この話を聞いた祐希早苗の心が自分にはないことを悟り、自暴自棄のまま、早苗の友人として潤子につきあうこととする。

紹介してあらためて自身の心に気付いた早苗は打ち沈んでいく。そんな早苗の姿を心配し、早苗を苦しめる祐希に立腹する則夫だった。

 

第六話

バカヤロ---------ッ!

貴子が70万円もする空気清浄機を買ったことを知り、健児が吠えた。

健康食品ショップで詐欺にあったのだ。

クーリング・オフの申し出にもまともに取り合おうとしない業者に戸惑う健児らに代わって、業者を追い返した清一だったが、そんな業者にすら応対できない甘い健児ら夫婦に呆れ返る。

数日後、清一芳江から頼みごとを持ちかけられる。

芳江の友人靖代が悪徳業者に次々とはまっているようなのだ。商店街の貸し店舗に入居した業者の催眠商法の手口に次々とつかまっているらしい。

靖代の息子らに頼まれて説得しようとした芳江だったが、靖代からは絶交されてしまう。

説得するためにも通う理由を調べて欲しいという芳江だったが、靖代と面識もない清一は気乗り薄。

あなたたちの活動にはこういうことは入ってないのかしら

あなたたちのお遊びに今まで気づかないあたしだとでも思ってたんですか

芳江にばれたのでは仕方がない。

重雄則夫芳江にばれていたことを知るや固まってしまう。

則夫が下調べをした『パレット・ライフ』に一週間ごとに通いつめることを決めた「三匹」だった。

しかし、(「三匹」が貰ったり、買ったりして)則夫の工場に隠されていた商品を発見した早苗則夫が悪徳業者に騙されているものと心配し、祐希に相談する。

 

三匹が三匹とも根底では似たような性格なので、意見の相違もなく、話がとにかくスピーディです。一方で、ディテールがかなり違うので、その活躍の現れ方が違っていて、そのバリエーションがまた楽しい。

一人、重雄だけが、祐希早苗の世代の子、孫を持たないため、ちょっと脇役の佇まいはありますが、なかなかアクが強いこともあって物語のなかでも埋没することはありません。「三匹」の発案者ではあるものの、「三匹」が始まると、話の持ち込み元が清一祐希となることが多く、そのリーダー的なイメージも定着せずに終わってしまいました。

ところで、第二話で清一が語る、重雄が負かしたという”県警署長”って何でしょう?所轄の署長ではないんですか?何だか妙な役職名ですね。

あとは、祐希とともに妙に気の若い清一やアナーキーな則夫がいい味を出していますね。やることなすこと、枯れた感じというよりも、子どものいたずらに近い感じですね。特に、則夫の隠し武器が妙に笑えます。

まだまだ、別の話が読みたいキャラクターたちです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『少女』 湊かなえ

Syojo 2009年、50冊目。湊かなえ『少女』

軽いミステリです。

なんていうんでしょう。

テクニカルに巧い作品というんでしょうか。いろいろな事件、物事がきれいに繋がっています。

全てが輪になっているようで、キレイではあるんですが、見方によっては世界が狭い、ご都合主義的な印象を与えるかもしれない作品といえるでしょう。

 

草野敦子桜井由紀は友人ではあるものの、気まずい関係を暫く引きずっていた。

小学1年からともに剣道教室<黎明会>に通った二人。

まじめに剣道に取り組んだ由紀だったが、小学5年のときに剣道をやめることとなった。

同居する元小学校教師の祖母が認知症となり、家族を相手に暴れるようになったのだ。我慢を重ねた由紀だったが、とうとう寝ている祖母の顔に濡れタオルを置いてしまう。しかし、目を覚ました祖母に斬りつけられ、左手の筋を切られてしまったのだ。

この一件で両親とも気まずくなるとともに、握力を損なった由紀は剣道を続けることができなくなってしまった。

一方、敦子は剣道の実力をつけていった。

”勝利の跳躍”。間合いの外から跳び込んで面を打つ敦子は小学6年で全国優勝を果たす。

しかし、中学3年の夏、県大会の決勝で足を捻った敦子は剣道を止めてしまう。スポーツ推薦で決まりかけていた名門私立校黎明館高校も断り、入学したのは由紀と同じ桜宮高校。

泣く泣く剣道を手放した由紀は、剣道を止めたことを何事でもないかのように語る敦子の態度が許せなかった。

しかし、敦子が剣道を止め、推薦を辞退したのには理由があった。

A子がずっこけたせいで、全国大会行けなかったよ!

A子、推薦来たってチョーシこいてた

あたしなら、おわびに死んじゃう

A子、死んだ?

A子、まだ生きてんの?

県大会での団体戦敗戦をすべて敦子のせいのように誹謗する裏サイトの書き込みが敦子を追い込み、敦子に剣道を止めさせたのだ。それ以来、敦子には過呼吸で呼吸困難になるクセができてしまう。

それを知った由紀だったが、それでも剣道をあっさりとあきらめた敦子をどうしても簡単には許せない。そこで、敦子をモデルに、敦子だけに向けた小説を書いた。

『ヨルの綱渡り』

学校に置き忘れた由紀の手書き原稿が何者かによって盗まれてしまう。

犯人は意外な形で判明する。国語教師小倉がとった文学新人賞の作品タイトルが『ヨルの綱渡り』だったのだ。

由紀は勿論、敦子もまた読んだ冒頭の内容から(自身がモデルであることを感じ取って)小倉が盗作したことに気付いていた。

由紀小倉を訴えはしなかったが報復を行った。職員室にある小倉のパソコンを持ち出すと全学年の国語の成績表を学校関係者にメール送信したのだ。

こうして小倉は退職した。

敦子もまた小倉のパソコン(の日記)を見て知った、小倉と交際(援交)するとおぼしき黎明館高校の女子高生”セーラ”のことを、黎明館の裏サイトに書き込んでいた。

小倉の日記に書かれた、スポーツ推薦で黎明館に入学したセーラに比べて、桜宮の生徒はくずだ、という表現が許せなかったからだ。

セーラは援交マニア。今の相手は盗作おやじ。世界は二人のために。それ以外のヤツらは人間のくず

ともに小倉への報復を行った二人だったが、敦子は本当に由紀が『ヨルの綱渡り』を書いたのか、どんなつもりで書いたのかも、確認できないまま、気まずい雰囲気だけが二人の間には残ってしまう。

しばらくして、気まずさを解消するために、由紀が仲間に引き入れたのは、黎明館高校から転校してきた紫織

その日、紫織が二人に話したのは転校の理由だった。

黎明館で仲良くしていた親友が自殺し、自身に宛てた遺書メールが残っていたのだという。

表面的には気の毒がる二人だったが、二人の目には紫織の話は不幸自慢をしているようにしか見えなかった。

見たい-死体を。いや、紫織が見たのが死体なら、わたしは死ぬ瞬間を見てみたい。紫織が親友なら、わたしもそれくらい身近な人。

由紀敦子はそれぞれそう考えていた。

 

夏休みに入ると、体育の補習で敦子は老人ホーム”シルバーシャトウ”のボランティアに行くことになった。敦子は期せずして死に近づけることを楽しみにする。

働き始めた矢先、もちを詰まらせた水森というおばあさんを敦子は助けてしまう。

しかし、この水森さんは”由紀の左手の握力を失くした張本人”、”由紀が殺したいと思っている祖母”だったのだ。敦子は助けたのが、自分であることを兎に角隠そうとする。

敦子の上司としてついたのは30代半ばの”おっさん”高雄孝夫高雄はなぜかよそよそしく、敦子を遠ざけようとする。

高雄は女子高生に痴漢の冤罪をかけられた経験があった。面倒を避けるため示談に応じたものの、その結果、会社はクビ、離婚となったのだ。重病で入院している息子に会うことすら妻からは禁じられていた。

簡単に嘘をつき陥れる女子高生を高雄は怖れていたのだ。

そんな高雄は『ヨルの綱渡り』を読んでいた。

小倉の自殺により単行本化されなかったために冒頭しか読むことのできなかった『ヨルの綱渡り』を敦子小倉の自宅ではじめて読んだ。由紀が自分を馬鹿にしているのだと誤解していたことに気付き、高雄の言葉で由紀の思いが見えてきた敦子だった。

 

一方、由紀もまた”死”を求めて<小鳩会>という本の朗読ボランティアに参加する。

小鳩会の岡田のやり方に反発して、すぐ辞めてしまった由紀だったが、一回だけ行ったS大学付属病院小児科病棟で出会った二人の少年”肉まん”タッチーと”きれいな顔”と仲良くなり、度々病院に通うようになる。勿論、二人が死ぬのを待ちわびて・・・。

タッチー由紀に相談を持ちかけた。の父親を連れてきて欲しいというのだ。

の両親は離婚しており、母親は父親がに連絡をとるのを禁じているらしい。

成功率7%という手術を5日後(水曜日)に控えたに、父親を会わせて欲しいというタッチーの言葉に、”最高の死”を演出したいと考えていた由紀は応じた。

の父は会社”東洋ハウス”を辞めていた。の父が働いていたという桜宮ハウジングパークでも、情報を得られず途方に暮れる由紀に声をかけたのは同業”三条ホーム”のモデルルームにいた男だった。

男はの父親のことを教えるかわりに、由紀に頼みごとをしたいのだという。

僕のような中年男がきみのような女子高生にのぞむことだ。いやなら来なくていい。

月曜日の夜、モデルルームに来るように告げる男の言葉にも、”最高の死”を演出するためなら仕方がないと開き直る由紀だったが、それでも最近付き合い始めたカレシ、牧瀬とあらかじめやっておくかとも考える。

この牧瀬もまた目の前で死を目撃したという”死体経験者”だった。

駅のホームで飛び込んだ男を目撃したというのだ。提げていた紙袋から紙吹雪をばらまいて、男は電車に飛び込んだ。牧瀬の前に飛んできた男の手には、ばらまいた紙吹雪がひらひらと舞い落ちていた。

それ以来、”死”に執着するようになった牧瀬由紀からのことを聞くや、”最高の死”に自分も関与したいと言い出すのだった。

モデルハウスに一緒についてきた牧瀬を見て”三条ホーム”の男は不機嫌になった。男は、由紀に男の下着を洗わせたり、牧瀬に足を洗わせたり・・・。

しかし、牧瀬はその様子を小型レコーダーで録音し、携帯電話で録画した。男の脅迫の証拠を押さえると、の父親のことを教えるよう男(滝沢)に迫った。

の父親は痴漢で捕まって会社をやめ、今は老人ホームで働いているという。

 

最初の「遺書」が滝沢紫織のもの、っていうのが巧い。

途中まではセーラ星羅)のものかと思っていました。その後のモノローグも紫織のものかと思いきや敦子のものなんですね。

今回の”死”への憧れを惹起する紫織の役割って、ラストまでは単なる口火を切っただけの存在でしかないんですが、突然ラストで重くなる。このあたりも巧妙に出来ているなぁと関心しきりです。

まぁ、出てくる人物、出てくる人物に、最後は全て繋がりが出てくるという構成はちょっと唖然としないではないですが、やはり「巧い」んでしょうね。

由紀敦子というそれぞれの視線で交互に語られるのも、話自体を非常に面白くしていますね。それぞれの視線で追える内容から推理される(過去の)事実が、互いの背景を少しずつ明らかにしていく構成も話に引き込まれる要素として大いに機能していそうです。

いくつかの切れ端が提示されていて、それが最後に多面的に結びついていく。

その気持ちよさがこの作品にはありました。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『スノーフレーク』 大崎梢

Snowflake 2009年、49冊目。大崎梢『スノーフレーク』

行方不明の幼なじみを探すという軽いミステリ仕立ての話ですね。

悪くはないんですが、でも・・・今ひとつという感じでしょうか。

どうも共感がわきにくいというか、一人称である真乃が抱えている重要な情報が最後まで開示されないので、どうもミスリードされていたような、不快感がラストに残ってしまいます。

最後はきれいに終わっているように見えますが、ミステリの部分でそういった気持ち悪さが残るために、どうも純粋に楽しむことは出来なかったといえるでしょうか。

 

函館の高校を卒業し、間もなく東京の大学へ進学する桜井真乃は掲示板に「昔のことは忘れる」と書き記す。

真乃は小学6年のときに死んだ幼なじみの遠藤速人が忘れられずに、これまで引きずってきたのだ。

小学校6年のとき一家心中で家族とともに車で函館湾の岸壁から海に沈んだ速人だったが、遺体は上がっていなかった。真乃の友人シーコ清水優子)が中3のときに速人を目撃したとの話もあり、真乃はずっと速人が死んだことを受け入れられず、速人を忘れられずにいた。

忘れると決心した真乃を友人の山本琴美は祝福し、もう一人の幼なじみ田村亨真乃をデートに誘った。

しかし、そのデートの途中、真乃速人らしき人物を目撃する。

しっかりしろ、あいつは死んだんだ

立ち尽くし、嗚咽をもらす真乃を支えるだったが、真乃にはやはり忘れることができないようだった。

翌日、函館山の中腹にある墓地を訪ねた真乃はそこで速人にそっくりの男に出会う。

男は速人の従兄遠藤勇麻と名乗った。

勇麻は、身の回りで速人の存在を匂わせる事件が連続することから、かつての速人の知人たちに話を聞くために函館へやってきたのだという。

勇麻を見たシーコ勇麻こそ(事件で死ななかった)速人ではないかと疑う。

真乃はその言葉を信じるわけではなかったが、勇麻に出会い、函館を巣立つのを機に、あらためて6年前の事故を調べてみることを決意した。

勇麻、そして遠藤家の近所に住む及川夫人や、その知人である曾根崎俊彦らから話を聞くうちに、あらたに色々なことが判明する。

車に同乗していた速人の祖母の死亡推定時刻は前日の昼間だったこと。

遠藤家の供養がなされていないこと。

遠藤家の保険金を受け取った兄(勇麻の父)は仕事の負債を保険金で返し、その金を元に今は成功していること。

事件からしばらくたってから、中野町の奥にある古いガラス工場跡で速人を見つけたという少年がいたこと。

速人の妹苑子の友人香月すみれが3年前に速人と出会い、会話(「初恋の女の子に会いに来たんだ」)をしていたこと。

 

そんなとき、学校の温室の前に、かつて真乃速人が行っていた交換日記と同じノートが置かれているのが見つかる。ノートにはスノードロップの鉛筆画だけが書かれていた。

交換ノートを見た真乃はかつて速人と日記を隠していた場所である、中野町のガラス工場跡へ向かった。

廃工場を調べるうち、3階床に開いた穴から落ちそうになった真乃を間一髪助けたのは勇麻だった。

ずっと昔から好きだった。ぼくは君に嘘をついている。ほんとうのことを言ってない。でも信じてほしい。心から大事に思っていると。真乃ちゃん、ぼくは・・・・・・そうだよ、君の小さい頃のことをよく知っている

 

当時、事件の現場にいたという琴美の叔父関根恭平は事件の直後、石ちゃんと呼ばれるホームレスが「弟を助けた」と話すのを聞いていた。

事故で弟を失くしていた石ちゃんは「やっと弟を助けたと。ずぶ濡れの弟を引きあげ、お医者さんにみせ、今度は助けたと」話していたのだ。

しかし、事件から2週間後、石ちゃんは肺炎をこじらせてなくなっていた。

石ちゃんが通っていたと思われるコミュニティはガラス工場跡の地下にあった。

琴美シーコとともに地下に降り立った真乃を迎えたのは大鳥というコミュニティの責任者。大鳥真乃に事件当時のことを語った。

しかし、大鳥もすべてを知っているわけではなかった。

”弟”の件は石ちゃんと医師”イシャメン”が二人で秘かに行っていたことだったのだ。

石ちゃんが死んだ後、がガラス工場跡を訪ねてきた。

速人がいる」「みつけた」「海の中じゃない。あいつはここにいる」と泣き喚くを前に、困惑するコミュニティの面々だったが、そんな中イシャメンは書き置きを残して去っていった。

そんなイシャメンから3年前に大鳥のもとへ届いた手紙には真乃へ宛てた小箱が同封されていた。

大鳥から渡された小箱から出てきたのは、速人のミサンガと、速人真乃の愛した花スノーフレークの球根だった。

更に、曾根崎から手渡された速人との交換日記(事件の前日に速人が落としたのを曾根崎が偶々拾っていたのだ。)には、次のように綴られていた。

交換ノートをやめようかと思う。真乃ちゃんにないしょにしていたことがあるんだ。ごめんね。今度会ったときに話す。ほんとうにごめん。あのひみつのかくし場所もやめなきゃならない。でも、真乃ちゃんがゆるしてくれるなら、ノートはまだつづけたいな。それが本心。

もうひとつ、話したいことがある。でもむりかも。むりだったら、ごめん。ああ、ごめんばかりだね。ぼくの好きな人は、真乃ちゃんが好きなんだ。

全てを悟った真乃は、ガラス工場跡に勇麻を呼び出した。

 

どうも登場人物がそれぞれ嘘くさいというか、実体を伴わない印象しか与えません。

主人公の真乃にしてから、速人の事件をあらためて調べるまで、殆ど事件の実像をつかんでおらず、それでいて速人を6年間ずっと(それも多感な中学、高校時代)引きずっているというのは、どうも納得感に乏しい。

勿論、心情面の部分なんで、人それぞれなんでしょうが、勇麻と出会って、漸く事件を調べようと動き出す真乃の心情は奈辺にあるのでしょうか。最終的に明かされる真乃速人の関係性から見ても、特に勇麻を男性として意識しているようには思えませんし・・・。廃工場での一件(勇麻の告白)にしても、読者に速人真乃の関係を誤解させるような効果はありますが、一方で真乃に何か思うところがあったともあまり思えません。

勇麻勇麻で、妙に一途ですよね。でも、ちょっとストーカーじみて怖いかもしれません。

犯罪者のようって、まぁ爆発物送ったりしてるんで、犯罪者には違いないんですが。

田村亨が一番まともそうで、青春小説の登場人物としては適役のようなんですが、殆ど登場しませんでしたね。話自体が妙なミステリ仕立てに傾斜している分、青春小説の色を示すようになる真乃の部分は減らされてしまっているのかもしれません。

全般を通してみると、登場人物に魅力が乏しいことに加え、ストーリーがどうも中途半端で、あまり後味のよい作品ではなかったかもしれません。

大崎梢の作品としてはちょっと残念な作品です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『乙女なげやり』 三浦しをん

Nageyari 2009年、48冊目。三浦しをん『乙女なげやり』

タイトルからして脱力感漂う三浦しをんのエッセイ。

2004年7月出版だから、約5年ほど前。

でも、話題も、登場人物も殆ど今と変わらない。

 

まえがき「早乙女君、じっくりと取り組んでみたまえ」

 

一章 乙女寄り道

 意思を鍛える[弟]

 立派な親不知も待機中[Mちゃん、ジャイ子、イケメン歯医者]

 なめくじら的生活[祖母]

 村での出来事[祖母、おば、郵便局員、和尚さん]

 自分を止めてあげたい[あんちゃん、G]

 ひとり舞台[ぜんちゃん、野生児、弟]

 おともだち三態[G、ぜんちゃん、あんちゃん、ガクト、イチロー、松井]

 反省だけならサルでもできる[死国のYちゃん、バクチクあっちゃん]

 自分自身を知れ[学生時代の友人Y君]

(なげやり人生相談1)朝、どうしても起きられないんです。どうしたらいいでしょう?

 

二章 乙女病みがち

 ネズミとぼくらは友だちさ[弟、近所の友人K、古本屋の元同僚Tさん、マリリン・マンソン、公営体育館トレーニングルームの係の人]

 なにしろ遠くて帰りに湯冷め[哀川翔]

 俺の胃、粗悪品。[父、哀川翔]

 にわとりになった日[マクドナルドでつっつく若い女性]

 変人の多い職業[腹ちゃん、皮膚科の医師、薬剤師]

 男女はつらいよ[腹ちゃん]

 気づきがたりないのはだれなんだ[Ⅰちゃん]

 はやく(高潔な)人間になりたい

 最近の事情[古本屋の元同僚M木さん、Hさん夫婦(Hさん、Ⅰさん)、良平君、高校時代の友人]

(なげやり人生相談2)常に仕事ばかりしちゃう自分を、なんとかしたいんです。

 

三章 乙女たぎる血

 なんで伸びたの?[俳優養成所の研究生、時蔵、竹本住大夫]

 つわものどもが旅路をかけめぐる

 たのしい旅路

 師は音もなく背後に走り寄る

 白と黄色に振り回される

 すべての恋が色あせて見える[あんちゃん、ミロノフ先生]

 夢幻の世界[弟]

 微細な部分を論じる[Nさん]

 よろよろ徘徊週間[古本屋社長]

(なげやり人生相談3)マリナーズが優勝しそうにない。

(なげやり人生相談4)どうして文章がヘタなんですか?

(なげやり人生相談5)なぜ私はこんなに豆が好きなんでしょう。特に枝豆とか空豆とか、緑色の豆が異常に好きでたまりません。豆だけ食べてれば満足です。「好き」度が尋常じゃなくて、そんな自分が最近とても不安です。

 

四章 乙女総立ち

 仲良きことは美しきかな[友人ナッキーとそのだんな、弟、ジロウ]

 新婚リサーチ[ナッキー、ぜんちゃん、S、Tちゃん]

 拝見記

 骨折り損のくたびれもうけ[母]

 破滅へ疾走する恋[弟、ジロウ]

 たまに夢見がち[友人H、ヴィゴ・モーテンセン、佐藤浩市]

 鬼の一念[知人Yさん、ヴィゴ・モーテンセン]

 涙でかすむホワイト・タワー

(なげやり人生相談6)方向オンチなんです。

 

あとがき「早乙女君、そうなげやりになるな」

※[ ]内は主な登場人物

 

この作品のあと、同テンションで『悶絶スパイラル』に続きます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『プリンセス・トヨトミ』 万城目学

Princess_toyotomi 2009年、47冊目。万城目学『プリンセス・トヨトミ』

やっぱりいいですね、万城目学は。

今回の作品もうまい。登場人物の苗字にも妙に気を配っていますし、主要な登場人物の造形も秀逸。当然これだけの分量なので、各登場人物に奥行きが作れるはずもありませんが、それぞれの性格が非常にコンパクトに立っていて、納得感や共感を感じるようになっています。

ストーリーは今回もまた奇想天外で、ありえない話ではあるものの、こんなことがあったら面白いだろうな、と夢を感じさせる内容であることも、またいいですね。

 

会計検査院第六局に所属する三人の調査官(副長松平元旭・ゲーンズブール鳥居タダシ)は大阪府の実地検査に大阪府庁を訪れた。

次々と検査をこなす三人だったが、鳥居ゲーンズブールの担当した”社団法人OJO”は訪ねてみると留守。OJO以外の検査を終了して東京へ戻ろうとする三人だったが、松平は父の墓参りのため一人、大阪に残った。

大阪市立空堀中学に通う真田大輔(中2)は子どもの頃から”女の子になりたい”と願をかけつづけたが叶うはずもなく、とうとう実力行使に出た。セーラー服を着て学校に向かったのだ。大輔の思いを知る幼なじみの橋場茶子はこれを応援するが、学校は当然これを認めない。

蜂須賀組組長の息子である(空堀中学3年)は大輔の姿が気に入らず殴りつけるのだが、これに屈しない大輔は翌日もセーラー服で通学した。これに腹を立てたは大輔を裸に剥くと、その上に石灰をまいた。

これに怒った茶子を探し出すと、その顔の真ん中に跳び蹴りを食らわすのだった。

翌日、学校の指示通りジャージで登校した大輔だったが、授業の途中で担任の後藤から家に帰るよう告げられる。家に戻った大輔を迎えた父幸一は行き先を”大阪城”と告げる。

大輔幸一は空堀商店街から路地に入った先にある長濱ビルヂングから地下に入った。その地下から一直線に続くトンネルの先は(後世再建された大阪城の地下にある本物の)大阪城だった。

巨大な幾何学紋様のモザイク画のうえに立っていた男は松平元

大阪国総理大臣-真田幸一です

松平を前に大輔の父は名乗った。

社団法人OJOに出向いた松平だったが、案内されたのは、この地下の大阪城だったのだ。

いぶかる松平に、幸一と大阪国のスタッフである大学教授石田、公認会計士片桐、小学校社会科教師長宗我部は東京の国会議事堂のモデルともなった辰巳金吾設計の大阪国議事堂の一室で、大阪国そしてOJOについての説明を始めた。

大阪国は今から400年前、豊臣家を滅ぼした徳川家のやり方に義憤を感じた大阪市民が豊臣の遺児を匿ったことから始まった。江戸時代を通じて市民経済の基盤の強くなった大阪で営々と秘密は守り伝えられるとともに、その秘密結社に参加するものは大阪の全ての男子に行き渡った。

徳川家が滅びる直前、この秘密結社は軍資金の少ない官軍に資金を拠出する見返りに、大阪国の存在を認めさせ、拠出した資金を補助金として回収する仕組みを条約として取り決めさせていた。

大阪国は豊臣の末裔である王女(OJO)を守るため存在し、国にも認められた存在だったのだ。

 

そんな秘密にかかわりなく、大輔は大阪城からの帰り、蜂須賀勝に遭遇し、ハサミで髪を切られてしまう。

これを見た茶子が黙っているはずがない。仕返しに蜂須賀組組事務所に掲げられた代紋を奪うことを決意した茶子大輔の幼なじみでもある”ジャコ屋”島猛司に相談するが、あまりの無謀な試みには開いた口がふさがらない。茶子を制止しようとするだったが、茶子は聞く耳を持たない。これを知った大輔は慄然とする。

茶子こそ王女、豊臣家の末裔だったのだ。

 

幸一らに語られた大阪国の存在に戸惑う松平だったが、東京からゲーンズブール鳥居を再度大阪に呼び寄せると、大阪国にメスを入れるべく調査を再開する。

しかし、鳥居はなぜか松平に合流する前に、茶子を探し求めていた。鳥居が会計検査院の調査官だと知った大輔とともに茶子から遠ざけようと連れまわすのだが、蜂須賀組組事務所へ向かう茶子を見つけ、ともに追いかけてしまうことになる。

蜂須賀組に飛び込む茶子の姿に、鳥居は警察に電話をするのだが・・・。

飛び出してくる茶子にぶつかり気を失った大輔茶子鳥居の4人は警察に保護されることとなった。

この一部始終を見ていた市民からの通報で、幸一は、鳥居が警察に連絡し、茶子を拘束したことを知った。

松平さん-我々は立ち上がります

幸一松平に電話すると、大阪国が立ち上がるサインを掲げた。

大阪城が赤く燃えていた。

松平には赤く燃える大阪城に見覚えがあった。35年前、森之宮に住んでいたときに見たことがあるのだ。

 

”ひょうたん”を介して、大阪国中に次々とサインは伝わっていった。

そして5月31日、16時。大阪は全停止した。

病院勤務など人命に係わる仕事、電気・水道・ガスなど都市のインフラ機能の制御に関する仕事、化学工場など24時間操業を求められる仕事、教育機関等特定の業務に携わる者を除き、男たちは一斉に行動を開始した。

大阪城公園に集結した男たちは、大阪府庁前に現れた松平元と大阪国総理大臣真田幸一の対決を見守った。

一方、警察に拘束されていた大輔もこの映像を目にする。

あ、お父ちゃん

大輔の言葉に、自身らが中央政府にハメラレタ(この対決の片棒を担いでいる)ことを知ってしまった大阪府警の刑事宇喜多らは、あわてて大輔茶子らを解放し、穏便に解決できるように大輔を大阪府庁へ送り届ける。

その頃、強硬に大阪国を認めない松平の姿に、大阪国と会計検査院の対決も一触即発の状態。そして危険を感じた警官がついに発砲し、弾は幸一に当たる。

真田幸一は皆が見守る中、ゆっくりとアスファルトの上に崩れ落ちた。

 

今度、大阪出張のときには是非空堀商店街へ行ってみたいですね。

先日、この作品を読む直前に大阪出張があって、商店街の前を走ってたんですよね。天王寺から日本橋を北上して、大阪城公園を一周して、松屋町筋を南下したので、かなりこの作品の舞台近辺を走ったことになります。

大阪出張から戻ってすぐに、この作品を読んだので、”しまったぁ”という感は強かったですね。勿論、今回も雰囲気がよくわかって、何倍にも楽しめたような気もしますが・・・。

さて、この大阪出張で、万城目学を知るという人の話を聴いてきました。

実家は開業医で、本人はいたって、おとなしく真面目な少年だったそうです。彼の昔を知る人は作品を読んで、「真面目そうだったのに、こんな作品を書くなんて・・・」と絶句するそうです。

とまぁ、誰もを驚かせる作品ですが、エンターテインメントとして、十分満足のいく内容になっています。今回も決して期待を裏切りませんでした。

細かいところにも手を抜かず、読者を喜ばせようとのサービス精神に満ちており、本当に満喫しました。

さて、京都・奈良・大阪と京阪神の大都市を巡ってきましたが、次はどこでしょうか?やはり、神戸が本命というところでしょうか。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『エッジ (上・下)』 鈴木光司

Edge1Edge2 2009年、4546冊目。鈴木光司『エッジ(上・下)』

物語的に破綻してはいないんだけれども、何となく落ち着きの悪い作品かもしれない。

どうも描写不足なんだか、釈然としないところが多々見受けられる。最後の謎解きのあたりは、どうも端折られすぎているのか、論理的に破綻しているのか、「あれ?なんでこうなるの?」と疑問符がつくところが多々。

ちょっと、この類の作品としては、竜頭蛇尾の感の残る作品となってしまいました。

 

栗山冴子はルポライター。

月刊誌『海鳥』編集長前園は、2週間前に発生した藤村一家(孝太晴子扶美啓輔)失踪事件のルポを冴子に執筆依頼する。

冴子は18年前に突然失踪した父眞一郎を探す過程で、失踪に対するノウハウを身につけていた。原因も見当たらない藤村一家の失踪は、冴子の父の失踪とも似ており、冴子はこの仕事を請けた。

冴子のルポルタージュはテレビ局関係者の目にもとまり、ディレクター羽柴から冴子藤村一家失踪事件を扱う番組のスタッフとして協力することを求められる。

冴子には前園から続けて同種の事件を扱う『ミッシング・ストーリー』の企画協力が求められた。次回扱うのは糸魚川市で連続して若い男が失踪したという事件である。テレビ局の仕事も受け持った冴子は父の失踪事件で知り合った探偵北沢秀明に協力を求めた。

北沢は自身が直接請けた調査も含めて、糸魚川で同時に失踪した3人の行方を追い、一軒のコンビニに3人が同時に居合わせたことを発見する。地震に襲われたコンビニで、3人は同時に消えてしまっていた。

一方、撮影のため藤村宅に向かったテレビ局クルーだったが、藤村宅を管理する失踪した藤村孝太の兄精二冴子しか相手にしない。借金もあり、人格も破綻した精二冴子は厭わしく感じて遠ざけようとするが、精二はしつこく冴子に絡むのだった。

テレビのスタッフとして藤村宅に入った霊能力者鳥居繁子に透視を依頼すべく、スタッフが集めた品物の中に、冴子は見慣れた手帳を発見する。なぜか父眞一郎の手帳であった。冴子はこの僥倖に驚きつつも、ポケットに中に手帳を落とし込んだ。

鳥居繁子が突然声を詰まらせ「これから大地が揺れる」と告げる。スタッフの緊張の中、風圧は増し、本当に大地は震えた。冴子は陶器を頭に受け、気を失ってしまう。

藤村一家、糸魚川の事件等から一連の失踪には”場”が関係していることに気づいた冴子北沢は視野を広げ、更に同様の事件がないかを北沢の息子俊哉に調べさせる。

俊哉はいくつかの条件をもとに失踪事件を集めると、一定の分布があることに気づいた。

失踪事件の殆どは糸魚川静岡構造線・中央構造線の上にあったのだ。海外でも活断層直上で同様な事件が起こっていることが確認される。一連の事件には磁場という物理的な要因が働いていることをうかがわせる結果だった。

続いて、熱海にあるハーブ園で集団失踪事件が発生した。羽柴らテレビスタッフらとともに現場を調べる冴子たちは、飛び立つ無数のカモメ、磁気異常を示す時計、オーロラと、次々起こる異様な現象に恐怖した。

わたしの手には負えんわ

鳥居繁子はそう呟くと、その晩、宿舎としたホテルで遺書を残して死亡(自然死だが、冴子は直前に、崖から飛び降りる繁子の姿を目撃していた)する。

自宅に戻った冴子は父の手帳に隠されていたフロッピーディスクから失踪前に書かれた原稿を印刷し、読み始めた。そこに書かれていたのは失踪前に父眞一郎が訪れていたボリビア、ティアワナコの考察だった。

この原稿から冴子が読み取ったのは同行者の存在だった。父の手帳が藤村家で発見されたことと結びつけて、調べるうち同行者が藤村晴子であることに冴子はたどりついた。

冴子は再度伊那の藤村宅に向かった。

一方で、引き続き熱海の集団失踪事件を調べる羽柴は番組を科学的な考察で進めるため、死亡した鳥居繁子にかわって物理学者磯貝直樹をスタッフに迎え入れた。

再度ハーブ園を訪れた羽柴の目の前に巨大な穴(クレーター)が忽然として現れる。発生のエネルギー量を換算し、あきれる磯貝だが、その答えを見出すことができなかった。

そこへ加わった磯貝の恋人クリス・ロバート磯貝に次々と驚くべき事実を伝えた。海外の科学者からもたらされるニュースは”リーマン予想が崩れた”、”πに規則性が現れた”等、従来科学が基礎としていた部分を揺るがすものばかりだった。

銀河系の星々が消えていく中、アメリカ大統領は科学顧問や物理学の最高権威らを集めて緘口令をしくが、現実はそれを上回った。

ロサンゼルスでは地震も生じないままに生じた幅300メートル、深さ2000メートル、長さ450キロの亀裂(エッジ)が、更に延びつつあった。報道はされるものの、誰も真実を知ることはなく、ただ右往左往するだけだった。

磯貝クリスは大統領に招集されたメンバーから、真実を知る。

間もなく「相転移(Phase transition)」が起こるのである。

羽柴らに、気体・液体・固体という3つの相を例としてあげ、相転移によってこれまでの物理法則が崩れること、その結果として全てが消滅してしまうことを告げた。

絶望する磯貝羽柴らだったが、大統領に招集されるメンバーの中にワームホールの専門家がいることを知り、ワームホールによって別世界に逃げる方法に一筋の光明を見出した。これまでの失踪事件・磁気異常とワームホールとの関係を繋ぎ合わせた磯貝は集団失踪事件を起こし、クレーターを生ぜしめた現地”ハーブ園”にワームホールの口が開く可能性が高いことを語った。

相転移襲来まで時間のない中、羽柴らスタッフは知人らを電話でハーブ園に呼び寄せるが、関係者だけでなく、また聞きの人間も押し寄せ、総勢173人の人間が集まった。過去の世界に繋がるというワームホールにおいて、173人という数には意味があった。

ハーブ園にやってきていた北沢俊哉はアンデス山脈マチュピチュで両脚切断の173人の遺骨が発見されていることを語った。そのうち女性は150人。これはハーブ園に集まった女性の数と同じだった。

 

藤村宅に入った冴子はそこで待ち伏せしていた藤村精二から真実を知らされる。

眞一郎が失踪した18年前に藤村家で起こったこと。

冴子を守るため、眞一郎藤村孝太と入れ替わったこと。

相転移襲来を知っていた藤村一家が事前にワームホールを使って過去へ逃れたこと。

そして、既に失踪していた藤村精二のポジションに、孝太すなわち眞一郎が座ったこと。

既に見る影もなくなったが、精二冴子の父眞一郎だった。

 

ラストを読むと、最後は冴子の一生が輪(リング)のように閉じており、うまく完結しているのですが、若干使い古された手法で、なんだか興ざめ。

また、一番よくわからなかったのは、ビルから飛び降りて死んだはずの藤村精二眞一郎)が生きていたこと。そもそも、なぜ飛び降りたのかもわからない。

眞一郎が変わってしまった理由に対して、「翼のある蛇」、「副乳」、「藤村孝太」という3つのキーワードが転がっているが、どうも説明不足でよくわからない。

そもそも「翼のある蛇」とは何か?何ができる存在なのか?

藤村孝太栗山眞一郎には出会う前から自身が通常の存在ではない(翼のある蛇である)という意識はあったのか?

二人が出会うことで、どうやって力を片側(藤村孝太)に集中することができたのか?

そのために、冴子を殺すことを孝太は暗示するが、力を有する前の孝太にそんなことが何故できたのか?

とにかく、藤村精二の話であったり、冴子の想像は飛躍していて、どうも納得感がない。

全般にダラダラと大風呂敷を広げたり、妙な脇道にそれたりしながら、最後は短時間でそれを閉じようとして、無理が生じているような印象を受けます。

ラストに向けて緊迫感は急速に盛り上がるんですが、どうも最後の閉じ方に穴がいくつも開いているようで、ちょっと残念です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ビロウな話で恐縮です日記』 三浦しをん

Birounikki 2009年、44冊目。三浦しをん『ビロウな話で恐縮です日記』

これまでのエッセイのような体裁とはちょっと変わって、2007年1月1日から不定期に綴られる日記形式。(2007年1月1日~2008年9月20日)

実際に、ブログ『ビロウな話で恐縮です日記』にあった内容(日記)で、今回の作品の更に後の日々(日記)は今まさに更新されているということになるのでしょうか。

ただし、日記形式とはいえ、内容はこれまでのエッセイとほぼ同じ。何となく、十年一日というか、書いてある内容がそれほど変わらない。

とにかく脱力感漂う話がいっぱい。

別に何がいいってわけでもないし、ホモネタもどうでもいいんですが、何とはなしにニヤリとして読んでしまいます。

何でしょう、上から目線で読める楽しみとでもいうんでしょうか。

これに比べたら、オレも真面目に生きてるんだな、って感じですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『いっちばん』 畠中恵

Icchiban 2009年、43冊目。畠中恵『いっちばん』

『しゃばけ』シリーズ第7弾。

今回も5編の短編からなる作品。いつもの味がしっかりでていて、読みやすい。キャラクターもしっかり出来上がっているので、安心して読めます。

今回の作品では、兄の松之助は分家して家を出ており、栄吉も修業に出て、という設定。これまでとちょっとは変わった感じかと思いきや、やっぱり栄吉は欠かせないんでしょうね、しっかり登場しています。

 

いっちばん

日限の親分が困っている。通町を荒らす掏摸の目星をつけたはいいが、証拠がない。

犯人と目したのは老舗の大店黒川屋の次男富次郎だ。富次郎から飴売りのおすまに掏った品物はわたっているようなのだが、そのカラクリがわからない。

頭を抱える親分若だんなに相談するのだが・・・。

一方、栄吉が修業で三春屋を離れ、松之助も独立して寂しい若だんなを慰めるため、妖怪たちは知恵を絞り、若だんなに贈り物をしようと決める。

菓子がいいという鳴家栄吉のもとへ向かう仁吉について街に出た。

春画がいいという屏風のぞきおしろ蛇骨婆は広徳寺の寛朝のもとへ向かった。

根付がいいという鈴彦姫野寺坊は上等の根付を買う資金を集めるべく、八丁堀に残っている荒寺の床下を探った。

 

いっぷく

妖怪を探している者がいるという噂が流れる。噂される妖怪の中には鳴家の名もあり、ちょっと奇妙な塩梅だ。

そんなころ、廻船問屋長崎屋に挑みかける商売相手が現れた。唐物屋小乃屋と西岡屋である。

小乃屋の跡取り息子七之助は開店披露の会を「品比べの席」としたいと、参加を長崎屋にも呼びかけた。

七之助に会った若だんなは何やら懐かしい心持ちになるが思い当たるふしはない。七之助もまた若だんなに何かを言いたい様子。

品比べの日が近づく中、鳴家七之助に捕まった。

 

天狗の使い魔

寝ている若だんなを攫ったのは信濃の六鬼坊という大天狗。

既に亡くなった友人の修験者八坂坊が飼っていた妖怪管狐を貰い受けるべく、江戸の北方にある王子稲荷神社に向かった六鬼坊だったが、そこを守る狐たちに追い返されてしまう。

そこで狐を従える大妖皮衣を脅迫すべく、皮衣の孫である若だんなを攫ったのだった。

事情を知った若だんな仁吉佐助が血相を変えて追ってくるのを懸念し、穏便に解決しようと、六鬼坊に勝負を持ちかける。

しかし、その勝負の最中、更に、若だんなを横取りしようとするものが現れた。

狛犬である。神社で祭神狛犬の間に割り込んだたちが許せなかったのだ。

 

餡子は甘いか

老舗菓子屋安野屋で修業する栄吉は倉に潜りこんで砂糖を盗もうとする男を捕まえた。

捕まえた盗人八助は味のわかる舌をもっていた。これを評価した主の虎三郎八助を安野屋に奉公人として迎え入れるのだった。

八助の面倒をみることとなった栄吉だったが、虎三郎に菓子作りを止められており、気分は沈んでいた。加えて、何事にも器用にこなす八助の姿を見て、自身の限界を知った栄吉はとうとう菓子作りをあきらめることを決心し、若だんなに伝えるのだった。

 

ひなのちよがみ

若だんなのもとを訪ねてきた若い娘に、色めきたつ長崎屋だったが、娘の正体は塗り壁状の白粉をやめ、薄化粧になった紅白粉問屋一色屋のお雛だった。

一色屋は先日の大火で店の経営が苦しくなり、年末を越すのも一大事。お雛もまた店に出て、一色屋を支えていこうと決心し、商売の相談をするため若だんなのもとを訪ねてきたのだった。

千代紙の小袋に白粉を入れて売り出すというお雛のアイデアを活かすため、藤兵衛は知り合いの錦絵屋を紹介する。

しかし、3日後、血相を変えて若だんなのもとに押しかけたのはお雛の許婚、材木問屋中屋の正三郎である。錦絵屋志乃屋の次男秀二郎お雛に言い寄ることに、苦情を言いにきたのだ。

塗り壁のようだった、お雛が薄化粧になった途端、正三郎は気が気ではなくなってしまったのだ。そんな正三郎の姿が、お雛には不満でならない。

喧嘩になってしまう二人をよそに、仁吉はこれ幸いと若だんなに問題を出した。二人の問題を解決する良い方法はないかと。

うまい回答を出したはずの若だんなだったが・・・。

 

前作『ちんぷんかん』の「鬼と小鬼」に登場した冬吉が登場しましたね。賽の河原から逃げ出して、生き返ったはずなのに、”生き別れ”になってしまっていましたから、どうなったんだろうと気になっていましたので、今回の登場で漸く、ケリがついたという感じです。

若だんなも妖怪たちも、更に栄吉もあいかわらずです。

若だんな栄吉も、本来いろいろ見聞を広める等、成長すべき年頃なんですが、(いろいろあるんですが、本質的には)あまり成長したように見えない。でも、そんな変わらないところが、このシリーズのいいところかもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『シンメトリー』 誉田哲也

Symmetri 2009年、42冊目。誉田哲也『シンメトリー』

姫川玲子シリーズの3作目。今回は短編集。

小粒な内容が多いものの、逆に(イロモノ的キャラクターの)姫川玲子でストーリーを作るには、これくらいのほうが合っているかもと思わせる内容。

悪くない。

 

東京

姫川玲子(25)がまだ品川署の強行班捜査係で巡査部長昇任試験に四苦八苦していた頃。

大先輩の部長刑事木暮利充と組んで向かった現場は品川東高等学校。屋上にあるプールから生徒が飛び降りたのだという。

落ちるところを見かけた者はなかったが、自殺にしては手すりに残された指紋は不自然だった。

同じ水泳部員は口を濁すが、水泳部内にはイジメがあったようだ。

 

過ぎた正義

東京都監察医務院の国奥定之助姫川玲子に話したのは、不自然な連続事故死だった。心神喪失や少年ということで、凶悪犯でありながら罪を逃れた吾妻照夫大場武志が交通事故死や薬物死という形で次々と死んだのだ。

法が裁ききれなかった犯罪者を誰かが罰したのでは?自身を省みて可能性を探る玲子

連続事故死した二人に共通する人物の一人として浮かび上がってきたのは、かつて捜査一課にもいたことのある倉田修二警部補の名だった。倉田玲子が捜査一課入りする前に、息子の殺人事件を契機に退職していた。

玲子倉田の息子が服役する川越少年刑務所前で倉田修二を待ち構えた。

 

右では殴らない

新種の違法薬物によって引き起こされる劇症肝炎での死亡事例が連続して発見される。

二人の被害者の携帯電話のメモリーから浮かび上がった容疑者は女子高生。

下坂美樹、17歳。

問い詰める玲子美樹は援助交際をしていることを悪びれもせずに語る。

 

シンメトリー

駅員徳山和孝は脱線事故に遭遇する。

徳山の勤務する駅を発した電車が、酔って踏切内に進入した車によって、脱線したのだ。徳山が駆けつけた時には、既に車両は脱線したうえ、傾いてしまっていた。

徳山は車両内に閉じ込められた顔見知りの女子高生小川実春を助けるべく、精一杯傾く車両に手を伸ばすが、甲斐なく車両は遂に横転し、徳山は右肘から先を失うこととなった。

死者102名、負傷者は重軽傷合わせて425人という大事故だったにも係わらず、泥酔して事故を引き起こした米田靖史に下された罰は懲役5年に過ぎなかった。

JRを退職した徳山は5年して出所した米田を呼び出すと、心臓を出刃包丁で一突きし、遺体を事故現場の上り線内側線路に縦にセットした。

 

左から見た場合

吉原秀一殺害事件は高島平署管内で起こった。

部屋で刺された吉原は携帯電話で電話をする途中だった。「045666」という入力途中の電話番号は横浜市中区のナンバーを指し示すが、吉原の携帯電話のメモリに該当の番号はない。

交友関係の少ない吉原の知人にあたりをつけるべく、携帯電話の電話帳をもとに捜査は開始されたが、姫川玲子は電話帳の最後にある「渡辺繁」の名前が気になって仕方がない。

捜査が進むにつれ、吉原の過去に浮かび上がったのは、石膏ボード盗難事件。この犯人に目された会社ワタナベ工務店の社長こそ、渡辺繁だった。

 

悪しき実

男が死んでいるので見にきてほしい」との通報で、駆けつけた赤羽署の警官は現場で目にしたのは窒息死した男。しかし、そこに通報者の姿はなかった。

部屋の賃借人である春川美津代を偶然発見した姫川玲子に、美津代は自分が殺したのだと告げる。

 

手紙

姫川玲子のもとに手紙が届く。かつて玲子が捜査一課に抜擢される契機ともなった今泉春男と出会った事件の犯人からである。

玲子は部下たちに、当時の武勇伝を語り始めた。

玲子は入庁4年目。2度目の挑戦で巡査部長昇任試験に合格し、品川署から碑文谷署に異動、交通課規制係の主任を拝命していた。

そして半年。玲子は、目黒署に立った殺人事件の帳場に応援で駆りだされた。

公園で殺害された女性杉本香苗の会社の事情聴取を目黒署の高野真弓巡査部長と組んで行う玲子だったが、真弓に主導権を握られてしまう。

本庁にとりたててもらうまたとないチャンスにあって、真弓に主導権を握られたままでは目立つ手柄を立てられないと焦る玲子は、放置されたままのパソコンの調査を今泉に直接申し出たのだった。

  

姫川玲子シリーズとはいえ、短編で、かつ犯人等の描写も深めようとすると、自ずと玲子の出番は少なくなります。加えて、いつも以上に、なんとなく解決(?)するような構造で、ミステリとしてはちょっと・・・。

東京」なんかはシリーズの作品っぽいものの、表題作の「シンメトリー」では玲子は単なる添え物の扱いでしかないですね。

右では殴らない」は姫川玲子の辛辣な部分が出ていて、これはこれで面白かった。

左から見た場合」。うーん、こんなの作品にしてしまうんだ、という恐れ気のなさに驚きを隠せません。今更、携帯電話の変換ネタってどうよという感じですね。

短編ということもあって、本筋とは関係のない外伝的なネタばかりでした。軽くて、悪くはないんですが、のめりこめるほどの深みはない。

時間があれば、読んでもいいかというレベルか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ソウルケイジ』 誉田哲也

Soulcage 2009年、41冊目。誉田哲也『ソウルケイジ』

前作よりわかりやすいストーリー。

ただ、戸部に追い込まれる人々の悲哀が描ききれていないため、事実の描写でとどまっており、心情面での深み、奥行きがでなかったことが残念。

 

多摩川土手のワンボックスカーの後部荷台から成人男性のものと思われる左手首が発見された。

その後、近くのプレハブ賃貸ガレージに大量の血痕を発見した三島耕介の通報を受けた警察は(DNA鑑定の結果)失踪しているガレージの賃借人高岡賢一が被害者であることを突き止めた。

蒲田署に設けられた捜査本部には本庁からは十係の姫川班と日下班が出向く。これを迎えたのは巡査部長に昇格し、蒲田署に異動になっていた井岡博満である。

姫川玲子井岡と組んで河川敷を回るが、特に目ぼしい材料も拾うことができない。

血痕の発見者であり、高岡の経営する「高岡工務店」の従業員でもある三島耕介の事情聴取の役割を日下にさらわれてしまった玲子耕介の交際相手である中川美智子の担当に回されてしまう。

三島耕介を調べた日下耕介高岡を殺害した可能性を探る。

高岡は、同じ現場で働いていた三島忠治が9年前仕事中に転落事故で亡くなった後、息子である耕介の世話をしていた。高岡の過去を探る日下はかつて高岡が勤めていた中林建設に辿り着くが、中林建設は指定暴力団田嶋組のフロント企業だった。

中林建設の仕切る現場で働く木下興行の三島忠治には借金があり、彼の借金は死亡保険金で返済されていた。

一方、玲子高岡が少年時代を過ごした足立区南花畑で高岡の過去を探っていた。高岡の実家は駄菓子屋だったが、地上げに遭い、今はマンションになっていた。この地上げを指揮していたのは中林建設(中林不動産)。

高岡賢一の死亡保険金の受取人に指定されていたのは、三島耕介のほか、北千住で居酒屋を経営する内藤君江という人物。君江には病院に看病する甥内藤雄太の存在があった。

高岡”は本当の高岡賢一ではなかった。当時の高岡を知る人物に失踪した高岡の写真を見せたところ高岡賢一ではないことを証言したのだ。

地上げの一件とを繋ぎ合わせた玲子内藤雄太の父内藤和敏が中林建設を介して高岡賢一と入れ替わったことを喝破する。

また、中川美智子の父中川信郎三島忠治と同様に木下興行の現場で転落事故で死亡していることが発覚する。この類似性を調べる日下は木下興行に巣くう戸部真樹夫の存在に辿り着くが、戸部高岡の失踪事件以降、姿を見せないのだという。

戸部は借金を抱えた三島忠治中川信郎に転落事故に見せかけた自殺を強要してきたのだ。中川の件では、その娘である美智子をも食い物にしようとしていた。

忠治の死の真相を偶然知ってしまった三島耕介は同じ境遇の中川美智子を訪ね、戸部の存在を知った。美智子を守ると決心した耕介戸部美智子の部屋を訪れるのを待ち構え、叩きのめした。

これに激怒した戸部はその責任を問うように、高岡内藤)のもとへ向かったのだ。

そして・・・。

 

高岡賢一こと内藤和敏の心情を追うと、もっと味のある作品になったようにも思えるものの、このストーリーの中では”死んでしまった人”、”被害者”だったので、なかなか難しかったのでしょうか。高岡内藤)の遺書なんかがラストに来てもよかったんじゃないか、と少し思ったりもします。

今回はガンテツの登場はなく、玲子と対決(?)するのは日下です。

なかなか味のあるキャラクターですね。非常に緻密で、それでいて小市民的で・・・。

玲子に嫌われる役柄になっていますが、殆どやつ当たりでしかなく、非常に気の毒なキャラクターです。

どちらかというと、ヒラメキだけで勝負する玲子よりも、日下のようなキャラクターの方が警察小説向きなんじゃないでしょうか。

でも、こうやって比較すると、姫川玲子って、内田康夫浅見光彦のようなノリ(何だかよくわからないうちに、勝手に想像して、たまたま真理につきあたっているという)なのかもしれません。いやぁ、真面目に捜査している人からすると、本当に苦々しいかもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ジェネラル・ルージュの伝説(海堂尊ワールドのすべて)』 海堂尊

Genaral 2009年40冊目。海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説 ~海堂尊ワールドのすべて』

小説はそれなりに面白かったけれど、それ以上に人物相関図等、こんがらがってしまった作品間の関係を示す材料が貴重。まだまだ続くであろうシリーズを更に楽しむうえで、非常に有用な資料集になっています。

 

小説「ジェネラル・ルージュの伝説」

1991年10月。東城大学医学部付属病院総合外科の新米医局員速水晃一は屋上の貯水タンクの上でサボっている。

かつて同様にこの場所でサボっていたICUの猫田からは「速水先生はまだ本当の修羅場をご存じないんですから、大口を叩くのもほどほどにね」と批判されるのだが、速水は自信のある態度を崩さない。

世良医局長が執刀するオペの外回りについた速水に、突然世良は左胃動脈結紮を任せるが、速水はこれを何事でもないように成し遂げる。そんな速水の姿に世良黒崎助教授は3年前に医局を去った渡海征司郎を重ねるのだった。

水落冴子は売れないアイドルとして城東デパートの屋上で歌うことになっていたが、その前夜出会った同じ事務所のバンド『バタフライ・シャドウ』との賭けに勝ち、翌日の屋上ステージでの共演を勝ち取る。

これを良しとしないマネージャー小林は妨害しようとするが、ザックこと城崎だけは小林やメンバーの制止を振り切り、ステージに駆けつける。冴子が『ラプソディ』を歌い終わった直後、城東デパートで火事が発生する。

医局員らが学外行事に駆り出され、総合外科は開店休業状態。速水はいつものように屋上で寝転んでいたが、そこで城東デパートの火の手を目にするや、神経内科病棟(別名極楽病棟)の田口に協力を求める。

早速ICUに向かった速水は権限を掌握すると、負傷者の迎え入れ体制を構築しようとするが、実際に多数押し寄せる怪我人を前に呆然と立ち尽くしてしまう。「これが修羅場」と嘯く猫田の言葉にうつむくばかりの速水だった。

猫田花房美和に突然話しかける。

速水先生は美和ちゃんのことが大好きなんだって。でね、速水先生はこれから緊張しまくるから、自分を支えてくれるお守りがほしいんだって。・・・・・・美和ちゃん、口紅を持ってたわよね。それを速水先生にあげてくれない?

戸惑う速水だったが、緊張のあまり真っ青になった自身の唇に、受け取った美和のルージュを乱暴に塗りたくると、戦場に戻った。

速水は待合ロビーも臨時救急室にすると、全ての患者を受け入れる体制をとり、陣頭指揮を始めるのだった。

 

HISTORY「海堂尊以前/以後1961-2009」

「自作解説」

「海堂尊ワールド」

 -メインキャラクター解析

 -全登場人物表

 -登場人物相関図(●現在2006~2008 ●過去1988 ●未来2010~2012)

 -心に響く名ゼリフ

 -白鳥圭輔の「極意」一覧

 -東城大学医学部付属病院案内

 -はやわかり!全国大学・病院MAP

 -全国主要施設ガイド

 -桜宮市年表

 -用語解説

 -医療用語事典

 -カルトクイズ100

 

人物相関図で再度関係性を確認してみると、過去と現在をつなぐ中で、欠け落ちてしまっている物語もまだまだありそうですね。特に、世良はこれから(?)どうなっていくんでしょう。花房美和も今回のエピソードで世良から速水に乗り換えてしまった感があり、手術の腕でも速水に追い抜かれ、なんだか少しずつ可哀想な存在になりつつありますが・・・。

今回の小説は「現在」と「過去」を繋ぐ一つの話ですが、まだまだいろいろな話が生まれそうですね。

ところで、城崎って、碧翠院桜宮病院と何か関係あるって設定ありましたっけ?今回の小説では、そんな発言がありますが・・・。桜宮巌雄の息子?

とにかく、今回は小説以上に資料集としての価値の高い作品でした。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『英雄の書 (上・下)』 宮部みゆき

Eiyu1Eiyu2 2009年、3839冊目。宮部みゆき『英雄の書(上・下)』

何だか中途半端な作品。

作品の世界観を説明するために妙に紙幅を費やしていて、それがどうもかったるい。もうちょっとシンプルにすればいいのに、設定に妙に凝ってみましたという作者の拘りだけが先行しているように思える作品。

 

森崎友理子(小5:11)は授業の最中、突然家に帰るよう指示される。

学年主任の木内に連れられて帰った家では母美子が泣きながら友理子を迎えた。

友理子の兄大樹(中2:14)が二人の同級生をナイフで刺し、失踪したのだ。刺されたうちの一人は死亡していた。

警察は失踪した大樹を探すとともに、事件の動機を探るが何も出てこない。友理子にも思い当たる節はなかった。

大樹の部屋を探ったある夜、友理子大樹の本棚から声をかけられる。友理子に話しかけたのは古ぼけた赤い革表紙の本”アジュ”だった。

アジュ友理子大樹が”英雄”に憑かれてしまったと告げる。大樹を助け出すべく、友理子アジュが元々収蔵されていた、血の繋がらない大叔父水内一郎の別荘へ向かった。

その図書室で友理子アジュを迎えたのは深緑の本”賢者”ら、多くの本たち。”賢者”は友理子に事件の真相と”英雄”について語る。

人を導く”英雄”の物語には光と影が添うように”黄衣の王”という戦を欲するという側面をも併せ持つ。そのため”英雄の書”(物語)は物語の循環の源泉である”無名の地”に封印されている。

しかし、この源泉から既に派生して産まれた数々の写本ともいうべき英雄物語はこの世(”輪:サークル”)にあって、人びとをひきつけてやまず、人々に影響を与え、戦を引き起こすとともに、人びとの力を”英雄の書”本体に蓄積させてきた。

こうして英雄の力の影響下におかれる人びとを””といい、”英雄”本体の封印を破るほどに力を蓄積させる最後の引き金を引いた者を”最後の器”、”召喚者”といった。

今回、大樹は”英雄”の器として、クラスメート二人を手にかけることによって、”最後の器”、”召喚者”となってしまったのだ。

友理子大樹を助けるべく、”賢者”の導きの下、その額に魔方陣の印を受け、アジュとともに”無名の地”に向かった。

無名の地。そこでは”無名僧”と呼ばれる数多くの僧形の者たちによって、「咎の大輪」と呼ばれる巨大な一対の車輪が回され、物語の始まりと終焉を循環させていた。

”印を戴く者(オルキャスト)”と呼ばれる友理子の使命は、最後の器英雄の呪縛から解き放ち、再度”英雄”を”英雄の書”に封印すること。

無名僧を代表する大僧正友理子に”英雄の書”の抜け殻である”虚ろの書”を見せようとするが、それを櫃から取り出して驚愕の声を上げる。友理子には何でもない素振りを見せるが、その様子は徒事ではなかった。

それと同時に、その会見の様子を盗み見する無名僧を見つけ出すと、友理子に従者として連れて行くよう懇願するのだった。

オルキャストとして「ユーリ」を名乗る友理子はその無名僧に「ソラ」と名づけ、元いた世界(輪:サークル)に戻るが、”賢者”はそれが気に入らなかった。

ソラ」は無名僧としてあるまじき思いを抱き、「穢れた者」として実は”無名の地”から放逐された存在だった。誰もがないがしろに扱うソラのことを逆にユーリは人間らしい存在として評価するのだった。

学校の図書室で自殺しようとしている少女乾みちるを救ったユーリみちるから、事件の背景を知らされる。中一の頃、みちるをいじめから救った大樹は学校教師幡多には生意気な生徒として評価され、中二になって大樹の担任となった幡多はクラスの生徒に大樹をいじめるよう仕向けたのだ。

みちるを勇気付けるユーリを突然、”英雄”の使者が襲う。防戦一方のユーリを救ったのは灰色の長い髪を持った男。”英雄”を追うという”狼”の一人だった。

ユーリに「アッシュ」と名付けられた”狼”(本名:ディミトリ)は大樹が使用した”英雄”の写本『エルムの書』を追ってやってきたのだ。アッシュは『エルムの書』が紡がれた世界(領域:リージョン)の住人。

ユーリは”英雄”の手掛かりを求め、アッシュとともにアッシュの領域へ旅立った。

アッシュの領域とは『ヘイトランド年代記』という物語世界。

ヘイトランドは北の果ての国。500年ほど前、ヘイトランドが隣国から侵略を受けたときの王を”戦勝王オルタイオス”といったが、人口の少ないヘイトランドで侵略を防ぐにあたって、オルタイオス王は禁忌の法を行ったのである。王宮付きの軍事魔道官エルム(♀)をして、死者の蘇りを行わせ、不死の軍隊を作り上げたのだ。

これにより独立を守ったヘイトランドだったが、平和になってしまえば不死の軍隊は無用の長物。逆に、不死の者らによってヘイトランドは強盗、人殺しの横行する国となってしまう。

不死者を排除するためオルタイオス王はエルムを処刑し、同時に『エルムの書』も焼き捨てたはずだったが、57年前『エルムの書』が再び世に現れたのだ。

内乱の続くヘイトランドで王位を要求した貧乏貴族キリクが『エルムの書』を見つけ出し、不死の軍隊により王位を簒奪したのである。過去から学び、心を備えない不死者を作り出したキリクだったが、誤算があった。虚ろな不死の器には魔が入り込み、怪物と化した不死者の討滅に追われたキリクは討伐の最中に死んでしまう。

こうして再び王都エルミグアルドに封印されたはずの『エルムの書』だったが、これを水内一郎が入手する。そして自身の領域に持ち込み、それを読んだ大樹が”英雄”を召喚してしまったのだ。

アッシュユーリとともに手掛かりのある場所、カタルハル僧院跡に向かった。その地下深くでユーリの見たものは、変わり果てた水内一郎の姿だった。水内は、”英雄”が8つに裂かれたキリクの肉体を探すだろうと告げた。

王都エルミグアルドを”英雄”が襲った。王宮は地下へと陥没し、大迷宮と化してしまう。

ユーリアッシュらとともに王都へ向かったが、そこで出会った大男の”狼”モーガンソラを見て怪訝な顔をするとともに、悲しそうにソラが大迷宮に同行するのを制止する。

しかし、記憶が戻りかけているソラは恐怖を感じながらも、最後の答えを求めてユーリらとともに大迷宮に向かうのだった。

大迷宮の奥、キリクの目を取り戻した”英雄”には、対峙するユーリアッシュの言葉は届かない。目を取り戻した”英雄”に見つめられ、立ちすくむユーリらの中にあって、”英雄”のオーラに包まれたソラは本来の姿を取り戻していた。

森崎大樹の姿に戻ったソラ友理子に「ごめん」の一言を残すと”英雄”に突っ込み、蒸発するように消えた。そして”英雄”も飛び去って消えた。

無名の地に戻ったユーリは大僧正、アッシュから初めて真相を告げられる。

無名僧とは最後の器だった者の罪の姿だった。無名僧は器としての人の姿を失った後も罪を背負って(咎人として)、咎の大輪を回すべくうまれるが、稀に心の欠片を残した<なり損ないの無名僧>がうまれる。このなり損ないの無名僧は”英雄”と繋がったままという危険な存在。その存在は浄められねばならず、それが出来るのはオルキャストだけだ。実はユーリの使命は”英雄の書”を封印することではなく、<なり損ないの無名僧>ソラを浄めることだったのだ。

使命を果たした友理子の額の紋章は消え、オルキャストではなくなった。大樹を失い、”英雄”の封印もできていない状況に、煩悶する友理子だったが、友理子にはもはや何も打つ手は残されていなかった。

現実の世界(輪)に還った友理子の周りで時間は少しずつ過ぎて行く。大樹の失踪は解決するはずもなかったが、友理子は両親を勇気付けながら少しずつ平穏な生活がかえってくる。

そんな友理子を訪ねる者があった。アタリと名乗る外国人はディミトリアッシュ)をよく知る”狼”だった。高齢のアタリは”狼”を引退するに当たり、友理子を後継者に指名するため現れたのだった。

 

どうもストーリーも盛り上がりどころが少なく、殆ど序章だけの作品のような印象を受けます。上巻はほとんど設定の説明だけといってもいいほど、平板な(「説明っぽいなぁ」という印象を受ける)ストーリー展開で、下巻で漸く話が動き始めるわけですが、どうもイベントが小粒。

英雄”との対決も「対決」といってしまうと嘘になってしまうような内容で、結局何だったんでしょう。

一応、形の上では友理子の冒険譚ということなんでしょうが、別に友理子って何もしていないんですよね。人に引っ付いていって、流れに流されていったら、使命を果たし終えていましたというような展開で、遊園地の観覧型のアトラクションに乗っているような印象の、ちょっとアトラクティブさの足りない内容に終わっています。

最後に”狼”の後継指名を受けているので、今後”狼”ユーリの物語が始まるのかもしれませんが・・・・。そうとでも考えないと、この中身の薄い作品はちょっと説明しにくいかもしれません。

たとえ、この続刊があったとしても、こんなノリでは読みたいと思うかは、ちょっと疑問ですが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ねたあとに』 長嶋有

Netaatoni 2009年、37冊目。長嶋有『ねたあとに』

何もないダラダラした山荘の日々(三年間というよりも、三回の夏)を綴った話なんですが、何となく楽しい話です。主人公コモローの友人久呂子を語り部として、コモローの山荘で夜な夜な行われる、怪しげな(魅力的な)オリジナルゲームの紹介が行われます。

主な登場人物は作者と思しき作家コモロー。語られる事跡等は長嶋有を踏まえて書かれますし、父親八郎ヤツオ)も古道具屋を営んでいるなど長嶋有の父長嶋康郎を思わせます。その他の登場人物もおそらくモデルがあるんでしょう。

 

その一 ケイバ

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)]

<<ケイバ>>

麻雀牌を取り出し、裏向きに15×9に並べる。(1余る)

各列に出走馬の名をつけてスタート。余った1枚を捲り、出た数の列の最後尾に、その1枚を挿入する。すると上部に1枚飛び出すので、これを捲って、また出た数の列の最後尾に挿入し・・・。字牌は同じ列に挿入する。

最後まで捲られた列の馬の勝ち。

 

その二 顔

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山四郎ヨツオ)]

<<顔>>

サイコロを二つ用意する。このサイコロで出た目に設定された答えに応じて名前等を設定していく遊び。

(例)岩崎敦子・心の恋人

 藤原大五郎(92歳⇒28歳)

 福島県出身のハーフ

 祖先:農民

 職業:駄菓子屋

 住居:団地

 性格:几帳面だが、努力家で、陰険

 趣味:王冠コレクター

 

その三 ムシバム

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、コウさん川野丈ジョーさん)]

コモローの山荘内で発見した虫だけを登載するブログ。

 

その四 それはなんでしょう

[登場人物:久呂子、(長山コモロー、)長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

<<それはなんでしょう>>

質問を用意するが、質問の言葉は後半部だけを言って、みんながそれに答えるというゲーム。前半部を予想して答えるが、実際には前半部の意表をつかれた質問に、答えとミスマッチが生じることを楽しむゲーム。

(例)質問(後半部):なぜですか?

   答え(コモロー):なぜですか?そんなヤボなことを聞くなよ。その方がいいに決まってる!もう3年も前からだもの。僕にとっては欠かせないことといってもいいね。

   質問(前半部):人で混雑した渋谷のスクランブル交差点を、あなた一人だけ素っ裸で歩いてきたのは

  

その五 過去の遊び

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

コモローが紹介する廃れたゲームの数々。

  -『紙相撲』:ドーピング力士海の海

  -『歌詞』:顔の変型

  -『タンカ』:リレー短歌

 

その六 また顔

[登場人物:久呂子長山コモロー岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

<<祝・白田絵美さんご生誕記念・顔>>

白田絵美・心の恋人

御手洗宗太郎・35歳

佐渡島出身⇒埼玉出身

家族構成:両親と姉一人

職業:画家

住まい:建売住宅

性格:陰湿で、無邪気で、愛に飢えている

趣味:王冠コレクター

癖:『でもさ』という

特技:鳥語を解する

好物:カッパえびせん

髪型:ヒトラー

鼻:禅智内供の鼻

目:パッチリした二重瞼

口:タラコくちびる

あご:二重あご

首:異様に長い

上半身:なで肩だが逆三角形

 

その七 軍人将棋

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山トモコトモちゃん)]

<<ナガヤマ家版軍人将棋>>

「軍医」(スパイに「負け」、他の全てと「引き分ける」)を新設し、終盤まで相手の駒を読めなくすることで醍醐味を増す

 

その八 ダジャレしりとり

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山トモコトモちゃん)、長山四郎ヨツオ)、相田カズトC

シリトリの末尾2字をダジャレ(?)でつなぐ遊び。

作品中は最早ダジャレではなく、眠気等で朦朧とした人びとの勢い・ノリだけの遊びと化す。

 

紹介されるゲームは確かに面白そうですね。

でも、「顔」なんかは”巻物”がない以上、準備にすごく時間がかかるでしょうし、作った人はつまらなそうだ。

「ケイバ」も作品中にもあったとおり、実況がうまく入らないと単調になってしまうかもしれませんね。でも、中途で”落馬”とか、仕組み上デッドヒートになるなど、最後の最後まで楽しめる仕組みは誰が考えたのか知りませんが非常に感心しました。

「それはなんでしょう」は、多分、質問する人のセンスや、答える人の思い切りの良さが問われるゲームですね。これは時間はかからない分、逆にやる人を選ぶゲームでしょう。

単に、こういったゲームの紹介だけでなく、ハサミムシやネズミが徘徊し、ウスバカゲロウや蛾が飛び交う山荘でのまったりとした時間の経過が何とはなく心地良い。

薄暗く、ジットリとしたような山荘。小道具屋で売れ残った商品の数々。通常想像する、すっきりした「山荘での避暑」とはまた違った様相が目に浮かぶようです。お誘いを受けても、ちょっと躊躇してしまうような山荘ですが、それでいて魅力的に映ります。

登場する面々もそれぞれ惚けたキャラクターを醸しだしていて、非常に面白い。類は友を呼ぶといいますが、そんな感じですね。

別に、大きなストーリーがあるわけでなし、心を打つものも一つもないのですが、独特な雰囲気を楽しむことができ、(時間に追われているときには、イライラしそうですが)これはこれで十分楽しめる作品だったような気がします。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『リアル鬼ごっこ』 山田悠介

Realoni 2009年、36冊目。山田悠介『リアル鬼ごっこ』

山田悠介のデビュー作。

某王国の国王が命じた「佐藤」姓根絶のためのゲームが、「リアル鬼ごっこ」だ。そもそも殺伐としていて救いがないストーリーに加え、かなりアラが多く、物語としてはちょっと厳しい。

多くの登場人物が出てくるのだが、主人公以外はどうも薄く、キャラクターでも読める作品ではない。必ずしも勧善懲悪なストーリーではなく、残酷ながらも現実的ではあるものの、どうも中途半端な点も残り、どうも未完成な印象を受ける作品で終わっている。

 

西暦3000年、人口約1億人、医療技術や科学技術、機械技術が世界でもトップクラスである王国。人口のうち佐藤姓をもった人口は500万人を超え、国民の20人に一人が佐藤となっていた。

そんな佐藤姓の一人、佐藤翼(21)は父親輝彦と二人暮らし。

14年前、暴力を振るう輝彦に耐えられず、母益美は妹とともに家を出て行った。残されたは14年間、父の暴力に耐えながら成長してきたのだ。

中学時代に足の速さを認められたは陸上部にスカウトされ、その後の才能を伸ばした。高校最後の大会では全国優勝を遂げ、有名私立大学にも推薦で進学し、日々努力する生活を続けていた。

一方、佐藤姓が増えたことを憂慮する男があった。

国王である。

国王もまた佐藤姓であったが、同じ姓を持つものがいることが不快だったのだ。

この際、佐藤という名(苗)字を全て抹殺しよう

国王は「リアル鬼ごっこ」と名づけられたゲームを通じて、佐藤姓を抹殺することを企画し、実施するよう命じたのだ。馬鹿げた指示ではあったが、誰もそれに逆らうことはできなかった。

「リアル鬼ごっこ」のルールは簡単。

王国内の佐藤は全て追ってくる鬼から逃げる。鬼に捕まったが最後、その佐藤は宮殿内にある極秘収容所へ連れて行かれ、殺される。

期間は12月18日から24日の7日間、23時から0時までの1時間。

7日間逃げ切った佐藤には褒美が出される。

鬼は全国で百万人。それぞれが佐藤姓が近くにいると反応する「佐藤探知機ゴーグル」をかけるのだ。

 

初日、は鬼に出くわすこともなく、家に帰る。輝彦もまた何事もなかったかのように帰ってきた。

2日目。は初めて鬼と遭遇するが、その俊足で振り切った。しかし、家に帰ったは自宅前に輝彦が倒れているのを発見する。鬼に追われた挙句、心臓麻痺で倒れたのだ。

輝彦は死ぬ間際、に母と妹の消息を告げる。

益美は家を出た直後、交通事故で亡くなっていた。そして妹輝彦の弟夫婦の養女となっていた。鈴木姓から佐藤姓にまたは戻っていたのだ。

輝彦のことを託すと事切れた。

3日目。が住むという大阪市淀川区新北野へ向かった。

十三駅で電車を降りた直後、「リアル鬼ごっこ」は始まった。見知らぬ町を追われ続けた先で、は意外な人物と再会する。中学時代の悪友、佐藤洋である。

との偶然の再会も束の間、警報が鳴り響く。二人で逃げ延びると、のアパートへ転がり込んだ。

4日目。は二人で、新北野に50軒あるという佐藤家を訪ね歩くが、はなかなか見つからないまま、またゲームの時間がやってきた。

の指示に従い、路地を抜け、快調に鬼を振り切ってきた二人だったが、時間の経過とともに疲労は蓄積していった。限界に達したに先に行かせると、鬼に向かっていった。鬼は拳銃を取り出し・・・。

こうしてを助けるために自分を犠牲にして死んでいった。

5日目。自暴自棄に陥りかけただったが、何とか気を取り直し、再度、を捜しはじめる。リスト残り3軒というところでに再会した。

旧交を温める間もなく始まった鬼ごっこの最中、は熱を発し、鬼たちに追い詰められるが、何とか逃げ切ることに成功した。

6日目。佐藤姓の残り人数が公表される。残りは5万人。

は体調が戻ったが、始まった鬼ごっこでは圧倒的な数の鬼にひたすら追われ続ける。も恐怖心に襲われ、息の続く限り走っていたが、が必死に逃げている最中、を見失ってしまう。を捜すだったが、既には捕まってしまっていた。

7日目。放心状態のまま地元に戻ったは最後の鬼ごっこに臨んだ。を亡くし、虚脱状態のだったが、鬼に見つかるや恐怖心は弥増し、半狂乱のまま逃げるのだった。

”死への恐怖”の中走るの前に次々と鬼が立ちふさがる。

残り4分。が逃げ込んだ路地は行き止まりだった。

9人の鬼はゆっくりとの目の前に歩いてくる。しかし、鬼たちはを取り囲むようにして、を見据えると、ゴーグルを外した。

そして、鬼ごっこは終了した。

全日程の結果、生き残りは一人だけ。

閉会式で王はに何でも約束事を叶えると言うが・・・。

 

ちょっと設定もキツイですね。

そもそも「姓が同じだからイヤ」というものに対する答えは、別に鬼ごっこでなくても、強制的に改姓することでもいいんじゃないでしょうか。

国王の能力評価と危機管理の観点からは、答えないという解よりも、もうちょっと柔軟な対応する家臣がいないというのが、どうもお粗末。また、佐藤姓が20人に一人なら家臣、警察機構、軍の中にもそれだけ含まれるということで、語らずとも5%の支持率が得られる状況にあればクーデターを誘発する可能性は極めて高いものと考えられます。

また、鬼の方も1日に一人以上捕まえる必要があるのであれば、佐藤姓が減るにつれてどんどんリタイヤする鬼も出てくるはずで、そうそう鬼対佐藤の比率は上がらないはずなんですけどね。そうすると、王国すべての地域で鬼ごっこが実施されるのであれば、自ずと場所を選べる佐藤姓の方が優位に立てるんじゃないかと思いますが、気のせいでしょうか。

しかし、また人がたくさん死ぬ話です。救いも何もない。

重要(そう)なキャラクターがあっさり死んでしまうし、どうも脇役を捨て駒扱いしているようで、どうも釈然としません。

と母・妹の別れを重要そうなシーンとして演出し、父輝彦にも何度も消息を尋ねさせ、輝彦もそれを隠すという展開は、何か隠された理由・背景があるんじゃないかと思わせますが、どうもこのあたりが薄っぺらいんですよね。

母は交通事故で死んだだけ。父はそれを隠すため黙っていたって、何だか説得力に乏しい。輝彦の暴力にしても、何だかよくわからないし、会社の同僚森田もよくわからない存在。自身のことで手一杯であろうに、のことで発破をかけるなんて、どんな無責任な奴か。

それで漸く見つけたとはあっさり1日あまりでサヨウナラって、何で?

同様に、思わせぶりで出てきた中学時代の悪友も再会後1日で死んでしまうって、あまりにも軽すぎるんじゃないか。一人では話が持たないので、各章にゲストキャラクターを配したかっただけ、という印象ですね。そのために人を殺すというのは軽々しすぎるような気がしてなりません。

全編通して、どうも安直、殺伐といったイメージを消せない作品でした。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『桃色トワイライト』 三浦しをん

Momoiro 2009年、35冊目。三浦しをん『桃色トワイライト』

三浦しをんのエッセイ集です。

ちょっと昔(2004年頃)のエッセイで、話題は「新撰組!」「オダギリジョー」「仮面ライダークウガ」など。

 

主要登場人物:

しをん(ブタさん)、弟、漫画愛好仲間Uさん、友人K、友人ぜんちゃん、友人S、Sの娘とうふちゃん、友人H、Hの夫えなりさん、友人Tちゃん、あんちゃん、Nさん、腹ちゃん、友人ジャイ子、死国のYちゃん、「ヴィゴ愛友だち」Yさん、友人Yくん、広告代理店勤務A

 

小説からは想像できない自堕落な腐女子ぶり。

自分の近くにいたらどうか、と思うものの、他人事として話を読むには非常に面白い毎日。勿論、人としてどうなの?というつっこみどころは満載だが。

弟からは「ブタさん」と呼ばれる三浦しをんの近影を見てみたくもあり、見てみたくもなし・・・。

引き続き、読みたいと思わせるエッセイだが、虚脱感が漂い、あまり読みすぎると、人間としてダメになってしまうんじゃないかという気さえする。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ガン病棟のピーターラビット』 中島梓

Ganbyoutou 2009年、34冊目。中島梓(栗本薫)『ガン病棟のピーターラビット』

ガン闘病記&エッセイといった内容の作品です。

2007年10月からの病状と入院、手術。そして退院後の2月まで、25篇のエッセイ集です。

 

なるほど苦しそうというような、かなり詳細に描かれた経過報告ではあるものの、一方で若干達観してしまったような淡い作品です。

勿論、よく批判を浴びる毒舌というか、独特の個人的見解(随筆なんだから仕方がないんですが)も随所にみられ、好き好きの分かれる作品でしょう。

結局のところ、エッセイっていうのは人を楽しませるために書かれたものでなければ、”随筆”の名のとおり、趣味嗜好に合わなくても仕方がないんでしょう。

このエッセイにもある通り、合わなければ読まなければいいだけで・・・。

そして結論。

もう二度と中島梓のエッセイは読まなくてもいいですね。

小説をよろしくお願いしたい。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『パパママムスメの10日間』 五十嵐貴久

Papamamamusume 2009年、33冊目。五十嵐貴久『パパママムスメの10日間』

『パパとムスメの7日間』の続編です。

前回は父親と娘の人格の入れ替わりだけだったのが、今回は母親も混じった3人の間での入れ替わりが生じるという話。

基本的には前作と同様のドタバタ劇で、結論としてもお互いのことをよく理解できるようになりましたということでしかないんですが、やっぱりそれでも単純に楽しめる作品になっています。

 

小梅は表参道にある錦城大学に合格した。

入学式のあった夜のこと。突風交じりの土砂降りで傘を飛ばされた恭一郎は公園のトイレで雨宿りする。妻理恵子に傘を持ってきてくれるよう電話した直後、同じく傘を壊された小梅もトイレに飛び込んできた。

2本の傘で3人で帰りかけた直後、雷が公園のブランコを直撃し、3人は薙ぎ倒され意識を失った。

目覚めた3人の意識は2年前のときと同じように入れ替わっていた。恭一郎の身体に小梅の意識が、理恵子の身体に恭一郎の意識が、小梅の身体には理恵子の意識がおさまったのだ。

恭一郎小梅は戸惑いながらも、前回の経験から動転することはなかったが、理恵子は半狂乱に陥る。なんとか落ち着かせた理恵子も含めて3人の入れ替え生活が始まった。

 

恭一郎は新商品企画開発部の部長となっていた。しかし、新商品企画開発部とは名ばかり、レインボー・ドリームの立役者である恭一郎を形式的に処遇するために作られた窓際部署だったのだ。レインボー・ドリームの成果を自身だけのものとしたい桜木役員により、かつてのレインボー・ドリームのプロジェクト・メンバーは新商品企画開発部への異動となっていた。

現在、光聖堂を挙げての新プロジェクト”スイッチ”でも新商品企画開発部の出る幕はなかったが、形ばかり”スイッチ”プロジェクトのメンバーに名を連ねることとなった恭一郎(小梅)は商品研究所の同期室田俊秋の言葉などから、”スイッチ”の原料に毒菜が使用されている可能性があることに気づく。

小梅に命じて、調査を進める恭一郎だったが、桜木役員のガードは固く、なかなか真相に迫れないどころか、逆に桜木役員にばれてしまう。

社長を交えた会議が迫る中、恭一郎理恵子の姿のまま、室田のもとへ向かった。

 

恭一郎理恵子(主婦)生活は早々に行き詰った。簡単そうに思えた家事だったが、恭一郎の学生時代とは異なる家電製品らに戸惑いの連続。

買い物もうまくできず、初日から理恵子の叱責を浴びるのだった。

 

理恵子も20年ぶりの大学生活に戸惑いの連続だ。

また、同時に二つのことができない理恵子はバイト先でも固まってしまう。

高尾の鷹梨大学に進学したケンタ先輩の応援にいったり、友人律子に連れられてテニスサークルの新歓コンパに参加したり、と大忙しだった。

 

入れ替わりの原因が、理恵子の実家の桃にあるのではないかと睨んだ恭一郎は3人で実家の裏山に登るのだった。

 

前作は人格が代わったあと、なるべく身体に合せた振る舞いをしながらも、少しずつ”地”が出てくることが好結果を生み出して、物事を進めていくという話でしたが、どうも今回は違う。

会社の話であれば、今回は小梅恭一郎の指示を受けてロボットのように動いただけで、小梅らしさはどこにもありません。結局のところ、最後の一押しも恭一郎理恵子の姿のままやってしまうわけですから。

主婦という立場についても、大変さを恭一郎が思い知ったというだけで終わりで、何らかの進捗が見られるわけではありません。

小梅の立場もそうで、理恵子理恵子らしさを前面に出したわけですが、それで小梅自身の何かが大きく変わったようでもない。むしろ、小梅自身が恭一郎の姿でケンタに会いに行くことで父親公認の形を自身で作り上げるなど、姿は変われど自力で物事を動かしています。

その意味では、前作に比べると面白さは半減かもしれません。

また、こういった諸々の事件でとっちらかってしまった現状とどのようにつきあっていくのか、どのようになったのかといったところが、わからないままだったのが残念。

特に、結果的には桜木役員を告発するようになってしまった恭一郎の運命や如何に、というところですね。結局桜木役員はお咎めなしにはなったものの、部下に裏切られたわけですから、その報復は恐ろしいのではないでしょうか。

おそらく、もう続編はないでしょうから、ちょっと落ち着きの悪い終わり方だったといえるのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『仲達』 塚本青史

Chutatsu 2009年、32冊目。塚本青史『仲達』

魏の司馬懿仲達)の話。220年、曹操の死から、251年司馬懿の死までの話となります。所謂、魏・呉・蜀三国鼎立から、魏の屋台骨が揺らぎ、司馬氏が実権を握るところまでで、蜀が滅ぼされることもなく、晋の成立までも到りません。

主人公が仲達ということもあって、かなり大人物に描かれ、諸葛亮孔明)も格下の扱いです。

「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」についても、仲達はわかっていてやったこと、という整理になっており、孔明を絶対視する三国志演義(の影響を受けた日本での感覚)からは大きく外れた解釈で、興味深い話になっています。

一方で、物語・歴史を動かす戦術の一つとして、医薬・麻薬を材料にしており、張繍に殺されたはずの張済の妻鄒娜とその娘張姱が生きていて華佗の弟子となり、暗躍するという設定です。

特に、鄒娜は後年夫となった徐庶とともに蜀で孔明の手伝いを行い、娘張姱もまた仲達の妾として魏に入り込んで内部から魏を蝕む計画を練ります。

孔明の南蛮行もまた麻薬(阿片?)を手に入れるためだったとの解釈がなされ、その麻薬を使った戦略が練られたとされます。

即ち、人口の少ない蜀で北伐が連年続けられたのは怪我人の回復が早かったからだとし、その回復(?)には麻薬が一役かったのだというのである。

また、孔明は同盟国である呉の孫権にも麻薬を送りつけて錯乱に追い込んだのだとしています。

 

史実とはかなり異なる創作の部分が非常に大きい話ではありますが、なかなか面白い作品ではありました。

仲達というキャラクター自身は非常に尊大で、どうも気に入らないキャラクターではありますが、ストーリーで十分読める作品となっています。

ただ、三国志の血湧き肉躍るといったダイナミックさからは遠く、そういった時代の武将が次々と物故者に名を連ねていき、奸臣が暗躍するという湿度の高いストーリーは「三国志演義」と比較すると少し寒々しい印象はぬぐえませんが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『WE LOVE ジジイ』 桂望実

Welove 2009年、31冊目。桂望実『WE LOVE ジジイ』

なんとなく「桂望実」らしい、みんな真面目なんだけれど、滑稽で、それでいて心温まるような作品。

 

売れっ子のコピーライター岸川信行は、突然仕事を引退すると、都会から離れた辺鄙な内宝町(旧川西村)に転居する。

広告代理店に勤める後輩玉井を裏切り、自殺に追い込んだことがきっかけだ。

岸川は川西村で何をするでもなく、趣味のラジコンヘリを飛ばすだけの毎日を送っていたが、そんな岸川に期待していたのが町の地域活性化職員池田雅之である。

年寄りばかりで特に目立った産業のない川西村は3年前に隣接する内宝町に吸収合併されたが、そこに到る過程でも内宝町から差別されてきており、未だに自分たちの土地を内宝町とは呼ばず、川西と称し、本家の内宝町とは仲が悪いのだった。

池田は川西に住み、なんとか川西の振興策を企画しようとするが失敗続き。そこで都会の第一線でコピーライターとして活躍していた岸川に助力を願ったのだ。

畑違いの依頼に戸惑う岸川は依頼を固辞するが、聞いてみると、このあたりはいいかげんなことばかりだという。桜もないのに桜川だったり、天狗の伝承もないのに駅前には巨大な天狗の面があったり・・・。

あまりのいいかげんさに笑いのこみあげた岸川は思いつきの一つに「輪投げ」を挙げるのだった。

そんな思いつきだったが、着々と「ゲーム輪投げ」大会に向けて、ことは動き始めた。

思わぬ展開に戸惑う岸川のもとを訪れたのは川西の重鎮しげジイだ。

あんた、輪投げで町おこしすると言ったらしいなぁ

何も語らないしげジイに、岸川しげジイが立腹していると感じて池田を恨むが、しげジイの心はそんなところにはなかった。親友の亀ジイが本番で緊張のあまり失敗して落ち込んでしまうことを心配していたのだ。

誰もが輪投げで町おこしができるとは考えてはいなかったが、「マー坊」と呼んで慕う池田のやることと、温かい目で見守っていた。

そして第一回全日本ゲーム輪投げ決勝大会。

ガラスの心臓の亀ジイはやはり結果を残すことができず、優勝も四国からやってきた「南都町チーム」に浚われる。また、大会自体も大失敗に終わった。

興奮した工場の外国人チームらによる乱闘騒ぎで怪我人が出たほか、審判に対してもクレームが相当数、町役場に持ち込まれたのだ。

落ち込む池田亀ジイ

池田に亡くした玉井の姿を重ねた岸川池田を励ます。こうして、池田、そして工場の新山佑季と少しずつ親しくなっていった岸川は川西のこと、新山の働くバネ工場の実状を知るようになった。

そんな中、しげジイ岸川を訪ねてくる。

輪投げだ」「もう一度、輪投げの試合を、亀ちゃんにやらせたいんよ

傷心の亀ジイを救うため再度の輪投げ大会を願うしげジイの言葉に促され、再度輪投げ大会を岸川は企画する。

しかし、今回は町役場の後援はない未公認の大会だ。

岸川は前回の失敗を踏まえ、審判の充実をはかる。参加者を呼び込むホームページ作りは池田の息子祐雅が担当して、着々と大会の準備は進むのだったが、バネ工場では軍隊式に従業員を取り締まる工場長浜崎登が参加を認めていなかった。

 

ストーリー自体は(大会の場面を含めても)それほど大きな盛り上がりを見せることもなく、比較的淡々と進んでいきますが、登場するキャラクターがそれぞれそこはかとなく面白い。

特にきよバアと、信バアでしょうか。登場の多いきよバアはその独特の勢いで場を動かしますし、たった2回だけの登場の信バアはそれだけで怪しげな雰囲気を醸しだします。

岸川池田新山の三人組もなかなかいいですね。最初は単にすかしているだけだった岸川が少しずつ変わっていく様子も良いです。

勿論、ストーリーに盛り上がりがないといっても、大会では試合の流れを追いますし、第二回大会では白熱する試合の経過を描写しますので、その部分は盛り上がるのかもしれません。

が、やっぱり予定調和的で、物語に大きな振幅をあたえるわけではありません。まぁ、それを安心感・安定感と言い換えれば、それはそれでありでしょう。

重い足枷を持った岸川が川西での経験を経て、最後に玉井の妻真奈美に告白にいくわけですが、玉井の自殺の真相をあのように曖昧にしたことはどうなんでしょう。具体的にそんな描写はありませんが、結局のところ半分荷を下ろすような内容で、若干釈然としませんでした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『煙霞』 黒川博行

Enka 2009年、30冊目。黒川博行『煙霞』

面白い。

大阪のノリとスピード感で進む、誘拐から始まる金塊強奪劇は二転三転し、誰が黒幕かわからないままに、最後まで引っ張られます。

ラストの選択はちょっと呆気ないような気もしないではないですが、それでも十分楽しめる作品です。

 

学校法人晴峰学園では理事長酒井祐造が大阪府からの収益助成金を不正に騙し取り、私服を肥やしていた。

これに憤った教職員の中からはこれを糾弾する声が高まりつつあった。

そんな中、晴峰女子高校の講師間の連絡等を務める「講師部会長」に就いていた美術科常勤講師熊谷は、同じく体育科の常勤講師小山田”通称:タタミ”から仲間になるよう誘われていた。

熊谷にそんな気はなかったが、小山田熊谷に大阪府教育委員会から原田という美術主事が来年晴峰にやってくることを告げ、勤務条件劣悪な通信制湊町高校への熊谷の転勤を仄めかす。

同様に、小山田から脅されていたのは音楽科教師正木菜穂子。校外でパンクバンドのキーボードを務める菜穂子は学校から睨まれ、理事会で決議された音楽教師の湊町高校への転出候補者に挙がっていたのだ。

小山田は、熊谷に誓約書を書かせると、初めて計画を明かした。

理事長酒井祐造をヨーロッパ視察旅行の途上に立ち寄る愛人宅で捕らえ、不正の証拠を示して、熊谷小山田を正教員にし、菜穂子ではないもうひとりの音楽教師渡辺を湊町高校へ転出するという誓約書をとるのだ。

菜穂子の運転するエクスプローラーに乗った熊谷小山田は学校から酒井の運転するレクサスを追う。

自宅からベンツで愛人宅に向かった酒井を追った熊谷たちは、駐車場で酒井をつかまえ、談判に及ぶが酒井は講師風情など相手にしない。しかし、熊谷も知らされていない不正の数々を小山田が暴露するにつれ、酒井の態度も徐々に変わっていった。

熊谷らは酒井に要求を飲ませるべく、酒井と愛人守野朱美小山田の用意しておいた倉庫へ案内する。

なかば誘拐ともとれる行動に恐れを感じ始めた熊谷菜穂子だったが、小山田はまず熊谷の正教員昇格と、了解なしに異動させないという菜穂子への一筆を酒井から取り付けると、熊谷菜穂子を先に返すのだった。

しかし、逆にこの小山田の行動に不審さを感じた熊谷菜穂子が暫くして倉庫に戻ると、酒井の乗ってきたベンツを残し、誰の姿もなかった。

その頃、酒井朱美は、小山田に指示を出してきた黒幕箕輪克久中尾秀一によって、酒井の自宅に連れ戻されていた。

箕輪はかつて晴峰学園の用地売買に絡んで酒井とも接触したことのある”学校経営コンサルタント”。かつての酒井とのビジネスで煮え湯を飲まされた箕輪酒井の背任横領の証拠をつかみ、酒井を脅迫するのだった。

最初はシラを切る酒井だったが、箕輪の並べる事実の数々に、要求を呑まざるを得なくなっていく。箕輪が要求したのは、酒井が背任横領の中で得たマンションの2室分相当の「1億5千万円」だった。しかし、強かな酒井は融通できる資金の限度を示し、最終的に箕輪は晴峰湊町高校に蓄財されている3700万円で手を打つことになる。

一方、熊谷菜穂子は攫われた酒井たちの後を追っていた。

ベンツのサイドウィンドーが破られたことを知った箕輪中尾に命じ、熊谷菜穂子も拉致して、酒井の自宅に連れてこさせるのだった。

酒井菜穂子を人質にとられ、熊谷朱美中尾に従い、酒井に金庫から取り出させた通帳をもって銀行に向かった。中尾熊谷に指示したのは、通帳の残額(3796万円)を”株式会社APT”へ振り込ませることだった。

”APT”とは”ANTWERP PRECIOUS METALS TRADER”の略。貴金属商会だ。

ここには酒井が横領で得た不正な資金が金塊の形で隠匿されていた。

中尾は銀行からの帰り、”APT”に立ち寄ると、振り込んだ3796万円分は勿論、隠匿されていた資金も含めて全額を現物(延べ板)にして、持ち帰ると告げたのだ。

金地金は換算すると2億3481万4千円になるという。実は箕輪の狙いは、この金地金にあったのだ。

しかし、金を車に乗せかえる作業を終えたところで、車”セビル”を奪った朱美中尾熊谷を置き去りにして逃げた。

後を追った中尾熊谷朱美のマンションに向かったが部屋には戻っていない。その後、駐車場で朱美が自身の車”アルファロメオ”に乗り換え、”セビル”が乗り捨てられているのを発見された。箕輪中尾を叱責し、朱美を捜すように命じる。

熊谷はこれでお役御免だった。迎えにやってきた菜穂子とともに立ち去る。

しかし、これでは腹の虫のおさまらない菜穂子熊谷は”鈴木”、”佐藤”という偽名を名乗っていた二人(箕輪中尾)の正体を探るべく、こっそりと駐車場に戻ると”セビル”を盗み出すのだった。

中尾朱美捜しを命じながら、箕輪はこっそりと朱美と連絡を取っていた。実は箕輪朱美は通じており、今回の持ち逃げも作戦の一つだったのだ。朱美は金塊を”アルファロメオ”に載せ換えることなく、”セビル”のスペアタイヤのあった場所に隠していた。これを箕輪が回収して、作戦終了となるはずだったのだが・・・。

熊谷らが”セビル”を盗んだのは箕輪の誤算。箕輪中尾小山田に命じて、(建前として)朱美と(本音で)”セビル”を探させる。加えて、箕輪は組織の準構成員である井沢にも熊谷らの行方を捜すよう依頼するのだった。

熊谷は顧問をする美術部の部員伊東香澄やOG高沢知美の情報網を使い、”鈴木””佐藤”の正体を掴むと、箕輪の借りている事務所「みのわ商会」へ潜り込んだ。

事務所のパソコンのメール受信記録から、彼らは朱美箕輪が通じていることを確認するとともに、朱美が賢島のホテルに潜伏していることを突き止めた。

熊谷らはもはや邪魔となった”セビル”を放棄し、菜穂子の”エクスプローラー”で賢島へ向かった。

事務所が荒らされ、朱美の居場所が突き止められたことを知った箕輪は、熊谷らが賢島に向かったことを井沢に告げ、井沢らとともに、熊谷らを追うのだった。

”セビル”に金塊は残っていなかった。箕輪熊谷らが盗んだものと考えていたが・・・。

 

事件が二転三転する、この展開が非常に楽しい。

設定自体の縛りが緩い分だけ、いくらでもストーリー、伏線が予想できるため、次々と先読みをする中でイメージが広がります。勿論、予想が裏切られることもあれば、予想通りというところもあって、そういった先読み心を各種くすぐられる作品といえるかもしれません。

キャラクターについては、特に光るキャラクターがいるわけでなく、むしろ(設定は別にして)個性を殺したような性格付けのキャラクターが多いようです。ただし、大阪を舞台にする分、会話が大阪弁で、非常にテンポがあるのはいいですね。

腹黒い理事長酒井は、学園を牛耳る巨悪でありながら、結局のところ金塊強奪のことは最後まで知らずに、のほほんとしているというギャップがいかにも妙です。全編を通じて黒幕然としていながら、最後は締まらない箕輪。演技なんだか素なんだか、よくわからない、マヌケな中尾。小悪党にすらなりきれない小山田

どうも、この作品に出てくる悪役が尖っていない分だけ、あまり犯罪の趣きなく、緩いノリになっています。

熊谷も主人公らしくなく、ほぼ菜穂子に流されるだけですし・・・。

一方で、菜穂子は強烈な(というと言い過ぎかもしれません。というよりも、妙な過去を抱えているという設定の)キャラクターで、ストーリーの進行役というか、物事をややこしくする役をかってでています。

最後がちょっと呆気ないような気もしませんが、十分楽しめる作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『反乱する管理職』 高杉良

Hanra 2009年、29冊目。高杉良『反乱する管理職』

破綻した千代田生命の話です。

なんだか主人公が嫌な奴です。どう読んでも、英語ができることや、ハーバードでMBAをとったことをひけらかしているとしか思えない、鼻につく嫌味な性格。

こんなのが正義漢ぶってもなぁといった感じです。

 

1983年、東都生命入社2年目の友部陽平宮坂雄造は職員の福利厚生施設である成城のグラウンドがなくなるという話を聞きつける。

断固これを阻止すべく組合執行部(委員長:高木康夫、副委員長:山際厚志、書記長:三好明)に掛け合うが、御用組合である執行部は取り合おうとしない。それどころか「聞かなかったことにする」との回答だ。

業を煮やした友部宮坂は社長安東太郎(モデル:神崎安太郎)の自宅に押しかけ、再考するよう直訴する。そんな言葉を安東が聞くはずもない。

翌日、人事部に呼び出された友部宮坂は、それぞれ松江支社と札幌支社への異動が命ぜられる。

松江支社長河上規夫のもと営業に励む友部だったが、この営業の過程で、東都生命の弱点でもある政治力のなさを解決する大物政治家とのツテを得ることになる。

営業活動の途中、パチプロに絡まれている青年島田光男を救ったことが縁で、島田の実家である玉造温泉でも一、二を争う老舗旅館陽光園に入り込むのだった。

友部は島根県会議員の青野乾治を介して、社長安東太郎を現職の大蔵大臣竹山正登(モデル:竹下登)に結びつけたのだ。

1986年4月、友部は東京本社の法人営業部に転勤になると、2年後の88年9月にはハーバード大学に社費留学する。90年8月に、MBAを取得して帰国すると、関連事業部に課長代理で配属された。

ここで成城のグラウンドが売却された先、株式会社ミヤコスポーツセンターが無事開業し、高収益を維持していることを知り、友部はホッとする。

96年7月、安東太郎は社長を松永亨(モデル:米山令士)に譲り、代表権を持った会長に就任したが、人事権者は安東で、東都生命の権力構造に変化はなかった。

友部は人事課長を経て99年7月に企画部副参事となっていた。

安東太郎は社長就任直後こそトップセールスに励むなど率先垂範の姿勢で職員を鼓舞し、東都生命を引っ張ったが、その後は超ワンマンになり、乱脈融資等を繰り返すバブル派の部下で周りを固めていった。その結果として、バブルの崩壊によって大きな痛手を蒙った東都生命は経営の危機に瀕していた。

この東都生命の経営危機に乗じて風評営業を繰り返す大日生命(モデル:日本生命)の社長鈴木(モデル:宇野郁夫)に抗議する安東だったが、鈴木は聞く耳を持たない。

友部は、安東の引責辞任と引き替えに、東都生命と親密な東亜銀行(モデル:東海銀行)に支援を求めるべきだと進言するが、安東は激怒する。安東は東亜銀行の北田頭取(モデル:小笠原日出男)に直接支援を依頼するが、経営危機の元凶である安東が依頼したところで逆効果だ。

同時に、東都生命は外資との提携も進めていた。アドバイザーとなったDB(ダイヤモンド・ブラザーズ)ジャパンはAIC(モデル:AIG)とプレジデンシャル(モデル:プルデンシャル)のうち、なぜかAICを推す。

友部がDBジャパンの内部の知人に確認すると、担当のパートナージェローム・P・ケニーはAICに近く、AICの代理人とも言える存在。背信行為ともとれるケニーの行動を知った東都生命では、DBジャパンを介さず、直接AICとプレジデンシャルと交渉を始めるのだった。

一方、松永社長が東亜銀行の北田頭取に会い、”支援”のアナウンスを引き出すことに成功する。支援の観測記事のおかげで一時的に資金流出に歯止めがかかったが、抜本的な解決にはいたらない。

99年12月、とうとう安東は会長から退任した。しかし、時は既に遅かった。JFG銀行(モデル:UFJ銀行)に統合予定の東亜銀行では北田が協立銀行(モデル:三和銀行)の阿川頭取(モデル:室町鐘緒)に釘をさされていたのだ。

2000年、9月中旬以降、東都生命の解約ラッシュが再び本格化し始めた。有力経済誌D誌が”東亜銀行の支援打ち切り”観測記事を載せたためだ。

10月、東都生命は更生特例法の適用を申請する。

東京地裁は同日、保全管理人に大野正史弁護士(49)を選任。大野は管理人代理として、気心の知れた藤井泰世(45)、遠山晴彦(37)両弁護士を決めた。

大野は本社全職員の前に立ち、「契約者保護、東都生命の最大限の評価、経営責任の追及」を基本理念として掲げ、職員らの胸をうつ。

更生開始決定がなされ、管財人となった大野は加えて、管財人室長に友部を指名するが、友部はこれを固辞する。しかし、宮坂から翻意を促された友部はこれを受けた。

若輩の友部をトップとする組織に社内の風当たりは厳しいが、なんとかこれをこなす友部だった。

そんな中、一つの疑惑が浮かび上がってくる。

元成城のグラウンドであったミヤコスポーツセンターの処分に絡み、政治家が暗躍しているというのだ。ミヤコスポーツセンターが路線価の三分の一という破格の値段で、マメゾン(モデル:セボン)といういわくあるデベロッパーに売却されていた。

マメゾンは現職の国土交通大臣淡野景子(モデル:扇千景)が広告塔を務める中堅デベロッパー。規制のある土地でも強引に住宅を建ててしまうという「まともではない会社」だった。

部下中西茂に調べさせた結果もそれを裏付けた。

この一件に暗躍するのは誰か。

友部は事業管財人として入っているAICの岡本を飛び越え、AIC本社のカーク・ウィルソンに確認するが、AICはミヤコスポーツセンターに関与しているようには見えない。

友部は関連会社を担当する川邊一郎弁護士に面会するとミヤコスポーツセンターの処分について問い質すが、内容を開示することはなかった。

その直後、友部大野藤井川邊に呼び出される。友部を説得しようとする大野らだったが、友部は折れることなく、異論を重ねる。

最高執行部に逆らって、最早会社に残ることもできない。AICのウィルソン友部を慰留するが、友部は辞表を提出し、大野はこれを受理した。

2001年4月、ミヤコスポーツセンターは3カ月後の閉鎖を発表。存続運動も起こるが、間もなく挫折してしまう。

 

千代田生命の破綻ストーリーなので、勿論、支援していた東海銀行をモデルにした東亜銀行の北田頭取や、その背後の協立銀行の阿川頭取だとか『金融腐蝕列島』シリーズの登場人物も顔を出しますし、『腐蝕生保』鈴木社長も出てきます。

また、紙幅の問題なのか、最後には余ったページで『青年社長』のワタミを登場させて自作を紹介しています。

いつものことですが、小泉-竹中(作中では大泉竹井)路線の誤りを指摘することも忘れちゃいません。若干、鼻についてきましたが・・・。

別に、竹中平蔵の政策が良かったというつもりはありませんが、なんとなく、どうも狭い了見で、というか、作者の狭い見識だけで、物事の表層しかみていないようで、ちょっと疲れます。何となく、雰囲気だけで経済や金融を語るっていうのは、いかがなものでしょうか。居酒屋で管を巻くおっさんじゃあるまいし・・・。

生保でも株式会社化を進めている第一生命(作中では「第三生命」)を褒め、日本生命を批判する姿勢は変わらずです。なぜ、第一生命が良くて、日本生命はダメなんでしょう。株式会社化が全て素晴らしいという考え方は、何でもかんでも弱肉強食の外資を導入しようとした竹中平蔵の考え方といかほど違うんだろうなぁ、と思ってしまいます。

それはとにかく、今回の作品は、まぁ、いつもに比べると、どうも主人公に魅力が乏しい分だけ小粒な作品になってしまっています。

また、もうちょっと、作者の思い込みが少ないような客観的なテーマの方が良かったのではないでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『架空の球を追う』 森絵都

Kaku 2009年、28冊目。森絵都『架空の球を追う』

「架空の球を追う」って、何のことかと思えば、野球のフライをキャッチするときのイメージのことなんですね。

こんな身近な小さな話が11作品入った掌編集です。

 

架空の球を追う

少年たちの野球の練習。

コーチは怒号をあげるが、少年たちに真面目さはみられない。

それを見守る母親たちもまた・・・。

 

銀座か、あるいは新宿か

高校時代の女友達と年2回の飲み会を催すようになって十数年。途中、結婚や出産、仕事の事情などで抜けたり、音信普通になったりした面子もいるけど、ここ数年は四人の固定メンバー(私、知ちゃんチャボ)で落ち着いていた。かつては地元の浦和で調達していた店も、皆の所在がばらけて以降は銀座に移って定着した。はずだったのだが・・・。

今回は半年前に電撃離婚したふゆ美が約9年ぶりに飲み会への参加を表明。これを契機に、が飲み会の場所を新宿にしようと言い出したのだ。

 

チェリーブロッサム

駅までの抜け道となる川沿いの遊歩道に、一樹だけ、早咲きの桜木がある。

ある朝、その前を通りがかった私を一組のカップルが呼びとめた。

その数日後、ホームレスらしき老人が、私のすぐ前を歩いていた女性とすれ違い様に接触し、派手に転倒する。見え見えの小芝居なのだが、接触した女性は気づかずに・・・。

 

ハチの巣退治

ボスは二つの頭痛の種を無くそうと決意した。

一つは虫歯の治療。もう一つはハチの巣。

ボスはコッツウォルズにあるという幻の名医のもとに歯の治療に向かうとともに、部下にハチの巣駆除を命じていったのだ。

しかし、クリスメグスーも、勿論、私もそんなことはできない。

「何でも屋ジョー」に依頼しようと決めた4人は・・・。

 

パパイヤと五家宝

高級食料品店に入った私は、高級なフルーツばかり並ぶフルーツコーナーの前で固まってしまう。しかし、その後ろから無造作に2千円もするパパイヤを籠に入れる女性があった。

パパイヤ夫人”と名づけた女性のあとをつけた私は、女性と同じものを籠に入れていくのだが・・・。

 

夏の森

自由ホンポウな女になりたい

私が小学生時代に書いた作文の一節だ。

百円ショップの店頭で見つけたカブトムシ。

自由奔放とカブトムシ。その連想の接点を見出せないまま、カブトムシを買う。

飼うのではなく逃がしてあげるのだという、この母親に、小学5年になった息子は醒めた視線を返すのだった。

 

ドバイ@建設中

お見合いで知り合った石油会社の御曹司との婚前旅行。

行き先はアラブ首長国連邦に属するドバイ首長国。

高熱・砂埃に辟易としてきた私の視線の先に、ベリーダンスのショーを緊張しながら見つめるドイツ人の少年の姿があった。

 

あの角を過ぎたところに

まん丸が消えた

タクシーで通り過ぎた”まん丸”はベーカリーに変わっていた。

アズマは私に驚いたように告げたが、これを聞いたタクシーの運転手も驚いたように、突然、引き返して確認するのだった。

彼はかつて”まん丸”で働いていたことがあったのだ。

 

二人姉妹

有紀が私を避けてるの

従姉の私に、真紀は姉有紀が自分を嫌っているのではないかと相談する。

私の問いかけに有紀は動揺する。有紀の元恋人橋場の何気ない一言が、女らしい真紀の存在を有紀に意識させ、有紀真紀を避けさせるようになっていた。

二人姉妹の絆が断たれようとしていた、そのとき・・・。

 

太陽のうた

部族間の争いで国を追われた30代の元女優。

族長のアジムは難民キャンプを支援するNGOに属する外国人ビジターをまた女のもとへ案内してきた。

外国人は、元女優で、30代でありながら十一人もの孫のいる女に興味があるのだ。

しかし、女はもはやビジターの相手をする気にはなれなかった。

 

彼らが失ったものと失わなかったもの

背後から破裂音がした。振り向いた先には一組のカップルが佇み、その足元には、氷河のような破片を浮かべた葡萄色の水たまりが広がっていた。

それは、数分前に私が悩んだ(バルセロナ空港内のリカーショップで売られていた)赤と白のワインのセットのなれのはてだった。

米国人の少年がひやかし、野次馬がこれを取り巻くが、夫婦はあわてず・・・。

 

いろいろな味の作品が揃っていますね。

良かったのは、やはり「彼らが失ったものと失わなかったもの」でしょうか。胸がすくという表現は決して適切ではありませんが、何だかいいものを見たといった感想を受ける作品です。

夏の森」もいい。内容よりも『自由ホンポウな女になりたい』という、この一節がとにかく秀逸。小学生の作文の一節でなかったとしても、とにかく意表をつくフレーズです。暫く記憶に残りそうです。

パパイヤと五家宝」も面白かった。ここまで極端でなくとも、気持ちはわかるといった感じでしょうか。ただ、最後の変心のきっかけとなった「五家宝」って知らないんですよね。今日、スーパーで確認してきましたが、今まで口にしたことのないものですね。どんな味がするんでしょう。
Gokabou

【五家宝】 (Wikipedia)

 おこし種を水飴などで固め棒状にした芯を、黄粉に水飴などを混ぜた皮で巻き付け、 さらに黄粉を表面にまぶしたものであり、青色のものは青大豆を用いて製造されている。埼玉県熊谷市の銘菓。

二人姉妹」もまた、最後のオチがよかった。なんとなくシリアスな話、ドロドロした話になるかと思いきや、あんな最後になるとは思いもしませんでした。

太陽のうた」を除けば非常に軽い話が並んでいます。こういったラインナップだと、「銀座か、あるいは新宿か」ですら、ちょっと長めと感じてしまうくらいです。

まぁ、たまにはこんなのもいいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『パーティ』 山田悠介

Party 2009年、27冊目。山田悠介『パーティ』

現在と過去が平行して叙述される構成の作品。

臓器移植詐欺に遭った4人が、罪を許してくれると信じられた山に登ったという犯人を追って山に登るというストーリー。

現在と過去という構造で、なんとか引っ張ってはいますが、全編を通して読んだあとでストーリーを振りかえると、ちょっと内容が薄い。

今一歩という残念な作品になっています。

 

横浜市立桜花小学校6年の戸部康太後藤国男平沼英紀伊藤仁志は小学1年からの親友。この6年も同じ2組になって一安心というところへ、ひとりの転校生が現れた。

静岡からの転校生桜田美希だ。

体育の授業で倒れた美希は心臓病を抱えていた。

担任の松谷は学校のリーダー的存在である国男たちに、美希を守って欲しいと頼む。国男たちに否はない。病院に見舞いに向かった彼らは美希に「今日から俺たちのグループに入れてやる」と告げた。

こうして5人で遊ぶようになったが、卒業のときは近づいていた。

弁護士の父の下、母紀子からも厳しく勉強を強いられる康太は私立中学への受験が義務づけられ、他の4人とは違う中学に通わなければならない。

そんな康太を応援する美希だったが、同じ中学に行きたいという本音も漏らすのだった。

同じ気持ちだった康太は中学を受験はするものの、悉く白紙で提出し、両親を裏切る。

両親は嘆き悲しんだが、康太には罪悪感よりも、これで仲間と一緒にいられるという安堵の方が大きかった。

中学時代も仲間のままだった5人だが、その間にも美希の容態は少しずつ悪くなっていった。

担当の医師長田から心臓移植が必要であること、そのためには多額の資金が必要だと聞いた康太国男ら4人は秘かに新聞配達を始め、その給料を美希の治療のためにと、美希の母良子に差し出すのだった。

しかし、新聞配達では一向に金は貯まらない。

美希に特別な思いを抱く国男は、手っ取り早く金を集める方法として、家の通帳から全財産を引き出した。最早、実家には帰れないと覚悟した国男康太ら3人に200万円もの金を託すと、姿を消した。

しかし、美希にはそんな金を使うことはできない。結局、200万は国男の父親に返すのだった。

(一人国男は失踪したまま)別々の高校に進んだ美希康太英紀仁志だったが、4人の友情は変わらなかった。国男が漸く還ってきたのは高2の冬だった。

その1年後。康太がクリスマスを前に、美希へ告白しようとしていた矢先、美希が倒れた。

幸い大事に到らず、退院した美希は、病院で知り合った同じ心臓病の少年坂田大地と遊びに行く約束をする。待ち合わせ場所で車道に飛び出した大地を庇うべく走った美希だったが、心臓発作を起こしてしまう。

長田医師の迅速な処置のおかげで一命はとりとめたものの、美希は昏睡状態。意識は戻ったものの、弱ってしまった美希の身体は回復の兆しをみせることはなかった。連日、病院に見舞う康太たち。そんなとき、病院の廊下で康太は心臓移植を仲介する団体「ハートスペア21」の加納静香に出会った。

アメリカでドナーを探すという、地獄に仏の話に、康太たちは希望を見出すが、静香は厳しい現実をつきつけた。費用として2000万円が必要なのだ。

当然、康太たちにそんな金はない。一方で、美希は刻一刻と弱っていく。

国男は資金を捻出するため、銀行強盗することを持ちかけるが、英紀仁志はこれに反対する。しかし、愛する人を失いたくない康太は同意するのだった。

最終的には英紀仁志も加えた4人で臨んだ銀行強盗は無事成功し、そのまま強奪した資金を静香に渡すのだった。

これで安心と思ったのも束の間、海外での心臓移植の話を聞いた長田医師はこれを詐欺だと告げた。慌てて、静香と連絡をとろうとする康太だったが、当然のように連絡はつかなくなっていた。

希望をつかんだはずの4人だったが、一気にどん底に突き落とされた。そんな中、美希の容態は急変し、そのまま亡くなってしまう。

怒りの矛先は彼らを騙した加納静香に向けられた。しかし、静香の消息は不明のまま、4人の関係もバラバラになっていった。

美希が死んで3カ月後、康太のもとに速達が届けられた。

私は今から、山梨県西八代郡にある、神獄山に登ります。私の運命は、あなたたちに委ねます。頂上で待っています。  加納静香

国男らに連絡をとった康太は神獄山へ向かった。

しかし、神獄山は非常に高く険しい山だった。

地元では、神獄山は頂上に神がいると言われ、罪を犯した多くの人間が神の許しを得るために登ったという有名な山だった。しかし、今では僧の修業の場とされ、一般人はほとんど登らないのだという。

軽装でやってきた4人だったが、引き返すつもりはなかった。

途中から岩に遮られ、藪をこぎ、雪をかきわけしながら進む彼らは、少しずつ体力を削られていく。足を滑らせた英紀が捻挫したり、仁志が高熱を発したりとコンディションも悪くなっていくが、もはや単独では引き返すこともできなくなっていた。

6合目に見つけた廃棄された山小屋で夜を過ごした彼らは、翌朝、登り始めてすぐに上から狙撃された。パンという乾いた音とともに、先頭を歩いていた国男が吹っ飛ばされたのだ。

何者か別の目的を持つ者も頂上を目指している。康太たちは慎重に男の後を追い、再度頂上を目指した。

髪はボサボサに乱れ、雪で濡れた衣服は泥だらけ。全身ボロボロになりながら、ようやくたどりついた4人はそこで銃声を耳にする。

まさか、静香が撃たれたのではないか。4人は頂上へ急いだ。

 

どうも発想が短絡的で「おこちゃま」チックな行動が目につきます。いきなりの銀行強盗だとか、簡単に詐欺に引っかかるだとか。

どうも身近に感じない登場人物たちです。あまり血肉をそなえた存在には見えないんですね。そのためもあってか、美希の死も単なる記号的な意味合いしか感じず、彼らの憤りにどうも共感しにくいものがあります。

イメージとしては、何も考えていない馬鹿者たちの暴走というところでしょうか。心根だけは評価できるにしても、もうちょっと頭を使って欲しいと思わざるを得ません。

結局のところ、そういった不自然さもあってか、ストーリーに締まりがありません。現在(神獄山に登るところから)と過去を交互に繰り返すので、最後まで読み進められますが、時系列で話が進んだとすると、山登りの途中で嫌になってしまったかもしれません。

山田悠介って、人気のある作家のようなので、もうちょっと付き合ってみたいと思いますが、こんなのばっかりだとツライですね。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『サンタ・エクスプレス 季節風*冬』 重松清

Santa 2009年、26冊目。重松清『サンタ・エクスプレス 季節風*冬』

「春」から始まったこのシリーズもこれで最終巻です。

今回も12編の冬にまつわる短編で構成されています。

 

あっつあつの、ほっくほく

女性としては初めての部長(ゼネラルマネジャー)職に就いた宮脇だったが、営業本部長から嫌がらせを受け、今日もぬるいコーヒーを啜りながら窓の外のオフィス外をながめた。

思い出したのは、カオルのおじさん。高校時代、校門の前へやってきた焼きいも屋のおじさんのあだ名だ。

高2の新チームでバスケット部の新キャプテンに就いた宮脇だったが、その熱意は他の部員から浮いて、孤立してしまった。

 

コーヒーもう一杯

2歳年上の彼女の家に同棲した19歳の僕。

日曜日の公園で開かれたいたチャリティバザーで、彼女は手回しのコーヒーミルを買った。

マンデリン一辺倒の彼女はアパートへ帰ると、早速コーヒー豆をミルで挽いた。

せっかくなんだからミルクと砂糖なしで飲んでみてよ」と渡されたコーヒーはかなり苦かった。

就職が決まらない彼女だが、3月の卒業に合わせて部屋を引き払うことは決めている。だが、その後のことは、何も話してくれない。

砂糖やミルクをスプーンで掻き混ぜる時間は告白の時間だという彼女は・・・。

 

冬の散歩道

男はひどく疲れていた。

水の都とも言われた街の中洲の川沿いの遊歩道からベンチに座って川面を見つめ、時々小さなため息をついていた。

男の前をいくつかの事件が通り過ぎる。

犬の喧嘩で戸惑う女性たちを助けに入ったり、家の鍵を落として泣き出す少年と一緒に鍵を探したり・・・。

うたたねから、また目を覚ますと、スーパーマーケットの袋が破れたのか、買い物が路面に散らばっていた。おばさんは荷物を集めると、男の座る横に積み上げ、荷物番を頼むのだった。

 

サンタ・エクスプレス

なっちゃんは楽しいのに、寂しい。わくわくするのに、しょんぼりする。

新幹線に乗って名古屋から東京に帰るときはいつもそうだ。

名古屋の実家で出産の準備に入るママと一緒に名古屋で暮らすという選択肢もあったが、なっちゃんは幼稚園の行事が惜しくて東京でパパと過ごすことを決めたのだが、これは失敗だったかもしれない。

双子の赤ちゃんのためにママに”万が一”のこともあると知ったなっちゃんは心配なのだ。

またも不機嫌なまま新幹線に乗ったなっちゃんだったが、今回の新幹線は何故か「こだま」。ママの手配だ。

名古屋を出て間もなく到着した三河安城駅でなっちゃんの向かいに座ったのは、サンタとトナカイだった。

 

ネコはコタツで

一雄(享年78)を1月に亡くした直紀は田舎に一人残った母のことが心配になる。

初七日あたりまでは気丈にふるまっていた母だったが、その後めっきり老け込んでしまったのだ。身の回りのものをこまごま片付けたり手作りしたりするのが好きだったのに、今年はジャムも梅酒も作らなかった。

正月には東京に来るよう誘った直紀だったが、母は乗ってこない。

大晦日に田舎から餅が届くが、母の手を思わせる小さなものだった。

元旦の雑煮を食べると、直紀は午後の飛行機に乗った。

 

ごまめ

新年早々、斎藤さんはひとつの歴史の終わりを思い知らされた。

いつも家族揃って行っていた初詣に高校2年になった娘香奈が行かない。元旦早々起きてくるや、バスケ部の先輩佐伯孝史と初詣のために出かけてしまったのだ。

斎藤さんの知らない佐伯のことを奥さんも息子敏記も皆知っているようなのだ。斎藤さんは憤然として、ごまめを噛む。

酒を飲んでうたた寝をした斎藤さんが目覚めたときには敏記は既に外出し、奥さんも初売りにいく約束を隣の奥さんとした後だった。

ひとり、ニュータウンのはずれにある天神様に向かう斎藤さんだった。

 

火の用心

町内の夜回り当番にあたった秋元家は父親が単身赴任ということもあって、高1のわたしが参加。中学の頃に仲良しだったワクちゃん涌井)を誘って参加したのだが、これが失敗。

一緒に回る小野工務店の三代目社長小野は二人を「女子高生」と見下し、横柄な口調だ。また、小野から軽んじられる小野の同級生山崎も頼りなさげだ。なんとなく、ジャイアンとのび太の関係だ。

なかなかマヌケな大人の関係に苦笑いするワクちゃんとわたしだったが、高校が異なってしまった二人の間も若干気まずい。わたしはワクちゃんを誘ったことを後悔しはじめていた。

 

その年の初雪

その年は記録的な暖冬だった。いつもの年なら12月早々に降るはずの初雪が、年が明けても降らなかった。

父の転勤で3学期が終わると引越してしまう泰司は雪を待ち望んでいたのだ。3年の秋に引っ越してきたから、冬は二度目。そしてこれが最後ということになる。

友人となった三上くんから、昨年の冬に「もっと積もったら『かまくら』もつくれるんだけどな」と言われた泰司は、これを楽しみにしていたのだ。

冬の気圧配置「西高東低」を呪文のように繰り返す泰司だったが・・・。

 

一陽来復

2月3日の、とある3人の物語。

年末に離婚し、4歳になる娘美紀と暮らしはじめた女。近所のコンビニで小さな豆まきセットを買った。

 

高校生(ヨウちゃん)のひいじいちゃんがは年末に97歳で大往生した。しかし、ヨウちゃんに寂しさはほとんどなかった。

そんなヨウちゃんにコンビニの店長は声をかけた。

暮れから大変だったんだから、『大』にしちゃえよ。パーッと威勢よくまいたら、ひいじいちゃんも天国で喜んでくれるよ

祭り好きのひいじいちゃんのことを少しわかった気になったヨウちゃんは、コンビニで「大」の豆まきセットを買った。

 

2月3日は中学受験に失敗した加奈にとって、サイテーの一日。慰めるパパが鬱陶しい加奈だったが、寂しそうなパパの顔を見て、加奈は「豆まきしようか、今夜」と誘っていた。

 

じゅんちゃんの北斗七星

同じ団地のお隣さんだった同級生のじゅんちゃんは、みんなと同じことができない。じっと席についていることもできない、静かにしていることもできない。

幼稚園では許容されていたことが、小学校ではもはや通用しない。

じゅんちゃんの両親は専門の小学校に通わせることも考えたが、結局僕と同じ小学校にじゅんちゃんを入学させた。

しかし、じゅんちゃんの世話は僕がみることになっていた。同じクラスで席は最初から隣に決まっていた。体育で二人一組になるのも、社会科見学のバスの席も、お弁当を食べるのもいつもコンビになっていた。

そんな僕をじゅんちゃんは「あいぼー」と呼んだ。

 

バレンタイン・デビュー

2月に入って、バレンタインの話はしないよう妻芙美子と決めていた。

息子達也につらい思いをさせないようにだ。

そんな父親を、大学生になる娘優美は呆れて見るが、父親として、「男子」の先輩として、達也には悲しい思いをさせたくなかったのだ。

 

サクラ、イツカ、サク

城北大学の映画サークルに属する僕はマルオ先輩とともに、大学合格の掲示板前で「バンザイ隊」をやっていた。

合格者に一回50円でバンザイのサービスを売りつけ(押し売り)ていたのだ。

しかし、狙いをつけた女の子の前に「おめでとうございまーす!」と飛び出した二人に、彼女はおびえたように顔をゆがめると、涙をこぼした。不合格だったのだ。

 

いつものように柔らかな感じの作品ばかりとなっています。

勿論、ほとんど短くて、短編というほどには内容のないものもいくつかありますし、もうちょっと長く読みたかったなと思う作品もあって、感想は様々です。

この分量で適度と感じたのは、表題作「サンタ・エクスプレス」でしょうか。

コーヒーもう一杯」や「ネコはこたつで」「火の用心」「その年の初雪」「じゅんちゃんの北斗七星」「サクラ、イツカ、サク」はもうちょっと長めの話で読みたかったですね。

コーヒーもう一杯」は非常に切ないような話でもうちょっと読みたいと思わせる内容でしたし、「じゅんちゃんの北斗七星」や「サクラ、イツカ、サク」は長編としてもっと読ませる作品にして欲しかったという意味で惜しい作品です。

一方、「あっつあつの、ほっくほく」「冬の散歩道」「一陽来復」「バレンタイン・デビュー」はちょっと内容が薄い。「バレンタイン・デビュー」はニヤッとさせる作品なんですが、ただそれだけという感じです。もっと言えば、こんな奴いないよ、とでも言いたくなるような・・・。

さて、これでこのシリーズは終わりなんでしょうが、結果的に感じたことは、重松清はあまり短編向きじゃないということでしょうか。

なんとなく引き出しが少ないのか、季節は変われど、風景・雰囲気がどうしても似たような感じになってしまっています。そういう意味で驚きが少ないので、だんだん飽きてきてしまう感もないではありません。

次作は、やっぱり長編に期待したいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『大延長』 堂場瞬一

Daiencho 2009年、25冊目。堂場瞬一『大延長』

青春+スポーツなので、鉄板の話のはずなんだけど、ちょっと厚みにかけるのが残念な作品。

なんだか惜しいんですよね。

 

高校野球神奈川県大会決勝。監督牛木晃の率いるチームは9回表を終わって3点差でリード。対戦するチームを率いる監督久保爽太を見やりながら、15年前の甲子園決勝を思い出していた。

 

甲子園の決勝。新潟県代表、初出場の新潟海浜と西東京代表の強豪恒正学園との試合は延長15回のすえ再試合となる。

しかし、新潟海浜を引っ張った大会ナンバーワン投手牛木晃は膝の故障を悪化させてしまう。再試合も投げると言う牛木だったが、監督の羽場祐一郎はこれを止める。

羽場自身も大学時代に、無理をしすぎた挙句、肩を壊してしまった経験があったからだ。優勝を狙うことも大事だが、それ以上に牛木の将来を考えたときに、無理をさせることはできなかった。

新潟海浜は牛木のほかに主将春名雅彦も欠いていた。地方予選の二回戦のあとに交通事故で骨折した左手首が未だ治っていなかったのだ。

牛木はメンバーを集めると自身の欠場を告げるとともに、チームを引っ張ってきた主将春名が試合に出られるよう、メンバーの打撃での奮起を促した。投手面での不安は隠せないものの、チームの雰囲気は盛り上がっていく。

一方で、恒正を率いる監督白井直人は激昂し、部員に怒鳴り散らしていた。拙攻のすえ勝てなかったからだ。メンバーを萎縮させる白井の言動を部長の安斉が諌めるが、白井は聞く耳を持たない。

白井は大学時代に羽場とバッテリーを組んでいたが、その頃から自身で試合を進めることを常に強烈に意識してきた。その管理的な野球への姿勢が恒正を五季連続出場の強豪にしたのだ。

現在のチームでも、卓越した才能の持ち主久保爽太には遠慮があるものの、チームを完全に仕切っているつもりだったのが、このざまだった。

また、白井は経営の苦しい実家の工務店を移籍金で援助するため、大会での優勝を土産に、スカウトされている横浜の湘南大付属高校に移る予定だったのだ。自身の評価を引き上げるためにも、是非とも優勝が必要だった。

再試合のメンバーを考える白井のもとに、教頭から愕然とさせる連絡が入った。三塁を守る岡谷が喫煙しているところを写真週刊誌に撮られたというのだ。

白井は高野連に連絡することなく、明日の再試合には出場することを決めるとともに、岡谷を呼び出し、叱責する。動揺を避けるため部員には知らせないよう配慮した白井だったが、いつの間にかこの話は部員の間にも広がった。特に、チームの成績は二の次で、自身のことしか考えない久保は足を引っ張る岡谷が許せなかった。岡谷に詰め寄る久保は、あわや暴力沙汰となるところをマネージャーの遠藤に身を呈して止められるが、しこりは残った。

 

始まった再試合。

牛木に代わって当番した2年生投手横井は早々に恒正打線につかまる。一回表に久保の本塁打で3点を先制される。2回にも久保のヒットで1点を加える。

久保は得点を重ねるが、張り合いのない投手、そして自身の足を引っ張るチームメイトに不満を燻らせていた。

新潟海浜も恒正の投手平沼の守備の穴をつき、2回裏、3点を返す。

しかし、4回。変化球のクセが読まれてしまった横井は恒正の連続打を浴びる。なんとかストレート一本で凌いだ横井だったが、その間に3点を失ってしまった。

二番手投手結城を打ちあぐねていた新潟海浜だったが、「春名を出す!」の掛け声のもと、5回裏、なんとか粘って1点を返した。これで4-7。

なんとか立ち直ったような横井だったが、6回表の恒正・の打球を顔面に受け、倒れてしまう。

こうなれば仕方がない。牛木の熱意にも負け、羽場牛木をマウンドにあげた。牛木は後続を完全にきってとる。

6回裏。牛木久保の横を抜いて3塁打を放つが、滑り込んだ際に膝を痛めてしまう。この回、2点、7回には更に1点を返し、新潟海浜はついに7-7の同点に追いついた。

牛木は膝に負担のかかる速球を、久保以外には使わずに変化球で凌ぐが、それでも恒正打線は手も足も出なかった。

8回裏。更に2点を追加して逆転した新潟海浜のメンバーは春名を出すよう羽場に詰め寄るが、羽場は許可しない。

9回表。投げ急ぐ牛木の姿をみて、牛木が故障していることに気がついた白井は徹底してバント攻撃を繰り返させる。ダッシュを強いられる牛木の膝はますます悪化していく。そんな姑息な攻撃に久保は憤慨するが、勝利のために白井は徹底して、バントを続けさせた。

牛木をバックアップするため必死で守備する内野陣だったが、キャッチャー小嶋はホームでランナーと交錯して負傷する。意識が朦朧とする小嶋を下げた羽場は、春名を出すことを決めた。

二死満塁で迎えた久保の当たりはピッチャー強襲。牛木のグラブに当たった球が、マウンドの後ろにこぼれるところを春名が飛び込んでなんとかキャッチする。

3点得点した恒正は10-9と逆転し、1点差のなか9回裏の新潟海浜の攻撃を迎える。

 

試合の得点の動き自体は面白いんですが、何だか釈然としないことが多いんですよね。

何故、9回裏になって、白井久保も突然「いいひと」になっちゃったんでしょう。どうも腑に落ちません。なんだろうって感じです。

この作品、メインは野球の試合なんですが、どうも人間の深みを描くときに、試合に参加するメンバーよりも、その周囲に重点を置いているようです。なので、青春小説的な趣きがちょっと薄い。

実は、この作品の中で、一番熱く、メインとなっているのは、羽場白井の大学時代の監督であり、決勝の解説をしていた滝本かもしれません。滝本の一喜一憂や、最後の「あしたのジョー」と似たような最期は極めて印象に残りました。

羽場がOB会や知事といった周囲のプレッシャーと、自身の経験を天秤にかけて、牛木の登板に悩んだり、白井白井で、移籍話と岡谷の喫煙スキャンダルとか、二人の監督のほうが、試合に出る選手たちよりも、いろいろ抱えていて興味深く描かれます。

牛木春名久保という試合の中心となる3人は、元チームメイトという設定はありますが、あまり抱えているものが(説明され)ないので、どうも薄っぺらい感じです。ということもあって、どうも主役を大人たちに持っていかれたということでしょう。

エピローグでは、久保の独白で、マンガのように劇的な延長戦の結果が淡々と語られ、非常にきれいに終わっていますが、ただここまでやるとちょっとやりすぎかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ストロベリー・ナイト』 誉田哲也

Strawberrynight 2009年、24冊目。誉田哲也『ストロベリーナイト』

ちょっとぱっとしない警察小説?って感じの作品でした。

どうも主人公に魅力が足りないのかもしれません。シリーズなので人気があるのかもしれませんが、少なくとも、この一作目だけではよくわかりませんでした。

 

姫川玲子はノンキャリアとしては異例の早さ、27歳で警部補に昇進し、その後まもなく警視庁本庁に取り立てられ、捜査一課殺人捜査係の主任を拝命した。

若い女の主任ということもあって陰口を叩く者も少なくないが、捜査一課十係姫川班の部下(石倉保巡査部長(47)、菊田和男巡査部長(32)、大塚真二巡査(27)、湯田康平巡査(26))とはうまくいっていた。これは玲子を捜査一課に引っ張った直属の上司今泉春男十係長警部の采配によるところが大きい。

信頼できる上司と部下。玲子は恵まれていた。

そんな玲子が駈り出されたのは、死体遺棄事件。葛飾区の都立水元公園の近くで青いビニールシートにくるまれた死体が発見されたのだ。

遺体は身長170cmほどの30代半ばの男性。左頸動脈をスッパリと割られたことが死因。しかし、異様なことに、死後に施されたとみられる、みぞおちから股関節に達する大きく長い切創がみられた。

被害者は歯の治療痕から、事務機器リース会社の社員金原太一(34)と判明する。

地取りで玲子とペアを組んだのは、かつて世田谷署管内で起こった殺人事件でも捜査を共にした巡査長刑事井岡博満。出目に出っ歯、更に猿耳の強烈な顔に加え、インチキくさい関西弁が特徴的な男だ。世田谷署から、王子署、そして葛飾署に転属になっていたのだ。

みぞおちの切創が気になっていた玲子は水元公園の内溜沿いを歩きながら、遺体は遺棄途中で放置されたものではないかと閃く。東京都監察医務院の國奥定之助との話の中で出てきた「ネグレリアフォーレリ」と呼ばれる寄生アメーバを思い出したのだ。

アメーバに分解させるべく内溜に沈めようとした遺体が浮き上がらないように、遺体に切れ込みを予め入れておいたのではないか。

この推理(憶測)を受けて、内溜の底が浚われると、新たな死体が見つかった。

連続殺人事件と目され拡大された帳場に本庁から増援が来る。殺人犯捜査第五係主任勝俣健作警部補”ガンテツ”だ。勝俣率いる勝俣班は「一課内公安」とも呼ばれる情報戦のプロだ。

若く、美貌をひけらかし、それでいて思いつきで行動する玲子勝俣は決して快く思ってはいない。帳場で会うや否や「おい、今でも怖いのか?暑い夏の夜は」と揺さぶりを玲子にかける。

玲子は高校の夏、暴行事件に遭遇し、これがトラウマになっていたのだ。

内溜から上がった第二の被害者の身元が判明する。滑川幸男(38)は大手広告代理店白広堂社員。

金原滑川の接点はどこにも見つからないが、なぜか二人とも春先からエネルギッシュに仕事をするようになったこと、そして毎月第二日曜日にどこかへ出かけていたことが判明する。

ガンテツは、ネグレリアフォーレリによる犠牲者こそが、内溜への遺体遺棄を担当したものであるとの見込みのもと、ネグレリアフォーレリで脳が溶けて死亡した深沢康之を調べた。既に死亡した康之には三歳年下の妹由香里がいたが、中央医科大学付属病院精神科に入院中。病院を訪ねたガンテツだったが、担当医の尾室由香里との面会を頑として拒む。

玲子の部下大塚は、第三方面本部長(北見克好警視監)の息子北見昇警部補とともに、被害者滑川の交友関係をあたっていた。

大学時代のサークルの友人田代智彦にあたった大塚は、不定期にインターネット上に現れる殺人ショーサイト『ストロベリーナイト』の存在に行き着いた。

玲子に相談した大塚は本部にこの情報を挙げるが、本筋にはなりえず、姫川班がこの件を担当することになる。

噂はあっても実在のはっきりしない『ストロベリーナイト』を調べるべく、大塚北見と別行動をとると、かつて大塚が逮捕したことのある情報屋辰巳圭と接触し、(非合法と知りながら)『ストロベリーナイト』の調査を依頼する。

大塚に情報を渡しつつ、辰巳大塚に手を引くよう助言するが・・・。

大塚が殉職したとの一報が入り、玲子は打ちひしがれる。

ガンテツは、玲子が不在中にかかってきた電話から、辰巳に行き着き、情報を聴きだすとともに、更に『ストロベリーナイト』の背後にいる(警察)内部者の情報を調べるよう依頼するのだった。

一方、玲子はもはや自身で事件を解決することよりも、誰でもいいから大塚の事件を早く解決してくれることを祈るのみ。大塚亡き後、北見と組んだ玲子だったが、集中力に乏しく、意欲もない。北見が先導する見込みへ、ただ漫然と従うだけだった。

 

全編を読み終えての感想は、何となく「キャラクターの顔見世興業」といった印象を受ける作品でしたから、いきなり若い部下の殉職というイベントが入ってくると驚いてしまいます。

特に、まじめで好感の持てるキャラクターが、あっさりと殺されてしまうんですから。

ただ、存在を(潜在的にも)主張しようとするキャラクターがとにかく多いですね。

玲子の部下たち。

殺されてしまった大塚は別格として、主要なキャラクターではあるはずなんですが、あまり描写が多くありません。玲子に惚れる菊田という設定くらいが立っているくらいでしょうか。最年長の石倉や最年少の湯田は殆どキャラクターが確立していません。

井岡は(顔、表向きの性格は別にして)なんとなく謎の男ですね。実は切れ者なのでは、とうかがわせるところが節々に出てきて、場を引き締めています。今後、実像(?)が明らかにされていく中で、もっと陰影が出てくるのかもしれません。

ガンテツは何だかよくわかりません。ほんとうに嫌な奴にも見えるし、そうでなくも見えるという不思議な人物です。確かに、アウトロー的で、それでも優秀で、といったところは、ガンテツ主観の毒舌さえなければ、主人公を十分はれそうなキャラクターなんですが、この作品の中ではほぼ悪者といった感じです。

殆ど登場しなかったものの日下も、侮れない存在感を示しています。今後の活躍が楽しみです。

とにかく、多彩なキャラクターに幻惑されるような作品で、ストーリー自体としては今ひとつかもしれません。推理が玲子の勘頼みというのもいただけませんし、殺人者由香里の心象風景もあまり良くわからないんですよね。勿論、最初から犯人を特定するような表現ができないのは仕方がないんでしょうが、後から読み返せばもうちょっとわかりやすくなるとか手はなかったんでしょうか。

それにしても、ガンテツによる、”玲子のプロファイリングは犯人の思考回路に近い”という指摘も、どうもよくわかりません。そんな印象論で玲子を批判するガンテツガンテツだし、それにショックを受ける玲子玲子といった感じです。

何だか人間臭いといえば人間臭い。単なる人の(印象だけでの)好き嫌いだけで人間関係が決まっていて、ちょっと唖然としないではありません。もうちょっと、みんな大人になろうよ、と言いたくなるような関係ですね。

まぁ、多くのキャラクターの登場も見ましたし、井岡日下の再登場を楽しみに、次巻もまた読んでみましょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『希望ヶ丘の人びと』 重松清

Kibougaoka 2009年、23冊目。重松清『希望ヶ丘の人びと』

やっぱり長編ですね。重松清は。

この作品、かなり人の出会いが出来すぎ(あまりにも偶然が続きすぎ)になっていますが、まあ許容範囲。クセのあるキャラクターをうまく配して、しっかり物語が構成されています。

 

田島は妻圭子を亡くし、かつて圭子が住み、懐かしく話してくれた町、希望ヶ丘に移り住んできた。

美嘉(中3)と息子亮太(小5)の面倒をみるために会社を辞め(早期退職し)、希望ヶ丘で進学塾を始めるのだ。

フライチャイズ制進学塾「栄冠ゼミナール」の教室長となった田島は、栄冠ゼミナールで田島の担当となる加納に叱咤され、募集を開始するが、なかなか塾生は集まらない。塾生が集まらないこともあって、予定していた著名な講師を呼ぶことができず、早速クレームだ。

クレームをあげたのは宮嶋泰斗(中3)の母親。これに父親も加わり、非難を繰り返すが、田島はただ謝罪を繰り返すしかなかった。

美嘉の保護者会に出席した田島は、保護者会で年若い女教師野々宮を一人の母親が吊るしあげるのに出くわす。この母親こそ田島にクレームをつけた宮嶋泰斗の母親だった。田島のほか、もう一人保護者会に出席していた父親は宮嶋泰斗の父親だった。

気が重くなる田島だったが、保護者会のあと田島に話しかけた宮嶋(父)はクレーム電話について謝罪する。息子泰斗に実力以上に過剰に期待する母親に父親も振り回されていたのだ。

話をする中で宮嶋が亡き妻(旧姓松山圭子の同級生であることを田島は知る。

かつて生徒会長をしていた宮嶋を補佐した圭子は自分に憧れていたのだと、臆面もなく語る宮嶋田島は冷静ではいられない。

しかし、そんな田島の懊悩を、圭子の親友”フーセンさん”(藤村香織)は笑い飛ばす。しかし、宮嶋の言葉を否定する中で、圭子の片思いの相手として出てきた一人の男の名があった。”エーちゃん”(阿部和博)だ。

フーセンさんの語る”エーちゃん伝説”に、今更ながら、田島は悔しい思いにのたうつのだった。

一方、母親を亡くして寂しがる亮太は母の想い出を希望ヶ丘に探すうちに、一つの書道教室に巡りあう。既に開店休業状態となっていた頑固な書道家、本條瑞雲(本名山本和夫)のもとに亮太は通うようになる。

宮嶋泰斗の母親の妨害工作もあって塾生が集まらないことから、加納田島に(不良の巣窟でもある)湾岸中学からも生徒を募集することを勧める。

生徒募集のポスターを貼ることを受け入れてくれたゲームセンター「ゴールドラッシュ」で出会ったハーフの少女マリア阿部真理亜)は今や「BOSS」と呼ばれている”エーちゃん”の娘だった。

マリアは入塾試験で満点を取り、塾に通うようになる。マリア田島に、美嘉がいじめにあっていることを仄めかす。心配になる田島だったが、なかなか直接美嘉に問い質すことはできなかった。

マリアにくっついて塾にやってくる”ショボさん”(伊藤翔太)は希望ヶ丘中のOBだが、高校を3日で中退し、今や魚並みの脳みそ。しかし、マリアは、”ショボさん”のような生徒が逆転を狙えるような「バカ」クラスを作って欲しいと田島に頼む。

田島は中学校の教師だった圭子のことを思い出し、マリアの思いに応えたいと考えるが、今の経営状態ではなかなか難しいのだった。

ショボさん”は本條瑞雲チヨの孫だった。瑞雲は子どもの頃から翔太に期待をかけたが、それに耐えかねた翔太瑞雲とは疎遠になってしまっていた。また、翔太の両親もまた翔太に期待をかけ、中学受験に臨ませるが、これも失敗。家の中にも居場所のなくなった翔太は今や希望ヶ丘の実家を出て、一人暮らしとなっていた。

泰斗のことで宮嶋に相談を持ちかけられた田島だったが、不穏な雰囲気を醸す泰斗の姿は田島の目にもとまっていた。

偶然出会った藤村ダンナ田島宮嶋が向かった先は、自分でギターを弾いて歌える”フォーク居酒屋”『BOSS』。

ここは”エーちゃん”こと阿部和博がオーナーを務める店だった。

複雑な心境の田島だったが、”エーちゃん”は田島を気に入り、「兄弟」と呼ぶ。マリアから美嘉の話を聞いていたこともあって、エーちゃん美嘉の授業参観にかこつけて母校希望ヶ丘中学に駆けつける。

しかし、エーちゃんの前に立ちはだかったのは生活指導の吉田先生。エーちゃんを慕って校門前に集まったショボたちを、「警察へ通報する」と脅して駆逐すると、エーちゃんも退去させようとする吉田だった。エーちゃん田島と兄弟であると強弁し、学校へ入り込んだ。正論ではあるものの、心のない吉田の行動に田島エーちゃんも憤慨する。

授業参観では宮嶋母が担任の野々宮を吊るし上げていた。宮嶋母を刺激したのは、授業中の泰斗の態度と、それを嘲笑するクラスメートの態度だった。

エーちゃんは教壇の真ん中に仁王立ちすると、宮嶋泰斗へのいじめを糾弾しはじめた。

これを機に泰斗は立ち直りを見せるが、この授業参観で揉めた吉田先生田島エーちゃんを目の敵にする。実際、生徒らに田島の経営する塾について悪し様に語り、営業妨害を行ったのだ。同様に田島の娘である美嘉へのいやがらせも目立つようになる。

嫌味が酷くなる吉田に対して、(授業参観の一件やマリアたちに勇気づけられたこともあり、)美嘉も反撃した。塾を非難し、通う湾岸中学の生徒たちの素行を論う吉田に、美嘉は「自分も万引経験があり、希望ヶ丘中学から(追い出せるものなら)追い出して欲しい」と詰め寄ったのだ。

呆気にとられ、その場はお茶を濁して去った吉田だったが、その後、美嘉への嫌がらせはエスカレートするようになっていく。美嘉をそれとなく泥棒扱いし、クラスの中で孤立させ、揶揄するのだ。

宮嶋泰斗田島に電話してきた。吉田にいじめられた挙句、教室を出ていった美嘉が行方不明になっているというのだ。

慌てて、田島エーちゃんは希望ヶ丘中学へ駆けつけた。顔を上げた田島が目にしたのは屋上にいる美嘉の姿だった。

 

やっぱり、この作品は破天荒なキャラクター”エーちゃん”で持っている作品でしょう。

嫌らしいキャラクターとして、加納とか吉田とかいうのも出てくるので、不愉快な場面も多々見受けられますが、そんな小さな不愉快さを忘れさせるほどのダイナミックな動きを示してくれます。

ちょっと、所謂常識人からは乖離したような行動に走るので、予測不能。これが、また面白かった。

ただし、あまりにもエーちゃんが際立つためか、あとのキャラクターがちょっと小粒に映ります。

主人公田島も、何とはなし、最後まで圭子のことを黙っているという性格の悪さ(?)のようなものがあったり、美嘉亮太との接し方が微妙に不器用で中途半端だったり、とあまり個性が目立たない、ごく普通の性格づけです。

宮嶋泰斗の母親はモンスターペアレント紛いの描きぶりですが、なんだかちょっと物語の中では浮いてしまっている感じですね。父親”チクリ宮嶋”も、まぁ何と情けないことか。

一方で、イベント自体は本筋とは別に、盛りだくさんで、若干とっちらかっている感があります。

フーセンさんの娘彩花の話や、本條瑞雲チヨショボの話とか、本筋とは関連性が薄く、乖離している話は、むしろない方がもうちょっとシンプルな話になったような気もします。

語り口は、(主人公自体に力のあるわけでなく、)何となく流されてしまう男の主観を中心に描かれますので、なんとなく軽妙なテンポで進みます。

その軽妙な語り口のまま、全編通して非常に楽しい作品でした。

中学時代の合唱曲『銀色の道』とか懐かしかったですね。ふと思い出して、口ずさんでしまいました。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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