著者別(い)池上永一

『ぼくのキャノン』 池上永一

Cannon 2009年、92冊目。池上永一『ぼくのキャノン』

池上永一お得意の沖縄もの。

キャノンを神と崇める不思議な村の秘密を巡る話。

 

グスクの頂上から村を見下ろす砲台(キャノン様)が村の神であり、このキャノン様を祀るノロである喜屋武マカトが村を実質的に支配していた。

マカトの支配を支えるのは、男の子らの憧れ「男衆」と、女の子の憧れである「寿隊」。寿隊は、美をもって村を守り、飾るのだ。

キャノンを祀るほか、数々の制約が課される村の生活だったが、沖縄にあって、高い生活(福祉)水準を享受し、誰も文句を言うことはなかった。

しかし、そんな村には秘密があった。

今や老人となったマカトチヨ樹王の3人はキャノンを祀りながら、その秘密をかかえ、戦火に焼けてしまった村を再興したのだ。

自身の老いを感じる3人は、次世代へ村の秘密を繋ぐ必要を感じつつも、秘密の重さに躊躇しているうちに、外部から秘密に近づくものがあった。

アメリカ人のポール・シルバースタインと、小野寺トラスト社長紫織である。

9・11テロでアメリカ政府による嘘を知ったシルバースタインは調査の末、隠された秘宝が村にあることを確信し、学者を装って村に潜入した。

一方、紫織はかつて父がホテル建設を挫折させられた、この地を再度蹂躙するために、村にやってきたのだが、偶然、シルバースタインの探していた金貨「セント・ガウデンズ硬貨」を発見し、村の豊かさの秘密に気づくのだった。

シルバースタインの危険にいち早く気づいた樹王シルバースタインの配下を秘かに排除していくが、シルバースタイン自身は取り逃がしてしまう。

秘密を隠すマカトへの村人の不信をかきたて、育てるべく、紫織は秘密裡に桜花連合という架空の組織を作り上げると、マカトの施政に挑戦していく。

その秘密の重さの前に真相を明かすことのできないマカトマカトの指導力が疑われるなか、マカト樹王の孫である雄太博志は入ることを禁じられた密林に分け入り、ダグラスDC3を発見する。

戦時中、セント・ガウデンズ硬貨をオーストラリアに輸送中のダグラスDC3はキャノン砲により撃墜されていたのだった。

当時、撃墜されたダグラスDC3の搭乗員を発見したマカトチヨ樹王は、助けるとの篠塚少尉の言葉を信じ、篠塚に捕虜を託すが、軍部は見せしめのために捕虜を銃殺する。これを避難するマカトらだったが、マカトらもまた捕虜を託したことでスパイ容疑がかかってしまう。苦悩する篠塚少尉は身を呈してマカトらを逃がすのだった。

その後、村はアメリカ軍の報復を受けた。多量の爆撃を受けた村は火の海となり、ほぼ全滅の憂き目を見たのだ。

多量の不発弾を地面の下に抱えた村。この村を再興すべく、セント・ガウデンズ硬貨のことは秘匿したまま、魅力ある村づくりにマカトたちは励んだ。篠塚少尉の形見のキャノン砲を神に仕立てて・・・。

時折、村で起こる”キャノン様の祟り”とは不発弾の爆発のことだった。

マカトへの不信感が高まる中、紫織は秘かに不発弾を同時多発的に爆発させると、集まった村人たちに、不発弾の真実を告げるのだった。村人は不発弾の上に暮らしており、マカトはそれを知りつつ黙っていたのだと。

真実を紫織から知らされた村人はマカトから離反する。

そこを見計らって、マカトに迫ろうとする紫織だったが・・・。

 

元気のいいマカトら老人の言動が小気味いい。

むしろ若者らがどうも小粒。麗華も結局肩透かし。奇妙奇天烈な寿隊などの設定のなかで、少しずつ重要性を高めていくような描かれ方をしながら、結婚して途中離脱とは・・・。

孫の世代も登場する場面は多く、物語の展開に深く関っていくのですが、どうもキャラクターとしては力不足ですね。

一方、池上作品によく登場する敵役の悪女。今回は紫織ですが、これまた、いつものように無茶苦茶さを発揮していて、強い印象を与えます。

今回は何でもポイポイ捨ててしまうんですか。

シルバースタインはあまり印象に残りませんね。紫織という敵役かつ秘密への挑戦者がいるわけですから、ちょっと重複感が残ります。

もしかすると、もともと紫織はもうちょっと小粒な役だったのかもしれませんね。他作品でもそうですが、池上作品の悪女役って、(作者の筆がのってか)妙に行動がエスカレートしてしまっているような傾向もありますし・・・。

ただし、話自体が面白いかといえば、内容は決して濃くはない。(ちょっとキャラクターの結末も拡散気味でまとまりはありませんが)キャラクターで読む作品と言えるでしょうか。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★★☆☆

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『レキオス』 池上永一

Lequios 2009年、88冊目。池上永一『レキオス』

得意の沖縄が舞台の物語。

レキオスの定義が今ひとつわかりにくく、単なる漠とした呪術的な災厄のイメージしかわからないとこをがちょっと残念。

ただし、1800年代と結ぶ時間的なスケールや数多くの登場人物が複雑に絡み合う関係性は非常に面白い。

 

天久開放地に描かれたペンタグラム(五芒星・魔方陣)が呼び覚ましたのは真嘉比のチルーと呼ばれる(名乗る)幽霊。

このペンタグラムは米軍のキャラダイン中佐の指揮のもと築かれたものだった。”レキオス”を呼び覚ますという秘密の計画(”プロジェクトL”)を遂行する中佐の下で、作業を受け持つ日系三世のブライアン・ヤマグチ(少尉)だったが、彼にも計画の詳細は知らされていなかった。

一方、自身を鼻のない姿に追いやった三世相、友庵を探すチルーは、アメレジアンであるデニス・カニングハムに憑依した。

チルーの懇請に従い、デニスはコザのユタ友庵の居場所を訊ね、今はマハラジャ商店のラジニに憑依した友庵にいきつく。

しかし、友庵にはかつてのような力はなかった。1800年代半ばに現れた”波上の眼鏡”ベッテルハイムに時間を操るすべを奪われたというのだ。

一方、CIAのコニーらのチームはハンビータウンにある「ブルーチャイナ」が秘密結社『GAOTU』の拠点であることを掴み、その主要人物であるキャラダインらの動向を探る。しかし、これを察知した「ブルーチャイナ」の店主は店に潜入したCIAのチームリーダー入松田を店もろとも爆破する。

復讐に燃えるコニーだったが、後任にはアフガニスタンからのチームが据えられ、コニーらはバックアップしかまかせてもらえない。

キャラダインの指示に納得のいかなくなっていたヤマグチだったが、首里城爆破というテロリストまがいの指令を受け、流石にキャラダインを信じられなくなっていた。

彼らとは別に、純粋に好奇心のなせるままにレキオスを負う痴女・天才人類学者サマンサ・オルレンショーはレキオスの真相に少しずつ近づいていた。奇矯な行動の多いオルレンショーの言動に眉をしかめるコニーヤマグチらではあったが、キャラダインへの対抗の便宜上、致し方なくオルレンショーに協力を仰ぐのだった。

デニスの従姉小百合がセーファ御嶽のノロを継ぐことになるが、実際に聞得大君の声を聞いたのはデニスだった。そのことに戸惑い、怒った小百合は、キャラダインに協力するようになってしまう。

もともと力を有していた小百合の助力を得たキャラダインは一夜にして歴史を改変すると、沖縄の解放されなかった世界を作り出した。改変された歴史では、キャラダインは首里城跡の民政府で高等弁務官として沖縄を統治するのだった。

更に、キャラダインは、天久開放地のペンタグラムと19世紀半ばのベッテルハイムキャラダインの前世)とを結ぶと、過去と現在で協調しつつ、着々とレキオス解放の手筈を進めるのだった。

しかし、アメリカ政府のなかにもキャラダインの歴史改変に気づいたものがあった。デニスの父カニングハム将軍の率いるアメリカ軍は沖縄に対して作戦行動を開始するが、その最中にレキオスが目覚めてしまう。しかし、目覚めさせたはいいものの、偽りのノロである小百合にレキオスを制御することはできなかった。

暴走するレキオスを楽しむキャラダインに立ち向かったのは、人間コンピュータ”ロミヒー”こと宏美を駆使するオルレンショーである。しかし、戦いの中で宏美が死んだことで苦戦を強いられるが・・・。

レキオスが暴れ狂う中で父を亡くしたデニスは覚醒し、”エケリ”であるヤマグチとともに、レキオスに立ち向かうのだった。

 

主人公がアメリカ軍人との混血であり、「基地=悪」という一元論が一般的な内地の人間にとって、基地問題への見方が目新しい。

とにかく登場人物が魅力的。

やはり筆頭はオルレンショーですが、ここまで突き抜けたキャラクターは初めて見たという程の変人・変態ぶり。もう常識的な判断がつかなくなりますので、人間コンピュータ「ロミヒー」も何の違和感もなく、受け入れられてしまいます。

残念なのは、そういったサブキャラクターが光る分だけ、主人公のデニスキャラダインが、あまりパッとしないように映ってしまうところでしょうか。デニスなんかは十分魅力的なキャラクターだとは思うんですが、対比するキャラクターたちのアクがあまりに強すぎるんですよね。

色々風呂敷を広げたあと、最後はかなり盛り上がりますが、どうもラストはインパクトがなかったですね。ちょっと惜しいという感じでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『シャングリ・ラ』 池上永一

Shangrila 2009年、75冊目。池上永一『シャングリ・ラ』

とにかく、このボリュームに脱帽。

非常に読み応えのある作品。情報量が多すぎて、遅々としてページが進まない。

ただ、前半の進展のなさに挫折してしまいそうになるが、そこで止めたら勿体無い。最後のスピード感を体験するためにも、是非、最初は辛抱強く読みすすめるべき。

 

環境悪化が進む中、世界経済は従来の資本主義から炭素経済へ移行していた。国連監視のもと、炭素排出の多い国には炭素税と称する関税が付され、国家経済の死命を制するようになっていた。

50年前。炭素経済への移行の中、東京都は山手線の中心部に人工地盤を重ねた空中積層都市アトラスの構築を始め、地上の森林化計画を進めた。

しかし、東京住民の全てがアトラスへ移住できたわけではなかった。アトラスへ移転するためには高額のアトラス国債を購入するか、アトラスくじと呼ばれる宝くじに当選するしかなかった。

多くの住民は住む土地を追われ、森林の中で自身たちのコロニーを作り、アトラスに対抗する反政府ゲリラ「メタル・エイジ」を構成し、炭素排出を繰り返すなど、政府への対抗姿勢を示していた。

メタル・エイジを率いる老婆北条凪子の跡を継ぎ、本拠のコロニー”ドゥオモ”で総統の職に就いたのは凪子の養子北条國子。2年前、政府の牽制に会い、通う名門高校で逮捕され、少年院暮らしを続けてきた少女だった。

國子を実質的に育ててきたのは、かつて六本木でニューハーフパブ『熱帯魚』を営んでいたニューハーフ、モモコ

國子の出所を祝うモモコモモコのニューハーフ仲間ミーコだったが、再会も束の間、ミーコがアトラスくじに当選し、別れのときが来る。別れを惜しみつつも、ミーコはアトラスへ移住していった。

アトラス第6層「新迎賓館」の主、美邦はアトラス公社の庇護のもと多くの家臣に傅かれていた。美邦に仕える家臣らには特権が与えられていた。膠原病のため、日光を浴びることのできない美邦を支える女医博士小夜子はアトラスにおける身分”アトラスランク”を自由に上下させる権限をも与えられていた。

美邦は、美邦に嘘をつくものに死を授けるという特殊能力の持ち主であり、特権と引き換えに、その家臣は緊張を強いられる毎日だった。

アトラスへ移住したミーコは偶然、美邦と出会い、その家臣に取り立てられる。嘘をつかないミーコ美邦の信頼を得るようになっていった。

炭素経済は、実際の炭素排出とは別の概念である「経済炭素」の増減が炭素税と直結していたが、その歪みにビジネスチャンスを見た若者らがあった。

飛び級の末、通信教育でハーバードのMBAを取得したアトラスの住人石田香凛はハーバードで知り合った若きカーボニストたちと、香凛の提唱するビジネスモデルの実証に入る。

香凛は海抜ゼロメートル地帯であるタックスヘイブン、マーシャル諸島の一つに『石田ファイナンス』を設立すると、最高水準のコンピュータ(プログラム)『メデューサ』を設置した。

『メデューサ』は各地の炭素税を決定する”炭素指数”を自由に操作することが可能だった。国家の疲弊にあえぐ高炭素債務国は『メデューサ』の前にひれ伏し、香凛らに多額のマネーをもたらすのだった。

しかし、『石田ファイナンス』と同様のビジネスを行う別勢力が現れた。香凛らの仲間の一人であるはずのニューヨーク在住のセルゲイ・タルシャンが、メデューサをコピーしたプログラムを、モルジブに設置したのだ。タルシャンの真意をつかみかねる香凛だったが、これを防戦するよう動く。

また、炭素市場の混乱を警戒した日本政府は、最高性能のコンピュータの出所から、所在地であるモルジブを見つけ出すと、新たに開発された擬態装甲板で作られた空母ペルセウスをモルジブに派遣し、メデューサのコピーを消滅させる。

この人間による対抗策に学んだメデューサは気候を操作し、自身を防衛するためマーシャル諸島に台風を設置すると、攻撃を寄せ付けないようにするのだった。

メデューサの存在を知った日本政府はメデューサへの攻撃を決行するが、台風の前に徹底を余儀なくされる。加えて、英国軍艦に欺瞞していたペルセウスはメデューサの企みにより、当の英国軍艦と遭遇させられ、相打ちの末、沈められてしまう。これに乗り込んでいた乗員が全滅するなかで、乗艦していた軍人草薙国仁だけが、なぜか助けられていた。

アトラス計画とは地上と天空を循環的に繋ぐ計画だった。しかしながら、超高層建築に伴う固有振動により安定しない構造体を鎮めるためには、唯一の”帝”を選定することが不可欠だった。

アトラスの身分制度の実態は、帝への即位へのランク付けであった。現在”帝”候補とされていたアトラスランク”AAA”の3人こそ國子(太陽)、美邦(月)、草薙(大地)のだった。

月よ、天へ昇り、闇夜を照らせ

アトラスを統べるコンピューター”ゼウス”からの声(暗号鍵)を受け取った美邦だったが、既に國子もまた”ゼウス”からの声を受け取っており、即位の決定には至らない。美邦への決定に至らない”ゼウス”に焦れた小夜子は真相を探るべく、”ゼウス”にハッキングをしかけるが、逮捕されてしまう。

美邦の懇請に従って小夜子の救出を請け負ったミーコだったが、小夜子を救い出したものの、自らが捕まってしまう。加えて、アトラスの構造を呪術的に支える仕組みの源でもある巫女水蛭子に憑依され、身体を奪われてしまう。

森に侵食され”ドゥオモ”での将来が危ぶまれる中、國子を総統に戴くメタル・エイジはアトラス第5層の政府施設の制圧を狙った起死回生の攻撃を行う。空からの侵入を試みた國子だったが、アトラスの対空防御は堅く、撤退を余儀なくされる。しかし、そこを突然地上から激しい火線が襲う。

このどさくさで何とか第5層に辿り着いた國子だったが、火線の正体を知り、慄然とする。これまでも散発的に繰り返される政府とゲリラの交戦の中で見られた正体不明の攻撃の源は新種の植物だったのだ。熱源に対して、高速で種を打ち込む植物は構造材グラファイトをも侵食していた。國子は政府との争い以上に、新種植物”ダイダロス”の危険性を感じ、政府に休戦を訴える。

一方、メデューサによって”ゼウス”のハッキングを受けたアトラス公社は大株主セルゲイ・タルシャンの指示のもと、”ゼウス”の初期化を行うが、ゼウスの初期化に伴い、国防力は著しく減退。政府は首相梅宮綾子の指示のもと国防省の幹部を更迭すると、國子との休戦交渉を行う。

国際司法裁判所の仲裁人として選任されたのはタルシャンだった。タルシャンは第5層をメタル・エイジら難民に明け渡すようにとの裁定を下すのだった。

人間同士の抗争の後、メタル・エイジと草薙の指揮する政府軍は協力して、森林を焼き払い、ここに50年にわたるメタル・エイジの念願が成る。

アトラスへの攻撃の最中で養母凪子がアトラス公社の初代総裁であることを知った國子は、その裏切りに憤り、凪子を”ドゥオモ”から追放する。追放された凪子はアトラスのタルシャンと合流する。もともと「アトラス計画」は凪子タルシャンが50年前に計画したものだったのだ。

美邦を”帝”の候補者たる皇太子に擁立するよう奔走する小夜子の前に現れたのは、元総理大臣鳴瀬慶一郎の孫涼子。学生時代から小夜子の前に現れ、小夜子を虐げる涼子は万能の天才だった。涼子小夜子を虐げることに喜びを感じていたのだ。

涼子小夜子の邪魔をする過程で、アトラス計画の真相を知ると、自身が帝となるべく動き始めるのだった。

アトラス計画の真相を知ることになった國子草薙だったが、ともに”帝”への関心は薄かった。しかし、難民を救うべく國子は即位を目指し、アトラス公社へ向かった。

また、美邦のために小夜子が、そして自身が即位するという夢をみて涼子も第四の神器”天の沼矛”の争奪戦が始まる。

一旦は國子の手により破壊されたメデューサだったが、一部残った機能を使って国連にハッキングすると、国連管理となっていた核兵器を東京などの主要都市に照準を合わせた。

一方、帝即位を間近に控え、アトラス計画の完遂を確信した凪子は、ゼウスに宿らせた擬似人格である神武天皇の排除を目論むが、既にそれを見切っていたゼウス(神武天皇)の逆転にあい、タルシャンとともに幽閉されてしまう。

木乃伊を復活させたゼウス(神武天皇)は皇太子として天の沼矛を携えた美邦を排除しようとする。そこへ駆けつけたのは、核兵器の発射を止めるべく、急行した國子だった。

 

スピード感が前半と後半で全く違います。

物語の背景説明に膨大な情報量を費やす前半は、物語の展開も緩やかで、新世界案内といった感じです。

一方で、後半は次から次へとイベントは起こるは、秘密が次々と明かされていくは、で、とにかくめまぐるしい。

キャラクターでいえば、モモコ武彦などのように前半登場のキャラクターはあくまで前半だけのキャラクターで、後半になるとどうも失速してしまうような印象です。

また、長丁場ということもあってか、少しずつキャラクターの描写が変わってきます。特に小夜子がそうですね。前半では全くの敵役というか、悪の権化的な扱いですが、後半は母性の強い女性の印象が極めて強くなっています。これは後半から登場する涼子の毒々しいまでの悪役ぶりとの対比を強調するためなのかもしれませんが・・・。

なぜ神武天皇が女性?とか、いろいろ不思議な点もありましたが、一番不思議に思ったのは美邦の特殊能力。あれって、何なんでしょう。最後まで特に解説もなく、どうもよくわかりませんでした。

もうひとつ、理解できなかったのは、メデューサが行う炭素を減らす仕組み。ちゃんと説明はされているんですが、どうも理解できません。

そうだ。あと、もうひとつ。メデューサが意識していたのは、仮想海面水位であるはずなのに、ラストで堤防の閘門を開けたところが、どうも釈然としませんでした。

どうもこれだけ長いと、いろいろわからないところが出てくるものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『テンペスト 上・下』 池上永一

Tempest1Tempest2 2009年、冊目、冊目。池上永一『テンペスト 上 若夏の巻』『テンペスト 下 花風の巻』

2009年の最初に読むに相応しいダイナミックな話でした。

若干話が奇想天外で、男装の麗人の大活躍というストーリーは20年程昔の少女マンガで取り上げられそうな題材です。

なかなか知識の乏しい琉球王朝の末期の姿が抵抗なく読め、ストーリーは勿論のこと、歴史的な史料としても非常に興味深い内容になっています。

 

首里の赤田村の一画。嵐の夜、一人の女の子が生まれた。難産の末、母親は死に、男の子を願っていた父親も期待はずれの女児出産に祝福することはない。

孫嗣志は孫家再興を息子に賭けていたのだ。嗣志は姉の子嗣勇を養子に迎え、孫家の再興を託した。生まれた女児は3年間、名前もつけずに放置されたすえ、自身で付けた「真鶴」を名乗った。

琉球にあって、世は第二尚氏、尚育王の治世である。

琉球を統一した尚巴志の興した第一尚氏の裔である孫家を再度王宮に返り咲かせることが嗣志の願い。そのため息子嗣勇には厳しく接する。

王座を奪還するにはまず王宮に上ることが不可欠だが、高級官僚への道は極めて狭い。清と薩摩の二重支配を受ける琉球にあって、即戦力を求められる高級官僚・評定所筆者への登用には科試での合格が必要だったが、ひとりの合格者のないときすらある非常に難しい試験だったのだ。

嗣志嗣勇に期待をかけるが、嗣勇はこれに応えられず、出奔してしまう。役人に捕まえさせようとする嗣志の前に出たのは真鶴である。女性を捨て、宦官と偽称して科試に臨むことを嗣志に申し出たのだ。秘かに学問を積んできた真鶴の力量に希望を見出した嗣志真鶴に「孫寧温」を名乗るよう告げた。

著名な真和志塾への入塾試験で、神童の呼び声も高い喜捨場朝薫の答案を盗み見たとの疑いをかけられた孫寧温は真和志塾から放逐されるが、三代の王に仕えた名三司官麻真譲が構える破天塾に迎えられる。

麻真譲から理とともに情を伴った政策の在り方などの薫陶を受け、着実に寧温は力をつけていった。

それから2年。模擬試験を首席で通った寧温は科試にはじめて臨んだ。しかし、琉球の今後の在り様について、清にも薩摩にも組しない独立色の強い檄文にも似た寧温の回答は三司官からは嫌われ、不合格。

しかし、答案を見た尚育王寧温の非凡な才能を見抜き、喜捨場朝薫らに加えて合格とするとともに、主任に相当する評定所筆者主取に寧温を抜擢した。13歳での合格は史上最年少であり、多くの年輩の評定所筆者の上司ともなった寧温を揶揄し、誹謗する声は大きかった。

同じ頃、清からの冊封使を迎えるため、踊奉行が辻村からスカウトした美少年は嗣勇であった。踊童子、花当として王宮に入った嗣勇は奇しくも王宮で性を隠した妹と再会することになったのである。

尚育王からは王宮の表である政治の舞台と裏である女宮御内原との架け橋となることを求められる寧温だったが、御内原は女の闘争の場であった。

国母王妃うなじゃら)、王女うみないび)、側室あごむしられ)の争いに王の姉である王族神聞得大君も絡んで、闘争が繰り広げられる。さすがの寧温にも為す術はない。

財政が逼迫する中で、寧温に王命が下った。しがらみのない寧温に財政改革が命じられたのだ。贅沢に慣れた御内原など、方々から非難を投げかけられる寧温だったが、屈せずに財政改革を断行するものの、国家財政に巣食う病巣に辿り着くことはできなかった。

そんな中、寧温の素性に不審を覚えた聞得大君は拉致した嗣勇から寧温の正体を聞き出す。嗣勇の身柄と寧温の秘密を握った聞得大君寧温を傀儡として使おうとする。

王妃の放逐に手を貸さざるを得なくなった寧温だったが、更に薩摩の手に琉球を委ねようとするとする聞得大君の企てには協力できなかった。儚んで自害を図る寧温を助けたのは、寧温真鶴)が恋い慕う薩摩の武士朝倉雅博である。

一命をとりとめた寧温聞得大君を逆撃する。切支丹の証拠を捏造すると、聞得大君を投獄、平民に落としたのだ。聞得大君の位を追われ、真牛の名で呼ばれるようになった女はその後も寧温を付け狙うようになる。

政府が阿片に汚染されていることを知った寧温は愕然としつつも、上司、有力者に敢然と立ち向かったが、政府内の反感を呼んで寧温は左遷される。

しかし、糾明奉行の王命を受けた寧温朝薫は政府内を調査するとともに、入荷元である清、出荷先である薩摩にも手を打ち、禍根を断つことに成功する。

この功により、寧温朝薫とともに、摂政、三司官に次ぐ表十五人衆に昇格する。

阿片戦争後の清の衰退や欧米列強の進出を踏まえて、新たな時代を予感した寧温は琉球の科試にも新たな思想を取り入れようと図るが、ここに横槍を入れたのが清の宦官徐丁垓である。

寧温の偽宦官を見破った徐丁垓寧温を傀儡化としようとするが、これを察した寧温は王宮を辞した。しかし、寧温が王宮から下がっている間に尚育王は薨去し、幼い尚泰が即位した。

摂政がおかれるとともに、国相として徐丁垓が王に直接力をかけることを怖れた寧温は王宮に復帰するが、口当たりの良い言葉で尚泰王を懐柔する徐丁垓の前に手も足も出ない。

琉球を我が物にしようとする徐丁垓の企ては着々と進む。これを阻止せんとする寧温は最後の手段に訴えた。徐丁垓もろとも断崖絶壁から飛び降りたのである。幸い寧温は辛うじて生き残ったものの、国相徐丁垓殺害の罪は重く、八重山島への流刑が決まる。

八重山島は英米の艦隊に砲撃さらされていた。囚人として送られたはずの寧温だったが、独立色の強い古見首里大屋子は、寧温を英米艦隊を撃退する任にあてる。

かつて難破した英国船を助けた褒賞としてナイトの称号を得ていた寧温は英国船と交渉して撤退させることに成功するが、列強の圧力が予断を許さないことを悟った寧温は沖縄島(首里)へ列強への備えを上訴する。

しかし、寧温の思いは通じない。流刑したはずの寧温からの上訴に憤った三司官や評定所は八重山で寧温を堅く拘禁することを命じ、寧温は投獄される。

黒水病(マラリア)に冒された寧温は山奥へ隔離され(捨て)られる。かろうじて一命をとりとめた寧温は八重山の最高神職大阿母に救われ、女(真鶴)として暮らすようになった。

首里からの役人(在番)をもてなす琉舞を舞った真鶴は在番の目に留まり、王宮で舞うことを命じられる。沖縄島への帰還を夢見ていた真鶴にとっては願ってもないこと。焦がれる雅博と添うべく、揚々と沖縄島へ戻った。

しかし、真鶴を待っていたのは側室(あごむしられ)の選定試験だった。教養を問われる試験に対応できたのは真鶴と有力士族向氏の娘(摂政の孫娘)真美那だけだった。側室にあがりたくはない真鶴真美那に側室の地位を譲るが、友人を欲していた真美那の一言で、真鶴もまた真美那とともに側室にあがることとなった。

米国海軍を率い、ペリー提督が琉球を訪問する。

いつものように、のらりくらりと誤魔化す朝薫だったが、ペリーの態度は強硬で、もはや為す術もなくなる。そして王命が下りた。孫寧温を八重山より呼び戻すべし。

慌てたのは真鶴である。八重山で黒水病で死んだはずの寧温だったが、琉球の危急存亡のとき、寧温を復活させる必要があると考えた真鶴嗣勇の助けを借り、真鶴寧温の二重生活を開始させた。

ペリーの狙いが日本の開国にあると見抜いた寧温ペリーを手玉にとり、琉球を後回しにさせ、ペリーを日本へ向かわしめた。寧温は、日米和親条約を結び上機嫌なペリーに、相対的に琉球優位な琉米修好条約を結ばせることにも成功する。

しかし、日本の開国に伴う列強化に向けた動きは相対的に清の力を弱めることとなった。琉球における薩摩(日本)の力は増し、朝薫を含めて向氏など清国派は一掃され、寧温の兄嗣勇も閑職に回された。

薩摩の横暴に心を痛める寧温だったが、如何ともする術はなかった。しかし、富国強兵策を推し進める島津斉彬の急死により、薩摩派は後退。清国派の巻き返しクーデターが勃発する。懐妊していた真鶴は動乱の責任をとるという形で職を辞す。

生まれたのは王子。

喜びも束の間、大美御殿で催された満産祝いの席上、乱入した嗣勇真鶴寧温が同一人物であることを暴露する。唖然、呆然とする中、尚泰王から下された真鶴寧温への沙汰は「久米島への一世流刑」だった。

そんな真鶴を不憫に感じた真美那は王子を誘拐すると、真鶴に託して身を隠させた。

孫明と名づけられた王子は真鶴寧温の薫陶のもと成長するが、科試に挑戦することはなかった。

明治維新を経て力をつけた日本は1872年の琉球藩設置のあと、1879年に那覇に降り立った内務大書記官松田道之は琉球の取り潰し(琉球処分)を宣し、ここに琉球王国は終わりを告げた。

 

ちょっと調子良すぎという感じはしないではありませんが、流れのよいストーリーです。

真鶴雅博寧温朝薫という、なんとなく恋愛ものというか、宝塚的というか、女々しい部分は個人的にはいかがかと思わないではありませんが、こんな設定が好きな人もいるんでしょう。

一方で、脇のキャラクターはなかなかいいですね。

特に、聞得大君真牛真美那

真面目なだけの寧温に比べると、とにかく生き生きとしている感じです。

聞得大君はこの物語のほぼ全般を通じて寧温の敵役なんですが、寧温なしでも存在感を十二分に示しています。毀誉褒貶が激しく、彼女が主人公でも何ら違和感を感じません。

ラストを勘案しても、実はこの物語は孫寧温の物語ではなく、聞得大君の物語だったのだといえる程存在感があり、引き際も潔かったですね。

「お嬢様爆弾」真美那も別な意味で存在感のあったキャラクターです。何をしでかすかわからないコミカルな設定で、どうしてもつまらなくなってしまう御内原の話を楽しくさせています。

一方で、徐丁垓はとにかくエグイですね。全くの怪人という感じで、使い捨てにされるわりにはかなりの存在感をもったキャラクターでした。

ストーリーは琉球王国の落日を背景に、男装の美少女が活躍するという話なんですが、ただラストがあんまりぱっとしないですね。歴史物のつもりで読んできて、最後が恋愛ものだったというような終わりは気持ちが悪い。

もうちょっと考えて欲しかったなぁと思わざるを得ません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

日記・コラム・つぶやき | 書籍・雑誌 | 著者別(あ)あさのあつこ | 著者別(あ)安藤祐介 | 著者別(あ)我孫子武丸 | 著者別(あ)有川浩 | 著者別(あ)朝倉かすみ | 著者別(あ)荒木源 | 著者別(い)五十嵐貴久 | 著者別(い)井上尚登 | 著者別(い)伊坂幸太郎 | 著者別(い)池上永一 | 著者別(い)池井戸潤 | 著者別(い)石田衣良 | 著者別(い)石黒耀 | 著者別(い)飯田譲治 | 著者別(え)円城塔 | 著者別(お)大崎梢 | 著者別(お)奥田英朗 | 著者別(お)小川洋子 | 著者別(お)小川糸 | 著者別(お)小笠原慧 | 著者別(お)緒川怜 | 著者別(お)荻原浩 | 著者別(か)加納朋子 | 著者別(か)垣根涼介 | 著者別(か)川上健一 | 著者別(か)川島誠 | 著者別(か)川端裕人 | 著者別(か)川西蘭 | 著者別(か)桂望実 | 著者別(か)海堂尊 | 著者別(か)片川優子 | 著者別(き)京極夏彦 | 著者別(き)吉来駿作 | 著者別(き)機本伸司 | 著者別(き)貴志祐介 | 著者別(く)栗本薫 | 著者別(く)鯨統一郎 | 著者別(く)黒川博行 | 著者別(く)黒木亮 | 著者別(こ)紺野キリフキ | 著者別(こ)今野敏 | 著者別(こ)小手鞠るい | 著者別(こ)幸田真音 | 著者別(こ)近藤史恵 | 著者別(さ)佐藤多佳子 | 著者別(さ)坂木司 | 著者別(さ)坂野昭彦 | 著者別(さ)斎藤純 | 著者別(し)新野剛志 | 著者別(し)島本理生 | 著者別(し)真保裕一 | 著者別(し)重松清 | 著者別(す)鈴木光司 | 著者別(す)須藤靖貴 | 著者別(せ)瀬名秀明 | 著者別(た)平安寿子 | 著者別(た)拓未司 | 著者別(た)田中芳樹 | 著者別(た)竹内真 | 著者別(た)高千穂遥 | 著者別(た)高杉良 | 著者別(つ)塚本青史 | 著者別(と)伴野朗 | 著者別(ど)堂場瞬一 | 著者別(な)南々井梢 | 著者別(な)永井するみ | 著者別(な)永瀬隼介 | 著者別(な)長嶋有 | 著者別(に)仁木英之 | 著者別(に)楡周平 | 著者別(に)西加奈子 | 著者別(に)西尾維新 | 著者別(に)西澤保彦 | 著者別(の)野沢尚 | 著者別(は)早見和真 | 著者別(は)服部真澄 | 著者別(は)畠中恵 | 著者別(は)羽田圭介 | 著者別(ひ)東川篤哉 | 著者別(ひ)東野圭吾 | 著者別(ひ)百田尚樹 | 著者別(へ)辺見じゅん | 著者別(ほ)誉田哲也 | 著者別(ま)万城目学 | 著者別(ま)松崎洋 | 著者別(ま)松波太郎 | 著者別(ま)真山仁 | 著者別(み)三浦しをん | 著者別(み)三羽省吾 | 著者別(み)宮城谷昌光 | 著者別(み)宮部みゆき | 著者別(み)水原秀策 | 著者別(み)水野敬也 | 著者別(み)湊かなえ | 著者別(む)室積光 | 著者別(も)本谷有希子 | 著者別(も)森博嗣 | 著者別(も)森絵都 | 著者別(も)森見登美彦 | 著者別(や)山下貴光 | 著者別(や)山之口洋 | 著者別(や)山本弘 | 著者別(や)山田悠介 | 著者別(わ)和田竜 | 著者別(外)海外の作家 | 読書感想(お奨め★★★★★) | 読書感想(お奨め★★★★☆) | 読書感想(お奨め★★★☆☆) | 読書感想(お奨め★★☆☆☆) | 読書感想(お奨め★☆☆☆☆) | 読書感想(お奨め☆☆☆☆☆)