著者別(お)奥田英朗

『用もないのに』 奥田英朗

Youmo 2009年、76冊目。奥田英朗『用もないのに』

奥田英朗のエッセイ。

アテネ五輪のときの野球観戦記『泳いで帰れ』に続く、主として野球や音楽をテーマ(?)にしたエッセイ集です。

毒舌というか、とにかく思ったことを忌憚なく、かつ皮肉もこめながら綴られる内容は、思わずニヤリとします。

北京オリンピックの野球観戦記はまぁ最近の話(とは言え、WBCが終わった後だと、もはや陳腐化してしまっているかもしれません)ですが、古いものだと2004年のエッセイもあり、ちょっと時代の流れを感じさせます。

 

【野球篇】

再び、泳いで帰れ(「スポーツ・グラフィック ナンバー」2008年9月18日号、2008年10月号)

 北京オリンピックにおける野球”星野ジャパン”観戦記 & 北京の街の活写

アット・ニューヨーク~または小説家は如何にして心配するのをやめて野球とジャズを愛するようになったか(「野生時代」2004年1月号)

 気分転換(?)にと誘われた初めてのニューヨークでヤンキースの試合を観戦。

松坂にも勝っちゃいました~楽天イーグルス地元開幕戦寒中観戦記(「オール讀物」2005年5月号)

 楽天イーグルス地元開幕戦における地元の熱気を感じつつ、寒中で観戦を続けたが・・・。

【遠足篇】

おやじフジロックに行く。しかも雨・・・・・・。(「小説すばる」2005年10月号)

 思い腰をあげ、念願だったフジロックフェスティバル(第9回)に参戦

灼熱の「愛知万博」 駆け込み行列ルポ(「週刊文春」2005年9月8日号)

 長蛇の列に、何か楽しいことがあるんじゃないかと、猜疑心から向かった先は長久手。

世界一ジェットコースター「ええじゃないか」絶叫体験記(「週刊文春」2006年10月19日号)

 年をとるごとに不可能となるであろうジェットコースター体験に、富士急ハイランドの回転数世界一の「ええじゃないか」を選んだが・・・。

四国お遍路 歩き旅(「オール讀物」2009年1月号)

 讃岐うどんの食べ歩きをエサに誘い出されたが・・・。

 

気取らず、歯に衣着せぬというか、思い切った発言で非常に心地良い。

また、年相応というか、年代が近いこともあって、”わかる”部分もあり、非常に楽しめました。

「ええじゃないか」は喜劇のような展開で、純粋に楽しめます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『オリンピックの身代金』 奥田英朗

Olympic 2008年、232冊目。奥田英朗『オリンピックの身代金』

なかなか歯ごたえのある作品でした。

決してつまらないわけじゃないし、ひっかかるわけではないんですが、情報量が多いんでしょうか、読み終えるのに時間がかかった作品です。

タイトル通り、(東京)オリンピック妨害を材料にした脅迫事件の行方を描く作品です。

 

東京オリンピック開催を間近に控えた8月、オリンピック最高警備本部の幕僚長を務める須賀修二郎宅で爆発事故が発生し、その翌週の土曜日には中野にある警察学校でも爆発が生じた。

小生 東京オリンピックのカイサイをボウガイします

近日中にそれが可能なことをショウメイします ヨウキュウは後日追って連絡します 草加次郎

事前に警視総監宛に届いた封書にはこれらの事件が予告されていた。差出人は前年まで世間を騒がせた爆破事件の犯人草加次郎

捜査本部は警視庁公安部におかれ、刑事部は助っ人として入ることを求められたが、公安部と刑事部でソリが合うはずもなく、互いに情報を隠匿し、連携はうまくいかない。

落合昌夫警部補も同じ捜査一課五係の係長宮下大吉警部、森”タンクロー”拓朗警部補、沢野久夫巡査部長、仁井”ニール”薫警部補、倉橋哲夫巡査部長、岩村らとともに半蔵門会館に設置された捜査本部へ出頭し、地取り捜査の任にあたった。

間もなく予告状に使われた活字から捜査線上に浮かんだのは東大大学院浜野研究室の島崎国男である。

 

7月。島崎は兄初男の遺体に対面していた。

秋田の熊沢村から出稼ぎで東京に出ていた初男は出稼ぎ先の飯場で心臓麻痺で死んだのだ。実家の家族からの連絡を受けて飯場に出向いた島崎は、秋田からの出稼ぎ労働者の斡旋を行う山新興業社長山田の案内で初男に対面し、火葬を済ませた。

遺骨を秋田に運ぶ途中、列車内で知り合ったのはスリ常習犯、前科八犯の村田留吉。スリとして捕まり、駅員室に拘束されていた村田が逃走するのを島崎は見逃す。

1年半ぶりの帰郷で、あらためて島崎は熊沢村(地方)の貧しさ、逆に東京の繁栄を、そして社会の格差を思い知らされる。

東京に戻った島崎は社会の格差を再認識するにつけ、プロレタリアートの側にたって行動することを思い立つ。

兄の弔いの一つとして山新興業で働くことを決めた島崎は羽田の飯場に住み込む。東大生が飯場で働くことに面食らう山田だったが、人手不足の折ということもあり、島崎を受け入れたのだ。

慣れない肉体労働に島崎は音を上げそうになるが、同郷の塩野米村の励ましもあって、少しずつ仕事にも慣れていく。

島崎は現場を見聞き、体験するにつけ、劣悪な労働条件や、親会社等とは異なる差別的な扱いに、厳然と”労働者階級”という差別された階層が存在することを確信する。しかし、マルクスが語るように、日本の労働者階級の怒りは階級闘争へ向かうことなく、諦念に満ちていることを知って驚くのだった。

現場の疲労を紛らす手段として常用されていたヒロポン(覚醒剤)も島崎は経験の一つとして手を出した。摂取中に死亡した労働者矢島定吉への山田らの対応をきっかけに、島崎は兄初男もまた、ヒロポンの過剰摂取が原因で死亡したことを知る。

矢島の遺骨を受け取りに来た妻の応対をするうち、地方と東京の格差を再度思い知らされた島崎は労働者階級を搾取する国という装置と戦うことを決意する。

東京だけが富と繁栄を享受するなんて、断じて許されないことです。誰かがそれを阻止しなければならない。ぼくに革命を起こす力はありませんが、それでも一矢報いるぐらいのことはできると思います。オリンピック開催を口実に、東京はますます特権的になろうとしています。それを黙って見ているわけにはいかない

仕事の過程で知った六郷土手の北野火薬からダイナマイトを12本盗み出すことに成功した島崎は標的をオリンピックに絞った。

新聞で最高警備本部の幕僚長が東大の同級生須賀忠の父親であることを知った島崎の住所を調べ、時限発火装置を付けたダイナマイト1本を須賀邸に仕掛けたのだ。

オリンピックを前にして事件を隠蔽しようとする国(警察)の姿勢の狡猾さを嘲笑した島崎は更に、中野の警察学校へ2本のダイナマイトを仕掛けた。

 

次にターゲットにしたのは間もなく開通しようとするモノレールの橋脚である。爆発による死傷者を避けようとする島崎は再会した村田に助力を求め、盗み出した小舟で運河に立てられた橋脚にダイナマイトを貼り付け、破損させる。

同日、8月までの給与を受け取りに飯場に出向いた島崎は、いかさま博打の負け1万6千円を要求する(やくざ崩れの)樋口米村とともに殺し、六郷土手に埋める。

 

一方、公安部と刑事部の情報連携の悪さから捜査は進捗していなかったが、落合は北野火薬への事情聴取の過程で、雑木林に埋められた樋口の死体を発見し、公安部に一矢を報いる。また、その後の爆発事件を契機に共犯者村田の姿も掴み、島崎へと迫る。

島崎から警視庁に届いたのは現金8千万円を要求する手紙。

取引場所である東京駅10番ホームには厳戒態勢が敷かれたが、大安吉日の当日、新婚カップルを見送る人々の群れの中、結婚式の引出物に偽装された身代金は村田によってすりかえられ、まんまと持ち出されようとする。

しかし、身代金事件とは別に、スリの常習犯としての村田に目を止めた上野署の刑事の誰何に、村田は仰天し、もみ合いとなる。尾行を続けていた落合は、これに割ってはいるのだが、危機を察知した島崎の目つぶしに合い、みすみす目の前の島崎村田を見逃してしまう。

東大内に潜伏する島崎を見かけた須賀忠の密告を受け、公安部中心に本郷構内が調べられるが、トロツキストサークル「世界史研究会」の手引きで逃げられてしまう。その後の潜伏先でも公安部は島崎の逃走を許す。

島崎は東京駅での失敗の報復に、警察庁長官と警視総監宛に爆発物を小包で送るが、これは爆発物処理班の手により解体され、爆発は免れる。

次回の身代金の受渡は10月10日、オリンピック開会式の日に決まった。午後2時、神宮プール前での受渡しだ。

8万人の群集を前に警戒態勢を怠らない刑事たちだったが、虚無僧に扮した島崎にまんまと明治公園内に入り込まれてしまう。

選手入場も始まった午後2時、村田は神宮プール前で落合から8000万円の詰まったリュックを受け取る。後を追う落合らだったが、選手団の送迎バスの群れのなかで見失ってしまった。

 

時点がいったりきたりで、少々疲れるような感じです。

事件が発生してから、過去の島崎の動向が語られ、また、先の事件に戻るという具合に、なかなか落ち着きません。最後にいくに従って、現在と過去の時点の時間差が少なくなって、最後には合と島崎の現在が重なり合うという趣向になっています。

ただ、これが効果的だったのかどうか、どうもよくわかりません。敢えて、こんな形にしなくとも楽しめたのではなかったかと思ってしまいます。

ストーリー自体は面白いのですが、事件はいきあたりばったりの感があり、よくも成功できるものだという気すらします。ただし、ストーリーの根底にあるのは、格差を直視する島崎の視線なので、暗く、重苦しい雰囲気が全編に漂います。格差解消のために、一人気を吐きながらも、誰もがオリンピックに協力的で、島崎を批判するという孤独感も更に作品の暗さに輪をかけます。

一方で、登場人物は多すぎじゃないでしょうか。

当時の風俗の解説のために据えられたのか、須賀忠小林良子は特に登場しなくても作品には何ら影響しないでしょう。逆に、時折差し込まれる彼らの視線が話の流れを損なっている感すら受けます。その意味で、須賀忠との関係で登場の出番の多い公安部の矢野も同様です。

捜査一課の五係の面々も名前を振られたわりには、落合とチームを組む岩村仁井のほかはあまりぱっとした活躍はなかったですね。

結局のところ、つきつめると、島崎落合の構図が骨格にあって、そこにゴテゴテと足し合わせていった結果、構成が複雑になり、読みにくくさせているのかもしれません。

最後の方での、村田の自白や落合の娘誕生などは、ちょっと予定調和的で、それまでの雰囲気と異なった感じです。

加えて、ラストは須賀忠小林良子が締めるのですが、これが中途半端で落ち着きが悪いですね。結局、島崎はどうなったんでしょうか。それに対する落合の感想はどうだったんでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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