著者別(あ)荒木源

『ふしぎの国の安兵衛』 荒木源

Yasube 2008年、220冊目。荒木源『ふしぎの国の安兵衛』

どこかで読んだことのあるようなタイムスリップ話で、オチも奇を衒わないオーソドックスな作品。

そのため読んでいても安心感があります。気軽に読めて、そのかわりに簡単に忘れてしまいそう、そんな作品です。

 

西巣鴨に住む遊佐ひろ子は夫と離婚し、息子友也と二人暮らし。

淡路町にあるシステム開発会社「イートン」でSEを務めるひろ子だったが、友也の保育園への送り迎えもあり、定時帰社で持ち帰り仕事という忙しい毎日。なかなか家庭では友也にも構ってあげることもできない。

保育園へ迎えに出てマンションへ帰る道すがら友也と影ふみをするひろ子は、車のかげに男がうずくまっているのを発見する。

侍の恰好をする怪しげな男に警察に行くことを勧めるひろ子だったが、男は刀の切っ先をひろ子ののど下につきつけ、家に案内するよう強要する。

男は木島安兵衛と名乗った。本当か嘘かはわからないが、江戸時代文政年間(文政9年)の直参旗本であると主張する。麻布の自宅から板橋に向かう途中で見かけた泉に落ちて、気がついたら駅前にいたというのだ。

話は真に迫っていたが、必ずしも信用できるわけではない。空腹に耐えかねる安兵衛に食事を与えると、警察への行き方を教え、ひろ子安兵衛を送り出した。

それから3日後、ずぶ濡れの安兵衛がマンションを訪ねてきた。警察に行くふんぎりがつかず、この3日間、東京を彷徨っていたのだ。食べ物を手に入れる手段もなく、飢えと疲れでもうすぐ倒れてしまうと悟ったとき、安兵衛ひろ子のマンションを目指していた。

タイムスリップだと割り切ったひろ子はしばらく安兵衛を家に置くこととした。

江戸時代に帰る術を探す3人だったが、なかなか帰ることのできる場所、方法は見つからなかった。

家に置いてもらう代わりに安兵衛は家事全般を引き受けた。最初こそ、戸惑いもあったものの、手抜きなく家事を行う安兵衛に、負担の減ったひろ子は仕事も順調に進めることができるようになった。

安兵衛友也とも正面から向き合い、躾の面でも厳しく接したが、友也もこれに応え、その成長は著しかった。余裕のできたひろ子もまた、友也に向き合うことができるようになり、3人の生活は順調に過ぎていった。

安兵衛が家事で一番力を入れたのは料理。殊にお菓子作りである。

その情熱は衰えることなく、友也の友人平石悠樹佳恵親子も招いて数多くのケーキを振舞う。

これに感激した平石佳恵は勝手に東日テレビの「お父さんの手作りケーキコンテスト」に応募してしまう。書類選考通過の案内にひろ子は戸惑うが、安兵衛の力を確かめてみたいという気持ちもあり、安兵衛に出場することを勧める。まんざらでもない安兵衛は出場することになった。

100人近い予選を勝ち抜いて本選に出場する安兵衛。本選の課題は「お菓子のまち」。

安兵衛友也を助手に江戸城を作り、見事優勝。

放送後、安兵衛のケーキを食べたいという要望が殺到する。

テレビ局としても、ケーキ自体だけでなく、安兵衛の奇矯なキャラクターが魅力的でないはずはない。安兵衛へ番組出演を要請する。

安兵衛の事情(タイムスリップ)を聞いて、テレビ局のプロデューサーはマスコミの力を使って調査すると請け合う。安兵衛はこれを条件に番組への出演に応じた。

あっという間に安兵衛はテレビの中にその地位を確立した。次から次へとやってくる出演依頼、本の出版、食品メーカーの出資による店”YASUBE’S”の出店など、安兵衛はアイドルにまつりあげられてしまう。安兵衛は六本木ヒルズに部屋を借り、週の半分は泊り込むようになってしまう。

これで寂しくなったのは友也である。安兵衛に替わって、やってきたシッターや家政婦にも懐かず、わがまま放題だ。

自身が寂しくもあったひろ子安兵衛に活動を自粛するように話にいくが、安兵衛の心情を配慮しないひろ子の一言が安兵衛の心を頑なにした。感情的になってしまった二人は喧嘩別れをする。

安兵衛さん、もう帰ってこないと思う

安兵衛に会いたいとせがむ友也に対して、そう答えるしかないひろ子だった。

そんなひろ子に業を煮やした友也はインフルエンザの治りきらない身体でマンションを飛び出し、六本木へ向かった。

マンションの近隣を探しても見つけられないひろ子は安兵衛に連絡を入れる。喧嘩の余韻もなく、早速ひろ子と合流した安兵衛六本木のまちを友也を探して駆け回る。安兵衛をみた人々も安兵衛とともに友也を探し始めた。

 

困ったな。特に感想もないですね。

あまりにも「真っ当」というか、予定調和の物語というところから一歩も出ていません。

最後のサプライズがあるというのも、その内容も予想の範疇から出ませんので、成程、やっぱりねぇといった感想に尽きます。

いってみれば、昔読んだことのある作品を再読しているような、そんな気分になる作品とでも言えるでしょうか。

こういうと良くない作品のようにも聞こえますが、オーソドックスな作品で、少年少女向けのエンターテインメント小説としては良い作品だろうと思います。

登場人物としては、主たるキャラクターである安兵衛にしても、ひろ子友也にしても毒のない、いい人なので、深みは出ようもありませんが、安心して物語に付き合えます。

強いていえば、ひろ子の同僚(?)田中のポジションがよくわかりませんでした。安兵衛なきあとのポジションを占めるような雰囲気はありますが、なぜ、そんな風に納まってしまうの?というような唐突感は拭えませんでした。

全般に読みやすい作品です。また、荒木源の作品は読んでみたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『オケ老人!』 荒木源

Okeroujin 2008年、196冊目。荒木源『オケ老人!』

タイトル、内容ともに秀逸!

キャラクターも魅力的で、(ちょっと深みがないのが玉に瑕ですが)ストーリーのテンポも良く、わくわくしながら読むことのできる良い作品です。

 

中島明彦(34)は高校の数学教師。

転任となった梅が岡高校に配属された春、たまたま通りがかった市の文化センターでコンサートを見たことから話は始まる。

有名な指揮者を招いたアマチュアオーケストラの演奏に感動、触発された中島は学生時代以来触ってもいなかったバイオリンを引っ張り出す。そしてインターネットの検索で見つけた「梅が岡交響楽団(梅響)」に早速連絡し、入団を申し込む。

代表の野々村秀太郎は中島の入団申込を即座に快諾し、翌日の練習に中島を誘った。興奮して中央公民館を訪ねた中島だったが、そこに集まったメンバーをみて唖然とする。メンバーは約20人だが、全て70歳を超えた老人ばかりなのだ。

セカンドバイオリンで入った中島の隣に座った白髪の老女宮崎しま子は認知症。

呉服屋の隠居花田富雄トミー)はチェロ、その妻昌江マーサ)はオーボエ。

寿司屋「クラ寿司」の大将”クラさん”及川はクラリネット。

最年長85歳の”ラバウルさん竹岡亮吉は陸軍のラッパ手を務め、今は酸素ボンベをつけながらトランペットを吹き鳴らす。

ティンパニは元とび職の”棟梁”戸山が担当するが、補聴器がないと殆ど音がきこえない。

元信金マンのコントラバス担当”ブンコさん”こと磯辺浩三は練習のあいだも文庫を繰るほどのミステリー好き。

元小学校教員で梅が岡交響楽団の中では一番マシなのが「真弓センセイ」こと清水真弓

指揮する野々村もリズムがとれず、また指揮など誰も見てはいない。

最後まで一曲演奏をしたこともないという、この梅が岡交響楽団の実態に中島は絶句するだけだった。

実は前日に見たオーケストラは「梅が岡フィルハーモニー(梅フィル)」だった。もともと梅が岡交響楽団のメンバーだった大沢義郎がお荷物の老人たちを残して独立したのが梅フィルだったのだ。梅響のメンバーはクーデターであると罵るが、中島からしてみれば当たり前の話で同情する気にすらならない。また、大沢は電器店(野々村ラヂオ商会)を営む野々村とは商売敵となる電機チェーン店OSデンキの社長でもあった。

お荷物を降ろした梅フィルは短期間でめざましく発展した。

中島野々村に退団を申し出るが、それを告げられた野々村は心筋梗塞で倒れてしまう。仏心を出し、野々村の復帰までは梅響の面倒をみることとなった中島だったが、ちゃんと演奏したいという気持ちは変わらなかった。

そんなとき、ロシアの著名な指揮者アレクセイ・ゴルゴンスキーが何故か梅フィルの指揮をすることが決まった。(この背景には梅が岡で紛失した機密文書の仕込まれたマトリョーシカの捜索というスパイ活動があった。)

これに伴って団員を募集する梅フィルに、中島は応募し、梅響と梅フィルの二重生活が始まった。極度の実力主義に徹する梅フィルに必死になる中島だったが、なかなか進歩は捗捗しくない。梅フィルと梅響のバッティングを助けてくれたのは梅フィルのコンマス大沢義郎の息子晃一(中3)だった。

実は晃一は野々村の孫和音(高1)と付き合っていた。当初は梅響と梅フィルの確執、野々村ラヂオとOSデンキの関係も知らなかった晃一だったが、(父や和音の祖父には内緒で)梅響にも協力するようになったのだ。

晃一の指導後、一変してしまった(向上目覚しい)梅響の姿を前に、中島は完全に自信を喪失してしまう。

指導力もなく、梅フィルでも伸びない自身を省みて、音楽から足を洗おうとする中島野々村のもとへ辞意を伝えに向かった。偶然、愛用のラジカセの修理のため野々村ラヂオ商会を訪れたアレクセイ・ゴルゴンスキーだったが、中島の話を通じて梅フィルの姿勢を批判すると、指揮をとることをやめて帰国してしまう。この一件で、中島と梅響は梅フィルは恨みをかうことになってしまう。

なぜか梅響を続けることになった中島は素直に晃一の協力を得て、少しずつ梅響の力をアップさせていった。

次に狙うは演奏会であるが、そのためにはメンバーの拡充が不可欠。告知はするものの、なかなか応募がない一方で、逆に梅響でフルート担当の真弓センセイが「オレオレ詐欺」にひっかかったショックで退団を申し出る。

ブンコさんの迷推理で捕まえた犯人は真弓の元教え子吉井卓也。謝罪に訪れた吉井真弓は梅響に入ることを命ずる。吉井は元ブラスバンド部でホルンを担当していたのだ。これをきっかけに吉井のツテで若い世代が少しずつ加わってくる。

演奏会のメイン曲は紛糾のすえ宮崎しま子推薦のドボルザーク『新世界』に決定した。

舞台は文化センターの小ホール。時期は4月だ。毎年5月に開催される梅フィルのコンサート時期を避けたのだ。

しかし、ゴルゴンスキーの件で恨み骨髄の梅フィルは同日の大ホールを押さえ、梅響に対抗(嫌がらせ)してきた。

-OSデンキによる商店街共有地買収問題で対立する野々村トミーの関係はどうなるのか。

ゴルゴンスキーの帰国で頓挫したマトリョーシカの捜索はどうなるのか。

中島の憧れる英語教師坂下由香里(26)との仲はどうなるのか。

-梅響(クラさん)のためにゴルゴンスキーが作曲した新作「ダイコン協奏曲」とは。

いくつかの伏線をこなしながら、話はクライマックスを迎える。

 

巧いですね。中弛みなく純粋に楽しめました。

途中のスパイ話も、最初はうまく騙されてしまいました。そういうことだったんですね。有野アリョーシャだとは思いもしませんでした。

最後も大団円という気持ちよさ。また、中島坂下の関係や、マトリョーシカの文書の解釈もうまく裏切られて(肩透かしされて)いる感じで良かった。

やはり茶目っ気のある老人たち。加えて、悪戦苦闘する在り様がよく描写されている主人公と、登場人物たちが魅力的です。ちょっと坂下は謎の人でしたが・・・。

直接的にストーリーに関ってこないわりには和音もうまく間を繋ぐ役割をして、(もうちょっと活躍してくれてもよかったですが・・・)無駄なく配されている印象を与えます。

一気に楽しく読むことができ、後味も良い作品でした。

もうちょっと余韻が残れば、もっと良かったかもしれませんが、それ程そのあたりも気にならない「あぁ面白かった」と言って閉じられる良作です。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★★

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