著者別(い)石田衣良

『シューカツ!』 石田衣良

Syukatsu 2008年、200冊目。石田衣良『シューカツ!』

”シューカツ”(就職活動)を題材とした大学3年生の「シューカツチーム」の奮戦を描いた物語です。

なんとなく風景が目に浮かぶような、言い換えればドラマ(所謂トレンディドラマ)のような描写で、思わずドラマ化狙ってるんじゃないの、と勘繰ってしまいます。志望先も絵になるマスコミなので、そんな風なイメージをもってしまいます。

 

鷲田大学3年のマスコミへの就職を目指す男女7人が結成した「シューカツプロジェクトチーム」の結成式が表参道のイタリアンレストランで行われた。

メンバーは以下の7人。

水越千晴(主人公):マイペース。志望は大手出版社と放送局。

菊田良弘:小太りで丸顔、童顔。テニスサークルの副部長。志望は新聞社、出版社。

佐々木恵理子:長身でスタイル良く、美貌の持ち主。実家は金持ちの帰国子女。志望は本命が出版社で、力試しで在京キー局。ミステリー研究会所属。

富塚圭:冷静沈着、頭脳明晰。チームのリーダー格。志望は新聞社とテレビ局の報道部門。

犬山伸子[ノブ]:若干小太り。志望は大手出版社、女性誌の編集者。

小柳真一郎[シンチ]:体育会系柔道部。志望は大手出版社と新聞社。

倉本比呂氏:データ重視の理論派。志望は映画会社やテレビ局などの映像系。

結成式の当日からの提案によりグループディスカッションの演習が行われる。緊張を強いられる経験に、先行きへの不安は高まる。しかし、一人ではない。「合言葉は全員合格」。グループでなんとかやっていくのだと少し心強く感じる千晴だった。

夏休み。グループメンバーは関東テレビ[モデル:フジテレビ]のインターン制度に応募した。最終的に選ばれたのは千晴理恵子千晴理恵子とともに、ワイドショー「スクープ・ワイド」の水曜日チームに配される。

大塚のバラバラ殺人事件で、大内Dから課された千晴への課題は、被害者の写真(ガンクビ)を入手すること。千晴良弘の伝手で被害者の写真とともに被害者の日常を入手、聴取し、本郷プロデューサーの評価を受ける。

一方で、準ミス鷲田大学でもある理恵子はその美貌が評価されるなど、カメラテストにも起用される。

このインターンを通して、千晴は仕事をすることの意味を知っていく。

秋。シューカツチームは理恵子の父が専務を務める総合商社の保養施設で”エントリーシート”合宿を実施した。各自が作成したエントリーシートを見せ合い、改善点を挙げて、完璧を期すのだ。自身をさらけ出すという恥ずかしい経験をしながらも、より良いエントリーシートを仕上げる喜びを感じる千晴たち。

その夜、ロビーに千晴を呼び出した良弘は告白するが、千晴にはシューカツと恋との両立は難しかった。良弘に断りつつも、春にシューカツが終わった後の再チャレンジに含みを持たせるのだった。

11月、OBOG訪問が始まった。千晴も何人かのOBOGを訪問する。

出版最大手交読社[モデル:講談社]の沢野(入社5年目)、業界No2英俊館[モデル:集英社?小学館?]の飯塚慎吾(入社半年)、国営のJBC[モデル:NHK]の西山(入社10年)。ためになる話をしてくれる先輩もいれば愚痴ばかりのOBもいる。あらためて相性というものを感じる千晴だった。

シューカツチームのメンバーもOBOG訪問を行っていた。その一方で、恵理子には関東テレビから声がかかっていた。先日のインターンでその美貌が認められ、報道志望だった恵理子にアナウンス部から誘いがあったのだ。

また、比呂氏はシューカツの精神的重圧に負け、家に引きこもってしまっていた。OBOG訪問どころか大学にも来ていない様子。シューカツメンバーは心配し、「全員合格」の掛け声のもと、二人ずつペアを組んで、見舞うようになった。

1月、本格的な就職試験が始まった。

千晴が選んだ希望の会社は、テレビが3社、大手出版社が3社だった。思い切って他業種への応募はしないことに決めたのだ。

テレビ局はインターン研修に参加した関東テレビ[モデル:フジテレビ]とOG訪問で好印象を得た国営のJBC[モデル:NHK]。在京キー局でもっとも規模の小さいキャピタルテレビ[モデル:テレビ東京]に決めた。

出版大手では業界ナンバーワンの交読社[モデル:講談社]、二番手の英俊館[モデル:集英社?小学館?]、企業規模では上位二社の三分の一ほどでしかないが、芥山[芥川]賞と直本[直木]賞という二大文学賞を主催する文化秋冬[モデル:文芸春秋]だ。

臨んだ面接、筆記試験だが、関東テレビでは一次面接、筆記試験、二次面接と順調にステップを踏んでいく一方で、キャピタルテレビでは一次面接の圧迫面接の前に敗退する。

面接の場数を踏むたび、自身を出していくことの重要性を悟った千晴は関東テレビの三次面接、四次面接もうまく乗り越え、最終役員面接に至る。最終面接はほぼ入社意思の確認であり、殆ど落ちることはない。千晴は勝利を確信した。

しかし、最終面接の席上切り出された質問に千晴は答えられなかった。動揺し、涙を流し続ける千晴に下された評価は”不合格”。

あまりの結果に落ち込む千晴を励ましたのはシューカツチームのメンバーたちだった。気を取り直した千晴は残り4社へ気持ちを新たにする。

比呂氏のところを訪ねるようになって何回目か、千晴良弘がいつものように閉じ籠る比呂氏の部屋の前で愚痴や心情を吐露し、帰る段になって、漸く比呂氏は顔を出した。比呂氏はメンバーに感謝するとともに、怖さを感じながらも再チャレンジすることを約束する。今年は留年し、来年のシューカツに臨むのだ。

千晴のシューカツ後半戦は3月第2週に開始された。

同日に実施されたJBCの筆記試験、交読社の筆記試験を無事合格した。英俊館の筆記試験は千晴には楽勝に感じたが、結果は不合格。これでまた一社消えてしまう。

JBCの一次面接はディレクターと連続ドラマのミニ企画会議と化し、盛り上がったまま終了。勿論合格し、二次面接へ進む。

文化秋冬の筆記試験は独特で、千晴は全く歯がたたなかったが、結果はなぜか合格だった。

JBCと交読社の二次面接はまたも同日。

JBCの二次面接は一次面接と同様に盛り上がりをみせ成功に終わるが、交読社はそうではなかった。面接官の一人となったキャリアウーマン向け女性誌の編集長は冷たい視線で千晴を品定めし、圧力をかけてきた。必死の抵抗をみせる千晴だったが、ギクシャクした雰囲気のなか面接は終了した。

文化秋冬の二次面接に向かう千晴の携帯電話に飛び込んできたのは、交読社の不合格の知らせ。最悪のタイミングでの最悪の結果にショックを受ける千晴だったが、良弘の励ましの言葉で立ち直り、気分一新して二次面接に臨んだ。グループディスカッションも作文も手応えのある内容だった。

JBCの最終面接の面接官はOG訪問した西山だった。スムースに進行した最終面接はあっさりと終了した。

文化秋冬の最終面接は役員面接。十人を超える役員たちがずらりと並ぶ会議室に、千晴は関東テレビの最終面接を思い出し、足がすくんでしまう。しかし、最後は何とか素直に自身を出すことに努め、面接を終了させた。

 

最近はいろいろ大変だなぁと感じます。

こんなに学生って、エントリーシートに力を入れているんですか。実物を見たこともありますが、そんな大層な内容じゃなかったですけどね。それに、所詮書かれていることと本人は全く同じではないのは当たり前なので、やっぱり面接で判断するしかないんじゃないかと思います。わざわざエントリーシートに書くエピソードを作るために行動する学生がいるとは驚きでした。

まあ強いて言えば、会話のきっかけくらいには使うので、最初の会話を誘導したい方向に向けさせるという効果は多少あるかもしれませんが、それ以上には実際には重視はしてないんではないでしょうか。

千晴のように素直に自分を出すことは勿論好ましいことでしょうが、あまり自身の馬鹿さ加減を出されても困ってしまいますよね。性格は好ましくても、能力に”?”がつくので、やはり合格は難しいでしょう。やはり面接では、地の部分を出しつつも、多少は自身をお化粧するくらいでないとダメじゃないでしょうか。そうでないと、面接官も「本当に入社したいのか」という本気度を疑ってしまいますし・・・。

「バブル以来の売り手市場」とも言われ、確かに昨春はそうだったかもしれませんが、これからはまた変わってくるのかもしれませんね。

足元ではサブプライムローン問題を契機にした景気後退等を遠因にして、内定取り消しもチラホラ出てきているらしいです。景気後退局面ではやはり新入社員数も絞ってくるでしょうから、今後は再度氷河時代と言われたシューカツ状況に戻ってしまうのかもしれません。こうして考えてみると、団塊の世代の引きとめに作られた高年齢者雇用安定法がシューカツする学生にとっては逆風なのかもしれません。

さて、ラストで千晴はJBCと文化秋冬の両社の内定をとりますし、多くのメンバーが複数社の内定をとります。それを喜々とするところはわからないではありませんし、確かに現実的ではあるんでしょう。でも、入社できるのは一社しかないのですから、内定辞退がどういう迷惑を関係者に与えるのか、その点にも触れておいて欲しかったですね。千晴にしても、どの面さげて、内定辞退するんでしょう。内定をもらうために、あそこまで必死になっておいて、他に決まったといって足蹴にするのって、(自身の生涯を守るために仕方がない部分はありますが)客観的には品性の下劣さを感じずにはいられません。少なくとも、JBCと文化秋冬の内定をもらう前に、どちらにするのか心を決めておくべきだったのではないでしょうか。

出版社への就職活動という点では、三浦しをん『格闘するものに○』とも共通するところがありましたが、雰囲気は似ているような似ていないような・・・。

まぁ、生きいきと描かれる内容は面白かった一方で、華やかなマスコミ業界だけを賛美するようなトーンは若干鼻につかないではありません。他の業界では夢がないってことなんでしょうか。だとすれば、それも失礼な話です。

また、今のシューカツの状況を紹介するっていう意味でも良かったのですが、何となく自分本位な(自己愛の強い)姿勢は最後までちょっと気になりました。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『下北サンデーズ』 石田衣良

Shimokita 2008年、182冊目。石田衣良『下北サンデーズ』

小劇団のサクセスストーリーです。

下北沢の小劇団がステップアップしていく様を順序良く描いており、非常に楽しく読めました。

最近は観に行かなくなってしまいましたが、一時期はよく通っていましたから、何となく雰囲気もわかって親近感のわくストーリーでした。そういえば、2002年1月の「カクスコ」の解散公演以来ですので、もう行かなくなって6年以上も経つんですね。

さて、この作品は下北沢の実際の劇場をモデルにしており、本多劇場⇒松多劇場、ザ・スズナリ⇒ザ・マンパイ、駅前劇場⇒駅横劇場、OFF・OFFシアター⇒ミニミニシアターといった具合に実在の劇場が名前をかえて登場しています。実際には、OFF・OFFシアターの下に「劇」小劇場もあるので、ちょっと4つというのは少ないような気もしますが・・・。

 

里中ゆいかは東京科学工科大学(電子工学科)に入学し、長野県から上京したのを機に、下北沢の小劇団「下北サンデーズ」に入団を申し出た。前年夏の十周年公演を観て、感動して決めたのだ。

しかし、下北サンデーズは結成十年にして、未だ売れない劇団だった。下北沢の小劇団の出世すごろくでいうところの最下層の”ミニミニシアター”(客席数80)から上へ上がれない状況が10年続いているのだ。

勿論、メンバーは芝居で食べていけるはずもなく、バイトで生活するという貧乏暮らし。

下北サンデーズのメンバーは以下の8人。

あくたがわ翼:「下北サンデーズ」座長兼脚本家。顔は昔ふうのハンサムだが、背は高くなく、妙に顔が大きい。テレビのバラエティ番組の構成台本書き。

伊達千恵美:「下北サンデーズ」の看板女優。あくたがわ翼と同棲中。新宿のキャバクラ「スイカップ」で働く。

キャンディ吉田:背の高い女優。お笑い担当。引越し屋でバイト。

寺島玲子:メガネをかけた女優。脚本も書く。テレビの深夜番組やアダルトビデオの台本書きで生計をたてる。実は東京大学法学部卒。

馳背川(サンボ)現:不細工役担当の男優。黒いセルフレームの小太り。高校中退で学歴コンプレックス。建設労働者。

ジョー大杉:二枚目半役担当の男優。渋谷のホストクラブで働く。

八神誠一:二枚目役担当の男優。代田、北沢、代沢の地主の息子。

江本亜希子:制作担当。あくたがわ翼の元彼女。

入団応募当日に「下北サンデーズ」の劇団員として認められたゆいかは3週間後の舞台『サマータイム・ストレンジャー ~夏の迷子たち』への出演も認められる。

そんなゆいかに嫉妬し、反感を持つ千恵美の存在もあったが、ゆいかは前向きに稽古をこなし、当日を迎えた。

初日はあいにくの雨で四割ほどの客入りに過ぎなかったが、その中には伝説の「下北ミルクのおじさん」の姿があった。下北の街に劇場ができたときから芝居を観続けている有名な見巧者「下北ミルクのおじさん」が見込んだ劇団は1年以内に必ず”松多劇場”まで駆け上るといわれているのだ。

好評を博した『サマータイム・ストレンジャー』は2日目以降客入りを伸ばし、連日満席を続けることとなった。この集客を評価した”駅横劇場”のプロデューサーからの声もあり、2カ月後の公演は”駅横劇場”での開催が決まった。「下北サンデーズ」設立11年目にして初めてのステップアップである。「新しい風」「幸運の女神」とゆいかを持ち上げる声は多いものの、千恵美の厳しさは変わらなかった。

 

この間にバイトに精を出したメンバーだったが、CMのオーディションに受かったサンボ現がブレイクする。

公演前2週間を切っても、脚本が出来上がってこない。あせりの色を濃くするメンバーだったが、そんなとき座長の母親危篤の連絡が入る。急ぎ故郷の松山に帰り、葬儀を済ませたは亡き母親を思い、初心に返って新たな脚本『セックス・オン・サンデー ~日曜日に一回』を書き上げた。

駅横劇場の公演も満員御礼を連発し、無事終了した。の脚本も高い評価を受けることとなった。

 

公演が終わり、ゆいか江本亜希子から雑誌の美少女コンテストへの参加を求められた。既に大手プロダクションの女優の卵に優勝の決まった出来レースをカムフラージュするための、二番手、三番手候補としてのエントリーだ。しかし、予想に反して、ゆいかは一般投票で最高得票をとり、準グランプリに選ばれる。

サンボのブレイクや、の脚本の高評価、ゆいかのグラビアデビューなど、下北サンデーズの成功はメンバーの心を少しずつ変えていった。

次のステップである”ザ・マンパイ”での公演は『サイタマ・スイマーズ』に決まったが、成功して貧乏時代の共感をなくしていったメンバーは諍いが絶えず、芝居以外の活動に時間をとられ、稽古にも精が出ない。

「下北サンデーズ」を家族のように感じ、昔の思いを取り戻したいと考える八神ゆいかとともに、他のメンバーに働きかけるが、空回りになってしまう。思いつめた八神は睡眠導入剤を多量に飲み、自殺を図った。

練習に出てこない八神を訪ねたゆいからが発見し、八神は辛くも一命をとりとめた。八神の自殺未遂というショック療法で結束を取り戻した下北サンデーズは再度熱のこもった稽古を始めた。

概ね『サイタマ・スイマーズ』は好評価で、観客動員も3千人近くを記録する成功。

 

次の舞台は「下北ヌーベル演劇祭」だ。日本中の小劇団のトップだけが出演を許される、いわゆる「小劇団の甲子園」に下北サンデーズが招聘されたのだ。全国のトップクラス8団体(おこさま企画、演劇会議所、脱皮族、たけのこホテル、QQQ、アニマルシンジケート、劇団R☆R、下北サンデーズ)がトーナメント方式による勝ち抜き戦で争う。

抽選の結果、1回戦の相手は鉄板の優勝候補「おこさま企画」である。

1回戦に千恵美玲子をモデルにした新作『さよならサンセット』を投入する。

 

話としては、「なぜ、この快進撃?」と少し不思議に思わないではないですが、下手に長々と下積み、貧乏時代を続けられても滅入ってしまうかもしれないので、これくらい安直でいいのかもしれません。でも、やっぱり不自然ではありますね。特にステップアップしていく理由が見当たらないんですから。単なる偶然ってことでしょうか?

劇団のメンバーはそれぞれキャラクターが確立しており、それなりに興味を引くんですが、ちょっとキャラクター設定の面白さからすると小粒かもしれません。それぞれのキャラクターからは、あまり面白さが伝わってきません。

特に、優等生二枚目キャラの八神誠一は全体の中でちょっと浮いてしまっている感はあります。自殺未遂を起こすなど、その”浮いている”感をストーリーに活かしてはいるんですが、劇団員の結束等を尊重するわりには親近感を感じさせないような雰囲気を醸しており、言っていることとイメージのギャップに違和感を感じます。

当作品は小劇団の話でありながら、公演される芝居自体の光景が殆どありません。粗筋をさらっているだけで、その視覚的なイメージやゆいかの受ける印象等を中心とした描写だけなので、実際の芝居を観るような臨場感が得られません。そのあたりに若干不満が残ります。せっかくのキャラクターなんですから、もうちょっと活かして欲しかった。冒頭のキャンディ吉田伊達千恵美の前説のような掛け合いがあれば、全体がもうちょっと面白いものになったような気もします。

なんとなく石田衣良って、今まで食わず嫌いだったんですが、今回これを読んで、他の作品も読んでみたくなりました。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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