著者別(あ)朝倉かすみ

『田村はまだか』 朝倉かすみ

Tamura 2008年、168冊目。朝倉かすみ『田村はまだか』

なんとなく、小劇団の演劇のタイトルのような表題です。

内容的には、タイトルから想像のつくとおり「田村」を待つ話で、田村を待つ間に、その場にいない田村の思い出話で田村が紹介されたり、登場人物の背景が説明されるという展開は、よくあるパターンといえば、そのとおり。

まぁ安心感のある展開ですが、話自体はちょっと小粒だったかもしれません。

 

第一話 田村はまだか

札幌、ススキノのスナック・バー「チャオ!」

午前零時、カウンター席を占領するのは男3人、女2人のグループ。常連の永田一太が小学校のクラス会の三次会でつれてきたメンバーだ。

「チャオ!」のマスター花輪春彦(46)は聞くとはなしに、彼らの話に耳を傾けていた。

丙午の生まれなので満40歳となる5人は、しきりに「田村はまだか」を繰り返す。

永田一太のほか、腕白小僧のような声、雰囲気の男、口調も含めてマーロン・ブランド(「ゴッドファーザー」のビト・コルレオーネ)に似た男、ウイスキーがダメで「いいちこ」を呑み続ける女、ウイスキーも焼酎もダメで「エビス」だけを呑む女。

みんな、小学校卒業以来の再会となる「田村久志」を待っているのだ。

彼らは、田村を待ちながら小学校時代の田村と、現在は田村の妻となった中村理香の話に花を咲かせる。

 

第二話 パンダ全速力 (第一話の「腕白」こと池内暁の話)

池内暁は化粧品・日用雑貨の卸会社に就職。

入社した池内の指導員に就いたのは42歳にして平社員という二瓶正克という不思議な男だった。

ぼく特別隠居したんだよね」という二瓶は、とにかく動ぜず、気にせず、マイペース。

そんな二瓶が、パンダの着ぐるみを着た池内に怒鳴り声を挙げた。

さっさといけよ。走れよ。全速力で走れよ、きみ

 

第三話 グッナイ・ベイビー (第一話の「いいちこ」こと加持千夏の回想)

加持千夏は男子高の保健室教諭。

6年前、印象的な一人の生徒島村裕樹と出会った千夏は、裕樹に自分だけの愛称”キッド”をつけ、胸にそっと手を置くように呼びかけるようになっていった。

 

第四話 きみとぼくとかれの (第一話の「コルレオーネ」こと坪田隼雄の回想)

坪田隼雄は生命保険会社の営業所所長。女扱いにもなれており、食事する相手にも事欠かなかった彼だが、40歳にして独身、童貞。

そんな坪田が偶然見つけた、つまらないブログは隣家の長女美佳の手によるものだった。

ブログで語られる美佳の秘密の告白は、となりのお兄さんこと、坪田に関するもの。坪田はこれに動揺する。

 

第五話 ミドリ同盟 (マスター花輪春彦の回想、永田一太と第一話の「エビス」こと伊吹祥子の回想)

花輪は一昨年前の浮気、離婚を回想する。

病院で再会した永田一太伊吹祥子は再会から不倫の関係が始まった。しかし、祥子の不倫は発覚し、離婚へと至った。これを機に別れた二人の間には、田村を待つ、この間にも気まずい雰囲気が流れる。

 

そんなとき、田村の妻となった(旧姓中村理香からの電話。電話を切った永田はみんなに理香の用件を告げる。

田村は、こない

田村は「チャオ!」に向かう途中で軽トラックに轢かれ、手術中なのだ。手術の成否は予断を許さないという。

 

最終話 話は明日にしてくれないか

田村はまだか」「田村は、死なない

田村との再会を信じて病院へ向かう5人。

 

この作品の巧妙なところは、第一話で「田村を待つ人々」ではない第三者の視点から捉えることによって、酒場で聞こえてきた他人の噂話に聞き耳を立てているような、そういった面白みを感じさせるところでしょうか。

当然、それらの噂話を語る、田村を待っている人々の名前すらわからないわけですから、そういった待つ人々の外見から醸し出される雰囲気と実像とのギャップも興味が湧き、個々の登場人物の打ち明け話にも関心をそそられることになります。

加えて、待つ5人+1人の背景が長々と語られながらも、いつまでも待ち人田村がこないわけですから、読者としてもそろそろ「田村はまだか」と言いたくなる。そういった期待感と渇望感がラストに向けての盛り上がりとなっていき、最後の一波乱も加わって、と全体の抑揚も非常によく効いています。

このように構成は非常に技巧的で新味があるのですが、残念ながら語られる中身が若干陳腐もしくは説明不足なのが惜しい。書き込み不足からか、語られようとしている中身をつかみかねる内容であったり、内容自体がちょっと陳腐なために、途中中弛みと消化不足でモヤモヤした感じが残ります。

そして、最後の最後に真打「田村」の登場です。しかし、現実でもよくある話ですが、待って、待って、した挙句に、結局はこんなもんだったかと若干拍子抜けしてしまう場面がありますが、それに近いような感じです。ただし、待たされた田村以外のメンバーのなかで培われた雰囲気が場を愉快・和やかなものにしており、後味の良い終わり方となっています。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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