著者別(お)大崎梢

『スノーフレーク』 大崎梢

Snowflake 2009年、49冊目。大崎梢『スノーフレーク』

行方不明の幼なじみを探すという軽いミステリ仕立ての話ですね。

悪くはないんですが、でも・・・今ひとつという感じでしょうか。

どうも共感がわきにくいというか、一人称である真乃が抱えている重要な情報が最後まで開示されないので、どうもミスリードされていたような、不快感がラストに残ってしまいます。

最後はきれいに終わっているように見えますが、ミステリの部分でそういった気持ち悪さが残るために、どうも純粋に楽しむことは出来なかったといえるでしょうか。

 

函館の高校を卒業し、間もなく東京の大学へ進学する桜井真乃は掲示板に「昔のことは忘れる」と書き記す。

真乃は小学6年のときに死んだ幼なじみの遠藤速人が忘れられずに、これまで引きずってきたのだ。

小学校6年のとき一家心中で家族とともに車で函館湾の岸壁から海に沈んだ速人だったが、遺体は上がっていなかった。真乃の友人シーコ清水優子)が中3のときに速人を目撃したとの話もあり、真乃はずっと速人が死んだことを受け入れられず、速人を忘れられずにいた。

忘れると決心した真乃を友人の山本琴美は祝福し、もう一人の幼なじみ田村亨真乃をデートに誘った。

しかし、そのデートの途中、真乃速人らしき人物を目撃する。

しっかりしろ、あいつは死んだんだ

立ち尽くし、嗚咽をもらす真乃を支えるだったが、真乃にはやはり忘れることができないようだった。

翌日、函館山の中腹にある墓地を訪ねた真乃はそこで速人にそっくりの男に出会う。

男は速人の従兄遠藤勇麻と名乗った。

勇麻は、身の回りで速人の存在を匂わせる事件が連続することから、かつての速人の知人たちに話を聞くために函館へやってきたのだという。

勇麻を見たシーコ勇麻こそ(事件で死ななかった)速人ではないかと疑う。

真乃はその言葉を信じるわけではなかったが、勇麻に出会い、函館を巣立つのを機に、あらためて6年前の事故を調べてみることを決意した。

勇麻、そして遠藤家の近所に住む及川夫人や、その知人である曾根崎俊彦らから話を聞くうちに、あらたに色々なことが判明する。

車に同乗していた速人の祖母の死亡推定時刻は前日の昼間だったこと。

遠藤家の供養がなされていないこと。

遠藤家の保険金を受け取った兄(勇麻の父)は仕事の負債を保険金で返し、その金を元に今は成功していること。

事件からしばらくたってから、中野町の奥にある古いガラス工場跡で速人を見つけたという少年がいたこと。

速人の妹苑子の友人香月すみれが3年前に速人と出会い、会話(「初恋の女の子に会いに来たんだ」)をしていたこと。

 

そんなとき、学校の温室の前に、かつて真乃速人が行っていた交換日記と同じノートが置かれているのが見つかる。ノートにはスノードロップの鉛筆画だけが書かれていた。

交換ノートを見た真乃はかつて速人と日記を隠していた場所である、中野町のガラス工場跡へ向かった。

廃工場を調べるうち、3階床に開いた穴から落ちそうになった真乃を間一髪助けたのは勇麻だった。

ずっと昔から好きだった。ぼくは君に嘘をついている。ほんとうのことを言ってない。でも信じてほしい。心から大事に思っていると。真乃ちゃん、ぼくは・・・・・・そうだよ、君の小さい頃のことをよく知っている

 

当時、事件の現場にいたという琴美の叔父関根恭平は事件の直後、石ちゃんと呼ばれるホームレスが「弟を助けた」と話すのを聞いていた。

事故で弟を失くしていた石ちゃんは「やっと弟を助けたと。ずぶ濡れの弟を引きあげ、お医者さんにみせ、今度は助けたと」話していたのだ。

しかし、事件から2週間後、石ちゃんは肺炎をこじらせてなくなっていた。

石ちゃんが通っていたと思われるコミュニティはガラス工場跡の地下にあった。

琴美シーコとともに地下に降り立った真乃を迎えたのは大鳥というコミュニティの責任者。大鳥真乃に事件当時のことを語った。

しかし、大鳥もすべてを知っているわけではなかった。

”弟”の件は石ちゃんと医師”イシャメン”が二人で秘かに行っていたことだったのだ。

石ちゃんが死んだ後、がガラス工場跡を訪ねてきた。

速人がいる」「みつけた」「海の中じゃない。あいつはここにいる」と泣き喚くを前に、困惑するコミュニティの面々だったが、そんな中イシャメンは書き置きを残して去っていった。

そんなイシャメンから3年前に大鳥のもとへ届いた手紙には真乃へ宛てた小箱が同封されていた。

大鳥から渡された小箱から出てきたのは、速人のミサンガと、速人真乃の愛した花スノーフレークの球根だった。

更に、曾根崎から手渡された速人との交換日記(事件の前日に速人が落としたのを曾根崎が偶々拾っていたのだ。)には、次のように綴られていた。

交換ノートをやめようかと思う。真乃ちゃんにないしょにしていたことがあるんだ。ごめんね。今度会ったときに話す。ほんとうにごめん。あのひみつのかくし場所もやめなきゃならない。でも、真乃ちゃんがゆるしてくれるなら、ノートはまだつづけたいな。それが本心。

もうひとつ、話したいことがある。でもむりかも。むりだったら、ごめん。ああ、ごめんばかりだね。ぼくの好きな人は、真乃ちゃんが好きなんだ。

全てを悟った真乃は、ガラス工場跡に勇麻を呼び出した。

 

どうも登場人物がそれぞれ嘘くさいというか、実体を伴わない印象しか与えません。

主人公の真乃にしてから、速人の事件をあらためて調べるまで、殆ど事件の実像をつかんでおらず、それでいて速人を6年間ずっと(それも多感な中学、高校時代)引きずっているというのは、どうも納得感に乏しい。

勿論、心情面の部分なんで、人それぞれなんでしょうが、勇麻と出会って、漸く事件を調べようと動き出す真乃の心情は奈辺にあるのでしょうか。最終的に明かされる真乃速人の関係性から見ても、特に勇麻を男性として意識しているようには思えませんし・・・。廃工場での一件(勇麻の告白)にしても、読者に速人真乃の関係を誤解させるような効果はありますが、一方で真乃に何か思うところがあったともあまり思えません。

勇麻勇麻で、妙に一途ですよね。でも、ちょっとストーカーじみて怖いかもしれません。

犯罪者のようって、まぁ爆発物送ったりしてるんで、犯罪者には違いないんですが。

田村亨が一番まともそうで、青春小説の登場人物としては適役のようなんですが、殆ど登場しませんでしたね。話自体が妙なミステリ仕立てに傾斜している分、青春小説の色を示すようになる真乃の部分は減らされてしまっているのかもしれません。

全般を通してみると、登場人物に魅力が乏しいことに加え、ストーリーがどうも中途半端で、あまり後味のよい作品ではなかったかもしれません。

大崎梢の作品としてはちょっと残念な作品です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『夏のくじら』 大崎梢

Natsunokujira 2008年、198冊目。大崎梢『夏のくじら』

非常にいい!

高知のよさこい祭を舞台にした話ですが、最初からぐいぐい惹きつけられます。

最後はちょっとページ少ないんじゃないのというくらいの充実度、盛り上がりで、むしろもうちょっと膨らませられるんじゃないのという不満が生じるくらいの一気呵成のエンディングとなっています。

あえて必要なのっていうようなエピソードもありますが、それ以上に楽しさや主人公篤史の思いが良く伝わってきます。

 

守山篤史は父の故郷高知の高知大学に入学する。

「物好き」という父の言葉も顧ず、祖父母の家に突然転がり込んだ篤史を祖父母は手放しで喜んでくれた。

子ども時代から仲の良い同年の従兄弟多郎は今年復活した「よさこい」のチーム鯨井町チームに篤史を誘った。

篤史が「よさこい」を踊ったのは4年前(中学生)のとき一度きりだが、そのときに嫌な思いをさせたのではないかと多郎は気に病んでいたのだ。

執拗に篤史を誘う多郎に根負けした篤史は鯨井町の公民館に顔を出した。リーダーの月島は強引に誘い、仕事も割り振ってくるが、篤史に参加する気は全くなかった。

しかし、そこで出会ったサブリーダー三雲祐司の発した、4年前属したチーム「そら組」の写真を見せてくれるという言葉に篤史の心は揺れた。

早速、三雲の家を訪ねた篤史だったが、探しているのは自分の写真ではなかった。

4年前の「よさこい」で出会った女性”いずみ”。篤史に親しくしてくれながらも、祭りの2日目には何故かいなくなってしまった女性が忘れられないのだ。1日目にいずみが手に入れたメダルは今も篤史の手にあり、彼女と交わした「メダルを交換しよう」との約束はまだ果たされていないのだ。

おまえ、女のために高知に来たがか

突然現れた月島篤史を茶化すとともに、篤史を応援する。三雲も未だ果たされない約束を果たすべきだと篤史の背中を押した。

こうして篤史は鯨井町チームの一員となった。

仮称:鯨井町踊り子隊。

テーマ:飛び出せ、元気くじら

篤史はまずチームのサイト立ち上げを任された。見よう見まねでサイトは無事立ち上がり、管理者として見聞きする内容を篤史はブログに書きとめていった。

衣装は花屋の紺野詩織が担当する。当初は詩織の友人とコンビを組んで始まった衣装づくりだったが、家庭の事情で友人がリタイアするに伴い、多郎が補助についた。

しかし、詩織は迷路に迷い込んでしまい、コンセプトがまとまらない。試作した衣装のチーム内での評価は散々。詩織は落ち込み、自信を喪失するが、これを救ったのは三雲である。篤史を介して詩織を励まし、立ち直らせたのだ。

心の決まった詩織は水色を基調とし、オレンジを配した衣装を作り上げ、メンバーの絶賛を浴びる。

音楽も衣装も決まり、次は踊り(振り付け)だ。

美形だが無口で無愛想なカジ華地ユキタカ)が踊りをしきる。踊りの実力は、プロ、セミプロとも互角のカジが何故、今年復活した鯨井町のチームに参加するのか、誰も知らない。

日ごろの無愛想さとは異なるカジのダンスの華麗さに篤史は呆気にとられる。

鯨井町チームに参加した「よさこい」常連の森綾乃も、「ダンスを極める」ためにカジのいるチームに入ったというように、カジのダンスは極めて評判が高い。

サイトの立ち上げの終わった篤史、衣装も完成した多郎、ダンスの才のある綾乃が抜擢され、一般参加者の指導員となるべく、カジによる特訓がスタートした。

しかし、厳しいカジの指導の中、篤史は上達のテンポの早い多郎綾乃へついていけず、落ちこぼれる。

一般参加者への指導が始まっても、篤史のみそっかす扱いは変わらず、篤史はキレてしまう。カジのバッグを蹴り上げようとした篤史はバッグの中に見たことのある鳴子を発見した。”いずみ”が見せてくれた鳴子と同じものだった。

鳴子に触る篤史を怒鳴りつけるカジに、篤史は鳴子をへし折ろうとしてみせる。しかし、”いずみ”が「宝物」といっていた鳴子を折るわけにはいかない。篤史は鳴子から手を放し、場を歩み去った。

翌日、カジに呼び出され、篤史が車で連れて行かれた先は、カジの実家ともいうべき鳴子の工房だった。篤史は、例の鳴子がカジの父幸司の形見であることを知る。”いずみ”のもっていた鳴子も華地幸司作だったのだ。”いずみ”の鳴子は、13年前、土佐山田にある養護施設「みすみ苑」の子どもたちを中心に作られたチームに配られた鳴子だった。

篤史は”いずみ”という名前だけを頼りに4年前の女性を真剣に探し始める。元「そら組」のスタッフ長津田らを訪ねたりするが、なかなか手掛かりは見つからなかった。

和解がなったような篤史カジだったが、依然、カジ篤史には鳴子を持って踊らせないと仄めかす。

そして、突然、篤史多郎は纏を持って、チームを引っ張る役目に抜擢された。

カジは、纏を振るう大胆で派手な踊りを、スタミナだけはありそうな男ふたりにやらせるつもりなのだ。どこのチームよりも艶やかで優美なトップの踊り子たる自分(カジ)を徹底的に引き立てるために。

準備も整い、刻一刻、本番が近づく中、何かを多郎は思いつめていた。

そして本番、初日の朝。多郎篤史に告げた。

あっちゃん、おれにとって、これが最後のよさこいや。祭りが終わったら、高知から離れる。東京に出るんだ。おれ、夢を追いかける。役者になる

そして「よさこい」は始まった。

 

この作品、勿論、「よさこい祭り」の本番がクライマックスで非常に楽しめるところなんですが、冒頭から引き込まれ、気を逸らさない巧いストーリーになっています。

4年前に出会った女性”いずみ”の正体を追っていくミステリ仕立ての部分もありながら、「よさこい」にのめり込んで行く篤史の感情も非常に共感の持てる臨場感のあるものになっています。

また、初めて知る「よさこい祭り」の背景や実像。非常にため(勉強)になるところも多く見られます。なるほどねぇ、そーなんだと、ちょっと得したような気分にもなります。

ただ、やっぱり「よさこい祭り」の本番部分がもうちょっとあったら、と少し残念な気持ちも残ります。なんというか、祭りのあいだの「まだまだ遊び足りない」といった渇望するような気分に浸されてしまう分だけ、この分量では物足りない気がしてなりません。

最後の最後に篤史井出亜澄歌野亜澄)と巡りあうわけですが、「こんなところで終わってしまうの」と非常に口惜しい気分です。余韻というか、非常に渇いた気分というか、生殺しのような気分でラストを迎えました。

できれば続刊があればなぁ、と思わざるを得ません。

お奨め度:★★★★★

再読推奨:★★★★

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『片耳うさぎ』 大崎梢

Katamimi 2008年、186冊目。大崎梢『片耳うさぎ』

これは書店関係じゃないんですね。

旧家のスキャンダルに係わるライト・ミステリです。主人公が小学6年生ではあるんですが、どうも推理にかかる部分や発想はあまり子どもっぽくありません。

どちらかというと、主題に係る発想や展開をみると、主人公の年齢が高校生くらいということで何らおかしくないような内容です。ちょっと、そのあたりのアンバランスさが気になりましたが、概ね楽しめる内容です。

 

蔵波奈都は小学6年生。父が仕事で失敗し、東京近郊のマンションを引き払い、仲上村にある父の実家へ居候となって、早1カ月。

しかし、実家である蔵波家にはなかなか慣れない。かつての大庄屋でもある蔵波家の実家は「蔵波屋敷」とも呼ばれる巨大なもの。古く巨大な屋敷は化物屋敷とも言われ、奈都は怖くてたまらなかった。

そんな中、祖母の見舞いに実家に帰った母は週末まで帰らないという。(父はシンガポール。)恐怖に慄く奈都に隣の席の一色祐太が紹介したのは、蔵波屋敷に興味津々だという”ねぇちゃん”ことさゆり(中学3年)。

さゆりは蔵波屋敷に泊まることとなった。早速、屋敷の探検に出たいというさゆりに引きずられ、奈都も屋敷のあちこちを見てまわる。

真夜中、納戸に隠された屋根裏へ至る階段を見つけた奈都らは埃だらけの屋根裏に上るが、そこに何者かが潜む気配を感じ、あわてて部屋へ逃げ帰った。

翌日学校から戻ると机の上には昨晩屋根裏で失くしたはずのカーディガンと片耳の切られたうさぎのぬいぐるみが・・・。

うさぎはかつて蔵波家で起こった事件も含め、忌むべきものとされている。近所のみやバァも「うさぎに気をつけろ」と連呼する。

蔵波家で起こった74年以上前の事件。蔵波家の現当主勝彦奈都の祖父)の2代前の当主がその母マツの祝いの席、毒草による食中毒のため死亡した。同じく、婚約披露を迎えた跡取りの長子も死亡していた。

その後、病弱の次子は跡を継がず、末子が当主に就く。

奈都の祖父勝彦の子であったが、勝彦の姉と言われ、実質蔵波屋敷を統べる雪子伯母の養女であった。雪子伯母は事件から数年して養女として引き取られたが、実は死亡した長子と、当時婚約していた水品八重子の娘だった。生後暫くは別のところで育てられたものの、水品家が傾くなかで、蔵波家へ戻されたのだ。

その不自然な養子縁組から雪子の素性は怪しまれたが、見るからに蔵波家の血筋を示す面立ちや、の後援もあって雪子は蔵波家に迎えられたという。外部からの闖入者である「うさぎ」との風評を受けながらも、雪子は耐えて蔵波家で地歩を築いていった。

しかし、この雪子の出生の秘密をスキャンダルとして誰かが狙っているようなのだ。具体的には、八重子蔵波晶に宛てた手紙にそれ(雪子の実父)が書かれているはず。

何者かの魔手が伸びようとしていたとき、屋根裏で祖父勝彦が鬼を目撃して昏倒する。怪我をした勝彦は何をしていたかも告げず、入院する。鬼の正体は奈都の従兄一基だった。雪子伯母に頼まれ、探し物(手紙)をしていたところを勝彦と遭遇したのだという。

手紙は期せずして奈都が入手していた。祖母勝彦の妻)の葬式に列席した際に、夢現の中で奈都が入り込んだ「秘密の部屋」から勝手に持ち出した”うさぎ”のぬいぐるみの中に縫いこまれていたのだ。

鍵は「秘密の部屋」にある。「秘密の部屋」を探す奈都さゆりだったが、なかなか見つかることはない。

そんなとき、「一色さゆりという中学生はいない」とさゆりに不審感を示す従兄の蔵波良彦の言葉に奈都は動揺する。加えて、水品八重子を知るという和菓子屋のご隠居の描いたスケッチには「さゆり」そっくりの顔があった。

なぜ、さゆりが・・・。戸惑いながらも蔵波屋敷へとって返した奈都は蘇った記憶をたよりに「秘密の部屋」へ辿り着いた。そこは若くして亡くなった蔵波潔の部屋だった。

がたがたと上がってくる音に、奈都は窓から屋根瓦の上に降り立った。程なくして、近づいてきた犯人と奈都は対決する。

 

ちょっと主人公達の描写が年不相応という違和感を最後まで抱えてしまいましたが、それを除けばストーリーとしては楽しく読めました。

ただし、一番違和感があったのは「うさぎ」でしょうか。何で「うさぎ」の設定が必要だったんでしょうか。の部屋に”忌むべきもの”である「うさぎ」はどうしてなくちゃいけなかったんでしょうか。少なくとも、「片耳うさぎ」のポジションも曖昧なままでしたし、今回のストーリーでは、「うさぎ」の因縁を何も持ち出さなくても話はすっきり通っていますので、ちょっと蛇足感が漂います。

さゆりの行動力は非常に魅力的なんですが、結局最後は謎を握るキーマンになってしまって、主人公サイドから外れてしまうので、ちょっと期待ハズレです。行動の背景自体もあんまり納得感はないので、最後の最後でさゆりの株を落としてしまったような印象を受けます。

いろいろ違和感や気になるところはありますが、軽く流して読むには、それなりにスピード感もあって楽しめる作品ではないでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『平台がおまちかね』 大崎梢

Hiradai 2008年、181冊目。大崎梢『平台がおまちかね』

今回は書店員が主人公ではなく、出版社営業マンが主人公となる話で「出版社営業・井辻智紀の業務日誌」シリーズ第1弾!だそうです。

駆け出しの出版社営業マン井辻の成長と軽い推理を楽しむミステリ作品ですが、「成風堂書店シリーズ」では、語り部(木下杏子)と名探偵役(西巻多絵)を別人が演じるのに対して、この作品では語り部である井辻智紀が語り部であり、名探偵役(?)でもあります。

脇役には、明林書房編集の秋山、上司秋沢、「マドンナ(ハセジマ書店の望月みなみ)を見守る会」の面々。(井辻を”ひつじ”呼ばわりする佐伯書店の営業真柴司、大手出版社営業の”太川”こと細川、”海坊主”・”海さん”こと海道、そして岩淵。)非常に多くの登場人物が個性豊かに描かれます。

 

平台がおまちかね

井辻智紀は明林書房、入社2年目の営業。一人だちして、4カ月。

明林書房は老舗ながらもかろうじて中くらい程度といえる程度の出版社(全社員でも40人弱)で、中規模の書店では平台に並べてもらうのも難しい。

ところが1冊の本『白鳥の岸辺』がやけに売れている書店がある。

ワタヌキ書店ではイベント台に『白鳥の岸辺』のみが何十冊と積み重ねられている。大きな手書き看板も掲げられ、小さなポップがところどころに立っているのだ。

店を訪ねた井辻は、衝撃を受けて店長に挨拶し、礼を言うが、店長は前任者のことを尋ねたきり、井辻を無視する。

悪いが、帰ってくれないか

 

マドンナの憂鬱な棚

駅ビルの書店内で話をする井辻と佐伯書店営業の真柴のもとにかけつけたのは大手出版社営業の細川である。彼らが属する「マドンナを見守る会」のマドンナであるハセジマ書店の望月みなみがいわれなき誹謗中傷を受けたというのだ。

細川の涙ながらの話を聞き、ハセジマ書店に向かった井辻真柴は、負のオーラを出し、打ちのめされたように平台の本を乱雑に棚に詰め込む望月を見つける。

急遽、居酒屋でマドンナショックの対策会が持たれた。メンバーは井辻真柴細川のほか、大手出版社営業の海道岩淵だ。

情報を持ち寄ると、「つまらない」「前の方がよかった」「がっかり」「センスがない」と言った男がいるというのだ。

 

贈呈式で会いましょう

明林書房の主催する宝力宝賞の贈呈式。

井辻に声をかけた縦縞スーツ、アスコットタイに杖をついた老人は受賞者である塩原健夫への伝言を依頼する。

君もずいぶん大胆な手を使うようになったじゃないか

伝言を伝えようとした井辻だったが、控え室では編集の吉野がため息をついていた。塩原が行方不明になっていたのだ。

そんなところへ真柴から電話が。

あのさ、ぼくはついに、仕事のしすぎで幻覚が見えるようになったらしいんだ。目の前に君んとこの大賞受賞者、塩原さんだっけ、彼がいるんだよね

 

絵本の神さま

引継ぎから半年がたち近場の書店に顔を出し終えた井辻は初めての東北出張に向かった。

ユキムラ書店は小さいながらも経営者(雪村孝治)が本好きという書店。児童書中心にせっせと書棚をいじっていると聞き、会えるのを楽しみにやってきたのだが、井辻を待っていたのは一枚の張り紙だけだった。

長らくのご愛顧、まことにありがとうございました

となりの蕎麦屋の主人に話をきくと、後継ぎもなく、ひと月程前に店を閉めたのだという。

そんなユキムラ書店に、昨夜は東京から来たとおぼしき男が『週刊ライト』を抱え、シャッター前で立ち尽くしていた。気になった井辻は『週刊ライト』を買ってみるが、特に思い当たる節はない。

「のんたん、ばばーる、じょーじ、はりー」駅ビルの階段で耳にした少女(ほのか)の歌う台詞を紹介した井辻に、駅ビル内の小松堂書店の書店員は4つのキャラクターがユキムラ書店の看板と同じであることを示唆する。

小松堂書店に顔をみせたほのかの母に尋ねるが、ユキムラ書店のことは知らないという。しかし、ほのかに絵を描いてくれた男がいたというのだ。

達者な絵が描かれていたのは佐伯書店の未使用の封筒だった。

 

ときめきのポップスター

某大型書店で企画された、他社の本を紹介するポップを競う「ポップ販促コンテスト」”輝け!ポップスターコンテスト”。

文庫を出している出版社で、その店を担当している営業マンに参加資格がある。エントリーしたのち、自社本1冊、他社本1冊、プッシュする本をそれぞれ選び、各自でポップを製作。平台に並べ、売り上げ数を競うというものだ。数を競うのは他社本。

井辻真柴細川岩淵海道を含め、10社(10名)の参加となったポプコンの推薦図書は以下のとおり。

『忘れ雪』 新堂冬樹 [角川文庫]

『青葉繁れる』 井上ひさし [文春文庫]

『カレーライフ』 竹内真 [集英社文庫]

『ライオンハート』 恩田陸 [新潮文庫]

『柳生非情剣』 隆慶一郎 [講談社文庫]

『母』 三浦綾子 [角川文庫] (岩淵推薦)

『旅のラゴス』 筒井康隆 [新潮文庫] (海道推薦)

『サンタクロースのせいにしよう』 若竹七海 [集英社文庫] (細川推薦)

『ななつのこ』 加納朋子 [創元推理文庫] (真柴司推薦)

『幻の特装本』 ジョン・ダニング [ハヤカワ・ミステリ文庫] (井辻智紀推薦)

始まったポプコンだったが、平台の陳列順が時折変化する。

しかし、その移動には何らかの意図が感じられた。佐伯書店の自社本『月光バイパス』(影平紀真著)の場所が移動するのだ。そして、その積み重ねられた『月光バイパス』の中ほどに『ななつのこ』が挟まるという特徴が共通する。

しかし、真柴にも思い当たる節はないという。

 

主人公の井辻は茫洋とした態度のなかで、彼らの発言を汲み取って、推理するわけで、営業マンなのに、あんまり能動的な設定ではありません。何せ趣味が自身の耽溺する本の舞台・場面のジオラマを作ることというんですから・・・。一歩間違えば、オタクと呼ばれても何らおかしくありません。

脇役のなかで存在感のあるのはやはり真柴でしょう。別に井辻に教訓をあたえるわけでもなく、非常に軽いだけの存在なんですが、真柴が出てくるだけで場が明るくなる雰囲気があります。その分、真柴にスポットのあたった「ときめきのポップスター」はちょっと控えめな印象になってしまっていますので、真価が発揮されないというか、異質な感じが否めませんでした。同作は確かに面白かったんですけどね。

贈呈式で会いましょう」は井辻が飛び回るというスピード感のある作品で、他作とは一風変わって、これも楽しめました。贈呈式のタイムスケジュールと謎の解明という時間制限のある謎解きって、なかなかハラハラしますから。津波沢陵も、茶目っ気、存在感たっぷりでいいですね。

ときめきのポップスター」は作者の推薦本を巧く配してあるんでしょうが、未だ読んだことのない作品が多々あります。一つの作品としても、新たな図書の推奨という面でも有益な作品です。確かに、読んだことのある作品は非情に面白かった印象のある作品ばかりですから、他の作品もこれから読んでみたいと思います。まだまだ、面白い本って、数多くあるっていうことですよね。

さて、「ときめきのポップスター」では謎の背景に、成風堂の多絵の姿が見え隠れします。井辻杏子多絵の間で、いずれ共演の叶うときが来るのでしょう。勿論、マドンナを見守る会の面々がどんな反応をするのかも興味津々です。

次回作(第2弾)が待ち遠しい。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★☆☆

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『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』 大崎梢

Signkai 2008年、164冊目。大崎梢成風堂書店シリーズ第3弾『サイン会はいかが?』

また、短編集に戻りました。今回の作品は5つの短編で構成されます。長編よりも持ち味が出ている感じはありましたが、『配達あかずきん』に比べると、ちょっと小粒でしょうか。

杏子多絵は相変わらず魅力的に描かれますが、今回の作品では他のキャラクターがあまりパッとしないので、作品全体の印象が薄くなっています。

 

取り寄せトラップ

古い美術全集の中の一冊(『現代日本美術全集 2』)の取り寄せを受けた成風堂。同時に同じ本を4人もが・・・。

しかし、成風堂が連絡をすると4人(土屋雄一谷康宏小林登喜夫和田雅文)とも身に覚えがないという。

そんなところへ、またしても4人名義で取り寄せ(『転落の歴史に何を見るか』)の依頼が寄せられるが、これも4人に確認すると、答えは同じだった。

誰が、何のために?

暫くして、成風堂に現れた若い女性岡本詩織は1年前に事故で亡くなった祖父の遺産(掛け軸)に何かしら関係があるのではないかと杏子に告げる。

 

君と語る永遠

社会科の校外学習で成風堂を訪れる中池小学校の小学生。

杏子の働く様をみて熱心に質問を投げかける小柄な男の子、千葉広希

高い棚のうえの不安定な広辞苑を引き抜こうとする広希をみた杏子は慌てて駆け寄るが、時既に遅し。落下する広辞苑は広希を庇った杏子の頭上に落下する。

以来、成風堂に出入りするようになった広希だったが、友人と諍いを起こした広希に「女児連れ去り」の犯人の疑いがかかる。

成風堂を訪ねてきた担任教師川添に、多絵は犯人を今から言い当てるという。

 

バイト金森くんの告白

ぼくは、成風堂で、恋をしました-

居酒屋「はる花屋」での飲み会で、アルバイト学生(大学1年)の金森は高校時代のエピソードを語った。

探していた本を差し出した女子高生に人目惚れをした金森は、成風堂で何度も会ううちに、言葉も交わすようになっていく。

しかし、バレンタインデーを前にして、友人と料理書のコーナーの前で話しこむ彼女らの会話から、金森彼女につきあっている相手がいることを知ってしまう。

バレンタインデーから3週間くらい経った頃、成風堂で出会った彼女金森にプレゼントを差し出す。「よかったらどうぞ」と。

しかし、プレゼントは雑誌の付録のフォトファイルだった。

 

サイン会はいかが?

取次ぎの担当者藤永の言葉に店長が乗り気になる。

人気のミステリ作家影平紀真のサイン会だ。成風堂の規模でサイン会などまわってこないはずだが、今回はいわくがあった。

影平のもとへ暗号のようなファンレターを送ってくる読者”レッドリーフ”。この謎の読者が誰なのか、みごと解き明かしてくれる店員のいる書店でサイン会を開きたいと言い出したのだ。

多絵のことを念頭において自信満々の店長はサイン会開催へ名乗りを上げたのだ。

暗号をあっさり解いた多絵杏子に告げた。「杏子さん、まずいですよ。サイン会、やらない方がいいです

暗号はファンレターではなかった。「ただですむとおもうな。しね。

悪意のこめられたメッセージであることは影平も気付いていた。それでも、影平は今回こそ”レッドリーフ”を捕まえたいと思っていたのだ。

 

ヤギさんの忘れもの

常連客蔵本宗治は久しぶりに訪れた成風堂で落胆していた。蔵本と親しくしていたパート勤務の主婦名取が成風堂を辞め、青森に転居してしまっていたからだ。

帰宅した蔵本から電話が入る。成風堂に封筒入りの写真を忘れたかもしれないというのだ。

多絵は売り場で童謡を聴いたという。

白ヤギさんからお手紙ついた、黒ヤギさんたら読まずに食べた。仕方がないので・・・

 

純粋なミステリとしては、ちょっと弱い(特に「ヤギさんの忘れもの」はミステリではないですね。)。

5作の中では表題作の「サイン会はいかが」が(相対的に長いので)印象に残りますが、謎の部分にせよ、キャラクターの造形の部分にせよ、薄味です。

一番ミステリっぽいのは「取り寄せトラップ」。

君と語る永遠」はちょっと”いい話”にしあげようという感じが見られます。少年の成長譚というには書き込み不足だったり、不必要ともいえる「女児連れ去り事件」の挿話があったりと、もう一歩という感じでしたが。

バイト金森くんの告白」。これは最初っから結末がわかるような話で安心感はありますが、ミステリとしてはどうでしょうか。

ヤギさんの忘れもの」は、中身があまりありません。何となく字数(ページ数)をつかいましたという、あってもなくても良い作品です。

全体を通してみれば、悪くはないのですが、当初の期待からすると、ちょっと期待はずれだったかもしれません。

次回作ではもうちょっとキャラクターの生きた作品となることを祈ります。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』 大崎梢

Bankani 2008年、163冊目。大崎梢成風堂書店シリーズ第2弾『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』

書店の出張というのも変な感じですが、第2弾にして、もう成風堂書店から飛び出してしまいました。

また、前作と異なり、今回は長編。加えて、ミステリのターゲットが殺人事件ということで、なんだかんだと前作とは趣きの違う作品になりました。

勿論、主役となる二人(語り部)木下杏子と(名探偵)西巻多絵の図式やノリは変わりがありませんが、ちょっと前作と比べると、中身が薄いかな、という印象が拭えません。

下手に”ミステリらしさ”に力点をおくあまり、キャラクタの魅力を若干殺してしまったような感はあります。

 

杏子に一通の封書が届いた。差出人は2年前まで成風堂の同僚であった「有田美保」。

現在は信州の老舗書店宇津木堂書店(通称:まるう堂)に勤めている美保からの手紙は、書店に出没する幽霊の話。副店長、店長と続けざまに幽霊を見たあと、美保まで幽霊を目撃したのだ。

杏子から多絵の噂を聞いていた美保は8月の休日に、多絵を連れてまるう堂に来るよう求めたのだ。

あまりの話にどっと疲れる杏子だったが、意外にも多絵はこの話に興味を示す。老舗書店の見学にも惹かれた杏子は、多絵とともに8月下旬の休日に高原行きの電車に乗り込んだ。

降り立った久住駅では「歓迎 成風堂書店 名探偵ご一同さま ようこそ まるう堂へ」の横断幕と幼稚園児たちの小旗でのお出迎えだった。

まるう堂存続の危機」と息巻く美保の案内で、杏子多絵は関係者からの聴取を始めた。

関係者・・・。

幽霊は27年前に起こった作家嘉多山成治殺人事件の犯人と目された書生小松秋郎であるとの噂がまことしやかに流れていたのだ。

即ち、その殺人事件の関係者らに話を聞こうという美保に連れられ、小松秋郎の人となりを聞いてまわる3人。

嘉多山とも小松とも親交の深かったまるう堂二代目店主宇津木正也(70)を皮切りに、その息子朋彦嘉多山の屋敷を引き継いだ甥久継嘉多山と結婚話のあった壱橋亜矢子

壱橋亜矢子は、小松の元恋人とも言われており、小松嘉多山殺害の動機とも言われていた。

住み込みのお手伝い根本佳江嘉多山邸に住み込んでいた書生で現在は公立あけぼの中学の教頭を務める野沢裕一と、短期間に次々と事情聴取を続ける杏子多絵

しかし、彼らの語る小松秋郎像は一定ではなかった。嘉多山邸で浮き上がったような存在でありながら、一面、他者への思いやりもある、非常に多面的な表情をみせる男、それが小松であったようだ。

”名探偵”に期待を寄せる美保らは、当時事件を担当した刑事(現在は長野県警の警部)加藤浩伸も呼び寄せるなど協力を惜しまない。

事件当時から容疑者「小松秋郎」は異質であったと加藤は語る。

嘉多山死亡の現場に立ち尽くし、殺害を否認することもなかった小松は犯人として起訴され獄中で病死したが、加藤は釈然としないものを27年間抱えてきたのだ。

加えて、もう一つ謎があった。嘉多山死亡の部屋から盗まれた原稿だ。警察は、事件直後から関係者の荷物の調査も行ったが、見つからずにいたのだ。

なかなか有効な証言を得られない中、美保杏子も焦るが、多絵はいたってマイペース。持参したスケッチブックに怪しげな絵を描いたり、謎のコメントを書き留める。

事件解明をせかす杏子美保に、多絵は徐に告げた。

加藤警部に連絡を取ってください。この三日間、私たちがまわった当時の関係者を、ひとところに集めてほしいんです

 

愉快な等身大のキャラクターとしては、杏子美保がちょっと被り気味ですね。成風堂から出てしまっているので、杏子の(趣味、嗜好は別にして)「書店員」と設定があまりうまく生かせていないところが、ちょっとマイナスかもしれません。

強いて言えば、今回の杏子は「書店巡りという変わった趣味を持つ、能天気な女子大生」といったイメージになってしまっています。

多絵は相変わらずの不器用さが何箇所か出てきますし、謎のコメントなどもユーモラスでいいんですが、今回は推理の部分で発想が飛びすぎで、「ちょっとご愛嬌」と見過ごすことができないほど不自然さとして見うけられます。

殆ど結果オーライという感じで、冤罪事件すら起こしてしまいそうな強引さが、ちょっとついていけない感じです。犯人の(犯行の自供にも結びつく)動作についても、あまりにも不自然で、ちょっと興ざめです。

次作は短編とのことなので、そこでの密度の濃い、「杏子多絵」の活躍に期待しましょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』 大崎梢

Haitatsuakazukin 2008年、162冊目。大崎梢成風堂書店シリーズ第1弾『配達あかずきん』

書店を舞台にした軽いミステリですが、非常に面白かった。雰囲気は近藤史恵の『タルト・タタンの夢』に似ています。

書店に持ち込まれたお話、疑問、不思議を書店員+アルバイトが説いていくという趣向です。勿論、殺人事件もなく、(第1話「パンダは囁く」はちょっとシビアですが)殺伐としたものからは遠い、安心して読める作品になっており、中学生くらいからの読者にもお奨めできるような内容です。

5つの短編、連作となっていますが、駅ビル6階にある本屋、成風堂に持ち込まれる、疑問、照会を、概ね、語り部となる木下杏子と3つ下のアルバイト女子大生多絵のコンビ(というよりも基本的には多絵)が解決するという展開で話が構成されます。

 

パンダは囁く

お客の探す本をうまく言い当てる杏子をみていた西岡は、自身の知人から頼まれた本を探して欲しいと杏子に依頼する。

西岡の知人であるお年寄り清水は寝たきりで、西岡に本の差し入れを依頼したのだが、若干惚けの症状も出てきて言葉も不自由だった。

言葉の不自由な清水の依頼ということもあって、聞き取ったメモが全く意味をなさないのだ。

そこで杏子に白羽の矢が立った。メモには

「あのじゅうさにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」

とあった。出版社だけははっきりと聞き取れたそうだが、それは「パンダ」というものだった。

 

標野にて 君が袖振る

常連客沢松の娘喜多川理沙杏子に尋ねた。沢松が先週の木曜日に何を買ったのか教えて欲しいというのだ。

沢松が先週から行方不明になっており、失踪に先週買った本が関係しているのではないかという。

買った本のことは多絵が知っていた。

多絵と雑談をしていた沢松は女子高生の話す漫画の話題を聞いて、その話題の漫画を買い求めたというのだ。タイトルは『あさきゆめみし』。源氏物語を漫画化した作品だ。

 

配達あかずきん

美容院「ノエル」は苦境にあった。

常連客がパーマをかける最中に開いた月刊誌から、当の常連客の着替えを盗撮した写真と、「ブタはブタ」という殴り書きが出てきたのだ。激昂する客は店の責任を言い連ねた。

その月刊誌は成風堂が届けた『彩苑』。杏子の気も重かった。

配達業務は早番が曜日ごとに受け持っているが、その日は吉川博美が担当だった。

今日も配達にいっている博美が駅の階段から落ちたとの連絡が。

 

六冊目のメッセージ

入院中に母親から差し入れられた本の選択のお礼に成風堂を訪ねてきた客河田菜穂子

男性の書店員が選択したというのだが、それは一風変わった選択だった。

1冊目『宙の旅』 林完次著 小学館

2冊目『散策ひと里の花』 河合雅雄エッセイ、長谷川哲生ボタニカルアート 講談社

3冊目『ダヤンのスケッチ教室』 池田あきこ著 MPC

4冊目『民子』 浅田次郎著

5冊目『夏への扉』 ロバート・A・ハインライン 早川文庫

この選択は成風堂に所属する書店員では無理だろう。

菜穂子を見送った杏子は聞いて回るが、やはり5冊の本を紹介したのは成風堂の男性書店員ではなかった。

 

ディスプレイ・リプレイ

アルバイトの大学生角倉夕紀がディスプレイコンテストに参加したいという。将来は広告業界が志望という夕紀の熱意を受け、杏子は店長の承諾を得て許可を出す。

今回のコンテストは杏子の担当するコミック部門で、対象は超人気コミック『トロピカル』だ。

夕紀の大学の友人渡辺沙弥加佐野佳彦の協力を得て、成風堂のコミックコーナー前に、超人気コミックの華々しい特設台ができあがった。

顧客の評判も上々だったのだが、その翌朝、ディスプレイは黒いスプレーでめちゃめちゃにされていた。

 

名探偵役の多絵については、発想が飛んで結論に至るところはちょっと安直感はなきにしもあらずですが、そこを「勘がいい」の一言で済ませるところはご愛嬌でしょう。その安直さを除けば、推理力に長けた名探偵の資質をもっているように見える多絵ですが、「不器用」、読書をあまりしないという欠点(?)を持っていることで、全体の話から乖離しない等身大のキャラクターとして魅力をもっています。

加えて、語り部杏子も、「典型的な書店員」といった風情で、書店での業務の紹介をするかたわら、前向きに顧客に親身に向き合う姿勢に好感を持ちます。

その他のキャラクターもそれぞれ、(ほんのわずかの登場でも)何かしらの(悪くない)印象を与えるなど、キャラクターの描写が非常に巧妙です。

特に、表題作となった「配達あかずきん」に登場する吉川博美がいい。若干天然系の美女が巻き起こす発言、事件の数々。微笑ましい感じで読ませます。

自作以降も、こういった魅力的なキャラクターの登場する作品であることを祈ります。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★★

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