著者別(い)伊坂幸太郎

『あるキング』 伊坂幸太郎

Aruking 2009年、108冊目。伊坂幸太郎『あるキング』

一人の天才(異能)バッターの神話といったような話。

野球が題材だから面白そうと考えるなら裏切られる。

試合がどうこうというよりも、打てばホームランというようなバッターの話が面白いはずもありません。通常の野球を題材とした小説では、試合での挫折等が用意されるのでしょうが、この作品では主人公が異能のバッターであるため、野球そのものでの挫折がありません。そのため、起伏をつけるべく、外的な要因で野球から離れさせるだとか、悪意がとりまくだとか、非常に面倒くさい話になっています。

野球の痛快さを求める人には向かない作品でしょう。

 

セ・リーグで万年最下位の仙醍キングスの熱狂的ファン山田亮桐子夫妻に子どもが生まれたのは仙醍キングスの英雄南雲慎平太監督の引退試合の日。

既に順位も確定し、南雲に花道を飾らせるものと思われた試合だったが、仙醍キングスは東郷ジャイアンツの前に14点差もの惨敗を喫する。加えて、ファウルボールを避けた南雲は転んだ拍子にベンチの端に頭を打ったことをきっかけに死亡してしまう。

そんな無惨な試合のなか、山田亮桐子夫妻の間に生まれた男の子は王求と名付けられた。

両親は王求が将来仙醍キングスで活躍することを夢見て(予見・確信して)、王求を支援する。

また、王求もそれが当然であるかのように野球に打ち込み、その才能を開花させていく。

10歳のときには全てホームランとしてしまう王求のバットの前に、対戦チームは敬遠を余儀なくされる。両親は敬遠を避けるために相手チームに金を支払う始末だった。

王求はチームへ野球指導にやってきた東郷ジャイアンツのピッチャー鈴木卓の本気の球さえホームランしてしまう。

しかし、王求の前の道は平坦なものではなかった。仙醍東第五中学に入学した王求は3年生森久信に目をつけられ、その暴力に見舞われる。これに気づいた父を諌めるべくの家まで赴いたものの、勢いあまって殺してしまう。(秘かに埋められたは行方不明扱いとなる。)

高校に入って間もなく、殺害の事実が発覚する。このことで王求は高校中退を余儀なくされるとともに、世間からも「殺人犯の息子」として非難の目を向けられることとなってしまう。

そんな王求の前に仙醍キングスへの道は閉ざされたはずであったが、中学時代の友人乃木洋の偽名でプロテストを受けた王求は当然のように合格してしまう。間もなく素性が発覚した王求の入団は取り消しとなるところであったが、偶然プロテストを覗きにきていたオーナー服部勘太郎は「面白い」の一言で王求を入団させるのだった。

王求の実力は本物だった。プロ野球でも王求はホームラン記録も次々と塗り替え、打率も6割・7割は当然という非常識な数値をたたき出す。

私はあまり認めたくない

生真面目な性格の仙醍キングス監督駒込良和は、いくら才能やセンスに恵まれていても、殺人犯の息子をプロ野球選手として育成することに抵抗を覚えていたのだ。

あからさまに王求へのいやがらせを行う駒込だったが、それで腐る王求でもなかった。

王求に逆恨みする男からの投書に少しずつ洗脳されていった駒込にとって、王求は許せない存在だった。

王求23歳の最終戦。試合途中、駒込の意を受けた打撃コーチは刃物で王求の腹を刺す。

そして王求は9回裏ツーアウトの最後のバッターボックスに立った。

 

出だしの平凡な熱狂的な野球(仙醍キングス)ファンの出産から始まった話が、なぜか神話(王=神)のような話になってしまうことに違和感を感じないではありません。

なぜ、王求が天才バッターであるのか、といった解説は全くなし。

オカルト的な何かとも言えないものの、南雲慎平太の幽霊や謎の3人の女性等、奇妙な登場人物が出ることで、不思議な雰囲気をかもし出しています。

そういう意味でも、無理に理屈をつめるというよりも、その不思議な出来事も素直にそのままに受け取って、純粋に事象自体をみる作品であり、神話なんでしょう。

作者としては高尚な作品を書いて、何がしかの賞を狙ったのかもしれませんが、小説の面白さとしてはどうでしょうか。あまり面白いとは思えない作品でした。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂幸太郎

Ahiru 2008年、154冊目。伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』

まぁ、わからなく(解釈できなく)はないけれど、特にタイトルに意味はありません。

『陽気なギャングが地球を回す』響野祥子の甥、椎名が語り部として登場します。椎名も話には噛んではくるんですが、むしろペットショップの店長麗子が語ったように、2年前に終わった「三人の物語」のその終わりに巻き込まれているだけという感があります。

本論である「三人の物語」だけ辿れば、かなり殺伐とした物語ですが、これを知らない椎名が暢気に首を突っ込むことで、若干救われたような感じではあります。しかし、いずれにせよ愉快な話では全くありません。



大学に入学し、アパートに引っ越してきた椎名は隣室の青年河崎から、いきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけられる。標的は、一冊の「広辞苑」。同じアパートの101号室に住むブータンからの留学生に贈るためだ。

手伝うつもりはなかったはずの椎名だったが、河崎の勢いに流され、本屋の裏口を見張る役目を知らず、務めていた。

事件後も平然と振る舞う河崎の姿に、椎名も日常生活を取り戻していったが、不可思議なことがいくつか発生する。夜中に河崎が車でどこかへ出かけていったり、なぜか椎名の部屋の教科書が消えてなくなったり・・・。

そんなとき、大学で出会ったのは、河崎が「信用するな」と言っていたペットショップの店長麗子

椎名の周りで起こる不思議な出来事や、同じアパートに住む河崎や(見たことのない)ブータンからの留学生の話を聞くうち、麗子の目には不信の色が浮かぶ。

アパートに帰った椎名河崎に問い質す。河崎が語ったのは、2年前の河崎たち3人の物語だった。



そして、河崎とブータンからの留学生キンレィ・ドルジドルジと同棲中の琴美の物語。

ペットショップ(店長:麗子)に勤める琴美は同棲しているドルジとともに、ペットショップからいなくなった黒い柴犬を探すうち、世間を騒がしている”ペット殺し”の犯人(男2人、女1人)に遭遇する。ペット殺しに飽きた彼らは琴美を拉致しようとするが、ドルジが撃退する。

しかし、走って逃げる途中、琴美はパスケースを落とす。

琴美ちゃん、待ってろよな」パスケースを拾ったのは琴美の懸念通り、”ペット殺し”の男たち。

アパートに帰る途中、琴美”ペット殺し”の男たちに捕まる。そこへ助けに現れたのはシェパードを連れた河崎ドルジ琴美の警護を頼まれてやってきたのだ。

河崎はかつて琴美の恋人だった。しかし、「こう見えても、俺はさ、ベッドで女を幸せにすることに関しては、自信がある」をスローガンにする浮気性の河崎琴美は許せず、琴美は早々に河崎とは別れていた。以来、琴美河崎を毛嫌いしていたが、ドルジ河崎を「日本語の先生」として親しく感じていたのだ。

最近、琴美の周りに姿を現すことの多かった河崎だが、河崎はHIVに感染していた。付き合った女性たちにうつしたかもしれないという罪悪感を覚える河崎は、恋人となりながらもセックスに至らなかった琴美に安心感を感じていたのだ。

ドルジ琴美に警察に届け出るよう勧めるが、琴美は自身で”ペット殺し”たちを発見し、警察に突き出すのだと意地を張る。

”ペット殺し”犯人たちの行きつけのファーストフード店で、琴美ドルジは犯人たちを発見するが・・・。



現在と2年前が交互に語られる一方で、共通する登場人物は「河崎」だけ。他の2人は登場してこないことから、なんとなく、不安感を煽るというか、緊迫感が盛り上がっていきます。

ただ、一方で、2年前の琴美の態度が若干理解しにくいものがあります。なぜ、あそこまで頑なに警察を拒むのか、ちょっと理解に苦しみます。例えば、琴美には警察に知られたくない秘密があったとか、警察に酷い目に合わされた過去があるといった理由があるのならまだしも、なぜあそこまで警察にも、誰にも相談しないのか?そういう意味では、襲われたのは自業自得に近いような気さえします。

この琴美のつっぱりがなければ、この作品の話自体が成立しないわけですが、その原因がどうも釈然としないために、全体が嘘くさい感じがしてなりません。ちょっと、そこが辛いですね。

また、気になるのは、やはり書き込みすぎというところでしょうか。無駄な描写がとにかく多い。伏線かと思いきや、全く何の意味もなかったりするので、とにかく読むのが疲れますし、時間もかかります。もうちょっとシンプルにしたほうが、読みやすいのですが・・・。

椎名子の甥という設定でしたが、特に意味はありませんでした。今後の作品の中でリンクしてくることもあるのでしょうか。

少なくとも、椎名は単なる能天気な学生というだけで、存在感は極めて希薄でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎

Goldenslumber 2008年、152冊目。伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

”巧妙”といった印象をもった作品です。2008年本屋大賞はダテじゃなかったというところでしょうか。勿論、人によって好き好きは分かれるでしょうが・・・。

仙台で起こった首相暗殺事件になぜか犯人と名指された一介の元宅配業者が逃走に次ぐ逃走を図るお話。聞く耳を持たず、なぜか無機質に容疑者を追い詰めようとする警察の姿勢が恐怖感・緊迫感を煽ります。



宮城県出身の新首相金田貞義(50)の仙台での凱旋パレード。

東二番丁通りを紙吹雪の中、オープンカーで進む金田の頭上、突如飛来したラジコンヘリコプターが爆発する。金田首相とその夫人は即死。沿道でも十数名の怪我人が出る。

仙台市を封鎖した警察は翌朝、容疑者として元宅配便ドライバー青柳雅春を公表する。青柳は2年前、アイドル歌手凛香が暴漢に襲われていたのを助け、一時は「時の人」ともなった有名人である。

既に宅配業者も辞めた彼の痴漢事件やラジコンヘリコプターを買った映像やラジコンの練習風景などが明らかにされ、人々の心象風景に次々と状況証拠が積み重ねられ、もはや疑いようもない事実として青柳の包囲網は狭まっていった。

一方で、学生時代のサークル”青少年食文化研究会”の仲間であり、恋人でもあった樋口晴子は、青柳の性格や証拠とされる各証言に違和感を感じていた。



遡って、事件の当日、青柳雅春は高校時代のサークルの友人森田森吾から呼び出されていた。金田首相爆殺の時刻、車に乗せて青柳を連れ出した森田は告白した。

お前は陥れられている。今も、その最中だ

森田によれば、痴漢未遂も含めて青柳の周囲でいくつかのことが仕組まれており、森田も家族の借金を棒引きにするという条件で青柳を連れ出したのだという。森田の推測では金田首相が暗殺されたときに青柳を犯人に仕立て上げる準備がされているのではないかというのだ。即ち、ケネディ大統領暗殺の容疑者であるオズワルドのように、青柳金田首相暗殺の犯人として名指しされ、消される可能性があると。その証拠に彼らの乗っている車の下に爆弾が仕掛けられているという。

おまえは逃げるしかねえってことだ。いいか、青柳、逃げろよ。無様な姿を晒してもいいから、とにかく逃げて、生きろ。人間、生きててなんぼだ

逃げる青柳を追う警察は容赦がない。いきなり発砲するなど普通ではなく、森田の言葉を裏付ける。

サークルの後輩小野一夫カズ)を頼る青柳だったが、そこにも警察の手は伸びていた。かつて仙台で発生した連続刺殺事件の対策として市内に設置された「セキュリティポッド」が携帯電話の内容や、セキュリティポッド周辺の音声、映像を入手し、市民を監視していたのだ。

ショットガンを構える大男小鳩沢に射すくめられた青柳は逮捕され、東京へ護送される車のなか警察庁警備局総合情報課課長補佐佐々木一太郎に追い詰められ、観念する。

しかし、突然、青柳の乗る車に衝突する軽乗用車があった。青柳を助けたのは三浦と名乗る小柄な青年。三浦は未解決となった連続刺殺事件の犯人”キルオ”だった。ジャマをする小鳩沢を見つけた三浦は、(青柳を助けるためでなく)小鳩沢を襲うために車をぶつけたのだ。

ひょんなことから青柳を助けることになり、興ののった三浦青柳に潜伏場所を提供するとともに、青柳犯行の証拠を作っているはずの偽者を探すことを提案した。偽者を探した三浦だったが、探し出した潜伏場所は罠だった。待ち構えていた警察官を刺殺したものの自身も銃弾を受け、死亡する。

逃げ続ける青柳だったが、一方で逃げ続けることの難しさ、そして偽者が身代わりとして殺害されることへの嫌悪感もあり、(射殺されることを避けるべく)マスコミなどの見守るなかでの投降を選んだ。投降する過程で、マスコミへ携帯電話で真相を告白し、青柳犯人説を創作する巨大な力へ対抗しようとしたのだ。

三浦の死亡した病院で知り合った保土ヶ谷康志樋口晴子らの協力もあって、模造マンホールを使った雨水管の移動で仙台中央公園に到着した青柳だったが、テレビ局へ電話が突然途絶する。警察によって、携帯電話が止められたのだ。

麻酔銃を構える警察を前に危機一髪。中央公園にかけつけた晴子は、最悪の場合に備えておいた計画を発動する。



構成が若干ややこしいところがあるので、ちょっと戸惑うこともあります。本論である第4章「事件」第5章「事件から三ヶ月後」が時系列とおりになっており、ボリュームでも全体の大半を占めているので、何とか理解も進みましたが、第3章に至る過程では、「この話って一体どこに向かっているんだろう」という不安を非常に感じました。

第3章「事件から二十年後」は第4章、第5章を読み終えて、再度読み返してみて、初めてなるほどなぁという感じを受けます。いってみれば、後日譚が事件詳細よりも先に提示されていることが非常に違和感を感じさせる原因なんでしょう。

第1章は第4章のなかに包含されているほうが落ち着きはいいでしょうし、第2章にいたっては必要だったんでしょうか。さも主要人物のように語り部として登場した田中徹や存在感を示す生意気な中学生も、それ以後さっぱり登場しなくなりますから・・・。保土ヶ谷康志にしたところで、第4章で初めて登場したということでも全く違和感はありません。

そういう意味では、第1章、第4章、第5章、第3章という順で読んで、第2章は読まないという読み方が、一番スッキリした読み方ではないのかなぁ、と読了して思う次第。

登場人物たちも、仮想敵である佐々木一太郎近藤守小鳩沢をはじめとした警察側(児島安雄を除く)が無機質であるのと対象的に、樋口晴子七美親子や”キルオ”こと三浦など生きいきと表現され、魅力的に描かれます。脇役である保土ヶ谷康志轟社長岩崎英二郎なども良い味が出ています。

やっぱり秀逸だったのは第5章「事件から三ヶ月後」で示された後日譚でしょう。青柳の茶目っ気、樋口の機転。これがラストにくるわけですから、読み終わって後味も非常に良いものになりました。

そういう意味では情報として第3章は入れたかったけれど、時系列に並べると、ラストが無味乾燥なものになってしまうので、第5章を効果的に活かすことを考えて、この順番にしたという苦肉の策が、この作品の並び順ということだったのかもしれませんね。

若干、細々と書き込み過ぎの感がないではありませんが、かろうじてスピード感を殺すことなく、全編をまとめてあります。そういった情報量のため、読みきるのには時間が必要です。加えて複雑でもありますから、ある程度時間のあるときに一気に読んでしまうのが良いかもしれません。

ただ、最後に思ったのは「凛香とは結局どうなったんだよ」ということでした。作中の登場人物と発想は同じですね。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★☆☆

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