著者別(お)小川糸

『喋々喃々』 小川糸

Chou2nan2 2009年、54冊目。小川糸『喋々喃々』

一応、妻子ある男との不倫(?)というような主筋と複雑な家族関係や別れた恋人の消息等の脇筋もあるんですが、どうもメインは東京の下町・谷中の歳時記といった印象の強い作品です。

はっきりと章立てはされていませんが、1月から12月まで一月一話という構成になっており、その四季折々の行事を巡っていく、といった佇まいです。

 

横山栞は東京・谷中でアンティーク着物の店「ひめまつ屋」を営む。そこを訪れるのは、客のほか、茶のみ話に訪れるまどかさん、靴のお下がりを持ってくる、近所の寺の住職夫人”イメルダ夫人”等多彩。

正月もあけ、仕事始めの日。「ひめまつ屋」を訪れたのは、初釜の着物を探しにやってきた木ノ下春一郎だった。妻も子”小春”もある春一郎に惹かれるだったが、春一郎もまたに惹かれるようになっていく。

清い交際を続ける春一郎の家庭を壊すつもりは毛頭なかった。

の両親もまた母親の不倫をきっかけにして離婚しており、の家族関係も複雑だったのだ。

両親が離婚したときには父親についていっただったが、今は北陸で自給自足の生活を送る父とは音信もまれになっていた。父は北陸で同じくバツイチの染色家鈴乃と再婚していた。

母親良子の妹花子、不倫した若い美容師との間にできた娘楽子とともに三人暮らし。良子は今は若いロックバンドの追っかけをやっている。

花子はちょっと変わったアルバイトをして生計を立てており、ひめまつ屋とも関係があった。外国から来た観光客と着物を着て手をつないで表参道を歩くというアルバイトがそれだ。はデートクラブもどきと心配するが、花子は国際交流といって譲らない。また、花子はかつてが付き合っていた雪道を別れさせる原因を作ったとの負い目をもっており、もまだ少なからず根に持つところもあった。楽子は感受性が強く、通う学校からは特別学級や専門の学校に移るよう勧められていた。

1月:

ひめまつ屋に木ノ下春一郎が客としてやってくる。

[(まどかさんのお土産)桃林堂:五智果]

2月:

千駄木倶楽部でお茶(あずきオ・レ)をしているところで、外を歩く春一郎に気づいて声をかける。

後日夕刻、春一郎がパンを持って、ひめまつ屋を訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)オザワ洋菓子店:いちごシャンデ]

3月:

TIES」で待ち合わせした春一郎と湯島天神の梅を見に行き、初めて気持ちを確認する。

父親が万引きで捕まり、花子と二人で北陸の父のもとへ。鈴乃は家を出て行っていた。

4月:

夜桜をみるため、春一郎がひめまつ屋にやってくるが、雨のため行かず。後日、谷中霊園の鬱金桜を見に行く。

ひめまつ屋()をひいきにしてくれる老人イッセイ早乙女一成)さんが入院していることをイメルダ夫人から聞き、見舞いにいく。

[(まどかさんのお土産)イナムラショウゾウ:シュークリーム]

5月:

海外出張に向かう春一郎の無事を根津神社に祈る。

人手の増えるゴールデンウィークに、店を手伝いにやってきた花子がひめまつ屋に泊まる。花子はあらためて雪道とのことを謝罪する。

6月:

退院したイッセイさんとデート(天丼屋→甘味処→アンヂェラス)。

春一郎と鳥鍋。

7月:

隅田川花火大会の日。突然、鰻重をもって春一郎が訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)つる瀬:餡蜜、白玉ぜんざい]

8月:

鈴乃が上京した機に、ひめまつ屋に立ち寄る。父とはうまくいっている模様。

雪道の妻聡美がひめまつ屋を訪ね、手紙を置いて去る。

手紙には、雪道が4年前に病を得て亡くなっていること、それ以降の年賀状や暑中見舞いは事前に書かれていたものを聡美が投函してきたものであることが記されていた。

9月:

雪道からの葉書を見返して、思い出にひたる。

春一郎と向島百花園の月見の会に行く。

10月:

春一郎とともに雪道の墓参り(御殿場線松田)に行く。帰り、途中で別れた二人だったが、春一郎はひめまつ屋前でを待っていた。

11月:

栗ご飯を作りに花子たちが暮らす都営住宅を訪ねる。もう花子とは家族には戻れないことを痛感し、離婚の重さを思い知る。

楽子から風邪をうつされて寝込むの看病に春一郎がひめまつ屋を訪れる。これ以上、春一郎に溺れ、春一郎の家庭を壊すことを怖れた春一郎に別れを告げる。

イッセイさんからデートの最中、谷中から離れて娘夫婦(湯河原)と同居することを告げられる。

12月:

花子が留学の決意を伝えにやってくる。

大晦日、すきやきの材料をもって、春一郎がひめまつ屋を訪ねてくる。

 

谷中あたりの風物詩を綴る話がメインで、何となく、ストーリーは付け足しのような感じがしてなりません。

全体の話が淡くて、春一郎との話もどうでもいいようなものが多く、結局何だったんだろうという感じです。春一郎も女々しい男というか、非常に虫のいい男という感じがして、あまりいい印象は持てません。

特に、家庭のことをどう思っているのかが全くわからず、勘繰れば、結局はのことを都合の良い女としてみているだけの嫌な男にも見えます。一方で、に惹かれているものの踏ん切りのつかない優柔不断な男なのか、というあたりが判然としません。

の複雑な家族関係も今ひとつ整理されないままに放置されており、実話なら「1年で何もかもが整理される訳がない」と納得もいくところではあるんですが、小説だと、こう落ち着き悪いまま終わってしまっていいの、という不安感が残ってしまいます。

結局、何なんでしょうか。作者が直接的な表現を避けるあまりに、ストーリーがぼんやりとしてしまったということなんでしょうか。

前作『食堂かたつむり』と同様、食べ物の話が出てきて、特に実在する店のお菓子だとか雰囲気があって良かったんですが、だからこそ、いずれにしても谷中近辺の観光案内の色合いが強く感じられます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『食堂かたつむり』 小川糸

Katatsumuri 2008年、141冊目。小川糸『食堂かたつむり』

細かい設定に目をつぶれば、非常に良く出来た気持ちの温かくなる作品です。

緩やかな時間の流れの中で、素朴で、かつ贅沢なときを過ごすといった味わいを感じさせます。

設定自体はなかなかエキセントリックであったり波乱万丈なんですが、一方で過剰な表現が抑えられているために、穏やかな気持ちで読み進められます。


トルコ料理店のアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。インド人の恋人が家財道具一切を持って去っていったのだ。

倫子(25)は祖母の形見のぬか床だけをもって深夜バスに乗った。中学の卒業式を終えたその夜に家出をしてから帰ったことのないふるさとにむけて。

そりの合わない(家出の原因でもある)”おかんルミコに見つからないよう実家裏の畑でおかんのへそくりを探した倫子だったが、おかんに見つかってしまう。

恋人に出て行かれたことによる精神的なショックで言葉の出なくなった倫子は筆談で借金を申し込むが断られ、実家に住むことだけを承諾された。しかし、それには条件があった。

一つには、おかんの飼い豚エルメスの世話係を引き受けること。一つに、食費、光熱費、家賃を入れること。

しかし、田舎のこと、働き口はない。料理することしかできない倫子は物置小屋をつかって食堂を開くことにした。開店資金は、おかんが高利貸し並みの高い利息をつけて貸してくれる。

かつて倫子の小学校時代に臨時職員をやっていた熊さんが開店準備を手伝ってくれる。

こうして1日1組だけのちょっと変わった食堂、「食堂かたつむり」がスタートした。

前日までにお客様との面接もしくはファックスやメールでやり取りし、何が食べたいとか、家族構成とか将来の夢とか予算などを細かく調査する。その結果に基づいて当日のメニューを考えるのだ。

最初のお客様は熊さん熊さんのリクエストに応じて作ったのはザクロカレー。

その後は、熊さんの隣に住む(地元有力者の)”お妾さん”。

食堂かたつむりの料理を食べると恋や願い事が叶うというまことしやかな噂は少しずつ、村や近くの町に暮らす人たちに伝わり、多くの客がやってくる。


おかんルリコは学生時代のはかなく破れた初恋を胸に独身を貫いてきたが、その初恋の相手に出会ったと倫子に告げる。ルリコはガンで余命数ヶ月。その担当医が初恋の相手修一だったのだ。



供される料理が非常に多彩でおいしそうではあるんですが、各種料理店の経験があるとはいえ、アルバイト10年程度のキャリアで、ここまで料理ができるようになるものでしょうか。ちょっと、このあたりの設定が最後まで魚の骨のようにひっかかって、純粋に楽しめなかった部分はあります。

しかし、全般を通して、(最後のルリコの死、遺書を除けば)メルヘンチックな、童話のような作品ですので、細かいところは気にせず、雰囲気を楽しむということでいいのかもしれません。

ルリコの遺書はちょっと泣かせます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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