『盗作 (上・下)』 飯田譲治/梓河人

2008年、139・140冊目。飯田譲治/梓河人の『盗作(上・下)』
『NIGHT HEAD』が有名な飯田譲治ですが、この作品は『NIGHT HEAD』よりもずっと深い『アナン』と関連する作品です。
お得意の(?)超常現象的な要素も入っていますが、むしろ超常現象というよりも、創作・芸術の根源をアカシックレコードに結びつけた発想のようなお話です。
第一部
ちょっと太めの女子高生、越ケ谷彩子は、赤い雨の中を走る男の姿を夢に見た。色が洪水のように押し寄せ、その強烈な映像を脳裏に焼きつけて目覚めた彩子は無我夢中でキャンバスにイメージを映した。
いつまでも起きてこない姉彩子を心配した耳の不自由な弟カヅキは母とともに彩子の部屋に入り、メチャメチャに荒れた部屋の様子に驚愕する。絵を見て感動に打ち震えた父母は経営する「民宿花月」の玄関ホールに絵を飾った。
この絵は誰もの感動を誘った。学校を休んだ彩子を見舞いに訪れた美形の幼馴染北村ミチや同じく幼馴染の原友太郎も言葉を失くす。美術教師野弓光一に見せるべきだと主張する友太郎に勧められ、学校に持っていった絵を見て、野弓も同席した美術評論家の穴吹文治も絶句する。「完璧。きみは、天才だ。」
しかし、この賛辞は同席した川井紫苑を傷つけた。資産家の一人娘にして才女、特に絵画で才能を発揮し、今回も個展を開くにあたって穴吹を東京から招聘したのは紫苑だった。そんなことよりも紫苑は彩子の絵に驚愕していた。「あの絵は本物」
その絵『どこまでも』は第一回黒沼満大賞を受賞し、彩子は周囲から賛辞を浴びる。
どこか見覚えのあるその絵に紫苑が気付いたのは偶然だった。インターネットで見つけた原野アナンの未公開作品のモザイク『天を走る』と全く同じものだった。
”盗作”。世間は手の平を返したように彩子にあたった。友太郎の彩子への想いに嫉妬したミチも決して味方ではなく、祖母、両親と弟カヅキ、友太郎だけが味方だった。
第二部
新しい関係をつくるため東京に出た彩子は、商事会社の事務員としておとなしく慎ましく生活していた。故郷との接点は、ともに東京に出てきた北村ミチだけだった。ミチはタレント事務所に属し、芸能人として歩みはじめていた。
そして、また夢をみた。今度は歌、バラードがきこえた。泣きながら立ち上がった彩子は、震える指でレコーダーのスイッチを入れ、歌いだした。
盗作の不安な彩子はミチを通じて、作詞作曲家のマリムラ圭一、鞍馬に、その歌を聴いてもらい、他に聴いたことがないことを確認する。ききおぼえのないことを確認しただけで、安心して帰ろうとした彩子をマリムラが、そして女森本桜が止める。
森本桜はマリムラが山奥で見つけた天才的歌手だったが、精神を病み、『さくらさくら』しか歌えなかった。その桜が、彩子の歌に反応し、歌いだしたのだ。
鞍馬バンドの『あのドアを開ければ』は爆発的にヒットした。しかし、彩子は完全に水面下に潜った。ヒットと同時に作詞作曲家”西乃サイ”の名も業界に知れ渡ったが、彩子は写真なしの取材にメールとFAXで応対するだけだった。
その頃、父親との確執を経て仕送りを止められた紫苑は銀座の一角にあるギャラリーアサイ(オーナー浅井収蔵)で働きながら自費への美術留学を目論んでいた。ギャラリーに絵を置く画家勝俣公也を通して、”西乃サイ”が高校時代に自身を翻弄した越ケ谷彩子であることに気付いてしまった紫苑は、留学している友人にCDを送り、盗作の疑いを確認しようとしていた。
やはり原曲はあった。オーストラリアのアボリジニの男性歌手エグビーの<<THE DOOR>>と詞も曲も一致したのだ。彩子の過去は暴かれ、また再度の盗作に世間の目は厳しい。追い詰められた彩子はマンションのベランダから飛び降りようとするが、これを同僚の元恋人佐伯俊晴が救う。
第三部
佐伯俊晴の海外赴任に合わせ結婚した彩子はサンタモニカで主婦としての生活を始めた。子どもは双子の武史、洋史に、娘マリナの3人。
子どもを育て20年。彩子は43歳になっていた。
カヅキが交通事故で死亡した。葬儀のあと、サンタモニカに持ち帰った絵『どこまでも』を観て、家族は絶句する。これを契機としたように、彩子はロサンゼルスにやってきていた原野アナンの作品を見に行き、そこでアナンに出会う。
「あなたは、まぎれもなく創造したんだ」と伝えたアナンは『天を走る』を彩子に託す。
「運命に立ち向かうんだ。今度は自分から。創作するんだよ。あなたが。」
この言葉を道しるべにして5年。また、夢が訪れた。今度は言葉だけ。目覚めた彩子は夫俊晴のパソコンを立ち上げ、キーボードに向かった。小説を書き始めた彩子は俊晴の言葉にも耳をかさなかった。彩子がノイローゼにかかったと判断した俊晴はセラピストを連れて帰宅するが、彩子は家を出ていった後だった。
町外れのホテルで2カ月。小説は完成した。彩子は知人の読書家小田月絵に作品『大いなる幻想』の感想を得るため、”月絵限り”で作品を託したが、感動を分け与えたいと考えた月絵は恋人マイク・バウアー(日本文学科助教授)にも見せてしまう。
彩子のもとを訪れた月絵とマイクは英訳版”THE GREAT VISION”を示す。絶対出版できないと拒絶する彩子だったが、マイクはあきらめきれなかった。
喧嘩別れとなった夫俊晴にも読んで欲しいと考えた彩子は自費出版で細々と始めることに同意した。
ラリー・ホーンという正体不明の作家のまま、自費出版はニューヨークのハンドメイド社に引き継がれ、全世界に広がっていった。
そして、『大いなる幻想』はノーベル文学賞の候補にあがる。
その頃、紫苑はスペインにあって、陶芸創作家のポルフィオと共同生活を送っていた。
日本の友人が置いていった『大いなる幻想』を読むうち、作者が日本人女性ではないかと感じる。加えて、登場人物の名前に「ウロターユ(友太郎)」「チミー(ミチ)」「ミユーノ(野弓)」を見つけたとき、紫苑は日本語版の出版社へ問い合わせのメールを送信していた。
ラリー・ホーンは越ケ谷彩子だった。月絵の結婚式の写真に彩子の姿を発見した紫苑は確信していた。
ノーベル文学賞の授賞式。彩子は紫苑の姿を見つけ、気を失う。
なかなか感想の難しい作品ですね。またまた、というようにくどいように同じ話が繰り返されるところが緊迫感はありますね。
最後に誤解は解けるのか、超常現象なので理解されないままに終わるのかといったところが全体の緊迫感を作っているようです。
ただし、キャラクターがちょっと中途半端かもしれません。原友太郎や北村ミチも途中でフェイドアウトしてしまうし、敵役(?)の紫苑も何だかよくわからない多重人格っぽいところが今ひとつかもしれません。
彩子の子どもたちも何かあるのかと思えば、別にとりたてて何かあるわけでなく、肩透かし。
カヅキも重要そうに見えて、(いくつか意味深長な発言はしますが)あまり登場することなく、死んでしまう。
そういう意味では、キャラクターで損をしている作品かもしれません。
しかし、ストーリー自体は充分読ませますし、上・下巻にわかれていますが、それほど苦もなく読みきってしまえるのは、それだけのスピード感・内容に力があるからなのでしょう。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

最近のコメント