『屍蠟の街』 我孫子武丸
2009年、11冊目。我孫子武丸『屍蠟の街』
『腐蝕の街』の続編です。
『腐蝕の街』の最後で主人公溝口が懸念していたように、ダウンロードされてしまったドクの意識が溝口の中で再浮上してくるという話もありますが、どちらかというと作品中では添え物的な扱いです。
むしろ、前作で逮捕された赤坂護によって逆に狩られる溝口たちの逃走劇と逆襲に見所があり、荒唐無稽な人格ダウンロードを主にした前作よりも十分楽しめるものとなっています。
事件から半年。
逮捕された赤坂護は、現在の法制度では厳しく処罰することができないまま、保釈の身の上となった。
無力感から泥酔する溝口の中でドク(菅野礼也)は目覚めた。
こんなこともあろうかと溝口が自身にしかけておいた麻酔薬を仕込んだ左手首のブレスレットのおかげで、シンバ(高塚樹里)は間一髪身を守るが、ドクの復活は誰もの動揺を誘った。
病院に向かった溝口だったが、帰途、若者らに襲撃される。
若者から取り上げたエアガンの爆発で眼を傷めた溝口は目が見えなくなってしまう。溝口を守ろうと少年一人を殺し、三人を重傷に追いやったシンバにも保護観察処分の結果が下りた。
襲撃は、溝口とシンバに賞金がかかっていたからだ。
日本の法律が適用できない公海上のネット・シティ”ピット”で、溝口とシンバを名乗るキャラクターが無差別殺人を繰り返し、「賞金首」となっていたのだ。
シンバを訪ねてきた保護司榛原留美子もまた、溝口らに接触した者として、賞金をかけられ、付け狙われることになる。
ネット上に溝口の住所が公開され、マンションは無数の若者らに包囲されてしまう。三人を救いにやってきた赤羽署の金城と片山だったが、車で逃げ出す途中、金城は重傷を負ってしまう。
赤羽署に戻ろうとする五人だったが、既に赤羽署も包囲され、立ち入ることはできない。
そんな溝口に電話が入る。予想していた通り、黒幕は赤坂だった。
金城の手当てのため、郊外を目指した車は川口の小さな診療所”ミヤギ診療所”へ潜り込んだ。車を乗り捨てるため、片山だけは一人別行動をとることになる。
診療所の看板を出してはいるものの、”ミヤギ診療所”(宮城彰)は藪で、患者が訪れることもない。なんとか金城の手当てをしたものの、このまま居座ることもできない。
宮城のガソリン車で診療所を出た直後、溝口らの所在はネット上に晒された。若者らに襲撃された診療所で無惨にも宮城は「逃亡幇助により処刑」される。
慙愧の念に苛まれる溝口だったが、最早どうしようもない。
シンバの案内で辿り着いたアミューズメントホテルで片山と合流した溝口は、逃げ回るよりも反撃する方法を思案するのだった。
目が見えるようになった溝口は、片山の衣装にシンバを変装させると、二人でホテルを出た。ヴァルハラに住む超一流のクラッカー早川に”ピット”のシステムを破ることを依頼するのだ。
ヴァルハラとは立川に建設された超高層ビル”ヴァルハラ22”のこと。最新のセキュリティと警視庁の分室を備えたヴァルハラは政治家、スポーツ選手など、一部の限られた特権階級だけが住めるところだ。
シンバを自分のもの(ネコ)にしようとする早川を一度は拒絶する溝口だったが、早川を溝口の共犯者に仕立て上げることで、否応なく協力せざるを得ないように誘導した。
仕方なく”ピット”のシステムに挑む早川だったが、”ピット”は強敵だった。赤坂が蘇生させた一流のハッカーパク・ジュンが運営していたのだ。
なんとか早川は”ピット”のサーバにウィルスを送り込み、”ピット”を消滅させることに成功したが、そんな最中、溝口の中で目覚めたドクは溝口の身体を乗っ取っていた。
エアガンを早川に3発叩き込むと、絶句するシンバもまたスタンガンで眠らせる。
しかし、パクは再度”ピット”を新たなサーバで立ち上げていた。
おのれの物となった溝口の身体が危険に晒されることを怖れたドクは赤坂に連絡し、赤坂のミスを追求するとともに蘇生の代替策を求めた。
新宿西口にあるインテリジェントビルで赤坂は待っていた。
ドクの主張の信憑性を疑う赤坂は、ドクに同一性テストを強いる。結果的には”92%の確率で溝口和宏でない”ことが証明されるが、逆に言えば8%は溝口が残っているともいえる。
この8%の溝口を消し去るため、赤坂はドクに再度、ブレインスパを使うことを求めた。
今回のネットシティ”ピット”を使った話はそれっぽくて、純粋に楽しめました。
ちょっと話自体が停滞するところが多く、スピード感が殺がれる部分はなきにしもあらずですが、不特定多数の人間に追われる恐怖・不安感という部分がミソなんでしょう。
その意味では、前作と同様ですが、ドクは要らなかったよなぁ、と思わずにはいられません。
また、榛原留美子も単なる足手まといで不要なキャラクターですね。ドクからの依頼を受けるという役割さえなければ、全く役割がありませんから・・・。足手まといキャラクターなら、それなりに、もうちょっと邪魔になればいいんですが、そうでもないですし・・・。ちょっと存在が中途半端ですね。
今回は片山も永野も出番が殆どありませんでした。
話自体は前作と比べるとスッキリしていますが、恐らく動かすキャラクターが少数で、かなり展開がシンプルだったからでしょうか。
残念な部分は多数ありますが、今回はそれなりに楽しめる作品だったといえるかもしれません。
最終的には赤坂は逃げ切ってしまいましたし、更に続編なんて考えているんでしょうか。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★☆☆☆☆
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)



最近のコメント