著者別(か)川島誠

『Field,Wind』 青春スポーツ小説アンソロジー

Fieldwind 2008年、77冊目。青春スポーツ小説アンソロジー『Field,Wind』

”青春”+”スポーツ”という、なかなか鉄板のような分野ではありますが、ちょっと意表をつかれたというか、ちょっと騙された印象の残る作品群です。6人の作家の短編集で、確かに程度の差こそあれ、各種スポーツは出てきますが、”青春スポーツ小説”というものの定義に若干異議を唱えたくなるような内容です。


『ロード』陸上(長距離)】 あさのあつこ

坂城亮平は酩酊し、正体不明となった翌朝。ベッドの中に黒い子犬を発見する。朧ろ気な記憶の中、飲み屋で捨て犬を押し付けられ、昔飼っていた犬ロードの名を子犬につけていたことを思い出す。

ロードの名から高校時代の陸上を、そして先日30年に満たない生涯を閉じた、陸上の先輩でもあった妻沙由美のことを回想する。


『サッカーしてたい』サッカー】 川島誠

独白するふたごの宮本兄弟。父親は刑務所へ、母親は男を作って逃げ、兄弟は愛生園という施設へ送られる。

サッカーの地区対抗試合。二人は愛生園のサッカーチームとして出場する。


『風を運ぶ人』ロードレース(自転車)】 川西蘭

下嶺陸はコーチの黒岩から南雲デンキ自転車部ジュニアクラブの新キャプテンの指名を受ける。

しかし、は既に、翼を持つ者と持たない者の違い、そして自身が後者であることも理解し、自信がなかった。

「みっともなくてもガンバレ」居候となった従妹香織の励ましの中、はチームの中での自身の役割を自覚していく。


『氷傑』アイスホッケー】 須藤靖貴

後藤恭司は実業団アイスホッケー部の正ゴーリー(ゴールキーパー)。

酒場の酔客に頭をビール瓶で殴られた恭司は大事をとって欠場した後、出番がなく、シーズン後引退することを勧告される。

勧告に従って、総務部に席をうつした恭司のもとに5年ぶりの父からの手紙が届く。

「もし従順なままで引退したのなら、いつか後悔することになる。お前は、従順さの欠けらもない親父の息子なのだ。一生を従順なままで過ごせるとは、とうてい思えない。従順さに背を向けるのなら今しかない。」


『バトン』陸上(1600mリレー)】 五十嵐貴久

朋陽高校3年、浅倉恭子(17歳)。彼氏は陸上部の同級生川島昭一

高校の陸上生活最後となる私立10校合同の体育祭で、恭子昭一とともに1600mリレー(400m×4)に参加する。他のメンバーは2年生の柿崎と同級生の若林優。しかし、は長距離選手で短距離の経験がない。

試合に備えて指導する昭一が親密になるのに時間はいらなかった。裏切られた恭子はリレーへの参加を棄権する。


『ガラスの靴を脱いで』【フィギュアスケート(ペア)】 小手鞠るい

佐藤可南子は今年2月の世界選手権大会で5位入賞のペアのスケーター。

しかし、ペアを組んだ渡良瀬流への告白、失恋を機にスケートをやめることを決心する。

翻意を促すコーチ純子の言葉に迷いながら、旅先のニューヨーク・ソーホーで出会った絵描きジャックの言葉。「あなたは、誰なのかな?」



狭義に青春スポーツ小説という意味では『サッカーしてたい』『風を運ぶ人』『バトン』の3作だけが該当するような印象を受けます。他は若干、背景としてスポーツが出てくるだけで、別に背景はスポーツでなくてもいいような内容です。『氷傑』はスポーツにおける引退について問いかける内容でスポーツを主軸とする意味では良いのかもしれませんが、”青春”っていう意味ではちょっと、という感じでしょうか。

青春スポーツ小説というジャンルをとっぱらってみた場合、それぞれ以下の印象を持ちました。

『ロード』 : 一言でいって女々しい。最後まで沙由美の死を吹っ切れておらず、今後も鬱屈した気持ちで生きていきそうな終わりかたで中途半端な感じです。これからロードとともに変わっていくという予感までいけば読後も心地よいのですが、これでは・・・。

『サッカーしてたい』 : 名前がなく、というふたごがそれぞれ独白するという構成にはちょっととまどいます。ふたごの背景がかなり暗く、すさんだ感じは受ける一方で、なんだかちょっと善人っぽい感じもあって、非常にアンバランスな子どもの感覚が伝わります。

しかし、なぜサッカーなんでしょう。そのあたりは全くわかりません。

『風を運ぶ人』 : セカンドウィンドの外伝です。南雲デンキ自転車部ジュニアクラブのキャプテン下嶺陸の葛藤とそれがふっきれるところを描いています。勿論、わずかではありますが、レースにおいてのの差配や駆け引きもあり、十分読ませます。

『氷傑』 : 引退話としてはオーソドックスなところでしょうか。”従順”というところが一つのキーワードになっており、一度は引退勧告を受け入れ、父親の助言で転身してしまうところなんかが若干異色かもしれません。出来れば、この出だしでアイスホッケーの試合展開を交えて、再出発、葛藤等が読めると面白いかもしれません。

『バトン』 : うまく短編で閉じている作品です。短い分だけ背景の描写が少なく、想像にまかされるところはありますが、恭子のスタンスが一貫していて読みやすい作品となっています。

『ガラスの靴を脱いで』 : 結論が意外でした。こういった引退話で揺れる際には『氷傑』のように再出発というのが一応お約束のようなんですが、引退の方向でふっきれてしまいました。その割には可南子を吹っ切らせるにいたったジャックの言葉はあまり胸に響かず、なんでこんな結論になってしまうんだろう、と違和感を覚えた作品です。

全体を通じてみれば、「青春スポーツ小説アンソロジー」というコンセプトは悪くないと思いますが、やはりスポーツ小説の醍醐味は試合、レース等といったところにありますので、短編にはなかなか向かないのかもしれません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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