『被取締役新入社員』 安藤祐介
2008年、58冊目。第1回TBS・講談社ドラマ原作大賞、安藤祐介『被取締役新入社員』。
いや純粋に面白かったですね。明日ドラマがあるらしいですが、主人公の体型からして若干ミスキャストの感は否めませんが、映像化自体は面白そうな作品です。(ドラマ原作だから当然といえば当然ですが・・・。)
さて、主人公鈴木信男は身長160センチ、体重80キロのチビデブ(原文ママ)。見てくれが不細工なだけでなく中身も悲惨。小学校の入学式でいきなりウンコを漏らして”ゲリブタ”のあだなで惨憺たるいじめられっこ街道をまっしぐら。高卒後もまともに就職できず、コンビニのアルバイトさえままならない。倉庫でのダンボール箱の組み立てで10年を過ごしてきた28歳。
この鈴木信男がシャレで受けたのが一流広告代理店「大曲エージェンシー株式会社」。
玉ねぎ刻み、レゴブロック等珍妙な入社試験を経て、最終面接に臨んだ信男にゼンマイ仕掛けのような社長川崎は役員待遇(月給20万円、役員報酬3千万円)で信男を迎え入れることを告げる。それには裏(特別な任務)があった。
信男は一流のダメ人間として、エリート肌の多い社員のストレス(精神的鬱憤)の捌け口となることを命じられたのだ。そして、「羽ケ口信男」と名乗ることを。
【就業の心得(代表被取締役のスペシャル就業規則)】
総じて全社員の軽蔑と嘲笑の的となるべく日々心がけること。
随時小さな失敗を積み重ね、時々大きな失敗を犯すよう心がけること。
いじめを受けた社員に対して仕返しをしてはいけません。
他の社員より秀でた行動をしてはいけません。
綺麗な身なりをしてはいけません。
同僚及び上司に褒められてはなりません。けなされることにみ心がけてください。
所属長より課せられたノルマを達成した場合、減給等の処分に処する。
社内恋愛は厳禁。
具体的には、週に3回遅刻をする。決して業績は上げない。極力上司を怒らせる。スーツはアイロンをかけず、ネクタイは気持ち斜めに曲げて身につける。髪の毛は寝起きのままでセットしない。退勤は必ず定時きっかりに。
社長の目論見通り、配属された製作局ではギスギスしていた人間関係が信男を邪魔もの扱いすることで結束していく。それを冷静に眺めている信男だったが、ある日関東電力工業の宴席で行った下品な芸が何故か専務に受けてしまい、信男はディレクターとして大型のプロジェクトを任されることとなった。しかし、業績を上げることを禁止されている信男は適当に気の抜けた絵コンテで対応したものの、これも何故か西巻専務にも社会にも受け入れられてしまう。
一躍有名となった信男(チーム羽ケ口)のもとには次々と仕事が押し寄せるが、信男の気持ちは晴れない。とにかく失敗しようと更に気の抜けた仕事を繰り返すが、何故かこれが受け入れられてしまう。
業を煮やした川崎社長や桐野人事部長から改善(改悪)を要求されたが、そのとき信男が手がけていた仕事は教育広告機構の”ストップ、いじめキャンペーン”のコンペだった。信男は自身の使命である「いじめ撲滅」を被取締役の使命に優先させ、製作局のメンバーの力も借りながら見事コンペを勝ち抜いた。
その反面、良くなったはずの製作局の雰囲気・人間関係は再びギスギスしはじめ、信男の評価に反比例して評価を落とし辞職を申し出る者もあらわれる。
加えて、なぜか製作局の(デブ専?)工藤沙紀から想われ、つきあうことに。
公私ともに順風満帆だったが、信男にとっては全くの逆。「社員よりも秀でた業績をあげるのも、社内恋愛も厳禁」だからだ。思い悩んだ末、信男は辞表を提出するが、社長からは降格と名古屋への異動の辞令が・・・。
非常にスピード感のある展開で十分楽しめます。勿論「こんなに都合よくいくはずもない。ありえない。」といったことはありますが、逆境を楽しむ(被取締役)という設定、そこからサクセスストーリーを描くという展開は小市民的には憂さを発散するという意味で小気味よく感じます。
優等生的にいえば、「社員のストレス・憂さの捌け口」にいじめられっこを雇うという設定は非人道的の謗りは免れないところではありますが、実際には世の中に理不尽なことは掃いて捨てるほどあることを踏まえれば、この弱者の逆転劇を単純に楽しむということでいいのではないかと思います。
キャラクター的には、中野のキャバクラの姫子は面白そうなキャラでありながら後半では出番がなく、最後は工藤沙紀がヒロイン役をかっさらっていくというのは若干強引でしたね。また、主要なキャラクターである好青年三木も深掘りがないので、同じ「いじめられた過去を持つ」キャラクターとした厚みはあまり感じられませんでした。
むしろこういった悪巧み(?)をする川崎や桐野の方が出番は決して多くないわりに存在感は極めて大きなものがありました。不倫火山保坂良昭もいい味を出しています。
休むことなくあっという間に読んでしまえる作品でした。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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