2009年、8冊目。五十嵐貴久『パパとムスメの7日間』
事故で、父親と娘の人格が入れ替わってしまうという話。
どこかで読んだような、ありふれた題材で、内容も奇を衒わずオーソドックスなんですが、それでも十分に楽しめました。
細かいところが巧いんでしょうね。ワクワクしながら、先へ先へと読み進めてしまいます。
川原恭一郎(47)は化粧品会社光聖堂の宣伝・広報部の副部長。
広報部といってもラインからは外れた部署。社内でも象の墓場と呼ばれている。
そんな恭一郎だったが、8カ月前、新商品開発プロジェクトのチームリーダーに任命された。
光聖堂商品開発研究所が開発に成功したフレグランスを、伝統的に光聖堂が弱かった若い世代を対象にした新商品として開発してはどうかと、渡辺社長が役員会で口走ったのが、そもそものプロジェクトの発端だ。
光聖堂は”スーパービューティー”シリーズを中心とした基礎化粧品のラインナップを中心に、高品質で顧客からの信頼を勝ち取っていたが、その成功に胡坐をかくあまり、地盤沈下はゆっくりとだが確実に進んでいたのだ。
本来は新商品開発は企画開発部が担当すべきところだが、かつて失敗した経験もあるフレグランスのこと。どの部署も尻ごみした。
しかし、社命は社命である。最終的にババを引かされたのが、広報部だった。
広報部の植草部長は各部署から人員を出してプロジェクトチームを結成することを役員会に進言し、そのチームリーダーに副部長になったばかりの恭一郎を据えた。
プロジェクト開始早々は意気軒昂だったメンバーだったが、予算やマンパワーなど、少しずつ骨抜きにされていく中で、モチベーションは下がる一方だった。
結局は既存の枠組みからはみだすことのない商品「レインボー・ドリーム」を新商品として売り出すことになってしまう。
この毒にも薬にもならない案件は既に各方面に根回しが終わっており、10日後に行われる御前会議に向け、プロジェクトメンバーは資料の作成や部署間の調整に追われていた。
しかし、恭一郎はリーダーといっても名ばかりで、お飾りでしかなかった。同じ広報部からのメンバーである中嶋からも疎んじられているのが実状だ。
唯一、チームメンバーの中で恭一郎の味方は秘書課から参加している西野和香子だけだった。西野は誰もが嫌々やっているこのプロジェクトが好きだという。
恭一郎の娘小梅(16)は高校2年。
友人律子の紹介で、サッカー部のケンタ先輩と付き合い始めたばかり。次の土曜日に初デートが決まっていた。
かつては”パパ大好き”だった小梅も、今や恭一郎を避けるようになっていた。
会話は勿論、休日の食事も別々になった。この1年ほどは挨拶さえない。
そればかりか、恭一郎の下着と自分の衣服を一緒に洗濯するのを嫌がるようになった。恭一郎のあとに風呂に入るときは、お湯を入れ替える。
恭一郎の妻理恵子の母が亡くなったとの連絡が会社の恭一郎と高校の小梅に入る。
上総亀山にある理恵子の実家は木更津からローカル線の久留里線で1時間以上行ったところにある。乗り継ぎは悪く、電車の本数も少ない。
漸く駅に辿り着いた理恵子と小梅だったが、駅で待っていた理恵子の姉敏子は開口一番こう言った。
「ゴメン、理恵子。母さん、生き返った。」
脳溢血で倒れた母ひそかだったが、病院へ運ぶ救急車の中で、目を覚ましたのだ。
遅れてかけつけた恭一郎も駅のホームで呆然と立ち尽くすだけだった。
ひそかの様子を見るために残る理恵子と別れ、翌朝5時、恭一郎と小梅は始発電車に乗り込んだ。
会話もないまま電車に揺られていた2人だったが、下から突き上げる衝撃と「緊急停止!」のアナウンスの後、横倒しになる車両の中、なぎ倒されて意識を失った。
千葉県北西部を震源地とした地震によって、久留里線が脱線したのだ。
病院で気が付いた恭一郎と小梅は驚愕の事実に直面する。
恭一郎と小梅の身体(人格)が入れ替わっていたのだ。
御前会議を直前に控えている恭一郎と、ケンタ先輩との初デートを土曜日に控えている小梅は、何もできるとは思えない医師たちに、この入れ替わりの事実を語ることはなかった。運がよければ、明日にでも元に戻るだろうと・・・。
しかし、一夜明けて木曜日になっても元に戻ることはなかった。
腹をくくった恭一郎と小梅はそれぞれの務めを果たすことにする。恭一郎はムスメとして高校に、小梅はパパとして会社へ。
恭一郎は小梅を取り巻く、現在の高校、友人との付き合いに戸惑うが、同様に小梅も”やる気のない”サラリーマンの在り様、責任を回避するためだけに労力を費やす会社のあり方に驚くとともに、恭一郎にも同情するようになっていく。
元に戻ることなく土曜日を迎えた小梅は、恭一郎にケンタ先輩とのデートの代行を依頼する。これには恭一郎もほくそ笑む。自分の手で小梅の交際を自然に妨害することができるからだ。
映画を見ることになった小梅(恭一郎)だったが、ケンタの選んだ映画は池袋新文学座での”ルキノ・ビスコンティ特集”。(ケンタは寝てしまったが)懐かしい映画に、素直に楽しむ小梅(恭一郎)だった。
その後、向かったマクドナルドで、小梅(恭一郎)は”大食い”で、”彼を行列に並ばせて、一人で座ってしまう身勝手な女の子”を演じる。
見張っている恭一郎(小梅)は気が気ではなかったが、意外な素顔を見せる小梅(恭一郎)の姿に、ケンタは素直に好感を持ったようだった。
迎えた御前会議では誰もが責任を回避する中、原案通りに決まろうとしていたが、最後に渡辺社長はチームリーダーである恭一郎(小梅)に発言を促した。
やる気のないプロジェクト、内向きな思考しかしない新商品開発に疑問を感じていた恭一郎(小梅)は、買い手の立場でつい本音を語ってしまう。
「売れないと思いますよ」
価格面、販路面での限界を語る恭一郎(小梅)の言葉に、誰もが唖然としたり、有望さを感じながらも、責任を取りたくないばかりに発言を控えてしまう。そんな役員の姿を見ながらも、渡辺社長が下したのは、「恭一郎の責任」で修正案を実現すること。
恭一郎(小梅)は決まってしまってから、己の発言を後悔するが、時既に遅し。
しかし、フロアに戻った恭一郎(小梅)を迎えたのは意外な声だった。
「やっちゃいましたねぇ・・・・・・でも、リーダーの言う通りだと思いますよ」
プロジェクトメンバーは恭一郎(小梅)の発言に発奮していた。同じく、会社のこれからに危機感を感じていた社員たちも、御前会議の様子を社内LANで見て、協力を約束してくれたのだ。
そんな恭一郎(小梅)に恋心を伝えたのは西野和香子である。そんな西野にムカつく恭一郎(小梅)は、娘を材料に、西野を拒否する。
携帯電話で御前会議の様子を聞き、青ざめていた小梅(恭一郎)だったが、事態は思わぬ方向に進んでいるようだった。しかし、すべてを確認したい小梅(恭一郎)は駅まで恭一郎(小梅)を迎えにでるが、西野が自宅の前で小梅(恭一郎)が出てくるのを待っていた。
恭一郎との間で障害となる小梅を亡き者にしようとする西野は小梅にナイフを向けた。
小梅との関係は何となく笑い事じゃないんですよね。
うちのムスメもこんな風になったらどうしようって、思ってしまいます。
話自体は”御前会議で小梅が本音を語って、成功しちゃうんだろうな”というのは、最初から見えているので、そのあたりの意外感というのがない分、ちょっと興ざめの部分はあります。しかし、わかっていても面白く読めましたが・・・。
ただし、女子高校生になった恭一郎の奮闘は面白かったものの、あと一歩という感じでしょうか。何となく表面的なところで終わっていて、これもまた意外感がないというか、目新しさは感じませんでした。
全般に小市民的というか、非常にミクロの話に終始しながら、全体がうまく閉じていく感じは気持ちがよいですね。予定調和というか、話自体もうまく終結しており、よくできた作品になっています。
さて、この作品、間もなく続編『パパママムスメの10日間』が出るんですよね
是非、読まなくては。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★★★
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