著者別(い)五十嵐貴久

『ダッシュ!』 五十嵐貴久

Dash 2009年、97冊目。五十嵐貴久『ダッシュ!』

ストーリー自体に広がりはないものの、よくある青春ものの一つ。

海外へ電話しまくるという馬鹿馬鹿しさのような、荒唐無稽さもあるものの、それも青春ものの、お約束の一つなのかもしれません。

ラストの成田空港に向けてのスピード感(暴走感)はなかなか楽しめます。

 

私立春日部学園高校陸上部のスーパーレディ“ねーさん”こと菅野桃子先輩に思いをよせ、忠誠を誓ったイノケンたち陸上部(もと陸上部)4人。

井上健一イノケン)、門倉猛メタボン)、結城遼一リョーイチ)、富田裕助わび助)の4人。

3年になり陸上部を退部した”ねーさん”の様子がおかしい。

似合いもしない渋谷のクラブに誘う”ねーさん”の言葉をいぶかしく感じながらも忠実に従う4人だったが・・・。

骨肉腫にかかった”ねーさん”は右足を切断することになっていたのだ。

ねーさん”を励ますべく、願いを尋ねる4人に、”ねーさん”が切り出したのは非常に手のかかるミッションだった。

ねーさん”の願いは右足切断の前に、サーファーとして世界を放浪中のかつての恋人杉田達也に会うことだった。

今や家族さえも行方を知らない杉田であったが、”ねーさんの願いを叶えたい”との一心で、4人は世界各国のサーフスポットに電話をかけ続けるのだった。

奇跡的にハワイのモロカイ島で捕まえた杉田は、”ねーさん”の手術を知るとイノケンに帰ることを約束するのだが・・・。

 

右足を切断した”ねーさん”は表面上は元気そうに振舞うが、リハビリには不熱心で投げ遣りだった。

不可抗力ではあったが、結果として手術に間に合わなかったことから、”ねーさん桃子からつれなくされ、海外へ去った杉田。その杉田からイノケンに突然電話が入った。旅の途中で立ち寄る成田空港にねーさんを連れてこいというのだ。

意地を張って、杉田に会うことを頑なに拒む桃子だったが、最後の最後で、成田に向かうことを肯う。4人が安堵したのも束の間、向かった駅で、事故のため電車が不通であることが発覚する。

最後の手段として採ったのは、無免許のわび助の運転する車での命がけのドライブだった。

 

骨肉腫という悲壮感ただよう病気のわりには、そのあたりを淡々と書いていて話が重くならない。その分だけ、このストーリーにおいて、骨肉腫といった”病気”である必要があったのかは疑問。ちょっと安直というか、あざとい。

キャラクターについても、ちょっと中途半端かもしれません。

特に、4人の崇拝する”ねーさん”の魅力がどうもうまく伝わってこない。そのために、今回の騒ぎへの思いいれがどうも共感できない。

主人公であるイノケンの描写は相対的に多いのものの、これも内面はあまり描かれないため、何を考えているのかよくわからない。

その一方で、ラストに向けての無免許暴走は非常に切迫感と、暴走・迷走感があって楽しい。警察官との対峙も、無謀といえば無謀なものの、馬鹿馬鹿しいような緊迫感が漂います。

キャラクターの中途半端さや、ストーリーさの希薄さはありますが、最後数十ページの楽しさが救ってくれる作品かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『パパママムスメの10日間』 五十嵐貴久

Papamamamusume 2009年、33冊目。五十嵐貴久『パパママムスメの10日間』

『パパとムスメの7日間』の続編です。

前回は父親と娘の人格の入れ替わりだけだったのが、今回は母親も混じった3人の間での入れ替わりが生じるという話。

基本的には前作と同様のドタバタ劇で、結論としてもお互いのことをよく理解できるようになりましたということでしかないんですが、やっぱりそれでも単純に楽しめる作品になっています。

 

小梅は表参道にある錦城大学に合格した。

入学式のあった夜のこと。突風交じりの土砂降りで傘を飛ばされた恭一郎は公園のトイレで雨宿りする。妻理恵子に傘を持ってきてくれるよう電話した直後、同じく傘を壊された小梅もトイレに飛び込んできた。

2本の傘で3人で帰りかけた直後、雷が公園のブランコを直撃し、3人は薙ぎ倒され意識を失った。

目覚めた3人の意識は2年前のときと同じように入れ替わっていた。恭一郎の身体に小梅の意識が、理恵子の身体に恭一郎の意識が、小梅の身体には理恵子の意識がおさまったのだ。

恭一郎小梅は戸惑いながらも、前回の経験から動転することはなかったが、理恵子は半狂乱に陥る。なんとか落ち着かせた理恵子も含めて3人の入れ替え生活が始まった。

 

恭一郎は新商品企画開発部の部長となっていた。しかし、新商品企画開発部とは名ばかり、レインボー・ドリームの立役者である恭一郎を形式的に処遇するために作られた窓際部署だったのだ。レインボー・ドリームの成果を自身だけのものとしたい桜木役員により、かつてのレインボー・ドリームのプロジェクト・メンバーは新商品企画開発部への異動となっていた。

現在、光聖堂を挙げての新プロジェクト”スイッチ”でも新商品企画開発部の出る幕はなかったが、形ばかり”スイッチ”プロジェクトのメンバーに名を連ねることとなった恭一郎(小梅)は商品研究所の同期室田俊秋の言葉などから、”スイッチ”の原料に毒菜が使用されている可能性があることに気づく。

小梅に命じて、調査を進める恭一郎だったが、桜木役員のガードは固く、なかなか真相に迫れないどころか、逆に桜木役員にばれてしまう。

社長を交えた会議が迫る中、恭一郎理恵子の姿のまま、室田のもとへ向かった。

 

恭一郎理恵子(主婦)生活は早々に行き詰った。簡単そうに思えた家事だったが、恭一郎の学生時代とは異なる家電製品らに戸惑いの連続。

買い物もうまくできず、初日から理恵子の叱責を浴びるのだった。

 

理恵子も20年ぶりの大学生活に戸惑いの連続だ。

また、同時に二つのことができない理恵子はバイト先でも固まってしまう。

高尾の鷹梨大学に進学したケンタ先輩の応援にいったり、友人律子に連れられてテニスサークルの新歓コンパに参加したり、と大忙しだった。

 

入れ替わりの原因が、理恵子の実家の桃にあるのではないかと睨んだ恭一郎は3人で実家の裏山に登るのだった。

 

前作は人格が代わったあと、なるべく身体に合せた振る舞いをしながらも、少しずつ”地”が出てくることが好結果を生み出して、物事を進めていくという話でしたが、どうも今回は違う。

会社の話であれば、今回は小梅恭一郎の指示を受けてロボットのように動いただけで、小梅らしさはどこにもありません。結局のところ、最後の一押しも恭一郎理恵子の姿のままやってしまうわけですから。

主婦という立場についても、大変さを恭一郎が思い知ったというだけで終わりで、何らかの進捗が見られるわけではありません。

小梅の立場もそうで、理恵子理恵子らしさを前面に出したわけですが、それで小梅自身の何かが大きく変わったようでもない。むしろ、小梅自身が恭一郎の姿でケンタに会いに行くことで父親公認の形を自身で作り上げるなど、姿は変われど自力で物事を動かしています。

その意味では、前作に比べると面白さは半減かもしれません。

また、こういった諸々の事件でとっちらかってしまった現状とどのようにつきあっていくのか、どのようになったのかといったところが、わからないままだったのが残念。

特に、結果的には桜木役員を告発するようになってしまった恭一郎の運命や如何に、というところですね。結局桜木役員はお咎めなしにはなったものの、部下に裏切られたわけですから、その報復は恐ろしいのではないでしょうか。

おそらく、もう続編はないでしょうから、ちょっと落ち着きの悪い終わり方だったといえるのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『パパとムスメの7日間』 五十嵐貴久

Papatomusume 2009年、冊目。五十嵐貴久『パパとムスメの7日間』

事故で、父親と娘の人格が入れ替わってしまうという話。

どこかで読んだような、ありふれた題材で、内容も奇を衒わずオーソドックスなんですが、それでも十分に楽しめました。

細かいところが巧いんでしょうね。ワクワクしながら、先へ先へと読み進めてしまいます。

 

川原恭一郎(47)は化粧品会社光聖堂の宣伝・広報部の副部長。

広報部といってもラインからは外れた部署。社内でも象の墓場と呼ばれている。

そんな恭一郎だったが、8カ月前、新商品開発プロジェクトのチームリーダーに任命された。

光聖堂商品開発研究所が開発に成功したフレグランスを、伝統的に光聖堂が弱かった若い世代を対象にした新商品として開発してはどうかと、渡辺社長が役員会で口走ったのが、そもそものプロジェクトの発端だ。

光聖堂は”スーパービューティー”シリーズを中心とした基礎化粧品のラインナップを中心に、高品質で顧客からの信頼を勝ち取っていたが、その成功に胡坐をかくあまり、地盤沈下はゆっくりとだが確実に進んでいたのだ。

本来は新商品開発は企画開発部が担当すべきところだが、かつて失敗した経験もあるフレグランスのこと。どの部署も尻ごみした。

しかし、社命は社命である。最終的にババを引かされたのが、広報部だった。

広報部の植草部長は各部署から人員を出してプロジェクトチームを結成することを役員会に進言し、そのチームリーダーに副部長になったばかりの恭一郎を据えた。

プロジェクト開始早々は意気軒昂だったメンバーだったが、予算やマンパワーなど、少しずつ骨抜きにされていく中で、モチベーションは下がる一方だった。

結局は既存の枠組みからはみだすことのない商品「レインボー・ドリーム」を新商品として売り出すことになってしまう。

この毒にも薬にもならない案件は既に各方面に根回しが終わっており、10日後に行われる御前会議に向け、プロジェクトメンバーは資料の作成や部署間の調整に追われていた。

しかし、恭一郎はリーダーといっても名ばかりで、お飾りでしかなかった。同じ広報部からのメンバーである中嶋からも疎んじられているのが実状だ。

唯一、チームメンバーの中で恭一郎の味方は秘書課から参加している西野和香子だけだった。西野は誰もが嫌々やっているこのプロジェクトが好きだという。

 

恭一郎の娘小梅(16)は高校2年。

友人律子の紹介で、サッカー部のケンタ先輩と付き合い始めたばかり。次の土曜日に初デートが決まっていた。

かつては”パパ大好き”だった小梅も、今や恭一郎を避けるようになっていた。

会話は勿論、休日の食事も別々になった。この1年ほどは挨拶さえない。

そればかりか、恭一郎の下着と自分の衣服を一緒に洗濯するのを嫌がるようになった。恭一郎のあとに風呂に入るときは、お湯を入れ替える。

 

恭一郎の妻理恵子の母が亡くなったとの連絡が会社の恭一郎と高校の小梅に入る。

上総亀山にある理恵子の実家は木更津からローカル線の久留里線で1時間以上行ったところにある。乗り継ぎは悪く、電車の本数も少ない。

漸く駅に辿り着いた理恵子小梅だったが、駅で待っていた理恵子の姉敏子は開口一番こう言った。

ゴメン、理恵子。母さん、生き返った。

脳溢血で倒れた母ひそかだったが、病院へ運ぶ救急車の中で、目を覚ましたのだ。

遅れてかけつけた恭一郎も駅のホームで呆然と立ち尽くすだけだった。

ひそかの様子を見るために残る理恵子と別れ、翌朝5時、恭一郎小梅は始発電車に乗り込んだ。

会話もないまま電車に揺られていた2人だったが、下から突き上げる衝撃と「緊急停止!」のアナウンスの後、横倒しになる車両の中、なぎ倒されて意識を失った。

千葉県北西部を震源地とした地震によって、久留里線が脱線したのだ。

病院で気が付いた恭一郎小梅は驚愕の事実に直面する。

恭一郎小梅の身体(人格)が入れ替わっていたのだ。

御前会議を直前に控えている恭一郎と、ケンタ先輩との初デートを土曜日に控えている小梅は、何もできるとは思えない医師たちに、この入れ替わりの事実を語ることはなかった。運がよければ、明日にでも元に戻るだろうと・・・。

しかし、一夜明けて木曜日になっても元に戻ることはなかった。

腹をくくった恭一郎小梅はそれぞれの務めを果たすことにする。恭一郎はムスメとして高校に、小梅はパパとして会社へ。

恭一郎小梅を取り巻く、現在の高校、友人との付き合いに戸惑うが、同様に小梅も”やる気のない”サラリーマンの在り様、責任を回避するためだけに労力を費やす会社のあり方に驚くとともに、恭一郎にも同情するようになっていく。

元に戻ることなく土曜日を迎えた小梅は、恭一郎ケンタ先輩とのデートの代行を依頼する。これには恭一郎もほくそ笑む。自分の手で小梅の交際を自然に妨害することができるからだ。

映画を見ることになった小梅恭一郎)だったが、ケンタの選んだ映画は池袋新文学座での”ルキノ・ビスコンティ特集”。(ケンタは寝てしまったが)懐かしい映画に、素直に楽しむ小梅恭一郎)だった。

その後、向かったマクドナルドで、小梅恭一郎)は”大食い”で、”彼を行列に並ばせて、一人で座ってしまう身勝手な女の子”を演じる。

見張っている恭一郎小梅)は気が気ではなかったが、意外な素顔を見せる小梅恭一郎)の姿に、ケンタは素直に好感を持ったようだった。

 

迎えた御前会議では誰もが責任を回避する中、原案通りに決まろうとしていたが、最後に渡辺社長はチームリーダーである恭一郎小梅)に発言を促した。

やる気のないプロジェクト、内向きな思考しかしない新商品開発に疑問を感じていた恭一郎小梅)は、買い手の立場でつい本音を語ってしまう。

売れないと思いますよ

価格面、販路面での限界を語る恭一郎小梅)の言葉に、誰もが唖然としたり、有望さを感じながらも、責任を取りたくないばかりに発言を控えてしまう。そんな役員の姿を見ながらも、渡辺社長が下したのは、「恭一郎の責任」で修正案を実現すること。

恭一郎小梅)は決まってしまってから、己の発言を後悔するが、時既に遅し。

しかし、フロアに戻った恭一郎小梅)を迎えたのは意外な声だった。

やっちゃいましたねぇ・・・・・・でも、リーダーの言う通りだと思いますよ

プロジェクトメンバーは恭一郎小梅)の発言に発奮していた。同じく、会社のこれからに危機感を感じていた社員たちも、御前会議の様子を社内LANで見て、協力を約束してくれたのだ。

そんな恭一郎小梅)に恋心を伝えたのは西野和香子である。そんな西野にムカつく恭一郎小梅)は、娘を材料に、西野を拒否する。

携帯電話で御前会議の様子を聞き、青ざめていた小梅恭一郎)だったが、事態は思わぬ方向に進んでいるようだった。しかし、すべてを確認したい小梅恭一郎)は駅まで恭一郎小梅)を迎えにでるが、西野が自宅の前で小梅恭一郎)が出てくるのを待っていた。

恭一郎との間で障害となる小梅を亡き者にしようとする西野小梅にナイフを向けた。

 

小梅との関係は何となく笑い事じゃないんですよね。

うちのムスメもこんな風になったらどうしようって、思ってしまいます。

話自体は”御前会議で小梅が本音を語って、成功しちゃうんだろうな”というのは、最初から見えているので、そのあたりの意外感というのがない分、ちょっと興ざめの部分はあります。しかし、わかっていても面白く読めましたが・・・。

ただし、女子高校生になった恭一郎の奮闘は面白かったものの、あと一歩という感じでしょうか。何となく表面的なところで終わっていて、これもまた意外感がないというか、目新しさは感じませんでした。

全般に小市民的というか、非常にミクロの話に終始しながら、全体がうまく閉じていく感じは気持ちがよいですね。予定調和というか、話自体もうまく終結しており、よくできた作品になっています。

さて、この作品、間もなく続編『パパママムスメの10日間』が出るんですよね

是非、読まなくては。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★★

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『土井徹先生の診療事件簿』 五十嵐貴久

Doitoru 2008年、234冊目。五十嵐貴久『土井徹先生の診療事件簿』

動物語のできるドリトル先生(≒土井徹先生)のもじりですね。

なんだか妙な設定の主人公立花令子土井徹先生の助けを借りて事件を解決(?)するという話。

非常に軽めの話で、事件の複雑さもなく、というか、本当にその推理で大丈夫?と言いたくなるような、思い込みともとれる土井先生の話を令子が真に受けるというというストーリーになっています。

 

立花令子は南武蔵野署の副署長。

父親はノンキャリアながらも非常に有名な警察官だったが、5年前に係わった殺人事件の最中、何者かに襲われ殉職した。(二階級特進で警視正)

就職戦線に乗り遅れた令子は母の勧めもあって、公務員試験(国家公務員Ⅰ種)を受け、あっさり合格する。令子は東大卒で頭が良かったのだ。

立花警視正の娘は、他の省庁には渡せない

合格が決まった時点で、警察庁は面子にかけても令子を取得しようと他省庁に働きかけ、令子はめでたく(?)警察庁に入庁することになる。

警察大学校での研修、再研修のあと任命されたのは三多摩と二十三区の境にある南武蔵野署の副署長というポストだった。

しかし、現場に出る必要もない副署長には何も仕事がない。日がな一日ゲームをしたり、お茶を飲んだりの毎日だ。

 

老人と犬

佐久間署長から依頼されたのは警察OBである小山田伝一郎の相手。

命を狙われているという被害妄想気味の小山田のもとへ、令子は老人のカウンセリングのつもりで向かった。おともは、巨体ながらも女っぽい鳥井刑事だ。

小山田邸で、令子は、犬(ダックスフント)トムの診察に来ていた獣医(土井動物病院院長)土井徹と孫娘桃子に出合う。土井は動物と話が出来るのだと桃子は得意げに語る。

会ったばかりの土井だったが、令子は昔から知っているような親しみを感じる。

小山田老と面会した土井トムの病状と小山田老の様子から砒素中毒を疑った。

 

奇妙な痕跡

署長室との間には立て付けの悪いドアがある。

十日前の朝の定例会議から戻ると、何者かが令子の机を触った痕跡が残っていた。

部屋には鍵をしており、可能性はロリコンとも噂される署長の部屋からの侵入が疑われた。

そんな矢先、署長の電話の声が聞こえてきた。

いやアダルトはまずい

宅配?駄目だって、女房に見つかったら・・・。子供?待ってくれ、それなら話が違う。それは・・・

 

かえるのうたが、きこえてくるよ

日曜日の公園を散歩している令子佐久間署長からの電話。

殺人事件です

事件現場に立ち会って欲しいという署長の求めに、現場のマンションに向かった令子だったが、そこでは鳥井刑事が犯人を確保していた。

被害者はサラリーローンを展開するカヤマローン社長佳山義則

窃盗常習犯野々村貞三が犯人だ。

野々村佳山を殺したところを、偶々佳山宅を訪ねた宅配便の配達員大林が取り押さえたのだ。

しかし、野々村佳山は既に死んでいたと主張する。

 

笑う猫

吉祥寺の二大名物屋敷の一つ。猫屋敷。

大伴美佐江という老婆(85歳)は屋敷に88匹の猫を飼っていた。その異臭に近隣住民から苦情が寄せられる。

息子夫婦も早くに亡くし、孫正人も引きこもり。

親戚の娘松前佳美が時折面倒を見にいくのだが、猫の苦情を美佐江に伝えてもなかなかラチがあかない。

佳美佐久間署長に相談し、令子には美佐江の説得が命じられたのだ。

百匹近い猫の屋敷ということで、誘いを受けた土井も興味津々。

恐るべき異臭に閉口する令子土井鳥井だったが、美佐江に笑いかける猫に目を見張る。

 

おそるべき子供たち

令子は派手好きで社交的な母の依頼を受ける。料理教室で知り合った友人川越の相談を持ちかけてきたのだ。

川越は中一の息子良雄が万引きをしているのだと令子に打ち明ける。

川越宅に赴いた令子が目にしたのは、30冊にものぼる、いわゆるエロ本だった。

 

トゥルーカラー

副署長という肩書もあって、なかなか同年輩の友人ができない令子にとって数少ない友人は鑑識係、警察犬の訓練士竹内冬子(30)だ。

雄のシェパードカールを洗いながら、冬子令子に相談した。

最近、カールのシャワーのときに使う石鹸が頻繁になくなるのだという。簡単には破れない赤い網の袋が、鋭利な刃物状のもので切られ、この一月で7、8回も盗まれているのだ。

犯人は最近見かけることが多くなったホームレスだと睨んだ令子は、土井に自身の名推理(?)を得々と語る。

 

警官殺し

父の元部下近藤巡査が殺された。

何か令子に話があるような素振りを見せていた近藤だったが、それを令子が聞く前に、殺されてしまう。

身内の殺害ということもあって、南武蔵野署の意気込みは高く、早々に検問が敷かれた。

逃げ切れないとみた犯人は自首をしてきた。東京進出を図っている関西の暴力団砥川組の先鋒部隊の一人大蔵尚也だ。

武蔵野地区を仕切るテキ屋を中心とした互助会前田組を目障りに感じた大蔵は前田組代表桜田順哉の殺害を狙っていた。

闇ルートを通じて拳銃の入手を図っていた大蔵だったが、桜田が少数の警備で外出するという情報を受け、悠長に拳銃の入手を待っていられずに、近藤巡査の拳銃を狙ったというのだ。

大蔵の自首は砥川組若頭安田隆次の説得によるものだ。警察組織を敵に回す危険を察知した安田は組長砥川弦蔵の了承のもと、大蔵に自首させた。

事件は一件落着かと思われたが、土井大蔵の証言に嘘があることを指摘する。

拳銃を盗むために偶然近藤を殺したのではなく、近藤を殺すことが目的だったのではないか。

令子はこの事件の真相を調べることを決意した。

 

続くんですね、これ。

なんだかお気楽な話が多いんですが、最後に引きずった事件が令子の父殺害の犯人に繋がっていくんでしょうか。

老人と犬」であったようなドリトル先生ばりの動物と話すという設定は結局どうなっちゃったんでしょうか。その他の話はちょっとできる獣医といった感じでしかありません。

そういった意味で土井徹先生にあまり個性がないので、ちょっとキャラクターで引っ張るには弱いですね。だからといって、ストーリーが優れているかといえばそうでもないので、全般に作品としての魅力は必ずしも高いとは言えないでしょう。

まぁ、軽く頭を休めるためのような作品といった感じでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『誘拐』 五十嵐貴久

Yukai 2008年、186冊目。五十嵐貴久『誘拐』

タイトルの通り、”誘拐”(誘拐する側)を題材にした話です。

ちょっと出だしが暗い話なので、ちょっとキツイ感じではありますが、誘拐に着手してからはテンポ良く、ストーリーが展開して楽しい。

身代金の受渡しはなかなか新味があって良かったのですが、ちょっとストーリーに拘るあまり、登場人物に深みが出なかったことや、結末に釈然としないところが残ったのは残念。しかし、総じて、(背景はやたらと暗いのですが)軽快なストーリーに引き込まれる良作だと言えるでしょう。

 

秋月孝介(38)は大角観光の人事部人材開発課長。社員のリストラ告知が仕事だ。

それまでの信頼を裏切るかのように、言葉巧みに大角観光の経営に介入するようになった千葉県の地銀トキワ銀行は大角観光のリストラを推し進めた。社員の士気を低下させるリストラ策に担当者である秋月は抵抗したが、リストラを強引に進める経営陣の前に蟷螂の斧でしかなかった。

今回のリストラ対象は秋月の先輩葛原幸雄(47)だ。リストラ対象からの除外を訴え、対象者に決まった後は再就職先探しに奔走した秋月だったが、葛原を救うことはできなかった。そして葛原は妻美香子(40)、娘和美(13)とともに電車に飛び込んだ。

事件に打ちのめされた秋月だったが、更に、帰宅した秋月を待っていたのは娘宏美の非難の声だった。葛原の娘和美宏美の親友だったのだ。

・・・・・・パパが・・・・・・葛原のおじさんを殺したんだ

そして翌朝、宏美はベランダから飛び降りた。

葛原の親族の怨嗟の声、宏美の死に耐えられなかった秋月は会社に辞表を提出した。

 

それから半年。北朝鮮を仮想敵国とした日米韓の軍事同盟ともとれる「新・日韓友好条約」の締結のため、韓国の金腱民大統領が来日する。北朝鮮によるテロを警戒する警察庁は警視庁を中心に大々的な警備体制を組んだ。警視庁警察官4万5千人のうち3万5千人を動員するのだ。

秋月は、片町パーキングに「条約反対」を謳う声明を付したダイナマイトを仕掛けた車を放置し、更に警察の北朝鮮への警戒心を煽った。結果的に警視庁では警官3万8千人の動員が決定した。

そして、大統領来日を2日後に控えた8月12日。各所の警戒準備が進む中、秋月は元同僚関口純子とともに、小児喘息の治療のため皇山病院を訪れた総理大臣佐山憲明の孫百合を誘拐することに成功する。

関係者は慄然とするが、もはや準備の整った警戒体制の変更は難しく、誘拐への対応は予備隊を含めた最大2千人でしかない。百合を溺愛する佐山は専門チームを組成して即時解決するよう国枝政俊警察庁長官、永松警視総監に厳命した。

特殊捜査班一係班長荒巻啓秋警視正(41)をヘッドとして捜査は開始されたが、捜査は杳として進まない。一般人を介して秋月が要求したのは「条約締結の中止」と「活動資金30億円の準備」の二つ。手掛かりもないなか、犯人は北朝鮮の工作員と目した荒巻らは公安の協力も得て、北朝鮮関係者の摘発を始めるが勿論何も見つからない。

郵便を利用して、百合の危機を暗示する秋月の揺さぶりに佐山は疲弊の極にあった。

更に郵便で届けられた要求は「30億円を十分割し、10台の同種・同色の車で成田空港に向かわせること(8月14日朝7時に佐山総理私邸を出発)」だった。

犯人との接触・逮捕の期待に色めきたつ捜査本部は千葉県警の協力も得て万全の態勢で車を送り出した。

一方、来日した大統領を待たせ、佐山憲明は苦悩を続けていた。百合が解放されないうちは条約を締結しないと言い募る佐山遠藤官房長官は国益を説いていた。

秋月は金を奪うつもりはなかった。安全に百合を解放するために、警察の注意を東に逸らしたのだ。中野サンプラザ前、薬で眠らせた百合を車内に残し、関口純子百合の祖母秋子へ解放の旨のメールを送信した。

辛うじて、条約締結は成る。無事に帰国する金腱民大統領を見送り、私邸に戻った佐山秋子から一枚の紙を見せられる。百合のスカートに入っていた犯人(秋月)からの更なる指示書だった。

踏ん切りをつけた佐山は指示に従う。

静養を前にした記者からの取材で、佐山は今後の最重要課題として経済復興、金融機関の健全化を挙げ、銀行経営にも大鉈をふるうことを告げる。そして記者の質問に答える形で具体的な銀行として「トキワ銀行」の名前を挙げたのだ。

この発言を受けて、金曜深夜にもかかわらず、人々はコンビニATMに走った。トキワ銀行だけでなく、その他の銀行にも取り付け騒ぎは波及するという金融パニックの様相すら呈し始めたが、佐山は病気療養と称して入院し、失言を取り消すことはなかった。

日々、銀行の株価はストップ安のなか安値を更新していく。トキワ銀行の株価は498円から38円にまで至る。ここで秋月は退職金等を利用して、トキワ銀行株に買いを入れる。

期を一にして、退院した佐山が失言を詫び、発言を撤回すると、株価は反騰に向かった。

誘拐事件の謎の終結、続く金融パニックに疑問を持っていた特殊捜査班二係の星野警部(45)は、一連の事件として捉え、犯人に迫っていく。

佐山の私邸を監視できる場所をローラーで探したうえ、金融庁にトキワ銀行株の安値購入者の一覧を提出させると、不審な人物が浮かび上がった。秋月が犯行のために掏り取った免許証の持ち主大上信久(70)である。

 

誘拐の件は非常に楽しく読めたものの、以下のとおり、まぁかなり無理があったり、釈然としない点が多いですね。

①.中途半端な設定の登場人物が多い。

関口純子の加担は結局何だったんでしょうか。かなり唐突な登場で、参加の背景も最後まで語られることはありませんでした。

最初は重要な役どころを担うような書きぶりだった、科学捜査研究所特別捜査官吉川巡査部長ですが、結局途中でフェードアウトしてしまいました。

②.主人公秋月が人間らしくなく、魅力・実在感に乏しい。

娘を亡くしたわりには、非常に立ち直りが早いというか、人間的な弱さを殆ど見せない秋月の異質さにはちょっと違和感を感じます。

トキワ銀行のやり口に義憤も感じていないようにも見えるし、最終的にはトキワ銀行も救ってしまうという性格はあまりにも「いいひと」。もうちょっと人間ってドロドロしているだろうし、恨みは持つものだと思うが、それがない。

③.中途半端な(間の抜けた)手口の数々。

佐山家を見張れる場所に潜伏するというのはあまりにも稚拙だし、免許証を本人名義で返却するというのも、誘拐時の細心さと比べると別人のようにいい加減で、誘拐事件を通しての一貫性がありません。

近接したタイミングで相場操縦を行えば、見破られるのは当たり前。その意味では計画が稚拙。

作品中でも指摘されるように、人の善意を信じたような不確実な計画で、こういった大きなことを為し得るかというのは非常に疑問。

④.曖昧さの多い捜査陣。

星野は安値購入者を対象に絞って秋月にまで至ったが、今回のケースで稼ぐには、高値で信用売りするという手口もあったはずで、手掛かりをつかめたのは偶然に過ぎない。慎重を期す犯人ならトキワ銀行でない、信用不安のある銀行で取引したり、そういった複数の銀行に分散するはずで、星野の発見は偶々。

星野は、「風評の流布」での立件を語るが、百合の誘拐事件を公開せずに、風説の流布は説明できないのではないか。即ち、「風説が何だったか」、「誰にどのように流布させたのか」ということが明らかにされないとならないが、誘拐事件が公開されない以上、この説明がつかないのではないか。

 

面白かったんですけどねぇ。

こうやって見ると細かいところにいろいろボロが出てきてしまいますね。マジメに読むというよりも、いっそのことファンタジーであるかのように読むのがいいかもしれません。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★☆☆☆

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『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』 五十嵐貴久

1995 2008年、138冊目。五十嵐貴久『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』

非常に楽しい話です。40代の素人ガールズ(?)バンドの奮戦記といったところでしょうか。家族ものというよりも、年齢は少々いっているものの、遅れてきた青春小説といった印象の作品です。

6つの章に分かれていますが、(わかる人にはわかると思いますが、)すべてDeep Purpleの曲名。

Black Night / Strange Kind of Woman / Speed King / Child in Time / Highway Star / Burn

そもそも作品のタイトルからして、”Smoke on the water”ですから・・・。



1995年は、暗い年だった。1月の阪神・淡路大震災、3月の地下鉄サリン事件。

井口美恵子(44)も家庭に厳しい問題を抱えていた。息子真人が高校受験に失敗し、中学浪人になってしまったのだ。夫幸輔はキノシタ製薬の商品研究所で研究員。家のことには口を出さない。

家に閉じこもることの多い真人に気をつかって、美恵子の神経は磨り減っていく。

そんなところへ、美恵子の悪友友坂かおから電話がある。お金を借りたいのだという。

かおりは幼稚園に始まり、小学校を除いて高校まで一緒という腐れ縁。いわゆる優等生の美恵子と男出入りの激しい非行少女かおりに接点は殆どなかったが、なぜか付き合いは続いている。かおりはバツ2の経歴の持ち主で、今も55歳の会社役員と36歳のサラリーマンと二股をかけている。

マルチ商法の会員だった36歳のサラリーマン(アベ)に嵌められ、40万円が必要なのだ。

少なからぬお金に困惑した美恵子だったが、真人との気まずい関係から逃避したいという思いもあり、コンビニエンスストア”フォー・リバース”へ働きに出ることにした。

そこで出会ったのが立花雪見(34)である。万引きを見つかった雪見は涙ながらに美恵子に訴える。夫(41)の転勤続きで東京に知り合いもできず、つまらなかったのだと。

その話を聞いたかおりは憤慨するとともに、電話で国立駅前の小料理屋”こい出”に雪見を呼び出した。真っ青な顔で慌てて駆けつけた雪見だったが、かおりと意気投合し、そのうち3人はなぜか肩を組んでカラオケボックスで熱唱していた。

そこで出合ったのは高校時代の思い出の洋楽、Deep Purpleだった。その興奮のまま、かおりが言い出した。

ねぇ、すっごいこと考えついたのよ。あのね、バンド作んの。あたしとあんたと雪見で。あたし、キーボードやる。昔やってたから。あんたボーカルやんなよ、歌うまいし。雪見って何か楽器とかできんのかなぁ

雪見、ドラムやります

素人だけのバンドなんて・・・。主婦の立場もあるのに・・・。真人も中学浪人なのに・・・。

美恵子はコンビニの高校生(真人の失敗した紅陽高校3年)バイト石川孝博かおりらの説得を依頼する。バンドをやっている石川に、いかに無謀であるかを諭してもらうのだ。

しかし、どうしてもやりたいというかおりにほだされ、条件をつけて同意する美恵子

ギター、キーボード、ドラムだけではバンドは出来ない。「どっかでベーシストを探してこれるんだったら、考えてもいい

そして、「フォー・リバース」に貼り紙が貼られた。

『急募・ベーシスト。ただし、40歳以上の女性に限る。経験者優遇。リーダー待遇も可』

当然ながら20日たっても応募はなし。しかし、21日目にベーシストが現れた。

長身。ソバージュの長い髪はお尻まで届き、頭にはカウボーイのような帽子。丸いレンズの茶色いサングラス。ダークな黒、濃紺、茶、グレー、褐色のパッチワークのシャツに、濃紺のジーンズ、足元はウェスタンブーツ。年齢不詳。

そんな70年代の遺物が、広田新子(46)だ。ギター歴30年、ベース歴20年の元プロは、実態を知ってもなぜかメンバーに加わった。

そして新子のスパルタ教育が始まった。全くド素人の美恵子雪見は当然のように苦戦する。雪見はあろうことか、ドラムなのにリズム感がなかった。美恵子の進歩はカタツムリ並み。

特訓をはじめて約2カ月、11月中旬に、ぼろぼろではあったが、とうとう「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を完奏した。誰かに聴かせたい。そんな美恵子たちの前に恰好の舞台が用意された。

『紅陽高校生徒会主催:阪神・淡路大震災/チャリティー・ライブ/12/24』

更に練習はハードなものになっていく。しかし、美恵子雪見もバンドのことは家族には内緒だった。



美恵子かおり雪見の会話が非常に楽しい。

また、素人ながらに無謀にもバンドに挑戦するという設定が非常にワクワクします。勿論、舞台自体は大したことはないし、そんなにびっくりするほど巧くなるってわけもないんですが、それはそれで気持ちの持ちようです。スポーツなどの試合と違って、はっきりとした勝ち負けではありませんが、どこまで出来るのか、失敗したりしないか、という期待・不安がないまぜになったような感じが非常によく伝わってきて、飽きさせません。

勿論、最初からまぁハッピーエンドであることは約束されたような話ではありますが、それでいて次々と先を読みたいという気持ちにさせます。今、ちょっと寝不足です。

タイトルだけでみれば、『2005年のロケットボーイズ』『1985年の奇跡』の間にくる作品のようですね。次は何年を舞台に、何を素材にしてくるのでしょうか。

お奨め度:★★★★★

再読推奨:★★★★

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『1985年の奇跡』 五十嵐貴久

1985nen 2008年、136冊目。五十嵐貴久『1985年の奇跡』

青春+スポーツ小説というには、ちょっと不真面目な内容(野球への取り組みは中途半端)ですが、まぁ実際にはこんなもんなんでしょう。称揚すべき青春、野球賛歌というよりも、等身大の(というよりも、部というのもおこがましい)野球部の1985年の夏の甲子園予選、秋季大会の模様です。



都立小金井公園高校。5年前、”悪魔のキューピー”こと中川善彦が校長に就任して以降の進学校化推進と、平仄を合わせて行われた学校の管理教育体制は、生徒の意欲を甚だしく減退させていた。

当然、運動部の活動自体が常に中川校長の監視の目が光っており、いつ廃部になってもおかしくない状態。野球部もそんな環境のもと創部以来8年、公式戦、練習試合を問わず勝ったことはない。

勿論、練習も月水金の3時から5時と定められ、練習環境もショートのすぐ後ろがレフトといった長方形の狭いグラウンドと劣悪。そんな中で、部員も練習に身の入るはずもなかった。

野球部のメンバー。

岡村浩司(通称:オカちゃん。2年F組、身長172センチ、体重65キロ):じゃんけんで負けてキャプテンとなった。(作品の語り部)

神保亨(通称:カンサイ。2年、キャッチャー):中学まで大阪にいたので、吉本興業の芸人のように喋る。

池田和義(通称:カズ。2年。一応、小金井公園高校のエース):通算成績は0勝7敗。取ったアウトの数よりも打たれたヒットの方が多いという珍しい記録の持ち主。

飯塚博史(通称:イートン):岡村と中学時代に野球部でチームメイト。小金井公園高校の中で唯一まともなプレーができるレベル。

安藤(通称:アンドレ):身長180センチ、体重120キロ。大相撲の二子山部屋からスカウトが来たほどの巨体だが、虫も殺せないほどの優しい性格。

小田三兄弟:双子の兄弟の裕一郎(通称:兄ちゃん)と裕二郎(通称:小兄ちゃん)。11カ月遅れの末っ子里志。すべて1年生。

鴨下譲二(通称:鴨、1年生):野球部一の遊び人。野球部位置のお祭り男。

9人ぎりぎりの野球部では練習そっちのけで、「夕やけにゃんにゃん」で誰が一番いいかに明け暮れる毎日。

そんな小金井公園高校に転校してきたのは沢渡俊一岡村飯塚と中学時代のチームメイトの沢渡はエースとして、野球推薦で神奈川県の名門海南高校に入学したはずだった。

左肘を壊して野球が出来なくなった負い目から海南高校から転校してきたと語る沢渡に、野球部の面々はマネージャーやスコアラーとしての野球部参加を働きかける。

長身、スポーツ万能、成績優秀、眉目秀麗、性格も優しいし周りにも気をつかうという、時ならぬ王子様の登場に、色めきたつ女生徒。野球部はそのおこぼれを狙おうとしたのだ。

ところが、とある引ったくり事件に遭遇して事態は急転回する。引ったくりをとめるために投じた沢村のボールは70~80メートル離れた引ったくりの頭部を捉えたのだ。

これで1勝できるかもしれない。

引ったくりの被害者高橋真美(西園寺女子学院)のマネージャー参加もあり、俄然活気づく野球部だったが、それはメンバーが自身で努力するということではなかった。沢渡が一人で抑えた勝利に便乗するというもの。

迎えた夏の甲子園大会に向けての西東京地区予選。1回戦は西東京でも有数の強豪校、私立藤海学院。とても勝てない相手と思われたが、沢渡は完全試合(2-0)を成し遂げる。2回戦、市立国分寺第一高校を7-0で下し、3回戦は私立北陽高校を3-0。4回戦、市立立川ニ商に勝ち、5回戦では前年の夏の甲子園出場校帝国大学付属高校を3-0で撃破し、とうとう準決勝まで駒をすすめた。

しかし、準決勝で対戦した墨山高校戦で事件は起こる。9回表、1-0でリードし、マウンドに上った沢渡に墨山高校の応援団から「おかま」コールが浴びせられる。

もう投げられない」とマウンドを降りてしまう沢渡の後をまかされたカズだったが、一挙8点をとられ、試合は1-8で負けてしまった。

沢渡はホモ(同性愛者)だった。海南高校からの転校も左肘の故障が原因ではなかったのだ。全校生徒の応援も、試合の幕切れが、「おかま」コールによる無様な惨敗に終わったこともあって、学校での野球部への視線も厳しい。

野球部の責任を言い募る中川校長に対し、沢渡は不祥事の責任をとるかのように退部届を出し、野球部は当面休部とされた。

沢渡に憤る野球部の面々だったが、そんな彼らに意見したのはマネージャーの高橋真美だった。沢渡の裏切りへの憤りは拭えないものの、それ以上に汚い墨山高校へ一矢報いるべく野球部は(休部ながら)秘かに動き始めた。

渋る沢渡を(選手ではなく)コーチとして担ぎ出し、練習場所も高橋真美のつてで西園寺女子学院のグラウンドを使わせてもらえることになった。こうして野球部にとって、初めてまともな練習(半死半生)の日々が始まった。

中川校長の妨害もなんとか振り切り、迎えた秋季大会。なんとか形になったばかりの野球部だったが、くじ運にも恵まれ、1回戦、私立朋桐高校に2-1。2回戦、八王子実業第二高校に6-2で勝利。3回戦は対戦相手の古豪松川学院が不祥事で出場辞退のため不戦勝。

そして、4回戦は墨山高校に決まった。

岡村は投手に沢渡を指名した。拒絶する沢渡岡村は説得するが、頑として沢渡は肯わなかった。

試合当日、沢渡は現れない。かわりに現れたのは中川校長だった。「君たちは退部した沢渡くんをピッチャーとして(試合に)登録した。既にこの時点で高校野球の規則を破っていますし、小金井公園高校の校則をも無視しています



「おかま」コールくらいで折れてしまうひよわな投手というのは、こういった小説の主要登場人物としては何だかなぁと思わないではありません。ただし、話の展開として、最後の墨山高校戦を巡るやりとりは非常に盛り上がります。(ちょっと最後の最後はヘタレですが)岡村とか、(逆に男前の)高野聖子の活躍がいいですね。

しかし、試合の結果だけが示されて、試合の展開は示されないので、ちょっと、そのあたりが消化不良でしょうか。

甲子園での話でなく、予選の決勝でもないところが渋いとでも言えるんでしょうか。微妙なところをついてきますね。西東京だから優勝していませんが、他の地方だったら、これだけ勝ったら優勝して甲子園に行ってしまいますけどね。

試合経過という意味ではちょっと物足りないという気はしますが、試合以外の野球部の怠惰な日々がごく普通の1985年の高校生という印象を与える作品になっています。

そういう意味ではスポーツ小説というと語弊がありそうですが、十分楽しめる作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『年下の男の子』 五十嵐貴久

Toshishita 2008年、111冊目。五十嵐貴久『年下の男の子』

いや、なかなか読者のターゲットが狭い作品ですね。タイトルから想像がつくとおり37歳の主人公川村晶子の年下(23歳)の男の子(児島くん)との恋愛話ですが、非常にじれったいというか、話の進み方が遅々としていて、どうも堪りません。所詮、男にはわからない話なんでしょうか。



37歳にして池袋から電車で30分、2LDK、3千8百万円の新築マンションを買ってしまった。とうとう、やっちまった。やっちまったよぉ。

川村晶子は銘和乳業広報課の課長補佐。マンションを買った翌日、晶子は生まれて初めて本物の土下座を見ていた。取引先のPR会社青葉ピー・アールの横山部長児島達郎である。春の主力商品である健康バランスドリンク”モナ”の宣伝のためのフリーペーパーに”モナ”の定価を入れるのを落としてしまったのだ。青葉ピー・アールの銘和乳業担当者石丸の不始末だったが、石丸嬢は青葉ピー・アールの親会社の重役の娘であったことから、児島は代理だ。

フリーペーパーの配布を明日に控え、もはや刷り直しはきかない。シールを貼ることで対応することを決めた晶子児島とともに、徹夜でのシール貼り。

お詫びに食事をごちそうしたいという児島だったが、今回の失態は晶子にも責任があり、謝罪される筋合いはない。加えて、23歳の児島と話題が合うはずもなく、億劫になった晶子は断るが、何度も誘う児島に根負けするような形で応じることになる。

ビジネスの延長のつもりの晶子だったが、なぜか落ちつかない。池袋の西風館(ならいだて)は創作フレンチの店。当初の予想とは異なり、児島との食事は楽しかった。帰り際、電車に乗る晶子児島は声をかける。「また、誘っていいですか

青葉ピー・アールの担当が石丸から児島に代わった。会社に顔を出すようにもなった児島は”また誘ってもいいですか”とメールで何度もアピールするが、14歳も年下の男の子と食事をするなんて晶子の常識ではありえない。晶子のつれない態度に消沈する児島だったが、晶子が引越しするのをききつけた児島の目が光った。「そうですか。引っ越しかぁ。そりゃちょっと、オレも頑張らないといかんですね

引越しを手伝った児島へのお礼は銀座のラーメン屋。児島のリクエストだ。やはり会話は途切れず相性はいい。しかし、児島は14歳も年下だ。

そんな頃、晶子に異動の話が持ち上がる。晶子の尊敬する宣伝部部長秋山は広報課から宣伝部への異動を仄めかす。秋山部長に誘われた食事でも再度異動を促される。

そんな秋山部長との食事に気が気でなかったのは児島だ。晶子を池袋のイタリアンレストラン”バンビーノ”へ呼び出した。「オレ、川村さんが好きなんです

宣伝部へ課長として異動することになった晶子は、代わりに広報課へ異動することとなった小川弥生児島に紹介するため、”バンビーノ”に児島を呼び出した。会社のアイドル的存在で、児島に好意をもっている新入社員の弥生を紹介することで、児島との間に生じたわだかまりを解消し、弥生の想いもかなえるという作戦だ。二人を残して店を出た晶子だったが、それは逆効果だった。児島との仲をこじれさせ、弥生には児島の思いを知られてしまう結果となった。

課長として晶子は”モナ”の販売拡大策の企画を求められていた。児島の先輩藤本が属する新興ファーストフードショップ”アスガルド”が新しいドリンク商品導入を検討していることを聞いた晶子は、児島の協力を得て”アスガルド”への参入を果たす。

そのお礼をきっかけに、期をおかずして付き合うようになったが、14歳の年の差を考える晶子は常に別れを意識していた。交際して5カ月目のクリスマス。六本木ミッドシティ”ラ・ルゴロワ”で、両親への挨拶を仄めかされた晶子は当惑する。更に深みに入って傷つくのが怖い晶子児島に別れを告げる。

そんなとき、社内での出世頭であり、尊敬もする秋山から晶子は交際を申し込まれる。



まぁ、なんとなく最初からハッピーエンドであろうことは予想がつきましたが、そこへ至る過程が、なんらかの波乱ではなく、37歳独身女性の”いじいじ””うじうじ”といった後ろ向きな発想の展開で費やされるのが、ちょっとイラつきました。男と女の見方は違うんでしょうが、ちょっと面倒くさいですね。

出会いについて

メールについて

ディナーについて

会議について

引っ越しについて

デートについて

告白について

紹介について

ご褒美について

×××について

交際について

別れについて

神様について

各章の見出しは「○○○について」とか、何となく取扱説明書のようです。37歳独身女性の取扱説明書とでもいった作りなんでしょうか。正直なところ取扱いは大変そうです。でも、こんなことを会社で言ったら、セクハラで訴えられそうですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『Field,Wind』 青春スポーツ小説アンソロジー

Fieldwind 2008年、77冊目。青春スポーツ小説アンソロジー『Field,Wind』

”青春”+”スポーツ”という、なかなか鉄板のような分野ではありますが、ちょっと意表をつかれたというか、ちょっと騙された印象の残る作品群です。6人の作家の短編集で、確かに程度の差こそあれ、各種スポーツは出てきますが、”青春スポーツ小説”というものの定義に若干異議を唱えたくなるような内容です。


『ロード』陸上(長距離)】 あさのあつこ

坂城亮平は酩酊し、正体不明となった翌朝。ベッドの中に黒い子犬を発見する。朧ろ気な記憶の中、飲み屋で捨て犬を押し付けられ、昔飼っていた犬ロードの名を子犬につけていたことを思い出す。

ロードの名から高校時代の陸上を、そして先日30年に満たない生涯を閉じた、陸上の先輩でもあった妻沙由美のことを回想する。


『サッカーしてたい』サッカー】 川島誠

独白するふたごの宮本兄弟。父親は刑務所へ、母親は男を作って逃げ、兄弟は愛生園という施設へ送られる。

サッカーの地区対抗試合。二人は愛生園のサッカーチームとして出場する。


『風を運ぶ人』ロードレース(自転車)】 川西蘭

下嶺陸はコーチの黒岩から南雲デンキ自転車部ジュニアクラブの新キャプテンの指名を受ける。

しかし、は既に、翼を持つ者と持たない者の違い、そして自身が後者であることも理解し、自信がなかった。

「みっともなくてもガンバレ」居候となった従妹香織の励ましの中、はチームの中での自身の役割を自覚していく。


『氷傑』アイスホッケー】 須藤靖貴

後藤恭司は実業団アイスホッケー部の正ゴーリー(ゴールキーパー)。

酒場の酔客に頭をビール瓶で殴られた恭司は大事をとって欠場した後、出番がなく、シーズン後引退することを勧告される。

勧告に従って、総務部に席をうつした恭司のもとに5年ぶりの父からの手紙が届く。

「もし従順なままで引退したのなら、いつか後悔することになる。お前は、従順さの欠けらもない親父の息子なのだ。一生を従順なままで過ごせるとは、とうてい思えない。従順さに背を向けるのなら今しかない。」


『バトン』陸上(1600mリレー)】 五十嵐貴久

朋陽高校3年、浅倉恭子(17歳)。彼氏は陸上部の同級生川島昭一

高校の陸上生活最後となる私立10校合同の体育祭で、恭子昭一とともに1600mリレー(400m×4)に参加する。他のメンバーは2年生の柿崎と同級生の若林優。しかし、は長距離選手で短距離の経験がない。

試合に備えて指導する昭一が親密になるのに時間はいらなかった。裏切られた恭子はリレーへの参加を棄権する。


『ガラスの靴を脱いで』【フィギュアスケート(ペア)】 小手鞠るい

佐藤可南子は今年2月の世界選手権大会で5位入賞のペアのスケーター。

しかし、ペアを組んだ渡良瀬流への告白、失恋を機にスケートをやめることを決心する。

翻意を促すコーチ純子の言葉に迷いながら、旅先のニューヨーク・ソーホーで出会った絵描きジャックの言葉。「あなたは、誰なのかな?」



狭義に青春スポーツ小説という意味では『サッカーしてたい』『風を運ぶ人』『バトン』の3作だけが該当するような印象を受けます。他は若干、背景としてスポーツが出てくるだけで、別に背景はスポーツでなくてもいいような内容です。『氷傑』はスポーツにおける引退について問いかける内容でスポーツを主軸とする意味では良いのかもしれませんが、”青春”っていう意味ではちょっと、という感じでしょうか。

青春スポーツ小説というジャンルをとっぱらってみた場合、それぞれ以下の印象を持ちました。

『ロード』 : 一言でいって女々しい。最後まで沙由美の死を吹っ切れておらず、今後も鬱屈した気持ちで生きていきそうな終わりかたで中途半端な感じです。これからロードとともに変わっていくという予感までいけば読後も心地よいのですが、これでは・・・。

『サッカーしてたい』 : 名前がなく、というふたごがそれぞれ独白するという構成にはちょっととまどいます。ふたごの背景がかなり暗く、すさんだ感じは受ける一方で、なんだかちょっと善人っぽい感じもあって、非常にアンバランスな子どもの感覚が伝わります。

しかし、なぜサッカーなんでしょう。そのあたりは全くわかりません。

『風を運ぶ人』 : セカンドウィンドの外伝です。南雲デンキ自転車部ジュニアクラブのキャプテン下嶺陸の葛藤とそれがふっきれるところを描いています。勿論、わずかではありますが、レースにおいてのの差配や駆け引きもあり、十分読ませます。

『氷傑』 : 引退話としてはオーソドックスなところでしょうか。”従順”というところが一つのキーワードになっており、一度は引退勧告を受け入れ、父親の助言で転身してしまうところなんかが若干異色かもしれません。出来れば、この出だしでアイスホッケーの試合展開を交えて、再出発、葛藤等が読めると面白いかもしれません。

『バトン』 : うまく短編で閉じている作品です。短い分だけ背景の描写が少なく、想像にまかされるところはありますが、恭子のスタンスが一貫していて読みやすい作品となっています。

『ガラスの靴を脱いで』 : 結論が意外でした。こういった引退話で揺れる際には『氷傑』のように再出発というのが一応お約束のようなんですが、引退の方向でふっきれてしまいました。その割には可南子を吹っ切らせるにいたったジャックの言葉はあまり胸に響かず、なんでこんな結論になってしまうんだろう、と違和感を覚えた作品です。

全体を通じてみれば、「青春スポーツ小説アンソロジー」というコンセプトは悪くないと思いますが、やはりスポーツ小説の醍醐味は試合、レース等といったところにありますので、短編にはなかなか向かないのかもしれません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『相棒』 五十嵐貴久

Aibo 2008年、46冊目。五十嵐貴久『相棒』

設定の妙が楽しい作品です。

あの坂本龍馬が新撰組の土方歳三と手を組んだ!

ありえない設定でありながら、でも、こんな状況ならあるのかもなぁという納得感すら覚える巧妙さです。

慶応3年(1867年)10月3日早暁、会津、桑名の両藩から選抜された30名の武士に警護され二条城から出る黒塗りの駕籠があった。中には十五代将軍、徳川慶喜

大政奉還について薩摩の西郷吉之助(隆盛)と話し合うため、会合場所へ向かうところだったのだ。この慶喜の駕籠が狙撃され、会合が中止となるとともに、立腹した慶喜は大政奉還を白紙に戻すと言い出す。

薩長、幕府とも大政奉還の反対派が多数を占める中、犯人は杳として知れない。

老中板倉勝静、若年寄永井尚志慶喜を翻意させるため、犯人探しを新撰組副長土方歳三、土佐藩浪人坂本龍馬に命ずる。この敵同士の二人であったが、片や役目として、片や心血を注いだ大政奉還を守るため、仕方なく2日間の共同捜査を諾う。

とにかく気の合わない二人(特に土方龍馬のやることなすこと気に食わない)だが、勤皇・佐幕にかかわりなく、聞き込みを続ける。

薩摩の西郷吉之助、長州の桂小五郎伊藤俊輔井上聞多、会津の秋月悌次郎、土佐の中岡慎太郎、高台寺党(御陵衛士)伊東甲子太郎、公家岩倉具視と訪ね歩く。

銃の調練をヒントに二人は犯人に辿りつくが、沖田総司とともに向かった先で囲まれた3人は絶体絶命。

窮地を乗り切り、大政奉還が決せられた1カ月後、坂本龍馬は暗殺される。

「坂本龍馬は国賊」龍馬暗殺の犯人は御陵衛士伊東甲子太郎だった。土方は容赦なく、龍馬の仇として袈裟斬りにする。てめえが殺したのは坂本じゃねぇ。この国の明日だ。てめえが斬ったのは、そういう男だったんだよ」

そして五稜郭。齋藤一土方は語る。

「おれにとっちゃ、近藤局長以下、新撰組隊士はみんな家族みてえなもんだ。仲間だな。だが、坂本って男は・・・・・・」

「相棒・・・・・・ですか」

「他に何ていっていいのかわからねえ。気に入らねえ奴だったが、あの二日間、確かにおれたちは相棒だった」


異志、シミュレーション小説といった分類に入るのかもしれませんが、非常に面白く読めました。坂本龍馬は死んでいなかった”というのはちょっと蛇足かもしれません。

このありえない設定の妙に魅かれて読み始めましたが、軽いミステリーとしても楽しく読むことができました。頭の固い巡査部長と機動力はあるけれど性格の破綻している刑事の取り合わせがコツコツこなしていく捜査譚というのに置き換えられそうな話です。

歴史上の人物も多数でてきて、この部分でも楽しめます。ちょっと性格描写が典型的、というかこれまでいろいろな人に書かれてきた人物評通りなので、新味に乏しい部分はありますが、あまり突飛な描写にしてしまうと主役の二人が立たなくなるんでしょうね。

土方の心理描写も良かったです。不器用な土方龍馬の仇をうつところは、こういったストーリーであればお約束なんでしょうが、何となくグッとくるものがあります。

手ごろな分量の中にいろいろな要素がうまくまとまっていて、大いに楽しめる作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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