著者別(か)垣根涼介

『ヒートアイランド』 垣根涼介

Heatisland 2009年、17冊目。垣根涼介『ヒートアイランド』

しまった、読む順番を間違えた。

『ギャングスター・レッスン』の前作がこの作品なんですね。

なるほど『ギャングスター・レッスン』が中途半端なはずです。あくまで、あれはこの作品の後日譚というか、付けたしでしかなかったわけですから。

その分、この作品の内容は濃いですね。

三つ巴というか、四つ巴(4だと巴じゃないですが・・・)といったように、立場の違う勢力の騙しあい、化かしあい。時間との戦いの中で、情勢が次々と変わっていくスピード感。非常に面白い作品です。

 

父親の勤めるメーカーの倒産などを通じて、世のシステムを無常を感じたアキは、システムに乗るための方策である高校を中退した。

しかし、新たな価値観を見つけることもできず、渋谷でくすぶり続ける日々のなか、アキカオルと出会う。

カオル渋澤薫は裕福な大蔵官僚の家に生まれたが、子どもに関心を持たない冷たい家庭に育った。社会のなかでの自分の立ち位置を模索するカオルもまた、社会制度に依存する自身の未来を忌避し、自立の道を探っていた。

高校にいかず大検にパスして一人暮らしを始めたカオルは、渋谷のセンター街でストリートギャング同士の喧嘩に遭遇し、一つのビジネスを思いつく。

素人参加のケンカをショーとして見せるのだ。

しかし、柔弱に見えるカオルが主催することは困難。カオルは共にビジネスを行う相棒を渋谷の街で探し始めたが、うまくはいかない。殴られたり、金をせびられる有様だ。

こうして殴られているカオルを助けたのがアキだった。

カオルを助けた理由を”お人よし”のせいだというアキに、カオルは話を持ちかけた。

二人は更に仲間を集めた。

渋谷のストリートギャングのヘッドを呼び出すと、アキが完膚なきまでに叩き潰したうえ、ビジネスの話をもちかけたのだ。

こうして、アキカオルと4人のヘッド(タケシサトルユーイチナオ)という6人の『雅』が結成された。

こうして始められた”ファイトパーティ”は回を重ねるにつれ、口コミで広がっていった。

この評判の”ファイトパーティ”に、遊ぶ金欲しさに参加したのは中堅暴力団「麻川組」の若頭黒木政則)が仕切る「光栄商事」のリュウイチ小倉隆一)。リュウイチは圧倒的な強さで優勝するが、その容赦のないケンカにアキは眉を顰める。

 

表に出ない、裏金専門の3人の強盗団(柿沢桃井折田)は、大阪・ミナミに本拠をおく広域暴力団「松谷組」が経営する非合法のカジノ・バー(六本木6丁目)を襲撃した。

催眠ガスを換気用ダクトから流し込み、閉店間際の店の客ごと眠らせた上で、金を奪ったのだ。強奪した金は計8936万円。

金を山分けしたあと、折田が切り出したのは”引退”の相談だった。引き止める桃井だったが、柿沢は冷静に同意する。それぞれ餞別として300万円ずつを折田に渡すのだった。

最後の仕事を終え、家に帰る途中、折田がふと立ち寄った<<Bar Sinister>>で事件は起こった。

店の女性客に絡む金髪の男(タケシ)とスキンヘッドの男(サトル)を折田はつい制止してしまう。殴りかかるタケシだったが、鍛え続けてきた折田の敵ではなかった。

折田が店を出るところを待ち伏せしていたタケシ折田の後頭部を鉄パイプで殴打するなど半殺しの目に合わせたうえ去る。金の詰まったボストンバッグを抱えて・・・。

ボストンバッグに入っていたのは、3210万円。

あまりの高額の金に途方に暮れたタケシたちはアキカオルに相談する。

アキたちもまた、正体不明の金に困惑するが、程なくして、金の正体は判明する。

単に金を返せばいいというものでもなく、裏世界のプロフェッショナルとの対決を余儀なくされたアキたちは良い方策を探るのだった。まずは、”雅”に迫る敵の正体を探るべく、配下に指示を出すとともに、『雅』を探す者たちを通報した者に報奨金を出すと告知したのである。

一方、病院に担ぎ込まれた折田から事情を聞いた柿沢桃井は、折田から金を奪還する仕事を請け負う。手掛かりは「金髪とスキンヘッド」「アキ」「三日月形のペンダント」だ。

勿論、金を奪われた松谷組も黙ってはいない。幹部の久間はカジノの支配人井草保明らに指示を出し、手掛かりを探させるのだった。そして、偶然から「Bar Sinister」を見つけた久間井草は、渋谷を根城とするストリートギャングである「金髪とスキンヘッド」、「三日月形のペンダント」の手掛かりを得たのだ。

リュウイチは自分を見下すアキの態度が許せなかった。光栄商事を仕切る麻川組若頭の黒木アキの”ファイトパーティ”から資金を吸い上げる手口を建策する。

渋谷を治める黒木に「金髪とスキンヘッド」を探すよう依頼する松谷組の久間だったが、表面的に協力するように見せながらも黒木には久間に金を渡すつもりはなかった。

勿論、久間もそんなことはお見通しだ。手掛かりに反応したリュウイチの反応を見て、井草らに光栄商事を見張らせるのだった。

久間の持ってきた手掛かりから、松谷組が探しているのが『雅』だと確信したリュウイチ黒木にそれを告げる。

黒木は”ファイトパーティ”からの収奪とともに、松谷組の金をアキから奪う算段を始める。

渋谷で聞き込みを続ける途中、(報奨金目当てに)追跡する男たちに気付いた柿沢桃井は逆に男たちを叩きのめすと、アキたちの正体と根城とする店<<Cafe Bar,Red Cross>>をつきとめた。

アキも程なく柿沢らに”Red Cross”の場所が知られたことを知る。

タイムリミットは翌日の開店まで。

時間に追われるアキカオルに声をかけたのはリュウイチ黒木である。

”ファイトパーティ”のガード料を要求するとともに、それとなく松谷組の金のことを探る黒木の言葉は更にアキを追い詰めていった。

片方だけの顔をたてることはできなくなったアキは一つの方策を思いついた。

両方を共倒れさせるのだ。

翌日<<Red Cross>>の開店を前にして黒木を呼び出したアキは、遠くから見張る柿沢らに見せつけるように、折田のボストンバッグを抱えたまま、黒木とともに光栄商事に向かった。

柿沢は素知らぬ顔で、光栄商事に籠もる人数を確認すると、桃井とともに光栄商事へベレッタ(M8045・クーガーF)を携えて乗り込んだのである。

ここまではアキのシナリオ通り。しかし、ここでアキが想定していなかったもう一つの陣営が乱入する。

光栄商事を見張っていた井草久間を呼び出していた。黒木とともにアキが光栄商事に入り、加えてカジノ襲撃の犯人たちまでもが入っていったのだと。

 

柿沢桃井黒木、松谷組対麻川組、柿沢桃井対麻川組といった次から次への対決。そして事務所に閉じ込められた緊迫感と、最後は非常に盛り上がりを見せます。

それにしても、まぁ、最後は派手に死人が出てしまいました。

黒木リュウイチも意外とあっさりでしたが、本当のところはそうなのかもしれませんね。どんなにアクが強かろうが、腕っ節が強かろうが、関係はないんでしょう。

最後のこの盛り上がりが、おそらくこの作品の全てで、それまではちょっとご都合主義的なところも少なくありませんし、キャラクター自体がステレオタイプであったりする部分も見受けられます。

そんな中ではやはり正体不明の柿沢と桃井の明るさが光ります。どちらかといえば、アキカオルが主である作品ではありますが、やはり柿沢桃井の方にキャラクターとしては分がありそうです。

次作の『ギャングスター・レッスン』は今ひとつという感じでしたが、その後の作品はどうなっているんでしょうか。また、読んでみたいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★★

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『ギャングスター・レッスン』 垣根涼介

Gangster 2009年、冊目。垣根涼介『ギャングスター・レッスン』

なんだか序章だけの話ってイメージの作品です。

表に出来ない裏金の強盗を働く3人組の新メンバーアキの成長をステップを踏んで描く作品。でも、淡々とした感じで、あんまり盛り上がらないんですよね。

 

Lesson1 裏戸籍 

アキ辻本秀明)は20歳になった。

渋谷のチームを解散した2カ月後、海外に渡ったアキはタイ、ベトナム、ラオス・・・とインドシナ半島を転々とする。自分を再構築するために、自分を白紙に戻そうとしたのだ。

300日過ごした海外を後にして日本へ戻ったアキを待っていたのは決断だった。

練馬区向山の約束の場所へやってきたスバルのインプレッサは二人の男を乗せていた。

柿沢桃井だ。

柿沢桃井の仲間になるということは、表の世界とは離れるということ。

柿沢桃井は表に出ない裏金を強奪することを生業とし、アキを仲間にしようとしていたのだ。再考を促す柿沢だったが、アキの決心は揺るがなかった。

この日からアキの修業が始まった。表の顔をつくることと、裏の顔の準備も整えることを並行的に行う。

桃井の経営する自動車工場で修理工見習いとして働くという表の顔を作るとともに、裏の顔のための戸籍を手に入れるのだ。アキの戸籍を入手するため大久保公園に赴いた3人は、髭面のホームレス工藤正利からAIDSで死んだ「岩永正一」の戸籍を入手した。

工藤は戸籍である百万円の代償に大久保公園へ現れる”ホームレス狩り”の若者の退治を3人に持ちかけた。

 

Lesson2 試走

桃井は16歳で工業高校を中退し、整備士の世界に入り、22歳で独立すると練馬区の大泉JC近くにチューンナップ・ショップを構えた。

しかし、職人気質で妥協を許さない桃井は、29歳にして経営難から廃業。そこへ声をかけたのは店の客だった柿沢である。これが6年前。

それから、柿沢折田とともに、年に1、2度のヤマを踏むようになったのだ。

昨年、折田が引退し、2週間前にアキが仕事仲間に加わった。桃井アキの教育係だ。

桃井の店の修理工見習いという名目で桃井の店を訪れるアキとともに、アキの車を見繕い始める。中古屋で選んだのはレガシィB4・RSK。

エンジンから何から全てバラし、フルチューンするのである。それから3週間、桃井アキは朝の9時から夕方の6時までガレージに籠もりきりとなった。

4週間目。

組みあがったレガシィでの試走(ならし運転)が始まった。

毎晩午前零時、大泉JCから外環、常磐道と、慣らしの回転数の上限でクルージングを続ける。

それから2週間。レガシィの速度計は300キロの大台にのった。

エンジンのクーリングのため入った守谷SAで桃井は声をかけられた。

かつて桃井が付き合っていた小林憲子だった。

 

Lesson3 実射

拳銃を入手し、アキの練習をするために3人が出かけたのは中南米の国コロンビア。

柿沢が懇意にしていたホノルルの裏業者が廃業したため、急遽、柿沢の知り合いを頼ることとなったのだ。

コロンビアのカルタヘナで3人を待っていた須藤桃井と入れ替わりに、仲間を抜けた男だ。

アテンドの男は谷口。船会社の委託を受けた男で、今回の密輸を手伝う。

須藤の妻の弟マリオの案内で訪れた貧民窟で、3人は銃を買った。

 

Lesson4 予行演習

ちょっと、困ったことになってしまってさ

待ち合わせに遅れたアキ柿沢桃井に事情を説明した。

渋滞を避けて通った横道で、一方通行を逆走するベンツに車を潰されたのだ。

相手はヤクザである。

しかし、柿沢はこれを実戦前の予行演習と捉えた。

アキを焚きつけると、そのヤクザから修理代235万8千円を回収することを命じるのだった。

アキの車にぶつけたベンツのヤクザは走流会若頭柏木真一

池袋1丁目の雑居ビルに事務所を構える柏木はピンサロ2店舗、ソープ4店舗、キャバクラ3店舗を統括していた。加えて、裏ビジネスとして、コロンビアマフィアから仕入れたコカの密売も行っている。

まず、正攻法で柏木の事務所を訪ねたアキだったが、柏木が相手にするはずもない。当初ははったりの利いたアキの言葉を愉快に聞いていた柏木だったが、請求額を聞いてキレたのだ。

3人が柏木に金を出させるために目をつけたのは、裏ビジネスのコカである。

 

Lesson5 実戦

桃井が持ってきた案件は関東の広域暴力団『船橋組』の9代目襲名式の後に行われる賭場の資金強奪である。

場所は、熱海市の南東4キロの海上に浮かぶ姫島リゾートアイランド。

バブル期に開発された、この島には姫島リゾートアイランドホテルだけしかない。

総部屋数150ルーム。収容人数600名の大型リゾート施設だったが、バブルの崩壊後は閑散としていた。

下見に訪れていたヤクザを発見した桃井は連れからあぶれたコンパニオンに声をかけ、概要を聞き出したのだ。

事前の準備を周到に整え、網代からボートに乗り、島に到着したまでは良かったが、緊張するアキはボートの繋留に手間取ってしまう。

ホテルの敷地内に潜入した3人を目撃したのは、襲名式に呼ばれたコンパニオン”アケミ”(前田明美)だった。

桃井に話を聞かれたことを思い出したアケミは、桃井が泥棒に入ることに思い至る。

100人のヤクザに3人で敵う筈がないと考えたアケミは、3人が捕まった場合に、情報提供者として自身を見舞う運命に身震いし、襲撃を阻止しようと立ち上がった。

しかし、アケミが部屋から宴会場についたときには、既に3人は金を強奪した後だった。

襲撃に成功した3人だったが、桟橋で呆然とする。アキの不注意で、ボートに穴が開いていたのだ。

これでは逃げられない。

 

しまった。

これって、『ヒートアイランド』って作品の続編なんですね。

1つの作品として読むと、ちょっとツライですね。話があまりにも薄っぺらすぎるんです。

終わり方も唐突で、ビックリしてしまいました。

”おまけ”の「コパカパーナの棹師・・・・・・気取り」も何だかよくわかりませんでした。

柏木真一の逃走劇というほどでもなく、何だったんでしょう。

とにかく、この作品群だけで評価するのは、とにかくツライなぁ、失敗しちゃったなぁ、という感じです。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『借金取りの王子』 垣根涼介

Syakkin 2008年、134冊目。垣根涼介『借金取りの王子』

『君たちに明日はない』の続編です。

前作からの続きなので、陽子が森松ハウスを辞めて、関東建材業協会の事務局次長として着任した頃から始まります。

真介陽子の関係も変わらず、小気味良いテンポでの会話が魅力的な作品群となっています。


File1.二億円の女

今回のクライアントは「南急百貨店」。

効率の悪い本店外商部の早期退職勧奨だ。バブル後一時期は攻めの営業が推奨された時代もあったが、今や外商部は社内の問題児の集まる姥捨て山になっていた。

売り上げ目標1億1千万円を毎年達成することのできない野口治夫(51)もその類だ。

抵抗する野口だったが、同僚たちに募ったアンケートの結果を知って愕然とする。

一方、倉橋なぎさ(32)は毎年2億円の売り上げ目標を達成する優秀な女性。上の空のなぎさ真介の説明をさえぎり、「もう、説明はいいです」と言い出した。

誰かが辞めなければならないのなら、私、辞めますから


File2.女難の相

「東京安井生命」のシステム・ネットワーク部門係長松本一彦(36)。東北大学文学部を卒業して総合職で入社したあと順調にキャリアを重ねたが、福岡支社の北九州営業所でドロップアウトしてしまう。

外交部長として女性外交員をまとめるのに耐え切れなかったのだ。松本は女性恐怖症だった。


File3.借金取りの王子

「フレンド株式会社」。消費者金融は慢性的な人材不足。そんな人材不足のはずの会社がなぜリストラを?

新社長が顧客イメージ刷新のために始めたのは「アップル作戦」。箱の一番上が腐っていたら、その下も腐っていくという考え方のもと、店長たちを進路研修という名目で呼び出したのだ。

渋谷一号店の店長三浦宏明(30)。慶応大学経済学部を留年することなく卒業し、新卒で「フレンド㈱」に入社。入社後の三浦は、営業成績も悪くなかったが、大型店舗である渋谷一号店店長で躓いた。会社は、常にギリギリの成績でクリアする三浦をみせしめのためにリストラ候補として取り上げたのだ。

部下たちの評価が極めて高い三浦は、面接でも部下のことも庇う。そんな三浦にペースを崩される真介は、知らず知らず本音を語っていた。


File4.山里の娘

真介陽子を誘い、新潟県の岩室温泉に出かける。

「常盤クラウンホテルズ(㈱)」内の皺寄せ人事で、岩室温泉の「ホテル常盤屋・岩室荘」からも希望退職を募ることになったのだ。

渋る陽子だったが、「絶対に辞めさせなくちゃいけないわけじゃないから、ゆるーい感じの進路相談」との真介の言い訳と、魅力的なパンフレットに負けて出かけることにした。

そこで陽子は「日本ヒューマンリアクト㈱」の社長高橋に出会う。


File5.人にやさしく

陽子が事務局長を務める「関東建材業協会」で派遣スタッフが辞めることになった。現在の派遣会社が信用できない陽子に、真介は「日本ヒューマンリアクト㈱」の人材派遣事業を提案する。

リストラした従業員を登録して活用するという真介のアイデアが認められ、最近立ち上げた新ビジネスだ。「人材派遣部 統括チーフ」は真介が務める。

いい機会かもしれない。あんたに頼んでみようかな。ただし付き合っているからって甘えはなし。仕事は仕事。要求水準に満たなかったら容赦しないわよ



今回の登場人物はどちらかというと、リストラに飄々としているキャラクターが多いのが特徴でしょうか。そういう意味ではリストラの辛さ、身につまされるという感じよりも、”お話”として純粋に楽しめたかもしれません。

日本ヒューマンリアクトのリストラ話がメインではありますが、作品の中で陽子の存在が少しずつ大きくなってきているような気がしてなりません。彼女の存在なかりせば、村上真介の独善的な発想の押し付けになってしまいそうですが、それを揶揄する陽子の存在が作品自体の後ろ暗い部分のガス抜きをしているようです。

今回の作品では、陽子高橋の存在に心なし惹かれていく様子が見られますが、今後の展開はどうなるのでしょう。表面的には最後にはふっきれたようにも見えますが。

続編を期待したいと思います。

それにしても「山里の娘」っていうのはひどいタイトルですね。

お奨め度★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ワイルド・ソウル』 垣根涼介

Wildsoul 2008年、69冊目。垣根涼介『ワイルド・ソウル』

一言でいうと”力作”という感じですね。内容自体は非常に面白いのですが、ちょっと詰め込みすぎの感があります。

ブラジル移民に対する国・外務省の背信行為、苦渋を嘗める移民という日本政府の犯罪ともいうべき行為を告発するという面、それを背景とした外務省襲撃、誘拐事件という、いってみれば二兎を追うような作品はその分、分量も非常に多くなってしまっています。内容的にも前者の主人公を衛藤とし、後者の事件のメインプレーヤーは二世である野口啓一(ケイ)松尾伸男(ノブ)となっており、明らかに2作品を無理やりくっ付けた感が漂います。

結果として、この2作品(といってしまいますが)を1作品として繋ぐために、間延びしたような印象を与えますし、この全体のボリュームに埋没しないように、ケイと(特に)ノブの設定が妙に重厚といいますか、修飾的です。

外務省襲撃、誘拐にいたる事件の流れは非常ニスピーディでテンポも良く、楽しめるものである分、その背景に力を入れすぎたことは作品の全体のバランスにおいてはマイナスではなかったでしょうか。松尾(ノブ)のコロンビアのコカインカルテルの日本元締めという設定も特に必要とは思えません。素直に2作品に分割し、後半部分のエンターテインメント部分はエンターテインメントと割り切って、もっとシンプルにした方が楽しめたように思われます。

ブラジル移民の話はこういったエンターテインメントといった色合いとはあまり馴染まない題材で、当作品で読者に知らしめるという役割は果たせたかもしれませんが、作品全体の流れの中では刺身のつま的な役割となってしまったことは、これはこれで残念です。奇を衒わずに、衛藤を主人公とした人間ドラマとしてもう少し正面から取り組んでもよかったのではないでしょうか。


1961年11月、新造移民船「サンパウロ丸」は神戸港を出航した。その船には衛藤のほか、衛藤の妻も乗り組んでいた。彼らは開墾された農地を約束されたブラジル移民計画に応募したのだ。

しかし、全ては大嘘だった。衛藤一家ら50人が送られたクロノイテの入植地は灌漑排水設備や入植者用の家はおろか開墾済みの畑さえもない未開の土地だった。加えて、腐植土の殆どない強酸性の土壌は農業を試みることすら困難だ。必死に生きようとする彼らをマラリア、アメーバ赤痢といった病魔が襲う。次々と入植地の人々が死んでいく中、衛藤の妻も黄熱病で死ぬ。死のうとする衛藤だったが、同じ移民の野口に止められる。

クロノイテを出た衛藤はシェラ・ペラーダで砂金取りを試みるが、せっかく溜めた砂金も強盗に奪われ、関節も砕かれる。仕事にも恵まれずサンパウロに流れ着いた衛藤はレバノン人のハサンに助けられ、青果市場で果物の仲買人として再出発する。

この仲買として成功した衛藤は恩人である野口への恩返しと援助のためにクロノイテへ向かう。しかし、既に、そこには人家は絶え、野口と妻の墓、そして野生化し言葉を失いつつあった野口の息子啓一(ケイ)の姿だけが残されていた。


啓一衛藤の庇護のもと成長し、成人した啓一衛藤による外務省と日本国政府への復讐劇が始まる。

ケイと同年の松尾伸男の父親、母親はクロノイテを離れてコロンビアに向かう途中河賊に襲われ命を落とす。一人生き残った伸男は偶然、コロンビアのシンジケートの若き首領アンドレス・パストラーナ・バルガスに拾われる。バルガスに養育され、成長した伸男は、日本でのコカインのビジネスを担当することとなる。

日本へ渡ったケイ松尾(伸男)に加え、衛藤のシェラ・ペラーダ時代の知人である山本の3人は外務省への襲撃を行う。山本は清掃員として外務省の庁舎に潜り込み、仕掛けをセットする。予告をしておいたマスコミのカメラが見守る中、午前4時、屋上から巨大な垂れ幕が出現した。

「この豚野郎 女衒野郎 四十年前におまえらに騙されて死んだ人間を思い知れ。街娼や乞食にまで落ちぶれた日本人のことを思い出せ。犬同然に扱われた四万の民の苦しみを知れ。その借りは、今から返してもらう。」

合わせて、高速道路上からはサブマシンガン(アメリカン180M2)の連射音。外務省の入る芝NSビルの窓ガラスは次々と砕け散っていく。

そして事件は続く。

ケイ松尾は、当時のベレン領事、移民を煽る大嘘の映像を製作した会社社長、入植者からの預かり金を横領し、日本からの送金を着服した「アマゾナス産業」の専務(社長の息子)らを誘拐し、富士山の麓、青木が原樹海に拘束する。そして、日本国政府による正式な過去の謝罪を要求する。



話自体は面白いので十分読む価値はありますが、ちょっとボリュームが大きいので、満足感をボリュームで割ると中位くらいでしょうか。もっとコンパクトにすれば、もっと読み応えがあった(コストパフォーマンスが良い)ように思われます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『君たちに明日はない』 垣根涼介

Kimitachi_2 2008年53冊目。垣根涼介『君たちに明日はない』

リストラという重い題材を扱いながらも非常に小気味良い話となっています。

主人公村上真介はリストラを請け負う「日本ヒューマンリアクト㈱」に所属する33歳。仕事の内容は、委託を受けた各社のリストラ対象者に面接し、退職希望を募ること。

ACT1.怒り狂う女

「森松ハウス㈱」営業企画推進部の芹沢陽子(41歳)は、業績悪化の中で、特に落ち度もないまま組織全体のバランス、年齢構成の若返りという観点の中で、リストラ候補として挙げられるが、現在のプロジェクトで成功を収めたうえで転職を考える陽子は面接で村上にかみつく。

一方で、陽子に好意を抱いた村上は、面接後の経過を聞くために呼び出した陽子と新宿駅で待ち合わせをする。

ACT2.オモチャの男

玩具メーカー『バカラ㈱』緒方紀夫(37歳)は、面接の場で大泣きを始めた。

「だってさ、前に人事部長がそう言ったんですよっ。これからも頑張ってもらいましょうって」

ACT3.旧友

『ひかり銀行』は財閥系である『安井銀行』と『三友銀行』が合併してできた銀行である。為替電信部は合併後の玉突き人事の産物、余剰人員の溜まり場となっていた。

池田昌男(33歳)は三友銀行企業精査部で優秀な実績を残したものの、合併後は被合併行の悲しさ、安井銀行の面々の下請けに甘んじていた。しかし、杜撰な仕事に怒りを覚えた彼は「あなたみたいな人にこの仕事をやる資格はない。さっさと辞めたほうがいい」と口走っていた。そして、為替電信部へ異動となった。

彼は面接する村上の高校時代の同級生だった。

ACT4.八方ふさがりの女

『トヨハツ自動車㈱』から分社されたコンパニオン派遣子会社『T・スタッフ㈱』の飯塚日出子(28歳)。「私は今のところ会社を辞めるつもりはありませんから」と宣言した。

頑張れ。名古屋の雌鳥-飯塚日出子

ACT4.去り行く者

社長高橋栄一郎の友人大西が社長を務める音楽プロダクションのプロデューサー2人のうち1人を辞めさせたい。この判断を任された村上は2人の面接に臨む。

陽子は自身の手がけたプロジェクトを成功裡におさめ、『関東建材業協会』の事務局長、会長から次期事務局長就任の打診を受けていた。



各短編がコンパクトにまとまっていながら、しっかりとした内容を持っており読みごたえがあります。

リストラが題材ではありますが、各話のキャラクターはしたたかに、かつ前向きに取り組んでおり、決して悲愴感はありません。勿論、ACT1に登場した平山のような場合には一定自業自得といったところもあるんでしょうが。

しかし、この作品を読んで考えさせられるのは、自身と会社との距離感というもののとり方かもしれません。この作品ではその点を意識させるためか、会社をどう表現するのかというところを殊更に傍点をうって強調しています。私もよく「ウチの会社」とか「ウチの部署」とかいう言い方をしますが、そういったことは甘えだと言われれば、そうかもしれません。村上の台詞を真摯に受け止めれば、なかなか耳がいたいことが多いようです。

決して悪いわけではありませんが、ちょっと年の差のある真介陽子というとりあわせというのは、こういう作品では珍しいような気もします。お互いにお互いのことをわかったようなモノローグは、それぞれ滑稽(両者とも子どもから抜けきれていない)で面白いですけどね。

続編もあるようですので、続編も楽しみにしたいと思います。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『午前三時のルースター』 垣根涼介

Rooster 2008年20冊目、垣根涼介『午前三時のルースター

一言でいうと、アッという間に読み終えてしまう作品です。この感覚を、臨場感をもって最後まで読み終えた、つまり面白かったということなのか、自分でもよくわかりません。振り返ってみると、この手の作品に特徴的な冒険譚も深くはなく、中身自体は決して濃くはなかったような気がします。

さて、内容ですが、主人公は旅行代理店の営業、長瀬

長瀬は大口の取引先であるジュエリー・ナカニシ社長中西栄吉から孫の慎一郎のベトナム旅行の手配、その添乗を依頼される。その慎一郎は、テレビ番組でベトナムで死んだはずの父を見つけ、祖父には内緒で探しに行こうとしていたのである。

手掛かりであるビデオを調べるうち、怪しげな組織が慎一郎の父(と思しき人物)の周囲には存在することが判明する。この調査の過程で、協力を求めた長瀬の友人、源内も同行することを申し出、長瀬源内慎一郎の3人は一路ベトナムのサイゴン(ホー・チ・ミン)に向かう。

ところが、サイゴンに着くと予約していたはずのホテル、車、ガイドの予約が取り消されているなど、最初から妨害工作を受け前途多難だが、長瀬は現地でタクシードライバーのビエン(ビエンフー)を運転手、コールガールのメイをガイドとして雇う。

ビエンメイの助力を得て調査を開始するが、調査開始当初より2つのグループ(ユニオン、キャッツクラブ)の追跡を受ける。5人は逃避行を続けながらも、少しずつ情報を入手し、組織の本拠に向かう。

正直なところ、この作品だけでは中途半端な作品に終わっているところが残念。

主人公である長瀬のキャラクターを深堀りしようとするためか、バイクや車への薀蓄等が語られますが、本論とあまり関係がない(伏線にもなっていない)部分が多く見られます。また、源内も(この名前だけでも、何かやってくれそうな期待を持たせてくれますが)「気はやさしくて力持ち」といった典型的なバイプレイヤーである以上には本論にかかわってきません。登場人物の描写は決して悪くはないのですが、(長編やシリーズものの第一巻という意味合いで考えれば必要な部分もあるかもしれませんが)この程度の長さの作品にしては、人物描写、人物設定が過剰だといえるでしょう。特に、この作品だけに限ってみれば、長瀬がもうちょっと腕っ節が強ければよいだけで、源内の存在は不要といっても過言ではありません。

真相に迫っていく過程もダイナミックな部分が少なく、「立ち聞き」の中で誘導的(決定的)な台詞を捉えていくというステップは多分にご都合主義の感を否めません。

総括すると、少年の成長譚というには心情描写が殆どなく、冒険活劇というには非常にソフトで、ミステリーというには底が浅いというところで、厳しい言い方をすれば捉えどころが難しい作品と言えるでしょう。

その意味では、あまり読書をしたことのない人(読書初心者)向けの冒険ライトノベルといったように捉えることが良さそうです。奇を衒っておらず、(ちょっと伏線もありましたが)本道だけをまっすぐに辿っていけばラストまで導かれていくというストーリーは、(頭を休めて)難しく考えずに時間を過ごすには相応しく思われます。

しかし、なぜ「午前三時のルースター(一番鶏)」なんでしょう。ちょっとピンとこないネーミングですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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