『透明約束』 川上健一
2009年、111冊目。川上健一『透明約束』
なぜかカナダをテーマにした短編集。
特に大きなイベントがあるわけでもない。ちょっとした出来事、転機を綴った話。
全体のバランスもいい。最初の方は、どちらかといえば淡々とした話ですが、少しずつ叙情的というか、ぐっとくるような作品になっていくという構成になっています。
カナダ通り
高校3年間を無遅刻・無欠席で通う、片道1時間35分の道のり。その途中の緑町商店街。カナダの国旗がかかった、その通りを由里絵はカナダ通りと名付けた。
カナダ通りで出会ったケーキ屋が由里絵の運命を変えた。
夜間飛行
有限会社笹井製作所。父が起こした会社(ネジ製作)を継いだ笹井周一は、堅実に働き続ける。とはいっても、小さなネジ製作のこと。生活が豊かになり、余裕が出てくるわけでもない。
そんな生活にあっても、彼には妻温子と約束した”カナダへの旅”の夢があった。
オーロラ爆発
仕事を優先し、娘メグミを母トシコに預けた彩子だったが、最近のメグミの行動に戸惑っていた。
タバコ、暴力、万引と次々と問題を起こすメグミを叱責する彩子だったが、メグミは聞く耳をもたない。そんなメグミと掴み合いの喧嘩になる彩子。
そんな関係を修復するべく、彩子はメグミをイエローナイフのオーロラ見物ツアーに誘った。
バンクーバーの雪だるま
青井友はカナダに住む坂崎広介に別れを告げるため、バンクーバーを訪ねた。
ギターを作るためにカナダに渡った広介と結婚を誓う友だったが、両親の反対から結婚には至らなかった。更に、喘息で役所を休みがちになった父、寝込むことが多くなった母の世話、看病で、7年の月日はあっという間に過ぎ去っていった。
天国にもない島
不倫の果てに破局したエミは、12年前に離婚した父のもとを訪ねた。
父の住むソルト・スプリング・アイランドは”世界の中でも土地のエナジーが高い”と言われるところ。
何度か恋をして男女のことが少しは理解できるようになったエミは、父と母から父を奪った幸、腹違いの妹サラに会いに、そしてエナジー・チャージをするために、ソルト・スプリング・アイランドにやってきた。
全日本スキップ同好会
バンフ・スプリングス・ホテルのゴルフコースでのグルフ三昧のためにカナダを訪れた4人組は高校時代の同級生。
ゴルフが唯一の趣味の仲間は定年退職を迎える年に夢のゴルフコースでプレーしようと決意した彼らは毎月5千円の積み立てを始めたのだ。
2日の滞在でゴルフ以外の観光はせず、ゴルフを満喫した彼らは町外れのオープン・カフェで来られなかった仲間のことを話し始める。
ラッキーハンド
夫昌治は定年退職の日、妻郁恵に「カナダ VIA鉄道カナディアン号 バンクーバー・トロント間三泊四日の旅」の話を切り出す。朴念仁の夫の隠し球に驚く郁恵だったが、既に決意していた離婚を翻すことはなかった。
離婚をつきつけられた昌治は驚くが、最後の願いとしてカナダへの旅行に郁恵を誘う。
旅先の昌治は30年間の結婚生活では見ることのない別人だった。
二十五年目の愛してる
定年まで6年も残し、リストラされた不器用な夫康夫。うちひしがれてしょんぼりしている夫を目にして、突然、登美子の喉にせり上がってきた言葉があった。
『愛してる』
その一言を言うためだけに、登美子は『赤毛のアン』の舞台、プリンスエドワード島への旅を決めるのだった。
透明約束
信夫は末期ガンの宣告を受け、余命いくばくもない。その病室では息子たちが遺産相続でもめる。
妻雅子は眉を顰めるが、信夫はこだわらない。そんなとき、信夫がポツリと呟いた。
「思い出した・・・・・・ 透明約束」
透明約束。それは信夫の定年記念に訪れたルーネンバーグで交わした、最期のときの約束だった。
極夜
30年前、小学4年の塚田俊雄が母とともに通った喫茶店『白夜』(冬は『極夜』という店名)。そこの店主、アーマイさん(「アーマイ(イヌイット語で「私は知らない」の意)」が口癖)は俊雄を可愛がる。
アーマイさんの作る空想上の乗り物は俊雄を魅了し、俊雄は購入を申し出る。「予約済」の紙が張られた飛行船「白夜号・極夜号」だったが、購入にいたることなく、俊雄は町を離れてしまう。
どの作品もいいなぁと思うような(自身のこととして体験した場合に、何らかを感じるような)作品です。
全日本スキップ同好会も全体のなかでは一風変わっていて、ある種愉快な話でがあるのですが、その底流に人生の終盤に入って感じるもの、といったような寂しさもあって、味わい深い作品です。
そういえば、この短編集は大きく二つの流れに分類することができるのかもしれません。相対的に若い女性の人生の転機となる話と、人生の晩年を迎えて感じること、といったような2系統でしょうか。(夜間飛行と極夜はちょっと違いますが・・・)
この作品の中で貶している、読んでしまったらすぐに忘れてしまうような作品でなく、記憶に残るような話でした。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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