『風の中のマリア』 百田尚樹
2009年、83冊目。百田尚樹『風の中のマリア』
一切、人間が出てきません。でも十分、面白い。
単に昆虫を主人公にして、人間のドラマを語ろうというのではありません。
あくまでオオスズメバチの生態をわかりやすく説明する方便として、擬人化を試みているというような感じです。
オオスズメバチの世界の様々なドラマ、そして知られていない数々の生態。十分に知的好奇心を満足できる作品ではないでしょうか。
初秋に産まれたオオスズメバチ(ヴァスパ・マンダリニア:Vespa mandarinia)のワーカー(ハタラキバチ)のマリアは「疾風のマリア」と呼ばれていた。
羽化したマリアは30日ほどの短い命を毎日狩りに出ることで過ごす。狩りは危険が多く、仲間も次々と帰還せずに死んでいき、巣の中で命を落とすものは少ない。
メスでありながら卵を産むこともなく、恋もない生活は他の虫からは不審に感じられ、問われるが、それは遺伝子(ゲノム)の求めるところだった。
血縁選択によるゲノムの維持において、自身の子どもよりも妹を育成する方が遺伝子を残すうえでは効率が高いのだ。
女王バチ、アストリッドのもと、アストリッドの帝国の繁栄に向け、妹の育成、狩りに命をかけ、いつか狩りの中で死んでいくこともマリアにとっては当たり前のことだった。
秋が深まるにつれ、エサとなる虫たちが少なくなる一方で、妹たちの数は増す。
加えて、新たな女王となる妹たちが増えてくる中で、マリアたちは集団で、ミツバチやキイロスズメバチの巣を襲う。犠牲も大きいが、妹たちを育成するためには仕方がなかった。
アストリッドがワーカーを産むことを止め、オスバチを産むようになると、ゲノムの効率性は働かない。マリアは仲間らとともに、アストリッドを殺してしまう。
女王バチの巣立ちの日。巣の周りに飛び交うオスバチが女王バチ候補となる妹たちに群れるのを撃退するマリア。こうして、より優性な遺伝子を選別しているのだ。
羽化して30日を越え、老齢となったマリアは数多くのオスバチを殺したあと、力尽きる。
非常に危険な生き物という印象の強いオオスズメバチですが、実際、その生態ってあまり知らなかったんですよね。巣が1年でダメになってしまうとか、羽化してから1カ月程度の命だとか・・・。
オオスズメバチの怖さもいろいろ描写され、やっぱり怖いなぁと再確認もします。
やっぱり一番、今回驚いたというか知的満足が得られたのは、自身で卵を産まずに、利他精神を発揮するように見えるハチの動機と遺伝子の係わりについてでしょうか。
非常に説得力があると同時に、遺伝子って怖いよなぁとも感じてしまいます。
ニホンミツバチの蜂球の様子は驚きでしたし、外来生物の脅威であるセイヨウミツバチの盗蜂にも驚かされました。
無味乾燥な学術書でなく、こういったドラマ仕立てだと、なぜこんなに印象深いんでしょう。
また、こういったテーマの話も読んでみたいですね。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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