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2009年7月

『風の中のマリア』 百田尚樹

Maria_vespa 2009年、83冊目。百田尚樹『風の中のマリア』

一切、人間が出てきません。でも十分、面白い。

単に昆虫を主人公にして、人間のドラマを語ろうというのではありません。

あくまでオオスズメバチの生態をわかりやすく説明する方便として、擬人化を試みているというような感じです。

オオスズメバチの世界の様々なドラマ、そして知られていない数々の生態。十分に知的好奇心を満足できる作品ではないでしょうか。

 

初秋に産まれたオオスズメバチ(ヴァスパ・マンダリニア:Vespa mandarinia)のワーカー(ハタラキバチ)のマリアは「疾風のマリア」と呼ばれていた。

羽化したマリアは30日ほどの短い命を毎日狩りに出ることで過ごす。狩りは危険が多く、仲間も次々と帰還せずに死んでいき、巣の中で命を落とすものは少ない。

メスでありながら卵を産むこともなく、恋もない生活は他の虫からは不審に感じられ、問われるが、それは遺伝子(ゲノム)の求めるところだった。

血縁選択によるゲノムの維持において、自身の子どもよりも妹を育成する方が遺伝子を残すうえでは効率が高いのだ。

女王バチ、アストリッドのもと、アストリッドの帝国の繁栄に向け、妹の育成、狩りに命をかけ、いつか狩りの中で死んでいくこともマリアにとっては当たり前のことだった。

秋が深まるにつれ、エサとなる虫たちが少なくなる一方で、妹たちの数は増す。

加えて、新たな女王となる妹たちが増えてくる中で、マリアたちは集団で、ミツバチやキイロスズメバチの巣を襲う。犠牲も大きいが、妹たちを育成するためには仕方がなかった。

アストリッドがワーカーを産むことを止め、オスバチを産むようになると、ゲノムの効率性は働かない。マリアは仲間らとともに、アストリッドを殺してしまう。

女王バチの巣立ちの日。巣の周りに飛び交うオスバチが女王バチ候補となる妹たちに群れるのを撃退するマリア。こうして、より優性な遺伝子を選別しているのだ。

羽化して30日を越え、老齢となったマリアは数多くのオスバチを殺したあと、力尽きる。

 

非常に危険な生き物という印象の強いオオスズメバチですが、実際、その生態ってあまり知らなかったんですよね。巣が1年でダメになってしまうとか、羽化してから1カ月程度の命だとか・・・。

オオスズメバチの怖さもいろいろ描写され、やっぱり怖いなぁと再確認もします。

やっぱり一番、今回驚いたというか知的満足が得られたのは、自身で卵を産まずに、利他精神を発揮するように見えるハチの動機と遺伝子の係わりについてでしょうか。

非常に説得力があると同時に、遺伝子って怖いよなぁとも感じてしまいます。

ニホンミツバチの蜂球の様子は驚きでしたし、外来生物の脅威であるセイヨウミツバチの盗蜂にも驚かされました。

無味乾燥な学術書でなく、こういったドラマ仕立てだと、なぜこんなに印象深いんでしょう。

また、こういったテーマの話も読んでみたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『レッド・ゾーン (上・下)』 真山仁

Redzone1Redzone22009年、81冊目、82冊目。真山仁『レッド・ゾーン (上・下)』

『ハゲタカ』シリーズの第3弾です。

これまた映画の原作のようですが、どうも雰囲気は違いそうですね。

少なくとも、芝野は今回はチョイ役というか、全体のストーリーの中で存在感が殆どありません。

 

マカオで鷲津政彦に声をかけたのはCIC(中国投資有限責任公司)の王烈

中国で立ち上げるSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)のスカウトだ。しかし、鷲津には興味はなく、すげなく断るのだった。

その頃、世界を代表する自動車メーカー、アカマ自動車に買収をほのめかす男が現れた。”中国の買収王子”、”上海の買収王”、上海投資公司の賀一華である。

この赤いハゲタカへの防衛を考えるため、アカマ自動車の社長古屋貴史と社長室室長大内成行鷲津政彦と面会すると、防衛策について相談する。

鷲津賀一華の後ろにCICが控えていると睨んでいた。賀一華に対するアカマ自動車の防衛策を見極めてから、CICが出てきて買収するのだ。

それを裏付けるように王烈からは再度、鷲津にアプローチがあった。その中で王烈アラン・ウォードの死の真相を仄めかす。

賀一華もまた鷲津に接触すると、アラン・ウォードの恋人であった美麗翁藍香)を鷲津に引き合わせた。

賀一華の年下の叔母だという美麗は記憶を失い、口もきけなくなっていた。

鷲津はアカマ買収に参加することに決め、その準備に取り掛かった。CICに対抗する人物として白羽の矢を立てたのは、香港随一の財閥、将集団の総帥将陽龍だった。

アカマ自動車でも防衛策の検討が進められた。外為法による防衛を「国防関連企業だけ」とし、アカマ自動車の防衛を期待できない政府の弱腰に、アカマ自動車では禁断の分野となっている防衛産業分野への進出を検討する。しかし、アカマ自動車の象徴たる最高顧問赤間周平翁はこれを認めない。

加えて、周平の甥である副社長赤間太一郎は、賀一華の買収提案を経営陣の不祥事と捉え、クーデターを画策していた。

そんなとき、密告があった。アカマ・アメリカの業績が太一郎が社長時代に改竄されていたのだ。この不祥事に震撼する大内だったが、社長室次長保坂時臣はこれを太一郎排除の好機と捉えていた。創業家を排除することの是非を問う難問に、周平への相談を考えた大内だったが、そこに入ってきたのは周平の事故死の知らせだった。

動揺するアカマ自動車に追い討ちをかけるように賀一華はTOBを仕掛けてくる。

 

芝野健夫は曙電機でのCROを辞し、かつて世話になった”なにわのエジソン”藤村登喜男に恩返しすべく、登喜男の死後経営の行き詰ったマジテック社に移っていた。

登喜男亡き後、職人桶本の職人技だけに頼るだけに弱体化した会社の将来を作り上げるのが、芝野の仕事だった。営業を買ってでた芝野は、放蕩息子であった次男を育成していった。

そんなとき、アカマ自動車のFAを務めていたアイアン・オックス・キャピタルの加地俊和芝野古屋たちの相談に乗るように求めてきた。

賀一華から送りつけられた、政界工作(贈賄)を行う東京支社長佐伯鶴男らの数々の不祥事の情報、醜聞は古屋を打ちのめし、古屋大内に辞任を仄めかす。秘かに賀一華と通じた太一郎もクーデターの準備を進めていた。

そんな中、古屋らに会った芝野は違法を認めず、佐伯の告訴を勧めるとともに、創業家を過度に慮らず、太一郎を切るよう進言する。会社は誰のものかを改めて語ったのだ。

古屋らは鷲津の言葉にも耳を傾け、太一郎を放逐し、佐伯を告発するとともに、防衛対策委員会を設置して、その委員長にニッポン・ルネッサンス機構の総裁飯島を就けた。鷲津もまた”白馬の騎士(ホワイト・ナイト)”に名乗りを上げた。

しかし、ここで買収に参加してきたのはCICではなく、鷲津の古巣であるKKLだった。総帥アルバート・クラリスが乗り出してきたのだ。

サブプライムローンの影響で経営不安となった自動車ビッグ・スリー(ユニオン・オート、プリマス、フォックス自動車)支援のための資金をCICが拠出するというのだ。アジア嫌い、共産主義嫌いのクラリスだったが、アメリカ政府に頼まれ、愛国心から仕方なく乗り出したのが実態だった。

クラリスの本心を斟酌した鷲津クラリスが妥協できる対案を出すことで、この危地を脱しようとしていた。

 

漸く、アラン・ウォードの件が解決しましたが、あんまり釈然とはしない死に様ですね。

今回はCICの脅威を背景にして書かれており、なかなか興味深い設定ではあるのですが、漠然とした不安感・脅威が中心で、どうも踏み込み不足といった感じでしょうか。

このシリーズ、いつもそうですが、長くするために、不要なキャラクターや不要なエピソードを盛り込みすぎかもしれません。

キャラクターでは、今回も存在感の乏しい(なぜ、登場する必要があったの?別に出てこなくても話には大きな影響はないのに?といったような)登場人物が多数ありました。

少なくとも今回のストーリーで芝野の登場する必要は全くなかったといっていいでしょう。殆どアカマ自動車と接点を持たないのですから・・・。

謝慶齢についてもそうですね。別にわざわざ、あそこまで行数を割いてまで描写する必要があったんでしょうか。結局、(本人が意識しないままに)アラン・ウォードの謎の鍵となっていたというだけで、本人に何ほどの意味もないのですから。

一方で掘り出し物だったキャラクターは大内成行でしょうか。非常に人間味があり、苦悩する一介のサラリーマンという感じで、芝野よりもいい味を出しているようにも感じます。

今回だけの登場というのはちょっと惜しいキャラクターといえるでしょう。

次回はもうちょっとスッキリすることを望みたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『アマルフィ』 真保裕一

Amalfi 2009年、80冊目。真保裕一『アマルフィ』

映画の原作、なんですか?

まぁ面白かったかな。

最初の方はテンポが悪いんですが、ラストは急展開で、なかなか楽しめましたね。

 

アテネでサミット妨害を図る過激な環境団体”ブルー・アース”の検挙に関与していた外交官黒田康作は外務次官片岡博嗣からローマに飛ぶよう指示を受ける。

テヴェレ川上流の日伊共同開発の調印式のためにローマを訪れる外務大臣川越亘の保護の任を受けたのだ。

外務省入省直後、中米に派遣された黒田だったが、現地大使の品性下劣さに嫌気がさし、大使と商社との癒着を調べ上げると、本省へ報告した。

しかし、本省高官のもみ消し工作により、大使は何事もなく、黒田の方が日本へ呼び戻された。その頃、邦人テロ対策室の設立に動いていた片岡黒田の経歴に目をつけ、黒田をテロ対策室のスペシャリストとして養成したのだ。

不正を暴く黒田は派遣される先々の大使館で警戒感をもたれ、白眼視された。

ローマでも大使菊原和夫と参事官西野利明黒田を隔離しようとする。

一方で、警備を進めようとする黒田は総務担当武藤暁彦(34)と警備担当の警察からの出向者、今村直也(42)に、警備・警戒の実状を尋ねるが、その対応は非常に甘いものだった。

間もなく、大使館に火炎瓶が投げ込まれる。イタリア国家警察警備局のカンピオ警視がこれに対応する。

続けて、日本人の誘拐事件が発生する。ローマを訪れた矢上紗江子(34)が同行した娘まどか(9)がホテルで行方不明になったのだ。迷子を疑う最中、紗江子の携帯に犯人から連絡が入る。

邦人保護担当領事として紗江子に応対していた黒田紗江子から電話を奪い取ると犯人の要求を聞く。犯人の要求は番号不揃いの使用済み紙幣で10万ユーロの身代金。

係わり合いを怖れた西野が示唆する、イタリアのマスコミの口の軽さを怖れた紗江子は警察に通報することなく、10万ユーロの要求を呑むことを決める。

外資系コックス銀行東京支店に勤める紗江子は会社からの融資を受けることに成功した。翌日、コックス銀行ローマ支店には、ロンドン本店のEU統括部長アンソニー・ハーディングが直々に駆けつけ、紗江子を励ました。

警察への通報を思いとどまった紗江子だったが、まどかの誘拐されたホテルが勝手に警察に通報したことから、イタリア国家警察ジョバンニ・バルトリーニ警部が紗江子のもとを訪ねてくる。誤報だと繰り返す黒田の言い分にバルトリーニは聞く耳を持たない。

大使館に場所を移し、事情聴取が行われる中、犯人から連絡が入る。

当初の予定通り、ユーロスターに乗れと。

事件への関与を避けようとする大使館だったが、邦人保護領事の本分として、黒田紗江子に付き添い、ユーロスターに乗るのだった。

更に犯人は、ナポリの先アマルフィへ行くことを指示する。アマルフィに着き、犯人の指示通り歩く紗江子は突然鞄を引っ手繰られてしまう。犯人による身代金の回収なのか、単なるスリなのかの判別がつかない中、秘かに見張っていた警察は引ったくり犯を追いかけてしまう。

犯人からは取引中止の連絡が入り、紗江子は絶望する。

絶望する紗江子を慰めたのは外交官補の安達香苗だった。まどかのために気を取り直した紗江子はローマに戻ると、秘かに調査を始めた。

大使館を避け、秘かに調査を続ける紗江子の態度に不審を感じた黒田紗江子のパソコンの履歴から、紗江子まどかが誘拐されたホテルの監視カメラの保守元を調べていることを突き止め、警備会社ミネルヴァ・セキュリティーへ向かった。しかし、応対する社員は守秘義務を楯に情報を開示しない。

ミネルヴァ・セキュリティーの日本人アシスタント光永鞠子からの好意と思われる社員名簿をもとに、関係者から地道に聞き取りをする二人は、ホスト・コンピュータのパスワードを盗み取ったとみられる怪しい人物マルセル・シモンに行き着く。しかし、犯人はマルセル・シモンではなかった。マルセル・シモンカルロ・オルシーニと名乗る男に名義を貸していたのだ。

カルロの住所チヴィタヴェッキアを訪ねた黒田紗江子は、連絡を受けて既に到着していた警察とともに、そこで夥しい血痕を確認する。誘拐事件に偽のカルロ・オルシーニが関与していたことを確信した黒田紗江子とともに、ミネルヴァ・セキュリティーに向かった。

ホスト・コンピュータに残された画像の分析の結果、誘拐時の映像データが上書きされていることが判明する。

バルトリーニらと復旧に立ち会っていた黒田だったが、事件の担当者として同席していた光永鞠子の様子がおかしいことに気付く。

突然、鞠子は隠し持った改造拳銃をかざすと、コンピュータ・ルームの非常ロックをかけた。更に、オペレータに携帯電話を渡すのだった。

オペラ座の回線をすべて切断しろ

携帯電話の声はオペラ座の警備を弱体化させるものだった。

この日、オペラ座ではサントーニ大統領夫妻が出席するコンサートが開催される予定だったのだ。

ジルヴァーゾ室長の機転で電源を全て切ると、照明もモニターも全てブラックアウトし、開いた扉からは警備員が押し寄せた。鞠子が取り押さえられるや、バルトリーニはオペラ座の警備強化を指示するのだった。

しかし、黒田は狡猾な犯人の思惑が更に深くあることを予想した。当日ローマを訪問中の要人は日本とロシアの外務大臣だった。川越外務大臣が狙われることを予想する黒田だったが、それも犯人たちのシナリオだった。

 

チェチェンとヴァチカンというなかなかタッチーな題材ではありますが、政治的な意図があるというよりも、盛り上げる舞台装置として使った感じです。

ストーリーはミネルヴァ・セキュリティーのホスト・コンピュータ停止からの展開が妙に速いのですが、それまでがちょっとつらいかもしれません。アマルフィでのひったくりはなかなか面白い趣向でしたが・・・。

一方で、キャラクター面では主人公の黒田の輪郭がわかりにくい。組織のなかで浮き上がってはいますが、その一方で、言っていることは真っ当で、それほど斜に構えているわけでもない。クセのあまりないキャラクターではあるのですが、その分面白みにも欠けるといえるかもしれません。

黒田とともに、娘の行方を追う矢上紗江子についても、あまり魅力的には映りません。事件を展開させる一つの歯車に過ぎず、どうも感情移入しにくいものがあります。

黒田のスタッフともいえる安達香苗については、今後に期待、という感じでしょうか。

そういう意味ではキャラクターで読ませる作品ではなく、ストーリーで読ませる作品といえるでしょう。

設定からして、何となく、続刊がありそうな、物語かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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