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『シャングリ・ラ』 池上永一

Shangrila 2009年、75冊目。池上永一『シャングリ・ラ』

とにかく、このボリュームに脱帽。

非常に読み応えのある作品。情報量が多すぎて、遅々としてページが進まない。

ただ、前半の進展のなさに挫折してしまいそうになるが、そこで止めたら勿体無い。最後のスピード感を体験するためにも、是非、最初は辛抱強く読みすすめるべき。

 

環境悪化が進む中、世界経済は従来の資本主義から炭素経済へ移行していた。国連監視のもと、炭素排出の多い国には炭素税と称する関税が付され、国家経済の死命を制するようになっていた。

50年前。炭素経済への移行の中、東京都は山手線の中心部に人工地盤を重ねた空中積層都市アトラスの構築を始め、地上の森林化計画を進めた。

しかし、東京住民の全てがアトラスへ移住できたわけではなかった。アトラスへ移転するためには高額のアトラス国債を購入するか、アトラスくじと呼ばれる宝くじに当選するしかなかった。

多くの住民は住む土地を追われ、森林の中で自身たちのコロニーを作り、アトラスに対抗する反政府ゲリラ「メタル・エイジ」を構成し、炭素排出を繰り返すなど、政府への対抗姿勢を示していた。

メタル・エイジを率いる老婆北条凪子の跡を継ぎ、本拠のコロニー”ドゥオモ”で総統の職に就いたのは凪子の養子北条國子。2年前、政府の牽制に会い、通う名門高校で逮捕され、少年院暮らしを続けてきた少女だった。

國子を実質的に育ててきたのは、かつて六本木でニューハーフパブ『熱帯魚』を営んでいたニューハーフ、モモコ

國子の出所を祝うモモコモモコのニューハーフ仲間ミーコだったが、再会も束の間、ミーコがアトラスくじに当選し、別れのときが来る。別れを惜しみつつも、ミーコはアトラスへ移住していった。

アトラス第6層「新迎賓館」の主、美邦はアトラス公社の庇護のもと多くの家臣に傅かれていた。美邦に仕える家臣らには特権が与えられていた。膠原病のため、日光を浴びることのできない美邦を支える女医博士小夜子はアトラスにおける身分”アトラスランク”を自由に上下させる権限をも与えられていた。

美邦は、美邦に嘘をつくものに死を授けるという特殊能力の持ち主であり、特権と引き換えに、その家臣は緊張を強いられる毎日だった。

アトラスへ移住したミーコは偶然、美邦と出会い、その家臣に取り立てられる。嘘をつかないミーコ美邦の信頼を得るようになっていった。

炭素経済は、実際の炭素排出とは別の概念である「経済炭素」の増減が炭素税と直結していたが、その歪みにビジネスチャンスを見た若者らがあった。

飛び級の末、通信教育でハーバードのMBAを取得したアトラスの住人石田香凛はハーバードで知り合った若きカーボニストたちと、香凛の提唱するビジネスモデルの実証に入る。

香凛は海抜ゼロメートル地帯であるタックスヘイブン、マーシャル諸島の一つに『石田ファイナンス』を設立すると、最高水準のコンピュータ(プログラム)『メデューサ』を設置した。

『メデューサ』は各地の炭素税を決定する”炭素指数”を自由に操作することが可能だった。国家の疲弊にあえぐ高炭素債務国は『メデューサ』の前にひれ伏し、香凛らに多額のマネーをもたらすのだった。

しかし、『石田ファイナンス』と同様のビジネスを行う別勢力が現れた。香凛らの仲間の一人であるはずのニューヨーク在住のセルゲイ・タルシャンが、メデューサをコピーしたプログラムを、モルジブに設置したのだ。タルシャンの真意をつかみかねる香凛だったが、これを防戦するよう動く。

また、炭素市場の混乱を警戒した日本政府は、最高性能のコンピュータの出所から、所在地であるモルジブを見つけ出すと、新たに開発された擬態装甲板で作られた空母ペルセウスをモルジブに派遣し、メデューサのコピーを消滅させる。

この人間による対抗策に学んだメデューサは気候を操作し、自身を防衛するためマーシャル諸島に台風を設置すると、攻撃を寄せ付けないようにするのだった。

メデューサの存在を知った日本政府はメデューサへの攻撃を決行するが、台風の前に徹底を余儀なくされる。加えて、英国軍艦に欺瞞していたペルセウスはメデューサの企みにより、当の英国軍艦と遭遇させられ、相打ちの末、沈められてしまう。これに乗り込んでいた乗員が全滅するなかで、乗艦していた軍人草薙国仁だけが、なぜか助けられていた。

アトラス計画とは地上と天空を循環的に繋ぐ計画だった。しかしながら、超高層建築に伴う固有振動により安定しない構造体を鎮めるためには、唯一の”帝”を選定することが不可欠だった。

アトラスの身分制度の実態は、帝への即位へのランク付けであった。現在”帝”候補とされていたアトラスランク”AAA”の3人こそ國子(太陽)、美邦(月)、草薙(大地)のだった。

月よ、天へ昇り、闇夜を照らせ

アトラスを統べるコンピューター”ゼウス”からの声(暗号鍵)を受け取った美邦だったが、既に國子もまた”ゼウス”からの声を受け取っており、即位の決定には至らない。美邦への決定に至らない”ゼウス”に焦れた小夜子は真相を探るべく、”ゼウス”にハッキングをしかけるが、逮捕されてしまう。

美邦の懇請に従って小夜子の救出を請け負ったミーコだったが、小夜子を救い出したものの、自らが捕まってしまう。加えて、アトラスの構造を呪術的に支える仕組みの源でもある巫女水蛭子に憑依され、身体を奪われてしまう。

森に侵食され”ドゥオモ”での将来が危ぶまれる中、國子を総統に戴くメタル・エイジはアトラス第5層の政府施設の制圧を狙った起死回生の攻撃を行う。空からの侵入を試みた國子だったが、アトラスの対空防御は堅く、撤退を余儀なくされる。しかし、そこを突然地上から激しい火線が襲う。

このどさくさで何とか第5層に辿り着いた國子だったが、火線の正体を知り、慄然とする。これまでも散発的に繰り返される政府とゲリラの交戦の中で見られた正体不明の攻撃の源は新種の植物だったのだ。熱源に対して、高速で種を打ち込む植物は構造材グラファイトをも侵食していた。國子は政府との争い以上に、新種植物”ダイダロス”の危険性を感じ、政府に休戦を訴える。

一方、メデューサによって”ゼウス”のハッキングを受けたアトラス公社は大株主セルゲイ・タルシャンの指示のもと、”ゼウス”の初期化を行うが、ゼウスの初期化に伴い、国防力は著しく減退。政府は首相梅宮綾子の指示のもと国防省の幹部を更迭すると、國子との休戦交渉を行う。

国際司法裁判所の仲裁人として選任されたのはタルシャンだった。タルシャンは第5層をメタル・エイジら難民に明け渡すようにとの裁定を下すのだった。

人間同士の抗争の後、メタル・エイジと草薙の指揮する政府軍は協力して、森林を焼き払い、ここに50年にわたるメタル・エイジの念願が成る。

アトラスへの攻撃の最中で養母凪子がアトラス公社の初代総裁であることを知った國子は、その裏切りに憤り、凪子を”ドゥオモ”から追放する。追放された凪子はアトラスのタルシャンと合流する。もともと「アトラス計画」は凪子タルシャンが50年前に計画したものだったのだ。

美邦を”帝”の候補者たる皇太子に擁立するよう奔走する小夜子の前に現れたのは、元総理大臣鳴瀬慶一郎の孫涼子。学生時代から小夜子の前に現れ、小夜子を虐げる涼子は万能の天才だった。涼子小夜子を虐げることに喜びを感じていたのだ。

涼子小夜子の邪魔をする過程で、アトラス計画の真相を知ると、自身が帝となるべく動き始めるのだった。

アトラス計画の真相を知ることになった國子草薙だったが、ともに”帝”への関心は薄かった。しかし、難民を救うべく國子は即位を目指し、アトラス公社へ向かった。

また、美邦のために小夜子が、そして自身が即位するという夢をみて涼子も第四の神器”天の沼矛”の争奪戦が始まる。

一旦は國子の手により破壊されたメデューサだったが、一部残った機能を使って国連にハッキングすると、国連管理となっていた核兵器を東京などの主要都市に照準を合わせた。

一方、帝即位を間近に控え、アトラス計画の完遂を確信した凪子は、ゼウスに宿らせた擬似人格である神武天皇の排除を目論むが、既にそれを見切っていたゼウス(神武天皇)の逆転にあい、タルシャンとともに幽閉されてしまう。

木乃伊を復活させたゼウス(神武天皇)は皇太子として天の沼矛を携えた美邦を排除しようとする。そこへ駆けつけたのは、核兵器の発射を止めるべく、急行した國子だった。

 

スピード感が前半と後半で全く違います。

物語の背景説明に膨大な情報量を費やす前半は、物語の展開も緩やかで、新世界案内といった感じです。

一方で、後半は次から次へとイベントは起こるは、秘密が次々と明かされていくは、で、とにかくめまぐるしい。

キャラクターでいえば、モモコ武彦などのように前半登場のキャラクターはあくまで前半だけのキャラクターで、後半になるとどうも失速してしまうような印象です。

また、長丁場ということもあってか、少しずつキャラクターの描写が変わってきます。特に小夜子がそうですね。前半では全くの敵役というか、悪の権化的な扱いですが、後半は母性の強い女性の印象が極めて強くなっています。これは後半から登場する涼子の毒々しいまでの悪役ぶりとの対比を強調するためなのかもしれませんが・・・。

なぜ神武天皇が女性?とか、いろいろ不思議な点もありましたが、一番不思議に思ったのは美邦の特殊能力。あれって、何なんでしょう。最後まで特に解説もなく、どうもよくわかりませんでした。

もうひとつ、理解できなかったのは、メデューサが行う炭素を減らす仕組み。ちゃんと説明はされているんですが、どうも理解できません。

そうだ。あと、もうひとつ。メデューサが意識していたのは、仮想海面水位であるはずなのに、ラストで堤防の閘門を開けたところが、どうも釈然としませんでした。

どうもこれだけ長いと、いろいろわからないところが出てくるものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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