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2009年5月

『疾風ガール』 誉田哲也

Shippu 2009年、65冊目。誉田哲也『疾風ガール』

『武士道シックスティーン』とか、ああいった青春小説のイメージかと思いきや、一応はミステリだったんですね。

主人公は宮原祐司夏美の二人になるのかもしれませんが、祐司は殆ど霞んでしまっています。

 

宮原祐司は17歳でデビューした島崎ルイの才能を前に、27歳でバンド活動を断念し、かつて同じバンドに在籍していた梶尾恒晴が専務取締役を務める芸能事務所「フェイス・プロモーション」に入社した。

しかし、入社して3年、祐司がスカウトできたのはたった一人、日野原(佐藤)蛍子だけ。しかし、その蛍子も売れることはなく、クビにしたばかりだった。

梶尾の雑事に追われる祐司は、目黒のライブハウス『ロックステーション』のオーナー松岡幸弘のもとに梶尾の名代で謝罪に行くよう命じられる。

『ロックステーション』はかつて祐司のバンドも出演したことのあるライブハウスで松岡とも祐司は顔見知り。松岡はフェイスプロの開けた穴を埋めることとなったバンド『ペルソナ・パラノイア』を誉めそやし、祐司にも観ていくよう勧める。

祐司はギターの夏美の才能に特別なものを感じ、スカウトを考えるが、梶尾の路線である”ロリ顔・巨乳”には全く見合わない。諦めきれない祐司梶尾には黙って、夏美へのアプローチを始めた。

夏美の属する『ペルソナ・パラノイア』はギターの夏美のほか、リーダーのドラムス畑中出、ベースの木村”ジン”仁志、ボーカル城戸薫の4人。

祐司のアプローチに、『ペルソナ・パラノイア』で上がっていきたいと考える夏美はそっけないが、夏美を信奉するスタッフ平泉真緒夏美に更に高みに上って欲しいと考え、祐司夏美のバイト先を教えるのだった。

夏美がバイトし、『ペルソナ・パラノイア』が練習する池袋のレンタルスタジオ『スカイ』(オーナー大代)に通いつめるようになった祐司はメンバーとも顔見知りになる。夏美は自身が『ピンクノイズ』から『ペルソナ・パラノイア』に移籍するきっかけともなった尊敬するボーカルに、夏美のスカウトについて意見を求めるのだが、はそっけなく、相手もしてくれない。

傷心の夏美のもとに、翌日、の自殺のニュースがもたらされる。

『スカイ』でバイトする夏美と(顔を出した)祐司のもとへ池袋署の刑事新田茂(巡査部長)が訪ねてきたのだ。新田は事情聴取のために署へ案内した宮原に事件の概要を語る。は頚動脈をバタフライナイフで切っての失血死で、自殺に疑いはなかった。しかし、疑問がいくつか残った。右手首に死亡直前にきりつけられたと思しき傷が残っていること。城戸薫が偽名であり、身元不明であるということ。

と同棲していたキャバ嬢真島塔子もまた、城戸薫という名が偽名であることを知らず、身元も全く知らなかったのだという。

の死に、パニックの末、部屋に引き篭もってしまった夏美のもとへ通う祐司の前に(弁当につられた)夏美が漸く姿を現わす。

祐司から事情を聞いた夏美の遺体を確認すべく、遺体を引き取ったはずの塔子の部屋に向かうが留守。事件後、塔子は部屋に戻っていない様子だった。

次に、の身元を探そうとする夏美はかつてが懐かしそうに見ていた『長者盛』という日本酒の小瓶のことを思い出した。それだけを頼りに、祐司夏美に引きずられるように新潟県に向かった。

越後湯沢の『ぽんしゅ館』で情報を得られなかった二人は蔵元新潟銘醸のある小千谷市に向かう。新潟銘醸に勤める石毛美智子から紹介された”J・B馬場淳一郎がかつて地元局の番組に出ていたことを告げた。更にJ・Bの紹介で訪ねた新潟市内のライブハウス『ファンク・ジャンク』のオーナー志村は、夏美のこともの自殺のことも知っていた。

は地元のバンド『ラヴクラフト』のメンバー奥田”KID”郁であることが判明。実家は湯沢駅のそばで、父親は地元では有名なチェリスト奥田謙造だった。

翌日、湯沢に戻った二人は道を歩く真島塔子を見かけ、三人で奥田謙造のもとに赴く。

謙造)の死を従容として受け入れるとともに、の生い立ちを三人に語った。の母親と姉は12年前に交通事故で亡くなっていたが、は事故を自身のせいだと責め続けた挙句、東京に出る予定だったに代わって、自身が東京で(音楽で)成功すべく上京したのだった。

そして、なぜか謙造夏美にピアノとバイオリンを弾かせる。

 

ストーリーとキャラクターでいうなら、やはり圧倒的にキャラクターで読ませる作品ですね。とにかく、夏美の造形が秀逸。

自信家で、生意気な口を叩くわりには、喧嘩が弱くて日和ってしまうところや、コーラやオリジン弁当を愛好するという等身大というか、親しみのわくキャラクターになっています。才能ある、こういった高飛車なキャラクターはストーリーへの落ち着きが悪くなりがちですが、才能とは別のごく平凡な私生活が親しみやすく、うまく他のキャラクターとも絡んできます。

祐司も結局のところ、夏美の下僕のように働きながらも、うまく夏美の手綱もとっているようで、今後の展開が期待されます。

この後日譚が『ガール・ミーツ・ガール』として発行されたようですので、それも今から楽しみです。

最近『ジウ』シリーズを読んできましたが、やはりこういったキャラクターの生きる作品の方が面白いですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『君と一緒に生きよう』 森絵都

Kimitoissyo2009年、64冊目。森絵都『君と一緒に生きよう』

ノンフィクション。

捨て犬、野良犬、迷い犬、保健所から救出された犬など、そういった保護された犬を希望者に譲渡する保護活動の紹介。

それぞれ、保護された経緯と貰われるまでの道筋、犬の回復の有様が紹介されます。

 

序 スウ

1 梅花姉妹

2 女王くるみ

3 北アルプスの麓で

4 犬猫里親会

5 ミスティとモモ

(イラストコラム)介護

6 マレアと七頭の子犬たち

7 猟犬ひめ

8 オレオ

(イラストコラム)ボランティア

9 ブリーダー崩壊

10 二頭目のハク

11 土手に生きる犬たち

12 シェルターリポート

(イラストコラム)定時定点回収

13 救われない命たち

 

この作品でも最後に繰り返し述べていますが、命の尊さが軽視されていることを危惧するのには同感。

最近の風潮をみていると、ペットに限らず、何もかもが刹那的に求められているような気がしてなりません。そのときに欲しいものがあれば買う。それが1カ月後、1年後、どうなるかといったことは考えない。要らなくなったら、捨てれば(誰かにあげれば)いい。そんな風潮が世の中に溢れているような気がします。飽食の時代と言われて久しいですが、食だけでなく、物もそんなふうになってきて、そして命です。

特に、命の場合は非常に尊いからこそ、こんな警句が打たれますが、おそらくはもっと根本的なところで見直さなければならないんじゃないでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子

Nekodaite 2009年、63冊目。小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』

実在の人物とも思わせる不思議な主人公”盤下の詩人”リトル・アリョーヒンの物語。

チェスがわかっているともっと面白いんだろうな、と思わせるチェスの話。

ただ、チェスの巧拙や勝負の醍醐味というよりも、むしろチェスに詩を感じさせるような雰囲気のある作品といったらいいでしょうか。

 

祖父母と暮らす無口な少年はある日、学校のプールで死体を発見する。

死体となった男の働いていたバス会社の独身寮を興味本位で覗きに言った少年は、そこで廃車となったバスの中で暮らす肥満体のと出会った。

そこが気に入った少年はそこでからチェスを習うこととなる。マスターと呼ぶようになった少年だったが、難局となった際にはチェス板となったテーブルの下にいる「ポーン」という名の猫をなでながら考えるという癖がついていく。そのうち、対局の間中、テーブルの下に籠もるという独自のスタイルを身につけてしまう。

マスター少年に新たな対戦者を見つけるべく「パシフィック・チェス倶楽部」に少年を誘うが、その入会審査で、テーブルの下に隠れる少年の指し方は失格負けになってしまう。

また、マスターとの二人でのチェスに戻ったが、程なくマスターは巨体を持て余し、死んでしまう。

傷心の少年を迎えに来たのは、パシフィック・チェス倶楽部の事務局長。アンダーグラウンドのチェス倶楽部「パシフィック・海底チェス倶楽部」に用意された自動チェス人形「リトル・アリョーヒン」の内部に潜んで、少年にチェスを指すことを求めたのだ。

グランドマスター、アレクサンドル・アリョーヒンに因んで作られた人形と同じくリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになった少年は、記録係としてついた少女ミイラとともに、来る日も来る日も人形のなかで会員とチェスを指し続けるのだった。

巨体のせいで死んだマスターを目にしたリトル・アリョーヒンの心は身体の成長を拒み続け、11歳の身体のまま大人になっていった。

ある日、酒に酔った会員により人形を壊されてしまったリトル・アリョーヒンは「人間チェス」を任される。人間が駒の代わりをするチェスに戸惑いながらもリトル・アリョーヒンは勝利するが、期せずしてミイラを傷つけてしまう。

海底チェス倶楽部を離れることを決意したリトル・アリョーヒンは家具職人である祖父に”リトル・アリョーヒン”を分解して持ち運べるよう改造することを依頼する。傷ついたリトル・アリョーヒンが海底チェス倶楽部を離れようとしているのを察していた、人形製作のパトロン老婆令嬢リトル・アリョーヒンと最後のチェスを指し、リトル・アリョーヒンに進むべき道を示す。

老婆令嬢の案内によりリトル・アリョーヒンが辿り着いたのは”老人専用マンション・エチュード”。エチュードはチェス連盟の前々会長が創設したチェス連盟メンバーのための老人施設だった。

雇われたリトル・アリョーヒンは夜間にチェスを求める入居者たちとチェスを指すのだった。

 

決して、大きな事件が起きるわけではありませんし、どちらかといえば主人公が純粋ではあるものの夢見がちという設定もあるのでしょうか、淡々と起伏なく物語は進行します。

勿論、マスターの死や祖母の死、海底チェス倶楽部からの逃走、国際マスターS氏との対戦といった相対的には大きなイベントもあるのですが、どちらかというと事象よりも心情中心の描写は、ストーリーとして読ませるものではありません。

”盤上の詩人”とも言われるような棋譜と同様、この物語自身も心情中心の詩的なイメージを感じさせるようになっています。そのためか、殆ど人名が存在しません。また、客観的に見れば、貧しく教養を培うこともできないままに、その無教養のまま、貧困から脱出することもできず、上流階級に食い物にされるだけの、悲しい存在にも見えます。そんな境遇にあっても、その才能、感情の豊かさを称揚すべきなのかもしれませんが、ちょっと全体のトーンが暗いような気がしてなりません。

人物描写については、その設定の奇妙さが逆に真に迫って感じさせます。唇に脛の皮を移植したせいで、唇から脛毛が生えてくるという奇妙な設定や、ミイラや老婆令嬢という名称。引っかかり、その醜悪さを感じながらも、だからこその存在感を感じさせられます。

でも、この描写って、全体とどうマッチングするんでしょう。作品全体の背景に流れるマイナスのトーンを強める効果なんでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ジウⅢ』 誉田哲也

Jiu3 2009年、62冊目。誉田哲也『ジウⅢ』

『ジウ』シリーズ最終巻です。

こんなことになってしまいますか?警察小説といったイメージで読み始めた物語ですが、ちょっと行き過ぎてしまった感のある展開です。

真面目な、オーソドックスな警察小説をイメージしていると意表をつかれます。

 

SATに戻った基子は新たに編成されなおした制圧一班の班長に指名される。基子の部下として配属された5名もまた新規に募集された隊員であったが、極めて優秀な5名(白石守平山浩一吉田謙三上英司千葉貴匡)が揃っていた。

一方、捜査本部では歌舞伎町で伊崎基子ジウを追っていたという証言が得られる。美咲もまた基子を迎えに行った事実をに伝える。そんなところへ、美咲に接触をとってきたのはSAT第一小隊の小隊長小野である。小野は復帰後の基子の様子に不審を感じていたのだ。小野の態度に半信半疑だったが、美咲小野の言葉に信ずるに足る印象を感じていた。

公安部は捜査本部に竹内亮一の携帯電話の通話記録を求めてきた。捜査本部に現れた公安一課の間山に資料提出を求めるが、間山の持っている情報と資料の交換を申し出た。間山雨宮が殺されたのには理由があるのではないかと疑っていた。竹内は何者かに指示され、雨宮を殺したのではないか、と考えた間山竹内の携帯電話に残された通話記録を調べようとしていたのだ。

しかし、携帯電話の通話記録には、間山の疑いを示唆するような記録は残っていなかった。

これにヒントを得た美咲竹内がもう一台携帯電話を持っていたのではないかと疑い、再度現場を虱潰しに探すのだった。

SATに命令が下った。衆議院議員選挙の選挙演説の警備だ。このつまらない指示にシラける基子だったが、部下の5名は違った。警備の本当の意味がわかっていたのだ。部下から基子に手渡された携帯からは基子の声が・・・。部下5名は宮路の差配で基子の部下につけられた宮路の仲間だったのだ。

選挙演説の当日、宮路の手配した爆竹が炸裂する中、どさくさに紛れて内閣官房長官渡辺和智を殺害し、総理大臣大沼堅次郎を警備用の車で攫ったのは警備を担った基子の指揮するSAT第一小隊制圧一班だった。

基子らは宮路の仲間らによって封鎖された歌舞伎町へ大沼を連れていき、ジウに引き渡す。歌舞伎町へ至る通路の全てはパネルバン・トラックなどにより閉ざされ、宮路を信奉する男たちが銃をもって蜂起していたのだ。

いまや歌舞伎町は暴挙の坩堝と化していた。ミヤジの提唱する現世界の秩序には属さない「新世界」が現出しようとしていたのだ。

カメラの見守る中、基子は狩り出されたの部下沼口を射殺するなど、警察からはジウのグループの実行犯とみなされるようになっていった。SATの面目は丸つぶれとなり、警備部の太田も最早語る言葉はなかった。

ホームページで公開された犯行声明では「歌舞伎町の治外法権を求める」という要求がつきつけられる。「新世界秩序(NWO)」を名乗るグループは24時間以内の回答を求めた。

この映像で見た基子の部下に美咲は見覚えがあった。竹内亮一ら自衛隊員の同僚だったのだ。この発見を聞いたは公安の間山の動きとも合わせ、上層部にジウらの協力者の影を感じるのだった。

通路を封鎖され、銃をもった男たちに見張られた歌舞伎町への潜入は人的被害が甚大となることが予想され、西脇らは二の足を踏み、手詰まりの状態が続く。そんななか、基子を改心させるべく、小野は単身歌舞伎町に潜入しようとする。それを見かけた美咲もまた、小野に同行するのだった。

一方、基子は事件後、白石らの言葉の端々からミヤジへの不審を深めていた。雨宮ミヤジの仲間とは思えなくなってきたのだ。白石らの制止を振り切り、「新世界」に押し入った基子だったが、そこにミヤジの姿はなかった。

「新世界」に潜入した小野は、基子白石を射殺しようとするのを見て、制止のために飛び出し、咄嗟のことに反応した基子の銃弾を浴びる。これを見て飛び出した美咲の姿をも目にして怒りが更に増す基子だったが、雨宮ミヤジの仲間ではなく、愛を説いていた姿が真実だったことに気づいたとき、美咲とともに立ち上がっていた。向かう先はミヤジが籠もる早川不動産。

 

ちょっと派手ですね。

この歌舞伎町封鎖をするために、どれほどの資金が必要なんでしょう。なんとなく、それを用意できるだけの資金が宮路にあるのだとすれば、わざわざ治外法権なんて要求しなくてもいいんじゃないかと思ってしまいます。

それとも宮路が博愛主義者というか、自身が撒いた虚無に賛同した信者らのために、新たな世界を築こうとしていたとでもいうんでしょうか。馬鹿馬鹿しいほどの派手さの裏側の根拠がどうもしっくりこないところが欠点でしょうか。

でも、こんなところに着地するとは思わなかったですね。何というか警察ものとしてはイロモノの部類にはいるような感じです。

あと、シリーズを通じてで言えば、竹内亮一の死因って、何となく伏線っぽかったですが、結局あのときの推理で完結してたってことなんですか。

ジウ、タイトルにもなっているわりには最期まで存在感が薄かったですね。動機は美咲がキレイに解明したような形になっていますが、どうもやってきたことと、最期の悲劇性のようなものとがどうもそぐわない感じですね。ここまで派手に死者等を出しているわりには、圧倒的な悪者の存在をおかないのが、ちょっと気持ち悪いかもしれません。別にキレイな勧善懲悪を求めるわけじゃないですが、それにしてもちょっと消化が悪いような感じ。

『ジウⅡ』から匂わされてきた警察幹部の関与って、結局あんな下っ端だったんですか。ちょっと拍子抜けです。せめて太田部長であったり、警視総監くらいでないと、ぶち上げた花火との対比で、どうも落ち着きが悪いんですよね。

まぁ終わってしまった物語ですが、もうちょっと最初からストーリーの外枠がわかってたら、と思ってしまいます。言ってみれば、社会のつもりで勉強を始めたら、実は理科だったというような騙された印象を受けます。別にそれが、プラスでもマイナスでもなく、もうちょっと整理しておいてほしかったな、という感じでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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