『疾風ガール』 誉田哲也
2009年、65冊目。誉田哲也『疾風ガール』
『武士道シックスティーン』とか、ああいった青春小説のイメージかと思いきや、一応はミステリだったんですね。
主人公は宮原祐司と夏美の二人になるのかもしれませんが、祐司は殆ど霞んでしまっています。
宮原祐司は17歳でデビューした島崎ルイの才能を前に、27歳でバンド活動を断念し、かつて同じバンドに在籍していた梶尾恒晴が専務取締役を務める芸能事務所「フェイス・プロモーション」に入社した。
しかし、入社して3年、祐司がスカウトできたのはたった一人、日野原(佐藤)蛍子だけ。しかし、その蛍子も売れることはなく、クビにしたばかりだった。
梶尾の雑事に追われる祐司は、目黒のライブハウス『ロックステーション』のオーナー松岡幸弘のもとに梶尾の名代で謝罪に行くよう命じられる。
『ロックステーション』はかつて祐司のバンドも出演したことのあるライブハウスで松岡とも祐司は顔見知り。松岡はフェイスプロの開けた穴を埋めることとなったバンド『ペルソナ・パラノイア』を誉めそやし、祐司にも観ていくよう勧める。
祐司はギターの夏美の才能に特別なものを感じ、スカウトを考えるが、梶尾の路線である”ロリ顔・巨乳”には全く見合わない。諦めきれない祐司は梶尾には黙って、夏美へのアプローチを始めた。
夏美の属する『ペルソナ・パラノイア』はギターの夏美のほか、リーダーのドラムス畑中出、ベースの木村”ジン”仁志、ボーカル城戸薫の4人。
祐司のアプローチに、『ペルソナ・パラノイア』で上がっていきたいと考える夏美はそっけないが、夏美を信奉するスタッフ平泉真緒は夏美に更に高みに上って欲しいと考え、祐司に夏美のバイト先を教えるのだった。
夏美がバイトし、『ペルソナ・パラノイア』が練習する池袋のレンタルスタジオ『スカイ』(オーナー大代)に通いつめるようになった祐司はメンバーとも顔見知りになる。夏美は自身が『ピンクノイズ』から『ペルソナ・パラノイア』に移籍するきっかけともなった尊敬するボーカル薫に、夏美のスカウトについて意見を求めるのだが、薫はそっけなく、相手もしてくれない。
傷心の夏美のもとに、翌日、薫の自殺のニュースがもたらされる。
『スカイ』でバイトする夏美と(顔を出した)祐司のもとへ池袋署の刑事新田茂(巡査部長)が訪ねてきたのだ。新田は事情聴取のために署へ案内した宮原に事件の概要を語る。薫は頚動脈をバタフライナイフで切っての失血死で、自殺に疑いはなかった。しかし、疑問がいくつか残った。右手首に死亡直前にきりつけられたと思しき傷が残っていること。城戸薫が偽名であり、身元不明であるということ。
薫と同棲していたキャバ嬢真島塔子もまた、城戸薫という名が偽名であることを知らず、身元も全く知らなかったのだという。
薫の死に、パニックの末、部屋に引き篭もってしまった夏美のもとへ通う祐司の前に(弁当につられた)夏美が漸く姿を現わす。
祐司から事情を聞いた夏美は薫の遺体を確認すべく、遺体を引き取ったはずの塔子の部屋に向かうが留守。事件後、塔子は部屋に戻っていない様子だった。
次に、薫の身元を探そうとする夏美はかつて薫が懐かしそうに見ていた『長者盛』という日本酒の小瓶のことを思い出した。それだけを頼りに、祐司は夏美に引きずられるように新潟県に向かった。
越後湯沢の『ぽんしゅ館』で情報を得られなかった二人は蔵元新潟銘醸のある小千谷市に向かう。新潟銘醸に勤める石毛美智子から紹介された”J・B”馬場淳一郎は薫がかつて地元局の番組に出ていたことを告げた。更にJ・Bの紹介で訪ねた新潟市内のライブハウス『ファンク・ジャンク』のオーナー志村は、夏美のことも薫の自殺のことも知っていた。
薫は地元のバンド『ラヴクラフト』のメンバー奥田”KID”郁であることが判明。実家は湯沢駅のそばで、父親は地元では有名なチェリスト奥田謙造だった。
翌日、湯沢に戻った二人は道を歩く真島塔子を見かけ、三人で奥田謙造のもとに赴く。
謙造は薫(郁)の死を従容として受け入れるとともに、郁の生い立ちを三人に語った。郁の母親と姉緑は12年前に交通事故で亡くなっていたが、郁は事故を自身のせいだと責め続けた挙句、東京に出る予定だった緑に代わって、自身が東京で(音楽で)成功すべく上京したのだった。
そして、なぜか謙造は夏美にピアノとバイオリンを弾かせる。
ストーリーとキャラクターでいうなら、やはり圧倒的にキャラクターで読ませる作品ですね。とにかく、夏美の造形が秀逸。
自信家で、生意気な口を叩くわりには、喧嘩が弱くて日和ってしまうところや、コーラやオリジン弁当を愛好するという等身大というか、親しみのわくキャラクターになっています。才能ある、こういった高飛車なキャラクターはストーリーへの落ち着きが悪くなりがちですが、才能とは別のごく平凡な私生活が親しみやすく、うまく他のキャラクターとも絡んできます。
祐司も結局のところ、夏美の下僕のように働きながらも、うまく夏美の手綱もとっているようで、今後の展開が期待されます。
この後日譚が『ガール・ミーツ・ガール』として発行されたようですので、それも今から楽しみです。
最近『ジウ』シリーズを読んできましたが、やはりこういったキャラクターの生きる作品の方が面白いですね。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★★☆
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)




最近のコメント