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2009年4月

『ステップ』 重松清

Step 2009年、61冊目。重松清『ステップ』

妻を亡くして娘美紀と二人の生活を始める男性武田健一の子育て連作集。美紀の2歳から小学校卒業までのお話。

重松清にしては珍しく、舞台は地方都市ではなく、東京や横浜となっています。

そして、冒頭そして最後に人が亡くなるというエピソードが入ります。やっぱり泣けます。

 

ケロ先生美紀:2歳]

武田健一(30)は結婚3年目にして妻朋子(30)を亡くす。残されたのは1才半の娘美紀

美紀を引き取るという義父母などの言葉に感謝しつつも、健一美紀と二人で暮らす道を選ぶ。健一は会社の人事部長、役員にも直訴し、営業から離れて総務課へ移るとともに、8:00~16:00という変則的な勤務時間(フレックス)を認めてもらう。

こうして始まった美紀との二人暮らし。まず、乗り越えるべきは美紀の保育園デビューだ。

保育園の二歳児クラス『すみれ組』で美紀を担当したのは愛称”ケロ先生”(天賀先生)だった。

人見知りの激しい美紀を心配した健一だったが、美紀ケロ先生になついていく。ケロ先生もまた、美紀と同じく母を早くになくしており、他の園児以上に美紀に気を配るのだった。

そんなケロ先生に感謝する健一だったが・・・。

 

ライカでハロー・グッバイ美紀:5歳]

ひな祭りに際して、義父母が用意したのは立派な七段飾りの雛人形。美紀もひな祭りの晴れ着を着る。

そんなひな祭りの記念撮影を依頼したのは、朋子の実家で家族の歴史の節目節目を撮って来た『大橋写真館』。

しかし、大橋写真館の店主がぎっくり腰になったことから、その娘礼香が代理としてやってくる。礼香は海外の難民キャンプなどを回るプロのカメラマン。たまたま帰省していたところだったのだ。

美紀ともうまく接する礼香に、順調に撮影は始まったのだが、義父母が雛人形らを美紀に示して喜ばせたりする姿に、礼香の視線は冷たい。

雛人形や晴れ着を台無しにするような礼香の発言に、義父母のいらだちは増していく。

 

あじさい美紀:小学校1年生]

美紀が小学校に入学し、集団登校するようになると、健一にも朝カフェでコーヒーを飲む余裕も出来てきた。新たにオープンしたカフェのお気に入りのアルバイト店員成瀬さんに亡き朋子の面影をみて、和むのだった。

母の日を前に、小学校のクラス担任からの手紙は「お母さんの絵」をどうするのかという照会だった。相談するといいながらも、健一と話をするは、写真を見て描くことで結論は出ていた。「母親は家にいる」という美紀の言葉は嘘だ、と切って捨てるの言葉に健一には納得のできないものを感じていた。

 

キュウリの馬に乗って美紀:小学校2年生]

健一美紀がお盆にやってきたのは義母の母(朋子の母方の祖母)の家。

お盆には亡くなった人が還ってくるのだと、迎え火を焚く。

義父母朋子の子ども時代の頃を語り、祖母もまた美紀に対して朋子のように接するのだが、祖母朋子美紀の区別は十分についていた。

かつての営業部時代の上司榎本部長からの話で見合いを引き受けざるを得なかった健一美紀を残し、東京に帰るのだが・・・。

 

サンタ・グランパ美紀:小学3年生]

朋子の小学校時代の同窓会の案内が義父母らの元に届く。

立腹する義父だったが、彼もまた寂しい思いを抱えていた。

一部上場企業の専務として活躍してきた義父だったが、社内の派閥抗争の末、退職を余儀なくされたのだ。会社を離れて、自身の来し方を振り返ると、娘朋子を早くに亡くし、息子良彦にも子ども(孫)ができないという状況に、無常感を感じていた。

朋子の思い出のない美紀にとっては、義父母の語る話や実家に残る写真が思い出の全てだったが、既に亡くなった朋子の思い出が増えるわけもなく、その限界は美紀だけでなく義父をも悲しませていた。

 

彼岸過迄美紀:小学4年生]

バレンタインデーを前に、手作りチョコレートを作るために、美紀が家に呼んだのは伯母(良彦の妻)

なかなか子どものできない良彦の夫婦は不妊治療に努めたが、甲斐なく、が43歳のときには諦めていた。しかし、子どもができない、また、その原因がにあるというストレス、悲しみは翠を責め苛んだ。精神的に追い詰められた義父母が二世帯住宅を計画したのを機に、良彦とともに都心の新しいマンションに移ってしまったのだ。これで義父母良彦たち夫婦の間はぎくしゃくしていた。

しかし、健一には何も言うことはできなかった。

その頃、健一が課長を務める総務部資材課では中国からの研修生を受け入れていた。極めて優秀ではあるものの、同僚と一切馴染もうとしないヤンさんに、健一も困惑していた。

 

バトン美紀:小学5年生]

運動会を前にして、クラス対抗リレーの選手となった美紀はバトンの練習に余念がない。足は速いのだが、バトンがうまくないのだ。

美紀が苦手としている熱血の同級生池内さんが張り切っているのだ。

健一は4月の人事異動で営業開発部に異動していた。そして、健一がそこで出会ったのは広告代理店のシンクタンクからの出向でやってきていた斉藤奈々恵(35)。

健一奈々恵美紀に会わせたいと考えていた。

 

ホップ、ステップ美紀:小学6年生]

奈々恵の亡くなった息子剛史の墓参りのために、元夫の実家のある街に向かう健一奈々恵の二人。美紀はついていくのを拒んだのだ。

美紀には前年の暮れに奈々恵と会わせていた。会っている場では自然に振舞う美紀だったが、別れた後にはその都度具合が悪くなるという状態が続いていた。

墓前で美紀を連れてくることを剛史に誓う健一は、観光や何やらで美紀をつろうとするが、その邪道を美紀は責める。

中学になれば義父母の家に行くという美紀だった。

 

ジャンプ美紀:小学校6年生]

義父が癌で入院する。転移が進み、余命は3カ月から半年。

告知を受け入れた義父は淡々と身辺の整理を進めた。

やせ衰えた姿を見せたくないとの思いから、美紀の見舞いは断って・・・。

義父健一に尋ねる。

伝言があるなら、今度教えてくれ。朋子に・・・・・・もうすぐ会えるんだから、俺は

 

健一美紀の話ではあるんですが、そこに絡む登場人物として義父母伯父叔母の存在感が大きいですね。それでいて、健一の両親については殆ど登場しない。

このあたりは何か意図的なものがあるのでしょうか。

実際には、なかなか義父母との関係って難しいような気もするんですが、それがマスオさん的というといいすぎかもしれませんが、それに近いような距離感で接するというのが、どうにもしっくりこない。

朋子が若くして亡くなった、孫が美紀だけ、という事情はあるんでしょうが、義父母からのアプローチは当然として、健一の方のスタンスがどうも釈然としません。優しい性格なのか、流されやすいという性格なのか、敢えて自身の両親との接点よりも亡き妻の両親の接点が多いというのが、どうしても設定として気になって仕方がありませんでした。

まぁ、そういう設定を映してか、健一の性格設定が若干曖昧かもしれません。状況の語り部的な役回りが多く、あまり自己主張がみえてきません。

同様に、多くの出来事の中心にいる美紀ではありますが、これもはっきりした姿が見えてこないような気もします。

その意味では登場人物云々で読むというよりも、ストーリーを読む作品なのかもしれません。勿論、特徴が強くなくとも、繰り返し登場することによって少しずつ印象は深まりますから、義父の最期を迎えるにあたっての喪失感はやはり大きなものにはなります。

朋子が亡くなったことで始まり、奈々恵を迎えて新たな生活が始まるところで終わるこの物語。結局は美紀の成長物語というよりも健一の物語だったのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『ホペイロの憂鬱 JFL篇』 井上尚登

Hopeiro 2009年、60冊目。井上尚登『ホペイロの憂鬱 JFL篇』

これ「JFL篇」って、今後「J2篇」とか「J1篇」って続くんでしょうか?

舞台はJFLのクラブってことなんですが、印象としては同じ東京創元社の『タルトタタンの夢』(近藤史恵)や『配達あかずきん』(大崎梢)に似た感じの軽いミステリというところでしょうか。

舞台はサッカークラブということですが、特にサッカーを知らなくても十分楽しめる作品ですし、逆に知っていてもそれほど何かしら面白さが増すというわけでもないような作品です。

 

神奈川県相模原市をホームタウンとする日本サッカーリーグ(JFL)所属のサッカークラブ、ビッグカイト相模原。

坂上栄作はそこのホペイロ兼雑用係。

クラブの広報三島撫子(28)に雑用をいいつけられ大変な毎日だが、ボランティアでクラブを手伝う女子大生山岸奈々子(20)や新人選手神坂元気にも助けられ、なんとかホペイロを務める毎日。

  

カンガルーの右足

ホペイロ(用具係)の仕事のほかに洗濯もこなさなければならない坂上には殆ど休みもない。そんな洗濯をする坂上に声をかけたのは60代のおばあさん。

光恵さんだよ

と名乗るおばあさんは、坂上の上司にあたる桑原峰太郎やクラブの社長御子柴とも知り合い。ビッグカイト相模原の母体ともなった相模ベアリングサッカー部の寮母をしていたのだ。

その伝手で光恵さんはクラブの洗濯を手伝ってくれることとなった。

この頃、坂上には不思議なことがあった。クラブのスター選手ヤマケンさん(山形建一)がまだ使えるスパイクを廃棄することが多くなってきたのだ。

光恵さんは、山形が何かを坂上に隠すためにしていることだと言うのだが・・・。

 

ヤム芋ストライカー

ナイジェリアからやってきている選手アモちゃん(ヌワンコ・アモカチ)が警察につかまる。

農大のヤム芋畑をアモちゃんが荒らしたというのだ。しかし、ヤム芋の生長をアモちゃんは単に見守っていただけ。濡れ衣だ。

アモちゃんの濡れ衣をはらすよう撫子(通称”オニアザミ”)から命じられた坂上は畑を管理する倉持教授に事情を聞きにいく。しかし、倉持は大のサッカー嫌いだった。

 

迷惑フラッグ

全国どこへでも駆けつける名物サポーター”旗振りくん”が元気がない。

練習に持ってきていた、たくさんの旗が盗まれてしまったのだ。

広報誌『ピープル』に旗振りくんをとりあげるつもりだった撫子は困って坂上になんとかさせようとする。黙殺しようとする坂上だったが、「旗振りくんの応援がないと調子がでない」という神坂元気の言葉を受けて山岸奈々子からお願いされれば仕方がない。奈々子との親睦を深めるべく捜索に立ち上がった坂上だったが、その夢は儚く破れた。奈々子撫子の手伝いで手一杯だったのだ。

仕方なく、坂上元気とともに旗振りくんこと大垣浩介に会いに城山町に向かった。

 

忘れ物リング

長崎県の佐世保での試合後のユニフォームの洗濯をしようとした坂上は、ユニフォームからこぼれ落ちた指輪を拾い上げ、ポケットに入れる。誰のものかわからない指輪は細い女性ものの指輪。

洗濯が終わったのも束の間、坂上は佐世保の街で飲んでいる撫子に呼び出された。ハンカチを取り出すときに、転げ落ちた指輪に、「ホペイロ坂上、女ができたね」と撫子の目が光る。

酔っ払った山形坂上を祝福するなど、話は一人歩きを始めた。

撫子が触れ歩くこともあって噂は広がっていくが、坂上は持ち主が名乗り出れば消えるだろうと軽く考えていたのだが・・・。

 

盗まれポスター

スーパー相模の協賛で新たにポスターが作成される。

撫子は、女子高生に人気の神坂元気がモデルだった前回のポスターが多く盗まれてしまったことを反省し、今回は女子高生の人気のない”チャラ男”森陽介をモデルにする。

盗まれることを心配する店長に、撫子は太鼓判を押す。

しかし、撫子の言葉は裏切られた。

ポスターが盗まれてしまったのだ。

盗まれてしまったことを喜ぶの言葉は撫子の神経を逆撫でした。早速、撫子はポスターが盗まれた現場へ、坂上神坂を連れて向かうのだったが、現場につくとは少しずつ言葉少なになっていった。

 

行方不明ベア

最終節を控え、首位のビッグカイト相模原だったが、混戦の上位陣にあって、最終戦で負けた場合には5位に陥落し、J2昇格が流れてしまう。

縁起をかつぐ監督樫井亮介坂上撫子光恵にも、勝利した前々戦で着用したのと同じパンツをはくよう厳命する。

そんな樫井の部屋から勝利の熊のぬいぐるみが消えていた。

目を血走らせ、坂上に熊の行方を追うよう樫井は依頼するのだが、誰も思い当たる節はない。

犬エレルギーの樫井のくしゃみ、開いていた窓などから、坂上は熊のぬいぐるみのありかに迫るのだが、時すでに遅く・・・。

 

当初は光恵が探偵役かと思いきや、結局は主人公坂上が探偵役。(「忘れ物リング」は微妙ですが)一応、各話それなりの解決はみるものの、どうも話が小粒。

サッカークラブを舞台にしているのなら、もうちょっとサッカー色が強くってもいいんじゃないでしょうか。サッカーに馴染みのない人にも、ついてこれるようにとの配慮なのかもしれませんが、逆に特徴をなくしてしまっています。こういった話であれば、別にサッカークラブでなくて、クリーニング屋が主人公でもいいんじゃないの?といった印象を受けてしまいます。

撫子がなかなか面白そうなキャラクターの片鱗は見せるのですが、どうもストーリーにうまく乗ってこないような感じですね。問題を持ち込む役は果たすんですが、物語が動くところで絡んでこないので、どうも印象が薄くなってしまいがちです。

今後(があるのだとすれば)は、もうちょっと(坂上撫子)コンビでの活躍が見たいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『疑心 隠蔽捜査3』 今野敏

Inpei3 2009年、59冊目。今野敏『疑心 隠蔽捜査3』

隠蔽捜査シリーズ第3弾です。

今回はあの頭の固い主人公竜崎が恋愛・不倫に悩んで惑乱するという、なかなか楽しい話になっています。勿論、主筋は大統領訪日の警備でテロリストと対峙するという硬い話なんですが、それ以上に、今回は竜崎が悩む姿が非常に印象的な話になっています。

伊丹も勿論出てきますが、今回はチョイ役ですね。

 

アメリカ合衆国大統領の来日が決まる。

警察にとっては重大事であるが、所轄署にとっては警察庁や警視庁の指示に従えばよいだけと、竜崎伸也(大森署署長、警視長)も高をくくっていた。

しかし、突然、竜崎に方面警備本部の本部長に任命するという辞令が下りる。しかし、大森署の属する第二方面本部には本部長がおり、なぜ所轄署の署長にそんな辞令が下されるのか竜崎には納得がいかなかった。

本庁の刑事部長である伊丹俊太郎を通じて、警備部長藤本実(警視監)に確認をとると、警察庁警備局警備企画課長落合貴幸(警視長)の案であるという。

大森署の業務も並行してこなせるよう竜崎は方面警備本部を大森署に設置した。第二方面本部の本部長長谷川弘(警視正)は副本部長の任につき、野間崎管理官はその秘書官として、大森署に設けられた方面警備本部に乗り込んでくる。

負担の重くなった大森署では署員の不満の声も聞かれるが、竜崎はそんな不満分子の一人刑事課の戸高ら3人を本部に吸い上げる。

特命班に配属された戸高は早速、平和島で発生した車両事故に駆り出される。事故自体の処理は早急に行われ、大統領の警備計画に支障を及ぼすものではなかったが、事故現場から運転手の男が行方不明となっていた。これを追おうとする戸高を制止する竜崎だったが、制止しきれず、戸高の行動を黙認する。

竜崎はそれどころではなかったのだ。

藤本警備部長から竜崎のもとに配されてきた秘書官は畠山美奈子という女性キャリア。8年ほど前に入庁した畠山は研修期間に警察庁の竜崎のいた総務課広報室に来たことがあり、竜崎にも面識があった。

竜崎はこの畠山に魅了されてしまう。畠山が話しかける誰に対しても嫉妬の念を覚える有様で仕事が全く手につかない。常に理性を優先してきたはずの竜崎だったが、自身でも制御できない感情の在り様に懊悩し、夜も寝られない。

竜崎の失脚を秘かに狙う落合警備企画課長や長谷川本部長、野間崎管理官らの前で、失策をおかすことのできない竜崎は気を引き締めなおそうとするが、竜崎にもどうしようもなかった。

そんな中、アメリカ国土安全保障省に所属するシークレットサービスから二人の男が先遣部隊としてやってくる。

その一人ジョン・ストリングフィールドはイスラム過激派のテロ・ネットワークがテロを画策している情報をもたらす。同ネットワークに協力する日本人がいるというのだ。ただし、この日本人らの身元は不明のまま。

これを聞いた警備担当者らは緊張の色を隠せない。

羽田空港を管轄する第二方面警備本部へ詰めることとなった、もう一人のシークレットサービスエドワード・ハックマンはこれまでに録画された防犯カメラを不眠不休で調べ始めた。

防犯カメラの映像から、羽田空港で1日ごとに現れる不審な男を発見したハックマン竜崎に羽田空港を閉鎖することを迫る。ハックマンの危機意識は共有できる竜崎だったが、羽田空港の閉鎖は簡単にできるものではない。

竜崎藤本に連絡し、国交省や外務省からの回答を待つが、当然のように閉鎖不可の決定だ。しかし、ハックマンはこれに納得しない。

羽田空港内をくまなく調べるよう羽田空港署に命じる竜崎だったが、現場を知るハックマンにしてみれば日本の警察官の捜査は極めて危機意識の低いものだった。

引き続き空港閉鎖を唱えるハックマンらの攻勢に耐えかねた藤本は空港の件について竜崎を責任者に任命し、対処するよう命ずる。

ストリングフィールドは責任者である竜崎に空港閉鎖を求めるが、竜崎は受け入れることはできない。厳格な「責任」を求めるストリングフィールドに、テロ計画の陰謀を暴き、首謀者の身柄を拘束することを確約してしまう竜崎だった。

確約したはいいものの、畠山のことで悩む竜崎には良い知恵が浮かぶはずもなく、悩みは深くなるばかりだった。

竜崎畠山のことを相談したのは伊丹だった。伊丹のアドバイスに従って、禅に救いを求めた竜崎は買い求めた書で発見した一つの公案「婆子焼庵」から、一つの答えを得た。

そのことで、少し心の平安を得た竜崎は解決に向けて一歩動き出した。

竜崎は行方不明の運転手を追っている戸高を警備本部に呼び寄せると、テロリストを探るヒントを求めたのだ。しかし、防犯カメラを見た戸高は、自身が追っている運転手とカメラの男が同一人物であることを示唆する。

竜崎は既に運転手のことを調べ上げていた戸高の情報を本庁に伝えると、公安部、警備部、刑事部、組織犯罪対策部を動かすのだった。

 

話自体は戸高が運転手を追ったあたりから、これがテロリストと関係があるんだろうな、という想像がつくので、あまり盛り上がりがあるわけではありません。現に、公安部等が動き始めたら、特に何の波乱もなく、あっさり決着ですから。

もうちょっと、伏線というか、事件があっても良かったんですけどね。

今回はコメディというか、石頭(唐変木)の竜崎のドタバタを楽しむ話といったらいいのでしょうか。微笑ましいのか、あざといのか、ちょっと評価が難しい作品かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『胡蝶の失くし物』 仁木英之

Bokuboku3 2009年、58冊目。仁木英之『胡蝶の失くし物』

僕僕先生シリーズ第3弾です。

新キャラクター劉欣が登場しますね。途中から旅の道連れになるのは劉欣だけではありません。蚕嬢という蚕も蒼梧から同行することになります。

出だしが、いきなり皇子の暗殺からですから、ちょっと殺伐としていますが、全体のトーンは僕僕先生王弁の関係のような緩い感じとなっています。

 

職業兇徒(闇に囚われた者)

御史台察院で暗殺を請け負う胡蝶房に属する劉欣が皇子李敏暗殺のあと命じられたのは、「光州仙居県黄土山から失踪した仙人の始末」である。

淮南の寿州に捨てられた孤児であった劉欣は、申州郊外に住む富農、子のない劉徳夫妻に拾われ、育てられた。

劉欣は桂州の始安まで南下していた僕僕先生に迫る。

始安に入った僕僕先生らは街中の人びとが下痢で苦しんでいるのを知ると、早速治療に取り掛かり、大変な評判となっていた。

そんな僕僕先生らを吹き矢で狙った劉欣は、突然母から貰った護符にヒビが入ったことで胸騒ぎを覚える。暗殺を一旦とりやめた劉欣は、両親のもとへ戻るが、母は始安で流行っているのと同じ下痢に苦しみ、虫の息だった。

劉欣は再度始安にとって返すと、僕僕先生に薬を求めるが、暗殺の企てに気づいていた僕僕先生劉欣に簡単に薬は渡すことはなかった。

この薬には術がかけてある。私たちが死ねば効力を失い、薬を服用した者も死ぬ。

 

相思双流(せっかちな女神)

桂州城内を南に流れる漓江沿いに南下を続けた僕僕先生たち。

相思水という川の分岐点を示す石碑の上に腰かけ、恋しい賈震のことを考えていた薄妃の腰の下から声がする。

とっととそのおっきなお尻をどけるのじゃ。じゃないと天罰を加えるぞよっ

石碑から顔を現わした少女は相思水の女神劫鰓と名乗った。

劫鰓薄妃の素性を見抜くと、僕僕先生に代わって薄妃に気を吹き入れることを提案する。僕僕先生が、なぜか”きっちりした”気を吹き入れていないから、毎日気を入れなおさなければならなくなるのだと劫鰓は言うのだ。

劫鰓に気を入れられた薄妃は醴陵に向かって飛ぶが、醴陵の直前で眩暈を覚えて墜落してしまう。

帰ってきた薄妃に驚きもせず、劫鰓は再度気を吹き入れる。しかし、またしても同じ場所で眩暈から墜落する薄妃だった。

同じく墜落したのはとある寺院。そこは扁額も掲げない退魔の寺だった。

寺で保護する李双に妄執を持つ妖魔を退治すべく待ち構えた僧は、薄妃を焼き尽くそうとする。

僕僕先生に助けられた薄妃李双劫鰓の因縁を聞く。

 

主従顚倒(夢に笑えば)

賀州の臨賀城に入った僕僕先生一行だったが、路銀が尽きてきた。そんなことは気にしない僕僕先生だったが、普通の旅がしたいと願う王弁は働き場所を探していた。

そんなとき出会ったのは、かつて衡山で出会った薬種屋兄妹の弟蔣実。なぜか旅商人の用心棒をしている蔣実は記憶をなくし、李武と名乗っていた。

旅商人李馬太李武の知人ということで、王弁を臨賀城内の薬種屋周典に紹介する。

周典王弁が”通真先生”であることを知ると、自身の病を治して欲しいと訴えた。

眠ると夢のなかで使用人として働かされるのだという。

僕僕先生の用意した薬で、周典の夢に入り込んだ王弁だったが、そこは周典の店の使用人趙呂が主人となり、周典が使用人となっている世界だった。

 

天蚕教主(惑う殺し屋)

臨賀を離れ、更に南下を続ける僕僕先生たちの前に現れたのは、数人の官吏と20人ほどの兵士。

彼らは僕僕先生たちを丁重にもてなしながら、梧州蒼梧に案内する。

城内での酒席で妖艶な女性の姿になった僕僕先生に視線が集中するのが王弁には面白くない。席を抜け出した王弁の前に姿を現わしたのは長沙で出会った面縛の道士

彼は王弁に長沙でのことを謝罪するとともに、僕僕先生王弁の関係を劇的に変化させる道を示すであろう存在を示唆した。

蒼梧で神と崇められる存在が蚕室にいるというのだ。

一方、胡蝶房の裏切者として追われる劉欣だったが、依然僕僕先生の後を追っていた。今回劉欣に迫ったのは劉欣が養成した使い手元綜。両親を人質にとられた劉欣僕僕先生らを始末するしか手がなかった。

蚕室に向かう王弁を追った劉欣王弁が巨大な蚕と言葉を交わすのを目撃するが、頓着せずに吹き矢で巴蛇の毒を放つ。

しかし、そこに現れ、吹き矢を払ったのは薄妃だった。

薄妃から逃げようとする劉欣を捕まえた僕僕は、どさくさに紛れて蚕を持ち出そうとする面縛の道士を撃つよう劉欣に命じる。

 

回来走去(誰かのために流す涙)

蚕嬢と名付けられた蒼梧の蚕が吐き、薄妃が紡いだ糸を僕僕先生が織り上げた布で、薄妃の衣が出来上がった。

既に食事をし、体を維持することのできるようになった薄妃はこの衣で、醴陵に帰るのだ。

寂しく見送る王弁だったが、僕僕先生は(蒼梧から旅の道連れとなった)劉欣薄妃のあとをつけさせるのだった。

意気揚々と醴陵に戻った薄妃を待ち受けていたのは、賈震の結婚という事実だった。

消沈し、路傍の柏の枝に引っかかって揺れる薄妃を見つけた劉欣に、薄妃賈震と妻、そして自身を殺すことを依頼する。

 

恩讐必報(失くし物、見つけた物)

広州に辿り着いた一行は苗族の商人に扮すると、苗の商館に向かった。そこで出会ったのは衡陽の市場で黒卵に殺されそうになっていた苗族の二人の兄妹だった。

引飛虎推飛虎と名乗る兄弟は僕僕先生たちを歓待する。商館に泊まった僕僕先生たちだったが、その夜、元綜が演出した騒ぎか、苗族が二つに分かれて争う騒ぎが起こる。

激しくなる騒乱を収めたのは薄妃だった。

実際には僕僕先生薄妃の体に蚕嬢の人格をおさめて、解決させたのだ。

翌日、僕僕先生らを訪ねてきた引飛虎神姫との面会を求めた。

神姫とは、六合峰の頂にある社で12年おきに行われる信託で選ばれる巫女のこと。神の妻とも呼ばれる神姫は峰の麓の苗族をまとめていたが、ある日姿を消したことを契機に麓の苗族も峰西と峰東に別れて争うようになっていたのだ。

しかし、僕僕先生は、自分勝手なことを数え上げる引飛虎らに蚕嬢神姫)を渡すつもりはなかった。

そんななか、商館を正規の軍隊が取り囲んでいた。

これを指揮する元綜を目指した劉欣だったが、これは罠だった。誘い込まれた劉欣元綜に弄ばれ、いたぶられる。愛する者を殺すことに喜びを感じる元綜は喜々として劉欣を追い込み、劉欣の命も風前の灯。しかし、仙骨の力を無意識のうち発動させた劉欣元綜を撃退することに成功した。

一方、僕僕先生もまた敵方の術師の力もあり、多くの者を守ることは難しかった。蚕嬢の助言もあり、秘密の地下通路から引飛虎ら苗族を逃がしたものの、僕僕先生たちにはこの難局を打開する方法がなかった。

 

薄妃の話は今回で決着してしまいましたね。でも、このまま道連れのままというのは、これから薄妃の素性探しもあるということなのでしょうか。まぁ、その前に、蚕嬢の神姫への回帰など苗族の話でゴタゴタしそうですが。

ちょっと、このシリーズの中では異色のキャラクター劉欣ですが、仙骨があり、その使い方も知ったわけですから、今後は仙人への道を歩んでいくんでしょう。

また、登場しました面縛の道士。これ一体なんなんでしょう?王方平の弟子なのか、そうでないのか、よくわからない存在ですね。この正体が明らかになるエピソードもあるんでしょうね。

こう考えると、まだまだお話は続いていきそうです。

でも、王弁は最後的にはどうなるんでしょうか。

今回は明らかに次巻へ続くという感じが色濃く出ていますので、次巻を楽しみに待ちましょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『悶絶スパイラル』 三浦しをん

Monzetsu 2009年、57冊目。三浦しをん『悶絶スパイラル』

『乙女なげやり』『桃色トワイライト』に続くエッセイ。

まぁ、いつものノリです。

自堕落というか、自分の趣味だけに生きている感じの日常を綴る。

最近、”無気力のまま食べ続けて超肥満”といったような番組をみましたが、なんとなく、そんなふうになってしまうんじゃないの、と心配になるような日々です。

 

まえがき「衝撃インペリアル」

 

一章 魂インモラル

 きれいなお姉さんも下痢で苦しみます[弟]

 ボギーは肉をがっつく[アパートの学生たち]

 月日は百代の過客にして、しかももとの水にあらず[男友だち、友人Mちゃん]

 唄ってよイカリちゃん、ダメ人間のテーマを![友人あんちゃん、イカリちゃん]

 迷い猫の論理[タクシー運転手]

 ききみみ頭巾[ファミレスの若い男性3人組、担当編集者Cさん]

 いろいろ滴る[友人ぜんちゃん、友人あんちゃん、堂本剛]

 家族サービスのありかた[父、母、弟、ゲイカップル]

 時の流れに身を任せすぎ

 なんでもベスト5「私のイタ・セクスアリス漫画」「泣ける漫画」

 

二章 日常ニュートラル

 頼むから手は洗ってください[父、母、弟]

 悪霊に取り憑かれる[女犯坊、あんちゃん、オダジョー、寄付を募る少年]

 波紋法でこなごなにしちゃってください[友人H、えなりさん、漫画愛好家友だちUさん]

 スタンド「三人称」[レジの店員]

 なんだかんだで楽しくすごす[レミングくん]

 怒りの反射速度[古本屋のアルバイト仲間(あんちゃん、女犯坊、ふーみんさん、タミーさん)]

 すべて感性で乗りこえろ[死国のYちゃん]

 革命を我に![母、父]

 なんでもベスト5「理想のヒーロー」「理想のヒロイン」

 

三章 豪速セントラル

 かなわぬ夢を夜に見る[タクシー運転手]

 新作落語「カツラ山」[友人ナッキー、友人H、ぜんちゃん]

 怠惰な生活[「ロハス」を聞く知人]

 おそるべき計測器[知人のOさん]

 理不尽な思考回路[母、蕎麦屋の主人、蕎麦屋の奥さん]

 手を取りあって生きていこうよ[ヤモリ、友人H]

 島根紀行 その一

 島根紀行 その二

 なんでもベスト5「ダイエットを決断した瞬間」「死ぬかと思った瞬間」

 

四章 妄想カテドラル

 Tシャツ三昧[弟]

 日はまた昇る[友人あんちゃん、知人の弓さん]

 難問もんもん[文部科学大臣]

 そろそろ血管が切れるころ[父、母、弟、親戚のチビッコたち]

 さぼってたあいだにしたこと[タクシー運転手、父]

 いいかげん大人になりたいものだ[アパートの住人、友人あんちゃん、国立劇場の老婦人]

 今生は手一杯[友人あんちゃん]

 桃色禅問答[古本屋のアルバイト仲間(女犯坊、ふーみんさん、Mさん、あんちゃん)]

 このごろのあんちゃんと私[友人あんちゃん]

 なんでもベスト5「宝くじで一億円当ったらなにをする?」「透明人間になったらなにをする?」「ドラえもんの道具でほしいもの」

 

あとがき「ひげもじゃアドミラル」

 

 

今回は珍しく大河ドラマの話はなかったですね。

殆どがいつものとおり、どうでも良い話ばかりなんですが、真理を説くような話が唐突にあって驚きました。

唄ってよイカリちゃん、ダメ人間のテーマを!

タイトルからしてふざけているようにも見えますが、内容はなかなか辛辣です。わかるんですけど、その大人の批判はイカリちゃんには可哀想にも思えてしまいます。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』

Jiu2 2009年、56冊目。誉田哲也『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』

「ジウ」シリーズ2作目。

前作では警備部長のところへ伊崎基子が乗り込んでいって終わりましたが、その決着は若干肩透かし。

基子は昇進を勝ち取るんですが、現場に立ちたい基子にとって、そんなに昇進って重要なんでしょうか。ちょっと違和感のある決着ですね。その昇進のために、SATを去らなければいけないとなれば、なおさら疑問も残ります。雨宮が殉職したからって、それが基子のモチベーションにどれほど影響があるというのでしょうか。

さて、SATを去った基子ですが、本質的には何も変わらないわけですから、もう一人の主人公門倉美咲とのあいだに交点が生まれることはありません。

むしろ、ジウのターゲットとなった基子が秘かに追い込まれていくというところが、今作のメインでしょう。

 

太田警備部長にとって基子が苦情を言いに来るのは予想済み。写真週刊誌に情報を流したのはそもそも太田だったからだ。

久しぶりのSAT出動に際して殉職一人という実体がクローズアップされることで、SATに批判的な世論が形成されることを怖れた太田は世の目を逸らさせるために、基子に注目を集めさせたのだ。

釈然としない基子ではあったが、その代わりとして、一階級特進(巡査部長昇進)を太田に認めさせることで手を打つ。昇進した基子は同じ部署にはいられない。SATを出て、配属になったのは、上野署交通捜査課。

捜査に加わった基子だったが、写真週刊誌で注目を浴びた基子にはマスコミがついて回った。捜査を進める事案の容疑者が政治家の息子であったことから、マスコミの注目を集めることはマズイ。基子は捜査自体に面白みを感じていなかったこともあり、自身から身を引くことを申し出た。

これで暇になった基子に近づいてきたのは写真週刊誌に基子の記事を掲載させたフリールポライター木原毅。現在、仕事を干されている木原は危険なネタの取材に、基子の協力を求めた。

木原が狙っているのは”ジウ”。警察のジウ捜査網が歌舞伎町一帯に広がる中、同じく暴力団も独自にジウを追っていた。どうもジウは拳銃を入手するため、手当たり次第に、歌舞伎町にある組事務所を襲っているらしいのだ。

「利憲くん誘拐事件」「沙耶華ちゃん誘拐事件」等の裏に存在し、冷酷な手口を繰り返すジウの話に、危険を欲する基子はひかれていった。

一方、「沙耶華ちゃん事件」で逮捕された竹内亮一を尋問する美咲だったが、なかなか竹内の重い口を割らせることはできなかった。怪我をおして復帰した竹内の動機を調べるが、竹内が語りはじめた話は誰もが納得できる内容ではなかった。

現在の社会秩序を否定し、新秩序を目指す独自の概念に、美咲も戸惑うばかりだった。竹内ジウとの接点として同じ隊の西尾克彦の名を挙げるが、西尾は既に失踪した後だった。次に、ジウの犯行のヒントとして竹内が挙げたのは新日本大学教授の宇田川光浩の名だった。

宇田川に事情聴取をした美咲宇田川の態度から、宇田川の娘が誘拐されたことがあるのではないかと睨み、自宅へ事情聴取に訪れる。観念した宇田川の妻律子は娘が誘拐されていたことを告白し、もまた誘拐された際のことを語る。しかし、ジウを崇拝するかのように語るの口調に美咲たちは不安を感じていた。

一方、歌舞伎町の組事務所を見張っていた基子たちはついにジウに遭遇する。逃げるジウを追いかけた基子は、ジウと対決するが、手も足も出ない。あっさりとジウに屈し、監禁されてしまう。

薄暗い部屋に監禁された基子のもとへ現れたのはレスラー崩れの男。基子を殺そうとする男に基子も反撃し、男の首を締め上げる。その最中、基子は「殺しちゃおうかな」と考えるや、そのまま男の息の根を止めてしまう。

その後、ナイフを持って現れた少女(宇田川舞)も躊躇なく、殺してしまう。

次に現れたのは木原毅だった。木原基子ジウに殺させるために雇われていたのだ。武器を取り上げられた基子木原の頚動脈を食いちぎり、木原をも殺してしまう。

気がついた基子の前に現れたのはジウのパトロンを務める男、宮路。新潟の寒村から覚醒剤を足がかりに、力を手に入れた宮路は政財各界に影響力を有していたが、ジウと共感する新世界秩序の実現のため、奔走していたのだ。

宮路基子の”人を殺すことを躊躇わない”素養を賞賛し、仲間になることを勧める。虚脱状態の基子だったが、殉職した雨宮が実は宮路らの同志であったことを知り、仲間になることを肯うのだった。

美咲の携帯が鳴った。基子の携帯からかかった電話は、男の声で、基子を拉致し、解放することを告げた。新宿コマ劇場前に呼び出された美咲は、いくつかの場所を引き回された後、大久保公園前で基子を保護した。しかし、基子に感謝の色はなかった。

その頃、城西信用金庫西大井支店で強盗籠城事件が発生していた。その犯人の一人が失踪した西尾克彦であることが判明し、捜査本部は一気に緊迫感を増す。

この籠城事件に突入したのはSAT第一小隊。しかし、突入するや店舗は爆破され、突入部隊は事件関係者諸共、壊滅する。

SATでは第一小隊を再編成するため、新たに隊員を採用するが、その際、制圧一班を率いる班長に任命されたのは基子だった。

 

前作ラストで漸く登場したジウですが、残念ながらこの作品でもあまり出番は多くはありません。最終巻で大きく前面に出てくるのか、あるいはジウは象徴でしかないのか、そんな疑問を残したまま次巻へ続いてしまいます。基子ジウ側に取り込まれてしまって、この話、いったいどうなってしまうんでしょう。

今作ではジウの実質的なパトロンである宮路の生い立ちが延々と語られます。凄惨といえば凄惨な生い立ちですが、なぜここまで細かく描写したんでしょう。それは最終巻で意味を持ってくるのでしょうか。少なくとも、この巻単体では、情報過多でちょっと浮いてしまっている感じです。

基子には大きな変化が訪れるわけですが、美咲の方は今回あまり出番なしというか、あまり変化はないですね。殆ど竹内の尋問であったり、のことで気を揉んだり、とか、ストーリーの牽引面ではあまり役にはたっていない。

いってしまえば、今作はジウまたは宮路が絵を描いて、それに皆が乗せられて、流されていっているだけ、ということなのかもしれません。警察側が主体的に動いているような感じはしないですね。

宮路のシンパである警察幹部は誰になるんでしょうか。やはり太田なんでしょうか。

さて、最終巻はどうなるんでしょう。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]』

Jiu1 2009年、55冊目。誉田哲也『ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]』

姫川玲子シリーズとかぶっている警視庁捜査一課の別シリーズ。

一瞬、今泉とすれ違ったり、日下が登場するシーンもあって、同じ舞台上の別の話という趣きがあります。両シリーズの主人公たちが、同じ現場に立って共闘するという可能性も感じさせないではありません。

とはいえ、二人の主人公門倉美咲伊崎基子も早々に捜査一課から離れてしまっているので、どこまで接点があるといってよいのか。また、主人公らの在り様も、ちょっと姫川玲子とは異なっており、あまりうまく噛み合いそうにはありません。

まぁ、今後のことはとにかくとして、全く性格の異なる二人の主人公が、(お約束のような協力関係を持つことなど一切なく)別々の視点で、別々の向きに進んでいく話になっており、なかなか馴染みのない面白い(興味深い)ストーリー展開になっています。

 

警視庁捜査一課第一特殊犯捜査第二係(麻井憲介係長警部以下13人)。

門倉美咲は目白署交通課から抜擢された巡査。営利誘拐を想定した訓練で見事に演技してのけた美咲は「カンヌ」と呼ばれて親しまれ、美咲も第二係に居心地のよさを感じていた。

一方、美咲よりも年下の巡査伊崎基子は実戦をこよなく愛し、そのために警視庁に入った変り種。協調性よりも自身を鍛えぬくことに熱心な基子は、演技とはいえ簡単に泣けてしまえる美咲のことを軽んじていた。

荻窪署管内で立て籠もり事案が発生した。

職質をかけた地域課警官に切りかかった不審者は、逃げ込んだ民家の住人伊東久子を人質にとって立て籠もったのだ。

食事の差し入れに民家に立ち入った美咲だったが、犯人に人質をとられた状態で、服を脱ぐよう命じられる。従った美咲は下着姿のまま、久子とともに縛り上げられてしまう。

逃走しようとする犯人は美咲らを連れて玄関に出てくると、突然大声をあげる。激昂した犯人に切りつけられた美咲は、左肩から喉元にかけて16センチの切創を受ける。しかし、その場で基子が犯人を取り押さえた。

この玄関先に下着姿で現れた美咲の写真がタブロイド紙1面を飾る。これを見た刑事部長(警視長)西脇吾郎はキレる。「利憲くん誘拐事件」で失態を演じて警備部長の太田から揶揄されていた矢先のことだったからだ。

西脇美咲を所轄に飛ばすように命じる。不可抗力であることは誰の目にも明らかであったが、麻井にも捜査一課長(和田)にも西脇を制止することはできなかった。

しかし、この「写真」をキーワードに麻井には一つ気がついたことがあった。

今回捕まえた犯人岡崎和紀(42)が「利憲くん誘拐事件」の犯人の一人に似ていたのだ。

捜査一課特設現場資料班の警部補から入手した似顔絵は確かに岡崎とよく似ており、加えて岡崎の有していた現金の札番号も「利憲くん誘拐事件」の身代金のものと一致したのである。

美咲麻井の配慮により碑文谷署生活安全課に配属されるが、実質は碑文谷署におかれた「利憲くん誘拐事件」の帳場で捜査を担当することになった。

一方、立て籠もり事件の犯人岡崎を見事逮捕した基子は、警備部長太田信之警視長に呼び出され、警備部の特殊強襲部隊(SAT)にスカウトされる。

危険に身を晒したい基子はそのスカウトを了承する。

SATの入隊試験も無事に合格した基子だったが、SATの同期の訓練生3人がシャワーを浴びたばかりの基子を襲う。しかし、基子は完膚なきまでに3人を叩きのめすとともに、SATからもたたき出した。

そんな基子に興味をもったのはSAT第一小隊の雨宮崇史巡査。雨宮に他には感じない強さを感じる基子は、宗教のように「愛」を語る雨宮に閉口しながらも、雨宮と付き合うようになっていった。

美咲も「利憲くん誘拐事件」を取り仕切る本庁捜査一課殺人犯三係東弘樹警部補とともに捜査に参加する。

碑文谷署に移送された岡崎を尋問する美咲は、主犯が身元不明の”ジウ”と名乗る少年であることを突き止める。

岡崎の証言から確認された拠点を探るなかで、誘拐事件実行犯の三人の中国人が殺されているのが発見される。

ジウ”の拠点が廃墟であることを知ったたちは手分けして都内の廃墟を調べ始める。

空振りが続くが、少しずつ”ジウ”の痕跡も見つかる中、険悪となっていた班の空気も少しずつ穏やかなものにかわっていった。

そんなとき、葛西臨海公園近くの花村旅館ホテル跡で、まだ新しい”ジウ”の痕跡が発見される。

たちは同ホテルを見張ってジウを待ち構えるが、そこへ現れたのは誘拐した少女”本木沙耶華”を連れ込もうとする犯人たちのグループだった。らは期せずして、別の誘拐事件の現場に立ち会ってしまったのだ。

太田警備部長のごり押しで、現場に急行させられたのはSAT。

ホテル内で見張っていた美咲は犯人たちがホテル内に入ってきたことで身動きがとれなくなっていた。携帯電話もつながりにくい中、美咲は隠れて様子を伺う。監禁されている少女を救おうとしただったが、逆に捕まってしまう。

一方、現場に到着したSATではホテルの屋上から潜入しようとするが、雨宮が屋上に達したところで、銃を持った犯人に雨宮は左肩を撃たれてしまう。なんとか屋上へ辿り着いた基子は負傷した雨宮を残し、一人ホテル内に潜入していった。

麻井と連絡のついた美咲は、犯人たちの居場所を確認するよう命じられる。そんなとき、雨宮たちの起こした騒ぎで犯人が部屋を空にする中、美咲沙耶華を確保することに成功した。

SATと犯人たちの抗争が続く正面玄関を避け、沙耶華を連れて非常階段に向かった美咲だったが、そこで犯人の一人と鉢合わせしてしまう。その悲鳴を聞いて駆けつけた雨宮だったが、沙耶華を人質にとられ、銃を放棄させられてしまう。

雨宮沙耶華を庇って、犯人の無数の銃弾を浴びて殉職する。

基子は犯人を容赦なく一人ずつ排除していく。最後の犯人は雨宮を殺し、美咲の右耳を切り裂いた男。

犯人は美咲に銃を突きつけて人質として利用しようとするが、基子に全く躊躇はなかった。歩を進めると、強引に犯人を確保するのだった。

雨宮を殺し、美咲を人質にとったのは元自衛隊第一空挺団の竹内亮一(29)。そのほか、通訳として笹本英明のほか、三人の中国人が誘拐に加わっていた。

5人はそれぞれジウに誘われて今回の犯行に加わっていたが、肝心のジウは現場には不在だった。

事件の3日後、写真週刊誌に基子の写真と経歴が載る。驚きと憤りの中、基子太田警備部長の部屋へ押し入った。

 

なかなか面白い登場人物ですね。

門倉美咲はあまりこの手の作品には合わないタイプの性格設定ですね。真面目ではあるんでしょうが、どうもおっとりしているというか、目先の捜査よりものことばかり考えているというか、どうも調子が狂うような気が抜けるタイプです。

一方で、基子の性格設定は、これは全く事件の「犯人像」ですね。あるいはダーティーヒーローとでもいうのでしょうか。少なくとも警察に所属するものの姿、性格ではないですね。まぁ、これが次巻以降意味を持ってくるのですが・・・。

このシリーズ、一冊、一冊で完結しているというよりも、三巻『ジウⅢ』まで延々続く話を単に切りのいい(?)ところで、切っているという感じです。この一巻にしても、基子太田のところへ怒鳴り込んでいったところで終わっていますし・・・。なぜ、一冊にしなかったんでしょう。

まぁ、仕方がないので次に『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]』を読みましょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『喋々喃々』 小川糸

Chou2nan2 2009年、54冊目。小川糸『喋々喃々』

一応、妻子ある男との不倫(?)というような主筋と複雑な家族関係や別れた恋人の消息等の脇筋もあるんですが、どうもメインは東京の下町・谷中の歳時記といった印象の強い作品です。

はっきりと章立てはされていませんが、1月から12月まで一月一話という構成になっており、その四季折々の行事を巡っていく、といった佇まいです。

 

横山栞は東京・谷中でアンティーク着物の店「ひめまつ屋」を営む。そこを訪れるのは、客のほか、茶のみ話に訪れるまどかさん、靴のお下がりを持ってくる、近所の寺の住職夫人”イメルダ夫人”等多彩。

正月もあけ、仕事始めの日。「ひめまつ屋」を訪れたのは、初釜の着物を探しにやってきた木ノ下春一郎だった。妻も子”小春”もある春一郎に惹かれるだったが、春一郎もまたに惹かれるようになっていく。

清い交際を続ける春一郎の家庭を壊すつもりは毛頭なかった。

の両親もまた母親の不倫をきっかけにして離婚しており、の家族関係も複雑だったのだ。

両親が離婚したときには父親についていっただったが、今は北陸で自給自足の生活を送る父とは音信もまれになっていた。父は北陸で同じくバツイチの染色家鈴乃と再婚していた。

母親良子の妹花子、不倫した若い美容師との間にできた娘楽子とともに三人暮らし。良子は今は若いロックバンドの追っかけをやっている。

花子はちょっと変わったアルバイトをして生計を立てており、ひめまつ屋とも関係があった。外国から来た観光客と着物を着て手をつないで表参道を歩くというアルバイトがそれだ。はデートクラブもどきと心配するが、花子は国際交流といって譲らない。また、花子はかつてが付き合っていた雪道を別れさせる原因を作ったとの負い目をもっており、もまだ少なからず根に持つところもあった。楽子は感受性が強く、通う学校からは特別学級や専門の学校に移るよう勧められていた。

1月:

ひめまつ屋に木ノ下春一郎が客としてやってくる。

[(まどかさんのお土産)桃林堂:五智果]

2月:

千駄木倶楽部でお茶(あずきオ・レ)をしているところで、外を歩く春一郎に気づいて声をかける。

後日夕刻、春一郎がパンを持って、ひめまつ屋を訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)オザワ洋菓子店:いちごシャンデ]

3月:

TIES」で待ち合わせした春一郎と湯島天神の梅を見に行き、初めて気持ちを確認する。

父親が万引きで捕まり、花子と二人で北陸の父のもとへ。鈴乃は家を出て行っていた。

4月:

夜桜をみるため、春一郎がひめまつ屋にやってくるが、雨のため行かず。後日、谷中霊園の鬱金桜を見に行く。

ひめまつ屋()をひいきにしてくれる老人イッセイ早乙女一成)さんが入院していることをイメルダ夫人から聞き、見舞いにいく。

[(まどかさんのお土産)イナムラショウゾウ:シュークリーム]

5月:

海外出張に向かう春一郎の無事を根津神社に祈る。

人手の増えるゴールデンウィークに、店を手伝いにやってきた花子がひめまつ屋に泊まる。花子はあらためて雪道とのことを謝罪する。

6月:

退院したイッセイさんとデート(天丼屋→甘味処→アンヂェラス)。

春一郎と鳥鍋。

7月:

隅田川花火大会の日。突然、鰻重をもって春一郎が訪ねてくる。

[(まどかさんのお土産)つる瀬:餡蜜、白玉ぜんざい]

8月:

鈴乃が上京した機に、ひめまつ屋に立ち寄る。父とはうまくいっている模様。

雪道の妻聡美がひめまつ屋を訪ね、手紙を置いて去る。

手紙には、雪道が4年前に病を得て亡くなっていること、それ以降の年賀状や暑中見舞いは事前に書かれていたものを聡美が投函してきたものであることが記されていた。

9月:

雪道からの葉書を見返して、思い出にひたる。

春一郎と向島百花園の月見の会に行く。

10月:

春一郎とともに雪道の墓参り(御殿場線松田)に行く。帰り、途中で別れた二人だったが、春一郎はひめまつ屋前でを待っていた。

11月:

栗ご飯を作りに花子たちが暮らす都営住宅を訪ねる。もう花子とは家族には戻れないことを痛感し、離婚の重さを思い知る。

楽子から風邪をうつされて寝込むの看病に春一郎がひめまつ屋を訪れる。これ以上、春一郎に溺れ、春一郎の家庭を壊すことを怖れた春一郎に別れを告げる。

イッセイさんからデートの最中、谷中から離れて娘夫婦(湯河原)と同居することを告げられる。

12月:

花子が留学の決意を伝えにやってくる。

大晦日、すきやきの材料をもって、春一郎がひめまつ屋を訪ねてくる。

 

谷中あたりの風物詩を綴る話がメインで、何となく、ストーリーは付け足しのような感じがしてなりません。

全体の話が淡くて、春一郎との話もどうでもいいようなものが多く、結局何だったんだろうという感じです。春一郎も女々しい男というか、非常に虫のいい男という感じがして、あまりいい印象は持てません。

特に、家庭のことをどう思っているのかが全くわからず、勘繰れば、結局はのことを都合の良い女としてみているだけの嫌な男にも見えます。一方で、に惹かれているものの踏ん切りのつかない優柔不断な男なのか、というあたりが判然としません。

の複雑な家族関係も今ひとつ整理されないままに放置されており、実話なら「1年で何もかもが整理される訳がない」と納得もいくところではあるんですが、小説だと、こう落ち着き悪いまま終わってしまっていいの、という不安感が残ってしまいます。

結局、何なんでしょうか。作者が直接的な表現を避けるあまりに、ストーリーがぼんやりとしてしまったということなんでしょうか。

前作『食堂かたつむり』と同様、食べ物の話が出てきて、特に実在する店のお菓子だとか雰囲気があって良かったんですが、だからこそ、いずれにしても谷中近辺の観光案内の色合いが強く感じられます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『恋文の技術』 森見登美彦

Koibumi 2009年、53冊目。森見登美彦『恋文の技術』

何ていったらいいんでしょう。

書簡集です。それも往復の書簡ではなく、たった一人の書いた手紙だけが綴られます。相手の返事は主人公の書く内容から類推するしかありませんが、それでも十分に阿呆が滲み出た話になっています。

作者である森見登美彦を含め、いろいろな人物が登場し、『夜は短し歩けよ乙女』のいくつかのエピソードは、この作品の主人公守田一郎によりもたらされたという裏話も示されます。

 

卒業後も大学院(研究室)に残った守田一郎だったが、その甘えた根性を教授に喝破され、能登半島七尾にある能登鹿島臨海実験所でクラゲの研究をすることを命じられる。この人里離れた研究所では、鬼軍曹ともいうべき谷口誠司が待ち構え、来る日も来る日も守田を無知呼ばわりする。そんな中、守田は一念発起し、この機会を利用して「恋文の技術」を開発すべく、文通武者修業に邁進することを決意した。

そんな彼の書簡集。

4月9日

 (小松崎友也宛)文通武者修業決意の表明。

 (大塚緋沙子宛)近況報告。相変わらず、研究室で傍若無人に振舞う大塚への苦言。

 (間宮少年宛)近況報告。

4月14日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡①

4月15日

 (小松崎友也宛)花見会報告の礼。小松崎からの恋(花見会で一目惚れした三枝さん)の相談に、吉田神社に願をかけることをアドバイス。

4月16日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師に不安がる間宮少年への助言。

4月19日

 (大塚緋沙子宛)花見会報告の礼。

4月23日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師を追い出して得意がる間宮少年への苦言。「おっぱい」から卒業するようにとの助言。

4月29日

 (守田薫宛)近況報告。人生相談の受付希望。ビデオデッキの要請。

4月30日

 (小松崎友也宛)近況報告(和倉温泉へ谷口さんといったこと)。

 (伊吹夏子宛)失敗書簡②

5月2日

 (大塚緋沙子宛)小松崎に「恋が成就するまではパンツを脱がないことを吉田神社に誓わせる」ようなことがないよう苦言。就職した伊吹夏子の近況報告の礼。

5月11日

 (小松崎友也宛)三枝さんに向けた小松崎の詩にダメだし。迂遠なことをするよりも、まず三枝さんのことを知るべしと助言。

5月13日

 (間宮少年宛)新たな家庭教師マリ先生とうまくやっている間宮少年への賞賛。マリ先生の書く森見登美彦へのファンレターに嫉妬する間宮少年へ、森見登美彦の住所を教える。[天狗ハムを送る]

5月15日

 (大塚緋沙子宛)「能登の海で雌イルカを追い回している」とのデマを流すことへの苦情。

5月18日

 (森見登美彦宛)近況報告。文通へのお誘い。

5月21日

 (大塚緋沙子宛)伊吹さんが某男性と幸せにやっているとの情報への礼。伊吹さんの恋人の素性情報を乞う。[天狗ハムを送る]

5月27日

 (守田薫宛)ビデオデッキの礼。もうちょっとやわらかい相談を希望。[天狗ハム送る]

5月29日

 (森見登美彦宛)近況報告(和倉温泉に行ったこと)。森見のところへ届いた脅迫状は守田一郎が家庭教師をしていた小学生のものらしいことを報告。どんな美女でも手紙一本で籠絡する「恋文の技術」伝授を懇請。

5月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡③

6月4日

 (間宮少年宛)近況報告(羽咋へUFOを見に行ったこと)。森見登美彦間宮少年が送った手紙は「脅迫状」にあたることを戒める。マリ先生にストーカーがいるとの報告は誤解だと。

6月5日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(羽咋へUFOを見に行ったこと)。

6月10日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(和倉温泉に行った際に谷口に置き去りにされたこと)。伊吹さんの恋人の素性情報の督促。

6月11日

 (森見登美彦宛)ファンレターへの返事も出せない森見に代筆の提案。処女作の文庫化祝。伊吹さん、マリ先生、守田の妹森見ファンであることへの疑問、妬み。

6月12日

 (森見登美彦宛)長い長い追伸への苦言。「これを書いている間に仕事しろ!

6月13日

 (森見登美彦宛)「森見さん、あんた手紙書きすぎ。」「人生と小説の行く末を相談されても困ります。

6月16日

 (小松崎友也宛)研究室の仲間たちと金沢まで来ておきながら、寄らなかったことへの苦情。三枝さんのストーカーと化している小松崎へのダメだし。

6月17日

 (間宮少年宛)近況報告(和倉温泉に行ったこと)。マリ先生のストーカーをつけ、その男を操る謎の女の存在を確認した間宮少年の身を危ぶむ。

6月20日

 (大塚緋沙子宛)金沢まで来ておきながら、研究室の面々に「文通武者修行中」の守田には会わないようにとのお達しを出したことへの苦情。伊吹さんが三枝さんとともに、森見登美彦と「東華菜館」で食事をしたとの情報感謝。伊吹さんの恋人の素性情報の再督促。

6月21日

 (森見登美彦宛)近況報告。ファンレターへの対応等、助言。

6月23日

 (守田薫宛)森見登美彦に近づくことへの警告。

6月29日

 (大塚緋沙子宛)伊吹さんの恋人評価に関する報告の礼。恋人の名前を求める。

6月30日

 (小松崎友也宛)森見登美彦女性ファンクラブ「大日本乙女会」に加盟する三枝さんの機嫌を治すため、お菓子を買い与えろとの助言。

7月3日

 (守田薫宛)子どもの頃の「督促状」を送ってきたことへの苦情。高等遊民を目指す妹への苦言。

7月5日

 (森見登美彦宛)近況報告(円形脱毛、ダルマをかじったこと)。「三嶋亭」のすき焼きの描写への苦言。ナメクジ退治方法伝授の礼。

7月10日

 (小松崎友也宛)小松崎三枝さんに買い与えた「ぷくぷく粽」の責任を転嫁されるのは筋違い。見舞いには花を持っていくようにとの助言。

 (間宮少年宛)近況報告(駅そばの本屋でビデオを借りて観ていること)。マリ先生がおなかを壊したとの報に、見舞いはマシマロではなく、花がいいとの助言。

7月12日

 (大塚緋沙子宛)昨年の七夕、大塚の命で植物園に竹を切りにいかされ、管理人に見つかった後、大塚が逃げたことへの苦言。小松崎の件の報告。伊吹さんの件についての慰めの礼。伊吹さんの恋人の更なる情報の要請。

7月13日

 (森見登美彦宛)森見のかつてのアドバイスに従って小松崎に「花を持っていけ」とアドバイスできたことへの感謝。就職を考えていることの告白。

7月15日

 (小松崎友也宛)三枝さんは、小松崎が見舞いに持っていったカーネーションのアレルギーだったと言われても困る。恋愛指南からは手を引くと通告。

7月16日

 (間宮少年宛)「ぷくぷく粽」のキーワードからストーカーの正体が小松崎であることがわかり、小松崎を庇う。マリ先生への見舞いから、宵山デートが決まった間宮少年への賞賛。

7月22日

 (小松崎友也宛)祇園祭の宵山で三枝さんに出会ったこと。そこで三枝さんが逃げ出したこと。小松崎がインドへ逃げようとしていること。断片的な情報しかない小松崎の手紙の詳細を求める。

 (大塚緋沙子宛)錯乱してインドへ逃げようとする小松崎をひき止めるよう要請。伊吹さんの恋人が「人畜無害のふりをして、言葉巧みに乙女たちをたぶらかし、日本全土を股に掛けた恋の火遊びに耽っているプレイボーイ」であるはずがないと断言。

7月23日

 (森見登美彦宛)小松崎の恋の迷走についての報告。

7月28日

 (守田薫宛)研究室へ赴いた由の報告に、小松崎を庇う。兄の心配をする妹に心配無用。

7月29日

 (間宮少年宛)マリ先生小松崎と付き合うことになったことへの慰め。

7月30日

 (小松崎友也宛)なぜか、三枝さんとうまくいってしまった小松崎へ、文通はやめるとの通告。

7月31日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡④

8月1日

 (森見登美彦宛)小松崎の恋がうまくいったことへの愚痴。大塚伊吹夏子にかかる大嘘についての愚痴。森見への牽制。近況報告(和倉温泉で「金曜倶楽部」と名乗るおっさん連中に全裸に剥かれてしまったこと)。

8月2日

 (大塚緋沙子宛)小松崎の恋の大団円の報告感謝。伊吹さんの恋人の件が大嘘であったこと、守田をもてあそんだことへの大苦情。この恨みをはらすとの予告。

8月6日

 (小松崎友也宛)絶縁状を出したにも関らず、手紙を書いてくる小松崎への苦言。守田の不幸のうえにあぐらをかいている小松崎へ自省を求め、自身を見つめなおすことを求める。

8月8日

 (森見登美彦宛)なにもうまくいかないことへの愚痴。恋文代筆のベンチャー企業創設の誓い。

8月9日

 (間宮少年宛)和歌山からの手紙への返礼。南方熊楠記念館の推奨。

8月11日

 (小松崎友也宛)「おっぱい」への憧憬を断ち切れない小松崎の告白文への驚き。「おっぱい」問題を乗り越えるよう励ます。

8月12日

 (守田薫宛)兄の心配は無用。

8月15日

 (小松崎友也宛)「方法的おっぱい懐疑」の提唱。

8月16日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑤

8月17日

 (間宮少年宛)古本市の報告の礼。

8月18日

 (小松崎友也宛)「おっぱい」問題再考。

8月19日

 (森見登美彦宛)五山送り火を美女たちと眺めた森見への妬み。森見の小説への忌憚ない意見(御都合主義的すぎます)。

8月20日

 (間宮少年宛)京都へ行くことの報告。三嶋亭への招待。

8月21日

 (小松崎友也宛)近況報告(小松崎との文通に毒され、何もかもが「おっぱい」化していくこと)。①おっぱい絶対主義を打ち砕くこと、②研究室における大塚緋沙子の支配を覆すため、8月25日、京都に向かうことの予告。

8月22日

 (森見登美彦宛)新作原稿で守田からの文通が数々使用されていることへの苦情。明日、森見のところへ原稿料を取りに行くとの宣言。三嶋亭へ連れていけと。

8月25日

 (小松崎友也宛メモ)研究室へ寄ったこと。

8月27日

 (小松崎友也宛:京都駅近鉄名店街「ジェーン」にて)25日の出来事の振返り(三嶋亭森見間宮少年が姿を消した後、研究室のプロジェクターで拡大した「おっぱい」を鑑賞していたところを、森見間宮と連れ立ってやってきた「大日本乙女会」の面々(伊吹夏子三枝麻里子守田薫)に見られてしまったこと)。呟き、面々に聞かれてしまった「おっぱい万歳」への言い訳。

 (大塚緋沙子宛)研究室の大塚のパソコンを盗んだことの犯行声明。要求は①今後、守田一郎を顎で使わない、②朝と晩には必ず守田一郎のおわします方向にむかって礼拝、③守田が食べたいと言ったら、必ず猫ラーメンを奢る(無期限)。

 (森見登美彦宛)「おっぱい上映会」での醜態を晒す原因を作った森見への苦情。預けたパソコン堅持のお願い。

 (間宮少年宛)「おっぱい万歳」の言い訳。

 (守田薫宛)「おっぱい万歳」事件、後始末。

8月28日

 (大塚緋沙子宛)実験所からパソコンと実験ノートを盗んだことへの抗議。

8月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑥

9月4日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還督促。

 (間宮少年宛)「おっぱい」への開き直りと教訓。

9月10日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還再督促。

 (森見登美彦宛)森見の愚痴への苦言。近況報告(大塚にパソコンを盗まれてしまったこと)。

9月15日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還に応じたことへの感謝。大塚のパソコンは返還しないことを宣言し、三要求の履行を求める。

 (森見登美彦宛)大塚に勝利したことの宣言。くれぐれも大塚のパソコンの保管に怠りのないようにとのお願い。

9月17日

 (間宮少年宛)大塚からの勝利宣言。小松崎を庇う。

9月18日

 (大塚緋沙子宛)再度、盗まれたパソコンと実験ノートの返還要請。

9月19日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還督促。

9月20日

 (大塚緋沙子宛)パソコンと実験ノートの返還再督促。

 (森見登美彦宛)パソコン保管の徹底のお願い。

9月22日

 (大塚緋沙子宛)パソコンを大塚に返してしまった森見登美彦の行動への愚痴。大塚の要求(①恋文の技術を開発します、②伊吹さんを元気づける会を開きます、③伊吹さんに恋文を渡します)を呑む。

 (森見登美彦宛)大塚のパソコンを返してしまった森見への苦情。

9月24日

 (大塚緋沙子宛)鬼軍曹谷口誠司大塚緋沙子が付き合っていたことの驚きと、パソコン盗難のカラクリの了解。パソコン返却の報告。

9月25日

 (守田薫宛)近況報告(実験上のいざこざ)。心配無用。宇宙飛行士を目指す妹への励まし。

9月28日

 (間宮少年宛)運動会報告の礼。近況報告(小松崎が実験所に来たこと)。

9月29日

 (森見登美彦宛)恋文の技術伝授を条件に森見を許す。

9月30日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑦

10月5日

 (森見登美彦宛)森見のいう恋文の奥義(熱い情熱で彼女のハートを鷲摑み)への落胆。

10月8日

 (間宮少年宛)近況報告(能登鉄道の終点「穴水」まで行ったこと)。マリ先生への恋文をどうするかへの助言。

10月10日

 (大塚緋沙子宛)近況報告(実験所へやってきた小松崎と能登鉄道の終点まで行ったこと)。11月初に京都への帰還が決定したことの報告。

10月11日

 (森見登美彦宛)近況報告(実験ノートとエントリーシートを書く毎日)。京都へ帰還が決まったことの報告。

10月15日

 (守田薫宛)近況報告。の手紙の最後の詩についての解釈。

10月17日

 (森見登美彦宛)森見の恋文指導への愚痴。

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑧

10月20日

 (守田薫宛)詩の謎の解読に成功。

10月21日

 (森見登美彦宛)「恋文」考。

10月26日

 (伊吹夏子宛)失敗書簡⑨

10月27日

 (森見登美彦宛)伊吹さんへの恋文についての諦念。近況報告(和倉温泉「海月」で谷口さんに送別会をしてもらったこと)

11月3日

 (守田薫宛)近況報告(和倉温泉、恋路海岸にいったこと)。兄としての心情の吐露。

 (間宮少年宛)マリ先生が家庭教師を辞めてしまったことへの励まし。

11月5日

 (伊吹夏子宛)卒業後の動向を報告。文通武者修行の告白。8月の「おっぱい事件」の懺悔。大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

11月6日

森見登美彦より守田薫宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

守田薫より森見登美彦宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

谷口誠司より大塚緋沙子宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

大塚緋沙子より谷口誠司宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

三枝麻里子より間宮少年宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

小松崎友也より三枝麻里子宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

守田一郎より小松崎友也宛)大文字山から赤い風船に手紙をつけて飛ばす企画への招待。

 

人の手紙を覗きみるという機会はなかなかあるもんじゃありませんが、それも全く知らない人間の手紙ともなれば、出てくる登場人物は例え実在であったとしても、それは小説の登場人物と同じ。そういう意味では、こういった書簡集という形で提示されて、いろいろな生き様それぞれが一編の小説になっているかのようなことを思い知らされます。

先日読んだ英雄の書宮部みゆき)をはじめ、多くの作品でそれっぽいことはよく語られますが、今回のような阿呆な作品で、なんとなくそのことが腑に落ちたような気がします。

本当に、手紙の宛名の小松崎大塚さん、間宮少年って実在するんだろうか。単に守田の文通武者修業のための妄想に過ぎないんじゃないだろうか、とか考えてみると、突き詰めれば、実在であっても、架空であっても、他人(読者)にとってはどちらでもよいのだと気づいてしまいます。

書簡集という構造の話はとにかく、内容もいつものように極めて滑稽(阿呆)。残念なのは、やはり小松崎大塚さんの手紙を読むことができないことでしょうか。小松崎三枝さんを称える「ラブリー、ラブリー」な詩は是非とも読んでみたかった。悪の権化のように描かれる大塚さんの返事とは、どんなものなのか、これも一読の価値ありでしょう。

その一方で、主人公守田一郎の多彩な人格には兎に角脱帽。一体、本当の彼はどういった人間なのか、最後まで全くわからなかった。小松崎森見登美彦との馬鹿げた(阿呆らしい)文通の数々で作品の色合いが明確ではある一方で、間宮少年を諭すような一面もあれば、大塚さんへの復讐に燃える大人気ない面もあり、それでいて最後の伊吹さんに示すような真面目な一面、等々、最後まで謎の人物でした。

あと謎といえば、和倉温泉に現れ、守田を全裸にした「金曜倶楽部」とは何者?今後の作品で登場するのでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『The MANZAI 5』 あさのあつこ

Manzai5 2009年、52冊目。あさのあつこ『The MANZAI ⑤』 

今回は特に盛り上がりもなく、なんとなく中休み的なお話。

受験を控えるなかではあるものの、(蓮田の受験問題はあったものの)あんまり受験話が盛り上がるわけでもなく、もう高校に入学してからの話の序章という感じになっています。

すなわち、今回は高校へ入学してからの貴史の目標が提示されます。

『漫才甲子園』の第一回優勝がそれです。いつものように渋るですが、やはり流れのままに流されていきます。

 

除夜の鐘の聞こえる新年の夜。瀬田歩のもとを訪ねてきたのは、いつものように秋本貴史

●●(伏字)で邪険に迎えるだったが、貴史は約束を失念しているを初詣に迎えに来たのだった。

マンション前の広場で待っていたのは元文芸部部長森口京美森口の親友篠原友美、学年トップの秀才高原有一

「チーム・ロミジュリ」は二人が不参加だ。

萩本恵菜は栗きんとん製作に悪戦苦闘のため不参加。

蓮田伸彦も不参加だった。蓮田の実家の「蓮田運送」が経営不振のため、高校への進学が危ぶまれるなか、ふさぎ込んでいたのだ。高校サッカーでの活躍を夢見てきた蓮田にとってショックは大きかったのかもしれない。

神社では樽酒が振舞われていた。

樽酒を振舞うおばちゃんに絡む若者、という構図に、貴史は腕力に訴えることなくとともに漫才でその場を収めてしまう。しかし、その後もなつく貴史を避けた拍子に躓いたは樽酒を全身に浴びてしまう。

酔っ払ってしまったは突如駆け出し、石段から転げ落ちてしまう。(ついでに、を追いかけた貴史も足を滑らせて、の上に落っこちた。)

救急車で市民病院に運ばれたのもとへ、初詣には不参加だった萩本恵菜メグ)も蓮田もかけつける。に特に怪我はないようだったが、萩本先生の言葉もあり、大事をとって一晩、は入院することとなった。

心配してくれる面々に謝りどうしの貴史は励ます。自己評価の低いを諭し、そして感謝する貴史だった。

が入院したのは6人部屋の301号室。

目が覚めて知った同室の患者は栗原さん、スゲさん、モリエさん、イケウチさんという老女4人。の姿をみて思い出したのか肉親に会えない寂しさを訴えて泣く彼女らの姿に困惑するだった。

そんなところへ着替えを持って現れた貴史はいつものようににぼけて漫才が始まる。

もう朝からテンション、高いわ。さすが『ロミジュリ』やね

そんな二人を茶化すように、声援をおくるのは看護師の同級生多々良覚の母だった。

その言葉を聞いて、”漫才にうるさい”という栗原は二人に「お題」を出した。

らの漫才はスゲさんら三人には受けたものの、最後にクシャミをしてしまった栗原の採点は辛い。

「明日も練習に来なさい」という栗原だったが、受験生にはとても無理だ。しかし、なぜか、多々良の母や貴史に流されるまま、は週一回、毎週土曜日午後が練習の日と決まってしまう。

間もなく卒業というなか、貴史の策略もあり、は否応なく漫才甲子園(漫才全国高等学校選手権大会)に向かうレールの上にあった。

 

いつものノリなので、軽くは楽しめるものの、特にクライマックスもない分だけ、それだけという感じですね。

時折、の心情が表出し、それを貴史が理解するという、ちょっと「一種気持ち悪い」ようなシーンがないではないですが、これがこの作品の深みを増しているというわけでもありません。なかなか、漫才の部分とウェットな部分がどうもそぐわないような感じ。即ち、が二重人格であるかのように見える不思議さがなんとなく漂います。

その意味で個人的にはもうちょっと表面的な漫才的な掛け合い中心であるお話のほうが好みですね。

さて、次巻ではどこまでいくんでしょうか。まだ、卒業式くらいなのか、一足飛びに高校の話、漫才甲子園予選あたりまでいくんでしょうか。

「漫才甲子園」、どんなライバルが現れるのか楽しみです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『三匹のおっさん』 有川浩

Sanbiki 2009年、51冊目。有川浩『三匹のおっさん』

愉快、痛快な老人達の活劇。

どこにでもいるような、それでいて実際にはありえないような子どもの心を残した還暦の老人ならぬ”おっさん”たちの夜回り。

カツアゲの取締り、ちかん退治、詐欺師退治、催眠商法への潜入、と町内の悪を懲らす活躍に胸躍るストーリー展開。

 

第一話

会社員清田清一は父の跡をついで敷地内の剣道教室を続けてきたが、最早通う生徒もいなくなった3月、会社も60歳で定年退職を迎えた。

家族は妻芳江のほか、二世帯住宅になっている自宅の二階には息子健児、嫁貴子、孫祐希が同居する。

清一は定年後、会社(地元ゼネコン)の系列会社であるアミューズメントパークに経理責任者に就くことになっていた。

そんな清一は赤提灯「酔いどれ鯨」の前店主立花重雄から私設自警団を作ることを持ちかけられた。

子どもの頃、清一重雄、そして有村則夫の三人は町内で「三匹の悪ガキ」の悪名をはせていたのだ。

還暦を迎えたとはいえ、まだまだ老人とは言えない三人は自分たちにできるボランティアを考えた。頭脳派の則夫、柔道歴の長い重雄、剣道三倍段の清一で、「三匹のジジイ」ならぬ「三匹のおっさん」で夜回りを始めようというのだ。

アミューズメントパークへ『エレクトリック・ゾーン』の出勤初日、清一はあまりの杜撰な経理に驚く。また、その店には偶然アルバイトとして祐希も入っていた。

アミューズメントパークの経理を整理するうちにゲームセンターの売上げが合わないことに気付いた清一は店長の須田良二に問い質した。

筐体から事務所に金を運ぶ際にカツアゲされることが多いのだという須田の言葉に半信半疑の清一だったが、実際にカツアゲの現場に出くわすや、思わず声をかけた。偶然目撃した祐希は店長に助けを求める電話をするが、須田はなかなか現れない。咄嗟に、祐希は警察に通報するフリでその場を収めるのだった。

カツアゲを主導していた男は須田の先輩。正道に戻った須田を脅迫し続けていたのだ。

清一に制止されたことを根に持った男は清一の弱点を須田に問い質す。

脅迫の挙句、祐希のことを知った男は祐希をターゲットにすることとした。

しかし、男と須田が話すテーブルの横では則夫がしっかりとレコーダーを回していた。

祐希を攫おうとする当日、現場に「三匹のおっさん」が現れた。

 

第二話

「ちかん出没、注意!」の立て看板。

町内で強姦事件、強姦未遂事件が頻発しているという。

それも「三匹」が夜回りをする深夜ではなく、20~22時という相対的に早い時間にだ。

有村則夫はこれを非常に憂慮していた。則夫には溺愛する高二の娘早苗がいた。

母親を亡くし、則夫が帰るまでは一人になってしまう早苗のことが則夫は心配だった。

「ちかん」に備えるべく、夜回りの時間を早めた「三匹」は別々に見回りを行うが、早速重雄が「ちかん」に遭遇した。

「ちかん」から女性を助けた重雄だったが、女性が重雄を見て気絶したために警官からは痴漢に間違われてしまう。

結局、重雄は「ちかん」を目撃はしたものの、取り逃がしてしまっていた。

その後、『エレクトリック・ゾーン』の駐車場で痴漢が捕まるが、三匹の面通しでは別人だった。

学校からの帰りが遅くなった早苗は公園前で突然自転車を引き倒される。

公園の植え込みに引きずり込まれ、危機一髪の早苗

そんなとき、アルバイトの帰りだった祐希は公園前に自転車が倒れているのを発見して早速清一に電話した。

もしもしジーサン?みどり公園の前で自転車が倒れてる。荷物が散乱してるのに持ち主がいなくて、荷物の中には栄女子高のナイロンバッグがある

 

第三話

重雄の妻登美子に声をかけたのは、仕立てのいい背広を着た年配の紳士。

男は小学校時代の同級生広田作治と名乗った。

登美子には記憶がなかったが、広田登美子のことを「僕の初恋」だという。

会社を経営してきた広田だったが、息子に会社の経営を譲って一人暮らしを始めるため、手頃な家を探していた。

友人としてつきあって欲しいという広田の名刺を登美子は戸惑いながらも受け取ってしまう。

家に帰っても女としては見てもらえず、「おばあちゃん」でしかない登美子の心の隙間に広田はうまく入り込んでしまったのだ。

そんな広田登美子の逢瀬を発見したのは祐希早苗

祐希は早速、清一に報告した。

 

第四話

清田家の前をうろうろしている中学生を清一の前に連れてきたのは祐希

中学生は3月で道場を辞めた工藤昴清一に相談があって、やってきたのだ。

相談とは中学で起こっている動物虐待事件についてだった。

学校で世話をしているマガモが片羽を切られたり、片足を切られたりという事件が連続しているという。事態を憂慮した学校はマガモを動物園に引き取ってもらおうとしていたが、ともう一人の飼育係新垣美和はこれに納得できず、犯人を捕まえてほしかった。

話を聞いた「三匹」は祐希早苗とともに動物虐待対策会議に乗り込むと、動物虐待が生徒たちに向かう危険性を校長らに訴えた。

そして則夫は校長を室外に連れ出して説得した。

会議室には盗聴器がしかけられていた。これを探知機で発見した則夫は犯人が学校関係者であることを仄めかし、校長の不安感を煽ったのだ。会議室に戻った校長は「見回り強化」の方針に転換し、「三匹」に協力を求めるのだった。

「三匹」は会議室の盗聴器はそのままにして犯人を誘導すると、飼育小屋の鍵を換えて待ち構えた。

 

第五話

学校近くのスーパーで偶然出くわした祐希早苗

そこに現れたのは早苗の学校の友人、富永潤子。デリカシーのない会話に閉口する祐希だったが、心優しい早苗は邪険にもできない。

そんな潤子は翌日の学校で、早苗祐希を紹介して欲しいと言い出す。

祐希との関係を自身の中でも整理できていない早苗は、またしてもイヤだとは言えずに、なし崩しに祐希を紹介することになってしまう。

一方、この話を聞いた祐希早苗の心が自分にはないことを悟り、自暴自棄のまま、早苗の友人として潤子につきあうこととする。

紹介してあらためて自身の心に気付いた早苗は打ち沈んでいく。そんな早苗の姿を心配し、早苗を苦しめる祐希に立腹する則夫だった。

 

第六話

バカヤロ---------ッ!

貴子が70万円もする空気清浄機を買ったことを知り、健児が吠えた。

健康食品ショップで詐欺にあったのだ。

クーリング・オフの申し出にもまともに取り合おうとしない業者に戸惑う健児らに代わって、業者を追い返した清一だったが、そんな業者にすら応対できない甘い健児ら夫婦に呆れ返る。

数日後、清一芳江から頼みごとを持ちかけられる。

芳江の友人靖代が悪徳業者に次々とはまっているようなのだ。商店街の貸し店舗に入居した業者の催眠商法の手口に次々とつかまっているらしい。

靖代の息子らに頼まれて説得しようとした芳江だったが、靖代からは絶交されてしまう。

説得するためにも通う理由を調べて欲しいという芳江だったが、靖代と面識もない清一は気乗り薄。

あなたたちの活動にはこういうことは入ってないのかしら

あなたたちのお遊びに今まで気づかないあたしだとでも思ってたんですか

芳江にばれたのでは仕方がない。

重雄則夫芳江にばれていたことを知るや固まってしまう。

則夫が下調べをした『パレット・ライフ』に一週間ごとに通いつめることを決めた「三匹」だった。

しかし、(「三匹」が貰ったり、買ったりして)則夫の工場に隠されていた商品を発見した早苗則夫が悪徳業者に騙されているものと心配し、祐希に相談する。

 

三匹が三匹とも根底では似たような性格なので、意見の相違もなく、話がとにかくスピーディです。一方で、ディテールがかなり違うので、その活躍の現れ方が違っていて、そのバリエーションがまた楽しい。

一人、重雄だけが、祐希早苗の世代の子、孫を持たないため、ちょっと脇役の佇まいはありますが、なかなかアクが強いこともあって物語のなかでも埋没することはありません。「三匹」の発案者ではあるものの、「三匹」が始まると、話の持ち込み元が清一祐希となることが多く、そのリーダー的なイメージも定着せずに終わってしまいました。

ところで、第二話で清一が語る、重雄が負かしたという”県警署長”って何でしょう?所轄の署長ではないんですか?何だか妙な役職名ですね。

あとは、祐希とともに妙に気の若い清一やアナーキーな則夫がいい味を出していますね。やることなすこと、枯れた感じというよりも、子どものいたずらに近い感じですね。特に、則夫の隠し武器が妙に笑えます。

まだまだ、別の話が読みたいキャラクターたちです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『少女』 湊かなえ

Syojo 2009年、50冊目。湊かなえ『少女』

軽いミステリです。

なんていうんでしょう。

テクニカルに巧い作品というんでしょうか。いろいろな事件、物事がきれいに繋がっています。

全てが輪になっているようで、キレイではあるんですが、見方によっては世界が狭い、ご都合主義的な印象を与えるかもしれない作品といえるでしょう。

 

草野敦子桜井由紀は友人ではあるものの、気まずい関係を暫く引きずっていた。

小学1年からともに剣道教室<黎明会>に通った二人。

まじめに剣道に取り組んだ由紀だったが、小学5年のときに剣道をやめることとなった。

同居する元小学校教師の祖母が認知症となり、家族を相手に暴れるようになったのだ。我慢を重ねた由紀だったが、とうとう寝ている祖母の顔に濡れタオルを置いてしまう。しかし、目を覚ました祖母に斬りつけられ、左手の筋を切られてしまったのだ。

この一件で両親とも気まずくなるとともに、握力を損なった由紀は剣道を続けることができなくなってしまった。

一方、敦子は剣道の実力をつけていった。

”勝利の跳躍”。間合いの外から跳び込んで面を打つ敦子は小学6年で全国優勝を果たす。

しかし、中学3年の夏、県大会の決勝で足を捻った敦子は剣道を止めてしまう。スポーツ推薦で決まりかけていた名門私立校黎明館高校も断り、入学したのは由紀と同じ桜宮高校。

泣く泣く剣道を手放した由紀は、剣道を止めたことを何事でもないかのように語る敦子の態度が許せなかった。

しかし、敦子が剣道を止め、推薦を辞退したのには理由があった。

A子がずっこけたせいで、全国大会行けなかったよ!

A子、推薦来たってチョーシこいてた

あたしなら、おわびに死んじゃう

A子、死んだ?

A子、まだ生きてんの?

県大会での団体戦敗戦をすべて敦子のせいのように誹謗する裏サイトの書き込みが敦子を追い込み、敦子に剣道を止めさせたのだ。それ以来、敦子には過呼吸で呼吸困難になるクセができてしまう。

それを知った由紀だったが、それでも剣道をあっさりとあきらめた敦子をどうしても簡単には許せない。そこで、敦子をモデルに、敦子だけに向けた小説を書いた。

『ヨルの綱渡り』

学校に置き忘れた由紀の手書き原稿が何者かによって盗まれてしまう。

犯人は意外な形で判明する。国語教師小倉がとった文学新人賞の作品タイトルが『ヨルの綱渡り』だったのだ。

由紀は勿論、敦子もまた読んだ冒頭の内容から(自身がモデルであることを感じ取って)小倉が盗作したことに気付いていた。

由紀小倉を訴えはしなかったが報復を行った。職員室にある小倉のパソコンを持ち出すと全学年の国語の成績表を学校関係者にメール送信したのだ。

こうして小倉は退職した。

敦子もまた小倉のパソコン(の日記)を見て知った、小倉と交際(援交)するとおぼしき黎明館高校の女子高生”セーラ”のことを、黎明館の裏サイトに書き込んでいた。

小倉の日記に書かれた、スポーツ推薦で黎明館に入学したセーラに比べて、桜宮の生徒はくずだ、という表現が許せなかったからだ。

セーラは援交マニア。今の相手は盗作おやじ。世界は二人のために。それ以外のヤツらは人間のくず

ともに小倉への報復を行った二人だったが、敦子は本当に由紀が『ヨルの綱渡り』を書いたのか、どんなつもりで書いたのかも、確認できないまま、気まずい雰囲気だけが二人の間には残ってしまう。

しばらくして、気まずさを解消するために、由紀が仲間に引き入れたのは、黎明館高校から転校してきた紫織

その日、紫織が二人に話したのは転校の理由だった。

黎明館で仲良くしていた親友が自殺し、自身に宛てた遺書メールが残っていたのだという。

表面的には気の毒がる二人だったが、二人の目には紫織の話は不幸自慢をしているようにしか見えなかった。

見たい-死体を。いや、紫織が見たのが死体なら、わたしは死ぬ瞬間を見てみたい。紫織が親友なら、わたしもそれくらい身近な人。

由紀敦子はそれぞれそう考えていた。

 

夏休みに入ると、体育の補習で敦子は老人ホーム”シルバーシャトウ”のボランティアに行くことになった。敦子は期せずして死に近づけることを楽しみにする。

働き始めた矢先、もちを詰まらせた水森というおばあさんを敦子は助けてしまう。

しかし、この水森さんは”由紀の左手の握力を失くした張本人”、”由紀が殺したいと思っている祖母”だったのだ。敦子は助けたのが、自分であることを兎に角隠そうとする。

敦子の上司としてついたのは30代半ばの”おっさん”高雄孝夫高雄はなぜかよそよそしく、敦子を遠ざけようとする。

高雄は女子高生に痴漢の冤罪をかけられた経験があった。面倒を避けるため示談に応じたものの、その結果、会社はクビ、離婚となったのだ。重病で入院している息子に会うことすら妻からは禁じられていた。

簡単に嘘をつき陥れる女子高生を高雄は怖れていたのだ。

そんな高雄は『ヨルの綱渡り』を読んでいた。

小倉の自殺により単行本化されなかったために冒頭しか読むことのできなかった『ヨルの綱渡り』を敦子小倉の自宅ではじめて読んだ。由紀が自分を馬鹿にしているのだと誤解していたことに気付き、高雄の言葉で由紀の思いが見えてきた敦子だった。

 

一方、由紀もまた”死”を求めて<小鳩会>という本の朗読ボランティアに参加する。

小鳩会の岡田のやり方に反発して、すぐ辞めてしまった由紀だったが、一回だけ行ったS大学付属病院小児科病棟で出会った二人の少年”肉まん”タッチーと”きれいな顔”と仲良くなり、度々病院に通うようになる。勿論、二人が死ぬのを待ちわびて・・・。

タッチー由紀に相談を持ちかけた。の父親を連れてきて欲しいというのだ。

の両親は離婚しており、母親は父親がに連絡をとるのを禁じているらしい。

成功率7%という手術を5日後(水曜日)に控えたに、父親を会わせて欲しいというタッチーの言葉に、”最高の死”を演出したいと考えていた由紀は応じた。

の父は会社”東洋ハウス”を辞めていた。の父が働いていたという桜宮ハウジングパークでも、情報を得られず途方に暮れる由紀に声をかけたのは同業”三条ホーム”のモデルルームにいた男だった。

男はの父親のことを教えるかわりに、由紀に頼みごとをしたいのだという。

僕のような中年男がきみのような女子高生にのぞむことだ。いやなら来なくていい。

月曜日の夜、モデルルームに来るように告げる男の言葉にも、”最高の死”を演出するためなら仕方がないと開き直る由紀だったが、それでも最近付き合い始めたカレシ、牧瀬とあらかじめやっておくかとも考える。

この牧瀬もまた目の前で死を目撃したという”死体経験者”だった。

駅のホームで飛び込んだ男を目撃したというのだ。提げていた紙袋から紙吹雪をばらまいて、男は電車に飛び込んだ。牧瀬の前に飛んできた男の手には、ばらまいた紙吹雪がひらひらと舞い落ちていた。

それ以来、”死”に執着するようになった牧瀬由紀からのことを聞くや、”最高の死”に自分も関与したいと言い出すのだった。

モデルハウスに一緒についてきた牧瀬を見て”三条ホーム”の男は不機嫌になった。男は、由紀に男の下着を洗わせたり、牧瀬に足を洗わせたり・・・。

しかし、牧瀬はその様子を小型レコーダーで録音し、携帯電話で録画した。男の脅迫の証拠を押さえると、の父親のことを教えるよう男(滝沢)に迫った。

の父親は痴漢で捕まって会社をやめ、今は老人ホームで働いているという。

 

最初の「遺書」が滝沢紫織のもの、っていうのが巧い。

途中まではセーラ星羅)のものかと思っていました。その後のモノローグも紫織のものかと思いきや敦子のものなんですね。

今回の”死”への憧れを惹起する紫織の役割って、ラストまでは単なる口火を切っただけの存在でしかないんですが、突然ラストで重くなる。このあたりも巧妙に出来ているなぁと関心しきりです。

まぁ、出てくる人物、出てくる人物に、最後は全て繋がりが出てくるという構成はちょっと唖然としないではないですが、やはり「巧い」んでしょうね。

由紀敦子というそれぞれの視線で交互に語られるのも、話自体を非常に面白くしていますね。それぞれの視線で追える内容から推理される(過去の)事実が、互いの背景を少しずつ明らかにしていく構成も話に引き込まれる要素として大いに機能していそうです。

いくつかの切れ端が提示されていて、それが最後に多面的に結びついていく。

その気持ちよさがこの作品にはありました。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『スノーフレーク』 大崎梢

Snowflake 2009年、49冊目。大崎梢『スノーフレーク』

行方不明の幼なじみを探すという軽いミステリ仕立ての話ですね。

悪くはないんですが、でも・・・今ひとつという感じでしょうか。

どうも共感がわきにくいというか、一人称である真乃が抱えている重要な情報が最後まで開示されないので、どうもミスリードされていたような、不快感がラストに残ってしまいます。

最後はきれいに終わっているように見えますが、ミステリの部分でそういった気持ち悪さが残るために、どうも純粋に楽しむことは出来なかったといえるでしょうか。

 

函館の高校を卒業し、間もなく東京の大学へ進学する桜井真乃は掲示板に「昔のことは忘れる」と書き記す。

真乃は小学6年のときに死んだ幼なじみの遠藤速人が忘れられずに、これまで引きずってきたのだ。

小学校6年のとき一家心中で家族とともに車で函館湾の岸壁から海に沈んだ速人だったが、遺体は上がっていなかった。真乃の友人シーコ清水優子)が中3のときに速人を目撃したとの話もあり、真乃はずっと速人が死んだことを受け入れられず、速人を忘れられずにいた。

忘れると決心した真乃を友人の山本琴美は祝福し、もう一人の幼なじみ田村亨真乃をデートに誘った。

しかし、そのデートの途中、真乃速人らしき人物を目撃する。

しっかりしろ、あいつは死んだんだ

立ち尽くし、嗚咽をもらす真乃を支えるだったが、真乃にはやはり忘れることができないようだった。

翌日、函館山の中腹にある墓地を訪ねた真乃はそこで速人にそっくりの男に出会う。

男は速人の従兄遠藤勇麻と名乗った。

勇麻は、身の回りで速人の存在を匂わせる事件が連続することから、かつての速人の知人たちに話を聞くために函館へやってきたのだという。

勇麻を見たシーコ勇麻こそ(事件で死ななかった)速人ではないかと疑う。

真乃はその言葉を信じるわけではなかったが、勇麻に出会い、函館を巣立つのを機に、あらためて6年前の事故を調べてみることを決意した。

勇麻、そして遠藤家の近所に住む及川夫人や、その知人である曾根崎俊彦らから話を聞くうちに、あらたに色々なことが判明する。

車に同乗していた速人の祖母の死亡推定時刻は前日の昼間だったこと。

遠藤家の供養がなされていないこと。

遠藤家の保険金を受け取った兄(勇麻の父)は仕事の負債を保険金で返し、その金を元に今は成功していること。

事件からしばらくたってから、中野町の奥にある古いガラス工場跡で速人を見つけたという少年がいたこと。

速人の妹苑子の友人香月すみれが3年前に速人と出会い、会話(「初恋の女の子に会いに来たんだ」)をしていたこと。

 

そんなとき、学校の温室の前に、かつて真乃速人が行っていた交換日記と同じノートが置かれているのが見つかる。ノートにはスノードロップの鉛筆画だけが書かれていた。

交換ノートを見た真乃はかつて速人と日記を隠していた場所である、中野町のガラス工場跡へ向かった。

廃工場を調べるうち、3階床に開いた穴から落ちそうになった真乃を間一髪助けたのは勇麻だった。

ずっと昔から好きだった。ぼくは君に嘘をついている。ほんとうのことを言ってない。でも信じてほしい。心から大事に思っていると。真乃ちゃん、ぼくは・・・・・・そうだよ、君の小さい頃のことをよく知っている

 

当時、事件の現場にいたという琴美の叔父関根恭平は事件の直後、石ちゃんと呼ばれるホームレスが「弟を助けた」と話すのを聞いていた。

事故で弟を失くしていた石ちゃんは「やっと弟を助けたと。ずぶ濡れの弟を引きあげ、お医者さんにみせ、今度は助けたと」話していたのだ。

しかし、事件から2週間後、石ちゃんは肺炎をこじらせてなくなっていた。

石ちゃんが通っていたと思われるコミュニティはガラス工場跡の地下にあった。

琴美シーコとともに地下に降り立った真乃を迎えたのは大鳥というコミュニティの責任者。大鳥真乃に事件当時のことを語った。

しかし、大鳥もすべてを知っているわけではなかった。

”弟”の件は石ちゃんと医師”イシャメン”が二人で秘かに行っていたことだったのだ。

石ちゃんが死んだ後、がガラス工場跡を訪ねてきた。

速人がいる」「みつけた」「海の中じゃない。あいつはここにいる」と泣き喚くを前に、困惑するコミュニティの面々だったが、そんな中イシャメンは書き置きを残して去っていった。

そんなイシャメンから3年前に大鳥のもとへ届いた手紙には真乃へ宛てた小箱が同封されていた。

大鳥から渡された小箱から出てきたのは、速人のミサンガと、速人真乃の愛した花スノーフレークの球根だった。

更に、曾根崎から手渡された速人との交換日記(事件の前日に速人が落としたのを曾根崎が偶々拾っていたのだ。)には、次のように綴られていた。

交換ノートをやめようかと思う。真乃ちゃんにないしょにしていたことがあるんだ。ごめんね。今度会ったときに話す。ほんとうにごめん。あのひみつのかくし場所もやめなきゃならない。でも、真乃ちゃんがゆるしてくれるなら、ノートはまだつづけたいな。それが本心。

もうひとつ、話したいことがある。でもむりかも。むりだったら、ごめん。ああ、ごめんばかりだね。ぼくの好きな人は、真乃ちゃんが好きなんだ。

全てを悟った真乃は、ガラス工場跡に勇麻を呼び出した。

 

どうも登場人物がそれぞれ嘘くさいというか、実体を伴わない印象しか与えません。

主人公の真乃にしてから、速人の事件をあらためて調べるまで、殆ど事件の実像をつかんでおらず、それでいて速人を6年間ずっと(それも多感な中学、高校時代)引きずっているというのは、どうも納得感に乏しい。

勿論、心情面の部分なんで、人それぞれなんでしょうが、勇麻と出会って、漸く事件を調べようと動き出す真乃の心情は奈辺にあるのでしょうか。最終的に明かされる真乃速人の関係性から見ても、特に勇麻を男性として意識しているようには思えませんし・・・。廃工場での一件(勇麻の告白)にしても、読者に速人真乃の関係を誤解させるような効果はありますが、一方で真乃に何か思うところがあったともあまり思えません。

勇麻勇麻で、妙に一途ですよね。でも、ちょっとストーカーじみて怖いかもしれません。

犯罪者のようって、まぁ爆発物送ったりしてるんで、犯罪者には違いないんですが。

田村亨が一番まともそうで、青春小説の登場人物としては適役のようなんですが、殆ど登場しませんでしたね。話自体が妙なミステリ仕立てに傾斜している分、青春小説の色を示すようになる真乃の部分は減らされてしまっているのかもしれません。

全般を通してみると、登場人物に魅力が乏しいことに加え、ストーリーがどうも中途半端で、あまり後味のよい作品ではなかったかもしれません。

大崎梢の作品としてはちょっと残念な作品です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『乙女なげやり』 三浦しをん

Nageyari 2009年、48冊目。三浦しをん『乙女なげやり』

タイトルからして脱力感漂う三浦しをんのエッセイ。

2004年7月出版だから、約5年ほど前。

でも、話題も、登場人物も殆ど今と変わらない。

 

まえがき「早乙女君、じっくりと取り組んでみたまえ」

 

一章 乙女寄り道

 意思を鍛える[弟]

 立派な親不知も待機中[Mちゃん、ジャイ子、イケメン歯医者]

 なめくじら的生活[祖母]

 村での出来事[祖母、おば、郵便局員、和尚さん]

 自分を止めてあげたい[あんちゃん、G]

 ひとり舞台[ぜんちゃん、野生児、弟]

 おともだち三態[G、ぜんちゃん、あんちゃん、ガクト、イチロー、松井]

 反省だけならサルでもできる[死国のYちゃん、バクチクあっちゃん]

 自分自身を知れ[学生時代の友人Y君]

(なげやり人生相談1)朝、どうしても起きられないんです。どうしたらいいでしょう?

 

二章 乙女病みがち

 ネズミとぼくらは友だちさ[弟、近所の友人K、古本屋の元同僚Tさん、マリリン・マンソン、公営体育館トレーニングルームの係の人]

 なにしろ遠くて帰りに湯冷め[哀川翔]

 俺の胃、粗悪品。[父、哀川翔]

 にわとりになった日[マクドナルドでつっつく若い女性]

 変人の多い職業[腹ちゃん、皮膚科の医師、薬剤師]

 男女はつらいよ[腹ちゃん]

 気づきがたりないのはだれなんだ[Ⅰちゃん]

 はやく(高潔な)人間になりたい

 最近の事情[古本屋の元同僚M木さん、Hさん夫婦(Hさん、Ⅰさん)、良平君、高校時代の友人]

(なげやり人生相談2)常に仕事ばかりしちゃう自分を、なんとかしたいんです。

 

三章 乙女たぎる血

 なんで伸びたの?[俳優養成所の研究生、時蔵、竹本住大夫]

 つわものどもが旅路をかけめぐる

 たのしい旅路

 師は音もなく背後に走り寄る

 白と黄色に振り回される

 すべての恋が色あせて見える[あんちゃん、ミロノフ先生]

 夢幻の世界[弟]

 微細な部分を論じる[Nさん]

 よろよろ徘徊週間[古本屋社長]

(なげやり人生相談3)マリナーズが優勝しそうにない。

(なげやり人生相談4)どうして文章がヘタなんですか?

(なげやり人生相談5)なぜ私はこんなに豆が好きなんでしょう。特に枝豆とか空豆とか、緑色の豆が異常に好きでたまりません。豆だけ食べてれば満足です。「好き」度が尋常じゃなくて、そんな自分が最近とても不安です。

 

四章 乙女総立ち

 仲良きことは美しきかな[友人ナッキーとそのだんな、弟、ジロウ]

 新婚リサーチ[ナッキー、ぜんちゃん、S、Tちゃん]

 拝見記

 骨折り損のくたびれもうけ[母]

 破滅へ疾走する恋[弟、ジロウ]

 たまに夢見がち[友人H、ヴィゴ・モーテンセン、佐藤浩市]

 鬼の一念[知人Yさん、ヴィゴ・モーテンセン]

 涙でかすむホワイト・タワー

(なげやり人生相談6)方向オンチなんです。

 

あとがき「早乙女君、そうなげやりになるな」

※[ ]内は主な登場人物

 

この作品のあと、同テンションで『悶絶スパイラル』に続きます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『プリンセス・トヨトミ』 万城目学

Princess_toyotomi 2009年、47冊目。万城目学『プリンセス・トヨトミ』

やっぱりいいですね、万城目学は。

今回の作品もうまい。登場人物の苗字にも妙に気を配っていますし、主要な登場人物の造形も秀逸。当然これだけの分量なので、各登場人物に奥行きが作れるはずもありませんが、それぞれの性格が非常にコンパクトに立っていて、納得感や共感を感じるようになっています。

ストーリーは今回もまた奇想天外で、ありえない話ではあるものの、こんなことがあったら面白いだろうな、と夢を感じさせる内容であることも、またいいですね。

 

会計検査院第六局に所属する三人の調査官(副長松平元旭・ゲーンズブール鳥居タダシ)は大阪府の実地検査に大阪府庁を訪れた。

次々と検査をこなす三人だったが、鳥居ゲーンズブールの担当した”社団法人OJO”は訪ねてみると留守。OJO以外の検査を終了して東京へ戻ろうとする三人だったが、松平は父の墓参りのため一人、大阪に残った。

大阪市立空堀中学に通う真田大輔(中2)は子どもの頃から”女の子になりたい”と願をかけつづけたが叶うはずもなく、とうとう実力行使に出た。セーラー服を着て学校に向かったのだ。大輔の思いを知る幼なじみの橋場茶子はこれを応援するが、学校は当然これを認めない。

蜂須賀組組長の息子である(空堀中学3年)は大輔の姿が気に入らず殴りつけるのだが、これに屈しない大輔は翌日もセーラー服で通学した。これに腹を立てたは大輔を裸に剥くと、その上に石灰をまいた。

これに怒った茶子を探し出すと、その顔の真ん中に跳び蹴りを食らわすのだった。

翌日、学校の指示通りジャージで登校した大輔だったが、授業の途中で担任の後藤から家に帰るよう告げられる。家に戻った大輔を迎えた父幸一は行き先を”大阪城”と告げる。

大輔幸一は空堀商店街から路地に入った先にある長濱ビルヂングから地下に入った。その地下から一直線に続くトンネルの先は(後世再建された大阪城の地下にある本物の)大阪城だった。

巨大な幾何学紋様のモザイク画のうえに立っていた男は松平元

大阪国総理大臣-真田幸一です

松平を前に大輔の父は名乗った。

社団法人OJOに出向いた松平だったが、案内されたのは、この地下の大阪城だったのだ。

いぶかる松平に、幸一と大阪国のスタッフである大学教授石田、公認会計士片桐、小学校社会科教師長宗我部は東京の国会議事堂のモデルともなった辰巳金吾設計の大阪国議事堂の一室で、大阪国そしてOJOについての説明を始めた。

大阪国は今から400年前、豊臣家を滅ぼした徳川家のやり方に義憤を感じた大阪市民が豊臣の遺児を匿ったことから始まった。江戸時代を通じて市民経済の基盤の強くなった大阪で営々と秘密は守り伝えられるとともに、その秘密結社に参加するものは大阪の全ての男子に行き渡った。

徳川家が滅びる直前、この秘密結社は軍資金の少ない官軍に資金を拠出する見返りに、大阪国の存在を認めさせ、拠出した資金を補助金として回収する仕組みを条約として取り決めさせていた。

大阪国は豊臣の末裔である王女(OJO)を守るため存在し、国にも認められた存在だったのだ。

 

そんな秘密にかかわりなく、大輔は大阪城からの帰り、蜂須賀勝に遭遇し、ハサミで髪を切られてしまう。

これを見た茶子が黙っているはずがない。仕返しに蜂須賀組組事務所に掲げられた代紋を奪うことを決意した茶子大輔の幼なじみでもある”ジャコ屋”島猛司に相談するが、あまりの無謀な試みには開いた口がふさがらない。茶子を制止しようとするだったが、茶子は聞く耳を持たない。これを知った大輔は慄然とする。

茶子こそ王女、豊臣家の末裔だったのだ。

 

幸一らに語られた大阪国の存在に戸惑う松平だったが、東京からゲーンズブール鳥居を再度大阪に呼び寄せると、大阪国にメスを入れるべく調査を再開する。

しかし、鳥居はなぜか松平に合流する前に、茶子を探し求めていた。鳥居が会計検査院の調査官だと知った大輔とともに茶子から遠ざけようと連れまわすのだが、蜂須賀組組事務所へ向かう茶子を見つけ、ともに追いかけてしまうことになる。

蜂須賀組に飛び込む茶子の姿に、鳥居は警察に電話をするのだが・・・。

飛び出してくる茶子にぶつかり気を失った大輔茶子鳥居の4人は警察に保護されることとなった。

この一部始終を見ていた市民からの通報で、幸一は、鳥居が警察に連絡し、茶子を拘束したことを知った。

松平さん-我々は立ち上がります

幸一松平に電話すると、大阪国が立ち上がるサインを掲げた。

大阪城が赤く燃えていた。

松平には赤く燃える大阪城に見覚えがあった。35年前、森之宮に住んでいたときに見たことがあるのだ。

 

”ひょうたん”を介して、大阪国中に次々とサインは伝わっていった。

そして5月31日、16時。大阪は全停止した。

病院勤務など人命に係わる仕事、電気・水道・ガスなど都市のインフラ機能の制御に関する仕事、化学工場など24時間操業を求められる仕事、教育機関等特定の業務に携わる者を除き、男たちは一斉に行動を開始した。

大阪城公園に集結した男たちは、大阪府庁前に現れた松平元と大阪国総理大臣真田幸一の対決を見守った。

一方、警察に拘束されていた大輔もこの映像を目にする。

あ、お父ちゃん

大輔の言葉に、自身らが中央政府にハメラレタ(この対決の片棒を担いでいる)ことを知ってしまった大阪府警の刑事宇喜多らは、あわてて大輔茶子らを解放し、穏便に解決できるように大輔を大阪府庁へ送り届ける。

その頃、強硬に大阪国を認めない松平の姿に、大阪国と会計検査院の対決も一触即発の状態。そして危険を感じた警官がついに発砲し、弾は幸一に当たる。

真田幸一は皆が見守る中、ゆっくりとアスファルトの上に崩れ落ちた。

 

今度、大阪出張のときには是非空堀商店街へ行ってみたいですね。

先日、この作品を読む直前に大阪出張があって、商店街の前を走ってたんですよね。天王寺から日本橋を北上して、大阪城公園を一周して、松屋町筋を南下したので、かなりこの作品の舞台近辺を走ったことになります。

大阪出張から戻ってすぐに、この作品を読んだので、”しまったぁ”という感は強かったですね。勿論、今回も雰囲気がよくわかって、何倍にも楽しめたような気もしますが・・・。

さて、この大阪出張で、万城目学を知るという人の話を聴いてきました。

実家は開業医で、本人はいたって、おとなしく真面目な少年だったそうです。彼の昔を知る人は作品を読んで、「真面目そうだったのに、こんな作品を書くなんて・・・」と絶句するそうです。

とまぁ、誰もを驚かせる作品ですが、エンターテインメントとして、十分満足のいく内容になっています。今回も決して期待を裏切りませんでした。

細かいところにも手を抜かず、読者を喜ばせようとのサービス精神に満ちており、本当に満喫しました。

さて、京都・奈良・大阪と京阪神の大都市を巡ってきましたが、次はどこでしょうか?やはり、神戸が本命というところでしょうか。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『エッジ (上・下)』 鈴木光司

Edge1Edge2 2009年、4546冊目。鈴木光司『エッジ(上・下)』

物語的に破綻してはいないんだけれども、何となく落ち着きの悪い作品かもしれない。

どうも描写不足なんだか、釈然としないところが多々見受けられる。最後の謎解きのあたりは、どうも端折られすぎているのか、論理的に破綻しているのか、「あれ?なんでこうなるの?」と疑問符がつくところが多々。

ちょっと、この類の作品としては、竜頭蛇尾の感の残る作品となってしまいました。

 

栗山冴子はルポライター。

月刊誌『海鳥』編集長前園は、2週間前に発生した藤村一家(孝太晴子扶美啓輔)失踪事件のルポを冴子に執筆依頼する。

冴子は18年前に突然失踪した父眞一郎を探す過程で、失踪に対するノウハウを身につけていた。原因も見当たらない藤村一家の失踪は、冴子の父の失踪とも似ており、冴子はこの仕事を請けた。

冴子のルポルタージュはテレビ局関係者の目にもとまり、ディレクター羽柴から冴子藤村一家失踪事件を扱う番組のスタッフとして協力することを求められる。

冴子には前園から続けて同種の事件を扱う『ミッシング・ストーリー』の企画協力が求められた。次回扱うのは糸魚川市で連続して若い男が失踪したという事件である。テレビ局の仕事も受け持った冴子は父の失踪事件で知り合った探偵北沢秀明に協力を求めた。

北沢は自身が直接請けた調査も含めて、糸魚川で同時に失踪した3人の行方を追い、一軒のコンビニに3人が同時に居合わせたことを発見する。地震に襲われたコンビニで、3人は同時に消えてしまっていた。

一方、撮影のため藤村宅に向かったテレビ局クルーだったが、藤村宅を管理する失踪した藤村孝太の兄精二冴子しか相手にしない。借金もあり、人格も破綻した精二冴子は厭わしく感じて遠ざけようとするが、精二はしつこく冴子に絡むのだった。

テレビのスタッフとして藤村宅に入った霊能力者鳥居繁子に透視を依頼すべく、スタッフが集めた品物の中に、冴子は見慣れた手帳を発見する。なぜか父眞一郎の手帳であった。冴子はこの僥倖に驚きつつも、ポケットに中に手帳を落とし込んだ。

鳥居繁子が突然声を詰まらせ「これから大地が揺れる」と告げる。スタッフの緊張の中、風圧は増し、本当に大地は震えた。冴子は陶器を頭に受け、気を失ってしまう。

藤村一家、糸魚川の事件等から一連の失踪には”場”が関係していることに気づいた冴子北沢は視野を広げ、更に同様の事件がないかを北沢の息子俊哉に調べさせる。

俊哉はいくつかの条件をもとに失踪事件を集めると、一定の分布があることに気づいた。

失踪事件の殆どは糸魚川静岡構造線・中央構造線の上にあったのだ。海外でも活断層直上で同様な事件が起こっていることが確認される。一連の事件には磁場という物理的な要因が働いていることをうかがわせる結果だった。

続いて、熱海にあるハーブ園で集団失踪事件が発生した。羽柴らテレビスタッフらとともに現場を調べる冴子たちは、飛び立つ無数のカモメ、磁気異常を示す時計、オーロラと、次々起こる異様な現象に恐怖した。

わたしの手には負えんわ

鳥居繁子はそう呟くと、その晩、宿舎としたホテルで遺書を残して死亡(自然死だが、冴子は直前に、崖から飛び降りる繁子の姿を目撃していた)する。

自宅に戻った冴子は父の手帳に隠されていたフロッピーディスクから失踪前に書かれた原稿を印刷し、読み始めた。そこに書かれていたのは失踪前に父眞一郎が訪れていたボリビア、ティアワナコの考察だった。

この原稿から冴子が読み取ったのは同行者の存在だった。父の手帳が藤村家で発見されたことと結びつけて、調べるうち同行者が藤村晴子であることに冴子はたどりついた。

冴子は再度伊那の藤村宅に向かった。

一方で、引き続き熱海の集団失踪事件を調べる羽柴は番組を科学的な考察で進めるため、死亡した鳥居繁子にかわって物理学者磯貝直樹をスタッフに迎え入れた。

再度ハーブ園を訪れた羽柴の目の前に巨大な穴(クレーター)が忽然として現れる。発生のエネルギー量を換算し、あきれる磯貝だが、その答えを見出すことができなかった。

そこへ加わった磯貝の恋人クリス・ロバート磯貝に次々と驚くべき事実を伝えた。海外の科学者からもたらされるニュースは”リーマン予想が崩れた”、”πに規則性が現れた”等、従来科学が基礎としていた部分を揺るがすものばかりだった。

銀河系の星々が消えていく中、アメリカ大統領は科学顧問や物理学の最高権威らを集めて緘口令をしくが、現実はそれを上回った。

ロサンゼルスでは地震も生じないままに生じた幅300メートル、深さ2000メートル、長さ450キロの亀裂(エッジ)が、更に延びつつあった。報道はされるものの、誰も真実を知ることはなく、ただ右往左往するだけだった。

磯貝クリスは大統領に招集されたメンバーから、真実を知る。

間もなく「相転移(Phase transition)」が起こるのである。

羽柴らに、気体・液体・固体という3つの相を例としてあげ、相転移によってこれまでの物理法則が崩れること、その結果として全てが消滅してしまうことを告げた。

絶望する磯貝羽柴らだったが、大統領に招集されるメンバーの中にワームホールの専門家がいることを知り、ワームホールによって別世界に逃げる方法に一筋の光明を見出した。これまでの失踪事件・磁気異常とワームホールとの関係を繋ぎ合わせた磯貝は集団失踪事件を起こし、クレーターを生ぜしめた現地”ハーブ園”にワームホールの口が開く可能性が高いことを語った。

相転移襲来まで時間のない中、羽柴らスタッフは知人らを電話でハーブ園に呼び寄せるが、関係者だけでなく、また聞きの人間も押し寄せ、総勢173人の人間が集まった。過去の世界に繋がるというワームホールにおいて、173人という数には意味があった。

ハーブ園にやってきていた北沢俊哉はアンデス山脈マチュピチュで両脚切断の173人の遺骨が発見されていることを語った。そのうち女性は150人。これはハーブ園に集まった女性の数と同じだった。

 

藤村宅に入った冴子はそこで待ち伏せしていた藤村精二から真実を知らされる。

眞一郎が失踪した18年前に藤村家で起こったこと。

冴子を守るため、眞一郎藤村孝太と入れ替わったこと。

相転移襲来を知っていた藤村一家が事前にワームホールを使って過去へ逃れたこと。

そして、既に失踪していた藤村精二のポジションに、孝太すなわち眞一郎が座ったこと。

既に見る影もなくなったが、精二冴子の父眞一郎だった。

 

ラストを読むと、最後は冴子の一生が輪(リング)のように閉じており、うまく完結しているのですが、若干使い古された手法で、なんだか興ざめ。

また、一番よくわからなかったのは、ビルから飛び降りて死んだはずの藤村精二眞一郎)が生きていたこと。そもそも、なぜ飛び降りたのかもわからない。

眞一郎が変わってしまった理由に対して、「翼のある蛇」、「副乳」、「藤村孝太」という3つのキーワードが転がっているが、どうも説明不足でよくわからない。

そもそも「翼のある蛇」とは何か?何ができる存在なのか?

藤村孝太栗山眞一郎には出会う前から自身が通常の存在ではない(翼のある蛇である)という意識はあったのか?

二人が出会うことで、どうやって力を片側(藤村孝太)に集中することができたのか?

そのために、冴子を殺すことを孝太は暗示するが、力を有する前の孝太にそんなことが何故できたのか?

とにかく、藤村精二の話であったり、冴子の想像は飛躍していて、どうも納得感がない。

全般にダラダラと大風呂敷を広げたり、妙な脇道にそれたりしながら、最後は短時間でそれを閉じようとして、無理が生じているような印象を受けます。

ラストに向けて緊迫感は急速に盛り上がるんですが、どうも最後の閉じ方に穴がいくつも開いているようで、ちょっと残念です。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ビロウな話で恐縮です日記』 三浦しをん

Birounikki 2009年、44冊目。三浦しをん『ビロウな話で恐縮です日記』

これまでのエッセイのような体裁とはちょっと変わって、2007年1月1日から不定期に綴られる日記形式。(2007年1月1日~2008年9月20日)

実際に、ブログ『ビロウな話で恐縮です日記』にあった内容(日記)で、今回の作品の更に後の日々(日記)は今まさに更新されているということになるのでしょうか。

ただし、日記形式とはいえ、内容はこれまでのエッセイとほぼ同じ。何となく、十年一日というか、書いてある内容がそれほど変わらない。

とにかく脱力感漂う話がいっぱい。

別に何がいいってわけでもないし、ホモネタもどうでもいいんですが、何とはなしにニヤリとして読んでしまいます。

何でしょう、上から目線で読める楽しみとでもいうんでしょうか。

これに比べたら、オレも真面目に生きてるんだな、って感じですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『いっちばん』 畠中恵

Icchiban 2009年、43冊目。畠中恵『いっちばん』

『しゃばけ』シリーズ第7弾。

今回も5編の短編からなる作品。いつもの味がしっかりでていて、読みやすい。キャラクターもしっかり出来上がっているので、安心して読めます。

今回の作品では、兄の松之助は分家して家を出ており、栄吉も修業に出て、という設定。これまでとちょっとは変わった感じかと思いきや、やっぱり栄吉は欠かせないんでしょうね、しっかり登場しています。

 

いっちばん

日限の親分が困っている。通町を荒らす掏摸の目星をつけたはいいが、証拠がない。

犯人と目したのは老舗の大店黒川屋の次男富次郎だ。富次郎から飴売りのおすまに掏った品物はわたっているようなのだが、そのカラクリがわからない。

頭を抱える親分若だんなに相談するのだが・・・。

一方、栄吉が修業で三春屋を離れ、松之助も独立して寂しい若だんなを慰めるため、妖怪たちは知恵を絞り、若だんなに贈り物をしようと決める。

菓子がいいという鳴家栄吉のもとへ向かう仁吉について街に出た。

春画がいいという屏風のぞきおしろ蛇骨婆は広徳寺の寛朝のもとへ向かった。

根付がいいという鈴彦姫野寺坊は上等の根付を買う資金を集めるべく、八丁堀に残っている荒寺の床下を探った。

 

いっぷく

妖怪を探している者がいるという噂が流れる。噂される妖怪の中には鳴家の名もあり、ちょっと奇妙な塩梅だ。

そんなころ、廻船問屋長崎屋に挑みかける商売相手が現れた。唐物屋小乃屋と西岡屋である。

小乃屋の跡取り息子七之助は開店披露の会を「品比べの席」としたいと、参加を長崎屋にも呼びかけた。

七之助に会った若だんなは何やら懐かしい心持ちになるが思い当たるふしはない。七之助もまた若だんなに何かを言いたい様子。

品比べの日が近づく中、鳴家七之助に捕まった。

 

天狗の使い魔

寝ている若だんなを攫ったのは信濃の六鬼坊という大天狗。

既に亡くなった友人の修験者八坂坊が飼っていた妖怪管狐を貰い受けるべく、江戸の北方にある王子稲荷神社に向かった六鬼坊だったが、そこを守る狐たちに追い返されてしまう。

そこで狐を従える大妖皮衣を脅迫すべく、皮衣の孫である若だんなを攫ったのだった。

事情を知った若だんな仁吉佐助が血相を変えて追ってくるのを懸念し、穏便に解決しようと、六鬼坊に勝負を持ちかける。

しかし、その勝負の最中、更に、若だんなを横取りしようとするものが現れた。

狛犬である。神社で祭神狛犬の間に割り込んだたちが許せなかったのだ。

 

餡子は甘いか

老舗菓子屋安野屋で修業する栄吉は倉に潜りこんで砂糖を盗もうとする男を捕まえた。

捕まえた盗人八助は味のわかる舌をもっていた。これを評価した主の虎三郎八助を安野屋に奉公人として迎え入れるのだった。

八助の面倒をみることとなった栄吉だったが、虎三郎に菓子作りを止められており、気分は沈んでいた。加えて、何事にも器用にこなす八助の姿を見て、自身の限界を知った栄吉はとうとう菓子作りをあきらめることを決心し、若だんなに伝えるのだった。

 

ひなのちよがみ

若だんなのもとを訪ねてきた若い娘に、色めきたつ長崎屋だったが、娘の正体は塗り壁状の白粉をやめ、薄化粧になった紅白粉問屋一色屋のお雛だった。

一色屋は先日の大火で店の経営が苦しくなり、年末を越すのも一大事。お雛もまた店に出て、一色屋を支えていこうと決心し、商売の相談をするため若だんなのもとを訪ねてきたのだった。

千代紙の小袋に白粉を入れて売り出すというお雛のアイデアを活かすため、藤兵衛は知り合いの錦絵屋を紹介する。

しかし、3日後、血相を変えて若だんなのもとに押しかけたのはお雛の許婚、材木問屋中屋の正三郎である。錦絵屋志乃屋の次男秀二郎お雛に言い寄ることに、苦情を言いにきたのだ。

塗り壁のようだった、お雛が薄化粧になった途端、正三郎は気が気ではなくなってしまったのだ。そんな正三郎の姿が、お雛には不満でならない。

喧嘩になってしまう二人をよそに、仁吉はこれ幸いと若だんなに問題を出した。二人の問題を解決する良い方法はないかと。

うまい回答を出したはずの若だんなだったが・・・。

 

前作『ちんぷんかん』の「鬼と小鬼」に登場した冬吉が登場しましたね。賽の河原から逃げ出して、生き返ったはずなのに、”生き別れ”になってしまっていましたから、どうなったんだろうと気になっていましたので、今回の登場で漸く、ケリがついたという感じです。

若だんなも妖怪たちも、更に栄吉もあいかわらずです。

若だんな栄吉も、本来いろいろ見聞を広める等、成長すべき年頃なんですが、(いろいろあるんですが、本質的には)あまり成長したように見えない。でも、そんな変わらないところが、このシリーズのいいところかもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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