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2009年3月

『シンメトリー』 誉田哲也

Symmetri 2009年、42冊目。誉田哲也『シンメトリー』

姫川玲子シリーズの3作目。今回は短編集。

小粒な内容が多いものの、逆に(イロモノ的キャラクターの)姫川玲子でストーリーを作るには、これくらいのほうが合っているかもと思わせる内容。

悪くない。

 

東京

姫川玲子(25)がまだ品川署の強行班捜査係で巡査部長昇任試験に四苦八苦していた頃。

大先輩の部長刑事木暮利充と組んで向かった現場は品川東高等学校。屋上にあるプールから生徒が飛び降りたのだという。

落ちるところを見かけた者はなかったが、自殺にしては手すりに残された指紋は不自然だった。

同じ水泳部員は口を濁すが、水泳部内にはイジメがあったようだ。

 

過ぎた正義

東京都監察医務院の国奥定之助姫川玲子に話したのは、不自然な連続事故死だった。心神喪失や少年ということで、凶悪犯でありながら罪を逃れた吾妻照夫大場武志が交通事故死や薬物死という形で次々と死んだのだ。

法が裁ききれなかった犯罪者を誰かが罰したのでは?自身を省みて可能性を探る玲子

連続事故死した二人に共通する人物の一人として浮かび上がってきたのは、かつて捜査一課にもいたことのある倉田修二警部補の名だった。倉田玲子が捜査一課入りする前に、息子の殺人事件を契機に退職していた。

玲子倉田の息子が服役する川越少年刑務所前で倉田修二を待ち構えた。

 

右では殴らない

新種の違法薬物によって引き起こされる劇症肝炎での死亡事例が連続して発見される。

二人の被害者の携帯電話のメモリーから浮かび上がった容疑者は女子高生。

下坂美樹、17歳。

問い詰める玲子美樹は援助交際をしていることを悪びれもせずに語る。

 

シンメトリー

駅員徳山和孝は脱線事故に遭遇する。

徳山の勤務する駅を発した電車が、酔って踏切内に進入した車によって、脱線したのだ。徳山が駆けつけた時には、既に車両は脱線したうえ、傾いてしまっていた。

徳山は車両内に閉じ込められた顔見知りの女子高生小川実春を助けるべく、精一杯傾く車両に手を伸ばすが、甲斐なく車両は遂に横転し、徳山は右肘から先を失うこととなった。

死者102名、負傷者は重軽傷合わせて425人という大事故だったにも係わらず、泥酔して事故を引き起こした米田靖史に下された罰は懲役5年に過ぎなかった。

JRを退職した徳山は5年して出所した米田を呼び出すと、心臓を出刃包丁で一突きし、遺体を事故現場の上り線内側線路に縦にセットした。

 

左から見た場合

吉原秀一殺害事件は高島平署管内で起こった。

部屋で刺された吉原は携帯電話で電話をする途中だった。「045666」という入力途中の電話番号は横浜市中区のナンバーを指し示すが、吉原の携帯電話のメモリに該当の番号はない。

交友関係の少ない吉原の知人にあたりをつけるべく、携帯電話の電話帳をもとに捜査は開始されたが、姫川玲子は電話帳の最後にある「渡辺繁」の名前が気になって仕方がない。

捜査が進むにつれ、吉原の過去に浮かび上がったのは、石膏ボード盗難事件。この犯人に目された会社ワタナベ工務店の社長こそ、渡辺繁だった。

 

悪しき実

男が死んでいるので見にきてほしい」との通報で、駆けつけた赤羽署の警官は現場で目にしたのは窒息死した男。しかし、そこに通報者の姿はなかった。

部屋の賃借人である春川美津代を偶然発見した姫川玲子に、美津代は自分が殺したのだと告げる。

 

手紙

姫川玲子のもとに手紙が届く。かつて玲子が捜査一課に抜擢される契機ともなった今泉春男と出会った事件の犯人からである。

玲子は部下たちに、当時の武勇伝を語り始めた。

玲子は入庁4年目。2度目の挑戦で巡査部長昇任試験に合格し、品川署から碑文谷署に異動、交通課規制係の主任を拝命していた。

そして半年。玲子は、目黒署に立った殺人事件の帳場に応援で駆りだされた。

公園で殺害された女性杉本香苗の会社の事情聴取を目黒署の高野真弓巡査部長と組んで行う玲子だったが、真弓に主導権を握られてしまう。

本庁にとりたててもらうまたとないチャンスにあって、真弓に主導権を握られたままでは目立つ手柄を立てられないと焦る玲子は、放置されたままのパソコンの調査を今泉に直接申し出たのだった。

  

姫川玲子シリーズとはいえ、短編で、かつ犯人等の描写も深めようとすると、自ずと玲子の出番は少なくなります。加えて、いつも以上に、なんとなく解決(?)するような構造で、ミステリとしてはちょっと・・・。

東京」なんかはシリーズの作品っぽいものの、表題作の「シンメトリー」では玲子は単なる添え物の扱いでしかないですね。

右では殴らない」は姫川玲子の辛辣な部分が出ていて、これはこれで面白かった。

左から見た場合」。うーん、こんなの作品にしてしまうんだ、という恐れ気のなさに驚きを隠せません。今更、携帯電話の変換ネタってどうよという感じですね。

短編ということもあって、本筋とは関係のない外伝的なネタばかりでした。軽くて、悪くはないんですが、のめりこめるほどの深みはない。

時間があれば、読んでもいいかというレベルか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ソウルケイジ』 誉田哲也

Soulcage 2009年、41冊目。誉田哲也『ソウルケイジ』

前作よりわかりやすいストーリー。

ただ、戸部に追い込まれる人々の悲哀が描ききれていないため、事実の描写でとどまっており、心情面での深み、奥行きがでなかったことが残念。

 

多摩川土手のワンボックスカーの後部荷台から成人男性のものと思われる左手首が発見された。

その後、近くのプレハブ賃貸ガレージに大量の血痕を発見した三島耕介の通報を受けた警察は(DNA鑑定の結果)失踪しているガレージの賃借人高岡賢一が被害者であることを突き止めた。

蒲田署に設けられた捜査本部には本庁からは十係の姫川班と日下班が出向く。これを迎えたのは巡査部長に昇格し、蒲田署に異動になっていた井岡博満である。

姫川玲子井岡と組んで河川敷を回るが、特に目ぼしい材料も拾うことができない。

血痕の発見者であり、高岡の経営する「高岡工務店」の従業員でもある三島耕介の事情聴取の役割を日下にさらわれてしまった玲子耕介の交際相手である中川美智子の担当に回されてしまう。

三島耕介を調べた日下耕介高岡を殺害した可能性を探る。

高岡は、同じ現場で働いていた三島忠治が9年前仕事中に転落事故で亡くなった後、息子である耕介の世話をしていた。高岡の過去を探る日下はかつて高岡が勤めていた中林建設に辿り着くが、中林建設は指定暴力団田嶋組のフロント企業だった。

中林建設の仕切る現場で働く木下興行の三島忠治には借金があり、彼の借金は死亡保険金で返済されていた。

一方、玲子高岡が少年時代を過ごした足立区南花畑で高岡の過去を探っていた。高岡の実家は駄菓子屋だったが、地上げに遭い、今はマンションになっていた。この地上げを指揮していたのは中林建設(中林不動産)。

高岡賢一の死亡保険金の受取人に指定されていたのは、三島耕介のほか、北千住で居酒屋を経営する内藤君江という人物。君江には病院に看病する甥内藤雄太の存在があった。

高岡”は本当の高岡賢一ではなかった。当時の高岡を知る人物に失踪した高岡の写真を見せたところ高岡賢一ではないことを証言したのだ。

地上げの一件とを繋ぎ合わせた玲子内藤雄太の父内藤和敏が中林建設を介して高岡賢一と入れ替わったことを喝破する。

また、中川美智子の父中川信郎三島忠治と同様に木下興行の現場で転落事故で死亡していることが発覚する。この類似性を調べる日下は木下興行に巣くう戸部真樹夫の存在に辿り着くが、戸部高岡の失踪事件以降、姿を見せないのだという。

戸部は借金を抱えた三島忠治中川信郎に転落事故に見せかけた自殺を強要してきたのだ。中川の件では、その娘である美智子をも食い物にしようとしていた。

忠治の死の真相を偶然知ってしまった三島耕介は同じ境遇の中川美智子を訪ね、戸部の存在を知った。美智子を守ると決心した耕介戸部美智子の部屋を訪れるのを待ち構え、叩きのめした。

これに激怒した戸部はその責任を問うように、高岡内藤)のもとへ向かったのだ。

そして・・・。

 

高岡賢一こと内藤和敏の心情を追うと、もっと味のある作品になったようにも思えるものの、このストーリーの中では”死んでしまった人”、”被害者”だったので、なかなか難しかったのでしょうか。高岡内藤)の遺書なんかがラストに来てもよかったんじゃないか、と少し思ったりもします。

今回はガンテツの登場はなく、玲子と対決(?)するのは日下です。

なかなか味のあるキャラクターですね。非常に緻密で、それでいて小市民的で・・・。

玲子に嫌われる役柄になっていますが、殆どやつ当たりでしかなく、非常に気の毒なキャラクターです。

どちらかというと、ヒラメキだけで勝負する玲子よりも、日下のようなキャラクターの方が警察小説向きなんじゃないでしょうか。

でも、こうやって比較すると、姫川玲子って、内田康夫浅見光彦のようなノリ(何だかよくわからないうちに、勝手に想像して、たまたま真理につきあたっているという)なのかもしれません。いやぁ、真面目に捜査している人からすると、本当に苦々しいかもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ジェネラル・ルージュの伝説(海堂尊ワールドのすべて)』 海堂尊

Genaral 2009年40冊目。海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説 ~海堂尊ワールドのすべて』

小説はそれなりに面白かったけれど、それ以上に人物相関図等、こんがらがってしまった作品間の関係を示す材料が貴重。まだまだ続くであろうシリーズを更に楽しむうえで、非常に有用な資料集になっています。

 

小説「ジェネラル・ルージュの伝説」

1991年10月。東城大学医学部付属病院総合外科の新米医局員速水晃一は屋上の貯水タンクの上でサボっている。

かつて同様にこの場所でサボっていたICUの猫田からは「速水先生はまだ本当の修羅場をご存じないんですから、大口を叩くのもほどほどにね」と批判されるのだが、速水は自信のある態度を崩さない。

世良医局長が執刀するオペの外回りについた速水に、突然世良は左胃動脈結紮を任せるが、速水はこれを何事でもないように成し遂げる。そんな速水の姿に世良黒崎助教授は3年前に医局を去った渡海征司郎を重ねるのだった。

水落冴子は売れないアイドルとして城東デパートの屋上で歌うことになっていたが、その前夜出会った同じ事務所のバンド『バタフライ・シャドウ』との賭けに勝ち、翌日の屋上ステージでの共演を勝ち取る。

これを良しとしないマネージャー小林は妨害しようとするが、ザックこと城崎だけは小林やメンバーの制止を振り切り、ステージに駆けつける。冴子が『ラプソディ』を歌い終わった直後、城東デパートで火事が発生する。

医局員らが学外行事に駆り出され、総合外科は開店休業状態。速水はいつものように屋上で寝転んでいたが、そこで城東デパートの火の手を目にするや、神経内科病棟(別名極楽病棟)の田口に協力を求める。

早速ICUに向かった速水は権限を掌握すると、負傷者の迎え入れ体制を構築しようとするが、実際に多数押し寄せる怪我人を前に呆然と立ち尽くしてしまう。「これが修羅場」と嘯く猫田の言葉にうつむくばかりの速水だった。

猫田花房美和に突然話しかける。

速水先生は美和ちゃんのことが大好きなんだって。でね、速水先生はこれから緊張しまくるから、自分を支えてくれるお守りがほしいんだって。・・・・・・美和ちゃん、口紅を持ってたわよね。それを速水先生にあげてくれない?

戸惑う速水だったが、緊張のあまり真っ青になった自身の唇に、受け取った美和のルージュを乱暴に塗りたくると、戦場に戻った。

速水は待合ロビーも臨時救急室にすると、全ての患者を受け入れる体制をとり、陣頭指揮を始めるのだった。

 

HISTORY「海堂尊以前/以後1961-2009」

「自作解説」

「海堂尊ワールド」

 -メインキャラクター解析

 -全登場人物表

 -登場人物相関図(●現在2006~2008 ●過去1988 ●未来2010~2012)

 -心に響く名ゼリフ

 -白鳥圭輔の「極意」一覧

 -東城大学医学部付属病院案内

 -はやわかり!全国大学・病院MAP

 -全国主要施設ガイド

 -桜宮市年表

 -用語解説

 -医療用語事典

 -カルトクイズ100

 

人物相関図で再度関係性を確認してみると、過去と現在をつなぐ中で、欠け落ちてしまっている物語もまだまだありそうですね。特に、世良はこれから(?)どうなっていくんでしょう。花房美和も今回のエピソードで世良から速水に乗り換えてしまった感があり、手術の腕でも速水に追い抜かれ、なんだか少しずつ可哀想な存在になりつつありますが・・・。

今回の小説は「現在」と「過去」を繋ぐ一つの話ですが、まだまだいろいろな話が生まれそうですね。

ところで、城崎って、碧翠院桜宮病院と何か関係あるって設定ありましたっけ?今回の小説では、そんな発言がありますが・・・。桜宮巌雄の息子?

とにかく、今回は小説以上に資料集としての価値の高い作品でした。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『英雄の書 (上・下)』 宮部みゆき

Eiyu1Eiyu2 2009年、3839冊目。宮部みゆき『英雄の書(上・下)』

何だか中途半端な作品。

作品の世界観を説明するために妙に紙幅を費やしていて、それがどうもかったるい。もうちょっとシンプルにすればいいのに、設定に妙に凝ってみましたという作者の拘りだけが先行しているように思える作品。

 

森崎友理子(小5:11)は授業の最中、突然家に帰るよう指示される。

学年主任の木内に連れられて帰った家では母美子が泣きながら友理子を迎えた。

友理子の兄大樹(中2:14)が二人の同級生をナイフで刺し、失踪したのだ。刺されたうちの一人は死亡していた。

警察は失踪した大樹を探すとともに、事件の動機を探るが何も出てこない。友理子にも思い当たる節はなかった。

大樹の部屋を探ったある夜、友理子大樹の本棚から声をかけられる。友理子に話しかけたのは古ぼけた赤い革表紙の本”アジュ”だった。

アジュ友理子大樹が”英雄”に憑かれてしまったと告げる。大樹を助け出すべく、友理子アジュが元々収蔵されていた、血の繋がらない大叔父水内一郎の別荘へ向かった。

その図書室で友理子アジュを迎えたのは深緑の本”賢者”ら、多くの本たち。”賢者”は友理子に事件の真相と”英雄”について語る。

人を導く”英雄”の物語には光と影が添うように”黄衣の王”という戦を欲するという側面をも併せ持つ。そのため”英雄の書”(物語)は物語の循環の源泉である”無名の地”に封印されている。

しかし、この源泉から既に派生して産まれた数々の写本ともいうべき英雄物語はこの世(”輪:サークル”)にあって、人びとをひきつけてやまず、人々に影響を与え、戦を引き起こすとともに、人びとの力を”英雄の書”本体に蓄積させてきた。

こうして英雄の力の影響下におかれる人びとを””といい、”英雄”本体の封印を破るほどに力を蓄積させる最後の引き金を引いた者を”最後の器”、”召喚者”といった。

今回、大樹は”英雄”の器として、クラスメート二人を手にかけることによって、”最後の器”、”召喚者”となってしまったのだ。

友理子大樹を助けるべく、”賢者”の導きの下、その額に魔方陣の印を受け、アジュとともに”無名の地”に向かった。

無名の地。そこでは”無名僧”と呼ばれる数多くの僧形の者たちによって、「咎の大輪」と呼ばれる巨大な一対の車輪が回され、物語の始まりと終焉を循環させていた。

”印を戴く者(オルキャスト)”と呼ばれる友理子の使命は、最後の器英雄の呪縛から解き放ち、再度”英雄”を”英雄の書”に封印すること。

無名僧を代表する大僧正友理子に”英雄の書”の抜け殻である”虚ろの書”を見せようとするが、それを櫃から取り出して驚愕の声を上げる。友理子には何でもない素振りを見せるが、その様子は徒事ではなかった。

それと同時に、その会見の様子を盗み見する無名僧を見つけ出すと、友理子に従者として連れて行くよう懇願するのだった。

オルキャストとして「ユーリ」を名乗る友理子はその無名僧に「ソラ」と名づけ、元いた世界(輪:サークル)に戻るが、”賢者”はそれが気に入らなかった。

ソラ」は無名僧としてあるまじき思いを抱き、「穢れた者」として実は”無名の地”から放逐された存在だった。誰もがないがしろに扱うソラのことを逆にユーリは人間らしい存在として評価するのだった。

学校の図書室で自殺しようとしている少女乾みちるを救ったユーリみちるから、事件の背景を知らされる。中一の頃、みちるをいじめから救った大樹は学校教師幡多には生意気な生徒として評価され、中二になって大樹の担任となった幡多はクラスの生徒に大樹をいじめるよう仕向けたのだ。

みちるを勇気付けるユーリを突然、”英雄”の使者が襲う。防戦一方のユーリを救ったのは灰色の長い髪を持った男。”英雄”を追うという”狼”の一人だった。

ユーリに「アッシュ」と名付けられた”狼”(本名:ディミトリ)は大樹が使用した”英雄”の写本『エルムの書』を追ってやってきたのだ。アッシュは『エルムの書』が紡がれた世界(領域:リージョン)の住人。

ユーリは”英雄”の手掛かりを求め、アッシュとともにアッシュの領域へ旅立った。

アッシュの領域とは『ヘイトランド年代記』という物語世界。

ヘイトランドは北の果ての国。500年ほど前、ヘイトランドが隣国から侵略を受けたときの王を”戦勝王オルタイオス”といったが、人口の少ないヘイトランドで侵略を防ぐにあたって、オルタイオス王は禁忌の法を行ったのである。王宮付きの軍事魔道官エルム(♀)をして、死者の蘇りを行わせ、不死の軍隊を作り上げたのだ。

これにより独立を守ったヘイトランドだったが、平和になってしまえば不死の軍隊は無用の長物。逆に、不死の者らによってヘイトランドは強盗、人殺しの横行する国となってしまう。

不死者を排除するためオルタイオス王はエルムを処刑し、同時に『エルムの書』も焼き捨てたはずだったが、57年前『エルムの書』が再び世に現れたのだ。

内乱の続くヘイトランドで王位を要求した貧乏貴族キリクが『エルムの書』を見つけ出し、不死の軍隊により王位を簒奪したのである。過去から学び、心を備えない不死者を作り出したキリクだったが、誤算があった。虚ろな不死の器には魔が入り込み、怪物と化した不死者の討滅に追われたキリクは討伐の最中に死んでしまう。

こうして再び王都エルミグアルドに封印されたはずの『エルムの書』だったが、これを水内一郎が入手する。そして自身の領域に持ち込み、それを読んだ大樹が”英雄”を召喚してしまったのだ。

アッシュユーリとともに手掛かりのある場所、カタルハル僧院跡に向かった。その地下深くでユーリの見たものは、変わり果てた水内一郎の姿だった。水内は、”英雄”が8つに裂かれたキリクの肉体を探すだろうと告げた。

王都エルミグアルドを”英雄”が襲った。王宮は地下へと陥没し、大迷宮と化してしまう。

ユーリアッシュらとともに王都へ向かったが、そこで出会った大男の”狼”モーガンソラを見て怪訝な顔をするとともに、悲しそうにソラが大迷宮に同行するのを制止する。

しかし、記憶が戻りかけているソラは恐怖を感じながらも、最後の答えを求めてユーリらとともに大迷宮に向かうのだった。

大迷宮の奥、キリクの目を取り戻した”英雄”には、対峙するユーリアッシュの言葉は届かない。目を取り戻した”英雄”に見つめられ、立ちすくむユーリらの中にあって、”英雄”のオーラに包まれたソラは本来の姿を取り戻していた。

森崎大樹の姿に戻ったソラ友理子に「ごめん」の一言を残すと”英雄”に突っ込み、蒸発するように消えた。そして”英雄”も飛び去って消えた。

無名の地に戻ったユーリは大僧正、アッシュから初めて真相を告げられる。

無名僧とは最後の器だった者の罪の姿だった。無名僧は器としての人の姿を失った後も罪を背負って(咎人として)、咎の大輪を回すべくうまれるが、稀に心の欠片を残した<なり損ないの無名僧>がうまれる。このなり損ないの無名僧は”英雄”と繋がったままという危険な存在。その存在は浄められねばならず、それが出来るのはオルキャストだけだ。実はユーリの使命は”英雄の書”を封印することではなく、<なり損ないの無名僧>ソラを浄めることだったのだ。

使命を果たした友理子の額の紋章は消え、オルキャストではなくなった。大樹を失い、”英雄”の封印もできていない状況に、煩悶する友理子だったが、友理子にはもはや何も打つ手は残されていなかった。

現実の世界(輪)に還った友理子の周りで時間は少しずつ過ぎて行く。大樹の失踪は解決するはずもなかったが、友理子は両親を勇気付けながら少しずつ平穏な生活がかえってくる。

そんな友理子を訪ねる者があった。アタリと名乗る外国人はディミトリアッシュ)をよく知る”狼”だった。高齢のアタリは”狼”を引退するに当たり、友理子を後継者に指名するため現れたのだった。

 

どうもストーリーも盛り上がりどころが少なく、殆ど序章だけの作品のような印象を受けます。上巻はほとんど設定の説明だけといってもいいほど、平板な(「説明っぽいなぁ」という印象を受ける)ストーリー展開で、下巻で漸く話が動き始めるわけですが、どうもイベントが小粒。

英雄”との対決も「対決」といってしまうと嘘になってしまうような内容で、結局何だったんでしょう。

一応、形の上では友理子の冒険譚ということなんでしょうが、別に友理子って何もしていないんですよね。人に引っ付いていって、流れに流されていったら、使命を果たし終えていましたというような展開で、遊園地の観覧型のアトラクションに乗っているような印象の、ちょっとアトラクティブさの足りない内容に終わっています。

最後に”狼”の後継指名を受けているので、今後”狼”ユーリの物語が始まるのかもしれませんが・・・・。そうとでも考えないと、この中身の薄い作品はちょっと説明しにくいかもしれません。

たとえ、この続刊があったとしても、こんなノリでは読みたいと思うかは、ちょっと疑問ですが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ねたあとに』 長嶋有

Netaatoni 2009年、37冊目。長嶋有『ねたあとに』

何もないダラダラした山荘の日々(三年間というよりも、三回の夏)を綴った話なんですが、何となく楽しい話です。主人公コモローの友人久呂子を語り部として、コモローの山荘で夜な夜な行われる、怪しげな(魅力的な)オリジナルゲームの紹介が行われます。

主な登場人物は作者と思しき作家コモロー。語られる事跡等は長嶋有を踏まえて書かれますし、父親八郎ヤツオ)も古道具屋を営んでいるなど長嶋有の父長嶋康郎を思わせます。その他の登場人物もおそらくモデルがあるんでしょう。

 

その一 ケイバ

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)]

<<ケイバ>>

麻雀牌を取り出し、裏向きに15×9に並べる。(1余る)

各列に出走馬の名をつけてスタート。余った1枚を捲り、出た数の列の最後尾に、その1枚を挿入する。すると上部に1枚飛び出すので、これを捲って、また出た数の列の最後尾に挿入し・・・。字牌は同じ列に挿入する。

最後まで捲られた列の馬の勝ち。

 

その二 顔

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山四郎ヨツオ)]

<<顔>>

サイコロを二つ用意する。このサイコロで出た目に設定された答えに応じて名前等を設定していく遊び。

(例)岩崎敦子・心の恋人

 藤原大五郎(92歳⇒28歳)

 福島県出身のハーフ

 祖先:農民

 職業:駄菓子屋

 住居:団地

 性格:几帳面だが、努力家で、陰険

 趣味:王冠コレクター

 

その三 ムシバム

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、コウさん川野丈ジョーさん)]

コモローの山荘内で発見した虫だけを登載するブログ。

 

その四 それはなんでしょう

[登場人物:久呂子、(長山コモロー、)長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

<<それはなんでしょう>>

質問を用意するが、質問の言葉は後半部だけを言って、みんながそれに答えるというゲーム。前半部を予想して答えるが、実際には前半部の意表をつかれた質問に、答えとミスマッチが生じることを楽しむゲーム。

(例)質問(後半部):なぜですか?

   答え(コモロー):なぜですか?そんなヤボなことを聞くなよ。その方がいいに決まってる!もう3年も前からだもの。僕にとっては欠かせないことといってもいいね。

   質問(前半部):人で混雑した渋谷のスクランブル交差点を、あなた一人だけ素っ裸で歩いてきたのは

  

その五 過去の遊び

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

コモローが紹介する廃れたゲームの数々。

  -『紙相撲』:ドーピング力士海の海

  -『歌詞』:顔の変型

  -『タンカ』:リレー短歌

 

その六 また顔

[登場人物:久呂子長山コモロー岩崎敦子アッコさん)、白田絵美エミロン)]

<<祝・白田絵美さんご生誕記念・顔>>

白田絵美・心の恋人

御手洗宗太郎・35歳

佐渡島出身⇒埼玉出身

家族構成:両親と姉一人

職業:画家

住まい:建売住宅

性格:陰湿で、無邪気で、愛に飢えている

趣味:王冠コレクター

癖:『でもさ』という

特技:鳥語を解する

好物:カッパえびせん

髪型:ヒトラー

鼻:禅智内供の鼻

目:パッチリした二重瞼

口:タラコくちびる

あご:二重あご

首:異様に長い

上半身:なで肩だが逆三角形

 

その七 軍人将棋

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山トモコトモちゃん)]

<<ナガヤマ家版軍人将棋>>

「軍医」(スパイに「負け」、他の全てと「引き分ける」)を新設し、終盤まで相手の駒を読めなくすることで醍醐味を増す

 

その八 ダジャレしりとり

[登場人物:久呂子長山コモロー長山八郎ヤツオ)、長山トモコトモちゃん)、長山四郎ヨツオ)、相田カズトC

シリトリの末尾2字をダジャレ(?)でつなぐ遊び。

作品中は最早ダジャレではなく、眠気等で朦朧とした人びとの勢い・ノリだけの遊びと化す。

 

紹介されるゲームは確かに面白そうですね。

でも、「顔」なんかは”巻物”がない以上、準備にすごく時間がかかるでしょうし、作った人はつまらなそうだ。

「ケイバ」も作品中にもあったとおり、実況がうまく入らないと単調になってしまうかもしれませんね。でも、中途で”落馬”とか、仕組み上デッドヒートになるなど、最後の最後まで楽しめる仕組みは誰が考えたのか知りませんが非常に感心しました。

「それはなんでしょう」は、多分、質問する人のセンスや、答える人の思い切りの良さが問われるゲームですね。これは時間はかからない分、逆にやる人を選ぶゲームでしょう。

単に、こういったゲームの紹介だけでなく、ハサミムシやネズミが徘徊し、ウスバカゲロウや蛾が飛び交う山荘でのまったりとした時間の経過が何とはなく心地良い。

薄暗く、ジットリとしたような山荘。小道具屋で売れ残った商品の数々。通常想像する、すっきりした「山荘での避暑」とはまた違った様相が目に浮かぶようです。お誘いを受けても、ちょっと躊躇してしまうような山荘ですが、それでいて魅力的に映ります。

登場する面々もそれぞれ惚けたキャラクターを醸しだしていて、非常に面白い。類は友を呼ぶといいますが、そんな感じですね。

別に、大きなストーリーがあるわけでなし、心を打つものも一つもないのですが、独特な雰囲気を楽しむことができ、(時間に追われているときには、イライラしそうですが)これはこれで十分楽しめる作品だったような気がします。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『リアル鬼ごっこ』 山田悠介

Realoni 2009年、36冊目。山田悠介『リアル鬼ごっこ』

山田悠介のデビュー作。

某王国の国王が命じた「佐藤」姓根絶のためのゲームが、「リアル鬼ごっこ」だ。そもそも殺伐としていて救いがないストーリーに加え、かなりアラが多く、物語としてはちょっと厳しい。

多くの登場人物が出てくるのだが、主人公以外はどうも薄く、キャラクターでも読める作品ではない。必ずしも勧善懲悪なストーリーではなく、残酷ながらも現実的ではあるものの、どうも中途半端な点も残り、どうも未完成な印象を受ける作品で終わっている。

 

西暦3000年、人口約1億人、医療技術や科学技術、機械技術が世界でもトップクラスである王国。人口のうち佐藤姓をもった人口は500万人を超え、国民の20人に一人が佐藤となっていた。

そんな佐藤姓の一人、佐藤翼(21)は父親輝彦と二人暮らし。

14年前、暴力を振るう輝彦に耐えられず、母益美は妹とともに家を出て行った。残されたは14年間、父の暴力に耐えながら成長してきたのだ。

中学時代に足の速さを認められたは陸上部にスカウトされ、その後の才能を伸ばした。高校最後の大会では全国優勝を遂げ、有名私立大学にも推薦で進学し、日々努力する生活を続けていた。

一方、佐藤姓が増えたことを憂慮する男があった。

国王である。

国王もまた佐藤姓であったが、同じ姓を持つものがいることが不快だったのだ。

この際、佐藤という名(苗)字を全て抹殺しよう

国王は「リアル鬼ごっこ」と名づけられたゲームを通じて、佐藤姓を抹殺することを企画し、実施するよう命じたのだ。馬鹿げた指示ではあったが、誰もそれに逆らうことはできなかった。

「リアル鬼ごっこ」のルールは簡単。

王国内の佐藤は全て追ってくる鬼から逃げる。鬼に捕まったが最後、その佐藤は宮殿内にある極秘収容所へ連れて行かれ、殺される。

期間は12月18日から24日の7日間、23時から0時までの1時間。

7日間逃げ切った佐藤には褒美が出される。

鬼は全国で百万人。それぞれが佐藤姓が近くにいると反応する「佐藤探知機ゴーグル」をかけるのだ。

 

初日、は鬼に出くわすこともなく、家に帰る。輝彦もまた何事もなかったかのように帰ってきた。

2日目。は初めて鬼と遭遇するが、その俊足で振り切った。しかし、家に帰ったは自宅前に輝彦が倒れているのを発見する。鬼に追われた挙句、心臓麻痺で倒れたのだ。

輝彦は死ぬ間際、に母と妹の消息を告げる。

益美は家を出た直後、交通事故で亡くなっていた。そして妹輝彦の弟夫婦の養女となっていた。鈴木姓から佐藤姓にまたは戻っていたのだ。

輝彦のことを託すと事切れた。

3日目。が住むという大阪市淀川区新北野へ向かった。

十三駅で電車を降りた直後、「リアル鬼ごっこ」は始まった。見知らぬ町を追われ続けた先で、は意外な人物と再会する。中学時代の悪友、佐藤洋である。

との偶然の再会も束の間、警報が鳴り響く。二人で逃げ延びると、のアパートへ転がり込んだ。

4日目。は二人で、新北野に50軒あるという佐藤家を訪ね歩くが、はなかなか見つからないまま、またゲームの時間がやってきた。

の指示に従い、路地を抜け、快調に鬼を振り切ってきた二人だったが、時間の経過とともに疲労は蓄積していった。限界に達したに先に行かせると、鬼に向かっていった。鬼は拳銃を取り出し・・・。

こうしてを助けるために自分を犠牲にして死んでいった。

5日目。自暴自棄に陥りかけただったが、何とか気を取り直し、再度、を捜しはじめる。リスト残り3軒というところでに再会した。

旧交を温める間もなく始まった鬼ごっこの最中、は熱を発し、鬼たちに追い詰められるが、何とか逃げ切ることに成功した。

6日目。佐藤姓の残り人数が公表される。残りは5万人。

は体調が戻ったが、始まった鬼ごっこでは圧倒的な数の鬼にひたすら追われ続ける。も恐怖心に襲われ、息の続く限り走っていたが、が必死に逃げている最中、を見失ってしまう。を捜すだったが、既には捕まってしまっていた。

7日目。放心状態のまま地元に戻ったは最後の鬼ごっこに臨んだ。を亡くし、虚脱状態のだったが、鬼に見つかるや恐怖心は弥増し、半狂乱のまま逃げるのだった。

”死への恐怖”の中走るの前に次々と鬼が立ちふさがる。

残り4分。が逃げ込んだ路地は行き止まりだった。

9人の鬼はゆっくりとの目の前に歩いてくる。しかし、鬼たちはを取り囲むようにして、を見据えると、ゴーグルを外した。

そして、鬼ごっこは終了した。

全日程の結果、生き残りは一人だけ。

閉会式で王はに何でも約束事を叶えると言うが・・・。

 

ちょっと設定もキツイですね。

そもそも「姓が同じだからイヤ」というものに対する答えは、別に鬼ごっこでなくても、強制的に改姓することでもいいんじゃないでしょうか。

国王の能力評価と危機管理の観点からは、答えないという解よりも、もうちょっと柔軟な対応する家臣がいないというのが、どうもお粗末。また、佐藤姓が20人に一人なら家臣、警察機構、軍の中にもそれだけ含まれるということで、語らずとも5%の支持率が得られる状況にあればクーデターを誘発する可能性は極めて高いものと考えられます。

また、鬼の方も1日に一人以上捕まえる必要があるのであれば、佐藤姓が減るにつれてどんどんリタイヤする鬼も出てくるはずで、そうそう鬼対佐藤の比率は上がらないはずなんですけどね。そうすると、王国すべての地域で鬼ごっこが実施されるのであれば、自ずと場所を選べる佐藤姓の方が優位に立てるんじゃないかと思いますが、気のせいでしょうか。

しかし、また人がたくさん死ぬ話です。救いも何もない。

重要(そう)なキャラクターがあっさり死んでしまうし、どうも脇役を捨て駒扱いしているようで、どうも釈然としません。

と母・妹の別れを重要そうなシーンとして演出し、父輝彦にも何度も消息を尋ねさせ、輝彦もそれを隠すという展開は、何か隠された理由・背景があるんじゃないかと思わせますが、どうもこのあたりが薄っぺらいんですよね。

母は交通事故で死んだだけ。父はそれを隠すため黙っていたって、何だか説得力に乏しい。輝彦の暴力にしても、何だかよくわからないし、会社の同僚森田もよくわからない存在。自身のことで手一杯であろうに、のことで発破をかけるなんて、どんな無責任な奴か。

それで漸く見つけたとはあっさり1日あまりでサヨウナラって、何で?

同様に、思わせぶりで出てきた中学時代の悪友も再会後1日で死んでしまうって、あまりにも軽すぎるんじゃないか。一人では話が持たないので、各章にゲストキャラクターを配したかっただけ、という印象ですね。そのために人を殺すというのは軽々しすぎるような気がしてなりません。

全編通して、どうも安直、殺伐といったイメージを消せない作品でした。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『桃色トワイライト』 三浦しをん

Momoiro 2009年、35冊目。三浦しをん『桃色トワイライト』

三浦しをんのエッセイ集です。

ちょっと昔(2004年頃)のエッセイで、話題は「新撰組!」「オダギリジョー」「仮面ライダークウガ」など。

 

主要登場人物:

しをん(ブタさん)、弟、漫画愛好仲間Uさん、友人K、友人ぜんちゃん、友人S、Sの娘とうふちゃん、友人H、Hの夫えなりさん、友人Tちゃん、あんちゃん、Nさん、腹ちゃん、友人ジャイ子、死国のYちゃん、「ヴィゴ愛友だち」Yさん、友人Yくん、広告代理店勤務A

 

小説からは想像できない自堕落な腐女子ぶり。

自分の近くにいたらどうか、と思うものの、他人事として話を読むには非常に面白い毎日。勿論、人としてどうなの?というつっこみどころは満載だが。

弟からは「ブタさん」と呼ばれる三浦しをんの近影を見てみたくもあり、見てみたくもなし・・・。

引き続き、読みたいと思わせるエッセイだが、虚脱感が漂い、あまり読みすぎると、人間としてダメになってしまうんじゃないかという気さえする。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『ガン病棟のピーターラビット』 中島梓

Ganbyoutou 2009年、34冊目。中島梓(栗本薫)『ガン病棟のピーターラビット』

ガン闘病記&エッセイといった内容の作品です。

2007年10月からの病状と入院、手術。そして退院後の2月まで、25篇のエッセイ集です。

 

なるほど苦しそうというような、かなり詳細に描かれた経過報告ではあるものの、一方で若干達観してしまったような淡い作品です。

勿論、よく批判を浴びる毒舌というか、独特の個人的見解(随筆なんだから仕方がないんですが)も随所にみられ、好き好きの分かれる作品でしょう。

結局のところ、エッセイっていうのは人を楽しませるために書かれたものでなければ、”随筆”の名のとおり、趣味嗜好に合わなくても仕方がないんでしょう。

このエッセイにもある通り、合わなければ読まなければいいだけで・・・。

そして結論。

もう二度と中島梓のエッセイは読まなくてもいいですね。

小説をよろしくお願いしたい。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『パパママムスメの10日間』 五十嵐貴久

Papamamamusume 2009年、33冊目。五十嵐貴久『パパママムスメの10日間』

『パパとムスメの7日間』の続編です。

前回は父親と娘の人格の入れ替わりだけだったのが、今回は母親も混じった3人の間での入れ替わりが生じるという話。

基本的には前作と同様のドタバタ劇で、結論としてもお互いのことをよく理解できるようになりましたということでしかないんですが、やっぱりそれでも単純に楽しめる作品になっています。

 

小梅は表参道にある錦城大学に合格した。

入学式のあった夜のこと。突風交じりの土砂降りで傘を飛ばされた恭一郎は公園のトイレで雨宿りする。妻理恵子に傘を持ってきてくれるよう電話した直後、同じく傘を壊された小梅もトイレに飛び込んできた。

2本の傘で3人で帰りかけた直後、雷が公園のブランコを直撃し、3人は薙ぎ倒され意識を失った。

目覚めた3人の意識は2年前のときと同じように入れ替わっていた。恭一郎の身体に小梅の意識が、理恵子の身体に恭一郎の意識が、小梅の身体には理恵子の意識がおさまったのだ。

恭一郎小梅は戸惑いながらも、前回の経験から動転することはなかったが、理恵子は半狂乱に陥る。なんとか落ち着かせた理恵子も含めて3人の入れ替え生活が始まった。

 

恭一郎は新商品企画開発部の部長となっていた。しかし、新商品企画開発部とは名ばかり、レインボー・ドリームの立役者である恭一郎を形式的に処遇するために作られた窓際部署だったのだ。レインボー・ドリームの成果を自身だけのものとしたい桜木役員により、かつてのレインボー・ドリームのプロジェクト・メンバーは新商品企画開発部への異動となっていた。

現在、光聖堂を挙げての新プロジェクト”スイッチ”でも新商品企画開発部の出る幕はなかったが、形ばかり”スイッチ”プロジェクトのメンバーに名を連ねることとなった恭一郎(小梅)は商品研究所の同期室田俊秋の言葉などから、”スイッチ”の原料に毒菜が使用されている可能性があることに気づく。

小梅に命じて、調査を進める恭一郎だったが、桜木役員のガードは固く、なかなか真相に迫れないどころか、逆に桜木役員にばれてしまう。

社長を交えた会議が迫る中、恭一郎理恵子の姿のまま、室田のもとへ向かった。

 

恭一郎理恵子(主婦)生活は早々に行き詰った。簡単そうに思えた家事だったが、恭一郎の学生時代とは異なる家電製品らに戸惑いの連続。

買い物もうまくできず、初日から理恵子の叱責を浴びるのだった。

 

理恵子も20年ぶりの大学生活に戸惑いの連続だ。

また、同時に二つのことができない理恵子はバイト先でも固まってしまう。

高尾の鷹梨大学に進学したケンタ先輩の応援にいったり、友人律子に連れられてテニスサークルの新歓コンパに参加したり、と大忙しだった。

 

入れ替わりの原因が、理恵子の実家の桃にあるのではないかと睨んだ恭一郎は3人で実家の裏山に登るのだった。

 

前作は人格が代わったあと、なるべく身体に合せた振る舞いをしながらも、少しずつ”地”が出てくることが好結果を生み出して、物事を進めていくという話でしたが、どうも今回は違う。

会社の話であれば、今回は小梅恭一郎の指示を受けてロボットのように動いただけで、小梅らしさはどこにもありません。結局のところ、最後の一押しも恭一郎理恵子の姿のままやってしまうわけですから。

主婦という立場についても、大変さを恭一郎が思い知ったというだけで終わりで、何らかの進捗が見られるわけではありません。

小梅の立場もそうで、理恵子理恵子らしさを前面に出したわけですが、それで小梅自身の何かが大きく変わったようでもない。むしろ、小梅自身が恭一郎の姿でケンタに会いに行くことで父親公認の形を自身で作り上げるなど、姿は変われど自力で物事を動かしています。

その意味では、前作に比べると面白さは半減かもしれません。

また、こういった諸々の事件でとっちらかってしまった現状とどのようにつきあっていくのか、どのようになったのかといったところが、わからないままだったのが残念。

特に、結果的には桜木役員を告発するようになってしまった恭一郎の運命や如何に、というところですね。結局桜木役員はお咎めなしにはなったものの、部下に裏切られたわけですから、その報復は恐ろしいのではないでしょうか。

おそらく、もう続編はないでしょうから、ちょっと落ち着きの悪い終わり方だったといえるのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『仲達』 塚本青史

Chutatsu 2009年、32冊目。塚本青史『仲達』

魏の司馬懿仲達)の話。220年、曹操の死から、251年司馬懿の死までの話となります。所謂、魏・呉・蜀三国鼎立から、魏の屋台骨が揺らぎ、司馬氏が実権を握るところまでで、蜀が滅ぼされることもなく、晋の成立までも到りません。

主人公が仲達ということもあって、かなり大人物に描かれ、諸葛亮孔明)も格下の扱いです。

「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」についても、仲達はわかっていてやったこと、という整理になっており、孔明を絶対視する三国志演義(の影響を受けた日本での感覚)からは大きく外れた解釈で、興味深い話になっています。

一方で、物語・歴史を動かす戦術の一つとして、医薬・麻薬を材料にしており、張繍に殺されたはずの張済の妻鄒娜とその娘張姱が生きていて華佗の弟子となり、暗躍するという設定です。

特に、鄒娜は後年夫となった徐庶とともに蜀で孔明の手伝いを行い、娘張姱もまた仲達の妾として魏に入り込んで内部から魏を蝕む計画を練ります。

孔明の南蛮行もまた麻薬(阿片?)を手に入れるためだったとの解釈がなされ、その麻薬を使った戦略が練られたとされます。

即ち、人口の少ない蜀で北伐が連年続けられたのは怪我人の回復が早かったからだとし、その回復(?)には麻薬が一役かったのだというのである。

また、孔明は同盟国である呉の孫権にも麻薬を送りつけて錯乱に追い込んだのだとしています。

 

史実とはかなり異なる創作の部分が非常に大きい話ではありますが、なかなか面白い作品ではありました。

仲達というキャラクター自身は非常に尊大で、どうも気に入らないキャラクターではありますが、ストーリーで十分読める作品となっています。

ただ、三国志の血湧き肉躍るといったダイナミックさからは遠く、そういった時代の武将が次々と物故者に名を連ねていき、奸臣が暗躍するという湿度の高いストーリーは「三国志演義」と比較すると少し寒々しい印象はぬぐえませんが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『WE LOVE ジジイ』 桂望実

Welove 2009年、31冊目。桂望実『WE LOVE ジジイ』

なんとなく「桂望実」らしい、みんな真面目なんだけれど、滑稽で、それでいて心温まるような作品。

 

売れっ子のコピーライター岸川信行は、突然仕事を引退すると、都会から離れた辺鄙な内宝町(旧川西村)に転居する。

広告代理店に勤める後輩玉井を裏切り、自殺に追い込んだことがきっかけだ。

岸川は川西村で何をするでもなく、趣味のラジコンヘリを飛ばすだけの毎日を送っていたが、そんな岸川に期待していたのが町の地域活性化職員池田雅之である。

年寄りばかりで特に目立った産業のない川西村は3年前に隣接する内宝町に吸収合併されたが、そこに到る過程でも内宝町から差別されてきており、未だに自分たちの土地を内宝町とは呼ばず、川西と称し、本家の内宝町とは仲が悪いのだった。

池田は川西に住み、なんとか川西の振興策を企画しようとするが失敗続き。そこで都会の第一線でコピーライターとして活躍していた岸川に助力を願ったのだ。

畑違いの依頼に戸惑う岸川は依頼を固辞するが、聞いてみると、このあたりはいいかげんなことばかりだという。桜もないのに桜川だったり、天狗の伝承もないのに駅前には巨大な天狗の面があったり・・・。

あまりのいいかげんさに笑いのこみあげた岸川は思いつきの一つに「輪投げ」を挙げるのだった。

そんな思いつきだったが、着々と「ゲーム輪投げ」大会に向けて、ことは動き始めた。

思わぬ展開に戸惑う岸川のもとを訪れたのは川西の重鎮しげジイだ。

あんた、輪投げで町おこしすると言ったらしいなぁ

何も語らないしげジイに、岸川しげジイが立腹していると感じて池田を恨むが、しげジイの心はそんなところにはなかった。親友の亀ジイが本番で緊張のあまり失敗して落ち込んでしまうことを心配していたのだ。

誰もが輪投げで町おこしができるとは考えてはいなかったが、「マー坊」と呼んで慕う池田のやることと、温かい目で見守っていた。

そして第一回全日本ゲーム輪投げ決勝大会。

ガラスの心臓の亀ジイはやはり結果を残すことができず、優勝も四国からやってきた「南都町チーム」に浚われる。また、大会自体も大失敗に終わった。

興奮した工場の外国人チームらによる乱闘騒ぎで怪我人が出たほか、審判に対してもクレームが相当数、町役場に持ち込まれたのだ。

落ち込む池田亀ジイ

池田に亡くした玉井の姿を重ねた岸川池田を励ます。こうして、池田、そして工場の新山佑季と少しずつ親しくなっていった岸川は川西のこと、新山の働くバネ工場の実状を知るようになった。

そんな中、しげジイ岸川を訪ねてくる。

輪投げだ」「もう一度、輪投げの試合を、亀ちゃんにやらせたいんよ

傷心の亀ジイを救うため再度の輪投げ大会を願うしげジイの言葉に促され、再度輪投げ大会を岸川は企画する。

しかし、今回は町役場の後援はない未公認の大会だ。

岸川は前回の失敗を踏まえ、審判の充実をはかる。参加者を呼び込むホームページ作りは池田の息子祐雅が担当して、着々と大会の準備は進むのだったが、バネ工場では軍隊式に従業員を取り締まる工場長浜崎登が参加を認めていなかった。

 

ストーリー自体は(大会の場面を含めても)それほど大きな盛り上がりを見せることもなく、比較的淡々と進んでいきますが、登場するキャラクターがそれぞれそこはかとなく面白い。

特にきよバアと、信バアでしょうか。登場の多いきよバアはその独特の勢いで場を動かしますし、たった2回だけの登場の信バアはそれだけで怪しげな雰囲気を醸しだします。

岸川池田新山の三人組もなかなかいいですね。最初は単にすかしているだけだった岸川が少しずつ変わっていく様子も良いです。

勿論、ストーリーに盛り上がりがないといっても、大会では試合の流れを追いますし、第二回大会では白熱する試合の経過を描写しますので、その部分は盛り上がるのかもしれません。

が、やっぱり予定調和的で、物語に大きな振幅をあたえるわけではありません。まぁ、それを安心感・安定感と言い換えれば、それはそれでありでしょう。

重い足枷を持った岸川が川西での経験を経て、最後に玉井の妻真奈美に告白にいくわけですが、玉井の自殺の真相をあのように曖昧にしたことはどうなんでしょう。具体的にそんな描写はありませんが、結局のところ半分荷を下ろすような内容で、若干釈然としませんでした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『煙霞』 黒川博行

Enka 2009年、30冊目。黒川博行『煙霞』

面白い。

大阪のノリとスピード感で進む、誘拐から始まる金塊強奪劇は二転三転し、誰が黒幕かわからないままに、最後まで引っ張られます。

ラストの選択はちょっと呆気ないような気もしないではないですが、それでも十分楽しめる作品です。

 

学校法人晴峰学園では理事長酒井祐造が大阪府からの収益助成金を不正に騙し取り、私服を肥やしていた。

これに憤った教職員の中からはこれを糾弾する声が高まりつつあった。

そんな中、晴峰女子高校の講師間の連絡等を務める「講師部会長」に就いていた美術科常勤講師熊谷は、同じく体育科の常勤講師小山田”通称:タタミ”から仲間になるよう誘われていた。

熊谷にそんな気はなかったが、小山田熊谷に大阪府教育委員会から原田という美術主事が来年晴峰にやってくることを告げ、勤務条件劣悪な通信制湊町高校への熊谷の転勤を仄めかす。

同様に、小山田から脅されていたのは音楽科教師正木菜穂子。校外でパンクバンドのキーボードを務める菜穂子は学校から睨まれ、理事会で決議された音楽教師の湊町高校への転出候補者に挙がっていたのだ。

小山田は、熊谷に誓約書を書かせると、初めて計画を明かした。

理事長酒井祐造をヨーロッパ視察旅行の途上に立ち寄る愛人宅で捕らえ、不正の証拠を示して、熊谷小山田を正教員にし、菜穂子ではないもうひとりの音楽教師渡辺を湊町高校へ転出するという誓約書をとるのだ。

菜穂子の運転するエクスプローラーに乗った熊谷小山田は学校から酒井の運転するレクサスを追う。

自宅からベンツで愛人宅に向かった酒井を追った熊谷たちは、駐車場で酒井をつかまえ、談判に及ぶが酒井は講師風情など相手にしない。しかし、熊谷も知らされていない不正の数々を小山田が暴露するにつれ、酒井の態度も徐々に変わっていった。

熊谷らは酒井に要求を飲ませるべく、酒井と愛人守野朱美小山田の用意しておいた倉庫へ案内する。

なかば誘拐ともとれる行動に恐れを感じ始めた熊谷菜穂子だったが、小山田はまず熊谷の正教員昇格と、了解なしに異動させないという菜穂子への一筆を酒井から取り付けると、熊谷菜穂子を先に返すのだった。

しかし、逆にこの小山田の行動に不審さを感じた熊谷菜穂子が暫くして倉庫に戻ると、酒井の乗ってきたベンツを残し、誰の姿もなかった。

その頃、酒井朱美は、小山田に指示を出してきた黒幕箕輪克久中尾秀一によって、酒井の自宅に連れ戻されていた。

箕輪はかつて晴峰学園の用地売買に絡んで酒井とも接触したことのある”学校経営コンサルタント”。かつての酒井とのビジネスで煮え湯を飲まされた箕輪酒井の背任横領の証拠をつかみ、酒井を脅迫するのだった。

最初はシラを切る酒井だったが、箕輪の並べる事実の数々に、要求を呑まざるを得なくなっていく。箕輪が要求したのは、酒井が背任横領の中で得たマンションの2室分相当の「1億5千万円」だった。しかし、強かな酒井は融通できる資金の限度を示し、最終的に箕輪は晴峰湊町高校に蓄財されている3700万円で手を打つことになる。

一方、熊谷菜穂子は攫われた酒井たちの後を追っていた。

ベンツのサイドウィンドーが破られたことを知った箕輪中尾に命じ、熊谷菜穂子も拉致して、酒井の自宅に連れてこさせるのだった。

酒井菜穂子を人質にとられ、熊谷朱美中尾に従い、酒井に金庫から取り出させた通帳をもって銀行に向かった。中尾熊谷に指示したのは、通帳の残額(3796万円)を”株式会社APT”へ振り込ませることだった。

”APT”とは”ANTWERP PRECIOUS METALS TRADER”の略。貴金属商会だ。

ここには酒井が横領で得た不正な資金が金塊の形で隠匿されていた。

中尾は銀行からの帰り、”APT”に立ち寄ると、振り込んだ3796万円分は勿論、隠匿されていた資金も含めて全額を現物(延べ板)にして、持ち帰ると告げたのだ。

金地金は換算すると2億3481万4千円になるという。実は箕輪の狙いは、この金地金にあったのだ。

しかし、金を車に乗せかえる作業を終えたところで、車”セビル”を奪った朱美中尾熊谷を置き去りにして逃げた。

後を追った中尾熊谷朱美のマンションに向かったが部屋には戻っていない。その後、駐車場で朱美が自身の車”アルファロメオ”に乗り換え、”セビル”が乗り捨てられているのを発見された。箕輪中尾を叱責し、朱美を捜すように命じる。

熊谷はこれでお役御免だった。迎えにやってきた菜穂子とともに立ち去る。

しかし、これでは腹の虫のおさまらない菜穂子熊谷は”鈴木”、”佐藤”という偽名を名乗っていた二人(箕輪中尾)の正体を探るべく、こっそりと駐車場に戻ると”セビル”を盗み出すのだった。

中尾朱美捜しを命じながら、箕輪はこっそりと朱美と連絡を取っていた。実は箕輪朱美は通じており、今回の持ち逃げも作戦の一つだったのだ。朱美は金塊を”アルファロメオ”に載せ換えることなく、”セビル”のスペアタイヤのあった場所に隠していた。これを箕輪が回収して、作戦終了となるはずだったのだが・・・。

熊谷らが”セビル”を盗んだのは箕輪の誤算。箕輪中尾小山田に命じて、(建前として)朱美と(本音で)”セビル”を探させる。加えて、箕輪は組織の準構成員である井沢にも熊谷らの行方を捜すよう依頼するのだった。

熊谷は顧問をする美術部の部員伊東香澄やOG高沢知美の情報網を使い、”鈴木””佐藤”の正体を掴むと、箕輪の借りている事務所「みのわ商会」へ潜り込んだ。

事務所のパソコンのメール受信記録から、彼らは朱美箕輪が通じていることを確認するとともに、朱美が賢島のホテルに潜伏していることを突き止めた。

熊谷らはもはや邪魔となった”セビル”を放棄し、菜穂子の”エクスプローラー”で賢島へ向かった。

事務所が荒らされ、朱美の居場所が突き止められたことを知った箕輪は、熊谷らが賢島に向かったことを井沢に告げ、井沢らとともに、熊谷らを追うのだった。

”セビル”に金塊は残っていなかった。箕輪熊谷らが盗んだものと考えていたが・・・。

 

事件が二転三転する、この展開が非常に楽しい。

設定自体の縛りが緩い分だけ、いくらでもストーリー、伏線が予想できるため、次々と先読みをする中でイメージが広がります。勿論、予想が裏切られることもあれば、予想通りというところもあって、そういった先読み心を各種くすぐられる作品といえるかもしれません。

キャラクターについては、特に光るキャラクターがいるわけでなく、むしろ(設定は別にして)個性を殺したような性格付けのキャラクターが多いようです。ただし、大阪を舞台にする分、会話が大阪弁で、非常にテンポがあるのはいいですね。

腹黒い理事長酒井は、学園を牛耳る巨悪でありながら、結局のところ金塊強奪のことは最後まで知らずに、のほほんとしているというギャップがいかにも妙です。全編を通じて黒幕然としていながら、最後は締まらない箕輪。演技なんだか素なんだか、よくわからない、マヌケな中尾。小悪党にすらなりきれない小山田

どうも、この作品に出てくる悪役が尖っていない分だけ、あまり犯罪の趣きなく、緩いノリになっています。

熊谷も主人公らしくなく、ほぼ菜穂子に流されるだけですし・・・。

一方で、菜穂子は強烈な(というと言い過ぎかもしれません。というよりも、妙な過去を抱えているという設定の)キャラクターで、ストーリーの進行役というか、物事をややこしくする役をかってでています。

最後がちょっと呆気ないような気もしませんが、十分楽しめる作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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