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2009年2月

『反乱する管理職』 高杉良

Hanra 2009年、29冊目。高杉良『反乱する管理職』

破綻した千代田生命の話です。

なんだか主人公が嫌な奴です。どう読んでも、英語ができることや、ハーバードでMBAをとったことをひけらかしているとしか思えない、鼻につく嫌味な性格。

こんなのが正義漢ぶってもなぁといった感じです。

 

1983年、東都生命入社2年目の友部陽平宮坂雄造は職員の福利厚生施設である成城のグラウンドがなくなるという話を聞きつける。

断固これを阻止すべく組合執行部(委員長:高木康夫、副委員長:山際厚志、書記長:三好明)に掛け合うが、御用組合である執行部は取り合おうとしない。それどころか「聞かなかったことにする」との回答だ。

業を煮やした友部宮坂は社長安東太郎(モデル:神崎安太郎)の自宅に押しかけ、再考するよう直訴する。そんな言葉を安東が聞くはずもない。

翌日、人事部に呼び出された友部宮坂は、それぞれ松江支社と札幌支社への異動が命ぜられる。

松江支社長河上規夫のもと営業に励む友部だったが、この営業の過程で、東都生命の弱点でもある政治力のなさを解決する大物政治家とのツテを得ることになる。

営業活動の途中、パチプロに絡まれている青年島田光男を救ったことが縁で、島田の実家である玉造温泉でも一、二を争う老舗旅館陽光園に入り込むのだった。

友部は島根県会議員の青野乾治を介して、社長安東太郎を現職の大蔵大臣竹山正登(モデル:竹下登)に結びつけたのだ。

1986年4月、友部は東京本社の法人営業部に転勤になると、2年後の88年9月にはハーバード大学に社費留学する。90年8月に、MBAを取得して帰国すると、関連事業部に課長代理で配属された。

ここで成城のグラウンドが売却された先、株式会社ミヤコスポーツセンターが無事開業し、高収益を維持していることを知り、友部はホッとする。

96年7月、安東太郎は社長を松永亨(モデル:米山令士)に譲り、代表権を持った会長に就任したが、人事権者は安東で、東都生命の権力構造に変化はなかった。

友部は人事課長を経て99年7月に企画部副参事となっていた。

安東太郎は社長就任直後こそトップセールスに励むなど率先垂範の姿勢で職員を鼓舞し、東都生命を引っ張ったが、その後は超ワンマンになり、乱脈融資等を繰り返すバブル派の部下で周りを固めていった。その結果として、バブルの崩壊によって大きな痛手を蒙った東都生命は経営の危機に瀕していた。

この東都生命の経営危機に乗じて風評営業を繰り返す大日生命(モデル:日本生命)の社長鈴木(モデル:宇野郁夫)に抗議する安東だったが、鈴木は聞く耳を持たない。

友部は、安東の引責辞任と引き替えに、東都生命と親密な東亜銀行(モデル:東海銀行)に支援を求めるべきだと進言するが、安東は激怒する。安東は東亜銀行の北田頭取(モデル:小笠原日出男)に直接支援を依頼するが、経営危機の元凶である安東が依頼したところで逆効果だ。

同時に、東都生命は外資との提携も進めていた。アドバイザーとなったDB(ダイヤモンド・ブラザーズ)ジャパンはAIC(モデル:AIG)とプレジデンシャル(モデル:プルデンシャル)のうち、なぜかAICを推す。

友部がDBジャパンの内部の知人に確認すると、担当のパートナージェローム・P・ケニーはAICに近く、AICの代理人とも言える存在。背信行為ともとれるケニーの行動を知った東都生命では、DBジャパンを介さず、直接AICとプレジデンシャルと交渉を始めるのだった。

一方、松永社長が東亜銀行の北田頭取に会い、”支援”のアナウンスを引き出すことに成功する。支援の観測記事のおかげで一時的に資金流出に歯止めがかかったが、抜本的な解決にはいたらない。

99年12月、とうとう安東は会長から退任した。しかし、時は既に遅かった。JFG銀行(モデル:UFJ銀行)に統合予定の東亜銀行では北田が協立銀行(モデル:三和銀行)の阿川頭取(モデル:室町鐘緒)に釘をさされていたのだ。

2000年、9月中旬以降、東都生命の解約ラッシュが再び本格化し始めた。有力経済誌D誌が”東亜銀行の支援打ち切り”観測記事を載せたためだ。

10月、東都生命は更生特例法の適用を申請する。

東京地裁は同日、保全管理人に大野正史弁護士(49)を選任。大野は管理人代理として、気心の知れた藤井泰世(45)、遠山晴彦(37)両弁護士を決めた。

大野は本社全職員の前に立ち、「契約者保護、東都生命の最大限の評価、経営責任の追及」を基本理念として掲げ、職員らの胸をうつ。

更生開始決定がなされ、管財人となった大野は加えて、管財人室長に友部を指名するが、友部はこれを固辞する。しかし、宮坂から翻意を促された友部はこれを受けた。

若輩の友部をトップとする組織に社内の風当たりは厳しいが、なんとかこれをこなす友部だった。

そんな中、一つの疑惑が浮かび上がってくる。

元成城のグラウンドであったミヤコスポーツセンターの処分に絡み、政治家が暗躍しているというのだ。ミヤコスポーツセンターが路線価の三分の一という破格の値段で、マメゾン(モデル:セボン)といういわくあるデベロッパーに売却されていた。

マメゾンは現職の国土交通大臣淡野景子(モデル:扇千景)が広告塔を務める中堅デベロッパー。規制のある土地でも強引に住宅を建ててしまうという「まともではない会社」だった。

部下中西茂に調べさせた結果もそれを裏付けた。

この一件に暗躍するのは誰か。

友部は事業管財人として入っているAICの岡本を飛び越え、AIC本社のカーク・ウィルソンに確認するが、AICはミヤコスポーツセンターに関与しているようには見えない。

友部は関連会社を担当する川邊一郎弁護士に面会するとミヤコスポーツセンターの処分について問い質すが、内容を開示することはなかった。

その直後、友部大野藤井川邊に呼び出される。友部を説得しようとする大野らだったが、友部は折れることなく、異論を重ねる。

最高執行部に逆らって、最早会社に残ることもできない。AICのウィルソン友部を慰留するが、友部は辞表を提出し、大野はこれを受理した。

2001年4月、ミヤコスポーツセンターは3カ月後の閉鎖を発表。存続運動も起こるが、間もなく挫折してしまう。

 

千代田生命の破綻ストーリーなので、勿論、支援していた東海銀行をモデルにした東亜銀行の北田頭取や、その背後の協立銀行の阿川頭取だとか『金融腐蝕列島』シリーズの登場人物も顔を出しますし、『腐蝕生保』鈴木社長も出てきます。

また、紙幅の問題なのか、最後には余ったページで『青年社長』のワタミを登場させて自作を紹介しています。

いつものことですが、小泉-竹中(作中では大泉竹井)路線の誤りを指摘することも忘れちゃいません。若干、鼻についてきましたが・・・。

別に、竹中平蔵の政策が良かったというつもりはありませんが、なんとなく、どうも狭い了見で、というか、作者の狭い見識だけで、物事の表層しかみていないようで、ちょっと疲れます。何となく、雰囲気だけで経済や金融を語るっていうのは、いかがなものでしょうか。居酒屋で管を巻くおっさんじゃあるまいし・・・。

生保でも株式会社化を進めている第一生命(作中では「第三生命」)を褒め、日本生命を批判する姿勢は変わらずです。なぜ、第一生命が良くて、日本生命はダメなんでしょう。株式会社化が全て素晴らしいという考え方は、何でもかんでも弱肉強食の外資を導入しようとした竹中平蔵の考え方といかほど違うんだろうなぁ、と思ってしまいます。

それはとにかく、今回の作品は、まぁ、いつもに比べると、どうも主人公に魅力が乏しい分だけ小粒な作品になってしまっています。

また、もうちょっと、作者の思い込みが少ないような客観的なテーマの方が良かったのではないでしょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『架空の球を追う』 森絵都

Kaku 2009年、28冊目。森絵都『架空の球を追う』

「架空の球を追う」って、何のことかと思えば、野球のフライをキャッチするときのイメージのことなんですね。

こんな身近な小さな話が11作品入った掌編集です。

 

架空の球を追う

少年たちの野球の練習。

コーチは怒号をあげるが、少年たちに真面目さはみられない。

それを見守る母親たちもまた・・・。

 

銀座か、あるいは新宿か

高校時代の女友達と年2回の飲み会を催すようになって十数年。途中、結婚や出産、仕事の事情などで抜けたり、音信普通になったりした面子もいるけど、ここ数年は四人の固定メンバー(私、知ちゃんチャボ)で落ち着いていた。かつては地元の浦和で調達していた店も、皆の所在がばらけて以降は銀座に移って定着した。はずだったのだが・・・。

今回は半年前に電撃離婚したふゆ美が約9年ぶりに飲み会への参加を表明。これを契機に、が飲み会の場所を新宿にしようと言い出したのだ。

 

チェリーブロッサム

駅までの抜け道となる川沿いの遊歩道に、一樹だけ、早咲きの桜木がある。

ある朝、その前を通りがかった私を一組のカップルが呼びとめた。

その数日後、ホームレスらしき老人が、私のすぐ前を歩いていた女性とすれ違い様に接触し、派手に転倒する。見え見えの小芝居なのだが、接触した女性は気づかずに・・・。

 

ハチの巣退治

ボスは二つの頭痛の種を無くそうと決意した。

一つは虫歯の治療。もう一つはハチの巣。

ボスはコッツウォルズにあるという幻の名医のもとに歯の治療に向かうとともに、部下にハチの巣駆除を命じていったのだ。

しかし、クリスメグスーも、勿論、私もそんなことはできない。

「何でも屋ジョー」に依頼しようと決めた4人は・・・。

 

パパイヤと五家宝

高級食料品店に入った私は、高級なフルーツばかり並ぶフルーツコーナーの前で固まってしまう。しかし、その後ろから無造作に2千円もするパパイヤを籠に入れる女性があった。

パパイヤ夫人”と名づけた女性のあとをつけた私は、女性と同じものを籠に入れていくのだが・・・。

 

夏の森

自由ホンポウな女になりたい

私が小学生時代に書いた作文の一節だ。

百円ショップの店頭で見つけたカブトムシ。

自由奔放とカブトムシ。その連想の接点を見出せないまま、カブトムシを買う。

飼うのではなく逃がしてあげるのだという、この母親に、小学5年になった息子は醒めた視線を返すのだった。

 

ドバイ@建設中

お見合いで知り合った石油会社の御曹司との婚前旅行。

行き先はアラブ首長国連邦に属するドバイ首長国。

高熱・砂埃に辟易としてきた私の視線の先に、ベリーダンスのショーを緊張しながら見つめるドイツ人の少年の姿があった。

 

あの角を過ぎたところに

まん丸が消えた

タクシーで通り過ぎた”まん丸”はベーカリーに変わっていた。

アズマは私に驚いたように告げたが、これを聞いたタクシーの運転手も驚いたように、突然、引き返して確認するのだった。

彼はかつて”まん丸”で働いていたことがあったのだ。

 

二人姉妹

有紀が私を避けてるの

従姉の私に、真紀は姉有紀が自分を嫌っているのではないかと相談する。

私の問いかけに有紀は動揺する。有紀の元恋人橋場の何気ない一言が、女らしい真紀の存在を有紀に意識させ、有紀真紀を避けさせるようになっていた。

二人姉妹の絆が断たれようとしていた、そのとき・・・。

 

太陽のうた

部族間の争いで国を追われた30代の元女優。

族長のアジムは難民キャンプを支援するNGOに属する外国人ビジターをまた女のもとへ案内してきた。

外国人は、元女優で、30代でありながら十一人もの孫のいる女に興味があるのだ。

しかし、女はもはやビジターの相手をする気にはなれなかった。

 

彼らが失ったものと失わなかったもの

背後から破裂音がした。振り向いた先には一組のカップルが佇み、その足元には、氷河のような破片を浮かべた葡萄色の水たまりが広がっていた。

それは、数分前に私が悩んだ(バルセロナ空港内のリカーショップで売られていた)赤と白のワインのセットのなれのはてだった。

米国人の少年がひやかし、野次馬がこれを取り巻くが、夫婦はあわてず・・・。

 

いろいろな味の作品が揃っていますね。

良かったのは、やはり「彼らが失ったものと失わなかったもの」でしょうか。胸がすくという表現は決して適切ではありませんが、何だかいいものを見たといった感想を受ける作品です。

夏の森」もいい。内容よりも『自由ホンポウな女になりたい』という、この一節がとにかく秀逸。小学生の作文の一節でなかったとしても、とにかく意表をつくフレーズです。暫く記憶に残りそうです。

パパイヤと五家宝」も面白かった。ここまで極端でなくとも、気持ちはわかるといった感じでしょうか。ただ、最後の変心のきっかけとなった「五家宝」って知らないんですよね。今日、スーパーで確認してきましたが、今まで口にしたことのないものですね。どんな味がするんでしょう。
Gokabou

【五家宝】 (Wikipedia)

 おこし種を水飴などで固め棒状にした芯を、黄粉に水飴などを混ぜた皮で巻き付け、 さらに黄粉を表面にまぶしたものであり、青色のものは青大豆を用いて製造されている。埼玉県熊谷市の銘菓。

二人姉妹」もまた、最後のオチがよかった。なんとなくシリアスな話、ドロドロした話になるかと思いきや、あんな最後になるとは思いもしませんでした。

太陽のうた」を除けば非常に軽い話が並んでいます。こういったラインナップだと、「銀座か、あるいは新宿か」ですら、ちょっと長めと感じてしまうくらいです。

まぁ、たまにはこんなのもいいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『パーティ』 山田悠介

Party 2009年、27冊目。山田悠介『パーティ』

現在と過去が平行して叙述される構成の作品。

臓器移植詐欺に遭った4人が、罪を許してくれると信じられた山に登ったという犯人を追って山に登るというストーリー。

現在と過去という構造で、なんとか引っ張ってはいますが、全編を通して読んだあとでストーリーを振りかえると、ちょっと内容が薄い。

今一歩という残念な作品になっています。

 

横浜市立桜花小学校6年の戸部康太後藤国男平沼英紀伊藤仁志は小学1年からの親友。この6年も同じ2組になって一安心というところへ、ひとりの転校生が現れた。

静岡からの転校生桜田美希だ。

体育の授業で倒れた美希は心臓病を抱えていた。

担任の松谷は学校のリーダー的存在である国男たちに、美希を守って欲しいと頼む。国男たちに否はない。病院に見舞いに向かった彼らは美希に「今日から俺たちのグループに入れてやる」と告げた。

こうして5人で遊ぶようになったが、卒業のときは近づいていた。

弁護士の父の下、母紀子からも厳しく勉強を強いられる康太は私立中学への受験が義務づけられ、他の4人とは違う中学に通わなければならない。

そんな康太を応援する美希だったが、同じ中学に行きたいという本音も漏らすのだった。

同じ気持ちだった康太は中学を受験はするものの、悉く白紙で提出し、両親を裏切る。

両親は嘆き悲しんだが、康太には罪悪感よりも、これで仲間と一緒にいられるという安堵の方が大きかった。

中学時代も仲間のままだった5人だが、その間にも美希の容態は少しずつ悪くなっていった。

担当の医師長田から心臓移植が必要であること、そのためには多額の資金が必要だと聞いた康太国男ら4人は秘かに新聞配達を始め、その給料を美希の治療のためにと、美希の母良子に差し出すのだった。

しかし、新聞配達では一向に金は貯まらない。

美希に特別な思いを抱く国男は、手っ取り早く金を集める方法として、家の通帳から全財産を引き出した。最早、実家には帰れないと覚悟した国男康太ら3人に200万円もの金を託すと、姿を消した。

しかし、美希にはそんな金を使うことはできない。結局、200万は国男の父親に返すのだった。

(一人国男は失踪したまま)別々の高校に進んだ美希康太英紀仁志だったが、4人の友情は変わらなかった。国男が漸く還ってきたのは高2の冬だった。

その1年後。康太がクリスマスを前に、美希へ告白しようとしていた矢先、美希が倒れた。

幸い大事に到らず、退院した美希は、病院で知り合った同じ心臓病の少年坂田大地と遊びに行く約束をする。待ち合わせ場所で車道に飛び出した大地を庇うべく走った美希だったが、心臓発作を起こしてしまう。

長田医師の迅速な処置のおかげで一命はとりとめたものの、美希は昏睡状態。意識は戻ったものの、弱ってしまった美希の身体は回復の兆しをみせることはなかった。連日、病院に見舞う康太たち。そんなとき、病院の廊下で康太は心臓移植を仲介する団体「ハートスペア21」の加納静香に出会った。

アメリカでドナーを探すという、地獄に仏の話に、康太たちは希望を見出すが、静香は厳しい現実をつきつけた。費用として2000万円が必要なのだ。

当然、康太たちにそんな金はない。一方で、美希は刻一刻と弱っていく。

国男は資金を捻出するため、銀行強盗することを持ちかけるが、英紀仁志はこれに反対する。しかし、愛する人を失いたくない康太は同意するのだった。

最終的には英紀仁志も加えた4人で臨んだ銀行強盗は無事成功し、そのまま強奪した資金を静香に渡すのだった。

これで安心と思ったのも束の間、海外での心臓移植の話を聞いた長田医師はこれを詐欺だと告げた。慌てて、静香と連絡をとろうとする康太だったが、当然のように連絡はつかなくなっていた。

希望をつかんだはずの4人だったが、一気にどん底に突き落とされた。そんな中、美希の容態は急変し、そのまま亡くなってしまう。

怒りの矛先は彼らを騙した加納静香に向けられた。しかし、静香の消息は不明のまま、4人の関係もバラバラになっていった。

美希が死んで3カ月後、康太のもとに速達が届けられた。

私は今から、山梨県西八代郡にある、神獄山に登ります。私の運命は、あなたたちに委ねます。頂上で待っています。  加納静香

国男らに連絡をとった康太は神獄山へ向かった。

しかし、神獄山は非常に高く険しい山だった。

地元では、神獄山は頂上に神がいると言われ、罪を犯した多くの人間が神の許しを得るために登ったという有名な山だった。しかし、今では僧の修業の場とされ、一般人はほとんど登らないのだという。

軽装でやってきた4人だったが、引き返すつもりはなかった。

途中から岩に遮られ、藪をこぎ、雪をかきわけしながら進む彼らは、少しずつ体力を削られていく。足を滑らせた英紀が捻挫したり、仁志が高熱を発したりとコンディションも悪くなっていくが、もはや単独では引き返すこともできなくなっていた。

6合目に見つけた廃棄された山小屋で夜を過ごした彼らは、翌朝、登り始めてすぐに上から狙撃された。パンという乾いた音とともに、先頭を歩いていた国男が吹っ飛ばされたのだ。

何者か別の目的を持つ者も頂上を目指している。康太たちは慎重に男の後を追い、再度頂上を目指した。

髪はボサボサに乱れ、雪で濡れた衣服は泥だらけ。全身ボロボロになりながら、ようやくたどりついた4人はそこで銃声を耳にする。

まさか、静香が撃たれたのではないか。4人は頂上へ急いだ。

 

どうも発想が短絡的で「おこちゃま」チックな行動が目につきます。いきなりの銀行強盗だとか、簡単に詐欺に引っかかるだとか。

どうも身近に感じない登場人物たちです。あまり血肉をそなえた存在には見えないんですね。そのためもあってか、美希の死も単なる記号的な意味合いしか感じず、彼らの憤りにどうも共感しにくいものがあります。

イメージとしては、何も考えていない馬鹿者たちの暴走というところでしょうか。心根だけは評価できるにしても、もうちょっと頭を使って欲しいと思わざるを得ません。

結局のところ、そういった不自然さもあってか、ストーリーに締まりがありません。現在(神獄山に登るところから)と過去を交互に繰り返すので、最後まで読み進められますが、時系列で話が進んだとすると、山登りの途中で嫌になってしまったかもしれません。

山田悠介って、人気のある作家のようなので、もうちょっと付き合ってみたいと思いますが、こんなのばっかりだとツライですね。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『サンタ・エクスプレス 季節風*冬』 重松清

Santa 2009年、26冊目。重松清『サンタ・エクスプレス 季節風*冬』

「春」から始まったこのシリーズもこれで最終巻です。

今回も12編の冬にまつわる短編で構成されています。

 

あっつあつの、ほっくほく

女性としては初めての部長(ゼネラルマネジャー)職に就いた宮脇だったが、営業本部長から嫌がらせを受け、今日もぬるいコーヒーを啜りながら窓の外のオフィス外をながめた。

思い出したのは、カオルのおじさん。高校時代、校門の前へやってきた焼きいも屋のおじさんのあだ名だ。

高2の新チームでバスケット部の新キャプテンに就いた宮脇だったが、その熱意は他の部員から浮いて、孤立してしまった。

 

コーヒーもう一杯

2歳年上の彼女の家に同棲した19歳の僕。

日曜日の公園で開かれたいたチャリティバザーで、彼女は手回しのコーヒーミルを買った。

マンデリン一辺倒の彼女はアパートへ帰ると、早速コーヒー豆をミルで挽いた。

せっかくなんだからミルクと砂糖なしで飲んでみてよ」と渡されたコーヒーはかなり苦かった。

就職が決まらない彼女だが、3月の卒業に合わせて部屋を引き払うことは決めている。だが、その後のことは、何も話してくれない。

砂糖やミルクをスプーンで掻き混ぜる時間は告白の時間だという彼女は・・・。

 

冬の散歩道

男はひどく疲れていた。

水の都とも言われた街の中洲の川沿いの遊歩道からベンチに座って川面を見つめ、時々小さなため息をついていた。

男の前をいくつかの事件が通り過ぎる。

犬の喧嘩で戸惑う女性たちを助けに入ったり、家の鍵を落として泣き出す少年と一緒に鍵を探したり・・・。

うたたねから、また目を覚ますと、スーパーマーケットの袋が破れたのか、買い物が路面に散らばっていた。おばさんは荷物を集めると、男の座る横に積み上げ、荷物番を頼むのだった。

 

サンタ・エクスプレス

なっちゃんは楽しいのに、寂しい。わくわくするのに、しょんぼりする。

新幹線に乗って名古屋から東京に帰るときはいつもそうだ。

名古屋の実家で出産の準備に入るママと一緒に名古屋で暮らすという選択肢もあったが、なっちゃんは幼稚園の行事が惜しくて東京でパパと過ごすことを決めたのだが、これは失敗だったかもしれない。

双子の赤ちゃんのためにママに”万が一”のこともあると知ったなっちゃんは心配なのだ。

またも不機嫌なまま新幹線に乗ったなっちゃんだったが、今回の新幹線は何故か「こだま」。ママの手配だ。

名古屋を出て間もなく到着した三河安城駅でなっちゃんの向かいに座ったのは、サンタとトナカイだった。

 

ネコはコタツで

一雄(享年78)を1月に亡くした直紀は田舎に一人残った母のことが心配になる。

初七日あたりまでは気丈にふるまっていた母だったが、その後めっきり老け込んでしまったのだ。身の回りのものをこまごま片付けたり手作りしたりするのが好きだったのに、今年はジャムも梅酒も作らなかった。

正月には東京に来るよう誘った直紀だったが、母は乗ってこない。

大晦日に田舎から餅が届くが、母の手を思わせる小さなものだった。

元旦の雑煮を食べると、直紀は午後の飛行機に乗った。

 

ごまめ

新年早々、斎藤さんはひとつの歴史の終わりを思い知らされた。

いつも家族揃って行っていた初詣に高校2年になった娘香奈が行かない。元旦早々起きてくるや、バスケ部の先輩佐伯孝史と初詣のために出かけてしまったのだ。

斎藤さんの知らない佐伯のことを奥さんも息子敏記も皆知っているようなのだ。斎藤さんは憤然として、ごまめを噛む。

酒を飲んでうたた寝をした斎藤さんが目覚めたときには敏記は既に外出し、奥さんも初売りにいく約束を隣の奥さんとした後だった。

ひとり、ニュータウンのはずれにある天神様に向かう斎藤さんだった。

 

火の用心

町内の夜回り当番にあたった秋元家は父親が単身赴任ということもあって、高1のわたしが参加。中学の頃に仲良しだったワクちゃん涌井)を誘って参加したのだが、これが失敗。

一緒に回る小野工務店の三代目社長小野は二人を「女子高生」と見下し、横柄な口調だ。また、小野から軽んじられる小野の同級生山崎も頼りなさげだ。なんとなく、ジャイアンとのび太の関係だ。

なかなかマヌケな大人の関係に苦笑いするワクちゃんとわたしだったが、高校が異なってしまった二人の間も若干気まずい。わたしはワクちゃんを誘ったことを後悔しはじめていた。

 

その年の初雪

その年は記録的な暖冬だった。いつもの年なら12月早々に降るはずの初雪が、年が明けても降らなかった。

父の転勤で3学期が終わると引越してしまう泰司は雪を待ち望んでいたのだ。3年の秋に引っ越してきたから、冬は二度目。そしてこれが最後ということになる。

友人となった三上くんから、昨年の冬に「もっと積もったら『かまくら』もつくれるんだけどな」と言われた泰司は、これを楽しみにしていたのだ。

冬の気圧配置「西高東低」を呪文のように繰り返す泰司だったが・・・。

 

一陽来復

2月3日の、とある3人の物語。

年末に離婚し、4歳になる娘美紀と暮らしはじめた女。近所のコンビニで小さな豆まきセットを買った。

 

高校生(ヨウちゃん)のひいじいちゃんがは年末に97歳で大往生した。しかし、ヨウちゃんに寂しさはほとんどなかった。

そんなヨウちゃんにコンビニの店長は声をかけた。

暮れから大変だったんだから、『大』にしちゃえよ。パーッと威勢よくまいたら、ひいじいちゃんも天国で喜んでくれるよ

祭り好きのひいじいちゃんのことを少しわかった気になったヨウちゃんは、コンビニで「大」の豆まきセットを買った。

 

2月3日は中学受験に失敗した加奈にとって、サイテーの一日。慰めるパパが鬱陶しい加奈だったが、寂しそうなパパの顔を見て、加奈は「豆まきしようか、今夜」と誘っていた。

 

じゅんちゃんの北斗七星

同じ団地のお隣さんだった同級生のじゅんちゃんは、みんなと同じことができない。じっと席についていることもできない、静かにしていることもできない。

幼稚園では許容されていたことが、小学校ではもはや通用しない。

じゅんちゃんの両親は専門の小学校に通わせることも考えたが、結局僕と同じ小学校にじゅんちゃんを入学させた。

しかし、じゅんちゃんの世話は僕がみることになっていた。同じクラスで席は最初から隣に決まっていた。体育で二人一組になるのも、社会科見学のバスの席も、お弁当を食べるのもいつもコンビになっていた。

そんな僕をじゅんちゃんは「あいぼー」と呼んだ。

 

バレンタイン・デビュー

2月に入って、バレンタインの話はしないよう妻芙美子と決めていた。

息子達也につらい思いをさせないようにだ。

そんな父親を、大学生になる娘優美は呆れて見るが、父親として、「男子」の先輩として、達也には悲しい思いをさせたくなかったのだ。

 

サクラ、イツカ、サク

城北大学の映画サークルに属する僕はマルオ先輩とともに、大学合格の掲示板前で「バンザイ隊」をやっていた。

合格者に一回50円でバンザイのサービスを売りつけ(押し売り)ていたのだ。

しかし、狙いをつけた女の子の前に「おめでとうございまーす!」と飛び出した二人に、彼女はおびえたように顔をゆがめると、涙をこぼした。不合格だったのだ。

 

いつものように柔らかな感じの作品ばかりとなっています。

勿論、ほとんど短くて、短編というほどには内容のないものもいくつかありますし、もうちょっと長く読みたかったなと思う作品もあって、感想は様々です。

この分量で適度と感じたのは、表題作「サンタ・エクスプレス」でしょうか。

コーヒーもう一杯」や「ネコはこたつで」「火の用心」「その年の初雪」「じゅんちゃんの北斗七星」「サクラ、イツカ、サク」はもうちょっと長めの話で読みたかったですね。

コーヒーもう一杯」は非常に切ないような話でもうちょっと読みたいと思わせる内容でしたし、「じゅんちゃんの北斗七星」や「サクラ、イツカ、サク」は長編としてもっと読ませる作品にして欲しかったという意味で惜しい作品です。

一方、「あっつあつの、ほっくほく」「冬の散歩道」「一陽来復」「バレンタイン・デビュー」はちょっと内容が薄い。「バレンタイン・デビュー」はニヤッとさせる作品なんですが、ただそれだけという感じです。もっと言えば、こんな奴いないよ、とでも言いたくなるような・・・。

さて、これでこのシリーズは終わりなんでしょうが、結果的に感じたことは、重松清はあまり短編向きじゃないということでしょうか。

なんとなく引き出しが少ないのか、季節は変われど、風景・雰囲気がどうしても似たような感じになってしまっています。そういう意味で驚きが少ないので、だんだん飽きてきてしまう感もないではありません。

次作は、やっぱり長編に期待したいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『大延長』 堂場瞬一

Daiencho 2009年、25冊目。堂場瞬一『大延長』

青春+スポーツなので、鉄板の話のはずなんだけど、ちょっと厚みにかけるのが残念な作品。

なんだか惜しいんですよね。

 

高校野球神奈川県大会決勝。監督牛木晃の率いるチームは9回表を終わって3点差でリード。対戦するチームを率いる監督久保爽太を見やりながら、15年前の甲子園決勝を思い出していた。

 

甲子園の決勝。新潟県代表、初出場の新潟海浜と西東京代表の強豪恒正学園との試合は延長15回のすえ再試合となる。

しかし、新潟海浜を引っ張った大会ナンバーワン投手牛木晃は膝の故障を悪化させてしまう。再試合も投げると言う牛木だったが、監督の羽場祐一郎はこれを止める。

羽場自身も大学時代に、無理をしすぎた挙句、肩を壊してしまった経験があったからだ。優勝を狙うことも大事だが、それ以上に牛木の将来を考えたときに、無理をさせることはできなかった。

新潟海浜は牛木のほかに主将春名雅彦も欠いていた。地方予選の二回戦のあとに交通事故で骨折した左手首が未だ治っていなかったのだ。

牛木はメンバーを集めると自身の欠場を告げるとともに、チームを引っ張ってきた主将春名が試合に出られるよう、メンバーの打撃での奮起を促した。投手面での不安は隠せないものの、チームの雰囲気は盛り上がっていく。

一方で、恒正を率いる監督白井直人は激昂し、部員に怒鳴り散らしていた。拙攻のすえ勝てなかったからだ。メンバーを萎縮させる白井の言動を部長の安斉が諌めるが、白井は聞く耳を持たない。

白井は大学時代に羽場とバッテリーを組んでいたが、その頃から自身で試合を進めることを常に強烈に意識してきた。その管理的な野球への姿勢が恒正を五季連続出場の強豪にしたのだ。

現在のチームでも、卓越した才能の持ち主久保爽太には遠慮があるものの、チームを完全に仕切っているつもりだったのが、このざまだった。

また、白井は経営の苦しい実家の工務店を移籍金で援助するため、大会での優勝を土産に、スカウトされている横浜の湘南大付属高校に移る予定だったのだ。自身の評価を引き上げるためにも、是非とも優勝が必要だった。

再試合のメンバーを考える白井のもとに、教頭から愕然とさせる連絡が入った。三塁を守る岡谷が喫煙しているところを写真週刊誌に撮られたというのだ。

白井は高野連に連絡することなく、明日の再試合には出場することを決めるとともに、岡谷を呼び出し、叱責する。動揺を避けるため部員には知らせないよう配慮した白井だったが、いつの間にかこの話は部員の間にも広がった。特に、チームの成績は二の次で、自身のことしか考えない久保は足を引っ張る岡谷が許せなかった。岡谷に詰め寄る久保は、あわや暴力沙汰となるところをマネージャーの遠藤に身を呈して止められるが、しこりは残った。

 

始まった再試合。

牛木に代わって当番した2年生投手横井は早々に恒正打線につかまる。一回表に久保の本塁打で3点を先制される。2回にも久保のヒットで1点を加える。

久保は得点を重ねるが、張り合いのない投手、そして自身の足を引っ張るチームメイトに不満を燻らせていた。

新潟海浜も恒正の投手平沼の守備の穴をつき、2回裏、3点を返す。

しかし、4回。変化球のクセが読まれてしまった横井は恒正の連続打を浴びる。なんとかストレート一本で凌いだ横井だったが、その間に3点を失ってしまった。

二番手投手結城を打ちあぐねていた新潟海浜だったが、「春名を出す!」の掛け声のもと、5回裏、なんとか粘って1点を返した。これで4-7。

なんとか立ち直ったような横井だったが、6回表の恒正・の打球を顔面に受け、倒れてしまう。

こうなれば仕方がない。牛木の熱意にも負け、羽場牛木をマウンドにあげた。牛木は後続を完全にきってとる。

6回裏。牛木久保の横を抜いて3塁打を放つが、滑り込んだ際に膝を痛めてしまう。この回、2点、7回には更に1点を返し、新潟海浜はついに7-7の同点に追いついた。

牛木は膝に負担のかかる速球を、久保以外には使わずに変化球で凌ぐが、それでも恒正打線は手も足も出なかった。

8回裏。更に2点を追加して逆転した新潟海浜のメンバーは春名を出すよう羽場に詰め寄るが、羽場は許可しない。

9回表。投げ急ぐ牛木の姿をみて、牛木が故障していることに気がついた白井は徹底してバント攻撃を繰り返させる。ダッシュを強いられる牛木の膝はますます悪化していく。そんな姑息な攻撃に久保は憤慨するが、勝利のために白井は徹底して、バントを続けさせた。

牛木をバックアップするため必死で守備する内野陣だったが、キャッチャー小嶋はホームでランナーと交錯して負傷する。意識が朦朧とする小嶋を下げた羽場は、春名を出すことを決めた。

二死満塁で迎えた久保の当たりはピッチャー強襲。牛木のグラブに当たった球が、マウンドの後ろにこぼれるところを春名が飛び込んでなんとかキャッチする。

3点得点した恒正は10-9と逆転し、1点差のなか9回裏の新潟海浜の攻撃を迎える。

 

試合の得点の動き自体は面白いんですが、何だか釈然としないことが多いんですよね。

何故、9回裏になって、白井久保も突然「いいひと」になっちゃったんでしょう。どうも腑に落ちません。なんだろうって感じです。

この作品、メインは野球の試合なんですが、どうも人間の深みを描くときに、試合に参加するメンバーよりも、その周囲に重点を置いているようです。なので、青春小説的な趣きがちょっと薄い。

実は、この作品の中で、一番熱く、メインとなっているのは、羽場白井の大学時代の監督であり、決勝の解説をしていた滝本かもしれません。滝本の一喜一憂や、最後の「あしたのジョー」と似たような最期は極めて印象に残りました。

羽場がOB会や知事といった周囲のプレッシャーと、自身の経験を天秤にかけて、牛木の登板に悩んだり、白井白井で、移籍話と岡谷の喫煙スキャンダルとか、二人の監督のほうが、試合に出る選手たちよりも、いろいろ抱えていて興味深く描かれます。

牛木春名久保という試合の中心となる3人は、元チームメイトという設定はありますが、あまり抱えているものが(説明され)ないので、どうも薄っぺらい感じです。ということもあって、どうも主役を大人たちに持っていかれたということでしょう。

エピローグでは、久保の独白で、マンガのように劇的な延長戦の結果が淡々と語られ、非常にきれいに終わっていますが、ただここまでやるとちょっとやりすぎかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ストロベリー・ナイト』 誉田哲也

Strawberrynight 2009年、24冊目。誉田哲也『ストロベリーナイト』

ちょっとぱっとしない警察小説?って感じの作品でした。

どうも主人公に魅力が足りないのかもしれません。シリーズなので人気があるのかもしれませんが、少なくとも、この一作目だけではよくわかりませんでした。

 

姫川玲子はノンキャリアとしては異例の早さ、27歳で警部補に昇進し、その後まもなく警視庁本庁に取り立てられ、捜査一課殺人捜査係の主任を拝命した。

若い女の主任ということもあって陰口を叩く者も少なくないが、捜査一課十係姫川班の部下(石倉保巡査部長(47)、菊田和男巡査部長(32)、大塚真二巡査(27)、湯田康平巡査(26))とはうまくいっていた。これは玲子を捜査一課に引っ張った直属の上司今泉春男十係長警部の采配によるところが大きい。

信頼できる上司と部下。玲子は恵まれていた。

そんな玲子が駈り出されたのは、死体遺棄事件。葛飾区の都立水元公園の近くで青いビニールシートにくるまれた死体が発見されたのだ。

遺体は身長170cmほどの30代半ばの男性。左頸動脈をスッパリと割られたことが死因。しかし、異様なことに、死後に施されたとみられる、みぞおちから股関節に達する大きく長い切創がみられた。

被害者は歯の治療痕から、事務機器リース会社の社員金原太一(34)と判明する。

地取りで玲子とペアを組んだのは、かつて世田谷署管内で起こった殺人事件でも捜査を共にした巡査長刑事井岡博満。出目に出っ歯、更に猿耳の強烈な顔に加え、インチキくさい関西弁が特徴的な男だ。世田谷署から、王子署、そして葛飾署に転属になっていたのだ。

みぞおちの切創が気になっていた玲子は水元公園の内溜沿いを歩きながら、遺体は遺棄途中で放置されたものではないかと閃く。東京都監察医務院の國奥定之助との話の中で出てきた「ネグレリアフォーレリ」と呼ばれる寄生アメーバを思い出したのだ。

アメーバに分解させるべく内溜に沈めようとした遺体が浮き上がらないように、遺体に切れ込みを予め入れておいたのではないか。

この推理(憶測)を受けて、内溜の底が浚われると、新たな死体が見つかった。

連続殺人事件と目され拡大された帳場に本庁から増援が来る。殺人犯捜査第五係主任勝俣健作警部補”ガンテツ”だ。勝俣率いる勝俣班は「一課内公安」とも呼ばれる情報戦のプロだ。

若く、美貌をひけらかし、それでいて思いつきで行動する玲子勝俣は決して快く思ってはいない。帳場で会うや否や「おい、今でも怖いのか?暑い夏の夜は」と揺さぶりを玲子にかける。

玲子は高校の夏、暴行事件に遭遇し、これがトラウマになっていたのだ。

内溜から上がった第二の被害者の身元が判明する。滑川幸男(38)は大手広告代理店白広堂社員。

金原滑川の接点はどこにも見つからないが、なぜか二人とも春先からエネルギッシュに仕事をするようになったこと、そして毎月第二日曜日にどこかへ出かけていたことが判明する。

ガンテツは、ネグレリアフォーレリによる犠牲者こそが、内溜への遺体遺棄を担当したものであるとの見込みのもと、ネグレリアフォーレリで脳が溶けて死亡した深沢康之を調べた。既に死亡した康之には三歳年下の妹由香里がいたが、中央医科大学付属病院精神科に入院中。病院を訪ねたガンテツだったが、担当医の尾室由香里との面会を頑として拒む。

玲子の部下大塚は、第三方面本部長(北見克好警視監)の息子北見昇警部補とともに、被害者滑川の交友関係をあたっていた。

大学時代のサークルの友人田代智彦にあたった大塚は、不定期にインターネット上に現れる殺人ショーサイト『ストロベリーナイト』の存在に行き着いた。

玲子に相談した大塚は本部にこの情報を挙げるが、本筋にはなりえず、姫川班がこの件を担当することになる。

噂はあっても実在のはっきりしない『ストロベリーナイト』を調べるべく、大塚北見と別行動をとると、かつて大塚が逮捕したことのある情報屋辰巳圭と接触し、(非合法と知りながら)『ストロベリーナイト』の調査を依頼する。

大塚に情報を渡しつつ、辰巳大塚に手を引くよう助言するが・・・。

大塚が殉職したとの一報が入り、玲子は打ちひしがれる。

ガンテツは、玲子が不在中にかかってきた電話から、辰巳に行き着き、情報を聴きだすとともに、更に『ストロベリーナイト』の背後にいる(警察)内部者の情報を調べるよう依頼するのだった。

一方、玲子はもはや自身で事件を解決することよりも、誰でもいいから大塚の事件を早く解決してくれることを祈るのみ。大塚亡き後、北見と組んだ玲子だったが、集中力に乏しく、意欲もない。北見が先導する見込みへ、ただ漫然と従うだけだった。

 

全編を読み終えての感想は、何となく「キャラクターの顔見世興業」といった印象を受ける作品でしたから、いきなり若い部下の殉職というイベントが入ってくると驚いてしまいます。

特に、まじめで好感の持てるキャラクターが、あっさりと殺されてしまうんですから。

ただ、存在を(潜在的にも)主張しようとするキャラクターがとにかく多いですね。

玲子の部下たち。

殺されてしまった大塚は別格として、主要なキャラクターではあるはずなんですが、あまり描写が多くありません。玲子に惚れる菊田という設定くらいが立っているくらいでしょうか。最年長の石倉や最年少の湯田は殆どキャラクターが確立していません。

井岡は(顔、表向きの性格は別にして)なんとなく謎の男ですね。実は切れ者なのでは、とうかがわせるところが節々に出てきて、場を引き締めています。今後、実像(?)が明らかにされていく中で、もっと陰影が出てくるのかもしれません。

ガンテツは何だかよくわかりません。ほんとうに嫌な奴にも見えるし、そうでなくも見えるという不思議な人物です。確かに、アウトロー的で、それでも優秀で、といったところは、ガンテツ主観の毒舌さえなければ、主人公を十分はれそうなキャラクターなんですが、この作品の中ではほぼ悪者といった感じです。

殆ど登場しなかったものの日下も、侮れない存在感を示しています。今後の活躍が楽しみです。

とにかく、多彩なキャラクターに幻惑されるような作品で、ストーリー自体としては今ひとつかもしれません。推理が玲子の勘頼みというのもいただけませんし、殺人者由香里の心象風景もあまり良くわからないんですよね。勿論、最初から犯人を特定するような表現ができないのは仕方がないんでしょうが、後から読み返せばもうちょっとわかりやすくなるとか手はなかったんでしょうか。

それにしても、ガンテツによる、”玲子のプロファイリングは犯人の思考回路に近い”という指摘も、どうもよくわかりません。そんな印象論で玲子を批判するガンテツガンテツだし、それにショックを受ける玲子玲子といった感じです。

何だか人間臭いといえば人間臭い。単なる人の(印象だけでの)好き嫌いだけで人間関係が決まっていて、ちょっと唖然としないではありません。もうちょっと、みんな大人になろうよ、と言いたくなるような関係ですね。

まぁ、多くのキャラクターの登場も見ましたし、井岡日下の再登場を楽しみに、次巻もまた読んでみましょうか。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『希望ヶ丘の人びと』 重松清

Kibougaoka 2009年、23冊目。重松清『希望ヶ丘の人びと』

やっぱり長編ですね。重松清は。

この作品、かなり人の出会いが出来すぎ(あまりにも偶然が続きすぎ)になっていますが、まあ許容範囲。クセのあるキャラクターをうまく配して、しっかり物語が構成されています。

 

田島は妻圭子を亡くし、かつて圭子が住み、懐かしく話してくれた町、希望ヶ丘に移り住んできた。

美嘉(中3)と息子亮太(小5)の面倒をみるために会社を辞め(早期退職し)、希望ヶ丘で進学塾を始めるのだ。

フライチャイズ制進学塾「栄冠ゼミナール」の教室長となった田島は、栄冠ゼミナールで田島の担当となる加納に叱咤され、募集を開始するが、なかなか塾生は集まらない。塾生が集まらないこともあって、予定していた著名な講師を呼ぶことができず、早速クレームだ。

クレームをあげたのは宮嶋泰斗(中3)の母親。これに父親も加わり、非難を繰り返すが、田島はただ謝罪を繰り返すしかなかった。

美嘉の保護者会に出席した田島は、保護者会で年若い女教師野々宮を一人の母親が吊るしあげるのに出くわす。この母親こそ田島にクレームをつけた宮嶋泰斗の母親だった。田島のほか、もう一人保護者会に出席していた父親は宮嶋泰斗の父親だった。

気が重くなる田島だったが、保護者会のあと田島に話しかけた宮嶋(父)はクレーム電話について謝罪する。息子泰斗に実力以上に過剰に期待する母親に父親も振り回されていたのだ。

話をする中で宮嶋が亡き妻(旧姓松山圭子の同級生であることを田島は知る。

かつて生徒会長をしていた宮嶋を補佐した圭子は自分に憧れていたのだと、臆面もなく語る宮嶋田島は冷静ではいられない。

しかし、そんな田島の懊悩を、圭子の親友”フーセンさん”(藤村香織)は笑い飛ばす。しかし、宮嶋の言葉を否定する中で、圭子の片思いの相手として出てきた一人の男の名があった。”エーちゃん”(阿部和博)だ。

フーセンさんの語る”エーちゃん伝説”に、今更ながら、田島は悔しい思いにのたうつのだった。

一方、母親を亡くして寂しがる亮太は母の想い出を希望ヶ丘に探すうちに、一つの書道教室に巡りあう。既に開店休業状態となっていた頑固な書道家、本條瑞雲(本名山本和夫)のもとに亮太は通うようになる。

宮嶋泰斗の母親の妨害工作もあって塾生が集まらないことから、加納田島に(不良の巣窟でもある)湾岸中学からも生徒を募集することを勧める。

生徒募集のポスターを貼ることを受け入れてくれたゲームセンター「ゴールドラッシュ」で出会ったハーフの少女マリア阿部真理亜)は今や「BOSS」と呼ばれている”エーちゃん”の娘だった。

マリアは入塾試験で満点を取り、塾に通うようになる。マリア田島に、美嘉がいじめにあっていることを仄めかす。心配になる田島だったが、なかなか直接美嘉に問い質すことはできなかった。

マリアにくっついて塾にやってくる”ショボさん”(伊藤翔太)は希望ヶ丘中のOBだが、高校を3日で中退し、今や魚並みの脳みそ。しかし、マリアは、”ショボさん”のような生徒が逆転を狙えるような「バカ」クラスを作って欲しいと田島に頼む。

田島は中学校の教師だった圭子のことを思い出し、マリアの思いに応えたいと考えるが、今の経営状態ではなかなか難しいのだった。

ショボさん”は本條瑞雲チヨの孫だった。瑞雲は子どもの頃から翔太に期待をかけたが、それに耐えかねた翔太瑞雲とは疎遠になってしまっていた。また、翔太の両親もまた翔太に期待をかけ、中学受験に臨ませるが、これも失敗。家の中にも居場所のなくなった翔太は今や希望ヶ丘の実家を出て、一人暮らしとなっていた。

泰斗のことで宮嶋に相談を持ちかけられた田島だったが、不穏な雰囲気を醸す泰斗の姿は田島の目にもとまっていた。

偶然出会った藤村ダンナ田島宮嶋が向かった先は、自分でギターを弾いて歌える”フォーク居酒屋”『BOSS』。

ここは”エーちゃん”こと阿部和博がオーナーを務める店だった。

複雑な心境の田島だったが、”エーちゃん”は田島を気に入り、「兄弟」と呼ぶ。マリアから美嘉の話を聞いていたこともあって、エーちゃん美嘉の授業参観にかこつけて母校希望ヶ丘中学に駆けつける。

しかし、エーちゃんの前に立ちはだかったのは生活指導の吉田先生。エーちゃんを慕って校門前に集まったショボたちを、「警察へ通報する」と脅して駆逐すると、エーちゃんも退去させようとする吉田だった。エーちゃん田島と兄弟であると強弁し、学校へ入り込んだ。正論ではあるものの、心のない吉田の行動に田島エーちゃんも憤慨する。

授業参観では宮嶋母が担任の野々宮を吊るし上げていた。宮嶋母を刺激したのは、授業中の泰斗の態度と、それを嘲笑するクラスメートの態度だった。

エーちゃんは教壇の真ん中に仁王立ちすると、宮嶋泰斗へのいじめを糾弾しはじめた。

これを機に泰斗は立ち直りを見せるが、この授業参観で揉めた吉田先生田島エーちゃんを目の敵にする。実際、生徒らに田島の経営する塾について悪し様に語り、営業妨害を行ったのだ。同様に田島の娘である美嘉へのいやがらせも目立つようになる。

嫌味が酷くなる吉田に対して、(授業参観の一件やマリアたちに勇気づけられたこともあり、)美嘉も反撃した。塾を非難し、通う湾岸中学の生徒たちの素行を論う吉田に、美嘉は「自分も万引経験があり、希望ヶ丘中学から(追い出せるものなら)追い出して欲しい」と詰め寄ったのだ。

呆気にとられ、その場はお茶を濁して去った吉田だったが、その後、美嘉への嫌がらせはエスカレートするようになっていく。美嘉をそれとなく泥棒扱いし、クラスの中で孤立させ、揶揄するのだ。

宮嶋泰斗田島に電話してきた。吉田にいじめられた挙句、教室を出ていった美嘉が行方不明になっているというのだ。

慌てて、田島エーちゃんは希望ヶ丘中学へ駆けつけた。顔を上げた田島が目にしたのは屋上にいる美嘉の姿だった。

 

やっぱり、この作品は破天荒なキャラクター”エーちゃん”で持っている作品でしょう。

嫌らしいキャラクターとして、加納とか吉田とかいうのも出てくるので、不愉快な場面も多々見受けられますが、そんな小さな不愉快さを忘れさせるほどのダイナミックな動きを示してくれます。

ちょっと、所謂常識人からは乖離したような行動に走るので、予測不能。これが、また面白かった。

ただし、あまりにもエーちゃんが際立つためか、あとのキャラクターがちょっと小粒に映ります。

主人公田島も、何とはなし、最後まで圭子のことを黙っているという性格の悪さ(?)のようなものがあったり、美嘉亮太との接し方が微妙に不器用で中途半端だったり、とあまり個性が目立たない、ごく普通の性格づけです。

宮嶋泰斗の母親はモンスターペアレント紛いの描きぶりですが、なんだかちょっと物語の中では浮いてしまっている感じですね。父親”チクリ宮嶋”も、まぁ何と情けないことか。

一方で、イベント自体は本筋とは別に、盛りだくさんで、若干とっちらかっている感があります。

フーセンさんの娘彩花の話や、本條瑞雲チヨショボの話とか、本筋とは関連性が薄く、乖離している話は、むしろない方がもうちょっとシンプルな話になったような気もします。

語り口は、(主人公自体に力のあるわけでなく、)何となく流されてしまう男の主観を中心に描かれますので、なんとなく軽妙なテンポで進みます。

その軽妙な語り口のまま、全編通して非常に楽しい作品でした。

中学時代の合唱曲『銀色の道』とか懐かしかったですね。ふと思い出して、口ずさんでしまいました。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★★

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『審判の日』 山本弘

Shinapan 2009年、22冊目。山本弘『審判の日』

5つの作品からなる短編集ですが、ちょっと作品のできにばらつきがありますね。というか、趣味に合うのと、合わないのがありますね。

 

闇が落ちる前に、もう一度

(主人公)はモンゴルへ恐竜の化石発掘に向かった恋人萌衣に、その実存を確認するべく、メールを打った。

宇宙物理学を専攻する学生の””は、あるとき、宇宙物理学上の謎を解き明かす一つの宇宙モデルを作り上げることに成功した。名づけて「極大エントロピー宇宙モデル」。

時々刻々と変化する、まさに天文学的な確率の一つとして、宇宙が生成したというものだ。

担当する神奈川教授に見せると一笑に付される。この理論がなりたつのであれば、宇宙の寿命はせいぜい100億秒(約300年)くらいしかないことになる。

しかし、核スピン共鳴を利用した反証実験は以外な答えを導いた。極大エントロピー宇宙モデルは成立するのだ。

更に調べると、宇宙が生成したのは6.088×10^05sec(約60万秒)前という結果が得られる。過去の記憶のあるらは、首を捻りつつ実験するが、何度やっても答えは同じだった。日を変えると、時間が経過した分だけが伸びる結果となる。

即ち、宇宙はたった7日前に、今の形で、人びとの記憶を伴った形で生成したのだ。

 

屋上にいるもの

”たん、すたたん、すたたたた、たん、たたん、たんたん・・・・・・・”

若原は雨になると屋上からする音が気になって仕方がない。

かつて、若原の住む804号室では殺人事件が起きていた。

3年前、804号室に住んでいたのは壇上という夫婦と9歳になる娘。障害児であった娘をはさんで夫婦喧嘩は絶えなかったという。

ある日、荷物を預かった隣家の山添が804号室を訪ねたところ、部屋で血まみれになった夫人を発見した。そして夫紀夫と娘は失踪していた。

その後も、前管理人田尻が失踪したり、近隣の小学生の男の子が失踪したり、と失踪事件が相次いでいる。

これを若原に教えてくれたのは803号室の三田久美香。屋上の貯水タンクの清掃について若原に賛同を求める久美香だったが、程なくして、マンションの下に転落死しているのが見つかる。事件は飛び降り自殺だとみなされるが、若原には納得がいかなかった。

各種の失踪事件、三田の転落事件と、屋上の物音の関係性を疑った若原は、屋上へ続く梯子に手をかけた。

 

時分割の地獄

人気急上昇中のAIドル「真野ゆうな」は、バラエティ番組『25時のトークショー』の司会を務めるに殺意を抱いていた。

真野ゆうなは、現実には存在しないバーチャルなタレント。は生身のタレントを否定するような真野ゆうなが許せず、否定的なコメントを繰り返していた。

『25時のトークショー』に出演することとなった真野ゆうなの化けの皮を剥ごうとするだったが・・・。

 

夜の顔

中臣勝也は恋人詠美の実家に挨拶に行ったあと、ふと「人間は何のために生きているのか」といった根源的な自問自答にとらわれる。

そのとき、ふと気づいた路地の奥に見えた男の顔。しかし、そのの顔は尋常ではなかった。顔の長さが人間の身長の倍ほどもあるのだ。

最初は目の錯覚と考えようとした勝也だったが、それから8日後、またしてもビルの屋上に”男の顔”をみつけてしまう。

それから頻繁に勝也男の顔をみかけるようになる。

実は、世界は勝也の知っている部分だけしか出来上がっていないのではないか。それ以外はからっぽなのではないかという妄想に勝也はとらわれる。

精神科に通う勝也だったが、医者にも打つ手はなく、改善はみられない。””の不存在を確認すべく、”男の顔”に向けてカメラ(携帯)を向けた勝也だった。

しかし、カメラには、しっかりと”男の顔”が映っていた。

だんだん、大胆に近寄ってくる”男の顔”に恐怖した勝也は、部屋を目張りして閉じ籠ってしまう。

 

審判の日

ぷしゅっ。

ラジオから響いた小さな音がすべての始まりだった。

次の瞬間、ガシャーン!という音が立て続けに、屋外で聞こえてくる。

姫田亜矢子が外に出てみると、交通事故が起こっている。しかし、誰も様子を見に来ないことは勿論、車に乗っていた人間も見当たらない。運転席には、グレーの作業着がくしゃくしゃにされて脱ぎ捨てられているだけだった。

不安を抱えて家に帰った亜矢子だったが、リビングルームにいるはずの両親も見当たらない。二人が座っていたはずの椅子のうえには両親が着ていた衣類がくしゃくしゃになって落ちていた。

慌てて、友人たちに電話をするが、誰もでない。

前日に別れた恋人石動秀幸の家に向かった亜矢子だったが、そこで見たのは炎上する家だった。

駅前で見かけたのは、「神の罰」を声高に訴える男たちだった。集団に参加することを求める男たちを拒絶する亜矢子だったが、彼らは亜矢子を追ってくる。

窮地を救ったのは、黒いライディングスーツを着たバイクの男、蓮見悟

何箇所もが炎上する街を捨て、亜矢子は山間の町へと向かった。

火事の気配もなく、人気が絶えた町にたどりついた彼らは、土塀に囲まれた屋敷を拠点に選んだ。

がインターネットを使って調べると、この動植物かかわらず消失する事件は日本だけでなく、世界中で起こっていた。

しかし、原因は何もわからない。

 

どうも、神といったような、人間以上の上位存在を介するような話はどうも、ズルいような気がしてなりません。ちょっと興を削がれるような感じが・・・。

そういう意味では表題作の「審判の日」はもうちょっと、今ひとつという感じでしょうか。シチュエーション自体は面白いんですが、話がどうも静的で、オチも神様オチなので、あまり面白みを感じません。

闇が落ちる前に、もう一度」は設定が面白い。かなり引きずり込まれる材料なんですが、なぜか序章で終わってしまったという印象が非常に強いですね。これからなのに、といった不完全燃焼感の残る作品になっています。何だかもったいない作品です。

屋上にいるもの」。これってホラーなんですか。何もいうことがない。えーっと、そういうこともあるんでしょうって、感じでしょうか。

時分割の地獄」。お得意のAIネタ。一番筆がのっているような感じはしますが、ちょっと描写が細かいですね。読みづらい。最後のオチはうまかったんですけどね。

夜の顔」。これも神様ネタに近いんでしょうか。「神様」+「妖怪」といった題材をホラー作品に仕上げましたといった印象です。これもまた、ホラー作品というには中途半端で、何だか消化不良です。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『賢者はベンチで思索する』 近藤史恵

Kenja 2009年、21冊目。近藤史恵『賢者はベンチで思索する』

『ふたつめの月』の前作なんですね。読む順番を間違えてしまいました。

ただ、順番が違っていても、それぞれ十分楽しめる作品になっています。

キャラクターにブレがないので、安心して読み進められます。

 

ファミレスの老人は公園で賢者になる

服飾の専門学校を出た七瀬久里子だったが、思うような就職先がない。

安易な先に就職したくなかった久里子は家の近くのファミリーレストラン「ロンド」でアルバイトをしている。

ある日、久里子は同僚のウェイトレス土田美晴から「犬、飼わない?」と頼られる。捨て犬を拾ってしまった美晴だったが、美晴の部屋はペット禁止だったのだ。

両親が反対するだろうと安易に請け負った久里子だったが、意外にも両親はこれを肯うのだった。

しかし、3日後、久里子美晴に回答したときには犬は病気のため死んでしまっていた。

まだ、飼ったわけでもない犬の話だったが、久里子は切なくなってしまう。そんなとき公園で出会ったのが、ロンドの常連国枝老人である。国枝久里子に話しかけると、ドロップをよこすのだった。

国枝は週に3回くらいロンドにやってきて、同じ席に座る。頼むのはコーヒー一杯のみ。それで何時間も粘る老人だった。

しかし、翌日、礼を言う久里子に素知らぬ風を装う国枝だった。

公園で久里子と話す国枝と、ロンドにいるとき、世間の(惚けている)評判としての国枝との間のギャップは大きかった。

久里子の母は保健所から茶色い中型の雑種犬を連れて帰り、(連れてきた日が大安だから)「アン」と名付ける。

街では、犬に毒を盛ったりする事件が相次いでいた。

そんな中、二浪しながら部屋に引き篭もってしまった弟が早朝にこっそり家を出るのに気づいた久里子はあとをつけるのだが、その際に公園で頭を割られた雑種犬を発見するのだった。

また、公園で国枝と話をする最中、久里子が目を離したアンは草むらに放置された毒入りのエサ(ナメクジ駆除剤入りの菓子)を口にしてしまう。

一命をとりとめたアンだったが、子どもの頃、動物虐待をしていたの早朝の外出に、久里子は心配を隠せない。

相談を受けた国枝はなぜか久里子に孫役をして一日付き合って欲しいと頼むのだった。

国枝久里子がともに巡ったのは何軒かのブリーダー。

何軒かを巡った国枝久里子が最後に選んだのは一頭の中型の雑種犬。茶色で鼻先と足の先だけが黒い。

しかし、なぜか国枝は犬に名前をつけようとはせず、早朝、その犬とともに公園に張り込んだ。

 

ありがたくない神様

ロンドに新たに入ってきたバイト弓田譲に惹かれる久里子

そんな中、ロンドでカレーを口にした客から「妙な味がする」というクレームが寄せられる。

調査の結果、何事もなかったが、その数日後にも、子どもがスパゲティを食べて嘔吐するという事件が起こった。子どもは病院に運ばれるが、幸いなことに食中毒等ではなかった。

しかし、一件目も二件目の事件も新入りである弓田が調理したもの。

決して弓田に落ち度があるといえない事件ではあったが、この事件を通じて、人の口にするものをつくることに恐れを抱いた弓田は、「俺、もうちょっとしたらこの店やめるかも」と久里子にこぼすのだった。

弓田の苦境をみかねた久里子国枝の自宅を訪ねた。相談する久里子国枝は「なにか恨みを買うようなことがなかったか、調べてみてくれないか」と頼む。

更に、ロンドには犯人からと思しき脅迫状が届けられる。

衿を正せ、自分に恥ずかしくない仕事をしろ。でなければ悪いことがまた起こる

久里子は同僚らに聞いて回るが、これといった手掛かりは出てこない。

調べまわる久里子に声をかけたのは、同じくウェイトレスの前川千春。恨みではないが、常連の男に絡まれているというのだ。しかし、男の言うことは至極尤もで、千春に(不衛生なので)髪を結べといっただけだった。

国枝千春の言うところの因縁男が事件の当日現れたかどうかを久里子に調べさせ、一つの仮説を提示する。

 

その人の背負ったもの

ロンドに刑事(石坂)が訪ねてくる。

ロンドの駐車場に面した家の子ども高倉肇(小三)が行方不明になったのだ。

国枝が行方不明となったと一緒にいたという証言が寄せられ、事件は誘拐事件として取り上げられるようになる。

国枝を信じたい久里子だったが、国枝が常に座っていた席は高倉家が臨める場所だったのだ。

加えて、久里子はもう一つ疑念を抱えていた。子どもの頃、国枝の家の前で転んだ久里子国枝に介抱された覚えがうっすらと残っているのだが、その国枝国枝老人とは別人のように思えたのだ。

確認するべく国枝の家を訪ねた久里子は、国枝家のアドレス帳から、以前知り合った国枝の友人重田通臣の電話番号を調べると、すぐさま連絡をとった。重田の保有する写真から確認した国枝の顔は、久里子の知る国枝老人とは全くの別人だった。

その頃、石坂刑事もまた国枝老人が「国枝一郎」ではなく、国枝を騙った別人であることに辿り着いていた。

国枝に騙られていたことにショックを受けていた久里子石坂に、国枝がかつて使った偽名「赤坂浩一郎」を告げた。

たしかに似ている・・・・・・

呟く石坂によれば、赤坂とは、これまで何度も捕まったことのある詐欺師の名だった。

 

国枝赤坂)は謎が多いまま終わっています。次作の『ふたつめの月』もそうですが・・・。いつか、その過去が語られるときが来るんでしょうか。

久里子のキャラクターはそんなに立っていませんが、特に特徴がない分、ストーリーの邪魔をせず、ストーリーを純粋に楽しめます。

弓田もそうですが、『ふたつめの月』になって、ちょっと肉付けされてきますが、この作品のなかではあまりぱっとした存在ではありません。

しかし、最後の誘拐事件は詳しいことは知らないまでも、次作で何度も仄めかされる事件なので、どうも先読みできてしまい、ちょっと興がそがれてしまったかもしれません。

やっぱり、ちゃんと順番通り読まなくちゃダメですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『モップの魔女は呪文を知っている』 近藤史恵

Moppujumon 2009年、20冊目。近藤史恵『モップの魔女は呪文を知っている』

シリーズ3作目です。

適度に楽しい作品で、各話のレベルに上下があまりないので、安心して読めます。

 

水の中の悪意

スポーツクラブでバイトする殿内亨(27)には秘かな楽しみがあった。

閉館時の点検を一人でこなす際にはスポーツクラブのプールで一人全裸で泳ぐことだった。これを発見し、悲鳴をあげたのは夜間清掃に入っていたキリコ梶本桐子)だ。

 

プールの監視をしていた殿内は、何か熱いものが身体にかかって火傷を負ったとのクレームを訴えられるが、判断がつかない。焦れた女性は近くに立っていたスイミングインストラクターに声をかける。

精悍な顔立ちと適度に鍛えられた身体で、女性会員にはカリスマ的人気のあるインストラクター堀部祐輔だ。その場をうまく捌く堀部に、格の違いを感じさせられる殿内だった。

数日後、またプールの中で「熱い!」と叫ぶ女性が現れ、クラブへのあらぬ噂も飛び交うようになる。

相談する殿内キリコは、この一件は狂言だと看破する。

 

愛しの王女様

大学のために東京に出てきて一ヶ月。とあるペットショップで目にしたスコティッシュフォールドが気になって仕方がない鶴田奈津は、一念発起して、この”王女様”を買おうと決意する。

しかし、先立つものがない。平日は運送業者の事務、携帯電話の勧誘スタッフ、そして早朝のオフィスビル清掃。バイトに精を出す日々が始まった。

奈津はペットショップの店員豊田に買いたい旨を打ち明けるが、お金もない以上、待ってもらうわけにもいかない。しかし、猫に”プリンチペッサ”(プリン)と名付け、楽しみにする奈津の思いを汲み取った豊田は「積極的に販売することはしない」と約束をする。

プリン”のため食べるものも削って、バイトに励む奈津だったが、ある日、清掃のバイトの途中、貧血で倒れてしまう。これをキリコが発見し、介抱する。

しかし、奈津の努力もむなしくプリンは売れてしまう。傷心の奈津を慰めるべく、豊田プリンの産まれたキャッテリーを紹介する。

キャッテリーの村林に電話した奈津は、なぜか買主からプリンが戻されてきたことを聞き、すぐ村林からプリンを引き取った。

こうしてプリンとの幸せな生活が始まった奈津だったが、ある日、部屋に帰ると、プリンの様子がおかしい。

瓜二つだが、それはプリンではなかった。

 

第二病棟の魔女

只野さやかは小児科の(子ども嫌いの)看護師。

ある日、病室で話し込む悪ガキたち(三木大地杉本祐太中村昴篠崎洋)から「魔女って本当にいると思う?この病院に魔女がいるって、噂を聞いたんだ。」と問われたさやかは、そっけなく「いるわけないじゃない」と答えてしまう。

この答えを言い訳にして、悪ガキは夜間に病室を抜け出すと、病院を徘徊する。このさやかの不注意な言動は先輩看護師市原(主任)から叱責を受ける。

悪ガキの鼻をあかすべく、魔女を目撃した井上雪美から話を聞き込んださやかは、夜勤の際に(悪ガキが侵入したという)1階のリハビリセンターに張り込んだ。

見つけたのは、夜間清掃の女の子、キリコだ。

雪美の話を聞いたキリコさやかにプレゼントとしてブレスレットを託すが、なぜか雪美は受け取ろうとはしなかった。

雪美は腎臓のトラブルで入院していたが、なぜか検査結果には異常はなかった。この結果を疑う母親はちゃんと精密検査をするよう求める。

ある日、キリコさやかを訪ねてきた。雪美が手紙をくれたのだという。

びょうきにしてください

不思議な手紙の内容はさやかの手には負えない。看護師長の金居に相談すると、「雪美は学校嫌い」なのだという。

検査結果に異常のなかった雪美は退院していった。

しかし、数日後、血尿を出したうえ嘔吐して雪美は再度入院となってしまう。

だから、きちんと調べて下さいと言ったのに・・・。

看護師らに詰め寄る雪美の母親になぜか看護師たちは冷たかった。

看護師らは雪美の母親を「代理によるミュンヒハウゼン症候群(MBP)」(他人を病気に仕立て上げる心の病気)ではないかと見ていたのだ。

これにショックを受けていたさやかだったが、更に看護師長の金居さやかに告げた。深夜清掃の作業員など、いないのだと。

 

コーヒーを一杯

深夜のオフィスでアクセサリー通販会社”ボーノ”社長坊野美穂はちょっとした諍いから妹果穂を殺してしまう。

両親ともになく、たった一人の肉親である妹を殺してしまったことを後悔する美穂だったが、そのうちに果穂を隠してしまうことを思いつく。

しかし、隣のオフィスから人気は消えない。

運び出すのは後回しにして、オフィスのラグ等の染み抜きに精を出す美穂だったが。トイレに向かう途中、人にぶつかってしまう。

オフィスの清掃にやってきたキリコである。

動揺した美穂はキリコに清掃の必要はないというのだが・・・。

 

水の中の悪意」「愛しの王女様」は、いかにもこのシリーズらしい作品です。安心して読める作品になっています。

第二病棟の魔女」のMBPって、実際にも京大付属病院でこんな事件ありましたよね。作られた時期からすると、この作品の方が先行していたんですか・・・。楽しい話ではありませんが、何だかタイムリーですね。

コーヒーを一杯」はちょっと短く、内容も薄い作品になってしまっています。何だか、無理矢理ページを埋めるために作られた作品というか、捻りも何もないというか・・・。もうちょっとページを使ってでも、もっと膨らみのある作品であって欲しかったですね。

全般に、今回はキリコの出番の少ない作品だったようです。

キリコの存在感が強いのは「第二病棟の魔女」でしょうが、これもまた、祖母を亡くすという事実が語られるだけで、あまりキリコ目線での話でもないので、何だか今回は客演といった印象の強い作品だったかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『忍びの国』 和田竜

Shinobi 2009年、19冊目。和田竜『忍びの国』

伊賀の国が織田に滅ぼされる前夜の話。

主人公は伊賀の超一流の忍者無門と北畠の硬骨漢日置大膳

主人公が二人で、二人の考えることがそれぞれ異質なので、ちょっとストーリー自体がとっちらかってしまったような趣きのある作品となっています。

 

大河内合戦のすえ、和睦のしるしとして織田信長の次男信雄北畠具教の養子として迎えられ、家督が譲られた。

天正四年(1576年)、北畠家の家臣である柘植三郎左衛門長野左京亮日置大膳は現在の主である北畠織田信雄の命に従い、旧主である北畠具教を三瀬御所に討った。

この信雄の命が気に入らない大膳は協力を渋るが、左京亮を助けるため、止む無く具教に止めを刺す。

信雄に従う気にはなれない一本気の大膳信雄の懸隔は広がるばかりだった。

具教信雄に嫁いだ娘北畠家秘蔵の名器”小茄子”を託すと落ち延びさせていた。

 

北畠の領する伊勢国と接する伊賀国では地侍66人が跋扈し、互いを責め合う中で、忍びの術が磨かれていた。

下山甲斐百地三太夫もまた、いつものように争うが、争いのなか、甲斐の次男次郎兵衛が命を落とす。しかし、嫡男以外は下人同然とみなす甲斐は一切気にすることはない。そんな父、そして伊賀の風土、考え方に嫡男下山平兵衛はつくづく嫌気がさすのだった。

伊賀の地侍の間の盟約により選出された”十二家評定衆”の間で、織田に下るとの決定がなされ、使者の役目を平兵衛が務めることになる。

しかし、この人間味のない伊賀国自体を滅ぼしてしまいたいと考える平兵衛は使いの途中、単独行に転ずると、北畠信雄のもとにかけこみ、伊賀へ攻め入るべきことを進言する。

かつて伊賀の十二評定衆でもあり、平兵衛と同じく伊賀の習俗に嫌気を催して、織田についた柘植三郎左衛門もまた、平兵衛の言に声を合せ、伊賀侵攻を信雄に進言する。

信雄の父信長の意向を曲解させた三郎左衛門信雄に伊賀攻めを決意させるが、日置大膳は「伊賀攻めは弱いものいじめ」と解して参加するつもりはなかった。信雄の前でも、不参加を公言して憚らなかった。

しかし、平兵衛の裏切りもまた、十二評定衆にとっては策のうちだった。下山甲斐百地三太夫は、敢えて直情である平兵衛の心を揺さぶって織田に寝返らせ、伊賀を攻めさせるよう仕組んだのだ。

信雄らの軍勢に勝利すれば、”織田軍を破った”という武名が全国に広がる。彼らの忍びとしての価値もはねあがり、全国の織田に敵する大名からの求めが増えるだろうと考えたのだ。

そして、彼らには勝算もあった。信雄大膳の関係が離れており、北畠の主力である大膳は伊賀攻めを拒むだろうと踏んだのだ。

伊賀への侵攻の足がかりとして、伊賀国内に丸山城を再建することを柘植三郎左衛門信雄に進言する。金に目のない伊賀者であれば、最初は渋っても肯うだろうと踏んだのだ。

事実、丸山城の再建後は伊賀の十二評定衆に委ねるとの口約束や、その築城にかかる資金を北畠が出すとの申し出に、一も二もなく食いつく十二評定衆に、同道した大膳も呆れ返る。

お前ら馬鹿か

大膳は敢えて信雄の本当の狙いを十二評定衆に暴露することで、伊賀攻めを止めさせようとするが、(敢えて信雄に攻めさせたい)十二評定衆は聞く耳を持たない。むしろ、伊賀攻めを阻止しようという大膳の姿に、勝利の確信を強めるだけだった。

丸山城が伊賀の下人たちの手により築きあげられるや否や、柘植三郎左衛門北畠の兵を城に込め、伊賀者を放逐してしまうが、これも十二評定衆には予想のうち。百地三太夫は下人の文吾(後の石川五右衛門)に命じて、火をつけさせてしまう。

這う這うの態で逃げ帰った三郎左衛門の報告を受け、激怒した信雄は伊賀攻めの準備を進める。

 

伊賀の超一流の忍びである無門百地三太夫の下人である。彼は殊の外、金に執着する男だった。下山次郎兵衛を斬ったのも三太夫から永楽銭百文で請け負ったのだ。

無門が金に拘るのには理由があった。

安芸国の千石取りの武将の娘お国を拐した無門だったが、お国からは「年ごとに四十貫文を稼ぐようになるまでは夫婦の契りは結びませぬ」と宣告され、家から追い出されていたのだ。

丸山城の築城ではなんとか羽振りの良かった無門だったが、国を守る戦いともなれば、ただ働きだ。無門お国の顔を思い浮かべると、憂鬱な気分になるのだった。

加えて、伊賀の下人たちは織田との戦を控えて、半数が逃げ出す準備を始めた。無門はただ働きのうえ、勝つ見込みもない戦に出るつもりはない。

戦を回避するべく、無門は旧知の日置大膳のもとへ走った。しかし、日置大膳は動かない。無門は更に走ると田丸城の信雄を襲った。

信雄を脅しつけ、伊賀攻めを翻意させるつもりの無門だったが、これは逆効果。身の危険も顧ず、傲然と無門に伊賀攻めの意を明らかにする信雄だった。

信雄の危機に、田丸城に駆けつけた大膳だったが、敢えて信雄を刺激する伊賀国の手口に不審をおぼえる。

下山平兵衛の言葉から、逆に、大膳は伊賀への先入観から誰もが踊らされていることに気づいた。ここに至り、大膳は「弱いものいじめ」ではなく、伊賀国を強敵と認めたうえで、信雄に参陣を申し出るのだった。

無門は伊勢から戻る途中、具教の娘から「信雄を討つ」ことを条件に”小茄子”を託されるが、勿論、無門に約束を守るつもりはない。

一万貫の値打ちのある”小茄子”をもって、お国と逃げようとする無門だったが、武家の娘として、国を捨てることを渋るお国だった。しかし、女子ども皆殺しで臨む信雄の姿勢を聞くや、逃げることに同意する。

北畠信雄は軍を三つにわけて侵攻した。阿波口からは信雄が、馬野口からは柘植三郎左衛門長野左京亮、伊勢地口からは日置大膳である。

大膳の参陣を知らずに)期待通り進んでいるとみていた十二評定衆だったが、戦になって初めて下人たちが逃散していることに気づいた。下人が十二評定衆に逆らうとは予想だにしていなかったのだ。

伊賀国が劣勢に立つ中、御斎峠を越えようとしていた無門はまたお国の機嫌が悪くなっていくのに憂慮していた。例え逃げたとしても、お国の機嫌が悪いのでは仕方がない。

意を決した無門は”小茄子”売却で得られるであろう一万貫をエサに、共に逃亡中の下人に呼びかけるや、戦の渦中へ身を投じるのだった。

 

織田に滅ぼされる前の伊賀国という、なかなか取り上げられない話で、非常に興味はひかれましたが、なんというか、あんまりぱっとしないんですよね。

どうも小者どうしというか、ダイナミックさに欠けるというか。

十二評定衆という存在も、今一つ描き方が弱いのか、どうも性格が分かりにくく、この作品の中でのポジション、捉えどころが難しい。

キャラクターとしても、日置大膳は一途、硬骨漢的なステレオタイプなキャラクターの印象が強い一方で、妙にキレる(逆に、伊賀国の策略を見抜くあたりは唐突感が強い)ので、何だかわからなくなってしまいました。

冒頭から登場する大膳の友人長野左京亮大膳の心配ばかりしているわりには、兎に角影が薄い。

柘植三郎左衛門もよくわからないキャラクターだし、最初の登場時は主要キャラクターのように見えながら、殆ど牢獄につながれたまま終わってしまった下山平兵衛も同様です。

無門も超絶的な技巧を見せつけるわりには妙に弱気というか、柔弱というか、変な二面性をもったキャラクターで終わっています。お国も同様によくわからないキャラクターですが。

全般に、とらえどころのないキャラクターが多い分、ストーリー全体の収拾がつかなかったような気がしてなりません。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『屋上ミサイル』 山下貴光

Okujo 2009年、18冊目。山下貴光『屋上ミサイル』

第7回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞作品です。

でも、ちょっと、この作品が大賞っていうのは苦しいんじゃないでしょうか。確かに青春群像劇といったところは、それなりに楽しめるんですが、”ミステリー”って言われると、ちょっと(というよりも、かなり)ツライ。

 

アメリカで大統領がテロリスト集団「レッドマッシュルーム」に拉致監禁され、世界が騒然とする中、高校2年、美術デザイン学科の辻尾アカネは課題のために学校の屋上にのぼった。

初めて上がった屋上にいたのは、不良として有名な普通科2年の国重嘉人国重は毎日昼休みには屋上で過ごすことを日課としていた。

国重の幼馴染の沢木淳之介は屋上のフェンスにへばりつきグラウンドを眺めていた。陸上部のエース宮瀬春美を観察していたのだ。恋する宮瀬に告白するまではと、沈黙を続ける沢木だった。

そこへやってきたのは”人殺し”と噂される1年の平原啓太。彼はあっという間にフェンスを乗り越えた。慌てるアカネらに「自殺ではない」と告げる平原のその態度は何者かにアピールするかのようでもあった。

各人各様に「屋上」を欲する彼らに向かって、国重は宣言した。

よしっ。お前たちの屋上に対する愛情は充分に理解できた。今日から俺たちは屋上部だ

まんざらでもなさそうな平原の言葉に、アカネも流され、4人による屋上部が結成された。

「屋上の平和を守る」ことが活動内容となる屋上部にまず持ち込まれたのは「殺し屋探し」である。

国重が拾った写真には死体と思しき男が写っていた。「金永徹」という名前の書かれた写真は”殺し屋が殺しを行った証明写真に違いない”と主張する国重は、この写真を手掛かりに「殺し屋」を探したいと言い出したのだ。

同じく、沢木も偶然に拳銃を拾っていた。喫茶店”ドリーム”へ行った際に足元にあるのに気付いたのだという。

これは屋上の危機だ」と主張する国重だったが、アカネは乗り気になれない。

「何かほかにやりたいこと」を尋ねる国重に、平原は『罰神様』を挙げた。

トンネルの中に現れ、罪深い者には罰を与えるという都市伝説だ。

5歳の頃、銃の暴発で弟を死に至らしめた平原は罪悪感を抱え生きてきた。その弟からの罰を受けるべく、トンネルに入った平原を角材を持った男が襲った。

3浪の挙句、ストレスから神様気取りとなった清水俊夫である。

平原を角材で殴りつけたところを国重に取り押さえられた清水は自己の正当性を滔々と語るが、国重は聞く耳を持たない。国重清水の暗視ゴーグルとトンネル内に隠された通路を開くための鍵を取り上げるのだった。

翌日、屋上に集まった4人のところへやってきた宮瀬春美は、沢木の前に立つと、拳で殴りつけた。

あなたでしょう。屋上からじっと見ているのは知っていたけど、害はないし、放っておいたのに、学校の外までつきまとうなんて、男として最低だよ。そういうの、迷惑だから。そういうの、わたしは許せないから

ショックを受ける沢木だったが、彼はストーキングはしていない。

沢木の濡れ衣を晴らすため、学校から帰る春美国重アカネはつけるのだった。

春美の家の直前、春美をつける男の存在に気付いた国重はストーカーを取り押さえた。男はフリーカメラマン石川重富。隠し撮りした写真を雑誌に投稿しようとしていたのだ。

国重石川を脅しつけると、ストーキング行為を止めさせた。こうして、春美の誤解は解けた。その過程で、アカネの描いた金永徹の似顔絵を見た石川から国重金永の正体を知る。金永詐欺師だった。

次に事件を持ち込んだのはアカネだ。

未来のロックンロールスターを目指すアカネの弟寛之が何者かに怪我を負わされ、病院(桜中央病院)に運び込まれた。病院に事情を聞きにやってきた刑事は警視庁組織犯罪対策部の長塚警部と堀江桜署刑事課薬物・銃器対策係の田淵勇作刑事。

完黙を通す寛之だったが、寛之の漏らしたヒント「ロックは死んだ」をもとに屋上部の4人は聞き込みを始める。寛之がバンド仲間高嶋龍二と殴り合いの喧嘩をしたことはわかったが、高嶋は行方知れずだった。高嶋は非合法のクスリを使用していたのではないのか。(後に、平原の情報で高嶋がクスリの売人であったことが判明する。)

喧嘩の後寛之と一緒だったという「Gold Park」ボーカル都築照也はまともな答えを返さず、捜査は行き詰る。

そんな時、国重アカネに声をかけてきたのはサラリーマン風の”殺し屋矢田国重を殺すことを請け負ったというのだ。逃げる二人は罰神様の一件で知ったトンネル内の隠し通路に身を潜め、殺し屋をやりすごす。

そんな中、死んだはずの金永徹が生きていて、詐欺を働いているという情報が平原からもたらされる。

金永を捕まえるべく、変装した沢木をおとりに詐欺現場に乗り込む屋上部の面々。問題の詐欺現場に金永はいなかった。しかし、その帰り道、偶然、金永と行き会った沢木金永の後をつけ、住所を確認していた。

喜ぶ屋上部の面々だったが、そこへ沢木に電話がかかる。それは警察から、宮瀬春美が誘拐されたことを知らせる(沢木に同件での事情を聴取する)電話だった。彼らが金永の一件を追っている最中に、春美が誘拐されてしまったのだ。

アカネ田淵刑事を呼び出すと事情を確かめる。

前夜、警察に「女の子(宮瀬春美)を拉致した」と出頭した男があった。しかし、担当の者が少し目を離したすきに逃げてしまったのだという。

警察に出頭してきたところをみて、謝罪と贖罪を望む犯人であると推測する屋上部は早速、犯人をおびき寄せるべく「懺悔室」を公園に設置し、その効用を口コミで広げる。

懺悔屋3日目で犯人がつかまる。懺悔室で宮瀬春美の拉致を懺悔したのは”罰神様”清水俊夫だった。しかし、清水は人に頼まれた(脅迫された)だけだった。清水金永徹に騙された挙句、宮瀬春美の拉致を請け負っていたのだ。現在の春美の居場所を知らない清水を放り出し、彼らは沢木の調べていた金永のマンションに向かった。

金永徹は生きていた。

突然来襲した屋上部に金永は手も足も出ない。国重に締め上げられた金永は、拉致はドラッグディーラーであるスマッシュの部下に頼まれたことだという。

その本拠は『GENIUS』というクラブの跡地。春美はそこに捕らわれている可能性が高い。

しかし、まともに中に入ることは困難だ。

彼らはスマッシュが主催する『東京消滅』というドラッグパーティーに潜り込むことを計画した。

そんな中、国重アカネ殺し屋に追い詰められた。

絶体絶命の中、依頼主を問うアカネに、(結婚指輪を落としたり、「金永徹」の写真を落としたり、と手落ちの多い)殺し屋は、今回の殺しの背景を語りはじめた。

原因は夫婦喧嘩だ。殺し屋の妻矢田紀美子(33)は浮気をしていた。妻をつけた殺し屋はラブホテルの前で談笑する妻と国重の姿をみかけ、国重を浮気相手だと誤解したのである。殺し屋自身が依頼主となり、殺し屋国重殺害を依頼したのだという。

しかし、これは誤解だった。国重は実家が経営するラブホテルのアルバイトをしていただけで、「落し物」の有無を尋ねてきた紀美子と話をしただけだった。

浮気相手、知ってるぞ。あんたの奥さんって、これじゃねえのか

国重が示したのは確かに矢田紀美子の写真だった。国重金永のマンションを襲ったときに、結婚詐欺の相手として矢田紀美子を記した書類を発見していたのだ。

こうして殺し屋は去った。

伝説のバンド『36KINGS』が復活する。そのドラムとして平原はドラッグパーティーに出演することで、チケットを入手したのだ。

『36KINGS』の演奏の最中、平原が会場の電源を落とすと、真っ暗となった会場を屋上部は走った。春美が監禁されると思われる二階へ。

監禁されていたのは宮瀬春美高嶋龍二

二人を連れて逃げようとする屋上部の前に、スマッシュらが現れた。このスマッシュは、殺されたスマッシュ(韓国人)の跡を継いでいた。

 

ご都合主義、偶然の連続。それこそ世界の上から、すべての手掛かり・物証を一つにまとめるような神の手が働かない限り、ありえないような展開。あまりにも・・・という展開に、心の狭い私にはとてもついていけない不自然さ。

加えて、登場人物たちの言葉を借りて語っているのであろう、作者の思想・発想がどうも青臭いというか、借り物的で上滑りしている感も見受けられ、興ざめ。

作品にインパクトをつけようとしたのか、戯画化を試みたのか、わかりにくいのですが、登場する評論家の”近藤さん”もまた、(読者を面白がらせようという意図が妙に見え透いていて)滑ってしまったキャラクターでした。

”殺し屋”の妙なキャラクターは純粋に面白かったんですけどね。まぁ、「いねーよ、こんな”殺し屋”」って感じなんですが。

屋上部の四人、そしてアカネの弟寛之はキャラクターの特徴もみえて、生き生きと動いているので、下手に技巧にこらず、もうちょっと身近な人間を深く掘ったほうが面白みが増したんじゃないでしょうか。特に、アカネの友人野江崎良枝アカネの両親、国重の父親。

また、文章力・説明力としても、ちょっと読者をなおざりにして突っ走ってしまっているところもあります。大詰めで登場したスマッシュ都築照也キム・ヨンチョル金永徹長塚らの相互関係や国重アカネたちとの関係が非常にわかりにくい。登場人物たちは納得感のある様子ながら、どうも伝わってこない、このもどかしさ。なんとかして欲しい。

簡単に読める一冊ではありますが、全般を通してなかなかツライ一冊でもありました。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『ヒートアイランド』 垣根涼介

Heatisland 2009年、17冊目。垣根涼介『ヒートアイランド』

しまった、読む順番を間違えた。

『ギャングスター・レッスン』の前作がこの作品なんですね。

なるほど『ギャングスター・レッスン』が中途半端なはずです。あくまで、あれはこの作品の後日譚というか、付けたしでしかなかったわけですから。

その分、この作品の内容は濃いですね。

三つ巴というか、四つ巴(4だと巴じゃないですが・・・)といったように、立場の違う勢力の騙しあい、化かしあい。時間との戦いの中で、情勢が次々と変わっていくスピード感。非常に面白い作品です。

 

父親の勤めるメーカーの倒産などを通じて、世のシステムを無常を感じたアキは、システムに乗るための方策である高校を中退した。

しかし、新たな価値観を見つけることもできず、渋谷でくすぶり続ける日々のなか、アキカオルと出会う。

カオル渋澤薫は裕福な大蔵官僚の家に生まれたが、子どもに関心を持たない冷たい家庭に育った。社会のなかでの自分の立ち位置を模索するカオルもまた、社会制度に依存する自身の未来を忌避し、自立の道を探っていた。

高校にいかず大検にパスして一人暮らしを始めたカオルは、渋谷のセンター街でストリートギャング同士の喧嘩に遭遇し、一つのビジネスを思いつく。

素人参加のケンカをショーとして見せるのだ。

しかし、柔弱に見えるカオルが主催することは困難。カオルは共にビジネスを行う相棒を渋谷の街で探し始めたが、うまくはいかない。殴られたり、金をせびられる有様だ。

こうして殴られているカオルを助けたのがアキだった。

カオルを助けた理由を”お人よし”のせいだというアキに、カオルは話を持ちかけた。

二人は更に仲間を集めた。

渋谷のストリートギャングのヘッドを呼び出すと、アキが完膚なきまでに叩き潰したうえ、ビジネスの話をもちかけたのだ。

こうして、アキカオルと4人のヘッド(タケシサトルユーイチナオ)という6人の『雅』が結成された。

こうして始められた”ファイトパーティ”は回を重ねるにつれ、口コミで広がっていった。

この評判の”ファイトパーティ”に、遊ぶ金欲しさに参加したのは中堅暴力団「麻川組」の若頭黒木政則)が仕切る「光栄商事」のリュウイチ小倉隆一)。リュウイチは圧倒的な強さで優勝するが、その容赦のないケンカにアキは眉を顰める。

 

表に出ない、裏金専門の3人の強盗団(柿沢桃井折田)は、大阪・ミナミに本拠をおく広域暴力団「松谷組」が経営する非合法のカジノ・バー(六本木6丁目)を襲撃した。

催眠ガスを換気用ダクトから流し込み、閉店間際の店の客ごと眠らせた上で、金を奪ったのだ。強奪した金は計8936万円。

金を山分けしたあと、折田が切り出したのは”引退”の相談だった。引き止める桃井だったが、柿沢は冷静に同意する。それぞれ餞別として300万円ずつを折田に渡すのだった。

最後の仕事を終え、家に帰る途中、折田がふと立ち寄った<<Bar Sinister>>で事件は起こった。

店の女性客に絡む金髪の男(タケシ)とスキンヘッドの男(サトル)を折田はつい制止してしまう。殴りかかるタケシだったが、鍛え続けてきた折田の敵ではなかった。

折田が店を出るところを待ち伏せしていたタケシ折田の後頭部を鉄パイプで殴打するなど半殺しの目に合わせたうえ去る。金の詰まったボストンバッグを抱えて・・・。

ボストンバッグに入っていたのは、3210万円。

あまりの高額の金に途方に暮れたタケシたちはアキカオルに相談する。

アキたちもまた、正体不明の金に困惑するが、程なくして、金の正体は判明する。

単に金を返せばいいというものでもなく、裏世界のプロフェッショナルとの対決を余儀なくされたアキたちは良い方策を探るのだった。まずは、”雅”に迫る敵の正体を探るべく、配下に指示を出すとともに、『雅』を探す者たちを通報した者に報奨金を出すと告知したのである。

一方、病院に担ぎ込まれた折田から事情を聞いた柿沢桃井は、折田から金を奪還する仕事を請け負う。手掛かりは「金髪とスキンヘッド」「アキ」「三日月形のペンダント」だ。

勿論、金を奪われた松谷組も黙ってはいない。幹部の久間はカジノの支配人井草保明らに指示を出し、手掛かりを探させるのだった。そして、偶然から「Bar Sinister」を見つけた久間井草は、渋谷を根城とするストリートギャングである「金髪とスキンヘッド」、「三日月形のペンダント」の手掛かりを得たのだ。

リュウイチは自分を見下すアキの態度が許せなかった。光栄商事を仕切る麻川組若頭の黒木アキの”ファイトパーティ”から資金を吸い上げる手口を建策する。

渋谷を治める黒木に「金髪とスキンヘッド」を探すよう依頼する松谷組の久間だったが、表面的に協力するように見せながらも黒木には久間に金を渡すつもりはなかった。

勿論、久間もそんなことはお見通しだ。手掛かりに反応したリュウイチの反応を見て、井草らに光栄商事を見張らせるのだった。

久間の持ってきた手掛かりから、松谷組が探しているのが『雅』だと確信したリュウイチ黒木にそれを告げる。

黒木は”ファイトパーティ”からの収奪とともに、松谷組の金をアキから奪う算段を始める。

渋谷で聞き込みを続ける途中、(報奨金目当てに)追跡する男たちに気付いた柿沢桃井は逆に男たちを叩きのめすと、アキたちの正体と根城とする店<<Cafe Bar,Red Cross>>をつきとめた。

アキも程なく柿沢らに”Red Cross”の場所が知られたことを知る。

タイムリミットは翌日の開店まで。

時間に追われるアキカオルに声をかけたのはリュウイチ黒木である。

”ファイトパーティ”のガード料を要求するとともに、それとなく松谷組の金のことを探る黒木の言葉は更にアキを追い詰めていった。

片方だけの顔をたてることはできなくなったアキは一つの方策を思いついた。

両方を共倒れさせるのだ。

翌日<<Red Cross>>の開店を前にして黒木を呼び出したアキは、遠くから見張る柿沢らに見せつけるように、折田のボストンバッグを抱えたまま、黒木とともに光栄商事に向かった。

柿沢は素知らぬ顔で、光栄商事に籠もる人数を確認すると、桃井とともに光栄商事へベレッタ(M8045・クーガーF)を携えて乗り込んだのである。

ここまではアキのシナリオ通り。しかし、ここでアキが想定していなかったもう一つの陣営が乱入する。

光栄商事を見張っていた井草久間を呼び出していた。黒木とともにアキが光栄商事に入り、加えてカジノ襲撃の犯人たちまでもが入っていったのだと。

 

柿沢桃井黒木、松谷組対麻川組、柿沢桃井対麻川組といった次から次への対決。そして事務所に閉じ込められた緊迫感と、最後は非常に盛り上がりを見せます。

それにしても、まぁ、最後は派手に死人が出てしまいました。

黒木リュウイチも意外とあっさりでしたが、本当のところはそうなのかもしれませんね。どんなにアクが強かろうが、腕っ節が強かろうが、関係はないんでしょう。

最後のこの盛り上がりが、おそらくこの作品の全てで、それまではちょっとご都合主義的なところも少なくありませんし、キャラクター自体がステレオタイプであったりする部分も見受けられます。

そんな中ではやはり正体不明の柿沢と桃井の明るさが光ります。どちらかといえば、アキカオルが主である作品ではありますが、やはり柿沢桃井の方にキャラクターとしては分がありそうです。

次作の『ギャングスター・レッスン』は今ひとつという感じでしたが、その後の作品はどうなっているんでしょうか。また、読んでみたいものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★★

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