『テンペスト 上・下』 池上永一

2009年、1冊目、2冊目。池上永一『テンペスト 上 若夏の巻』『テンペスト 下 花風の巻』
2009年の最初に読むに相応しいダイナミックな話でした。
若干話が奇想天外で、男装の麗人の大活躍というストーリーは20年程昔の少女マンガで取り上げられそうな題材です。
なかなか知識の乏しい琉球王朝の末期の姿が抵抗なく読め、ストーリーは勿論のこと、歴史的な史料としても非常に興味深い内容になっています。
首里の赤田村の一画。嵐の夜、一人の女の子が生まれた。難産の末、母親は死に、男の子を願っていた父親も期待はずれの女児出産に祝福することはない。
父孫嗣志は孫家再興を息子に賭けていたのだ。嗣志は姉の子嗣勇を養子に迎え、孫家の再興を託した。生まれた女児は3年間、名前もつけずに放置されたすえ、自身で付けた「真鶴」を名乗った。
琉球にあって、世は第二尚氏、尚育王の治世である。
琉球を統一した尚巴志の興した第一尚氏の裔である孫家を再度王宮に返り咲かせることが孫嗣志の願い。そのため息子嗣勇には厳しく接する。
王座を奪還するにはまず王宮に上ることが不可欠だが、高級官僚への道は極めて狭い。清と薩摩の二重支配を受ける琉球にあって、即戦力を求められる高級官僚・評定所筆者への登用には科試での合格が必要だったが、ひとりの合格者のないときすらある非常に難しい試験だったのだ。
嗣志は嗣勇に期待をかけるが、嗣勇はこれに応えられず、出奔してしまう。役人に捕まえさせようとする嗣志の前に出たのは真鶴である。女性を捨て、宦官と偽称して科試に臨むことを嗣志に申し出たのだ。秘かに学問を積んできた真鶴の力量に希望を見出した嗣志は真鶴に「孫寧温」を名乗るよう告げた。
著名な真和志塾への入塾試験で、神童の呼び声も高い喜捨場朝薫の答案を盗み見たとの疑いをかけられた孫寧温は真和志塾から放逐されるが、三代の王に仕えた名三司官麻真譲が構える破天塾に迎えられる。
麻真譲から理とともに情を伴った政策の在り方などの薫陶を受け、着実に寧温は力をつけていった。
それから2年。模擬試験を首席で通った寧温は科試にはじめて臨んだ。しかし、琉球の今後の在り様について、清にも薩摩にも組しない独立色の強い檄文にも似た寧温の回答は三司官からは嫌われ、不合格。
しかし、答案を見た尚育王は寧温の非凡な才能を見抜き、喜捨場朝薫らに加えて合格とするとともに、主任に相当する評定所筆者主取に寧温を抜擢した。13歳での合格は史上最年少であり、多くの年輩の評定所筆者の上司ともなった寧温を揶揄し、誹謗する声は大きかった。
同じ頃、清からの冊封使を迎えるため、踊奉行が辻村からスカウトした美少年は嗣勇であった。踊童子、花当として王宮に入った嗣勇は奇しくも王宮で性を隠した妹と再会することになったのである。
尚育王からは王宮の表である政治の舞台と裏である女宮御内原との架け橋となることを求められる寧温だったが、御内原は女の闘争の場であった。
国母、王妃(うなじゃら)、王女(うみないび)、側室(あごむしられ)の争いに王の姉である王族神聞得大君も絡んで、闘争が繰り広げられる。さすがの寧温にも為す術はない。
財政が逼迫する中で、寧温に王命が下った。しがらみのない寧温に財政改革が命じられたのだ。贅沢に慣れた御内原など、方々から非難を投げかけられる寧温だったが、屈せずに財政改革を断行するものの、国家財政に巣食う病巣に辿り着くことはできなかった。
そんな中、寧温の素性に不審を覚えた聞得大君は拉致した嗣勇から寧温の正体を聞き出す。嗣勇の身柄と寧温の秘密を握った聞得大君は寧温を傀儡として使おうとする。
王妃の放逐に手を貸さざるを得なくなった寧温だったが、更に薩摩の手に琉球を委ねようとするとする聞得大君の企てには協力できなかった。儚んで自害を図る寧温を助けたのは、寧温(真鶴)が恋い慕う薩摩の武士朝倉雅博である。
一命をとりとめた寧温は聞得大君を逆撃する。切支丹の証拠を捏造すると、聞得大君を投獄、平民に落としたのだ。聞得大君の位を追われ、真牛の名で呼ばれるようになった女はその後も寧温を付け狙うようになる。
政府が阿片に汚染されていることを知った寧温は愕然としつつも、上司、有力者に敢然と立ち向かったが、政府内の反感を呼んで寧温は左遷される。
しかし、糾明奉行の王命を受けた寧温と朝薫は政府内を調査するとともに、入荷元である清、出荷先である薩摩にも手を打ち、禍根を断つことに成功する。
この功により、寧温は朝薫とともに、摂政、三司官に次ぐ表十五人衆に昇格する。
阿片戦争後の清の衰退や欧米列強の進出を踏まえて、新たな時代を予感した寧温は琉球の科試にも新たな思想を取り入れようと図るが、ここに横槍を入れたのが清の宦官徐丁垓である。
寧温の偽宦官を見破った徐丁垓は寧温を傀儡化としようとするが、これを察した寧温は王宮を辞した。しかし、寧温が王宮から下がっている間に尚育王は薨去し、幼い尚泰が即位した。
摂政がおかれるとともに、国相として徐丁垓が王に直接力をかけることを怖れた寧温は王宮に復帰するが、口当たりの良い言葉で尚泰王を懐柔する徐丁垓の前に手も足も出ない。
琉球を我が物にしようとする徐丁垓の企ては着々と進む。これを阻止せんとする寧温は最後の手段に訴えた。徐丁垓もろとも断崖絶壁から飛び降りたのである。幸い寧温は辛うじて生き残ったものの、国相徐丁垓殺害の罪は重く、八重山島への流刑が決まる。
八重山島は英米の艦隊に砲撃さらされていた。囚人として送られたはずの寧温だったが、独立色の強い古見首里大屋子は、寧温を英米艦隊を撃退する任にあてる。
かつて難破した英国船を助けた褒賞としてナイトの称号を得ていた寧温は英国船と交渉して撤退させることに成功するが、列強の圧力が予断を許さないことを悟った寧温は沖縄島(首里)へ列強への備えを上訴する。
しかし、寧温の思いは通じない。流刑したはずの寧温からの上訴に憤った三司官や評定所は八重山で寧温を堅く拘禁することを命じ、寧温は投獄される。
黒水病(マラリア)に冒された寧温は山奥へ隔離され(捨て)られる。かろうじて一命をとりとめた寧温は八重山の最高神職大阿母に救われ、女(真鶴)として暮らすようになった。
首里からの役人(在番)をもてなす琉舞を舞った真鶴は在番の目に留まり、王宮で舞うことを命じられる。沖縄島への帰還を夢見ていた真鶴にとっては願ってもないこと。焦がれる雅博と添うべく、揚々と沖縄島へ戻った。
しかし、真鶴を待っていたのは側室(あごむしられ)の選定試験だった。教養を問われる試験に対応できたのは真鶴と有力士族向氏の娘(摂政の孫娘)真美那だけだった。側室にあがりたくはない真鶴は真美那に側室の地位を譲るが、友人を欲していた真美那の一言で、真鶴もまた真美那とともに側室にあがることとなった。
米国海軍を率い、ペリー提督が琉球を訪問する。
いつものように、のらりくらりと誤魔化す朝薫だったが、ペリーの態度は強硬で、もはや為す術もなくなる。そして王命が下りた。孫寧温を八重山より呼び戻すべし。
慌てたのは真鶴である。八重山で黒水病で死んだはずの寧温だったが、琉球の危急存亡のとき、寧温を復活させる必要があると考えた真鶴は嗣勇の助けを借り、真鶴と寧温の二重生活を開始させた。
ペリーの狙いが日本の開国にあると見抜いた寧温はペリーを手玉にとり、琉球を後回しにさせ、ペリーを日本へ向かわしめた。寧温は、日米和親条約を結び上機嫌なペリーに、相対的に琉球優位な琉米修好条約を結ばせることにも成功する。
しかし、日本の開国に伴う列強化に向けた動きは相対的に清の力を弱めることとなった。琉球における薩摩(日本)の力は増し、朝薫を含めて向氏など清国派は一掃され、寧温の兄嗣勇も閑職に回された。
薩摩の横暴に心を痛める寧温だったが、如何ともする術はなかった。しかし、富国強兵策を推し進める島津斉彬の急死により、薩摩派は後退。清国派の巻き返しクーデターが勃発する。懐妊していた真鶴は動乱の責任をとるという形で職を辞す。
生まれたのは王子。
喜びも束の間、大美御殿で催された満産祝いの席上、乱入した嗣勇は真鶴と寧温が同一人物であることを暴露する。唖然、呆然とする中、尚泰王から下された真鶴・寧温への沙汰は「久米島への一世流刑」だった。
そんな真鶴を不憫に感じた真美那は王子を誘拐すると、真鶴に託して身を隠させた。
孫明と名づけられた王子は真鶴・寧温の薫陶のもと成長するが、科試に挑戦することはなかった。
明治維新を経て力をつけた日本は1872年の琉球藩設置のあと、1879年に那覇に降り立った内務大書記官松田道之は琉球の取り潰し(琉球処分)を宣し、ここに琉球王国は終わりを告げた。
ちょっと調子良すぎという感じはしないではありませんが、流れのよいストーリーです。
真鶴と雅博、寧温と朝薫という、なんとなく恋愛ものというか、宝塚的というか、女々しい部分は個人的にはいかがかと思わないではありませんが、こんな設定が好きな人もいるんでしょう。
一方で、脇のキャラクターはなかなかいいですね。
特に、聞得大君・真牛と真美那。
真面目なだけの寧温に比べると、とにかく生き生きとしている感じです。
聞得大君はこの物語のほぼ全般を通じて寧温の敵役なんですが、寧温なしでも存在感を十二分に示しています。毀誉褒貶が激しく、彼女が主人公でも何ら違和感を感じません。
ラストを勘案しても、実はこの物語は孫寧温の物語ではなく、聞得大君の物語だったのだといえる程存在感があり、引き際も潔かったですね。
「お嬢様爆弾」真美那も別な意味で存在感のあったキャラクターです。何をしでかすかわからないコミカルな設定で、どうしてもつまらなくなってしまう御内原の話を楽しくさせています。
一方で、徐丁垓はとにかくエグイですね。全くの怪人という感じで、使い捨てにされるわりにはかなりの存在感をもったキャラクターでした。
ストーリーは琉球王国の落日を背景に、男装の美少女が活躍するという話なんですが、ただラストがあんまりぱっとしないですね。歴史物のつもりで読んできて、最後が恋愛ものだったというような終わりは気持ちが悪い。
もうちょっと考えて欲しかったなぁと思わざるを得ません。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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