『厨房ガール!』 井上尚登
料理学校SWATの生徒たちのお話。
警察官出身の主人公唐沢理恵をはじめ多彩な料理学校の生徒らが解決する軽いミステリー(?)といったところでしょうか。
キャラクターで読ませる作品で、軽くて面白い仕上がりになっています。
唐沢理恵(28)は本番に弱い女である。
緊張すると手近な人物を投げ飛ばしてしまうという特技(?)を持つ。
現在、理恵が通っているのは、田園調布を見下ろす小高い丘のうえにある名門料理学院SWAT(セント・ワイズ・アカデミー・トラスト・クッキング・スクール)である。
昨年4月、7年間勤めた警視庁(南大田署少年課)を辞め、SWATの入学資格のため、レストランやバーでバイトのすえ、漸く入学したのだ。
珊瑚礁コンソメ
「俺がシェフだったら、お前は首だ」
完全に理恵を馬鹿にする正木弘文に、理恵は賭けを持ちかけた。
10年以内に理恵がシェフになれたら、正木が土下座して謝り、SWATが経営する格式高い銀座のレストラン”シェ・ワイズ”でご馳走すること。どうせなれっこないと、正木は軽く請合う。
正木はかつて7年も厨房にたっていたプロ。SWAT卒業の肩書きはレストラン業界では一目も二目もおかれる。この肩書きを得るためだけに、正木はSWATへ入学したのだ。
しかし、そんな正木の判断に、先生である黛シェフはなぜか「正木、その賭けはおまえの負けだ」という。
今回、黛シェフが指導するのは『珊瑚礁の海のように澄んだコンソメ』。
授業が終わった後も復習を怠らず、頑張ったはずなのに・・・。
2日後のコンソメの試験で、理恵は絶望的な気分でコンソメの鍋を見つめた。
しかし、厨房では誰もが、鍋の前で立ち尽くしていた。正木ですら腕を組み、眉間に皺をよせているのだ。
重量級パスタ
松藤シェフの指導で正午からのランチ実習を行う理恵たちだったが、クラスの問題児峰村楓がオニオンスープの味付けに失敗してしまう。出来上がったスープは塩辛かったのだ。
松藤は魔法の調味料を使い、スープの味を穏やかなものにしてしまう。”魔法だ”、理恵は感心する。
「先輩」
ランチ実習の最中、理恵に声をかけたのは警察官時代の後輩三品良明である。
多摩川西署に転属になった三品は、最近出没するレストランの売り上げを狙う強盗について、注意を呼びかけた。
理恵たちの食べる分がなくなった学食を後にして、理恵は峰村楓(30代のころころと太ったマシュマロマン。元ヤンキー、元暴走族レディス。)や坂田美江子(クラスで一番若い18歳。小柄で目が細く、えらもちょっと張っているヒラメ顔だが、それはそれで可愛い。)とキッチン・ダックスで昼食をとることになったのだが、店の様子が変だった。
味がなにか違うのだ。
塩辛ソルト
パンの神様と呼ばれるブランジェ、フィリップ・ジャケがSWATで講義を行った。
フランスで人気のショコラスリーズを作るのだが、ムッシュ・ジャケの指示通りに作ったパンは何故か塩辛かった。
翌日、この講義を欠席していた正木に三品が事情聴取を行う。
講義の時間、正木が会っていたトウドウフード企画の副社長久能一之が殺されたのだ。
正木の恩人が店を乗っ取られそうになっているのを見かねた正木は、久能と口論になった。
正木が副社長室を出た後、副社長室で胸をナイフで刺された久能が発見され、容疑者として正木が浮上したのだ。
間違いレストラン
クラスメートの篠原賢から依頼されて、食べに行ったレストランは奇妙だった。
「目をつむって食べると、おいしい」
正木が評するように、味は悪くないのだが、何かアンバランス、何かしら微妙だ。楓曰く”また行きたいとは思わない店”なのだ。
40代の篠原賢は元ヤクザ。
出所して、元妻の夢であったフレンチレストランの開業を手伝うために、SWATで修業する篠原だったが、元妻は既に店を開いていた。
今回、篠原が調査を依頼した店がそうだ。
理恵は料理を思い出してみると、テーブルクロスの色や音楽など、奇妙な点がいくつも気になりはじめた。
お怒りシェフ
理恵は学院から出て、川崎市のフレンチレストラン「エコール」で研修を行っている。
しかし、腕はいいが短気な池辺シェフに愛想をつかして従業員が次々と辞めていき、理恵は厨房ではなく、ホールで働いていた。
厨房一人、ホール一人という殺人的な忙しさの中、理恵は5万円もするワイン(2001年のシャトーマルゴー)のコルクを抜くのを失敗した挙句、池辺シェフを投げてしまう。
そんな店へ三品がやってきた。
多摩川の東京側の岸辺で死体が発見されたのだ。死体は安藤和久という窃盗常習犯。
この安藤の指紋が、最近頻繁に「エコール」に侵入しようとした指紋と一致したのである。
揚げ揚げキッチン
SWATの庭のイチョウの木の下を掘っていた不審な男は楓の夫峰村昌弘。
昌弘の働く運送会社の社長宅で行われる天ぷらパーティーに持っていくつもりだったのだ。
楓は理恵や正木らに参加を呼びかけるが、妙に愛想の良い楓に不穏なものを感じた理恵はバイトを理由にパスする。
恵比須にある理恵のバイト先のバル「ベジョータ」に、天ぷらパーティー帰りの正木が立ち寄る。
「いやなやつの揚げた天ぷらなんて、食べたくはない。うまいものでもまずくなる」
横暴な社長の振る舞いに嫌気がさして、途中で帰ってきてしまったのだ。
幽霊カラメリゼ
SWATと同じ敷地内にある教会の礼拝堂から何か音が聞こえてくる。
怖がりながらも美江子とともに礼拝堂に向かった理恵は確かにうめき声を聞いたのだ。
慌てて厨房へ駆け戻った理恵は手近にいた黛シェフを投げてしまう。
しかし、理恵はそれどころではなかった。
3日間ある料理試験の1日目に合格点をもらえなかったのである。
3日間のうち2日以上合格しないと、退校処分になるのだ。理恵も美江子もあとがなかった。
2日目の課題はオマール海老のアメリケーヌソース。
何とか合格点をもらった理恵と美江子だったが、楓は不合格。3人は最終日の試験に退校処分がかかった。
3日目の課題は大根による創作料理。
日本の大根を使った日本らしいフレンチって・・・。理恵は悩んでいた。
最初は多彩なキャラクターを使って、いろいろな話をやろうとしていたんでしょうね。
そのためか、第一話の「珊瑚礁コンソメ」では、何人ものクラスメイトが紹介されます。
いつも理屈っぽい、中堅商社松茂物産の営業マンからの転職組、新川啓介(34)。
楓の高校時代の同級生で、田園調布の奥様、三条怜子(32)。
でも、この二人、2話目から登場しなくなってしまいました。
結局、動かせるキャラクターって、四人くらいが限度なんでしょうか。
理恵、正木、楓、美佐子の四人がいつも一緒に行動するパターンが出来上がってしまいました。
第一話で紹介のあった謎の四十男篠原賢(42)は「間違いレストラン」で話題を提供するだけの存在で、理恵の後輩三品と位置づけ的にが変わりありません。むしろ、こちらの方が地味かもしれません。
ちょっと最初に風呂敷を広げたわりには、ちょっとこじんまりした感じはありますが、これはこれでコンパクトで軽快に進むので良かったのでしょう。
まぁ、楓と美江子は話をまぜっかえしたり、混乱させたりするだけで、ストーリー進行には何ら関係ありませんでしたが・・・。
理恵の推理もかなり強引です。与えられた材料だけで導くには強引というか、妄想的ですらあります。まぁ、真面目なミステリーではないから、いいですけどね。
内容的には、SWATを卒業するわけでもないし、続編があってもおかしくありません。
バル「ベジョータ」のジュニア奥原大輔も登場させたわりには、まだ使い切っていなかったりと、消化不足の材料も多そうだし・・・。
”唐沢最強伝説”も含めて、もうちょっと読んでみたい作品です。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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