『腐蝕の街』 我孫子武丸
なんだか中途半端な作品。ストーリーもそうだし、キャラクターの設定もそう。
近未来の東京で起こる連続猟奇的殺人事件の話。近未来の文化などを造形しているようだが、若干空回りの感はなきにしもあらず。
2024年12月3日。
袋小路に引きずり込まれて危機一髪の少年を助けようとした刑事溝口和宏(警部補)は目を見張った。
3人に捕まっていた少年はあっという間に、捕まえていたヒモ(”種馬”)の耳を切り落としたのだ。逆上した”種馬”は少年に向けてショットガンを構えるが、溝口のスタンガンの方が速かった。
襲いかかる少年に応戦した溝口は少年のナイフを取り上げ、気絶した少年を自宅マンションに連れ帰った。
手錠をかけておくべきか思案しているところに電話が入る。上司の坂巻警部だ。
溝口が逮捕した『ドク』が噛んでいるらしい事件が赤羽署管内で発生したのだ。担当の赤羽署に出頭しろという坂巻の言葉に溝口は当惑を隠せなかった。
3年前。「患者」と称する被害者を切り刻む連続猟奇殺人犯『ドク』による殺人が世間を騒がせた。殺された被害者は15人。『ドク』を追う溝口と組んだ警視庁捜査一課の葛俣だったが、野心家の葛俣は抜け駆けをはかったすえ『ドク』の手にかかった。
『デカの腹の中は黒い』との血まみれのメモの付された、喉から鼠蹊部まで縦一文字に切り裂かれた葛俣の死体の横で、逃げようとする『ドク』菅野礼也を溝口は逮捕することに成功した。
そして、3カ月前の9月11日に『ドク』菅野は死刑が執行されたはずなのだ。
眠る少年を部屋に残し、赤羽署にむかった溝口は敵意をもって迎えられた。本物の『ドク』は死んでいないのではないか。金城警部補は溝口が犯人をでっちあげたのだといわんばかりに敵意がむき出しだった。
金城を抑えた上司の赤羽署刑事課課長永野警視は事件のあらましを金城に説明させた。
赤羽駅前の高層ビルから男(山田清明)が墜落死。この被害者の部屋を調べた警察は更にもう一つの死体を発見した。
血まみれのベッドの上に、女性(関口可憐)は寝ていた。肩には脚が置かれ、脚があるべきところには腕が置かれていて、首は股の間に - つまり二本の腕の間に置いてあった。
これは『ドク』の最初の犯行にみたてたものだ。しかも、その傍には血まみれのメモがあった。
「ミゾグチへ オレは戻ってきた そのうちお前のオペもやってやる ドク」
文字は『ドク』の筆跡だ。
家に戻る溝口を家に送ったのは赤羽署のマリアン片山(巡査部長)。冤罪をでっちあげる溝口を軽侮する表情も顕わな片山だったが、溝口の家に泊まらなければならなくなってしまう。車のバッテリー切れで帰れなくなったのだ。
家に入った溝口を襲ったのは眠っていたはずの少年だった。ナイフを取り返した少年は”シンバ”という名を告げ、去っていった。犯罪者であっても見逃す溝口の態度を見て、片山は溝口を見直し、態度を改めるのだった。
翌日、『ドク』の資料を携えて赤羽署を訪ねた溝口に永野は裏の事情を語った。
菅野礼也の死刑が実施されたかどうか疑わしいのだ。事実、死体が失踪している。
溝口は赤羽の事件からは離れ、一人、菅野の死体失踪について調査を開始する。
小菅の東京拘置所で所長から死亡診断書を書いた医師の名を確認するや、医師河原崎光のもとへと溝口はむかった。
そんな中、第二の事件が起こった。
メスを持って暴れ狂う男(劉栄治)を取り押さえたところ、部屋に女の死体があったのだ。前回と同じくバラバラにされ、逆さまにされた死体の傍には、溝口へ宛てた第一の事件と同文のメモが残っていた。
赤羽署にかけつけた溝口に、捜査一課の野木須(警部補)が絡む。同僚だった葛俣を殺された恨みを溝口に転嫁しているのだ。永野の指示で溝口は捜査本部から離れ、独自に事件を追うこととなった。サポートには片山がついた。
赤羽署から戻ったマンションには、またシンバが転がり込んでいた。
片山の調べでシンバの素性はわかっていた。本名高塚樹里。2009年2月4日生。5年前(2019年10月8日)、父親正晴を殺して捕まっていたのだ。父親からの虐待の痕は明確で、責任を問える年齢でもなかったことから、1年間の入院治療のうえ退院(2020年12月3日)。しかし、その後は売春を繰り返し、客やヒモとのトラブルを起こしている。金を払わない客からは脅して金を奪い、難癖をつけるヒモには切りつけ、時には死に至らしめている。少年院にも一度送られてはいるが、1年で出てきていた。
菅野の死体は拘置所から東大へ送る途中に失踪していた。運んだはずの業者フジエクスプレスでは直前にキャンセルの電話が入っており、何者かがフジエクスプレスに偽装して死体を運んだのだ。
死体失踪の手掛かりが途絶えた溝口は、片山と二つの事件を再度検証した。
片山の説明で溝口が気になったのは”リラクゼーション・マシン”という耳慣れない機械だ。”ブレイン・スパ”とも言われる機械は珍しいものではないが、これに溝口はひっかかったのだ。
ブレイン・スパを初めて経験した溝口は精神を左右する機械に愕然としつつも、事件との関係に確信を持つ。
『ストレス値が異常です。ただちに機器の使用を中止し、このチェック表を持って最寄りの電子神経内科、もしくはブレインテック社お客様相談センターにお越しください』
事件現場のブレイン・スパを調べた溝口は使用時の精神状態が異常であったことを突き止め、捜査本部にも告げずに製造元ブレイン・テック社へ乗り込んだ。
溝口の指摘に驚愕しながらも、営業部部長ホルヘ久保ピアソラは「不正なデータ」を使用することによって使用者の神経を破壊することができることを認めた。しかし、現在の機種では不正なデータを記録する術はないはずなのだ。溝口はブレイン・テック社を辞している共同創業者の赤坂護に疑いを向けた。
マンションに戻った溝口は”種馬”の襲撃を受けた。
数人の助っ人とともにショットガンをもって不意打ちをする”種馬”に為す術もない溝口だったが、そこをシンバに救われる。
裏世界に通じるシンバに、負傷した溝口は協力を頼む。シンバを更生させる一つのきっかけと考えたのだ。
そして、第三の事件が起こった。
第一、第二の事件と異なり、『ドク』の第二の事件を模倣し、被害者乃木杏奈(25)の頭の皮を剥いでいた。今回は加害者も見つかっていない。付けられたメモには「ミゾグチ 次の患者はお前だ ドク」。
「殺人ディスク(不正なデータ)」を配っているのは誰なのか。身寄りも、親しい者もいない菅野礼也の関係者として、逮捕後の面会者に目をつけた溝口は拘置所に赴いた。
面会者の名前のなかに「河原崎光」の名を見つけた溝口は、河原崎の専門の一つが電子神経内科であったことに気付くと、スタッフ山川に問いかけていた。
「菅野礼也はスパを・・・・・・・ブレイン・スパを持っていませんでしたか」
河原崎がブレイン・スパを菅野に差し入れていた。これで菅野の失踪とブレイン・スパが繋がった。
人を殺人鬼に変えるデータディスクは、スパの内部構造に詳しい誰かが、『ドク』菅野礼也の脳で作ったものではないのか。
河原崎は改造したブレイン・スパを菅野に与え、そのデータを回収したのではないか。
そして、その複製をばらまいた・・・。
仮説を永野に告げると、溝口はシンバの案内で新宿に向かった。
死人を蘇らせる奴がいるという噂があるのだ。
確認しようと街を歩き出した溝口とシンバは後ろからつける数人の男たちに襲われる。意識が遠のく溝口をよそに、大男の幼児性愛者永井はシンバを連れ去っていった。
病院に収容された溝口だったが、病室で白衣の男に襲われる。レーザーメスを握った『ドク』の姿に恐怖する溝口は、レーザーメスを奪い取ると『ドク』の喉元におしつけた。気がつくと見知らぬ男が血まみれで死んでいるのだった。
男は仁木龍之介。第三の事件で乃木杏奈を殺した犯人だ。スパのショップで『ドク』と化した仁木は杏奈を殺した後で、病院に収容された溝口を襲ったのだ。
更に警戒が厳重となる中、シンバを攫った組織”ハーヴェスト”から溝口のもとに連絡がはいる。
シンバを助けるため、病院を抜け出した溝口だったが、駆けつけた溝口の腕のなかでシンバは冷たくなっていった。
溝口を待っていたのは赤坂護。赤坂はブレイン・スパを使って、菅野礼也の記憶を溝口に刷り込み、溝口の脳を蘇生させた菅野の死体に移植しようとしていたのだ。
抵抗する溝口だったが、ブレイン・スパにかけられ、記憶は上書きされていく。
『ドク』菅野礼也となった溝口が河原崎の手で脳移植を受けようというところへ、警察が踏み込んだ。
どうもねぇ。何だか警察が馬鹿ばっかりって感じなんですよね。
溝口が見つけなければ何も話が進まないっていうのはいかがなものなんでしょうか。
あまりにも溝口だけに事件が起こるっていうのもストーリーを追ううえではわかりやすのですが、ちょっと都合良すぎです。
犯罪都市東京っていうのも何だか陳腐ですね。
95年に書かれた作品なので、もう過ぎてしまった事件なんかも出ていて、賞味期限のある作品だという感じです。
キャラクターで言えばやはり主人公溝口の性格がどうも定まらない。
ハードボイルドなのか、ナンパなのかよくわからない中途半端な造形で、どうも気持ちが悪い。いかに人間に多面性があるとはいえ、(外面がどうあれ)一人称のなかでは一つの核があるでしょうに。どうも一貫性がないのでイラつきます。次作では、更に菅野礼也の人格も混じって、更に落ち着かなくなるんでしょうか。
何故か一様に溝口に敵意を示す金城や野木須といった刑事たちも、どうも共感しにくく、わかりにくい存在です。(それが文化だといってしまえばそれまでですが)マリアン片山の尻軽さも何だかなぁといった感じです。
何だかいい味を出しそうな坂巻警部も結局は殆ど出番なしで、次作では上司が永野警視に代わってしまうんですね。
全般のストーリーを俯瞰すると、ちょっと機械を使って人格を移植するという考え方にはついていけないので、どうも嘘っぽく見えて仕方がありません。近未来だから出来るってもんじゃないでしょ、っていう感じでしょうか。脳を乗っ取るというのなら、西澤保彦の『スナッチ』のほうが、はじめから荒唐無稽の設定だと開き直っていて、純粋に楽しめました。今回は荒唐無稽な話が推理に絡むので気持ちが悪いのかもしれません。
次作『屍蝋の街』も近日中には読む予定ですが、今回の延長線上の話だとちょっとツライかもしれませんね。
お奨め度:★★☆☆☆
再読推奨:★☆☆☆☆
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