『チーム』 堂場瞬一
箱根駅伝での学連選抜の活躍を描く作品です。
やはり面白いですね、スポーツものは。
特に、「学連選抜」というマイナーな存在をメインに据えて、箱根駅伝を語るというのも面白かったですね。
連続出場32回を誇る城南大学の箱根駅伝連続出場は途絶えた。
箱根駅伝の予選会で城南大学は12位に終わったのだ。
城南大学主将浦大地は1時間16秒と好タイムだったものの、10選手合計のタイムでは、わずかに及ばなかったのだ。
しかし、今回、城南大学が予選会に出ることになったのは、もとはといえば浦のせいだった。
前回の箱根駅伝で最終の十区を任された浦だったが、7位で襷を受け取りながら失速し、シード権を逃したのだ。
「これで終わりじゃない。俺と一緒に箱根へ行こう」
悔しさをかみしめる浦に声をかけたのは、美浜大学の監督吉池幸三である。
大学陸上界の名伯楽とも呼ばれる吉池だったが、箱根には縁遠く、一度も自分のチームを率いて箱根に出場することはできなかった。今年で監督を勇退する吉池にとって最後の箱根駅伝挑戦だったが、美浜大学は11位に終わり、出場権を獲得することはできなかった。
しかし、出場を逃したチームの中から好タイムを出した選手が選ばれて箱根を走る、いわゆる「学連選抜」の監督は11位のチームの監督というのが通例で、吉池が学連選抜の監督となる。
予選会が終わったばかりであり、罪悪感も持ち続ける浦だったが、吉池の言葉に心を動かされる。城南大学の主務青木武も浦を励まし、学連選抜で走ることに期待を寄せる。
東都大学に召集された選抜チームの中に、浦の姿はあった。
東京体育大学の山城悟を筆頭に、粒揃いの選手たちの姿に、吉池は手ごたえを感じるが、チームとしてのまとまりが課題だった。
山城は1年生で山登りの5区に抜擢され、いきなり区間新。翌年は3区で区間新。その翌年には2区で区間新と、3年連続で区間新記録を出している。
実力的にはずば抜けたものをもちながら、自分のことしか考えない山城は「学連選抜」という、もともと結びつきの弱いチームの団結力を木っ端微塵にしかねない爆弾でもあった。
吉池は上から目標を押し付けることなく、キャプテンに浦を指名すると、選手たち自身で、箱根での目標を考えさせる。戸惑いながらも、浦はチームとしての団結力を高めようとするが、浦に反感を持つ山城は会議をすっぽかして、トレーニングを行うなど和を乱す。
山城をさておき、浦が掲げた目標は「優勝」である。
一般入試で東都大学に入った1年生ランナー朝倉功は大学に入学して伸びた選手だ。今や山城に次ぐスピードを有する。伸び盛りの朝倉は先を行く山城に教えを乞おうとするが、山城は相手にしない。浦は朝倉を庇い、山城に意見するが、山城は聞く耳を持たない。
港学院大学の門脇亮輔は浦にとって長野の高校時代のチームメートだ。長距離走の盛んでない港学院で大学の陸上生活を過ごした門脇は大学入学後も伸びず、今回の予選会で漸く満足いくような走り(1時間30秒)ができた。しかし、選抜チームの中ではランクが少し落ちる門脇は敢えて、裏方に徹すると、浦に告げるのだった。
房総(富津)で行われた合宿の最中、吉池はエントリーを発表する。
スピードのある山城を二区に据えるという案を捨て、吉池は選抜選手らの個性を活かす起用を考えた。
朝倉は3区、山城は9区、浦は因縁の10区だ。往路も重視するものの、山城を復路に配するなど、通常のセオリーとは異なり、復路に重点を置いたエントリーだ。
しかし、エントリーが決まり、少しずつチームにも熱気が生まれてくる。
そんな矢先、5区の山登りのために養成してきた関東教育大学の松岡真が故障する。
「俺が走りましょうか?」
頭を抱える吉池に5区を志願したのは門脇だった。裏方に徹するとは、何かあったときにバックアップするという意味だと、門脇は浦に語る。選抜チームに入って、門脇もやる気になっていたのだ。
そして1月2日。
気温2度、曇天のなか、箱根駅伝は始まった。
1区、長崎慶介(千葉国際大学)は4位で2区、庄野明生(多摩国際大学)に襷をつなぐ。
庄野は7位に順位を落としたが、3区は期待の朝倉だ。
初めての箱根駅伝で気負う朝倉は庄野が落とした順位を取り返そうと奮起する。しかし、この気負いは朝倉に平常心を失わしめた。
前半の下りで快走する朝倉は6位の順天堂大学(佐田)を捉え、5位の早稲田大学をも追い抜く。
運営管理車の吉池や応援にかけつけた浦は朝倉のオーバーペースを懸念するが、この懸念は現実のものとなった。
浜須賀を過ぎて浜風にあおられると、突如朝倉のペースは落ちる。ペースを上げようとする朝倉だったが、もはや足が前に出ないのだ。
後悔する朝倉たが、もはや打つ手はなかった。
殆ど歩くようになった朝倉は早稲田、順天堂ばかりではなく、次々と後続に抜かれていった。
4区の池上大輔(横浜大学)へは12位で襷が渡った。
池上は順位をキープし、最後に青山学院大学をかわして11位で5区門脇へ襷を渡した。
「スピードが出ないな」
すぐに青山学院大学のエース橋上に追いつかれ、おいていかれる門脇の姿に、吉池は松岡の故障を嘆くのだった。
しかし、周囲のそんな心配を他所に、門脇は上りになるのを待っていたのだ。
箱根湯本の駅前を通り過ぎ、傾斜がきつくなりはじめて初めて門脇の真価は発揮された。上りの理想的なフォームで駆け上っていく門脇の姿に吉池も感嘆の声をあげる。
青山学院を抜き去ると、更に大平台では一気に4人を抜き去り、7位へ浮上する。
6位の早稲田を抜き、国道1号線の最高地点を前に順天堂大学の木本をかわした門脇だったが、その前をゆく山梨学院の選手を捉えることはできなかった。
そこからの下り坂。
山登りの得手な門脇の快進撃もここまでかと思われたが、クロカンで鍛えてきた門脇は下り坂でも強かった。前を行く山梨学院の飯島をかわして4位でゴールする。
往路優勝は駒沢、2位、中央、3位、東海。4位が学連選抜だ。
上位の差は少なく、復路は混戦が予想された。
芦ノ湖で門脇を迎えに出た浦だったが、人ごみの中、膝の故障が再発したのを感じていた。
チームのために吉池に申し出るべきか悩む浦だったが、言い出すことはできなかった。
門脇や城南大学の主務青木もまた、浦の膝の故障に気付き、悩む。門脇は吉池に浦の故障を告げながらも、浦に走らせてやってほしいと頼み込む。
悩む吉池は浦に電話するが、浦が自発的に故障を打ち明けることはなかった。悩んだ吉池は9区の山城に電話するが、山城が電話に出ることはなかった。
浦もまた悩んだ末、山城に電話するが、これも同じだ。
翌日の復路。
6区、牧勇人(美浜大学)4位。7区、酒井幸一郎(東京平成大学)5位。8区、夏目隆二(浦和学園大学)4位。
9区山城は1位とは約2分差の4位で夏目から襷を受け取った。
自分のために。自分のためだけに走ればいい。
ハイペースで走る山城は、間もなく東海大学の脇谷を抜き去ると、更に前の二人を追った。
権太坂を過ぎたところで脱水症状を起こした駒沢大学の選手を捉えた山城だったが、揺れる駒沢の選手を避ける際に足を痛めてしまう。
右の太腿の裏を鋭い痛みが襲う。
子安通りに入って、トップの中央大学に追いついた山城だが、腿の裏の痛みは広がっていった。
棄権すべきじゃないか。こんなところで潰れてしまうのは馬鹿馬鹿しい。
ふいに、昨夜浦が、そして吉池が残したメッセージを思い出す。
『俺は走れないかもしれない。走っても皆に迷惑をかけるかもしれない。だけど走りたい。怪我したのは自分の責任だし、本当は辞退すべきだけど、どうしても最後の我儘を通したい。俺のせいで負けたらお前には申し訳ないけど、トップで入ってきてくれ。頼む。俺のために走ってくれ』
『浦は故障しているかもしれない。だけど俺は、あいつを外さない。どんな選手にも、自分のためだけに走る時があっていいからな。あいつはずっと自分を殺してきた。これが最後の最後だ。走らなかったら、あいつは死ぬまで自分を許せないだろう。走って失敗するかもしれない。だけどそうなっても俺は後悔しない。一度は箱根でトップを走ったという事実を残してやりたいんだ。だからお前は、絶対トップで襷をつないでくれ』
山城は故障をして初めて浦の、故障者の苦しみを知った。気付くと浦の顔を思い浮かべていた。
鶴見橋の緩い上り。
足の痛みを意思の力で押し潰した山城は中央大の氏家を捉え、ついにトップに立った。
待ってろよ、浦。トップでお前に襷を渡してやる。何だかんだ言っても、お前たちの望み通りになったじゃないか。当然お前も、このまま逃げ切ってくれるんだろうな。俺が、この俺が1位でつないだ襷だぜ。トップで大手町に帰って来なかったら、殺してやる。
襷は1位で浦に渡った。2位、中央大との差は20mだ。
中央大の十区は、浦の高校時代からのライバル、主将の広瀬だ。
先行逃げ切り型の浦と追い上げ型の広瀬の実力は互角。
序盤、リードをキープした浦だったが、京急蒲田の踏切で追いついた広瀬を確認した際に線路の端を踏んでバランスを崩してしまう。踏みとどまった浦だが、膝の痛みが戻ってきたことを知った。
なんとなく「寄せ集め」チームの趣きの強く、何となく弱そうなイメージのある「学連選抜」ですが、最近はとても活躍していますね。昨年の84回大会(4位)も今年の85回大会(9位)も10位内に入って、ちゃんと予選会枠を増やしていますから・・・。
そういう意味では非常に面白い素材で、目新しく、楽しく読むことが出来ました。
山城というキャラクターが若干、ステレオタイプというか、ちょっと面白みのないところはありますし、9区での改心はちょっと唐突感がないではないのですが、まぁいいでしょう。
やはり箱根駅伝の展開がこの作品の核でしょう。
手に汗握ったり、ひたすら声援を送ったりと、非常に楽しむことができました。
特に、3区の朝倉が大ブレーキとなってしまうのは意外感があり、これからどうなってしまうんだろう、と巧妙に話を盛り上げます。そして、その後の門脇の快進撃を純粋に楽しめるものにしています。
山城の力走も”わざとらしい”というか、何となく作り物くさいという違和感はあるものの、吉池の一言「良く見ておけよ。天才が必死になるとどういうことになるか」にはちょっと揺すぶられるものがありました。
非常に堪能できる一冊でした。
お奨め度:★★★★☆
再読推奨:★★★★★
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