『セカンドウィンドⅡ』 川西蘭
2009年、16冊目。川西蘭『セカンドウィンドⅡ』
やっと出ました。『セカンドウィンドⅠ』の続刊です。
金剛ヶ峯自転車ロードレースのスタートで終わった前作ですが、今回はいきなり、あれから1年以上たってからの話になります。
溝口洋は南雲学院高等部2年。
乗雲寮で暮らす毎日。
寮で同室となった学年トップの優等生浅月翠と気が合い、楽しく1年を過ごした洋だったが、3学期を終えて浅月は両親の住むイギリスに旅立っていった。
浅月に代わって洋と同室となった後藤恒弘は癖のある男だった。神経質で干渉ばかりする後藤に洋は閉口する。
「僕は長くは生きられない」という後藤は病気で2年休学し、復学してきたばかりだった。
加えて、自転車部で洋はスランプに陥っていた。
金剛ヶ峯自転車ロードレースで山岳賞をとり、その後もヒルクライマーとして自身の才能を開花させていった田村岳と対照的に、洋は同じレースの中で抱えたトラウマが抜けないままだった。
金剛ヶ峯自転車ロードレースのラスト。
南雲真一と競り合った洋だったが、ゴール直前に見えたオイルに(腰が引けた洋は)脚が止まってしまったのだ。一方で、自転車に集中する真一は怖れることなく突っ込んだが、結果的には転倒し、重傷を負ってしまう。
負傷しながらも真一は最後に力を抜いた洋を非難するのだった。
「・・・・・・ガッカリだよ、溝口」
洋の結果は3位という好順位であったものの、この一件はその後長く尾を引くこととなった。今でも、オイルを見たりすると腰が引けるのだ。
そんな洋の姿勢は誰の目にも明らかだった。
黒岩コーチは洋をレギュラーメンバーから外し、サポート要員に回す。替わりに抜擢されたのは一般入試組の野中である。
サポートに回されても奮起せず、淡々と仕事をこなす溝口の姿がキャプテン真一には歯がゆく映る。発破をかける真一だが、それに洋は応えることができない。
岳も、自転車に懸命になれない洋の姿に苛立ちを感じる。焚きつけても奮起しない洋の姿に二人のあいだの溝は少しずつ広がっていった。
トラック競技に転向した今泉も無骨な態度で、ことあるごとに洋を励まし、助言するのだが、洋はそれにも応えられない。
5月の連休に行われる合宿の最終日に理事長南雲一誠の屋敷で恒例の激励会が催された。
洋はそこで清水元から叔母澤村茜を紹介された。叔母(茜は南雲一誠の娘)といっても、茜は南雲学院と兄妹校の関係にある清海女子学院の1年だった。
清海女子学院に入学していた佐久間多恵も入部した茶道部の務めとして出席していた。
多恵は洋と岳に茶道部の友人(相棒)として深森百合(リリ)を紹介する。
身長を抑えようと食事制限など苦しい努力を続ける田村岳だったが、百合の言葉に「自分は自分であり、自分らしくあればいい」という示唆を受け、眼を開かれる思いだった。
また、清海女子学院(3年)の通称”お嬢”池上美和子(池上武雄元財務大臣の娘)からも声をかけられる洋だった。美和子は真一が期待している洋に興味を持ったのだ。しかし、お嬢が洋にかけたのは「がっかり」「期待はずれ」という辛辣な言葉だった。
洋が立ち直れない中、南雲学院高等部にカナダからの留学生が迎えられる。
その中の二人ジャン(ジャン・リュック・ブランとティム(ティミー・ジョエル)は自転車部の練習に参加するが、彼らが得意としたのはロードやトラックではなく、オフロード。
自転車部の練習とは相容れない二人を隔離すべく、ジャンとティム、そして洋というオフロード班が急遽作られ、学院から10分ほど離れた丘陵で別途の練習メニューをこなすのだった。
最初はうまくいかない洋だったが、少しずつ走れるようになっていく。
帰国を前にしたジャンとティムを鳴滝村に迎えた洋は、二人を清姫峠に誘った。MTBで自走した三人を峠の案内板の前で意外な人物が迎えた。
「田村自転車商会」の親方、田村守である。
岳には清姫峠に登ることは黙っていたのに何故?
MTBのまま登ろうとするジャンとティムを後ろに残し、親方の用意したロードバイクに乗り換えた洋は清姫峠を一人登り始めたが、間もなく『メデューサの一瞥』というところで岳が並びかける。黙々と、そして『丘を越えて』を歌いながら、頂上に立った二人の間のわだかまりは解けていった。
岳は洋が清姫峠を登ることを多恵からのメールで知ったのだという。
多恵が岳の携帯電話の番号とメールアドレスを知っており、岳も多恵の番号とアドレスを知っている。その事実に洋は動揺するが、多恵に問い質すことはできなかった。
鳴滝村から戻った洋に”なぜ連れて行かなかったのか”と後藤は詰問する。
「自転車の乗り方を教えろ。自転車に乗れるようにしろ」
自転車を教えろという後藤に洋は自転車の乗り方を教えるようになった。後藤もまた自転車と懸命に格闘するとともに、洋に数学教師山田(女教師山田の妹)からの試練を乗り越えさせるための生活改善の予定表、手作りの要点整理集を与えるのだった。
「ヨウ、次は君が海を渡ってぼくたちのところに来る番だ」
「ヨウ、君はロードバイクに乗った方がいい。ロードレースを走る姿をぼくたちに見せてくれ」
そう言いのこして、ジャンとティムは帰国した。
自転車部でサポート役から解放され、チームに合流した洋に後藤の相手は最早できない。無責任だと責める後藤に、洋は自転車部への入部を勧め、後藤もそれに応じた。
自転車部に入部した後藤は程なく、権藤アシスタントコーチらを手伝う有能なスタッフとなっていった。
間もなく行われた地区予選会。
トラック組の選手は今泉昇、岡田章吾、清水元、海藤慧の4人。補欠は木下風吾。
ロード組は南雲真一、田村岳、野中剛の3人。補欠は溝口洋と梅沢充。
トラック競技は全種目一位で全国大会への出場権を獲得し、ロードでも真一が1位、岳が2位、野中も4位に入り、全国大会へ3つの枠を手に入れた。
全国大会の正選手を決めるべく実施された夏合宿は山間の温泉地にある南雲デンキの保養所を宿舎に行われた。
「攻めろ。最初から飛ばせ。ペースなど考えるな」
山に戻って調子を取り戻してきた洋は、今泉のアドバイス通り、正選手を決めるタイムトライアルで最初から飛ばした。
結果、洋は1位。2位は岳、3位は真一だった。野中は7位に沈んだ。
これで全国大会では登録変更がなされ、洋が正選手となる。
隣県で開かれた全国大会。
午後11時。明後日に試合を控え、宿舎で寝付いたばかりの洋の部屋をノックしたのは岳だった。
「洋のお祖父さんが倒れた」
多恵からメールで岳に連絡が来たのだ。
洋の祖父は救急車で田波救急救命医療センター(ER)に搬送され、手術を受けるとのこと。
土砂崩れで車が使えない状況に、洋は明後日のレースに出られないことも覚悟のうえ、自転車で山越えすることを決意した。
引き止める岳の言葉を振り切り、洋は病院へ向かう。
「帰れ。お前は自転車の試合に出るんじゃないのか?」
疲労困憊のすえ、病院へたどりついた洋だったが、そんな洋を病室の祖父は返そうとする。
手術は成功した。
迎えに来た権藤(+後藤)の運転する車に乗り、宿舎に戻った洋は待ち構えていたチームメイトに手荒い歓迎を受けた。
今泉は怒鳴り、真一は平手打ちだ。
「明日はがっかりさせるな」真一は一言残して去った。
黒岩コーチも短い叱責のあと、「走りで気持ちを見せろ」という。
最後の上り坂の手前で後続の二人を待った岳は真一と洋を牽っぱった。
3人に喰らいつくのはただ一人、嵐が丘高校の通称”鉄腕アトム”峰岸歩夢だけだった。後続は5分以上遅れている。
緩やかな下りの後、右曲がりのコーナーを抜けると、最後の直線。
真一、鉄腕アトムと併走する中、洋の視線の先にゴールラインが浮かび上がった。
前回の話ほどロードレースへののめりこみはないものの、前作の登場人物に加えて、更に魅力的な登場人物が次々と登場し、飽きさせません。
洋を魅了する浅月翠。
対照的に、傲岸不遜な病弱・神経質男、後藤。
深窓の令嬢(?)澤村茜。(南雲一誠とは、苗字が違いますが・・・)
”いかにも”なお嬢こと池上美和子。
今後の再会が約束されているような・・・ジャンとティム。
勿論、これまでのメンバーも。
自転車にストイックな面を見せ始めつつある岳。
間もなく、自転車部から卒業する真一と今泉。
そして多恵。
ホント。待ってて良かったといえる作品になりました。
勿論、まだまだ終わりではありません。
今後の洋の進路はどうなっていくのか。海外へ飛躍していくのか。ジャンとティムの住むカナダへ向かうのか。(翠もアメリカに渡るようだし、その可能性は高いか?)
翠の絵葉書で見た写真(フランスとスペインの国境)を材料に、父母の手掛かりを求めてヨーロッパへ渡るのか。
そもそも洋の父母とは。
洋と岳と多恵の関係はどうなっていくのか。これに百合や澤村茜は絡んでくるのか。
前作で積み残しの謎に、更に多くの伏線を引っ張って、次作へ続いていきます。
今後洋はどうなっていくのか。何を選択していくのか。
『セカンドウィンドⅢ』が非常に楽しみで、待ち遠しい。
お奨め度:★★★★☆
再読推奨:★★★★★
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