『走れ!T校バスケット部』 松崎洋
2008年、211冊目。松崎洋『走れ!T校バスケット部』
気軽な読書に向いた「青春スポーツ小説」です。
本を読むといっても「マンガ」ばかりというような人にお奨めする、そんな作品です。
中学時代、関東2位の成績を挙げた田所陽一は全国3位のバスケットの名門H校に特待生として入学する。
しかし、陰湿ないじめの末、中途退学し、都立T高校に転入する。
「バスケットはやめます」と父に誓った陽一だったが、同校バスケット部の同級生、矢嶋俊介、”チビ”川崎裕太、”メガネ”川久保透、”のぞき魔”牧園に強引に誘われて練習を見学にいく。
一勝が目標というお粗末なバスケット部に唖然とする陽一だったが、久しぶりに手にするボールの感触が懐かしく、知らず知らずボールを衝き出していた。
初めてバスケットの楽しさに気付いた陽一は恩返しするかのように、先輩らが卒業するまでに一勝することを目標に、チームを引っ張った。
キャプテンの懇請もあって、陽一は練習の仕方から見直した。
秋の大会では転校生の陽一に参加資格はなく、惜しくも勝利するまでには至らなかった。
陽一らが2年に進級して、入ってきた新入部員は小さくて少し太ったコロ一人。部員はこれで3年3人、2年5人、1年1人の計9名。
5対5の練習さえままならない状況に、自身は動きたくない顧問の小山先生(40代、音楽教師)はチビらに再度の新入部員募集を厳命する。
また、小山は姪である佐藤浩子をバスケット部のマネージャーに任命する。ミニバスで活躍してきた浩子だったが、体調を崩しバスケットを続けられなくなってしまったのだ。
勧誘の甲斐なく、新人募集も徒労に終わろうとしていたとき相撲取りと見まごうような巨体の生徒が汗をびっしょりかいて見学にやってきた。
新入部員斉藤健太はチーム一の長身”のぞき魔”(185cm)より10cmほど高く、横幅は3倍以上。驚くべき巨体に陽一はシャキール・オニールの姿を彷彿としていた。
浩子の話に興味を引かれ、練習を覗きに来たのは浩子の兄準である。準はW大学のスタープレイヤーでもあった。陽一を中心に強いチームになりそうな予感を感じた準は陽一を励ます。
迎えた春の大会一回戦は私立A校との対戦。序盤大量リードを奪ったT校だったが陽一が二人にマークされ、じりじり追い上げられる。1点差に迫られた最後の40秒。健太がのぞき魔に替わって入る。
「ウォー」
健太の雄叫びとその迫力ある姿に度肝を抜かれたA校は勝ちを逸する。72対71、T校は辛勝ではあったが初の一勝をあげた。
2回戦は都立M校が相手。のぞき魔の怪我とメガネの下痢という悪コンディションに加え、油断のなかったM校には残念ながら敗戦してしまう。
新人戦はのぞき魔抜きの6人で戦う。一回戦こそ勝ったものの、二回戦の壁は厚かった。キャプテンとなった陽一は二回戦突破を次の目標にする。
のぞき魔が全快しチームに戻ってきたのも束の間、俊介が交通事故に遭う。
トラックに轢かれた右手の切断を通告され、絶望的になった俊介を慰めたのは同じく入院中のモーガン・ジェイソンだ。
アメリカの貧民街で育った彼は類まれなバスケットの技術を評価されていたが、高校選抜の試合で後のNBA選手アイバーソンの前に敗れ挫折を味わう。挫折のすえ麻薬中毒に転落した彼は有名大学からの誘いも消え、軍隊に入った。現在は横田基地に属していたが、脳の腫瘍のため数ヶ月の命だという。
二人の間柄が深まり、モーガンの時間も少なくなる中で、手術が行われた。モーガンの右手を切断し、俊介の右手に換えて移植したのだ。
「俊介、その右手には俺の魂が宿っている」
その言葉を残してモーガンは3日後に逝った。確かに右手に魂は宿っていた。
レッグスルー、ロールターン、ビハインド・・・。誰もがあきれるドリブルの妙技を示す俊介の姿にチビも陽一も一様に呆気にとられる。10m離れたリングへのシュートも見事に決まるようになっていた。
しかし、「モーガンの腕」は夢だった。
練習を小山から暫く止められた俊介は、キリスト教の宣教師の誘いを受けて教会へ向かったが、その駐車場でシュート練習をしている同年輩の少年トム・ペックに出会う。
俊介はトムからドリブル、シュートの特訓を受ける。
これを知った陽一、チビ、メガネ、のぞき魔も教えを請うようになった。トムは全米ジュニア代表のキャプテンだったのだ。
引退した3年生、トム、準を迎えて、5対5の練習。
チビがシュートを決め、のぞき魔がリバウンドをとり、メガネが速攻をしかけた。俊介が外からシュートを決め、陽一がボールを運んだ。こうして、少しずつチームのレベルは確実にアップしていった。
秋の大会。
一回戦、二回戦、三回戦は楽な試合運びで勝利。
四回戦の相手はM校。対戦相手は5人とも同じ顔、同じ身長をしていた。3つ子と双子の親戚同士という珍妙なメンバーの前にT校は苦戦する。ディフェンスが混乱するあまり守りきれないのだ。メガネが落としたコンタクトを小山が踏み割るのを契機に、メガネの動きがよくなり、M校の一糸乱れぬ攻撃に綻びが生じる。終わってみれば、出だしの苦戦が嘘のように圧勝だった。
準決勝、私立K校を善戦の末下したT校の決勝の相手は私立H校。
H校のスタメン5人はすべて陽一の転校の原因となった「いじめ」の当事者たちだった。
H校のコーチ岩田は陽一のいじめの件で校長や陽一の父親に叱責されたこともあり、苦々しい思いで試合を迎えた。
「所詮、ヤツは負け犬だ。お前たちにちょっとからかわれたくらいで、学校をやめるようなヤツだからな。・・・まあ、俺が作戦を考えるまでもないだろう。お前らに任せたから思う存分叩きのめしてこい」
エースのセンター岡田は健太の体格の前に動きを封じられ精彩を欠く。陽一の巧妙なシュート、メガネの速攻で着々と点数を重ね、第2クォーターまで49対28でリードする。
怒る岩田は選手たちにラフプレーを指示。第3クォーターに入ると審判に見えないところで肘打ちや足を踏んだりとH校のラフプレイは容赦がなかった。
第4クォーターでは満身創痍のT校に対し、H校は体力にものを言わせて押し切るように点を重ねる。72対73とついにT校は逆転を許してしまう。
もみ合って倒れた俊介の左手の甲を踏みつけ、故意に全体重をかけてぐりぐりと足をひねったH校スモールフォワードの梶原は一発退場となったが、俊介の左手は筋を痛めたのか完全に力を失っていた。
9点差まで開いた点差だったが、コロのフリースロー、メガネの速攻、俊介”モーガンの右手”のシュート、メガネの速攻でとうとう1点差まで追いつく。
しかし、残り24秒。H校はボールをキープして逃げ切りを狙う。
喰らいついた陽一の指がボールに触れ、転々としたボールは健太のもとへ。
残り8秒。
健太はボールをドリブルしながら走り出した。
残り3秒、2秒、・・・
確かに面白い「青春」+「スポーツ」小説なんですが、”ジュブナイル”(今はYAとか言うんでしたっけ?)といった少年少女向けの色合いが濃い作品です。
読書に親しんでいる人向けというよりも、あまり読書に慣れていない初心者向けに薦める本といった印象の強い、一種”マンガ的”なストーリーです。
いじめ、弱小チーム、個性派揃いのメンバー、なぜか現れる強力な支援者。お決まりのようなパーツが散りばめられ、何故か急激に力をつけてしまうチーム、と。
そしてピンチに陥りながらも最後は大逆転。ラスボスは因縁のあるチーム。
要素だけ挙げてみれば、もう「マンガ」としか言いようがありません。
そのため、正直なところ内容は薄い(だから初心者向き)。しかし、作者自身がそういうことを狙っているのかもしれません。エピローグでは唐突に大人になってからの主人公らのその後が事実として語られるだけで、主人公らの快進撃を更に引っ張ろうとはしていませんから、あんまり長くすると読者がついてこれなくなるとでも思ったのかもしれません。
登場人物はそれぞれあまりにも個性が立ちすぎており、この作品では凡そ陽一と俊介しか深掘りされず、チビやメガネ、のぞき魔については表面的になぞられるだけにとどまっています。俊介にしても心霊現象的なキワモノでの紹介でしたが・・・。せっかくなら、もうちょっと各人のエピソードがあっても良かったのではないでしょうか。
さて、この作品ですが続刊が出たらしいですね。おそらく、H校戦後、主人公らの3年生になってからのことが描かれるのでしょう。また、マンガ的な展開になるんでしょうか。一応、読んでみたいと思います。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★☆☆☆☆
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