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『下北サンデーズ』 石田衣良

Shimokita 2008年、182冊目。石田衣良『下北サンデーズ』

小劇団のサクセスストーリーです。

下北沢の小劇団がステップアップしていく様を順序良く描いており、非常に楽しく読めました。

最近は観に行かなくなってしまいましたが、一時期はよく通っていましたから、何となく雰囲気もわかって親近感のわくストーリーでした。そういえば、2002年1月の「カクスコ」の解散公演以来ですので、もう行かなくなって6年以上も経つんですね。

さて、この作品は下北沢の実際の劇場をモデルにしており、本多劇場⇒松多劇場、ザ・スズナリ⇒ザ・マンパイ、駅前劇場⇒駅横劇場、OFF・OFFシアター⇒ミニミニシアターといった具合に実在の劇場が名前をかえて登場しています。実際には、OFF・OFFシアターの下に「劇」小劇場もあるので、ちょっと4つというのは少ないような気もしますが・・・。

 

里中ゆいかは東京科学工科大学(電子工学科)に入学し、長野県から上京したのを機に、下北沢の小劇団「下北サンデーズ」に入団を申し出た。前年夏の十周年公演を観て、感動して決めたのだ。

しかし、下北サンデーズは結成十年にして、未だ売れない劇団だった。下北沢の小劇団の出世すごろくでいうところの最下層の”ミニミニシアター”(客席数80)から上へ上がれない状況が10年続いているのだ。

勿論、メンバーは芝居で食べていけるはずもなく、バイトで生活するという貧乏暮らし。

下北サンデーズのメンバーは以下の8人。

あくたがわ翼:「下北サンデーズ」座長兼脚本家。顔は昔ふうのハンサムだが、背は高くなく、妙に顔が大きい。テレビのバラエティ番組の構成台本書き。

伊達千恵美:「下北サンデーズ」の看板女優。あくたがわ翼と同棲中。新宿のキャバクラ「スイカップ」で働く。

キャンディ吉田:背の高い女優。お笑い担当。引越し屋でバイト。

寺島玲子:メガネをかけた女優。脚本も書く。テレビの深夜番組やアダルトビデオの台本書きで生計をたてる。実は東京大学法学部卒。

馳背川(サンボ)現:不細工役担当の男優。黒いセルフレームの小太り。高校中退で学歴コンプレックス。建設労働者。

ジョー大杉:二枚目半役担当の男優。渋谷のホストクラブで働く。

八神誠一:二枚目役担当の男優。代田、北沢、代沢の地主の息子。

江本亜希子:制作担当。あくたがわ翼の元彼女。

入団応募当日に「下北サンデーズ」の劇団員として認められたゆいかは3週間後の舞台『サマータイム・ストレンジャー ~夏の迷子たち』への出演も認められる。

そんなゆいかに嫉妬し、反感を持つ千恵美の存在もあったが、ゆいかは前向きに稽古をこなし、当日を迎えた。

初日はあいにくの雨で四割ほどの客入りに過ぎなかったが、その中には伝説の「下北ミルクのおじさん」の姿があった。下北の街に劇場ができたときから芝居を観続けている有名な見巧者「下北ミルクのおじさん」が見込んだ劇団は1年以内に必ず”松多劇場”まで駆け上るといわれているのだ。

好評を博した『サマータイム・ストレンジャー』は2日目以降客入りを伸ばし、連日満席を続けることとなった。この集客を評価した”駅横劇場”のプロデューサーからの声もあり、2カ月後の公演は”駅横劇場”での開催が決まった。「下北サンデーズ」設立11年目にして初めてのステップアップである。「新しい風」「幸運の女神」とゆいかを持ち上げる声は多いものの、千恵美の厳しさは変わらなかった。

 

この間にバイトに精を出したメンバーだったが、CMのオーディションに受かったサンボ現がブレイクする。

公演前2週間を切っても、脚本が出来上がってこない。あせりの色を濃くするメンバーだったが、そんなとき座長の母親危篤の連絡が入る。急ぎ故郷の松山に帰り、葬儀を済ませたは亡き母親を思い、初心に返って新たな脚本『セックス・オン・サンデー ~日曜日に一回』を書き上げた。

駅横劇場の公演も満員御礼を連発し、無事終了した。の脚本も高い評価を受けることとなった。

 

公演が終わり、ゆいか江本亜希子から雑誌の美少女コンテストへの参加を求められた。既に大手プロダクションの女優の卵に優勝の決まった出来レースをカムフラージュするための、二番手、三番手候補としてのエントリーだ。しかし、予想に反して、ゆいかは一般投票で最高得票をとり、準グランプリに選ばれる。

サンボのブレイクや、の脚本の高評価、ゆいかのグラビアデビューなど、下北サンデーズの成功はメンバーの心を少しずつ変えていった。

次のステップである”ザ・マンパイ”での公演は『サイタマ・スイマーズ』に決まったが、成功して貧乏時代の共感をなくしていったメンバーは諍いが絶えず、芝居以外の活動に時間をとられ、稽古にも精が出ない。

「下北サンデーズ」を家族のように感じ、昔の思いを取り戻したいと考える八神ゆいかとともに、他のメンバーに働きかけるが、空回りになってしまう。思いつめた八神は睡眠導入剤を多量に飲み、自殺を図った。

練習に出てこない八神を訪ねたゆいからが発見し、八神は辛くも一命をとりとめた。八神の自殺未遂というショック療法で結束を取り戻した下北サンデーズは再度熱のこもった稽古を始めた。

概ね『サイタマ・スイマーズ』は好評価で、観客動員も3千人近くを記録する成功。

 

次の舞台は「下北ヌーベル演劇祭」だ。日本中の小劇団のトップだけが出演を許される、いわゆる「小劇団の甲子園」に下北サンデーズが招聘されたのだ。全国のトップクラス8団体(おこさま企画、演劇会議所、脱皮族、たけのこホテル、QQQ、アニマルシンジケート、劇団R☆R、下北サンデーズ)がトーナメント方式による勝ち抜き戦で争う。

抽選の結果、1回戦の相手は鉄板の優勝候補「おこさま企画」である。

1回戦に千恵美玲子をモデルにした新作『さよならサンセット』を投入する。

 

話としては、「なぜ、この快進撃?」と少し不思議に思わないではないですが、下手に長々と下積み、貧乏時代を続けられても滅入ってしまうかもしれないので、これくらい安直でいいのかもしれません。でも、やっぱり不自然ではありますね。特にステップアップしていく理由が見当たらないんですから。単なる偶然ってことでしょうか?

劇団のメンバーはそれぞれキャラクターが確立しており、それなりに興味を引くんですが、ちょっとキャラクター設定の面白さからすると小粒かもしれません。それぞれのキャラクターからは、あまり面白さが伝わってきません。

特に、優等生二枚目キャラの八神誠一は全体の中でちょっと浮いてしまっている感はあります。自殺未遂を起こすなど、その”浮いている”感をストーリーに活かしてはいるんですが、劇団員の結束等を尊重するわりには親近感を感じさせないような雰囲気を醸しており、言っていることとイメージのギャップに違和感を感じます。

当作品は小劇団の話でありながら、公演される芝居自体の光景が殆どありません。粗筋をさらっているだけで、その視覚的なイメージやゆいかの受ける印象等を中心とした描写だけなので、実際の芝居を観るような臨場感が得られません。そのあたりに若干不満が残ります。せっかくのキャラクターなんですから、もうちょっと活かして欲しかった。冒頭のキャンディ吉田伊達千恵美の前説のような掛け合いがあれば、全体がもうちょっと面白いものになったような気もします。

なんとなく石田衣良って、今まで食わず嫌いだったんですが、今回これを読んで、他の作品も読んでみたくなりました。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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コメント

「下北サンデーズ」は前にやっていたドラマを見てから気になっていました。
私も昔ちょっとだけ、友人の知り合いの小劇団の芝居を見に行ったことがあったのですが、役者さんの中には寺島玲子のように、いい大学を出て役者をやっている方もいたのでちょっと親近感がわきました。
駆け足のサクセスストーリーといった感じでしたが、リズムがいいせいかサクサク読めました。

投稿: 日月 | 2008年10月23日 (木) 12時33分

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» 「下北サンデーズ」 石田 衣良 [日々の書付]
学校を卒業して大企業につとめる人と、ちいさな劇団で芝居をしている人、一生に稼ぐお金は実に一億円以上の差がつくのだそうです。地位もお金も未来の保証もないけれど、芝居にかける情熱だけは熱い。演劇の街・下北沢を舞台に貧乏小劇団・下北サンデーズで演劇にかける人々の話。 石田 衣良作品は「波のうえの魔術師」に続いて2作目。 テンポの良い文章でサクサク読めます。 主人公・里中ゆいかは人生で初めて芝居のたのしさを教えてくれた貧乏劇団下北サンデーズの門をたたく。 天才脚本家だけれど、生活にだらしのな... [続きを読む]

受信: 2008年10月22日 (水) 11時36分

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