『武士道シックスティーン』 誉田哲也
2008年、165冊目。誉田哲也『武士道シックスティーン』
個性的なキャラクターに魅力的なストーリー、スポーツ(剣道)あり、青春あり、と至れり尽くせりで、非常に満足度の高い作品です。
出だしは、あまりにも特異な主人公香織の性格に戸惑いますが、だからこそ、そこからの成長(変質?)が読ませます。
磯山香織(中3)は母を除けば全員剣道家という家族に育った。父憲介は神奈川県警の警察官で、長年特練員として活躍しており、香織も3歳の頃から習い始めたのだ。愛読書は宮本(新免)武蔵の『五輪書』。
剣道だけが生活の全ての香織は、先日行われた全国中学校剣道大会でも準優勝。
しかし、香織は非常に不満だった。決勝の一本は誤審だと確信しており、その鬱憤から地元の横浜市民秋季剣道大会に参加した。勿論、今日も圧倒的に勝つつもりで・・・。
ところが四回戦、対戦した東松学園の甲本早苗は仕掛けてこない。追えば逃げ、逃げれば寄ってくると、違和感の正体がつかめないうちに、香織は真正面からど真ん中にメンを決められてしまう。
一方の早苗(中3)は日本舞踊から転向して、中学から剣道を始めたという変り種。勿論、とりたてて大会の実績も残していない。
雑誌「剣道日本」で読んだ外山浩規選手の言葉「人より長く構える」を実践し、なんだか調子がいいと浮かれ気味の早苗は、香織が全中準優勝という実力者であることも知らず、四回戦も突破するが、準々決勝では負けてしまう。ただし、勝負に拘りのない早苗は負けたことにも、全く拘泥しない。
香織は早苗にあっさりと負けたことに愕然とする。負けた理由すらわからない。
香織は高校進学にあたって、推薦のあった9校のうち、東松学園高校女子部を選ぶ。
選択理由は二つ。一つは、中等部から進学するはずの甲本早苗と出会い、再戦できる可能性が高いこと。
もう一つ。中学時代の兄和晴に打ち勝ち、兄から剣道を遠ざけてしまった仇岡巧に練習の中で、敵討ちができるかもしれないからだ。
入学の日、お気に入りの般若の竹刀袋を担いで”敵地”東松学園に乗り込んだ香織は早速、甲本某を探す。そんな香織に声をかけたのは、西荻(甲本)早苗である。
両親の離婚で姓が変わったために、早苗が市民大会で敗北を喫した甲本だとわからない香織は、剣道部の自己紹介で初めて早苗がにっくき甲本であることを知る。
練習で立ち会った早苗には全く市民大会のときの冴えが見られず、苛立った香織は、躊躇なく防具なしの早苗の胴を押し斬った。
早苗はショックを受けるが、その後も香織と普通に接する。
始まった関東大会の団体県予選。
大将村浜(3年)、副将河合(2年)、中堅野沢(3年)、次鋒大森(3年)、先鋒磯山香織(1年)、補欠上原(2年)、西荻早苗(1年)。
順調に三回戦に進出した東松学園だが、昼休みに事故が起こる。
勝負を最重視する香織と勝負は二の次の早苗が言い争ううち、階段から落ちた香織が左手首を捻挫したのだ。それでも無理に出場した香織だったが、三回戦で勝った後、気を失う。
目を覚ました香織は代理を早苗にするよう土下座して顧問小柴に頼み込む。これまでの練習も勘案した河合らの推薦もあり、早苗が四回戦からの出場となった。
早苗は奮戦し、四回戦、準々決勝を突破し、ベスト4。関東大会本戦への切符を手に入れる。
関東大会本戦。怪我から復帰した香織を擁し、東松学園は優勝。大会ニ連覇を飾った。
しかし、香織は関東大会で、仇と目した岡巧の実力を目にし、その実力差を再認識するとともに、優勝を喜べない自分に、何のために剣道をやっているのかという疑問を感じるようになっていった。
そして、香織は休部を申し出る。迷いのある香織は通う桐谷道場(道場主桐谷玄明)からも出入り禁止を言い渡され、剣道だけが生活の全てだった香織は行き場所を失う。
インターハイ予選。試合にだけは参加した香織だが、迷いのある剣に冴えはない。三回戦で敗退し、東松学園は6年ぶりに全国大会出場を逃すこととなった。
香織は蒲生部道具店のたつじいや兄和晴の言葉に触れ、自身の心を見直していく。早苗に連絡した香織は岡巧を交えた練習に誘う。
そして早苗は香織を横浜市民秋季剣道大会に誘った。
「私と、決勝で戦おう。で、私が勝ったら、磯山さんはその次の日から、部活に戻るの・・・どう?」
全体の流れに無駄がなくて非常にスリリングです。
剣道は圧倒的に強いんだけど、心の折れてしまった香織。お気楽な性格で、着実に力をつけていく早苗。ライバルで友人で、といい関係が少しずつ出来上がっていく過程が見事。
試合の模様は主人公の主観が多いので、なかなか手に汗握るという感じではありませんが、それでも(剣道って、こういうものなのか、と)楽しめます。自信家の香織とお気楽な早苗の主観なので、これはこれで面白い。
「剣道=斬ること」という殺伐とした発想がたたみかけられるように意識される冒頭はちょっと戸惑い、「あまり面白くなさそう」というイメージを持ちますが、ここは我慢です。そこを超えたところで、面白みが待っています。
剣道に真剣、だからこそ客観的にはコミカルという香織の面白みが、後半よく出てきて(話自体はシリアスですが)更に魅力的になっています。
早苗の姉緑子や岡巧の存在は若干、なくてもいいかなと思わないではありませんが、まぁちょっとしたアクセントといったところでしょうか。
香織の親子関係や、早苗の両親の離婚復縁といった脇の話も、メインのストーリーを乱さず、うまくまとまっており、非常にバランスがとれています。
全体を通してのメンテーマは香織の心の成長にあるようにも思われますが、よく見てみると、あんまり成長はしているようには見えません。しかし、香織ならさもありなんという感じで笑って許せそうです。
ラストも余韻が残るまとめ方で、非常に後味よく、巧い。久しぶりに良い作品に出会ったという感じです。
お奨め度:★★★★★
再読推奨:★★★★☆
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コメント
続編が「武士道セブンティーン」です。こちらも、ぜひ。
投稿: マーチ | 2008年9月13日 (土) 16時44分