『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』 五十嵐貴久
2008年、138冊目。五十嵐貴久の『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』
非常に楽しい話です。40代の素人ガールズ(?)バンドの奮戦記といったところでしょうか。家族ものというよりも、年齢は少々いっているものの、遅れてきた青春小説といった印象の作品です。
6つの章に分かれていますが、(わかる人にはわかると思いますが、)すべてDeep Purpleの曲名。
Black Night / Strange Kind of Woman / Speed King / Child in Time / Highway Star / Burn
そもそも作品のタイトルからして、”Smoke on the water”ですから・・・。
1995年は、暗い年だった。1月の阪神・淡路大震災、3月の地下鉄サリン事件。
井口美恵子(44)も家庭に厳しい問題を抱えていた。息子真人が高校受験に失敗し、中学浪人になってしまったのだ。夫幸輔はキノシタ製薬の商品研究所で研究員。家のことには口を出さない。
家に閉じこもることの多い真人に気をつかって、美恵子の神経は磨り減っていく。
そんなところへ、美恵子の悪友友坂かおりから電話がある。お金を借りたいのだという。
かおりは幼稚園に始まり、小学校を除いて高校まで一緒という腐れ縁。いわゆる優等生の美恵子と男出入りの激しい非行少女かおりに接点は殆どなかったが、なぜか付き合いは続いている。かおりはバツ2の経歴の持ち主で、今も55歳の会社役員と36歳のサラリーマンと二股をかけている。
マルチ商法の会員だった36歳のサラリーマン(アベ)に嵌められ、40万円が必要なのだ。
少なからぬお金に困惑した美恵子だったが、真人との気まずい関係から逃避したいという思いもあり、コンビニエンスストア”フォー・リバース”へ働きに出ることにした。
そこで出会ったのが立花雪見(34)である。万引きを見つかった雪見は涙ながらに美恵子に訴える。夫(41)の転勤続きで東京に知り合いもできず、つまらなかったのだと。
その話を聞いたかおりは憤慨するとともに、電話で国立駅前の小料理屋”こい出”に雪見を呼び出した。真っ青な顔で慌てて駆けつけた雪見だったが、かおりと意気投合し、そのうち3人はなぜか肩を組んでカラオケボックスで熱唱していた。
そこで出合ったのは高校時代の思い出の洋楽、Deep Purpleだった。その興奮のまま、かおりが言い出した。
「ねぇ、すっごいこと考えついたのよ。あのね、バンド作んの。あたしとあんたと雪見で。あたし、キーボードやる。昔やってたから。あんたボーカルやんなよ、歌うまいし。雪見って何か楽器とかできんのかなぁ?」
「雪見、ドラムやります」
素人だけのバンドなんて・・・。主婦の立場もあるのに・・・。真人も中学浪人なのに・・・。
美恵子はコンビニの高校生(真人の失敗した紅陽高校3年)バイト石川孝博にかおりらの説得を依頼する。バンドをやっている石川に、いかに無謀であるかを諭してもらうのだ。
しかし、どうしてもやりたいというかおりにほだされ、条件をつけて同意する美恵子。
ギター、キーボード、ドラムだけではバンドは出来ない。「どっかでベーシストを探してこれるんだったら、考えてもいい」
そして、「フォー・リバース」に貼り紙が貼られた。
『急募・ベーシスト。ただし、40歳以上の女性に限る。経験者優遇。リーダー待遇も可』
当然ながら20日たっても応募はなし。しかし、21日目にベーシストが現れた。
長身。ソバージュの長い髪はお尻まで届き、頭にはカウボーイのような帽子。丸いレンズの茶色いサングラス。ダークな黒、濃紺、茶、グレー、褐色のパッチワークのシャツに、濃紺のジーンズ、足元はウェスタンブーツ。年齢不詳。
そんな70年代の遺物が、広田新子(46)だ。ギター歴30年、ベース歴20年の元プロは、実態を知ってもなぜかメンバーに加わった。
そして新子のスパルタ教育が始まった。全くド素人の美恵子と雪見は当然のように苦戦する。雪見はあろうことか、ドラムなのにリズム感がなかった。美恵子の進歩はカタツムリ並み。
特訓をはじめて約2カ月、11月中旬に、ぼろぼろではあったが、とうとう「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を完奏した。誰かに聴かせたい。そんな美恵子たちの前に恰好の舞台が用意された。
『紅陽高校生徒会主催:阪神・淡路大震災/チャリティー・ライブ/12/24』
更に練習はハードなものになっていく。しかし、美恵子も雪見もバンドのことは家族には内緒だった。
美恵子、かおり、雪見の会話が非常に楽しい。
また、素人ながらに無謀にもバンドに挑戦するという設定が非常にワクワクします。勿論、舞台自体は大したことはないし、そんなにびっくりするほど巧くなるってわけもないんですが、それはそれで気持ちの持ちようです。スポーツなどの試合と違って、はっきりとした勝ち負けではありませんが、どこまで出来るのか、失敗したりしないか、という期待・不安がないまぜになったような感じが非常によく伝わってきて、飽きさせません。
勿論、最初からまぁハッピーエンドであることは約束されたような話ではありますが、それでいて次々と先を読みたいという気持ちにさせます。今、ちょっと寝不足です。
タイトルだけでみれば、『2005年のロケットボーイズ』と『1985年の奇跡』の間にくる作品のようですね。次は何年を舞台に、何を素材にしてくるのでしょうか。
お奨め度:★★★★★
再読推奨:★★★★☆
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