『ワンス・アポン・ア・タイム・イン東京』 楡周平

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2008年、122冊目、123冊目。楡周平『ワンス・アポン・ア・タイム・イン東京(上・下)』

2冊というボリュームですが飽きさせずに読ませます。

権力の奪取、権威への挑戦をテーマ(?)とした作品です。

昭和44年、有川家の長男として生まれたは、小学校を卒業すると、東京の名門中の名門である開成中学に進んだ。開成高校を終えるとストレートで東京大学文科Ⅰ類に進学し、法学部を卒業すると同時に国家公務員上級職試験に合格、大蔵省主計局に配属された。2年後には、ハーバード大学ケネディ・スクールに2年間留学。26歳で帰国すると国際金融局係長、27歳で地方の税務署長として1年を過ごした後、理財局総務課課長補佐という役職にあった。エリートコースを歩むに事務次官は見合いを紹介する。相手は民自党政調会長白井眞一郎の長女尚子。即ち、眞一郎の地盤を受け継ぐ後継者として選ばれたのだ。しかし、白井家にも思惑があった。実家の白井建設の経営が揺らぐ中、新たなスポンサーとして、の実家有川家を取り込むこと。有川家は全国に五十余の病院を持つ医療法人有川会を有していた。

国政に出るというの希望は母有川三奈の夢でもあった。「有川会の資金と力を背景に、この国の権力構造の頂点に人を据えること。それが私の夢・・・

有川会の会長でもある母三奈、そしての義理の父でもある和裕には隠された過去があった。学園紛争(東大闘争)当時、とあるセクトのメンバーとして活動した三奈は東大安田講堂にも立て籠もっていた。セクトに属さない東大医学部の学生であった和裕も事件のきっかけとなったインターン制度廃止を巡る問題の決着をつけるため安田講堂に籠もった一人だった。「造反有理」の名のもと権力に反抗し、挫折した三奈だったが、挫折してあらためて権力への思いを新たにしていた。

事件後、警察に拘留された三奈は釈放後、秘かに実家(父堀沢貞一)に戻され、有川会の御曹司有川理と結婚。間もなく生まれたのがである。が心筋梗塞で死に、義父が亡くなると、有川会を会長として取り仕切るようになった三奈は中央病院の内科部長に鷲津和裕を招いた。事件後、逮捕され前科のついた和裕は岩手県の無医村へと流れていたが、これを偶然三奈が見つけたのだ。の母の死後、二人は結婚する。

結納を決めるため集まった有川家と白井家。しかし、白井眞一郎の姿を見て、三奈は驚愕し、恐怖する。の父親は眞一郎ではないか。東大闘争当時、三奈は(旧姓岡内眞一郎と付き合っていたのだ。外貌も考え方も似た二人をみて、親子関係を確信した三奈は縁談を白紙に戻すことを決意する。

破談を画策するのは三奈だけではなかった。学生時代からと付き合いながら、捨てられた笹山宣子である。尚子の前に姿を現し、動揺を誘おうとするが、代議士の娘として生活してきた尚子は必ずしも動じない。動揺するに代わって、尚子宣子を貶め、手切金代わりの小切手を宣子に差し出す。

異母兄妹同士の結婚を懸念する三奈は事実を眞一郎に打ち明けるが、権力の頂点を狙う眞一郎にとってはそんなことは障害ではない。他の誰にも相談できない三奈笹山宣子を使嗾し、破談を画策する。

しかし、総理大臣滝沢を仲人とし、結納、結婚式の日取りが決まるなど、着々と堀は埋まっていく。焦燥を抱える三奈を更なる驚愕が襲った。尚子が妊娠したのだ。



登場人物が多いので、一旦は話が拡散しますが、最後はやはり三奈眞一郎の話に帰着していますので、骨格がぶれず安心して読み進められました。

勿論、結婚の当事者である尚子(特に)が、急速に存在感をなくしていますので、上巻であんなに豪腕をふるった尚子が下巻になると殆どコマのようになってしまうのはちょっと落差が大きかったような気もしますが。

和裕も結局何だったんでしょう。あまりにも存在感が希薄すぎです。最後に何か重要な役割を果たすのかな、と期待していましたが、何もないまま終わりです。

話自体も、最後は悲喜劇とでもいった幕引きなんでしょうか。ちょっと終章にかけてドタバタした感じが否めません。何だかもうちょっと話はあったんだけど、紙数の関係で最後は無理矢理まとめてしまいました、という印象です。そのため、この上・下巻を通じてのテーマがあまりはっきりしませんでした。登場人物の勝敗を考えたとき、勝者は眞一郎だけ、といったことになるんでしょうか。

また、DNA鑑定の話もどうして、あんなところまで引っ張るんでしょう。「最初からやっておけよ」とツッコミを入れたい気分です。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『霧のソレア』 緒川 怜

Solea 2008年、121冊目。緒川怜『霧のソレア』

いやぁ、面白かった。一言でいえば爆弾テロに遭った旅客機の話ではあるんですが、それとは別に旅客機を落とそうとするアメリカ政府の暗躍があったりと、盛り沢山の内容です。とにかく個々のイベントを長く引っ張らず、次々と事件がおこるなど話にスピードがあるのがいいですね。


カリフォルニア大学ロサンゼルス校で国際関係論を学ぶジェシカ・ブロックは公開シンポジウムで知り合った、中米ニカラグアのサンディニスタ民族解放戦線の元戦士だと名乗る男アンヘル・セサールに惹かれる。幼い頃、メキシコで目にした貧困への同情から、ラテンアメリカを裏庭化するアメリカ政府への怒りを強めたジェシカはサンディニスタの親派でもあったのだ。オルテガ(サンディニスタ)政権を支援するために、というアンヘルの言葉に、ジェシカは麻薬密輸を手伝うこととなった。

コカインを入れたスーツケースを預け、ジェシカは日本トランス・パシフィック航空73便に乗り込んだが、スーツケースの中身はコカインではなかった。HMTD=ヘキサメチレントリバーオキサイトジアミン。白い粉末状の高性能爆薬だ。

アンヘル・セサールの偽名を使った男の本名はマヌエル・カルデロン。サンディニスタの対極にある反政府武装勢力コントラの一員だ。アメリカ政府のニカラグアへの関与を引き出すため、サンディニスタ名でのテロを偽装しようとしたのだ。ジェシカに運ばせたスーツケースは東京を経由し、シンガポールへ渡る途中で爆発し、同機に搭乗するアメリカ陸上界のスター選手らを木っ端微塵にする。

しかし、日本トランス・パシフィック航空73便は定刻での出発とならなかった。離陸直後に鳥と衝突したことで第ニエンジンが不調となったため、ロサンゼルス国際空港へ引き返したのだ。

73便を操縦するのは塚田祐之介機長。ラストフライトを半年後に控えたベテランだ。副操縦士はジャンボでの飛行時間210時間という新米高城玲子。航空機関士佐伯宏明、48歳。

出発は定刻より7時間遅れ。この遅れによって、新たな乗客が加わった。元ソ連(現ロシア)の核科学者アレクセイ・ミハイロヴィッチ・サグジェーエフである。娘ナターシャを原発事故の後遺症で亡くし、悲観した妻タチアナをも失ったサグジェーエフは、アメリカで新生活を始めようとしたが職にあぶれ、誘いのあった北朝鮮へ向かおうとしたのだ。これを未然に防ごう(サグジェーエフを殺害しよう)としたCIAだったが、何者かに阻止され、結局は出発直前の73便に乗り込まれてしまう。

原爆の開発に成功した北朝鮮が新型テポドン・ミサイルに核を搭載できるようになれば、アメリカにとって由々しき事態である。ミサイルへの核搭載を可能ならしめる技術を持つサグジェーエフを北朝鮮に行かせることはできないのは自明の理。

秘かに召集された緊急会議で、アメリカ合衆国大統領、大統領補佐官スティーブン・ギャラガー、国務長官ケネス・コスグローブ、国防長官ウィリアム・リチャードソン、CIA長官ベンジャミン・ドールは、73便の”悲劇的な事故”を承認した。

離陸した後、衛星電話でアンヘルに連絡をとったジェシカだったが、アンヘルな不自然な態度に疑念を持つ。推理を働かせたジェシカは自身が持ち込んだものの正体が爆弾であることに気がついたが、気付くのが遅すぎた。

前部貨物室での爆発はファーストクラスの床パネルを破壊するとともに、胴体に大穴を開けた。この爆発で7人が死亡。その中にはジェシカのほか、たまたま客室に下りていた機長塚田も含まれていた。

この事故で第一油圧系統がダメになるとともに、燃料タンクにも不調が生じていた。第ニタンクのバルブが作動せず、第2タンクは4基のエンジンのうち1基にしか使用できないため、成田に到着する前に第2タンクを残して3基のエンジンが停止する可能性が高いのだ。

アメリカが採った”事故”を演出する作戦は電子戦。4人の搭乗員が乗る電子戦専用機ノースロップ・グラマンEA6Bブロウラーは73便の後方から近づくと、電波妨害を始めた。

これにより、73便は交信を閉ざされただけでなく、計器着陸装置も使用できない。成田空港の霧は深さを増し、視界は10メートル。とても着陸できる状態ではなかったが、これを73便に伝える術もなかった。

低空飛行を続けたEA6Bブロウラーだったが、航空自衛隊の早期警戒機E2Cホークアイの捜索レーダーが房総沖にキャッチする。情報はすぐさま茨城県百里基地に伝えられ、スクランブルがかかった。向かうのはベテラン岡田正彦一等空尉と桜井渉三等空尉。スクランブル警報の発令から4分ちょっと。F15イーグル2機は未確認機に向けて飛び立った。

その頃、着陸に向けて準備を進めていた玲子は、地表を覆う霧の存在に言葉を失っていた。



爆弾テロに加えて、機関士の怠慢によるミス、飛行機の墜落を狙うアメリカの謀略、スクランブル、霧の空港と、次々と起こる危機(イベント)また危機(イベント)が小気味よく続くので飽きさせません。こういった飛行機ものはこのどれか2つ程度を原因としたクライシスを巡る人間模様といったものが主になりがちですが、とにかくイベントをもり沢山に詰め込んだことで、かなりドライなエンターテインメントになっています。

ただし、個人的には若干詰め込みすぎの気がしないではありません。サグジェーエフの渡航を支援する謎の組織、アメリカの謀略の真相とか、最後のどんでん返しで読者を驚かそうという意気込みはわかるのですが、そういったものがなくとも完成度が高い(十分に楽しめる)ので、最後の種明かしが蛇足のような気がしないではありません。

いずれにせよエンターテインメントとして十分に楽しめる作品で、こういった傾向の作品なら更に読んでみたいという気にさせます。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★☆☆

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『ホルモー六景』 万城目学

Horumo 2008年、120冊目。万城目学『ホルモー六景』

『鴨川ホルモー』の続編(?)です。『鴨川ホルモー』の後日の部分も若干あるので続編といえるかもしれませんが、むしろ”鴨川ホルモー”時のサイドストーリー集といった方がいいかもしれません。名前のとおり、”ホルモー”に係わる6つのサイドストーリーです。

とにかく面白い。客観的に、今回の作品だけ捉えると内容は大したことはないのかもしれませんが、『鴨川ホルモー』でしっかりとした世界観が出来上がっており、キャラクターの個性も確立しているので、非常に引き込まれます。

『鴨川ホルモー』の主人公安倍が主人公ではなく、その周りを彩る(というよりも名前だけ登場といったような)人々の話ですが、これがとにかく面白い。引き込まれてしまって、読み終わるまでは本を置くことができませんでした。


プロローグ

祇園祭の宵山。

大学の食堂では、第501回目の”四条烏丸交差点の会”を控えて会話する安倍高村。既に高村の頭に「チョンマゲ」はない。


第一景 鴨川(小)ホルモー

京都産業大学玄武組、二人静定子彰子)。

二人揃って北山のレディース・マンションに住む定子彰子の交わりの深さは、管仲と鮑叔牙、廉頗と藺相如の交わりに勝るとも劣らないと評された。

そんな彼女らのモットーは「毒は溜めると身体に悪い」だ。クリスマス・イヴの夜、好きな男に振り向いてもらえない彰子と、好きな男のできない定子の毒が世の男に向けられたとき、新・天下三大不如意「鴨川の等間隔カップル、足先の冷え、男ごころ」が生み出された。泥酔した彼女らは、同時に、鴨川(小)ホルモーのきっかけともなる通称”北山議定書”を結んだのである。

「鴨川ホルモー」初戦、龍谷大学深草キャンパスに乗り込んだ、いわゆる”深草ホルモー”で二人静は大活躍する。前線で戦う二人静は、率いる二百匹の”黒オニ”を前線から後方の補給部隊との間で旋回させ、龍谷大学フェニックスを撃破していった。ちなみに、彰子はこれを「夢想花アタッキング」と名づけた。

しかし、2週間後の”京都府立植物園ホルモー”。最弱のはずの対京大青竜会戦でなぜか京産大玄武組は敗退してしまう。その大番狂わせの背景には(京大、芦屋の活躍では説明できない)二人静の諍いがあった。

”京都府立植物園ホルモー”の前日、定子彰子に「ひょっとしたら自分は恋をしたのかもしれない」と打ち明けたのだ。そして、誕生日の6月24日にデートをすることになったのだと。

「北山議定書」 私たち二人静は、いわゆる世の記念日と呼ばれる日をいつも二人で過ごすことを誓います。もしも、どちらかがこの誓いを破るときは、もう一方の要求を必ず受け入れ、然るのちに誓いを破ることを誓います。

決闘を---しましょう」長い沈黙を破って、彰子はわずかに震える声で告げた。

決戦の24日。バイト先の一条(同志社大学)と映画、祇園の鍵善、OPA、かつくらと経巡った定子は鴨川へ赴き、足元のオニたちに「展開」の鬼語を発した。

6月24日、午後8時43分。長きにわたるホルモーの歴史上、誰もその存在を知らない、「鴨川(小)ホルモー」の火蓋が切って落とされた。


第二景 ローマ風の休日

京都造形芸術大学に程近い、白川通に面した場所にあるイタリア料理店「ann's cafe」。

膨らみのある髪形に、枠の太いメガネをかけた新しいアルバイトが入る。愛想がなく、みるからに接客に向かない彼女は楠木ふみ(凡ちゃん)といった。

店のスタッフとも親しまない彼女だったが、女性関係の不始末から店長(在原)が遁走した店の危機に、ふみは毅然として『仕分け』(厨房とホールの連絡等)をかってでた。ふみのコントロールで危機を脱した店長、スタッフは彼女を認めるようになっていった。

店のクーラーが壊れ、突然休業となったある日。主人公の”少年”(高校生)はふみをデートに誘う。高校の数学で出された宿題を解くのに、理学部数学科であるふみに教えを乞うたのだ。

宿題の題材である鴨川、賀茂川、高野川、疎水に架かる橋の一筆書きを実地で試すように、”少年”はふみを荷台に乗せ、自転車を走らせた。

ちょっと行きたいところがあるんだけどふみが望んだのは六道珍皇寺の井戸である。閻魔大王のいる冥土につながるという井戸に腕が引き込まれそうになる”少年”の姿にあわてるふみ。寺の人間に見つかって逃げ出した先は八坂神社。

アイスが食べたいというふみに”少年”はハーゲンダッツの抹茶味をさしだすと、楼門前の階段に腰掛けた。

少年”の宿題を解きながら、数学を熱く語るふみの姿に、店での姿とのギャップと苛立ちを感じた”少年”は問うていた。「楠木さんて、好きな人っていないんですか


第三景 もっちゃん

ホルモーで使われる懐中時計のまつわる話。

安倍の友人”もっちゃん”が恋をした。

大阪からの通学の途中、通勤・通学客でごった返す車内に、もっちゃんはヴィーナスの姿をみつけた。彼女は”同女”と呼ばれる同志社大学の隣にたつ女子校の学生だった。

もっちゃんの告白は個性的だ。ジョン・キーツの詩集の1ページを引きちぎり、「これを読んでください」と彼女の膝のうえに置いたのだ。返事は「あんなの読めません、知りません」だった。英語だったのだ。

安倍もっちゃんに恋文を出すことを勧める。上質の便箋とペンを求める二人は、二条、三条、四条、河原町の路地をいく。二条通から寺町通に入る角の八百屋でもっちゃんは急に立ち止まった。買ったのはカリフォルニア産のレモン。書くときにインスピレーションを引き寄せるためだ。

丸善に入った安倍は紙やペンを吟味するもっちゃんをヨソに、本に読みふける。帰ろうとしたもっちゃんは一点を凝視していた。本に読みふけるあまり安倍が本のうえにおいたレモンである。

酒を飲んで帰った二人は恋文を書き始めたが、安倍にまともな恋文など書けるはずもなく、個人的に恋文を出すつもりもなかった。もっちゃんの手前、紙に描いたのは文章のかわりに絵だった。額の極端に広い、ほとんどチョンマゲ姿に近い女子生徒と、その前にひざまずくもっちゃんの姿。吹き出しには「嗚呼、あなたは何と美しい額をもつているのでせう」という大げさな台詞も入っている。勿論、もっちゃん安倍個人の恋文だと思っているから穿鑿もせず、どんなものを書き、封印したのかは知るよしもない。

翌朝目が覚めたのは8時。電車が今出川につく8時20分に向けて、もっちゃんは駆け出した。安倍はまた寝てしまうが、目を覚ました11時、目にした白い封筒に驚く。「駄目だ、もっちゃんッ

卒業後、地元に戻って製糸会社に働く安倍のもとに、もっちゃんから封筒が届く。同封されていたのは、学校(三高)卒業後、東大の文学部に進んでいたもっちゃんが有志たちと発行した文学の同人誌『青空』、そしてもっちゃん愛用の蓋に「基」と刻印された懐中時計だった。


第四景 同志社大学黄竜陣

安倍芦屋を完膚なきまでに回復不能な関係に叩き込んだ早良安倍下宿襲撃事件を引き起こす遠因となった芦屋満の元彼女山吹巴の話。

山吹巴は同志社大学文学部英文学科に1年浪人したうえで入学した。英文学科の桂大五郎先生に師事するためだ。しかし、入学した矢先、先生が今年限りで退官することを知る。

行動的な彼女は一般教養の京田辺キャンパスを抜け出し、今出川キャンパスを目指したのだ。文学部の研究室で偶然先生に出会ったは、急ぐに書庫から荷物をとってくることを頼まれる。に資料を渡し終え、荷物を戻しに書庫へ戻っただったが、そこで奇妙な木箱を発見する。

好奇心から木箱をあけたは、中に黄色い浴衣と英文の奇妙な手紙を発見する。4枚の手紙の1枚目には、中央にたった一つの単語しか記載されていない。「horumo」

「親愛なるジョーへ」で始まる手紙は、札幌のクラーク博士(W.S.Clark)から同志社大学の創設者である新島襄への手紙だった。

クラーク博士の友人である元薩摩藩士は維新前に「horumo」と称するスポーツとおぼしきものの薩摩藩のメンバーだったが、維新のため京都が不安定となるなかで「horumo」を中断し、二度とプレイすることなく今に至るという。薩摩藩のチームカラーは黄色、チーム名「イエロードラゴン」のユニフォーム(黄色い浴衣)を復活のときのために新島襄に保管しておいて欲しいというのだ。復活のための3つの条件を同封して。

内容が理解できないだったが、コピーし忘れた「復活のための3条件」を調べるため再度今出川キャンパスに向かう。今出川キャンパスの西門脇の「薩摩藩邸跡」の石柱を通り過ぎ、再度書庫に入ったはそこで「<ホルモー>黄龍陣、復活ニ関スル三条件」を発見する。

既に別れて久しいが、なぜか新しい彼女の愚痴などを言ってくる元彼氏芦屋の案内で、は上御霊神社を訪ねる。条件の一が”一、黄龍陣ノ証を持チテ、神社を訪レルベシ”だからだ。は黄色の浴衣を持参してきていた。

しかし、には条件の二つ目あたりから意味がわからない。”一、彼ノモノヲ使役スル者トトモニ、神社ヲ訪レルベシ。”しかし、芦屋を伴ったは期せずして、この条件を満たしてしまう。

早良とうまくいかず、に未練たっぷりの芦屋を食事に誘う。錦市場を抜けて錦天満宮の前まできたとき、芦屋は、前をいくカップル、一条と京産大の二人静定子が足元にオニをひきつれているのをみて絶句する。(「第一景 鴨川(小)ホルモー」)しかし、その後、の視線の先にある早良を発見した芦屋は完全に絶句した。

四条大橋の上から鴨川に目を向けるは3条件を思い出す。3つ目の条件”一、同日夜、彼ノモノヲ鴨川ニ柱トシテ捧グベシ

そもそも”彼ノモノ”の正体もわからないは、「三条件」のコピー用紙を鴨川に流し、帰途につく。四条大橋の東詰から水色の傘、西詰から赤い傘の女の子がかけより、抱き合い泣く姿を見かけ、京阪四条駅の階段を降りようとした耳に雄叫びが届く。「ホルモオオオォォォーッ」これで3条件が整ったのだ。


第五景 丸の内サミット

ホルモーOB・OGの東京での邂逅と新たなホルモーとの出会いの話。

青山の大手アパレル会社に勤める井伊直子は同僚の酒井から合コンの誘いを受ける。同じく、赤坂の商社勤めの榊原康は同僚の本多忠から合コンの誘いを受けていた。

2対2となった合コン。目にした女性の姿には思わず息を止めた。相手の女性も、口を開けたまま、思う存分、目を見開いている。

い、井伊さん

やっぱり榊原くん、何で---?

京都産業大学玄武組第四百九十八代会長榊原康と、龍谷大学朱雀団第四百九十八代会長井伊直子。四百九十八代目間ホルモー、通称「京極ホルモー」を2年にわたり戦い抜いた2人。繰り返された激戦の数々をして、越後の上杉謙信と、甲斐の武田信玄との戦いに比された2人。ホルモー史上に残る好敵手として、都大路にその名を轟かせた2人。「京極ホルモー」の終結より3年と半年の歳月を経て、両雄は東京丸の内に屹立する新丸ビル5階、合コンの席上にて再会したのである。

7階のテラスに出た2人は空を漂う黒いオニたちの姿を発見する。本多酒井と別れた2人は黒オニの流れてきた先を求めて歩き出す。読売新聞社前の交差点をすぎ辿り着いたのは平将門の首塚

様子を伺う2人の耳に、聞きなれた男女の声が聞こえてきた。


第六景 長持の恋

立命館大学白虎隊第五百代目会長細川珠実高村と付き合い始めるきっかけとなったお話。

貧乏、極貧の生活をおくる珠実。学生食堂の前で勧誘された自動車教習所のお姉さんに同情され、「これでおうどんでも、食べなさい」350円を手渡される。貧乏なはずなのになぜか教習所にも通うことになってしまった珠実は新たなアルバイトを探す。

”まかないつき”という文字に誘われ決めたアルバイト先は料理旅館の仲居アルバイト。伏見稲荷の「弧のは」である。アルバイト初日、まかないで出た刺身の切れ端を食べたとき、珠実は感激のあまり、つい泣き出してしまった。さほどの理由もなく、すぐに涙ぐんでしまう珠実には「泣き虫おたま」のあだながついた。

2月中旬、珠実は女将から蔵で燈台をとってくることを命じられる。探しに入った蔵の隅に、大きな長持があるのを見付けた珠実は、好奇心から蓋をあけて中を覗き込んだものの中身は空っぽだった。しかし、箱の底に「なべ丸」と書かれた小さな木板を発見した珠実は、なぜか無意識のうちに作務衣のポケットからマジックペンを取り出し、裏面に「おたま」と書き込んでいた。「何で珠実自身、どうしてそんな行為に及んだのかわからない。珠実は慌てて作務衣の袖で木の表面を擦ったが、油性マジックの筆跡は薄まらない。

燈台を蔵へ戻す傍ら、女将のいうところの”織田信長の長持”を覗き込んだ珠実は驚愕する。前日の「なべ丸」の文字にかわって、珠実への返事がしたためられていたからだ。誰かのイタズラかと疑う珠実だったが、またしても勝手に珠実の右手はペンを走らせていた。

教習所で一緒になった京大青竜会の高村にチョンマゲの所以を尋ねる珠実。鴨川十七条ホルモー初戦で立命館大学白虎隊式部舞の一員として「ホルモオオオォォォーッ」と雄叫びをあげた珠実は他人事ではない。今回の自動筆記もおそらくそれが原因だ。

正体不明のなべ丸との交換日記が始まった。慣れていくにつれて、珠実は同年のなべ丸に少しずつ好感を抱くようになっていった。しかし、本能寺の変のことに珠実が気づいたときには、なべ丸織田信長に付き従って京都に到着していた。本能寺の変を避けるよう木板に綴った珠実だったが、願いもむなしく翌日の木板に変化はなかった。

本能寺を訪ねた珠実は「本能寺ノ変戦死陣没之諸霊」の立て札に「柏原大鍋」の名を見たとき本能寺の変で何が起こったかを了解していた。



どれも良い作品です。二人静は存在感が大きいのですが、こう文章だけ読んでいると容貌の描写はあまりないのですね。何となく大柄で、猪のようなごついイメージを受けてしまいますが、どうなんでしょう。挿絵はそんな感じではないんですが。

ローマ風の休日」のはパロディのオンパレードですね。ただ、全作品のなかでは相対的に印象に乏しい作品かもしれません。ところで、六道珍皇寺の井戸といえば、『有頂天家族』森見登美彦)の次兄矢二郎が蛙として逼塞している井戸ですよね。

梶井基次郎の話は「ホルモー」にまつわるトリビアといった感じでしょうか。ところで、河原町の丸善って閉店になっていたんですね。この話で初めて知りました。大学時代にときどき行った場所なので少し寂しいです。

やっぱり一番惹きつけられたのは「第四景 同志社大学黄竜陣」でしょうか。『鴨川ホルモー』でも、「なぜ、同志社が入らないの?」という感じでしたから、満を持しての登場という印象です。加えて、この復活の立役者が期せずして鴨川十七条ホルモーの引き金を引いた芦屋の元彼女とくれば面白くないはずはありません。第一景の二人静の話ともつながってきますし、このサイドストーリー集の集大成の趣すらあります。これで五大学で行われることとなるホルモー。是非、続きが読みたいものです。

でも、山吹巴の学年っていうのは、丁度端境期にあたるので、せっかくの立役者でありながらメンバーにはなれないんでしょうか。芦屋を叩きのめすところを見てみたかったような気もしますが。

第五景 丸の内サミット」はホルモーの世界が京都限定の話から、関東にまで拡大する話であり、今後の展開を楽しみにさせる話でもありますが、榊原康井伊直子というキャラクターも是非続投いただきたい魅力的な登場人物ではなかったでしょうか。

最後を締める「第六景 長持の恋」は他作品とは違ったちょっとウェットな話です。ただし、内容の巧拙というよりも、細川珠実というキャラクターの造形に驚きました。立命館大学白虎隊の会長ですから、もっとしっかりした人物かと思っていましたが、この自堕落さ。はっきりいって非常に驚きました。なるほど選出方法が”くじ”とは、背景のもってきかたが巧いですね。『鹿男あをによし』の「弧のは」も出てきますので、ちょっとニヤリとしてしまいます。

本当に続編が望まれる作品です。

プロローグが宵山の四条烏丸交差点の会を控えたところで始まりましたので、最後に交差点の会で締めるのかと思いましたが、そうではありませんでした。次回は”四条烏丸交差点の会”から始まるのでしょうか。そのときには交差点の中央に同志社大学黄竜陣がいるということになるのかもしれませんね。

お奨め度:★★★★★

再読推奨:★★★★★

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『きみはポラリス』 三浦しをん

Poralis 2008年、119冊目。三浦しをん『きみはポラリス』

「恋愛」に関するテーマを集めた短編集。ただし、一般的な恋愛小説ではなく、総じて”シアワセ”な気持ちになるものとは異なります。

最初の作品と最後の作品では登場人物が共通しますが、男の男への恋愛感情であることをみても、この恋愛短編集が一筋縄ではいかないものであることをあらわしているようです。


永遠に完成しない二通の手紙 (★★★☆☆)

岡田勘太郎の下宿に突如あがりこむ寺島良介寺島は小学校時代からの友人だ。

岡田、頼む!手紙書くのを手伝ってくれ」惚れっぽい寺島の今回の相手は合コンで知り合ったOLの内村洋子

洋子さんには、絶対にラブレターが有効だと思うんだよ


裏切らないこと (★★☆☆☆)

岡村は家に帰るととんでもないものを目撃してしまった。妻恵理花が床に額づくようにして、息子勇人の小さなペニスを口に含んでいたのだ。

親子・夫婦の関係に不思議を感じる岡村恵理花の母夕子に、子どものころ出会った不思議な夫婦の話をする。

岡村の隣家の夫婦、前園多恵子喜一は姉弟だった。


私たちがしたこと (★★☆☆☆)

カフェの雇われ調理人である朋代は常連の古橋が気になるが、親しくするにはいたらない。

訪ねてきた高校時代の友人美紀子はそんな朋代に”恋をしない理由”、”高校時代のあの日”のことを問う。朋代は自身の現在の立ち位置を確認するかのように、”あの日”のことを語り始める。

高校時代の恋人黒川俊介とともに殺人を犯してしまったあの日のことを。


夜にあふれるもの (★★☆☆☆)

吉崎エルザのもとに高校時代の友人真理子の夫木村芳夫から連絡が入る。「妻がおかしいんです。

学生時代から一途に思いつめたところのある真理子のことを知るエルザは「おかしいのは昔から」と動じたりはしない。

妊娠した子どもは神の子だ主張する真理子に連れられ、夫芳夫エルザエルザの恋人有坂信二は深夜の高速道路を北へ、イエスの墓(戸来)へ向かう。


骨片 (★☆☆☆☆)

大学の文学部を卒業した蒔田朱鷺子は実家のあんこ屋に戻る。恩師である”先生”への恋情を封印して。

間もなく”先生”の病死に直面した朱鷺子は斎場で”先生”の骨片を掠め取る。


ペーパークラフト (★★☆☆☆)

村田里子は品川の水族館で熊谷勇二と出会う。勇二は夫の高校時代の野球部の後輩だ。

の誘いをきっかけに、ペーパークラフト作家だという勇二は頻繁に自宅に訪れるようになった。

しかし、出会いは偶然ではなかった。


森を歩く (★★★☆☆)

森田うはねは理系専門書の出版社の社員。「高校生の理科離れを考える会」のパーティー会場で出会った松尾捨松と同棲し、婚姻届も提出はまだだが、出来上がってはいる。しかし、捨松は学生でも研究者でもなく、何をしている人間なのか、うはねにもよくわからない。

ある日、出かける捨松のあとをうはねは尾行する。二人を乗せた下り電車は、郊外を抜け田園地帯へ向かう。


優雅な生活 (★★★★☆)

会社で流行る「自分にとっても地球にとっても快適な暮らしかた」に感化されたさよりは同棲する俊明にも強いるが、何だかんだと反対する。

健康的な生活を始めて1カ月。文句も絶え、受け入れはしたものの、協力しようとする姿勢をみせない俊明さよりは泣いて訴える。心を入れ替えたかのように、俊明の過剰な健康生活が始まった。


春太の毎日 (★★★☆☆)

麻子の飼い犬春太の毎日。

麻子を愛する春太麻子の恋人米倉健吾のことが気になって仕方がない。

健吾にプロポーズされた麻子は気もそぞろ。そんな麻子の姿に春太も落ち着かない。


冬の一等星 (★★☆☆☆)

たまに車の後部座席で眠る映子

映子が誘拐されたのは8歳の冬だった。車を盗んだ文蔵は後部座席で眠る映子に気がつかなかったのだ。「なんでガキが乗ってんの。あんたずっとそこにいた

大阪へ向けた2人の小旅行が始まった。


永遠につづく手紙の最初の一文 (★★★☆☆)

岡田勘太郎寺島良介は文化祭の片付けをしているうちに体育倉庫に閉じ込められてしまう。

俺はおまえが好きなんだと、岡田がはじめて胸のうちで言葉にしたのは、このときのこと。



どうもまともな(明るい)恋愛物が少ないという印象ですね。「永遠に完成しない二通の手紙」「永遠につづく手紙の最初の一文」岡田寺島は男同志ですし、「夜にあふれるもの」エルザ真理子は女同志、「春太の毎日」にいたっては犬による飼い主への恋情です。

岡田寺島の掛け合いの馬鹿馬鹿しさは非常に良いのですが、どうして収斂する先が岡田寺島へのウェットな感情でなければならないのでしょう。何だか素材が良い分だけ、勿体ない感じです。

その点、「優雅な生活」はバランスがとれていて良い作品です。さより俊明という特に突出したことのない二人が、本気でもないのに、エコ(ロハス)に取り組んで、振り回される姿は滑稽です。最初の姿から一周して、結局もとのところへ戻ったという設定ではありますが、ほのぼのとして心地良く読める作品です。

「春太の毎日」はわざとでしょうが、途中まで犬の視点であることを敢えて避ける表現が用いられていますが、ちょっとあざとい印象を持ちます。

全般に、どの作品も変化・成長から離れ、だらだらした毎日の断片を覗き見たという感があり、読後感はそれほど良いものではありません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『銀河不動産の超越』 森博嗣

Gingafudousan 2008年、118冊目。森博嗣『銀河不動産の超越』

何ていったらいいでしょう。脱力感の漂う物語。現代版わらしべ長者といった作品とでも評したらよいのでしょうか。

犀川創平ともよく似た無気力、受動的な主人公が周囲に引きずられ、知らないうちに恵まれてしまうという話です。


主人公高橋は(大学からは滑り止めですらないと推奨もされない)銀河不動産へ就職する。銀河不動産は、社長銀亀元治(65歳)のほかは事務員の佐賀佐知子(40代?)しかいないという零細不動産屋だ。

銀河不動産の超越

資産家間宮葉子とともに、葉子の求める部屋を探すうちに、不思議な巨大な家に出会い、高橋の人生は変わる。

玄関ホールの左右はとても大きい一段低い部屋が2つ。奥へいくほど天井が高くなり、奥の壁の高い半分は全面がガラス。正面には赤いドアと黄色いドアが2つ。白い螺旋階段が中央にあって二階へ上がることができる。もっとも、二階というのは、この中央部の上というだけで、左右は吹き抜けになっている。二階といっても、室内に小さな屋上があるといった趣きだ。赤いドアの中はキッチンで奥が倉庫になっている。黄色いドアを開けるとトイレとバス。こちらは通路が奥へ続き、裏庭へ続いている。

この部屋を間宮葉子は気に入り、購入する。しかし、なぜか葉子は自身で住むのではなく、高橋にここへ引っ越す(家賃5万円で葉子は大家となる)ことを命じ、無気力な高橋はこれに従う。


銀河不動産の勉強

丹波銀朗(31)。ミュージシャンを名乗る彼のニーズに合う部屋を探していた高橋だったが、なかなか見つからない。忘れた書類を自宅にとりに戻る高橋に同行した丹波高橋の住居をみて驚く。


銀河不動産の煩悩

作家山田由美。同居する彫刻家島田美佐子とともに分譲マンションを購入する。しかし、入居するはずのマンションで事故が発生し、竣工が遅れることとなったため、(現在の住居を解約した今となっては)住むところがなくなってしまう。コンクリートを練って作成する島田の彫刻制作のためには、建築会社が提案するホテル住まいでは都合が悪い。そこで仏心を出した高橋は竣工するまでの1カ月間、山田島田の2人と同居することを申し出た。


銀河不動産の危惧

池谷芳和(60頃)。定年後、アミューズメント関連の起業を目論み、その施設を展開するための場所を探していた。イメージはこじんまりとした遊園地といったところだろうか。開業までの費用を切り詰めようとする池谷の希望を受け入れ、例によって住居を提供する高橋池谷が部屋のなかで組み立て始めたのは2列だけのジェットコースタだったが、偶々これを見た間宮葉子は驚喜する。感銘を受けた葉子は更に室内用メリーゴーラウンドを購入することを即決し、これで池谷の資金繰りの目途がついてしまう。


銀河不動産の忌避

池谷芳和高橋に自身の娘と結婚することを薦め、懇願する。断ったつもりの高橋だったが、なぜか娘登美子が押しかけ、居ついてしまう。


銀河不動産の柔軟/銀河不動産の捕捉

綺麗で可愛い登美子がなぜ結婚を希望するのかまったくわからない高橋だったが、まわりは結婚することを既定事実のように祝福し、高橋自身も流されていく。

そんな2人の住居は、次々と同居人が増えていく。池谷芳和が住み着き、丹波銀朗とその友人熊崎山田島田も引っ越してくる。


銀河不動産の羅針

銀河不動産社長銀亀元治死後、事務所を高橋の住居に移転する。街から離れた不便な立地条件であるため、一般の顧客をあてにするべくもない。仕方なく、インターネットを使った販売に切り換えるが、これが成功を収める。

更に、池谷芳和の小さな遊園地事業にも参画し、これも成功させる。遊園地の隣にはライブハウスを建設し、丹波が支配人に着任する。その後も小さな事業を幾つか成功させ、多角化した銀河グループの社長となった高橋は妻登美子とともに来し方を振り返る。



これってサクセスストーリーなんですか?

努力も何もないサクセスストーリーって、こんなに違和感のあるものなんですね。実際、こんなことがあるとしたら、”妬ましい”といった感情しか抱き得ないでしょう。

突き詰めると、成功するには資産家(お金持ち)と知り合いになることが成功の近道ということが結論になりそうです。結局、池谷の成功ももとをただせば、高橋を通じて間宮と出会ったことに根源がありますし、(山田はちょっと違いますが)丹波島田の成功(幸福)も高橋の成功のおこぼれにあずかったものともいえるでしょう。その高橋の成功にしたところで、間宮葉子と出会ったこと、葉子の気まぐれに帰着してしまいますから、何だかんだいって”既に持てる者”の介在があって初めて”持たない者”も”持てる”ようになるということなのかもしれません。

こんな発想にたつと、非常に無力感に苛まれてしまいます。少なくとも努力を美徳とする考え方には立脚していないので、人によっては嫌な気分になるかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『傷物語』 西尾維新

Kizumono 2008年、117冊目。西尾維新『傷物語』

ライトノベルで、西尾維新で、(『化物語』の)付け足しで、っていうことで、見くびっていました。想像以上に良い出来です。勿論、西尾維新らしく、暴走するところは暴走してしまって、滑稽になっているところは多分(殆ど)にありますが、最後のまとめ方は非常にしみじみとしていて驚きました。もしかすると、(ちょっと言いすぎかもしれませんが)西尾維新作品のなかでも一、二を争う作品じゃないでしょうか。

この作品は、『化物語』のいわゆる前日譚。阿良良木暦と、羽川翼忍野忍キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)との出会いの物語。


阿良良木暦は高校(私立直江津高校)2年の終業式を終え、高校の周囲を散歩しているところで”委員長の中の委員長”羽川翼と印象的・衝撃的な出合いを迎える。

その夜、自宅をこっそり抜け出したは街灯の切れた道で吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを見つける。しかし、彼女は両腕、両脚を切断され、瀕死の重傷を負っていた。「儂を助けさせてやる。・・・うぬの血を寄こせ

立ち去ろうとするに、ハートアンダーブレードはそれまでの高慢ちきな言葉遣いも崩れ、子どものように泣きじゃくり始める。心動かされたは、死ぬことを覚悟のうえで、自らの首を差し出した。

目が覚めたときもまた吸血鬼となっていた。ハートアンダーブレードの従僕として不死性を手に入れる一方で、太陽光を浴びることすらできなくなったは、10歳の金髪少女に再生したハートアンダーブレードに”人間に戻る”ことを求める。

その条件として命じられたのは、彼女の両腕、両脚を取り返すことだった。彼女の両腕・両脚は吸血鬼退治の3人の専門家に奪われていた。何も考えずに、夜の街に繰り出したは吸血鬼として狩られるところを、通りすがりのアロハ服のおっさん忍野メメに救われる。学習塾跡の廃墟に戻ったは、忍野メメハートアンダーブレードと作戦を練り直す。忍野は3人との仲介役、交渉役を申し出る。3人をひとりひとりにバラして相手をするのだ。

忍野メメの交渉の甲斐もあり、直江津高校を舞台に1対1での3戦が繰り広げられる。

対戦するのは吸血鬼退治を専門とする3人。”波打つ大剣の二刀流”ドラマツルギー(吸血鬼)、”巨大な十字架”エピソード(ヴァンパイア・ハーフ)、”得体の知れない男”ギロチンカッター(人間)。

羽川翼の支援などもあり、苦戦しながらも両腕・両脚を取り返した。(羽川翼を人質にとられるという)失態を認めた忍野メメが隠し持っていたハートアンダーブレードの心臓も入手し、使命をなんとか果たす。取り返した両腕・両脚を”食べる”都度、ハートアンダーブレードは成長し、10歳→12歳→17歳→27歳完全体へと戻る。

思い出を語り合い、別れを惜しんだハートアンダーブレードだったが、外出から戻ったがみたのは、ギロチンカッターを食べるハートアンダーブレードの姿。あらためて自身が救ったものの正体を確認したとき、には逃げるしかなかった。

責任をとって自殺しようとするだったが、羽川翼に励まされ、高校のグラウンドでハートアンダーブレードと対決する。しかし、フルパワーで戦える喜びに酔いしれるハートアンダーブレードに隙はなく、に勝利の可能性は全く見出せなかった。そこに、体育倉庫から飛び出した羽川翼の声が響いた。

阿良良木くん、何かおかしい!私達、多分、まだ何か、とても大事なことを見落としている -



『化物語』戦場ヶ原ひたぎがヒロインの話ですが、この作品は羽川翼がヒロインとなって非常に存在感があります。しかし、真のヒロイン役はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードなんでしょうね。主人公(語り部)であるが、そのとき一番かわいそうなキャラクターに同情していくので、次々とヒロインが変わっていくように見えるのかもしれません。

内容自体は、高校生目線であり、アキバ系目線で作られているので、そんな大そうなものではありませんし、荒唐無稽であることは全く否めないのですが・・・。でも、面白かったですね。たまにはこんなのもアリじゃないでしょうか。最後は悲哀も感じましたし、西尾維新作品のなかでも非常によくできた部類じゃないでしょうか。このあとに続く『化物語』のことを考えても、非常に両作品の深みを増しているような気がします。

やはり順番的には時系列順に『傷物語』『化物語(なかでも「つばさキャット」から)と読むのがいいかもしれません。

でも、こんな風にこの作品を推奨すると変態呼ばわりされそうで、ちょっと大きな声では人には言えません。そんな作品です。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★★☆☆

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『仏果を得ず』 三浦しをん

Bukka 2008年、116冊目。三浦しをん『仏果を得ず』

前から気になっていた作品でしたが、漸く読み終えました。面白い作品でした。

平安寿子『こっちへお入り』と似た印象を持つ作品です。片や落語で、この作品は文楽(義太夫と三味線)を題材にもってきているところが違いますが、表現での苦しみを私生活のなかからヒントを得て開眼していくところはよく似た感じです。『こっちへお入り』に比べると、題材である文楽を過度に持ち上げないところは、堅苦しくせず、好感が持てます。


笹本健大夫は師匠である人間国宝笹本銀大夫から鷺澤兎一郎と組むよう命じられる。義太夫三味線、鷺澤兎一郎の評判は、文楽の技芸員たちの間で一致していた。曰く、「実力はあるが変人」。

組むのを嫌がる兎一郎銀大夫は説き伏せ、健大夫兎一郎のコンビが始まる。三味線に一途に取り組む兎一郎を尊敬し、それに追いつこうとする健大夫に、兎一郎もアドバイスする。”寡黙で三味線を弾くことにしか興味がない”はずの兎一郎だが、健大夫は、かつて組んでいた健大夫の兄弟子月大夫と少し似ていたのだ。切磋琢磨する二人は少しずつ成長していく。

健大夫はボランティアで小学校での義太夫指導を行っていた。特に熱心な生徒は新津小学校3年2組のミラちゃん岡田みらい)。出会ったミラちゃんの母親岡田真智健大夫は一目惚れしてしまう。なぜか付き合うことになった健大夫真智だが、ミラちゃんの父親のことなど、健大夫には真智が何を考えているかわからない。自ずと語りも上の空になり、兎一郎銀大夫から責められる始末。

そんなとき、健大夫兎一郎とともに東京公演で『仮名手本忠臣蔵』の重要なシーン「早野勘平腹切の段」に多くの先輩らを差し置いて大抜擢される。稽古に励まなくてはならないはずが、師匠銀大夫からは銀大夫のライバル若竹砂大夫師匠に稽古をつけてもらうよう厳命される。私生活ではミラちゃんから「健せんせがうちのお母さんとつきあっとっても、うちは健せんせのことが好き」と電話が・・・。問題山積のなか、東京公演は近づく。



登場人物がそれぞれ個性的でひきつけられます。ただし、ちょっと兎一郎の造形がちょっと相対的に弱いかもしれませんね。重要なキャラクターであるわりには、”芸(三味線)に一途であること”というほかは、各キャラクター間の関係をつなぐ縁を説明するための設定が色濃く、個性があまり感じられません。話を引っ掻き回す銀大夫師匠。これは秀逸、愉快ですね。芸事にあまり口を出さず、あんまり師匠らしくはありませんが・・・。

同様に、明るいキャラクターといえば、岡田真智みらい親子。岡田真智は蓮っ葉でパワフルで、いかにも大阪っぽい。ミラちゃんもとにかく活発。この2人に話は引っ張られているような感じです。微笑ましく、かつテンポの良い会話は作品全体を小気味良く動かしていきます。

うまく文楽と組み合わせて話が展開するので、文楽作品の公演ごとに、都度都度に話が締まり、良い塩梅です。文楽といえば、どちらといえば人形がメインになるという印象を持っていましたので、義太夫と三味線という、どちらかといえば脇役(?)をメインに据える作品ということで、ちょっと驚きではありました。

全体を通してみれば、健大夫の成長物語であり、人間関係(縁)を結んでいく話です。最後は、いろいろな紆余曲折を経ながら、落ち着くべきところに落ち着いたという内容で、読後感も悪くありません。安心して閉じられる作品でした。

お奨め度:★★★★

再読推奨:★★☆☆☆

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『スパイ大作戦』 室積光

Spy 2008年、115冊目。室積光『スパイ大作戦』

面白いといえば面白いんですが、なかなか解釈の難しい作品です。

出だし・中盤(ほぼ最後まで)はとにかく”馬鹿馬鹿しい”の一語に尽きますが、最後は滑稽+ほのぼのといった印象で終わります。そのわりには、主要人物が爆死しますから、ちょっと違和感は覚えますが・・・。


田畑明男は友愛産業に勤める中年男。妻朝子、長女恵子(小6)、長男明彦(小4)の4人家族と極めて平凡な家庭。

しかし、田畑には裏の顔があった。田畑は陸軍中野学校卒業のスパイ(軍事探偵)だ。しかし、今の日本政府、公安に雇われているわけでなく、自身の愛国心からスパイ活動をボランティアで行っているのだ。日本の国益を計るため、戦後22年間、日々(つまらない)情報を入手し、アメリカとソ連の二重スパイとして活動する田畑をCIAは”ミスター・バタフライ”と呼んだ。

ソ連科学アカデミー会員セコイノビッチ・カネガスキー博士は新型戦闘機ミグXの設計図を土産に亡命を企てる。この亡命を支援するCIA日本支部では、キャプテン・ブルーを中心に計画が立てられる。亡命以上に重要な土産「ミグXの設計図」を入手した後、(見なかったことにして)ソ連に返すという作戦”当たり前だの黒革(あたりまえだのくろかわ)作戦”である。

ソ連に設計図を違和感なく返還するために、アメリカ大使館の茶室工事のために出入りしている大工見習い田村耕二をソ連のエージェントに仕立て上げることとしたキャプテン・ブルーは”スター・バタフライ”こと田畑明男に、田村耕二を情報提供者としてKGBに推薦するよう要請した。

KGBに情報を流した後、耕二に接触した田畑はソ連のエージェントからの接触に備えるよう耕二に告げ、押入れに身を潜める。その晩、KGBの女エージェントマカロワ耕二に接触し、情報提供を求める。

来日したセコイノビッチ・カネガスキー博士を見守るKGBの前で大阪のホテルからまんまとかっさらったCIAのエージェントたちは、博士を東京まで新幹線で移送する。博士から受け取った黒革の鞄の中身は「ミグXの設計図」だけではなかった。大陸間弾道弾の地下発射基地の図面、その位置を示す地図といった予想以上のお宝に、小躍りするエージェントだったが、これを記憶するには24時間が必要だ。急遽予定を変更し、耕二にニセの鞄を持たせ(取り返されたようにみせかけ)、これを24時間追跡するフリをすることで、時間を稼ぐ作戦が立案され、実行された。

耕二は「大使館の茶室の設計図が入っている」とエージェント・ピンクから渡された黒革の鞄をもって大使館を出る。マカロワからの連絡を受けて逡巡する耕二だったが、タバコ屋の大原直美耕二を逃避行に連れ出してしまう。田畑は影ながら2人を見守るが、間抜けなことにCIAのエージェントたちはあっさりと2人を見失う。

日本におけるアメリカとソ連の身勝手な諜報戦。日本人がソ連の工作員として関与していることを知った日本の影のドン黒川達平耕二の抹殺と、鞄の奪取を命じる。これを依頼されたのは凄腕の殺し屋『月光の辰』

『月光の辰』の襲われる耕二たちを守った田畑は、の姿をみて驚く。戦死したはずの戦友矢野だったのだ。田畑耕二を守るため、矢野の依頼主黒川に依頼の撤回を求めるが、聞き入れられることはなかった。袂をわかった田畑矢野はそれぞれ独力で耕二たちを探す。

しかし、その頃、亡命事件後の逃避行の概要をニュースが報じる。一躍有名人となってしまった田村耕二大原直美は横断幕や垂れ幕の下、地元の大歓迎を受ける。この2人を追跡するはずのCIAのエージェントたちだったが、何者かがマスコミにエージェントの顔写真入りの紹介文書を投げ込んでいたため、マスコミに遮られ、耕二らに近づくことができない。

群集の前に姿を現したマカロワは隅田川に浮かんだ小船に耕二を誘導する。阻止しようとするCIAのキャプテン・ブルーらにマカロワは、捕まえたエージェント・ピンクに拳銃を突きつけ脅す。「その鞄に変なマネすると、この女を殺しますよ。

耕二が鞄をマカロワに渡し、マカロワが拳銃を下ろしたとき、それは起こった。マカロワが突然倒れ、船室のどこに潜んでいたのか日本人と思われる男がピンクの喉元に日本刀の切っ先を突きつけたのだ。(矢野)野次馬の中にいた田畑は声をあげそうになった。



少しふざけ過ぎという感じがしないではありません。ただ、逆に言えば、その路線でいくのであれば、最後まで貫きとおしてもらいたかったですね。矢野の最後はちょっと悲惨です。マカロワピンクの最後も、ちょっと説明不足で違和感は否めません。

田畑にしても、最後があんなホームドラマ風に終わるとは予想もしていませんでした。もうちょっとハッピーエンドになるのか、スパイという時代遅れの存在として否定されて終わるのか、いずれかと思っていましたが、ちょっと予想を裏切られた感じです。まぁ、ハッピーエンドといえば、ハッピーエンドではあるんですが、なんだかなぁ(荒唐無稽)と感じてしまう終わり方ではありました。

細かいことを気にすると、とても読めない作品ですので、もうひたすら流れにまかせて読んでいくのが良い作品なんでしょう。結末もあまり深く考えちゃあダメってことですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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