『無理』 奥田英朗

Muri 2009年、134冊目。奥田英朗『無理』

なんというか、何人かの「ゆめの市」の住人を主人公とした短編集を同時並行で書きましたというような作品。

本当に小市民ばかりで、大きな材料もなく、身の回りの薄汚れた等身大の生活が綴られます。勿論、トラックに襲われるというのは、大した事件かもしれませんが・・・。

 

雪に閉ざされた合併都市「ゆめの市」で何人かの市民が日々愚痴を言いながら生きている。

相原友則はゆめの市にある社会福祉事務所に駐在の県職員。生活保護課で、毎日、生活保護受給者(ケース)の面倒を見るが、自立せずに県にたかる市民に嫌気がさす。受給者を抑制するべく、厳しく対応する最中、民生委員からの申し立てで生活保護を申請してきていた西田肇の母親が凍死する。その後、トラックに後ろから煽られ、殺されそうになった友則西田の仕業とみて、懐柔しようとするが・・・。

久保史恵は高校3年。田舎のゆめのから出て、東京の大学に進学することが目標。予備校の帰り、史恵は突然、男に襲われ、車のトランクに詰め込まれ、拉致される。攫ったのは、引き篭もりの男。暴行はされなかったものの、離れに住む男のことを男の両親は見て見ぬふりをするため、解放の望みはない。泣き疲れた史恵は、男を刺激しないように暮らすうち、解放されてからの生活を怖れるようになっていく。

加藤裕也は老人宅に漏電遮断器を売りつける詐欺グループ「向田電気保安センター」で働く。暴走族OB亀山を社長とする保安センターは暴走族の先輩、後輩で組織されていた。加藤の先輩柴田亀山の評価を上げるため、喜々として仕事に打ち込む。これに刺激を受けた加藤もまた励み、会社の中で頭角を現わしていく。しかし、亀山の不条理な評価に憤った柴田ははずみで亀山を殺してしまい、加藤に相談を持ちかける。

堀部妙子は「ドリームタウン」で働く保安員(万引き警備)だった。新興宗教「沙修会」に属する妙子は万引き犯の女性三木由香里が競合する宗教団体万心教の信者であることを知ると、万引きを見逃すかわりに沙修会へ引き抜いた。しかし、これに反発した万心教は妙子に罠をしかけ、誤認逮捕の実績を妙子に作らせた挙句、失職に追い込む。失職した妙子だったが、兄のもとに身を寄せる母親への兄嫁の仕打ちに憤り、これを自宅に引き取ってしまう。

市会議員山本順一は市民団体の抗議に頭を痛めていた。飛鳥山の産廃処理施設建設計画に関与していることがばれたのだ。加えて、利権の匂いをかぎつけた元市議藤原は市民団体を利用して、山本に利権の分け前をねだるため圧力をかける。産廃業者薮田敬太の弟幸次は市民団体への嫌がらせの末、とうとう市民団体のリーダー坂上郁子の拉致に及ぶ。事件への係わりを避けようとする順一だったが、逆に幸次を刺激する結果となり、郁子は射殺されてしまう。

 

雪に閉ざされた街「ゆめの」を象徴するように、話自体は重く、暗い。

とにかく、出てくる人物、出てくる人物が殆ど計画性がない。目先のことだけで精一杯で、それがどんどん悪い方へ悪い方へと転がっていく。結局、この作品のなかで最終的にハッピーになった人っていないんじゃないかな。

しかし、最後の交通事故につながるトラックの犯人が西田だったというのは、逆に驚き。

作品中では、友則が特に根拠なく、印象論だけで西田犯人説を唱えているので、逆に真犯人は別にいるっていうのが普通なんですが・・・。ラストは本当に意表をつかれたって感じでしたね。

読み終わって、何か得られるものがあるわけでなく、気持ちよい後味があるわけでもない。そういう意味では再読はしたくない作品ですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『小太郎の左腕』 和田竜

Kotarou 2009年、133冊目。和田竜『小太郎の左腕』

和田竜の三作目。

いつものように戦国時代が舞台ですが、何かしらの戦史が背景にあったりするものではありません。

鉄砲伝来から日も浅く、織田信長の躍進もない時代における国人領主間の争いに巻き込まれた鉄砲に天賦の才を持った少年小太郎と、古いタイプの武者林半右衛門の話。

 

戦国期、弘治二年(1556年)。鉄砲が伝来して13年。

国人領主を従え、勢力を拡大した戸沢家(当主利高)は境を接する児玉家との戦に及ぶ。

しかし、利高の後継とされる図書の指揮は拙く、包囲されてしまう。図書とは犬猿の間ながら、戸沢家で万夫不当の勇士と評される林半右衛門秋幸はわが身を省みず、混戦に踊り込み、図書を逃がすため殿軍を請け負う。

これに対したのは児玉家一の勇士花房喜兵衛である。

一対一で斬り結んだ末、辛うじて花房を馬上から落とす半右衛門だったが、喜兵衛の近習斉藤平左にとどめを刺すのを邪魔される。

逆に危地に陥った半右衛門だったが、鉄砲で加勢する家臣藤田三十郎とともに、山中へ逃走する。山中で落ち武者狩りに遭うところを、要蔵という老人と小太郎という少年に救われる。

感謝する半右衛門に、こっそりと小太郎は鉄砲試合への出場を申し入れる。

鉄砲試合への出場を阻止しようとする要蔵だったが、半右衛門の推薦で小太郎は出場を果たす。

見事な集中力に見合わず、的を外す小太郎だったが、半右衛門の機転で左構えの鉄砲を手にすると、その神業を披露することとなる。

試合後、要蔵は初めて彼らが鉄砲に秀でた雑賀衆であることを明かす。心根の優しい小太郎を戦で失うことを怖れた要蔵小太郎の実力を隠してきたのだ。

児玉家との大敗後、籠城戦を決意した碧山城に、花房喜兵衛率いる7千の兵が攻め寄せる。喜兵衛が伊賀から呼び寄せた忍び、無痛の萬翠は碧山城に侵入すると、兵糧を焼き払ってしまう。

追い込まれた城内では図書小太郎を使っての狙撃を立案する。小太郎の心根を知る半右衛門は反対するが、当主利高の命には逆らえず、小太郎を迎えに出る。

心優しい小太郎に人を撃たせることを決意させるため、小屋に要蔵を訪ねた半右衛門要蔵を殺し、罪を児玉家の者に着せる。復讐の念に燃える小太郎の鉄砲の威力は凄まじく、次々と侍大将らが撃ち取られていく。

こうして児玉家を撤退させることに成功したが、この小太郎の力が児玉家に渡ることを怖れた戸沢家では秘かに小太郎を亡き者にしようと画策する。

一方、戦には勝ったものの、小太郎の心を捻じ曲げてしまったという自責の念から半右衛門は鬱々とした日々を過ごしていた。しかし、小太郎処刑の話を聞き、改心した半右衛門利高に謀反する。籠城戦で求心力を失っていた戸沢家を見限った領主たちは半右衛門につき、ここに半右衛門を盟主とすることに決した。

半右衛門は真相を小太郎に告白すると、小太郎花房喜兵衛のもとへ連れていくと、要蔵の仇を討つように勧めるのだった。

半年後、児玉家の報復が始まった。これを迎える軍の先頭に立つ半右衛門は、小太郎の鉄砲の前に進む。

 

主人公林半右衛門が格好いい。

和田竜の作品は戦国時代に材をとっており、そのストーリーが興味深いところはあるが、それ以上に登場するキャラクターが皆魅力的だ。

今回は半右衛門がその最たるものだが、花房喜兵衛にしろ、要蔵図書にしろ、描写はわずかでも、なかなか深い。玄太の死に様も良かった。

タイトルの小太郎自体は無口で殆ど喋らないが、その変化等が態度等を通じて見えてくるよう。

ラストはちょっと切ないような終わり方だったものの、やはりこんな終わり方しかないんでしょうね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『人格転移の殺人』 西澤保彦

Jinkakuteni 2009年、132冊目。西澤保彦『人格転移の殺人』

これもちょっとわかりにくいタイプの作品。

宇宙人(?)が残したとされる人格転移装置によって、人格転移をしてしまった人間たちによる殺人事件を扱った作品。

肉体と中身の人格が一致しないところがミソのミステリ。加えて、最初に添え物のように提示される、人格転移前の殺人事件が最後に伏線として効いてくるという設定で、余計に話を複雑にしている。

 

199X年、カリフォルニア州S市を大地震が襲った。

郊外のショッピングモールにあるハンバーガーショップに偶々居合わせた店員1名(ボビイ・ウェッブ)と客6人(苫江利夫ランディ・カークブライドジャクリーン・ターケルアラン・パナールハニ・シャディード窪田綾子)は何故か店内にあったシェルターに逃げ込むのだが・・・。

シェルターに偽装されていたのは、既に研究途上で閉鎖された人格転移装置だった。

気がつくと6人は人格が入れ替わっており、見知らぬ場所に保護されているのだった。

装置が使われたことを知ったCIAらが彼らを保護するとともに、(世間には事故死したと告知のうえ)監禁したのだった。

今後も人格が(死ぬまで)入れ替わり続けるという事実、窪田綾子が殺されたという事実を突きつけられた6人は困惑する。

今後の身の振り方を考えるようにと、閉鎖された施設に残された6人だったが、対立するばかりで意見はまとまらない。

そんな中、殺人事件が発生する。それは人格転移が次々と起こるのと符牒を合わせるように、次々と。

そして最後に残ったのは・・・。

 

なかなか殺伐とした話。

肉体と人格の不一致から、真犯人を探すというパズル的な設定は面白いものの、事実としては次々と狂気に襲われたかのように連続殺人ですから、ちょっと想像するとおぞましい。

各登場人物らの登場時の辛辣な発言等も、なかなかひっかかる。勿論、キャラクターをわかりやすく、ステレオタイプ化したいという意図かもしれませんが、それにしても、ちょっと大人気ないキャラクターばかり。

最後は、この殺伐とした事件を取り繕うためなんでしょうか、妙に丸く納めてしまっていますね。ジャクリーン・ターケルも、まるで人格が変わったかのようです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆

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『複製症候群』 西澤保彦

Fukusei 2009年、131冊目。西澤保彦『複製症候群』

なかなか面白かった。

有無をいわせず、妙な設定(人間をコピーする壁”ストロー”の存在)が規定事実として置かれており、その設定下で発生する殺人事件、そして死体蘇生の試み、等非常に盛りだくさんの話題をスピーディに展開します。

次々と発生する殺人事件。白骨死体。加えて、ストロー外でも発生する殺人事件、と息をつかせね展開で、一気に読ませてしまいます。

 

下石貴樹包国サトル草光陽子飯田篤志梅暮里志保は空から落ちてくる白い緞帳のようなものに囲まれた。

それは外から見れば遥か上方から地面に立った巨大な虹色のストロー。

正体不明のストローの前に立ち尽くす5人だったが、間もなくストローの危険が明らかになった。虹色の壁に接触した犬のクローンが壁から生み出されたのだ。助けを求めるべく、川向こう、ストロー内の教師古茂田扶美の家へ向かうことを決めるのだが、泳げないサトルはこれに反対する。

サトルは壁を突き抜ける道を選んだが、壁からはサトルのクローンが生み出された。壁の向こうに出たサトルは”突き抜けられる”という事実を告げるべく、ストロー内に戻ってくるが、その際にもクローンが生み出される。こうして、オリジナルのほか2号、3号のサトルが発生してしまう。

更にクローンを作ることに恐怖をおぼえるサトルは仕方なく、貴樹とともに川を渡るのだが、途中でオリジナルが姿を消してしまう。

川向こうで貴樹らを迎えた古茂田扶美砂男だったが、古茂田邸は家の真ん中をストローの壁が貫いているという構造のため、食糧がない。

隣家の屋敷(栖壁邸)へ救いを求めに言った飯田たちだったが、そこで女主人の死体を発見する。

一方、古茂田邸で待機していたサトル草光陽子は言い争いの末、サトル陽子のクローンを組成してしまう。貴樹もまた陽子に計られ、壁の通り抜けを行わされる。

飯田貴樹草光が死体の謎を探るうち、庭から謎の白骨死体が見出される。また、飯田古茂田への気持ちを知った飯田の信奉者梅暮里は自殺してしまう。

しかし、その後も、殺人は続いた。サトル陽子扶美・・・。

死んだ人間を生き返らせるべく、死体をストローの壁に接触させようとする貴樹だったが、ストローの壁は薄れ、消えつつあった。

 

「とんでも」設定ですし、それが最後まで何なのか説明もされませんが、十分楽しむことができました。

若干、コピーなのかオリジナルなのか、よくわからなくなってしまって混乱するところ(作品中、それを狙っているところもありますが)もありましたが、概ねスッキリと読めます。

いろいろな事件、動機が組み合わさって、というか、複数の事件(それぞれの動機、それぞれの犯人)が同時並行で進行し、次々と発生・解決していくため、飽きさせることがありません。ただし、このボリュームにしては若干つめこみすぎの感はないではないですが・・・。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『完全無欠の名探偵』 西澤保彦

Kanzenmuketsu 2009年、130冊目。西澤保彦『完全無欠の名探偵』

ちょっとわかりにくい作品。

現在起こっている事件に並列して描かれる、主人公(?)白鹿毛りんが少女時代に体験した事件の解決編が、どうもうまくかみ合わない。関連しているのであれば、交互に展開されても理解できるのですが、全く無関係な話にすぎないため、非常に違和感を覚えます。

結局のところ、主人公(?)山吹みはるの特殊能力発現の理由を説明するだけの意味しかなかったわけですから、ちょっと伏線としては分量が多すぎです。

 

白鹿毛グループの総帥白鹿毛源衛門は孫娘白鹿毛りんが高知で就職してしまったことに気を揉むが、本人に正面切って問い質すこともできない。

りんが(高知)大学卒業後も高知に残ることを決心した理由を探るべく、秘書黒鶴の推薦により、源衛門はSKGの警備員山吹みはるりんと同じ職場、安芸女学院短大の事務員として秘かに送り込んだ。

みはるは(意識しないままに)相手が心の奥底に沈めていた記憶を掘り起こし、本人が意識しないうちに、会話を通じて、気がかりな点を解決に導くという異能があった。

みはるは高知に向かう飛行機の中で隣り合った赤練海産代表取締役赤練亘、そしてスチュワーデス青竹玉子に、それぞれ母親の事故死の真相を推察させる。

みはるは次々と個人が心の底にしまっておいたひっかかりを(良かれ悪しかれ)解決に導いていく。

しかし、(本人は自身の派遣がりんの真意を探るためとは知らされていないが)本命のりんにはさっぱり効用がない。

みはるが係わりになる事件の多くに、睡眠薬を利用した窃盗、暴行事件があった。

安芸女学院短大2年の水縹季里子牡丹増子、英語講師龍胆隆義の友人青磁朱華房子らと知り合ったみはるは事件に深くかかわることになるが、本人は一向に何もわからないまま。

りんもまた、なぜかこの事件を追っているようだった。みはるを通じて青磁らと面識を持つことで真相に事件の背景に気づいたりんみはるとともに最後の殺人を阻止するためにタクシーに乗り込むのだった。

 

事件の背景に、みはるの関係した登場人物たちがそれぞれ抱える事件が配されており、読者の視点で、それが有機的に結びついていく過程は(出来過ぎの感はあるものの)パズルがきれいに納まっていく印象で、きもちがよい。

一方で、醒めた見方をすれば、あまりにも世間が狭すぎ、世の中には今回の事件に関係しない事柄はないのか、とでもいいたくなるような、ご都合主義が満載、とも言える。

また、キャラクターの描写も中途半端で、本来、主人公乃至はヒロイン役であるところの白鹿毛りんの影がどうも薄い。また、心象世界にも近いような、鳩の死体入りBOXの解決編は、妙に薄気味悪いだけ。解決にしたところで、どうでもいいような事柄でしかなかったのだから、なおさらだ。

主人公(?)たるみはるにしても、全く茫洋としていて、一個の人格をもったキャラクターとして成立していない。事件に係わる登場人物の証言を得るための装置でしかない。

ストーリー展開も、ラストは極めて強引な急展開になっており、ミステリというにはちょっと苦しいかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『まほろ駅前番外地』 三浦しをん

Mahoro2 2009年、129冊目。三浦しをん『まほろ駅前番外地』

『まほろ駅前多田便利軒』の続編というか、名前の通り、番外短編集です。

まぁ、面白いんですが、『まほろ駅前多田便利軒』を読んでいないと、よくわからないかもしれませんね。

 

光る石

多田啓介行天春彦の多田便利軒への依頼は、会社の同僚がするエンゲージリングを隠すこと。

まほろ信用金庫に勤めるクライアント宮本由香里は自身のものよりも大きなエンゲージリングを見せびらかす同僚武内小夜が許せないというのだ。

 

星良一の優雅な日常

のもとに入り浸る新村清海のもとに多田便利軒から連絡が入る。探していた猫が見つかったというのだ。

一方、は自宅近くの「まほろ自然の森公園」で天神山高校の学生が行う薬の売買を刑事に密告する一方で、自身では薬のストックを増やすのだった。

 

思い出の銀幕

まほろ市民病院に入院中の曽根田のばあちゃん(菊子)の見舞いを請け負った多田行天は、まだら惚けの菊子から「まほろばキネマ」時代の昔話を聞かされる。

菊子の美化された話には、なぜか多田行天が登場するのだった。

 

岡夫人は観察する

岡夫人は庭の椿の木の元気がないことが心配だ。

横中バスの不正を告発するために、夫が呼びつける多田便利軒の二人に同情しつつも、二人の様子が気になってならない。

 

由良公は運が悪い

田村由良は道行く行天につかまってしまう。金のない行天は女子大生に声をかけたり、由良の塾講師小柳を強請るために尾行したり、と由良を驚かす行動を次々と繰り広げる。

実は、同窓会に誘う多田から逃げていた行天だったのだが・・・。

 

逃げる男

多田便利軒への依頼は遺品整理。

クライアントは外食チェーン『キッチンまほろ』社長柏木亜沙子。別居していた夫である前社長柏木誠一郎の部屋の遺品整理を依頼したのだ。

亜沙子には誠一郎の別居の理由がわからなかった。

 

なごりの月

亜沙子が気になる多田を応援するように、行天多田を「キッチンまほろ」に連れ出す。接客する亜沙子に気安く声をかける行天に、亜沙子は「無農薬野菜」の押し売り団体の相談を持ちかける。

多田便利軒にあった依頼は出張する夫(田岡)に代わっての妻子の面倒。インフルエンザに罹った妻をベッドに留め、娘美蘭の世話をしようとするが、うまくいくはずもない。

ぶっ殺されたくなかったら黙れ

泣き出した美蘭に、行天は突然キレてしまう。

 

短編集ということもあって、各話自体はそれほど膨らみがない。

前作の登場人物を再登場させて、コミカルに描くといったところにとどまる。

強いて言えば、今作から登場した柏木亜沙子(「逃げる男」「なごりの月」)への多田の執心が、次作への発展を期待させる終わり方になっています。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆

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『告白』 湊かなえ

Kokuhaku 2009年、128冊目。湊かなえ『告白』

傑作!

巧いですね。最初から引き込まれました。その後も全く飽きさせることなく、最後もひよらずにハードに締めくくってくれています。

 

第一章 聖職者森口悠子の告白)

学校を退職するにあたって、娘愛美を殺した犯人を告発し、自身の夫『世直しやんちゃ先生』(HIV患者)の血液を犯人の飲んだ牛乳に混入させたことを告白する。

 

第二章 殉教者北原美月の手紙)

悠子の退職後、担任となった寺田良輝(ウェルテル)の空回り、そして悠子に告発された愛美の殺害犯下村直樹(引き篭もりの末、母親を殺害)、渡辺修哉(クラスメートからいじめを受けたものの、逆に己の血を武器に逆襲)の様子を綴る。

 

第三章 慈愛者下村直樹の姉聖美

弟による母の殺害を知った聖美は実家で母の日記を見て真相を知る。弟が引き起こした事件の真相と、母が弟を殺そうとしていたことに。

 

第四章 求道者下村直樹の告白)

直樹は四面の壁に向かい、事件を反芻していた。

ついていない直樹に親しく声をかけてくれた修哉の誘いにのって事件を起こしてしまったこと。修哉に馬鹿にされた反動で、愛美を殺すに至ったこと。引き篭もりのなかで考えたこと。

 

第五章 信奉者渡辺修哉の遺書)

離婚して家を出て行った母親に認められたいがために修哉は発明に精を出したものの、誰にも評価されない。発明の全国コンクールで入賞したものの、世間は「ルナシー事件」と称する犯罪事件で持ちきりであったことから、修哉は発明を活かした犯罪を企図する。そして、修哉愛美殺害に行き着くのだった。

母親に認められたい修哉修哉を慕う美月を通じて薬品を入手(その後、美月を殺害)して爆薬を組成すると学校体育館のステージ下にしかける。

ステージ上で爆死する予定の修哉だったが、起爆装置を押しても爆発しない。

 

第六章 伝道者森口悠子の告白~携帯電話)

修哉にかけた電話で悠子は告白する。

牛乳への血液混入の真実。寺田良輝の背後に悠子がいたこと。そして、修哉の爆薬は修哉の母の研究室にしかけたこと・・・。

全く楽しい話ではなく、陰惨な事件ではあるのですが、その明かされる過程がスリリング。

立場を変えることで、少しずつ実相が見えてくる。この少しずつというのが、じれったいような、着実な、といった痛気持ちいいような感触。

最後の最後まで、誰も改心しないというのも新鮮。よくある展開では事件をきっかけに改心したり、人間として成長したり、という話ですが、これは違う。

所詮、人間はそんなに変わらないというような諦めも混じった作品なのかもしれません。

娘を殺された母の怨念とでもいうのでしょうか、森口悠子の陰湿な復讐劇には最後まで圧倒されてしまいます。

お奨め度:★★★★★

再読推奨:★★★☆☆

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『ストレート・チェイサー』 西澤保彦

Straight 2009年、127冊目。西澤保彦『ストレート・チェイサー』

この作品も不思議な設定を下敷きにした話なんですが、なぜでしょう全然おもしろくない。

やはり不思議な設定(透明になる眼鏡)はないことを前提に始まりながら、途中から推理の過程で本当はあるというように示され、結局それがオチになってしまうあたりでしょうか。

どうも、この不思議設定の取扱いが一様でないことが気持ち悪いってことなんでしょう。

 

リンズィ・ブルーカーはレズビアンバー<トムズ・キャビン>で知り合った自称「ビーバーちゃん」、同「仔鹿ちゃん」と、リンズィの働くオフィスに場所を移した。

そこで仔鹿ちゃんが二人に提案したのは3人による交換殺人。半ば冗談とは思いながらも、リンズィは二人に促されるまま、(本心とは裏腹に)上司ウエイン・タナカの名を挙げてしまう。しかし、冗談のはずが、他の二人によって、手順は徐々に決められていく。そして、最初の殺害対象はウエイン・タナカに決まった。

後腐れないよう、素性も教えずに別れた3人だったが・・・。

翌日リンズィのもとを市警のチャールズ・グローバー警部補とヴィヴィアン・スウ刑事が訪ねてくる。タナカの自宅で東洋系の男性の死体が発見されたというのだ。

(なぜかタナカ邸の合鍵を持っている)娘エミリイとともに警部補に同道したリンズィは男がタナカではないことを確認する。この見知らぬ男の死体は閂とドアチェーンの掛かった密室で見つかっていた。誰が、どのように、ということもわからないなか、行方の知れないタナカの容疑は深まる。

一方、リンズィの離婚した夫ロバート・ニールはカルト教団「ホーリートゥリニティ教会」に染まり、母クラウディアの入信、娘エミリイの献身を求めるのだった。

また、ロバート・ニールリンズィの妹キャサリンとの再婚を計画するのだが、母クラウディアはそれに真っ向から反対する。息子ロバートリンズィら姉妹にダメにされていくのが許せないのだ。

リンズィのもとへ仔鹿ちゃんから突然連絡が入る。真相を話すという仔鹿ちゃんの言葉を信じ、オフィスに向かったリンズィはオフィス前の車に仔鹿ちゃんの死体を発見する。これを見て気絶したリンズィが気づいたときには、なぜか仔鹿ちゃんの死体は密室と化したオフィスに安置されていた。

仔鹿ちゃんの正体はキムバリイ・ベイクウェルというニューヨーク州の女性。真相がわからないまま、事件は新たな殺人を生んだ。

クラウディアが殺されたのだ。犯人は息子ロバートだという。キャサリンとの別れ話の原因となったクラウディアの反対を逆恨みしての犯行とみた警察やリンズィキャサリンに警護をつけるのだが・・・。

シャロン・ゴールドスミスこと「ビーバーちゃん」はリンズィの自宅を訪ね、自身の推理を開陳するが、そこへやってきたロバートはその喉元にサバイバルナイフを突きつける。リンズィは隠し持っていた拳銃をロバートに向ける。

一連の密室事件の背景にはタナカが骨董屋から手に入れた透明人間となる”魔法の眼鏡”があるようなのだが・・・。

 

ちょっと読み終えるのが苦痛でした。作者からの進言として、登場人物に没入するようにとのメッセージがあったものの、とても共感の持てるとは思えない造形。

なかなかのめりこめないし、「魔法の眼鏡」(笑)だし・・・。

最終的には、「魔法の眼鏡」があるってことになってしまうと、そもそも密室とか、推理とかミステリが最早意味をなさなくなるんですが、そんなものを出してしまうのって、どうなんでしょう。

お奨め度:☆☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『七回死んだ男』 西澤保彦

Nanakai 2009年、126冊目。西澤保彦『七回死んだ男』

妙な設定ですが、なかなか面白い作品。

同じ日を9回繰り返すことの(できるではなく、)ある男の話。

オリジナルと異なる祖父の死という展開を前に、それを阻止しようと右往左往するという様を楽しむのかと思いきや、実は・・・、となるところが巧い。

 

大庭久太郎は不可思議な体質の持ち主だ。時折、反復落とし穴という同じ一日を9回繰り返すという経験をするのだ。最後の9回目が決定版として、未来へ繋がる一日だが、それまではお試し期間のようなもので、未来には繋がらない一日だ。

そんな反復落とし穴が起こったのは、年賀の挨拶に祖父渕上零治郎の屋敷に一族が会した1月2日のことだった。

かつて渕上零治郎は放蕩の果てに借金を作り、経営する洋食店を傾けた人物で、三人の娘からも見放された存在だった。

そんな家を継ぐのが嫌で長女加実寿は早々に家を出ると結婚してしまう。

これにあわてた三女葉流名も高校教師の家に転がり込み同棲してしまう。

逃げ遅れた次女胡留乃は父と行動をともにすることとなる。

夜逃げ同然に家を出た零治郎は死ぬ前に金を蕩尽すべく、大穴馬券に有り金をつぎ込むが、これが大当たり。その金を逆張りで株につぎ込むが、これも成功し、財産を築き上げる。

この財産を元手に無国籍風洋風料理の店を開いたが、これも成功し、今や全国に37店舗を構えるエッジアップ・レストラン・チェーングループを一代にして築き上げたのだ。

この財産に色めきたったのは、加実寿葉流名である。しかし、自分を捨てた加実寿葉流名零治郎は財産を渡すつもりは毛頭ない。

一方で、後継者である胡留乃は結婚しておらず、その後継者は決まっていなかった。胡留乃の養子に自身の息子、娘を充てるべく、加実寿葉流名はアピールし、いがみあうのだった。

零治郎加実寿の息子富士高世史夫久太郎葉流名の娘ルナ零治郎の秘書槌矢龍一胡留乃の秘書友理絵美を後継者候補に指名し、今年こそ決めるのだという。

加実寿葉流名は必死だった。二家庭とも最近、夫がリストラされ、このままでは生活が苦しくなることは決定的だったのだ。

最初の1日(1周目)。零治郎に誘われた久太郎は屋根裏部屋で大酒を浴びるように飲み、人事不省に陥り、その状態のまま、零治郎宅から引きあげる。

2周目。目が覚めて、反復落とし穴に陥っていることに気づいた久太郎は、酒での苦しみを回避すべく、祖父との遭遇を避けるのだが、何が原因なのか、零治郎久太郎が寝ている屋根裏部屋で殺されてしまう。

3周目。祖父の殺害を阻止すべく、疑わしき人物を遠ざけるのだが、それでも祖父は殺されてしまう。

4周目、5周目、6周目、7周目と、次々と容疑者を隔離するのだが、それでも祖父は殺されてしまう。

8周目には全員を隔離したはずにも係わらず、祖父は死んでいた。酒の飲みすぎだ。

最終周。8周目までで、各人の思惑や後継者選定の裏側、零治郎の策略(加実寿葉流名の夫を陥れた張本人は零治郎だった)を知ることとなった久太郎零治郎に、零治郎の悪事の公表を仄めかして断酒を誓わせる。そして、零治郎は死ななかった。

そして漸く迎えた1月3日だったが、久太郎に連絡してきた友理絵美は、消えたはずの第1周目の記憶を残すとともに、今日を「1月4日」だと言うのだった。

 

張本人であり、渦中の人物であるはずの久太郎が、意外に落ち着き払ったような感じなので、ちょっと違和感はないではありませんが、その分、周囲のドタバタぶりが滑稽で、なかなか楽しめます。

意外な結びつきが、周を重ねるにつれて見えてきて、それぞれの抱える事情も少しずつ(久太郎だけに)明かされてくるという展開も面白い。

ヒロインといったらいいのでしょうか、殆ど登場回数はないわりに、友理絵美の存在感がありますね。その絵美が最後の謎解きをするわけですから、配役、展開が非常に巧みに映ります。

全く、「反復落とし穴」という不思議な現象については疑義を挟む余地のない設定としておかれているところがシュールですが、それを前提とすれば楽しめる作品でした。

この類の不思議な設定を下敷きにした話はまだまだあるようなので、ちょっと読み進めていきたいと思います。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『腕貫探偵、残業中』 西澤保彦

Udenuki2 2009年、125冊目。西澤保彦『腕貫探偵、残業中』

腕貫探偵第2作です。

今作品は、住吉ユリエと、そのなかまたちが腕貫の推理に絡んできます。

「残業中」のタイトルのとおり、前作のように簡易机を出して、相談を受けるというスタイルは少なく、仕事後に腕貫が体験したり、腕貫に個人的に相談を持ちかけるというスタイルとなっています。

ただし、相変わらず、無愛想なところは変わりません。

 

体験の後

櫃洗のとあるトラットリア「てあとろ」に乱入した迷彩服の3人組はライフルやマシンガンを構え、睥睨した。

居合わせた客も拘束される。

 

雪のなかの、ひとりとふたり

「てあとろ」の事件に遭遇した安達真緒住吉ユリエはデパートの地下食品売場にいた。

ユリエはヴァレンタインのチョコレートを買う真緒に付き合っていただけで、全く人に送るつもりはなかったのだが、執拗な真緒の勧めに一人贈りたい男がいるのに気づいた。

トラットリアの事件を解き明かした男である。

食道楽であるユリエと同じ匂いを感じたユリエは本能の命じるままに、男の行きそうな店を探し回った果てに、ヴァレンタインデーの当日、男を発見する。

 

夢の通い路

父の遺品を整理していた藤木美智夫は、高校時代に恋心を抱いていた春日部梨紗とのツーショット写真を発見するが、全く記憶にない。

学生時代の友人大江俊によれば撮影した直後に、美智夫の実家が放火に遭ったことで記憶を失ったのではないかという。

仕事の都合で櫃洗に向かうこととなった美智夫は偶然、実家に戻っていた梨紗と会うが、それでも記憶は晴れないままだった。

そんなときアーケード街に不思議な貼り紙をした簡易机を発見する。

 

青い空が落ちる

一人暮らしの女性松嶋充子が自宅内で倒れ死んでいるのが発見される。病死であろうと診断されたものの、遺言により遺産の整理をしていた町内会の主婦が充子の預金通帳に異常があることを発見した。

特に趣味もなく、慎ましやかに暮らしてきた充子が、死の3カ月程前に退職金も含めて5千万円を引き出していたのだが、その使途がわからないのだ。詐欺の恐れもあるとみた町内会の主婦は櫃洗南署に相談を持ちかけるのだった。

かつて櫃洗学園で松嶋充子の授業も受けたことがあるという刑事水谷川は真剣に調査を進め、氷見は仕方なく、これに付き合う。

クリスマス・イルミネーションの公園内に出された簡易机を発見した氷見水谷川を誘いった。

 

流血ロミオ

菅谷直紀は隣家の蒲原真美子と二階の窓越しに話しを交わす。

真美子の母牧子は物音に驚いて目を覚ますと、家を見回るが、一階にいるはずの牧子の弟小杉輝男の姿がない。娘真美子に色目を使うような輝男の態度に危機感を覚えていた牧子は慌てて真美子の部屋に飛び込むが、なぜか直紀が床に倒れ、真美子はベッドで絞殺されていた。

また、輝男は信号無視で突っ込んだ交差点で交通事故を起こし、死亡していた。加えて、輝男の車は交差点での事故以前に真美子の友人である和久井貴恵を轢くという轢き逃げ事件まで起こしていた。

真美子の家庭教師阿藤江梨子はなぜか輝男犯人説に納得できないでいたが、同じ大学の有名人住吉ユリエ安達真緒の会話に出てきた「探偵」の話に聞き耳を立てた。

住吉ユリエのつなぎで「”だーりん”腕貫さん」に事件を語った江梨子は・・・。

 

人生、いろいろ。

井原健介は纏わりつく同棲相手木戸佐和子と清算すべく、現在の恋人占部珠美と殺人計画を練る。

佐和子の変装をした珠美を使った健介のアリバイ作りを核とした計画だったが、佐和子が大幅に遅刻したことから計画は頓挫し、あろうことか鉢合わせした佐和子珠美による修羅場が現出した。

これを機に佐和子は姿を消したものの、珠美もまた離れていってしまう。

そんなとき、健介の実家に泥棒が入る。母は盗られたものはないというが、健介は祖母が秘かに隠していた3千万円が消えていることを発見した。

何かしら不自然さを感じた健介は偶然居合わせた阿藤江梨子住吉ユリエに相談すると・・・。

 

この作品は住吉ユリエがいいですね。

頭抜けて魅力的です。完全に腕貫の存在感も食われていますし、住吉ユリエがいて腕貫の存在も少し厚みを増したような感じです。

安達真緒も登場回数は多いものの、存在感は今ひとつ。どちらかといえば、阿藤江梨子でしょうか。これもなかなか面白い存在ですね。でも、住吉ユリエの付属程度でしか、ありません。

ストーリーは前作と同じように、様々な些細な謎を腕貫が解いていくという話で、従来同様に、一つの可能性を腕貫が示すという構造になっています。一話目にしても自供によって、推理が正しかったようにも見えますが、偽証であるなら、もっと別の解釈もあるかもしれません。

住吉ユリエ腕貫の推理を唯一無二のように評価するので、何となく名探偵のように映りますが、本当は迷探偵なのかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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