『少年鉄人』 山下貴光
2009年、113冊目。山下貴光『少年鉄人』
山田悠介のあとに読んだ作品だからでしょうか。非常に文章がこなれていますし、印象的な表現が多い。
うまく書くよなぁと印象的なシーンも多い作品です。
若干気恥ずかしい感じもしないではないですが、キャラクターもそれぞれに光っていて、読んでいて清清しく、気持ちよい。
限定フィギュアを買いに近道をした瀬尾太一は狭い路地で足を止められる。
ジャージ姿の二人組がフィギュアを買いに走る子どもから金を巻き上げるために網をはっていた。
窮する太一の前に姿を現われた正義の味方は坊主頭の中学生と思しき少年。彼は「助けてやる」と告げるとジャージの二人に向かっていくが、あっさりとやられてしまう。
「世界を変えるために、やれることを放棄しない」ことを信条とした少年は困っている太一を見過ごせなかったのだ。
名前も聞かずに別れた二人だったが、翌日再会することになる。少年が6年2組に転校生としてやってくる。
少年の名は「今井鉄人」。
隣の地区の学校で変態教師の担任(ピーゴリ)を殴って転校してきたという専らの噂だ。
そんな評判もあってか、太一のほかにも鉄人を気にする者があった。クラスで王様然として振舞う大江和真である。クラスの王様であることにイライラとしながらも、寂しさを感じていた和真は、父親がいない(鉄人は死別、和真は離婚)という共通点もあって、気になって仕方がない。
当初は馴れ馴れしく振舞う鉄人に戸惑う和真だったが、太一や優等生の森崎義之、学級委員町村千秋を誘い、一方的に友達宣言する鉄人に、和真の頑なだった心も解けていく。
こうして鉄人のもと、なし崩しに友だちになった5人は秘密の共有をもって、友だちの証としようとする。
鉄人が紹介した自身の秘密は、鉄人が仙人と称するホームレス。
「やれることを放棄するな」の言葉も仙人から得たものだった。
太一が仙人から得た助言は「強さを守れ」
この言葉を受けた太一は強さを取り戻すため、ジャージの二人組との対決することを決意する。対決の傍らには友達である鉄人と和真の姿もあった。(勿論、三人とも返り討ちに会うのだが・・・。)
一方、街は通り魔事件で持ちきりだった。
そして、とうとう身近な人間が通り魔の犠牲となった。
太一らがよく行くたこ焼き屋店主忍者さん(服部善蔵)の想い人沙織さんだ。
自身の力で犯人を捕まえようとする忍者さん(と友人たち)に協力しようとする鉄人と和真だったが、太一はこれに付き合うことができない。
義之と先約があったのだ。義之に連れられて太一が出会ったのは「喧嘩屋」と称する高校生。千円で喧嘩(制裁)を請け負うという喧嘩屋に、義之は「僕に喧嘩を教えてください」と申し込むのだった。
最初は断る喧嘩屋だったが、(太一には秘密の)事情を義之から聞いた喧嘩屋は自身の経験にも照らし、二人に喧嘩を教えることを承諾する。
忍者さんに協力を断られた鉄人と和真だったが、翌日事情は変わった。和真も面識のできた鉄人の前の学校の友達公彦もまた通り魔に襲われたのだ。自身のこととして犯人探しに協力を申し出る鉄人たちに忍者さんも同行を認めるのだった。
間もなく、犯人が捕まるが、沙織さん、公彦の事件は別人の犯行であることがわかる。
沙織さん事件の犯人は忍者さんに暴行を受けたサラリーマンの逆恨みだった。真犯人を捕まえた忍者さんだったが、犯人のサラリーマンの起こした事件は沙織の一件だけで、公彦の事件はまた別の者の犯行だった。
一方、一週間の約束で喧嘩修業を受けた義之は、千秋の家に乗り込んだ。千秋が父親から虐待を受けていることに気づいた義之は父親に立ち向かうため、喧嘩修業に励んだのだ。千秋が父親の虐待を受けていること。それが秘密だったのだ。
義之を制止できない太一は鉄人や喧嘩屋に電話し、喧嘩屋とともに千秋の家に乗り込むのだった。
圧倒的な喧嘩屋の力の前に、事態は漸く収束する。
そして、突然、鉄人がいなくなった。
鉄人は一人で厄介ごとを抱え込んでいるに違いないと睨んだ4人は仙人や忍者さんらの協力も得て、ようやく鉄人を見つけ出すのだが、そこには・・・。
面白かった。
最初は風の又三郎的な役所かとも思いましたが、最後まで鉄人が主役といっていい作品です。ただし、鉄人は、ちょっと出来すぎのキャラクターで、少しずつ影・悩みを持つ太一や和真といった等身大のキャラクターに比べると、キャラクターというよりも装置といった印象が強いのが玉に瑕でしょうか。
ストーリー自体も単に鉄人が新たに友人を作る過程で起こるいろいろな身近な出来事を語るだけでなく、前作の『屋上ミサイル』と同様に、裏で別のストーリーが走っています。
テレビで放送される内容が絡んでくるところなんかはよく似ていますし、今回はその内容が鉄人の父親の死に係わる話で、併せて楽しむことができます。
仙人や和真の秘密基地が、そのサイドストーリーと関係するというのは、ちょっと出来すぎかもしれませんが、(若干わざとらしい部分もありますが)なかなか面白かったです。
後味の悪くない作品です。
お奨め度:★★★★☆
再読推奨:★★★★☆
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