『サウンド・オブ・サイレンス』 五十嵐貴久

Sound_of_silence2011年、111冊目。五十嵐貴久『サウンド・オブ・サイレンス』

自身へのいじめから脱出しようとクラスメイト小野春香を陥れようとした夏子はそのクラスメイトが聴覚障碍者であることを知る。

耳が聞こえない春香の友人美紗と知り合った夏子は美紗が結成するダンスチームをサポートしていく。

懸命な練習の成果は・・・、という話。

 

中学時代にいじめにあった綾瀬夏子は高校での再生を図る。

うまくクラスに馴染めた頃、目についたクラスメイトがいた。

小野春香はとっつきにくく、無口。

周囲から浮き始めた春香をスケープゴートとすることで、自身をいじめのターゲットとすることから逃れようと考えた夏子は秘かに春香の評判を落としていく。

しかし、ある日、偶然、春香が友人と笑い合っているところを見かけた夏子は、その二人の間が無音であることに気付いた。

春香は聴覚障碍者だったのだ。

翌日、春香と話していた友人大森美紗と夏子は出会う。

美紗は先天性の障害で、一方春香は中途失聴者なのだという。

5歳の頃に髄膜炎になったことをきっかけに耳が聞こえなくなった春香は中学までこそ、ろう学校に行っていたものの、健常者との付き合いを求める家族の求めに応じて、高校は健常者の学校に進学したのだった。

また、健常者と同じ生活を送るために、敢えて耳が聞こえないことを隠していたのだ。

春香の無愛想なそぶりも耳が聞こえないことから来るものだったことを知った夏子は、己のやってきたことを後悔するが、最早取り返しはつかない。

高校3年だという美紗は、そんな夏子の葛藤を知ってか知らずか、クラスが同じなら友達だという理解のうえで、春香を説得して欲しいと頼むのだった。

美紗は春香とダンスのグループが組みたいのだが、春香が聞く耳を持たないのだという。

美紗との間に友情を育んだ夏子は、美紗のダンスの練習を手伝うかたわら、春香の家を根気よく訪問し、春香を誘う。

一方、ダンスグループを作るうえで、他のメンバーの必要性も感じていたとき、一人の女性と出会う。

小林澪は大学生。前年に交通事故で耳が聞こえなくなっていた。

大学のダンスサークルでレギュラーだった澪のダンスは美しい。

ガールズヒップホップを目指す美紗とジャズダンスを志向する澪の方向性は異なっていたが、同じ練習場を共有することで、グループを結成することにまとまる。

拒否を続けていた春香もまた澪の誘いを受けて、自身の本当の気持ちを母親に告げ、ダンスグループに参加することとなった。

更に、澪の元恋人でもある尾崎がコーチについたことで、少しずつ実力をつけていく三人。

夏子もまたマネージャーとして3人をサポートする。

澪の発案で参加した「第29回 ろうダンスバトルコンテスト」に向けて懸命の練習をする三人は、なんとその大会で優勝してしまう。

優勝で燃え尽き症候群に陥ってしまう3人だったが、次の問題が発生する。

美紗が尾崎に恋した挙句、尾崎と話し合う夏子に嫉妬をぶつける。気まずい雰囲気のなか、美紗がグループを脱退するかのように、連絡を絶つ。

春香や夏子のメールを送り続けて1ヵ月。漸くふっきれた美紗が復帰する。

次に尾崎が提案したのは、『東武自動車主催・第六回学生ダンスバトル』への出場。

これは聴覚障碍者の大会ではなく、健常者の大会だ。ハードルは高い。

厳しい練習が始まった。

一方、高校では夏子が春香と親しくしているのを見たクラスメイトから夏子への揶揄が始まる。それを見かねた春香は自身が聴覚障碍者であることを告白する。

これまで誰も気づかなかったこともあり、その告白は不審感をもって迎えられるが、事実を知ることでクラスメイトも春香らのダンスを応援するようになっていく。

そして迎えたダンスバトルの本番。

完璧なダンスを終えた3人を迎えた尾崎は入賞、優勝の可能性も口にするのだが・・・。

 

冒頭は「いじめ」を材料に、どちらかというと精神論・観念的、道徳的な色彩が強く、陰鬱な印象が強い。

ところが途中から、”耳が聞こえない”という一つの属性さえ除けば、ほぼ「スポーツ根性もの」であったり、「青春もの」というジャンルに様変わりする。

冒頭で読むのを止めてしまいそうになるけれど、ちゃんと読み続ければ途中から楽しさ、明るさが見えてくるといった構成になっている。途中で止めてしまうのは勿体ない。

比較的専門用語が出てきて、わからない部分も多々あるんだけれど、雰囲気だけでも十楽しめる。

読み終えた感想としては、非常に楽しかったという印象が強い。勿論、出来すぎという面もあって、人によっては白けてしまうかもしれないが、現実が厳しい分、こういう小説では明るい話である方がいいんでしょうね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『千里伝 武神の賽』 仁木英之

Senriden32011年、110冊目。仁木英之『千里伝 武神の賽』

千里伝』の第三巻。

千里やバソンに水をあけられて焦燥感に身悶える絶海が(フォースの(笑))暗黒面に囚われる話。

呂用之の暗躍のなか、絶海とバソン、千里が対決する。

 

時空と空翼の一件を経て、バソンや千里との差を改めて思い知らされた絶海は麻姑の言葉も耳に入らない。

バソンや千里とは違う強さを求めようとする絶海は共工の子ら、玄冥、句芒、蔑収のことを思い浮かべていた。特に、衡山では危うく殺されそうになった蔑収のことを。

そこに何故か蔑収が現れる。

師を探しているという蔑収は絶海に同行するとともに、道行く者に挑戦する。

麻姑山から離れて貴陽にやってきた二人の前に現れた老人は蔑収を異界の者と見抜いた。挑戦を赤子のようにいなす老人を師と定めた蔑収は老人の後を追った。

行く宛てのない絶海もまた蔑収の後を追った。

急峻な山を登った蔑収は老人に弟子入りを請う。既に師のいる絶海は迷った末、老人を師とすることとする。

老人は甘蟬と名乗った。

 

麻姑山では5年に1度、武宮の修行者たちが技を競い合う大試合「武宮大賽」の会場となっていた。

麻姑に大会用に麻姑の弓の素材を探してくることを命じられた千里は、まず、崖州の額井峰に向かった。

途中、千里に声をかけたのは趙帰真。呂用之がまたしても暗躍するなか、千里に武宮大賽に出てもらうべく、材料探しの助力を申し出たのだ。

しかし、一人で成し遂げたい千里は趙帰真の同行は許すものの、独力で立ち向かおうとする。

崖州額井峰は因果を操る黄乙が支配していた。

手も足も出ない千里だったが、黄乙に捕えられ、茶店の主とされた神仙明珠の助けも得て、黄乙の因果を操る源を隔離することで勝ちを得る。

黄櫨を手に入れた千里は、次に吐蕃の納木湖に向かった。

吐蕃の地理などわからない千里はバソンに聞くべく、チャイダムを訪ねるが、チャイダムにバソンはいなかった。漢人である千里に敵意を示す住民を制して、バソンの妻ピキはバソンの行方を千里に教える。

バソンもまた王の命を受けて、納木湖へ嶺羊王の角を探しに行ったのだ。

納木湖の底でバソンと再会した千里は協力の末、嶺羊王の角を得ることに成功する。

まずは麻姑の弓として嶺羊王の角を使った後、バソンは王へ角を献上することとして、千里はバソンとともに麻姑山へ戻る。

麻姑山では武宮大賽へ出場する麻姑山の代表三名を決定しようとしていた。

特例としてバソンも参加できることとなった選抜戦は、一人一本持つ矢を集める方法で行われた。子分を多数持つ文魁之が有利なルールだったが、千里は鄭紀昌と組み、文魁之から矢を巻き上げようとする。

一方、バソンは力に物を言わせ、次々と矢を集めていく。

しかし、鄭紀昌の裏切りにより、矢の殆どは鄭紀昌一人に集まるが、非情になりきれない鄭紀昌は千里に敗れた。こうして麻姑山の代表は文魁之、千里、バソンに決定する。

 

一方、甘蟬への弟子入りを認められた絶海は、甘蟬の構築した怪しげな世界で修行を行っている最中、蔑収を怪鳥に攫われてしまう。

蔑収を助けるために、甘蟬の世界に囚われた杢蘭を怪鳥の餌に供出するなど、少しずつ絶海は歪んでいく。その歪みを怪鳥に指摘された絶海は自身の正当性を語る中で、黒い瘴気を身につけていく。

これこそが甘蟬が絶海の中に見つけた強さだった。

強さを手に入れたことを確信した絶海は世界で己が一番強いことを証明するために、武宮大賽に出ることとする。出場するためには、いずれかの武宮の弟子であることが必要であることを知った絶海は、崖州の額井峰に新たに出来た武宮へと向かった。

額井峰の武宮は今や明珠が治めるところ。

明珠に立ち向かった絶海は明珠を凌ぐ実力を見せ、蔑収と二人、武宮代表の座を強引に勝ち取るのだった。

 

始まった武宮大賽。

東西二つに分かれた大賽会場へ54の武宮は、それぞれ決められた門から中に入り、中央の広場に立つ尖塔を目指すのだ。

千里やバソンらは文魁之の言葉も聞かず気儘に戦うが、危なげなく勝ち進んでいく。

一方、ルール無用の絶海と蔑収は次々と対戦相手を殺戮していく。

最後の二組となった麻姑山組と額井峰組は中央広場で向かい合う。

歪んでしまった絶海と戦うことを渋るバソンや千里だったが、それを自身が軽んじられている証と受け取った絶海は更に戦意をかきたてられる。

最早引き返せないことを知ったバソンは絶海と対決する。

絶海が優位に立つように見えたものの、追い詰められたバソンは無の空間から弓を生み出すことに成功する。

絶海が苦難の果て、瘴気を浴びながら漸く会得した奥義を苦も無く開拓していまうバソンの才能に嫉妬した絶海は甘蟬から手渡された符を使う。

蔑収と戦っていた千里は忽然と姿を消した蔑収のことを不審に思いながらも、斃れたバソンにかわって絶海と対決する。

矢の応酬の果て、千里が勝ちを収めたかに見えたが、千里は絶海にとどめをさすことはできなかった。そんな千里を嘲るかのように、符を使った絶海の前に千里は斃れる。

バソンや千里に勝った絶海は尖塔に収められた宝貝「武神賽」を手にするが、間もなく、武神賽は甘蟬の手に渡ってしまう。

甘蟬の正体は呂用之であった。

呂用之は隋の煬帝を復活させるために武神賽を欲したのだ。

武神賽の力が振るわれるなか、麻姑を始めとした神仙の力もまた空しい。趙帰真も含めて次々と煬帝・呂用之の前に敗れ去っていく。

武神賽を使って因果を逆転させる秘儀が行われるなか、麻姑や趙帰真は己が消えゆくなかでバソンと千里を回復させると、後事を託すのだった。

 

話自体は単純だが、引き込まれる展開。

絶海が道を踏み外すという意外な展開に引き込まれ、千里やバソンによる人ならぬ者との邂逅、そして試練の克服という魅力的な素材にわくわくしながら読み進められました。

なんとなく少年漫画の王道的な展開で、飽きさせません。

蔑収というキャラクターの再登場は意外でした。結局、最後どうなったんでしょうね。よくわかりませんでした。

読んでいて気になる箇所(明珠の名乗りとか)も多少ありましたが、とにかくラストの絶海との対決まで一気に読んでしまいます。

加えて、ラストの引きが堪りません。続巻が待たれます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★☆

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『謎解きはディナーのあとで2』 東川篤哉

Dinner22011年、109冊目。東川篤哉『謎解きはディナーのあとで2』

ヒット作『謎解きはディナーのあとで』の第二弾。

令嬢刑事と暴言執事の掛け合いを楽しみとする作品ではあるものの、二匹目の泥鰌を狙って、少し失敗した感の漂う作品となっている。

 

第1話 アリバイをご所望でございますか

立川駅南口の権藤ビルで殺人事件が発生する。

被害者は国分寺に住む菅野由美。

被害者の自宅を捜索した風祭警部と宝生麗子は、隣に住む戸田夏希から由美の交際相手江崎建夫を疑わせる発言を得る。

101号室の住人松原久子は7時30分に由美とすれ違ったという。

国分寺から立川までの距離を考えれば、由美の推定死亡時刻は7時45分から9時までに絞られた。

容疑者である江崎に事情聴取をした風祭と麗子だったが、江崎にはアリバイがあった。

困惑する麗子だったが、暴言を放つ執事に相談する気にはなれない。

ひょっとしてお嬢様は、わたくしがお嬢様の話を聞くなり、また例のごとくに『アホ』だの『節穴』だの『レベルが低い』だの『引っ込んでろ』だのと、いいたい放題の無礼な発言を連発するのではないかと、そう案じていらっしゃるのでございますか

気を悪くするような発言はしないと誓う影山に、麗子は事件の経緯を語った。

失礼ながら、お嬢様は相変わらずアホでいらっしゃいますね。-いい意味で

 

第2話 殺しの際は帽子をお忘れなく

国立市の中心街にある帽子屋「CLOCHE」を訪ねた麗子は女主人のひとり娘藤咲美羽に事件についての意見を求める。

今回の事件には帽子が絡んでいるのだ。

古びた建物のなかで発見された神岡美紀は浴槽で水に浸かったまま死んでいた。

外傷も、殴られたような痕もない死体は自然死とも考えられる。

第一発見者である友人の久保早苗に事情を聞くと、発見当時は上半身が水の中に完全に沈んでいたのだという。ただし、水の量が少なかったと。

麗子らは早苗を伴い、現場から無くなったものはないかと捜索すると、早苗は美紀がコレクションしていた帽子が無くなっていることに気付いた。その他、携帯電話とノートパソコンも無くなっていた。

影山の誘いに乗り、麗子は更に、容疑者とされる三人の男たちについて語った。

美紀が住んでいた廃工場の持ち主(愛人みたいな大家)米山昇一、ストーカーのような元カレ安田孝彦、美紀と不倫関係にあるとされた大学教授増渕信二。

話を聞きおえた美羽は盗まれた帽子はウェスタンハットではないかと告げた。帽子で浴槽の水を汲んだというのだ。

影山は帽子の意外な使い方という面で美羽の推理を褒めるものの、水を汲むためだけなら帽子である必要はないと否定する。そして・・・。

失礼ながらお嬢様。お嬢様は冗談をおっしゃっているのでございますか。もしそうだとすれば『ウケる~』でございます

 

第3話 殺意のパーティにようこそ

『ホテル港区』で開催された桐生院家の当主吾郎の還暦祝いのパーティに参加した麗子は、大学時代のサークル「シーズンスポーツ同好会(SSD)」の友人たちと顔を合わせる。

一流企業の会社員の娘加藤夏希。

裕福な歯科医の娘森雛子。

桐生院家の令嬢桐生院彩華。

4人に声をかけてきたのは『ホテル港区』も経営するホテル王手代木幸作の娘、手代木瑞穂だった。

麗子たちの大学時代の友人手代木和也が手代木幸作の甥で、瑞穂とも従姉弟の関係にあったこともあって、瑞穂もSSDの合宿に参加したこともあったのだ。

そろそろ会もお開きという頃、瑞穂がビルの屋上で倒れているところを発見される。

意識を取り戻した瑞穂は、犯人は「知らない女だが、どこかで見たような顔」「大きな緑色の宝石をしていた」と証言する。

現場に駆けつけてきた三浦警部は、条件に合う容疑者を探すのだが・・・。

影山の指示で、麗子は今日二回目の醜態を演出してみせ、犯人にたどり着くのだが、瑞穂の証言と犯人の素性の食い違いが麗子には納得できない。

お言葉を返すようで恐縮ですが、お嬢様のほうこそ、どこに目ン玉おつけになっていらっしゃるにでございますか

 

第4話 聖なる夜に密室はいかが

クリスマス・イブの夜、影山は予定があるという。

影山の裏切りに憤慨した麗子はバスで国立署に向かおうとするが、前夜に雪が降ったこともあって大混雑のバスで半死半生のまま西国分寺病院前で下車する。

女性の悲鳴を聞きつけた麗子は殺人事件に遭遇する。

悲鳴を上げた女性中沢里奈の案内で向かった事件現場への通路は前夜の雪でくっきりと人の足跡と自転車の痕跡が残っていた。

往復した人の足跡は里奈のもの、自転車の痕跡は前夜、家に帰った被害者松岡弓絵のものとみられた。

部屋にあるロフトを見て、風祭は事故であると断定する。クリスマス・イブの夜に、仕事を持ち込みたくないのだ。

隣家の佐々木時子から前夜ドシンという何ものかが落ちた音を聞いたという証言を受けて、自身の推理に確信を抱くのだが、時子は更に、音がした後に人影を見たというのだ。

中沢里奈の話から容疑者として浮かんだのは弓絵の元カレ大沢正樹。

大沢にアリバイはなかったが、容疑者として弓絵の新しい恋人高野道彦を挙げた。

高野にはアリバイがあった。高野と朝まで一緒だったと証言する神崎綾香は弓絵を殺す容疑者として里奈の名を挙げた。

容疑者が混沌とし、現場の密室の謎もとけないまま歩く麗子はケーキの路上販売を行う赤い服を着たサンタクロースにぶつかる。

サンタクロースは影山だった。

大変失礼ながら、お嬢様の単純さは、まさに幼稚園レベルかと思われます

 

第5話 髪は殺人犯の命でございます

花柳家の応接室で死体が発見される。

発見したのは住み込みの家政婦田宮芳江。

被害者は寺田優子。花柳家の婦人雪江の姪にあたるが、誰も優子が前夜花柳家を訪れていたことを知らないという。

花柳家は当主の花柳賢治が交通事故で死んでからゴタゴタが続いていた。

賢治の不倫相手伊藤芙美子が新しい遺言書を示して、遺産相続の権利を振りかざして花柳家におしかけたりしていたのだ。

そんな矢先の事件だった。

今回の事件の特徴は長髪がトレードマークだった優子の髪がばっさりと切られ、暖炉で燃やされていたことだ。何のためにそんなことをしたのか、麗子は困惑するのだが・・・。

これだけの情報を得ておきながら、まるで真相にたどり着けないとは、お嬢様は頭がお悪いのではございませんか?

 

第6話 完全な密室などございません

国立市の片隅、西洋画の大家松下慶山の仕事場で松下が殺されるという事件が発生する。

約束のために松下の仕事場に向かっていた中里真紀と相沢美咲は仕事場から悲鳴を聞く。

慌ててアトリエに駆け付けた二人は部屋で何か物が倒れる音を聞き、部屋に飛び込むと、松下が背にナイフを刺して倒れていたのだという。

松下は問いかける真紀に、黙って壁のフレスコ画「眠り姫と妖精」の眠り姫の顔の部分を指して、意識を失った。

出入り口は一か所しかないなか、二人が入ってきたからには犯人に逃げ場があるはずはない。これは密室殺人だ。

風祭は密室の謎を解くべく、天井板を調べるが、梯子から落ちて痛い思いをするだけだった。

宝生邸に帰った麗子は影山に話を始めるが、影山は密室には関心がないという。完全な密室殺人など、ありえないというのだ。所詮天井裏あたりに抜け道があるというのだ。

風祭と同程度の発想をする影山を揶揄する麗子の言葉にプライドを傷つけられた影山は詳しい話を麗子に尋ねる。

ああ、お嬢様!まさに、お嬢様のおっしゃったとおりでございます。確かに、お嬢様の凡庸な閃きなど、誰かに話すほどのものではございません。聞くだけ時間の無駄でございました

安楽椅子探偵の禁を破り、麗子とともに現場に向かった影山は密室からの脱出口を発見する。そして、そこを抜けた先で麗子を待っていたのは・・・。

 

ミステリの顔をしたコントというのが、この作品ではありますが、あまりにもワンパターンだと少し飽きがきてしまったような感じです。

烏賊川市シリーズも、この手の趣向が強い作品ですが、このシリーズの場合は主人公らの設定が荒唐無稽なだけに更に白々しさが強くなりがちです。

富豪令嬢が蓮っ葉な物言いで馬鹿げた推理を展開し、大富豪宅に働く執事が暴言を吐くという意外感が、このシリーズの肝の部分であろうと思いますが、もはや元々の素性が(意外である態度が普遍化してしまって)曖昧になっているため、彼らの掛け合いが意外感を失っています。これでは、馬鹿なカップルが馬鹿話をしているだけでしかありません。

今回はラストに風祭警部の意外な活躍(?)もあり、そのあたりが印象に残りましたが、これもまさに今回は意外感が乏しかったために、あの程度の話でも印象に残るのかもしれません。

更に続巻があるのであれば、今一度、原点に返って、そもそもの素性”=らしさ”を再構築しないと、面白さは出てこないでしょう。

先日、最終回を迎えた「水戸黄門」などはワンパターンの美学がありますが、この作品は短編の構成であるだけに、話が薄いのでワンパターンのアクが強く匂ってしまいます。いっそのこと、長編にすると違った味が出てくるのかもしれませんね。

今回は、伏線のように見せておきながら回収しなかったりとか、気になるところも残り、全般に(意図的か、そうでないのかわかりませんが)粗さが目立つ作品群でした。

 

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『舟を編む』 三浦しをん

Funewoamu2011年、108冊目。三浦しをん『舟を編む』

辞書「大渡海」編纂に携わる人々を描く作品。

雑誌や小説といったものの編集者や小説家といった主人公を描く作品は多々あれど、辞書(国語辞典)の編纂を舞台にした作品は珍しい。初めて読んだ。

 

第一章

荒木公平はこれまでの会社人生を捧げてきた辞書への思いを誰かに引き継がなけれなばならない。

定年退職を前にしながら、これから始まろうとする辞書「大渡海」編纂のために。

ともに辞書編纂を務めてきた松本先生のためにも。

玄武書房辞書編集部に、自身の後継となる若い人材を据えなければならないという使命感のなか、部下の西岡の推薦を受けて第一営業部に赴いた荒木が見つけた男は、辞書つくりに必要な才能を持ち合わせていた。

院卒の入社3年目、27歳の馬締光也。

棚の備品を整理する馬締の姿、そして荒木の問いに的確に答える馬締に惚れ込んだ荒木は上司らへの根回しの末、馬締を辞書編集部に異動させる。

 

第二章

異動して3ヵ月、なかなか辞書編集部に馴染めない馬締は人間関係に疲れていた。

春日の下宿早雲荘は住人は馬締と大家のタケおばあさんだけの二人だけという有り様だったが、そんな環境が馬締にもタケおばあさんも居心地が良い。

そんなある日、早雲荘にタケおばあさんの孫娘林香具矢が転がり込んでくる。

おもわず辞書から「恋愛」の項を引く馬締を面白そうに眺める西岡は、馬締から香具矢の話を聞き、興味を持つ。

湯島の『梅の実』で板前修業中の香具矢を見るべく、『大渡海』の編纂方針を決める会議は、そのまま『梅の実』に流れた。

香具矢に誘われて後楽園遊園地を訪れた馬締は一大決心をしてラブレターを認める。西岡にも見てもらい、励まされた馬締は香具矢にラブレターを手渡すのだが・・・。

 

第三章

春に宣伝広告部へ異動となる西岡正志は馬締に嫉妬していた。

香具矢のことというよりも辞書編集部における馬締の存在感に。

西岡は馬締に苦手な社外交渉を一手に引き受け、馬締をバックアップする。

会社から『大渡海』の中止が下されないよう、執筆者に前もって原稿を依頼し、集めてくるのだ。無理難題をもちかける大学教授にも屈しない西岡の姿を馬締は支持する。

辞書に向ける西岡の感性を称賛する馬締の言葉に、なぜか打たれてしまった西岡は自身のいなくなった後、馬締を助けるであろう後継者のために、一つの布石を打つのだった。

 

第四章

玄武書房に入社して3年。

女性向けファッション誌「ノーザン・ブラック」編集部から辞書編集部に異動となった岸辺みどりは上司となる主任馬締の異様な姿にショックを受ける。

埃アレルギーのあるみどりはまず辞書編集部の掃除から始める。

辞書のことなどさっぱりわからないみどりは馬締が語ることが一つもわからない。

更に、そんな変人馬締が結婚しており、更にその相手が『月の裏』の板前林香具矢だというのに驚く。また、手掛けている辞書『大渡海』が企画から13年もたって販売に至っていないことにも度胆を抜かれてしまう。

別世界に迷い込んでしまったようなみどりだったが、『大渡海』のためだけの紙を試行錯誤しているあけぼの製紙の宮本慎一郎と出会い、その熱意に触れるなかで、なんとなく理解もできるようになっていく。

ある日、棚のファイルを見て、西岡の残した置き土産を発見したみどりは・・・。

 

第五章

『大渡海』完成まであと一歩。

宮本と付き合い始めた岸辺みどりを微笑ましく眺めながらも、馬締は最後の追い込みに余念がない。

ところが荒木が持ち込んだのは、「ちしお【血潮・血汐】」が抜けているという重大事だ。

既に四校まで作業が終わっているが、この校閲作業上のミスは他にもあるかもしれない。

松本先生の体調不振のなか完成・販売日時を遅らせることはできない。

後に「玄武書房地獄の神保町合宿」と呼ばれることになる、学生アルバイトも含めた再度のチェック作業が始まった。実に1ヵ月に及ぶ神保町合宿で発見されたミスは「ちしお」だけだった。

松本先生の病状は悪化する一方。

馬締は「間に合わない」との思いに駆り立てられるように作業を進めるのだが・・・。

 

なるほど辞書の編纂という特殊かつ繊細な舞台を書き込んでおり、読み応えがある。

辞書の面白さを再発見する(させる)ような作品で、書店にいっても、この本の隣に国語辞典が並べてあったり、かなり売れているようだが、納得。

登場人物たちもなかなか個性的で惹かれる。

おそらく全体を通じてのメインキャラクターは馬締ということになろうが、どうみても変人でしかない。おそらく一般の会社勤めでは浮いてしまうであろう馬締が、まさに適材適所というか、自身の力を発揮する場を得て、(本来は浮いてしまって孤独を託つであろうにもかかわらず)周囲と親和していくという幸福。

その幸福感、恵まれ感が根底に微笑ましく流れており、非常に心地よく読み進められる。

ラストにかけての切迫感の演出など、うまく達成感や挫折感を導く展開が仕掛けられており、非常に巧妙で最後まで飽きさせない。

本の装丁も含めて、演出に富んだ作品でした。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★☆

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『草原の風 中』 宮城谷昌光

Sougennokaze22011年、107冊目。宮城谷昌光『草原の風 中』

草原の風、第二巻。

後漢の光武帝の話。

中巻は、光武帝の挙兵から王莽が倒れ、偏析されて北辺を彷徨うまで。

 

 

劉縯の挙兵に一旦は舂陵を逃げ出した住民たちだが、劉秀もまた起つことを知り、戻ってくる。

劉秀の挙兵を責める叔父劉良のまた結局は参加する。

劉嘉の呼びかけで平林と新市の兵も参加するが、賊に近い平林、新市の兵と劉縯ではそりが合うはずもない。

平林・新市の兵を率いる王匡は一旦は劉縯を立てるが、心服しているわけではない。

この混成軍は県兵を伐ち、兵を進める。

勝利のあと略奪を恣にする平林の兵らを危惧した劉縯は義弟樊宏のいる湖陽については劉氏の兵で陥とすが、財を劉氏が隠匿したとみる平林の兵らの離反を誘う。

包囲された劉氏は劉秀の発案により、これまでに獲得した財を王匡らに差し出すことで、分裂を免れる。

この兵に合流したのは李通だった。常安の父李守を救いにいった李通だったが、連絡が届かず、救うことができなかったばかりか一族をも失い、命からがら逃げだしてきたのだ。

棘陽を攻めていた兵は霧の中から現れた甄阜率いる官軍に背後を衝かれ、混乱の末敗走する。この戦いで劉秀は次兄劉仲、姉劉元と、劉良の妻と娘を失うことになる。

棘陽に逃げ戻った劉縯、劉秀は宜秋で下江の兵を率いる王常と連携を組むことに成功する。

王常とともに官軍と戦うことになった劉縯らは、官軍の背後にある輜重を劉秀に襲撃させる。

王常の夜襲に慌てた官軍を劉縯はつき、梁丘賜の率いる軍を突き崩し、甄阜も含めた官軍は敗走する。

大勝した叛乱軍は、南下した厳尤の率いる官軍をも伐ち砕いた。

宛を包囲する軍のなかにあって、劉縯を快く思わない朱鮪や李軼は秘かに平林、新市、下江の主だった将を集め、劉玄を皇帝に立てることを提言する。

赤眉の乱が続く中、皇帝を立てることが時期尚早であることを劉縯は説くが、張卬、朱鮪らに強引に押し切られた集会は、劉玄を皇帝(更始帝)に立てることに決する。

昆陽を降伏させた劉秀は、官軍の動きを見て陽関で待ち受けるが、百万を号する官軍を前に、王常らは逃げ出してしまう。窮地に立った劉秀だったが、悠然と退くことで危機を脱する。

昆陽に戻った劉秀は退却することの愚を説き、少数で昆陽を出ると官軍の本営に向かって奇襲を強行した。本営内に突入した劉秀らは将帥の一人王尋を斬り、官軍を敗走させることに成功したのだった。

宛もまた劉縯らの率いる軍によって陥ちていた。

劉縯・劉秀の兄弟による快事は劉玄を皇帝として推戴する張卬や朱鮪には都合が悪い。

劉玄(更始帝)を抱き込んだ朱鮪、王匡らは劉縯を誅殺する。

父城を攻めていた劉秀のもとに、この報が届けられると、劉秀は宛にとって返し、兄の不敬を詫び、謹慎の意を示す。

命永らえた劉秀だったが、これに伴って政治の一線から離れることとなる。

劉秀は陰麗華を妻に迎える。

王朝内では王渉や劉歆らの王莽捕斬計画が失敗するが、弘農郡で発生した叛乱をきっかけに漢軍の常陽入城を許す。

王莽は未央宮に追い詰められた末、殺される。

新王朝は洛陽を首都と定めた。

劉秀は破虜大将軍兼大司馬に任命され、北方の平定を命じられる。

兵を与えられなかった劉秀に鄧禹が合流する。

邯鄲に入った劉秀はかつての趙の繆王(劉元)の子劉林と面会する。劉林を気位ばかり高く、信頼できないと観た劉秀は早々に邯鄲を出る。

成帝の子劉子輿を騙った人相見の王郎を奉戴し劉林が挙兵する。

北へ進んでいた劉秀は、薊でかつての広陽国王劉嘉の子劉接に面会し、国王とすることを求められる。権能を超える要望に、劉秀は断りを入れる。

邯鄲で劉子輿が起ったという噂は北辺にも及び、劉秀は窮地に立たされる。

冀州は王郎(劉子輿)に従っており、幽州もまたその影響が及ぶ。劉秀は身を隠し、南へと走った。

食に事欠く有様になりながらも追われる身の上のこと、誰にも頼れない南への逃避行が続いたが、冀州信都国でようやく救いの手が差し伸べられる。

太守任光は劉賜の恩を受けたことから更始帝側に同情的であり、邯鄲からの使者も斬っていたのだ。

劉秀の消息を知った任光は迎えを出す。和成の邳彤もこれに合流する。

ようやく形を整えた劉秀は寡兵ながらも堂陽県を得て、続いて貰県も下すと、昌城に向かった。

昌城を得て更に育県に向かった劉秀は耿純と合流する。

 

純粋に面白かった。

ただし、主人公にあまり覇気がないのが、ちょっと意表を衝かれるというか、物足りない感じ。

漢の復興に至るまでの道程が(確かに危難のときはありながらも)なんとなく呆気ない。

一方で、劉玄から遠ざけられるところなどは、あまり知らなかったところなので興味深く、知的好奇心が満たされる。また、重耳を髣髴とさせるところも、なかなか心憎い。

諱が主に使われて、字があまり出てこないところが、若干引っかかる。

次巻で最終巻。どういう道程をたどるのか楽しみだ。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『プリズム』 百田尚樹

Prizm2011年、106冊目。百田尚樹『プリズム』

多重人格の統合と、多重人格に含まれる仮の人格に恋してしまった主人公の物語。

 

不妊治療に疲れた梅田聡子は成城にある岩本家で家庭教師を始める。

勉強を教えることになった修一は飲みこみが早く、素直で、聡子は家庭教師という仕事には何の心配もなく、むしろ遣り甲斐を感じていた。

岩本家の広い庭を感心し、散策していた聡子は一人の男から植木鉢を投げつけられそうになる。

それを見ていたはずの修一は見ていたことを隠すなど、その男のことは岩本家にとってタブーとなっているようだった。

家庭教師を終えた後、庭を散策することが習慣となった聡子は、また植木鉢の男と遭遇する。しかし、男は先日のことをさも何もなかったように聡子に話しかけ、画家宮本純也であると自己紹介する。

しかし、修一の母は宮本のことについて口を濁すとともに、宮本は夫岩本洋一郎の弟であり、病気療養中であると告げる。

不審を拭いきれない聡子だったが、敢えて岩本家の内情に立ち入ることを避ける。

また、ある日、庭で出会った宮本は、今度は村田卓也であると名乗る。

混乱する聡子に、村田は自身が多重人格であることを告げる。

岩本洋一郎の弟、広志には宮本や村田という別の人格が宿っているのだという。

半信半疑のまま夫康弘に話をする聡子に、康弘は多重人格などないのだと言い切る。

とはいえ、明らかに各人格ごとに雰囲気も異なる広志を見ていると、嘘だという断定も仕切れない聡子だった。

そんな聡子の混乱を知ったように、村田は広志の診察を行うクリニックに案内する。そこで担当医の進藤から聡子は広志が「解離性同一性障害」であることを告げられる。

広志は幼い時代から父や兄の虐待を受け続けた結果、いくつもの人格を内部に作り上げていったのだ。

この結果、生まれた人格は12。しかし、8年の診療の結果、今では5つまで統合されてきたのだと進藤は語った。

その統合には、村田の助力が大きかったのだという。

広志の理想像として生み出された村田卓也は、他の人格の記憶を共有するなど、他とは違った存在であり、広志への統合を他の人格に説得し、進めてきたのだ。

しかし、順調に進んできた統合も聡子の登場で、少しずつ破綻を来し始める。

広志や宮本が聡子に恋心を抱くようになったのだ。そして、村田もまた・・・。

そこはかとなく、村田に関心を持っていただけの聡子だったが、岩本洋一郎に乱暴されそうになったところを村田に助けられたことをきっかけに、心は村田に傾いていった。

村田が統合されて消えてしまうことが耐えられない聡子だったが・・・。

 

なんとなく話が薄い。

骨組みだけがあって肉付けがあまりされていないような印象だ。

勿論、多重人格という「眉唾」的な素材である分、そこに真実味を加えようとする分、説明的な描写は致し方ないのだろうけれど、ちょっとくどい。

加えて、主人公が多重人格を納得する段については、少なくとも読んでいるだけではとても納得はできない。(そう主人公が確信している、という事実だけが描写されているだけで、少なくとも自身を主人公に投影しにくい、というか、どうも感情を共有化しにくい。)

素材が難しい分、そこを語るうえでは説明ではなく、納得的な描写が必要だろうと思うものの、そこがちょっと不足のような気がしてならない。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『人生教習所』 垣根涼介

Jinseikyousyujo2011年、105冊目。垣根涼介『人生教習所』

小笠原諸島で実施されるセミナーを通じて成長していく主人公たちの物語。

小笠原諸島の観光案内的な趣きもある作品。

 

平成19年4月1日。

毎朝新聞第二面、全5段の新聞広告。

人間再生セミナー「第三回小笠原塾開校」

開校趣旨・・・現存する多岐の学問から最大公約数的な人生の方法論を教え、新しい認知を確立させる。そして新しい生き方の指針となるセミナーを行う。

 

元日本経団連会長鷲尾総一郎が事務局長を務める「NPO法人青葉の会」が主催する「小笠原塾」に多くの希望者が名乗りを上げる。

特に、セミナーの最終合格者で新たに就職を求める生徒には、その適性をみて就職活動を支援するという制度もあり、職に苦しむものには救いの手だったのだ。

しかし、まずは最初に書類選考があり、書類選考に通っても、小笠原父島での4日目に行われる中間試験に不合格になると本土への帰還となってしまう仕組みだ。

そんな小笠原塾に書類選考に通って参加するメンバーには、東京大学に入学しながらも休学中の浅川太郎(19)の姿もあった。

両親らの期待に応える形で東大まで至ったものの、自身が何者であるかを見失ってしまった浅川は休学を選んだ。そんな浅川を変えるきっかけとして、その両親は浅川に小笠原塾への参加を薦めたのだ。

醒めた目をしながらも両親付き添いで竹芝桟橋で乗船を待つ浅川の前に、並んだのはみるからにヤクザの男。

柏木真一(38)はヤクザとして小さな成功を収めたものの、結局は上部への上納金などのしがらみに耐え兼ね、組織から逃げてブラジルに至る。

しかし、ブラジルでの生活もうまくいかなかったことと、属していた組が解散し、追手がなくなったこともあり、日本へ戻った柏木だったが、元ヤクザの看板は柏木に職を与えなかった。

手持ちの金も減っていく中で、就職支援に引かれて、柏木もまた小笠原塾へ応募した。

浅川のことを両親の過保護を受ける”ウラナリ”と蔑んだ柏木は父島に向かう「おがさわら丸」に乗り込んだ。

船内で食事に及んだ柏木が前のテーブルで見たものは、体脂肪率は40%になろうかというデブ女が船酔いで駆け出す姿だった。

森川由香(29)は極度の人間不信で他人とまともに付き合うことができず、仕事も人との接点をあまり持つ必要のないフリーのライターをやっている。

そんな由香の内面は外にも滲みでるためか、暗いとして仕事先でも敬遠され、人との接点が少ないこともあってか気配りにも欠けるために更に浮きあがるという悪循環に陥っていた。

仕事も減り、また食べていくために不本意な仕事も引き受けざるを得ないという危機感から、由香もまた就職支援を求めて小笠原塾に申し込んだのだった。

吐きおえて屋上デッキに出た由香は悲しげな音色のブルースハーモニカを吹く男、竹崎貞徳に出会った。

竹崎は国内最大手のバイクメーカーの工場長を歴任したあと、定年後の数年をコロンビアで過ごしていた。工場長時代に暮らしたコロンビアの厳しさと人々のバイタリティにひかれてだ。

父島に着いた小笠原塾の面々はまず4人のグループで7班に分けられた。

浅川は柏木と同じグループ、由香は竹崎と同じグループだ。

早速始まった一次セミナーは鷲尾総一郎の挨拶を皮切りに、『確率』などの講義が始まった。講義が終わるとレポート提出が課されるなど、内容はシビアなものだ。

それを鷲尾ら事務局の面々が評価し、講義を理解しているか判断するのだった。

4日目に行われた中間試験は、それまでの講義の理解を問うものだった。

質問の趣旨を理解し回答を導き出す浅川、自身の経験に照らして自身の思いを答えにする柏木と、回答に至る道筋はマチマチだが、浅川、柏木、由香、竹崎を含めた11人が合格となった。

合格者は二次セミナーとして「ははじま丸」で母島にわたる。

ここで浅川、柏木、由香、竹崎の4人はBグループとなり、Bグループのリーダーに柏木を選出する。

もともと同じグループで、少しずつ親しくなっていた浅川と柏木、そして誰にでも人懐っこく接する竹崎というなかで、由香は一人浮いてしまう。柏木もまた場の雰囲気を読めない由香に苛立ちを隠せない。

そんな4人も、母島でのフィールドワークや父島での経験を通じて、少しずつ変わっていくのだった。

 

複数主人公の物語にしては、それぞれの分量が少ないため、ちょっと成長物語としては物足りない。

柏木のキャラクターはいいのだけれど、やはり露出不足といった感じかもしれない。むしろ、全てを柏木目線でも面白かったかもしれない。

一方で、脇役竹崎が全体を調整してる感はあるが、どうも実体がよく見えない人物だ。

鷲尾総一郎も重要そうに見えながら、最終的には本筋に殆ど絡んでこないので、どうも肩透かし。

結局、この作品で印象に残るのは、小笠原諸島父島とか母島の風景、観光スポットというところかもしれない。

また、単に観光というだけでなく、そもそもの島の歴史、成り立ちとか、知らなかったことに触れるという意味で、知的好奇心を満足させる話とも言えそうだ。

ストーリーがどうこうというよりも、読んで、父島や母島に行ってみたいと思わせる、そんな作品だ。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★☆☆☆☆

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『灰の旋律』 堂場瞬一

Hainosenritsu2011年、104冊目。堂場瞬一『灰の旋律』

真崎薫のシリーズ3作目。

プロデューサー矢吹からの依頼で始めたかつてのバンドメンバー探しの過程で見え隠れする麻薬を巡っての話。

 

レコード会社”サンライズ”の中山秋穂からの依頼は人探し。

プロデューサーの矢吹調を探し出して欲しいという。

矢吹は新たに売り出す若手グループのレコーディングを前に失踪してしまったのだという。

酒のあるところにいるというヒントをもとに真崎は4日目にして矢吹を探し出す。

60年代後半から70年代初頭にかけて活躍した横浜出身のバンドYBCのメンバーである矢吹のことを真崎は知っていたが、最早当時の面影はなかった。

軽口を叩いては真崎を悩ませる矢吹だったが、どうしても嫌いになることのできないキャラクターだった。

スタジオに矢吹を送り込んだ真崎だったが、今度は逆に矢吹から人探しの依頼を受ける。

同じくYBCのメンバーであり、ギタリストだった平島茂を探してほしいという。

日本でなかなか評価されないままにアメリカに渡ったYBCだったが、そこでも成功せず、結局、日本へ戻って間もなく解散。

メンバーも散り散りになってしまっていた。

少しずつ平島の消息に近づく真崎だったが、それとともに浮かんでくるのは、YBC解散前夜の厳しい状況だった。

家族の消息をつかんだ真崎は、平島の弟を訪ねるが、弟は平島のことになると口を濁す。

平島は生きていた。それも矢吹や真崎の暮らす横浜の駐車場で働いていたのだ。

平島を矢吹の家に迎え入れた真崎は、二人の即興のセッションを後ろにして、家を出る。

しかし、響く銃声が真崎を引き返させた。

左の二の腕を銃で撃たれた矢吹は、平島は自殺しようとした挙句、外へ出て海に飛び込んだのだという。

駆け付けた警察のなかには、柴田もいた。事件現場に毎度のように現れる真崎に苛立つと同時に、発砲事件でありながら主導権を握れないことにも柴田は苛立っていた。

なぜか警察への出頭を求められた真崎は矢吹のことについて仔細に聴取されるとともに、事件の重要参考人としてマークされる。

応対した者の所属(薬物銃器対策課)から事件には麻薬が絡んでいることを知った真崎だったが、特に思い当たる節はない。しかし、車に乗り込み、グラブボックスにコカインが入っていることを知った真崎は、何者かに嵌められそうになっていることを知る。

一方、入院する矢吹の応対に当たったのは赤澤奈津だった。奈津は真崎を守るため、警察を裏切ることまで考えるが、これまでの約束通り、警察情報を得ることを拒む真崎だった。

病院から抜け出してきた矢吹を迎えた真崎は自身をはめようとした犯人を矢吹とみて問い詰めるが、矢吹にはその覚えはなかった。

真崎は再度、他のYBCメンバーに当たり、アメリカに渡ったYBCが麻薬に汚染されて帰ってきたことを知る。既に亡くなったメンバーも薬物の過剰摂取が死因だったのだ。

そんな中、真崎に電話が入る。

中山秋穂を誘拐した犯人から、真崎が有することになったコカインを引き渡すよう求める電話だ。

神城に協力を求めた真崎は現場に向かった。

 

基本的に、これまでと舞台装置は同じではあるものの、真崎の単独捜査、もしくは矢吹との共働が多く、これまでの作品と少し印象が異なる。

話自体はYBCメンバー平島を探すことが中心だが、売れないままに壊滅的に破綻した経緯を背景に、何となく重苦しい印象が漂う。イメージも夜のイメージが強く、暗い。

ただし、読んでいてずーっと気になっていたのは、YBMがどうも殆ど売れた様子はないのに、どうして知名度が高いのか、ということ。そのあたりの矛盾が、最後まで気になって話に集中できませんでした。

また、登場人物の語りも何かしら挫折の色がして重く、気が紛れることはない。

シリーズにおける重要な役割を果たす楊貞姫や神城も登場するが、今回あまり存在感はない。奈津も同様だ。

即ち、今回の話はおよそ真崎と矢吹の話とも言えそうだ。

クセがありつつも憎めないキャラクターとして矢吹が造形されており、飽きさせないが、敢えて「真崎薫」のシリーズじゃなきゃダメだったのか、という印象。どうもシリーズの軸を外してしまった感がある。

だからなんでしょうか、この後シリーズ新作が出ないのは・・・。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『髑髏城の花嫁』 田中芳樹

Bride_of_castle_scull2011年、103冊目。田中芳樹『髑髏城の花嫁』

ドナウ河口に潜む人外の一族内での保革の争いにニーダムやメイプルが巻き込まれるお話。

極めてジュブナイル色の強い作品で、大人が読むにはちょっと難があるかもしれない。

 

ミューザー良書倶楽部社長社長ロバート・ミューザーから、エドモンド・ニーダムとその姪メープル・コンウェイに命じられたのは、フェアファクス伯爵家の代替わりに伴う図書室等への蔵書提供等一式の手配だった。

早速、フェアファクス邸に向かったニーダムは屋敷の前で、クリミアの戦場における戦友マイケル・ラッドに再開する。

なぜか、そそくさと逃げるように去るラッドに不審の目を向けながらも屋敷に入ったニーダムを待っていたのは、更に意外な再会だった。

クリミア戦争の終結後、ナイチンゲールの庇護のもとスクタリ野戦病院にいたニーダムとラッドは帰国の足止めを食らっていた。そんな二人に示されたのは、帰国と引き換えにした一つの任務遂行だった。

ワラキア有数の貴族の子息クレアモント少尉を実家であるダニューヴ河の河口、髑髏城に連れて行くという任務だった。

ナイチンゲールの言葉と現地除隊証明書につられた二人は、憔悴したクレアモント少尉を連れて行くことに同意する。

怪しげな噂、おおなまずの襲撃などを越え、髑髏城へなんとか約束の夏至までに辿り着いた二人は、絶世の美女ドラグリラ・ヴォルスングルに迎えられ、感謝を受ける。

早々に髑髏城を退去した二人だったのだが・・・。

 

新たなフェアファクス伯爵とは、髑髏城で別れたライオネル・クレアモント少尉だった。

ニーダムに感謝の意を示すライオネルは更にノーサンバーランドにある荘園屋敷についてもニーダムらに任せることとする。

 

テムズ河口で最後の囚人船が燃やされるのを観覧にやってきていたニーダムやメイプルらは異様な怪物が跋扈するのを目撃する。翼のある怪人、海中から現れる狼・・・。

事件は解明されないまま、ニーダムとメープルはノーサンバーランドにあるライオネルの屋敷に向かった。

メープルはそこで女学校時代からの仇敵ヘンリエッタ・ドーソンと出会う。

屋敷では多くの親族が集まるなか、なぜかライオネルは命の恩人としてニーダムらを食事の席に同席させる。

しかし、そこで始まったライオネルら親族の諍いは意外な方向へ向かう。

危ういものを感じたニーダムは退出しようとするが、最早それは適わない。

気が付いたときにはライオネルの左右の人々の顔に変化が・・・。

逃げ出したニーダムとメープルは、ヘンリエッタや、潜入していたラッドとともに逃げ出すのだが、その行く先々には人ならぬ者が・・・。

 

時代背景を楽しむにはいいが、ちょっと内容は「お子様向け冒険小説」の色合いが強いため、今回は読んでいてちょっと辛かった。

何と言えばいいんだろう。

CGやSFXがなかった時代の、被り物の狼男やフランケンシュタインの映画を見ているような感じだ。話がどうこうというよりも、なんだか現実離れした物語を可哀そうなものを見るような感じで、そっと見守っている、そんな読後感を持ってしまう。

勿論、登場人物はそれぞれ魅力的で、殊にメープルの意外な一面を引き出すことになるヘンリエッタは漫画的ではあるものの、非常に魅力的なキャラクターだ。

主要登場人物でありあがら、ラッドはちょっと掴みづらかったけれど・・・。

このシリーズもあと1作あるようだが、果たして最後まで付き合えるだろうか?

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:☆☆☆☆☆

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『とせい』 今野敏

Tosei2011年、102冊目。今野敏『とせい』

任侠シリーズの第一作目。

ヤクザ(阿岐本組)が出版社を救済するという話。

 

阿岐本組の代貸日村誠司は闇金の丸橋から仕事の依頼を受ける。

荻原精密加工の追い込みだ。

しかし、堅気を泣かす仕事を嫌う組長阿岐本雄蔵はその仕事を断るように指示する。日村は組長の指示を受け、丸橋の顔も潰さない第三の方法を探す。

元引きこもりのハッカーでもあった市村徹は荻原精密加工が片抜きの専門家であることを知ると、フィギュアの受注により金回りを改善させ、借金回収を図ることを提案する。

不得要領ながらも日村は徹(テツ)を信用し、この件をテツに託す。

一方、組長からは別件の相談(指示)を受けていた日村は頭を抱えていた。

日村の叔父貴分に当たる永神から組長が受け取った話は、永神が買い取った出版社の立て直しを行うというものだった。

阿岐本雄蔵が社長で日村も役員だという。

堅気の道、ましてや出版社という花形企業に、舎弟の三橋健一や二之宮稔、志村真吉は憧れるが、日村はそれどころではなかった。

翌日、神田にある出版社『梅之木書房』に出社した阿岐本と日村を迎えたのは、校了に追われる『週刊プラム』の編集長片山。仕事に追われるがまま、二人を相手にしない。

慌ててかけつけた総務部長の金平は二人を破産管財人とみなしていた。

永神も本当に阿岐本が出版社の経営をするつもりだとは思わず、倒産の手続きをしようとしていたのだ。

阿岐本は片山を呼びつけ、自身の情報源から得たニュースを伝え、ヤクザ関係の記事の訂正を命じる。もともとヤクザ系の記事の多い『プラム』編集長の片山としても願ったりかなったりだった。

日村はグラビアへの関心の高さを買って、志村を事務所から呼び出すと、週刊誌編集への知恵を出させるのだった。

また、沈滞気味の書籍編集部でも人事を駆使することで、新たな風を起こそうとするのだった。

少しずつ社員らの信頼を得ながら立ち直っていく『梅之木書房』だったが、必ずしも順風満帆というわけではない。

所轄のマル暴、甘粕が心配していたとおり、梅之木書房の地域を仕切る組との抗争を不安視する神田のマル暴は、日村らが何等かの落ち度を示すことを鵜の目鷹の目で見張っていた。

『梅之木書房』の地域を仕切る坂東連合仁志川組系国江田組との間で話がついているわけではないことを永神から聞いた日村は、一人国江田組に乗り込んだ。

国江田組のナンバーツー佐古義明に凄まれる日村だったが、現れた組長国江田からは意外なことを告げられる。国江田と阿岐本は五分の兄弟だったのだ。

これで梅之木組との間での問題はなくなった。

しかし、挑発を続けるマル暴の藤木と島本の挑発に真吉が乗ってしまう。我慢を続けた真吉だったが、入社祝いとして編集長片山から贈られた万年筆を折られた真吉は我慢がならずに手を出してしまったのだ。

現行犯逮捕となってしまった真吉を救うべく、片山らは阿岐本組ではなく、梅之木書房として警察と対決すべく、知恵を絞る。

一方、テツが手掛けた荻原精密加工の件は、テツの尽力もあり、窮地を乗り切るのだが、急場を乗り切ると感謝するどころか、弁護士を雇い、日村やテツを排除しようとするのだった。

弁護士から約定した金利よりも低い金利を押し付けられた丸橋も我慢ならなかった。

丸橋は秘かに屯するチンピラを雇うと、荻原の工場に火をつけるよう画策する。

それを聞きつけた日村は、健一、稔、テツらと現場に出向くと・・・。

 

なぜか、この作品を今まで読み漏れていました。

任侠シリーズの鉄則というんでしょうか。

一般企業に乗り込んでいって、本来あるべき礼儀を回復し、そして外部から見た真っ白な視線で改革に取り組んでいくという姿勢。

加えて、乗り込んでいった際に発生するヤクザ絡みのイザコザもなぜか血をみずに解決していくというプロトコルがちゃんとこの一作目から出来ています。

ただし、その後続くシリーズ他作品と比べると、なんだかちょっと粗い印象。

出版社の話が相対的に薄い。荻原精密加工という別の会社の立て直しの話も紛れてしまっているため、どうも散漫になってしまいがち。

記事等への参画もちょっと表面的で、どうも共感を呼びにくいという印象でしょうか。出版社の登場人物も多数登場するためなのかもしれませんが、印象に残る深掘りがなされないため、どうも話自体が上滑りの感じです。

ストーリー自体もご都合主義的なところも多く、話に膨らみがない点が難点でしょうか。

危機が危機にならないというか、勝手に落ち着いてしまうという幸運が続くので、ちょっと拍子抜けかもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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