『風の中のマリア』 百田尚樹

Maria_vespa 2009年、83冊目。百田尚樹『風の中のマリア』

一切、人間が出てきません。でも十分、面白い。

単に昆虫を主人公にして、人間のドラマを語ろうというのではありません。

あくまでオオスズメバチの生態をわかりやすく説明する方便として、擬人化を試みているというような感じです。

オオスズメバチの世界の様々なドラマ、そして知られていない数々の生態。十分に知的好奇心を満足できる作品ではないでしょうか。

 

初秋に産まれたオオスズメバチ(ヴァスパ・マンダリニア:Vespa mandarinia)のワーカー(ハタラキバチ)のマリアは「疾風のマリア」と呼ばれていた。

羽化したマリアは30日ほどの短い命を毎日狩りに出ることで過ごす。狩りは危険が多く、仲間も次々と帰還せずに死んでいき、巣の中で命を落とすものは少ない。

メスでありながら卵を産むこともなく、恋もない生活は他の虫からは不審に感じられ、問われるが、それは遺伝子(ゲノム)の求めるところだった。

血縁選択によるゲノムの維持において、自身の子どもよりも妹を育成する方が遺伝子を残すうえでは効率が高いのだ。

女王バチ、アストリッドのもと、アストリッドの帝国の繁栄に向け、妹の育成、狩りに命をかけ、いつか狩りの中で死んでいくこともマリアにとっては当たり前のことだった。

秋が深まるにつれ、エサとなる虫たちが少なくなる一方で、妹たちの数は増す。

加えて、新たな女王となる妹たちが増えてくる中で、マリアたちは集団で、ミツバチやキイロスズメバチの巣を襲う。犠牲も大きいが、妹たちを育成するためには仕方がなかった。

アストリッドがワーカーを産むことを止め、オスバチを産むようになると、ゲノムの効率性は働かない。マリアは仲間らとともに、アストリッドを殺してしまう。

女王バチの巣立ちの日。巣の周りに飛び交うオスバチが女王バチ候補となる妹たちに群れるのを撃退するマリア。こうして、より優性な遺伝子を選別しているのだ。

羽化して30日を越え、老齢となったマリアは数多くのオスバチを殺したあと、力尽きる。

 

非常に危険な生き物という印象の強いオオスズメバチですが、実際、その生態ってあまり知らなかったんですよね。巣が1年でダメになってしまうとか、羽化してから1カ月程度の命だとか・・・。

オオスズメバチの怖さもいろいろ描写され、やっぱり怖いなぁと再確認もします。

やっぱり一番、今回驚いたというか知的満足が得られたのは、自身で卵を産まずに、利他精神を発揮するように見えるハチの動機と遺伝子の係わりについてでしょうか。

非常に説得力があると同時に、遺伝子って怖いよなぁとも感じてしまいます。

ニホンミツバチの蜂球の様子は驚きでしたし、外来生物の脅威であるセイヨウミツバチの盗蜂にも驚かされました。

無味乾燥な学術書でなく、こういったドラマ仕立てだと、なぜこんなに印象深いんでしょう。

また、こういったテーマの話も読んでみたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『レッド・ゾーン (上・下)』 真山仁

Redzone1Redzone22009年、81冊目、82冊目。真山仁『レッド・ゾーン (上・下)』

『ハゲタカ』シリーズの第3弾です。

これまた映画の原作のようですが、どうも雰囲気は違いそうですね。

少なくとも、芝野は今回はチョイ役というか、全体のストーリーの中で存在感が殆どありません。

 

マカオで鷲津政彦に声をかけたのはCIC(中国投資有限責任公司)の王烈

中国で立ち上げるSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)のスカウトだ。しかし、鷲津には興味はなく、すげなく断るのだった。

その頃、世界を代表する自動車メーカー、アカマ自動車に買収をほのめかす男が現れた。”中国の買収王子”、”上海の買収王”、上海投資公司の賀一華である。

この赤いハゲタカへの防衛を考えるため、アカマ自動車の社長古屋貴史と社長室室長大内成行鷲津政彦と面会すると、防衛策について相談する。

鷲津賀一華の後ろにCICが控えていると睨んでいた。賀一華に対するアカマ自動車の防衛策を見極めてから、CICが出てきて買収するのだ。

それを裏付けるように王烈からは再度、鷲津にアプローチがあった。その中で王烈アラン・ウォードの死の真相を仄めかす。

賀一華もまた鷲津に接触すると、アラン・ウォードの恋人であった美麗翁藍香)を鷲津に引き合わせた。

賀一華の年下の叔母だという美麗は記憶を失い、口もきけなくなっていた。

鷲津はアカマ買収に参加することに決め、その準備に取り掛かった。CICに対抗する人物として白羽の矢を立てたのは、香港随一の財閥、将集団の総帥将陽龍だった。

アカマ自動車でも防衛策の検討が進められた。外為法による防衛を「国防関連企業だけ」とし、アカマ自動車の防衛を期待できない政府の弱腰に、アカマ自動車では禁断の分野となっている防衛産業分野への進出を検討する。しかし、アカマ自動車の象徴たる最高顧問赤間周平翁はこれを認めない。

加えて、周平の甥である副社長赤間太一郎は、賀一華の買収提案を経営陣の不祥事と捉え、クーデターを画策していた。

そんなとき、密告があった。アカマ・アメリカの業績が太一郎が社長時代に改竄されていたのだ。この不祥事に震撼する大内だったが、社長室次長保坂時臣はこれを太一郎排除の好機と捉えていた。創業家を排除することの是非を問う難問に、周平への相談を考えた大内だったが、そこに入ってきたのは周平の事故死の知らせだった。

動揺するアカマ自動車に追い討ちをかけるように賀一華はTOBを仕掛けてくる。

 

芝野健夫は曙電機でのCROを辞し、かつて世話になった”なにわのエジソン”藤村登喜男に恩返しすべく、登喜男の死後経営の行き詰ったマジテック社に移っていた。

登喜男亡き後、職人桶本の職人技だけに頼るだけに弱体化した会社の将来を作り上げるのが、芝野の仕事だった。営業を買ってでた芝野は、放蕩息子であった次男を育成していった。

そんなとき、アカマ自動車のFAを務めていたアイアン・オックス・キャピタルの加地俊和芝野古屋たちの相談に乗るように求めてきた。

賀一華から送りつけられた、政界工作(贈賄)を行う東京支社長佐伯鶴男らの数々の不祥事の情報、醜聞は古屋を打ちのめし、古屋大内に辞任を仄めかす。秘かに賀一華と通じた太一郎もクーデターの準備を進めていた。

そんな中、古屋らに会った芝野は違法を認めず、佐伯の告訴を勧めるとともに、創業家を過度に慮らず、太一郎を切るよう進言する。会社は誰のものかを改めて語ったのだ。

古屋らは鷲津の言葉にも耳を傾け、太一郎を放逐し、佐伯を告発するとともに、防衛対策委員会を設置して、その委員長にニッポン・ルネッサンス機構の総裁飯島を就けた。鷲津もまた”白馬の騎士(ホワイト・ナイト)”に名乗りを上げた。

しかし、ここで買収に参加してきたのはCICではなく、鷲津の古巣であるKKLだった。総帥アルバート・クラリスが乗り出してきたのだ。

サブプライムローンの影響で経営不安となった自動車ビッグ・スリー(ユニオン・オート、プリマス、フォックス自動車)支援のための資金をCICが拠出するというのだ。アジア嫌い、共産主義嫌いのクラリスだったが、アメリカ政府に頼まれ、愛国心から仕方なく乗り出したのが実態だった。

クラリスの本心を斟酌した鷲津クラリスが妥協できる対案を出すことで、この危地を脱しようとしていた。

 

漸く、アラン・ウォードの件が解決しましたが、あんまり釈然とはしない死に様ですね。

今回はCICの脅威を背景にして書かれており、なかなか興味深い設定ではあるのですが、漠然とした不安感・脅威が中心で、どうも踏み込み不足といった感じでしょうか。

このシリーズ、いつもそうですが、長くするために、不要なキャラクターや不要なエピソードを盛り込みすぎかもしれません。

キャラクターでは、今回も存在感の乏しい(なぜ、登場する必要があったの?別に出てこなくても話には大きな影響はないのに?といったような)登場人物が多数ありました。

少なくとも今回のストーリーで芝野の登場する必要は全くなかったといっていいでしょう。殆どアカマ自動車と接点を持たないのですから・・・。

謝慶齢についてもそうですね。別にわざわざ、あそこまで行数を割いてまで描写する必要があったんでしょうか。結局、(本人が意識しないままに)アラン・ウォードの謎の鍵となっていたというだけで、本人に何ほどの意味もないのですから。

一方で掘り出し物だったキャラクターは大内成行でしょうか。非常に人間味があり、苦悩する一介のサラリーマンという感じで、芝野よりもいい味を出しているようにも感じます。

今回だけの登場というのはちょっと惜しいキャラクターといえるでしょう。

次回はもうちょっとスッキリすることを望みたいですね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『アマルフィ』 真保裕一

Amalfi 2009年、80冊目。真保裕一『アマルフィ』

映画の原作、なんですか?

まぁ面白かったかな。

最初の方はテンポが悪いんですが、ラストは急展開で、なかなか楽しめましたね。

 

アテネでサミット妨害を図る過激な環境団体”ブルー・アース”の検挙に関与していた外交官黒田康作は外務次官片岡博嗣からローマに飛ぶよう指示を受ける。

テヴェレ川上流の日伊共同開発の調印式のためにローマを訪れる外務大臣川越亘の保護の任を受けたのだ。

外務省入省直後、中米に派遣された黒田だったが、現地大使の品性下劣さに嫌気がさし、大使と商社との癒着を調べ上げると、本省へ報告した。

しかし、本省高官のもみ消し工作により、大使は何事もなく、黒田の方が日本へ呼び戻された。その頃、邦人テロ対策室の設立に動いていた片岡黒田の経歴に目をつけ、黒田をテロ対策室のスペシャリストとして養成したのだ。

不正を暴く黒田は派遣される先々の大使館で警戒感をもたれ、白眼視された。

ローマでも大使菊原和夫と参事官西野利明黒田を隔離しようとする。

一方で、警備を進めようとする黒田は総務担当武藤暁彦(34)と警備担当の警察からの出向者、今村直也(42)に、警備・警戒の実状を尋ねるが、その対応は非常に甘いものだった。

間もなく、大使館に火炎瓶が投げ込まれる。イタリア国家警察警備局のカンピオ警視がこれに対応する。

続けて、日本人の誘拐事件が発生する。ローマを訪れた矢上紗江子(34)が同行した娘まどか(9)がホテルで行方不明になったのだ。迷子を疑う最中、紗江子の携帯に犯人から連絡が入る。

邦人保護担当領事として紗江子に応対していた黒田紗江子から電話を奪い取ると犯人の要求を聞く。犯人の要求は番号不揃いの使用済み紙幣で10万ユーロの身代金。

係わり合いを怖れた西野が示唆する、イタリアのマスコミの口の軽さを怖れた紗江子は警察に通報することなく、10万ユーロの要求を呑むことを決める。

外資系コックス銀行東京支店に勤める紗江子は会社からの融資を受けることに成功した。翌日、コックス銀行ローマ支店には、ロンドン本店のEU統括部長アンソニー・ハーディングが直々に駆けつけ、紗江子を励ました。

警察への通報を思いとどまった紗江子だったが、まどかの誘拐されたホテルが勝手に警察に通報したことから、イタリア国家警察ジョバンニ・バルトリーニ警部が紗江子のもとを訪ねてくる。誤報だと繰り返す黒田の言い分にバルトリーニは聞く耳を持たない。

大使館に場所を移し、事情聴取が行われる中、犯人から連絡が入る。

当初の予定通り、ユーロスターに乗れと。

事件への関与を避けようとする大使館だったが、邦人保護領事の本分として、黒田紗江子に付き添い、ユーロスターに乗るのだった。

更に犯人は、ナポリの先アマルフィへ行くことを指示する。アマルフィに着き、犯人の指示通り歩く紗江子は突然鞄を引っ手繰られてしまう。犯人による身代金の回収なのか、単なるスリなのかの判別がつかない中、秘かに見張っていた警察は引ったくり犯を追いかけてしまう。

犯人からは取引中止の連絡が入り、紗江子は絶望する。

絶望する紗江子を慰めたのは外交官補の安達香苗だった。まどかのために気を取り直した紗江子はローマに戻ると、秘かに調査を始めた。

大使館を避け、秘かに調査を続ける紗江子の態度に不審を感じた黒田紗江子のパソコンの履歴から、紗江子まどかが誘拐されたホテルの監視カメラの保守元を調べていることを突き止め、警備会社ミネルヴァ・セキュリティーへ向かった。しかし、応対する社員は守秘義務を楯に情報を開示しない。

ミネルヴァ・セキュリティーの日本人アシスタント光永鞠子からの好意と思われる社員名簿をもとに、関係者から地道に聞き取りをする二人は、ホスト・コンピュータのパスワードを盗み取ったとみられる怪しい人物マルセル・シモンに行き着く。しかし、犯人はマルセル・シモンではなかった。マルセル・シモンカルロ・オルシーニと名乗る男に名義を貸していたのだ。

カルロの住所チヴィタヴェッキアを訪ねた黒田紗江子は、連絡を受けて既に到着していた警察とともに、そこで夥しい血痕を確認する。誘拐事件に偽のカルロ・オルシーニが関与していたことを確信した黒田紗江子とともに、ミネルヴァ・セキュリティーに向かった。

ホスト・コンピュータに残された画像の分析の結果、誘拐時の映像データが上書きされていることが判明する。

バルトリーニらと復旧に立ち会っていた黒田だったが、事件の担当者として同席していた光永鞠子の様子がおかしいことに気付く。

突然、鞠子は隠し持った改造拳銃をかざすと、コンピュータ・ルームの非常ロックをかけた。更に、オペレータに携帯電話を渡すのだった。

オペラ座の回線をすべて切断しろ

携帯電話の声はオペラ座の警備を弱体化させるものだった。

この日、オペラ座ではサントーニ大統領夫妻が出席するコンサートが開催される予定だったのだ。

ジルヴァーゾ室長の機転で電源を全て切ると、照明もモニターも全てブラックアウトし、開いた扉からは警備員が押し寄せた。鞠子が取り押さえられるや、バルトリーニはオペラ座の警備強化を指示するのだった。

しかし、黒田は狡猾な犯人の思惑が更に深くあることを予想した。当日ローマを訪問中の要人は日本とロシアの外務大臣だった。川越外務大臣が狙われることを予想する黒田だったが、それも犯人たちのシナリオだった。

 

チェチェンとヴァチカンというなかなかタッチーな題材ではありますが、政治的な意図があるというよりも、盛り上げる舞台装置として使った感じです。

ストーリーはミネルヴァ・セキュリティーのホスト・コンピュータ停止からの展開が妙に速いのですが、それまでがちょっとつらいかもしれません。アマルフィでのひったくりはなかなか面白い趣向でしたが・・・。

一方で、キャラクター面では主人公の黒田の輪郭がわかりにくい。組織のなかで浮き上がってはいますが、その一方で、言っていることは真っ当で、それほど斜に構えているわけでもない。クセのあまりないキャラクターではあるのですが、その分面白みにも欠けるといえるかもしれません。

黒田とともに、娘の行方を追う矢上紗江子についても、あまり魅力的には映りません。事件を展開させる一つの歯車に過ぎず、どうも感情移入しにくいものがあります。

黒田のスタッフともいえる安達香苗については、今後に期待、という感じでしょうか。

そういう意味ではキャラクターで読ませる作品ではなく、ストーリーで読ませる作品といえるでしょう。

設定からして、何となく、続刊がありそうな、物語かもしれません。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『パラドックス13』 東野圭吾

Paradox13 2009年、79冊目。東野圭吾『パラドックス13』

東野圭吾にしては珍しくSFですか。

ストーリーはまずまずなんですが、どうも根拠・設定が薄弱で最後まで違和感を持ってしまいました。

やっぱり、不思議な設定はどこかで腑に落ちないと作品の質を損なってしまいますね。

 

JAXA(宇宙航空研究開発機構)から首相に寄せられた情報は「P-13現象」と呼ばれる不可解な現象についてだった。

宇宙全体で3月13日13時13分13秒に時間が13秒だけ跳躍するというのだ。数学的に証明されるものの、何が起こるかわからないという現象を前に、パニックを防ぐという目的から緘口令が敷かれた。

ただし、この時間に(死亡)事件・事故を発生させた場合の不連続性を懸念した政府は警察などに、理由は伏せて同時間帯の警戒を呼びかけた。

警視庁捜査一課管理官久我誠哉は強盗殺人グループ検挙の指揮をとっていたが、そこへ同時間帯の捜査活動の自粛の要請連絡が入る。

しかし、先走った所轄の刑事でもある弟冬樹が逃げようとする犯人の車に飛びついた。慌てた誠哉は犯人確保の指示を出すが、狼狽した犯人の銃撃を受ける。

犯人の銃撃を受けて血を流す兄誠哉の姿を見て犯人ににじり寄る冬樹もまた銃撃を受けてしまう。

冬樹が気がつくと辺りには誰もおらず、事故った車やバイクが転々とするばかり。

誰も見当たらない街に不安を感じる冬樹はやがて一組の親子白木栄美子ミオに出会う。しかし、二人も冬樹と同様に事情が全くわからなかった。

銀座で巡りあったのは寿司屋で寿司を貪り食う太った男新藤太一

ラジオの呼びかけで他に生存者がいることを知った冬樹は三人を寿司屋に残すと、様子を探りに、呼びかけのあった「東京駅八重洲地下中央口」に向かった。

そこには兄誠哉のほか、大手建設会社のサラリーマン小峰義之、同専務戸田正勝。女子高生中原明日香、老夫婦山西繁雄春子。看護師富田菜々美の7人がいた。

ここに銀座の3人が合流し、合計11人となった。

誠哉をリーダーとして進む一行は赤ん坊の泣き声を聞く。マンションの一室に一人残された赤ん坊は勇人という名付けられていた。

相次ぐ地震により建物は倒壊し、道路は裂け、一行を取り巻く環境は刻一刻と厳しくなっていった。時間の経過とともに生鮮食料品は腐り、食べ物の補給もままならなくなっていく。

学校の体育館に避難する一行を残し、探索に出た誠哉は首相官邸で「P-13現象」の真実に辿り着いたが、これを他の人びとに伝えることはできなかった。

相対的に安全な首相官邸へ避難する途中、山西春子が転倒し、意識不明に陥る。病院もなく回復も見込めない春子の姿に、繁雄は全体利益のために春子の安楽死を選択する。

誠哉もまた新たな社会のルールの策定の必要を感じるのだった。

官邸に向かう途中で避難したホテルで、インフルエンザに苦しむヤクザ河瀬を見つけた一行は、仲間に加えるかどうかで議論になる。

加えて、河瀬のインフルエンザは山西繁雄にも感染していった。

山西を助けるべく、タミフルを求めて病院に向かった冬樹明日香だったが、途中で明日香もまた発症してしまう。明日香を抱えて立ち往生となった冬樹を助けたのは河瀬だった。

山西の死後、出発した一行は浸水した東京の街を津波を避けながら彷徨う。

総理官邸を目前に太一が地面の陥没に吸い込まれ、結局、官邸に辿り着いたのは13人中10人になっていた。

官邸について、初めて誠哉は一行に「P-13現象」について説明する。

13時13分13秒に死亡した動物は連続性が絶たれたために、このパラドックス解消の世界に残ったのだ。

元の世界に戻れるかもしれないと考えていた者たちにとって、ショックは非常に大きかった。自暴自棄に陥る人びとを前に、誠哉はこの世界で新たな社会を築くことを語るが、同調するものはなかなか現れなかった。

「P-13現象」の資料から36日後(4月18日13時13分13秒)に再度、「P-13現象」が起こることを知った小峰河瀬は、その時刻に再度死ぬことによって、元の世界に戻ることを夢見る。

正確な時間を知るために、電波時計を集める彼らだったが、どれも微妙にずれており、河瀬はその平均値を採用しようと提案する。

一方で、東京の浸水は進み、首相官邸も安全ではなくなってくる。誠哉は新たな土地を目指して出発しようと呼びかけるが、結局同調したのは白木栄美子ミオ富田菜々美勇人の4人だった。

約束の時間まで、あと2日。

誠哉たちが後にした官邸を強烈な地震が襲う。轟音とともに倒壊した官邸に閉じ込められた冬樹明日香は、瓦礫の中でそのときを待った。

しかし、地震による地盤沈下で上がった水が二人を沈めるのはそれよりも早い・・・。

 

東野圭吾によるSFという意外感だけで何とか読み終えましたが、やはり最後まで、どうも釈然としないままに終わってしまいました。

そもそもの設定自体が説明不足で、たった13人なのか、13人も、というべきなのか、「P-13現象」の起こった、その瞬間(この瞬間っていうのも、どうも微妙ですが・・・)に同時に亡くなったというのは、どうも納得感に乏しい。

突き詰めれば、10の何乗分の1かもわからない天文学的な極少の確率に合致するケースがそうそうあるわけでなし、東京の千代田区、中央区といった狭い範囲にそんな偶然が重なるとも思いにくい。

誠哉冬樹が同時にというのも何だし、同乗していたといえ小峰戸田ですら、死亡するタイミングは必ずしも同じとはいえないでしょう。

そう考え出すと、どうも基盤が脆弱で、ストーリー自体の面白さも半減です。

結末もよくわからなかったですね。

元の世界に戻ったのか、誠哉が語ったようにパラレルワールドへの復帰となったのか、これまた釈然としません。

ただ、そもそも今回の現象で取り上げられているような、極めて刹那的な意味で同時に死亡するという可能性は殆どないことを考えれば、この結末もお粗末ということになるのでしょうか。

ちょっと失敗作かもしれませんね。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★☆☆☆

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『神去なあなあ日常』 三浦しをん

Naa2 2009年、78冊目。三浦しをん『神去なあなあ日常』

三重県の田舎での、林業のある生活。

自然と、神と、人が近い生活。

横浜の実家から追い出された主人公の、そんな生活が綴られます。

 

高校卒業後、フリーターのつもりの平野勇気だったが、卒業式の日、担任の熊谷、そして母親から就職が決まったと告げられる。

国が助成金を出している『緑の雇用』制度で三重県の神去村への派遣が決まったのだ。

そのまま追い出されるように、新横浜駅から神去村へ着いた勇気を山間の駅で迎えたのはヨキ飯田予喜)という男。

森林組合の事務所で20日間の研修を受けた勇気は、ヨキに村の最奥部の「神去」地区にある中村林業株式会社に連れていかれ、”おやかた”中村清一の率いる班に組み入れられた。

メンバーは、清一ヨキ、50代の田辺巌、74歳だという矍鑠たる老人小山三郎勇気を加えて5人。

勇気ヨキの家で生活することになる。ヨキは妻みきと祖母繁ばあちゃんとの三人暮らしだった。

何もない生活と、厳しい林業の実態に逃げ出そうとする勇気だったが、慣れるにつれて、その生活が大事なものになってくる。

清一のもとへ時折訪れる妻祐子の妹直紀に憧れる勇気だったが、直紀にその気はなかった。直紀もまた清一に憧れていたのだ。

清一の息子山太の神隠し事件、花粉症発症、神去桜の花見、夏祭り、直紀への告白、と山の自然、山の神々との触れ合いのなかで、いくつかの経験を経て、秋。

”オオヤマヅミさん”の祭りを迎える。

由緒正しい祭りに際して、余所者の勇気を参加させないという雰囲気もあった。しかし、山火事に立ち向かう勇気の姿は村人をして勇気の参加を認めさせた。

祭りの当日。深夜2時にホラ貝の音が村中に響き渡った。

 

おそらくモデルとなっている村は三重県の一志郡美杉村(現在は津市に編入)。

松阪から名松線に乗った終点にある奈良県との県境の村です。

ただし、物語を面白くするためか、かなり大げさに書かれている部分はありますね。方言もどうなんでしょう。ちょっと不自然な気がしないではありません。あのあたりでも、こんな方言はなさそうな・・・。

しかし、こういっちゃなんですが、珍しい土地をモデルにしていますね。何か地縁でもあるんでしょうか。

話自体は、特に何があるというわけではありませんが、現在に残された奥深い村の生活、林業の実態を疑似体験するような話で、ほのぼのとした雰囲気を味わいつつ、知的好奇心を満足させるものになっています。

(横浜で育った少年が、そんなにすぐに田舎の生活に馴染んでしまうものか、という違和感がないではないものの、)主人公も変に優等生でなく、等身大に描かれており、非常に楽しく読めるものになっています。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『ガール・ミーツ・ガール』 誉田哲也

Girlmeets 2009年、77冊目。誉田哲也『ガール・ミーツ・ガール』

『疾風ガール』の続編。

面白かったですね。前作と比べると、ミステリ的な要素は全くありませんが、純粋に青春小説となっています。

 

宮原祐司の誘いを受け、フェイス・プロモーションに属することとなった柏木夏美は早速デビュー作『Thanks!』の録音を急がされる。専務である梶尾恒晴のツテでテレビCM出演が決まったのだ。

旭ビバレッジの『アミノスウェット』のCMに夏美が出演し、そのバックに『Thanks!』が流れる予定。

しかし、フェイスプロの音楽製作全般を担当することとなった専属プロデューサー石野克己の意見は夏美とは相容れなかった。険悪になる二人を取り持つように、梶尾の機転で有名なスタジオ系ドラマー池上”ゴンタ”淳一を参加させることで、無事録音は終了したが、夏美はソロとしての売り出しに違和感を覚え、バンドを作ることを宣言した。

そんなとき、フェイスプロにやってきたのは、映画監督の島崎潤一、妻の女優香川よう子、娘島崎ルイである。

所属事務所『アスカ企画』取締役でもある恋人秋吉ケンジとの破局から、事務所のバックアップを失ったルイの苦境を見かねた両親は、かつて香川よう子が属していたフェイスプロに相談に来たのだった。ルイも『アミノスウェット』のCMを見て夏美が気に入り、自身のバックバンドのギタリストに夏美を指名してきたのだ。

ルイのことは昔から気に入らない夏美だったが、梶尾に400万円の借金と引き換えに、この申し出を受けることとした。

夏美のもとに6年前に失踪した父親春彦から電話があったのだ。街金から借金し、生活に困窮する父親を見かねた夏美は、ルイとの共演の条件として、梶尾に借金を申し込んだのだ。

メンバーには夏美に希望があった。広告代理店白広堂の藤巻に連れられていった『ブラック・ヴェルヴェット』で偶然聴いた井場”GAKU”岳彦の演奏だった。

10年前にデビューした後、すぐに引退してしまったガクをピアノ(キーボード)に迎えたいと考えた夏美は、ルイとともに早速、御茶ノ水の『井場楽器』を訪ねる。

しかし、ガクは二人の要請に取り合わないばかりか、二人の音楽を非難する。非難の言葉に納得のいかない二人は『井場楽器』でバイトを始める。

ルイ夏美という全く異なる個性は食い違うことも多々あったが、バイトを続ける中で少しずつ馴染んでいった。また、ガクの仕事を手伝い、楽器のレンタルを通じて多くの人々に接する中で多くのことを学んでいった。

一方、祐司夏美に任せられたバンドのメンバー集めが遅々として進まない。

『アスカ企画』と契約を結ぶ『エクセル・レコード』の妨害工作で、池上”ゴンタ”淳一も渋るのだった。

大晦日に急遽、初のTV生出演が決定したルイだったが、結局ガクの協力を得ることもできず、夏美と二人で臨む。

 

前作では名前だけだった島崎ルイが登場しますが、祐司の感想から想像していた姿と対比するとちょっと期待はずれかもしれません。

勿論、夏美は相変わらずで非常に魅力的ですが。

その他、夏美の父親が登場するのですが、どうも全くのダメ親父っぷりで、なかなか感想が持ちにくいキャラクターです。今回のラストも単に恵まれただけという感じで、今後も夏美の周囲を引っ掻き回す予感はたっぷりです。

最後のコンサートではキーボード(ガク)、ベース(ジン)、ドラム(ゴンタ)も揃って、漸く夏美の念願のバンドも出来上がり。

是非、更なる続編を期待したいところです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★★

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『用もないのに』 奥田英朗

Youmo 2009年、76冊目。奥田英朗『用もないのに』

奥田英朗のエッセイ。

アテネ五輪のときの野球観戦記『泳いで帰れ』に続く、主として野球や音楽をテーマ(?)にしたエッセイ集です。

毒舌というか、とにかく思ったことを忌憚なく、かつ皮肉もこめながら綴られる内容は、思わずニヤリとします。

北京オリンピックの野球観戦記はまぁ最近の話(とは言え、WBCが終わった後だと、もはや陳腐化してしまっているかもしれません)ですが、古いものだと2004年のエッセイもあり、ちょっと時代の流れを感じさせます。

 

【野球篇】

再び、泳いで帰れ(「スポーツ・グラフィック ナンバー」2008年9月18日号、2008年10月号)

 北京オリンピックにおける野球”星野ジャパン”観戦記 & 北京の街の活写

アット・ニューヨーク~または小説家は如何にして心配するのをやめて野球とジャズを愛するようになったか(「野生時代」2004年1月号)

 気分転換(?)にと誘われた初めてのニューヨークでヤンキースの試合を観戦。

松坂にも勝っちゃいました~楽天イーグルス地元開幕戦寒中観戦記(「オール讀物」2005年5月号)

 楽天イーグルス地元開幕戦における地元の熱気を感じつつ、寒中で観戦を続けたが・・・。

【遠足篇】

おやじフジロックに行く。しかも雨・・・・・・。(「小説すばる」2005年10月号)

 思い腰をあげ、念願だったフジロックフェスティバル(第9回)に参戦

灼熱の「愛知万博」 駆け込み行列ルポ(「週刊文春」2005年9月8日号)

 長蛇の列に、何か楽しいことがあるんじゃないかと、猜疑心から向かった先は長久手。

世界一ジェットコースター「ええじゃないか」絶叫体験記(「週刊文春」2006年10月19日号)

 年をとるごとに不可能となるであろうジェットコースター体験に、富士急ハイランドの回転数世界一の「ええじゃないか」を選んだが・・・。

四国お遍路 歩き旅(「オール讀物」2009年1月号)

 讃岐うどんの食べ歩きをエサに誘い出されたが・・・。

 

気取らず、歯に衣着せぬというか、思い切った発言で非常に心地良い。

また、年相応というか、年代が近いこともあって、”わかる”部分もあり、非常に楽しめました。

「ええじゃないか」は喜劇のような展開で、純粋に楽しめます。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『シャングリ・ラ』 池上永一

Shangrila 2009年、75冊目。池上永一『シャングリ・ラ』

とにかく、このボリュームに脱帽。

非常に読み応えのある作品。情報量が多すぎて、遅々としてページが進まない。

ただ、前半の進展のなさに挫折してしまいそうになるが、そこで止めたら勿体無い。最後のスピード感を体験するためにも、是非、最初は辛抱強く読みすすめるべき。

 

環境悪化が進む中、世界経済は従来の資本主義から炭素経済へ移行していた。国連監視のもと、炭素排出の多い国には炭素税と称する関税が付され、国家経済の死命を制するようになっていた。

50年前。炭素経済への移行の中、東京都は山手線の中心部に人工地盤を重ねた空中積層都市アトラスの構築を始め、地上の森林化計画を進めた。

しかし、東京住民の全てがアトラスへ移住できたわけではなかった。アトラスへ移転するためには高額のアトラス国債を購入するか、アトラスくじと呼ばれる宝くじに当選するしかなかった。

多くの住民は住む土地を追われ、森林の中で自身たちのコロニーを作り、アトラスに対抗する反政府ゲリラ「メタル・エイジ」を構成し、炭素排出を繰り返すなど、政府への対抗姿勢を示していた。

メタル・エイジを率いる老婆北条凪子の跡を継ぎ、本拠のコロニー”ドゥオモ”で総統の職に就いたのは凪子の養子北条國子。2年前、政府の牽制に会い、通う名門高校で逮捕され、少年院暮らしを続けてきた少女だった。

國子を実質的に育ててきたのは、かつて六本木でニューハーフパブ『熱帯魚』を営んでいたニューハーフ、モモコ

國子の出所を祝うモモコモモコのニューハーフ仲間ミーコだったが、再会も束の間、ミーコがアトラスくじに当選し、別れのときが来る。別れを惜しみつつも、ミーコはアトラスへ移住していった。

アトラス第6層「新迎賓館」の主、美邦はアトラス公社の庇護のもと多くの家臣に傅かれていた。美邦に仕える家臣らには特権が与えられていた。膠原病のため、日光を浴びることのできない美邦を支える女医博士小夜子はアトラスにおける身分”アトラスランク”を自由に上下させる権限をも与えられていた。

美邦は、美邦に嘘をつくものに死を授けるという特殊能力の持ち主であり、特権と引き換えに、その家臣は緊張を強いられる毎日だった。

アトラスへ移住したミーコは偶然、美邦と出会い、その家臣に取り立てられる。嘘をつかないミーコ美邦の信頼を得るようになっていった。

炭素経済は、実際の炭素排出とは別の概念である「経済炭素」の増減が炭素税と直結していたが、その歪みにビジネスチャンスを見た若者らがあった。

飛び級の末、通信教育でハーバードのMBAを取得したアトラスの住人石田香凛はハーバードで知り合った若きカーボニストたちと、香凛の提唱するビジネスモデルの実証に入る。

香凛は海抜ゼロメートル地帯であるタックスヘイブン、マーシャル諸島の一つに『石田ファイナンス』を設立すると、最高水準のコンピュータ(プログラム)『メデューサ』を設置した。

『メデューサ』は各地の炭素税を決定する”炭素指数”を自由に操作することが可能だった。国家の疲弊にあえぐ高炭素債務国は『メデューサ』の前にひれ伏し、香凛らに多額のマネーをもたらすのだった。

しかし、『石田ファイナンス』と同様のビジネスを行う別勢力が現れた。香凛らの仲間の一人であるはずのニューヨーク在住のセルゲイ・タルシャンが、メデューサをコピーしたプログラムを、モルジブに設置したのだ。タルシャンの真意をつかみかねる香凛だったが、これを防戦するよう動く。

また、炭素市場の混乱を警戒した日本政府は、最高性能のコンピュータの出所から、所在地であるモルジブを見つけ出すと、新たに開発された擬態装甲板で作られた空母ペルセウスをモルジブに派遣し、メデューサのコピーを消滅させる。

この人間による対抗策に学んだメデューサは気候を操作し、自身を防衛するためマーシャル諸島に台風を設置すると、攻撃を寄せ付けないようにするのだった。

メデューサの存在を知った日本政府はメデューサへの攻撃を決行するが、台風の前に徹底を余儀なくされる。加えて、英国軍艦に欺瞞していたペルセウスはメデューサの企みにより、当の英国軍艦と遭遇させられ、相打ちの末、沈められてしまう。これに乗り込んでいた乗員が全滅するなかで、乗艦していた軍人草薙国仁だけが、なぜか助けられていた。

アトラス計画とは地上と天空を循環的に繋ぐ計画だった。しかしながら、超高層建築に伴う固有振動により安定しない構造体を鎮めるためには、唯一の”帝”を選定することが不可欠だった。

アトラスの身分制度の実態は、帝への即位へのランク付けであった。現在”帝”候補とされていたアトラスランク”AAA”の3人こそ國子(太陽)、美邦(月)、草薙(大地)のだった。

月よ、天へ昇り、闇夜を照らせ

アトラスを統べるコンピューター”ゼウス”からの声(暗号鍵)を受け取った美邦だったが、既に國子もまた”ゼウス”からの声を受け取っており、即位の決定には至らない。美邦への決定に至らない”ゼウス”に焦れた小夜子は真相を探るべく、”ゼウス”にハッキングをしかけるが、逮捕されてしまう。

美邦の懇請に従って小夜子の救出を請け負ったミーコだったが、小夜子を救い出したものの、自らが捕まってしまう。加えて、アトラスの構造を呪術的に支える仕組みの源でもある巫女水蛭子に憑依され、身体を奪われてしまう。

森に侵食され”ドゥオモ”での将来が危ぶまれる中、國子を総統に戴くメタル・エイジはアトラス第5層の政府施設の制圧を狙った起死回生の攻撃を行う。空からの侵入を試みた國子だったが、アトラスの対空防御は堅く、撤退を余儀なくされる。しかし、そこを突然地上から激しい火線が襲う。

このどさくさで何とか第5層に辿り着いた國子だったが、火線の正体を知り、慄然とする。これまでも散発的に繰り返される政府とゲリラの交戦の中で見られた正体不明の攻撃の源は新種の植物だったのだ。熱源に対して、高速で種を打ち込む植物は構造材グラファイトをも侵食していた。國子は政府との争い以上に、新種植物”ダイダロス”の危険性を感じ、政府に休戦を訴える。

一方、メデューサによって”ゼウス”のハッキングを受けたアトラス公社は大株主セルゲイ・タルシャンの指示のもと、”ゼウス”の初期化を行うが、ゼウスの初期化に伴い、国防力は著しく減退。政府は首相梅宮綾子の指示のもと国防省の幹部を更迭すると、國子との休戦交渉を行う。

国際司法裁判所の仲裁人として選任されたのはタルシャンだった。タルシャンは第5層をメタル・エイジら難民に明け渡すようにとの裁定を下すのだった。

人間同士の抗争の後、メタル・エイジと草薙の指揮する政府軍は協力して、森林を焼き払い、ここに50年にわたるメタル・エイジの念願が成る。

アトラスへの攻撃の最中で養母凪子がアトラス公社の初代総裁であることを知った國子は、その裏切りに憤り、凪子を”ドゥオモ”から追放する。追放された凪子はアトラスのタルシャンと合流する。もともと「アトラス計画」は凪子タルシャンが50年前に計画したものだったのだ。

美邦を”帝”の候補者たる皇太子に擁立するよう奔走する小夜子の前に現れたのは、元総理大臣鳴瀬慶一郎の孫涼子。学生時代から小夜子の前に現れ、小夜子を虐げる涼子は万能の天才だった。涼子小夜子を虐げることに喜びを感じていたのだ。

涼子小夜子の邪魔をする過程で、アトラス計画の真相を知ると、自身が帝となるべく動き始めるのだった。

アトラス計画の真相を知ることになった國子草薙だったが、ともに”帝”への関心は薄かった。しかし、難民を救うべく國子は即位を目指し、アトラス公社へ向かった。

また、美邦のために小夜子が、そして自身が即位するという夢をみて涼子も第四の神器”天の沼矛”の争奪戦が始まる。

一旦は國子の手により破壊されたメデューサだったが、一部残った機能を使って国連にハッキングすると、国連管理となっていた核兵器を東京などの主要都市に照準を合わせた。

一方、帝即位を間近に控え、アトラス計画の完遂を確信した凪子は、ゼウスに宿らせた擬似人格である神武天皇の排除を目論むが、既にそれを見切っていたゼウス(神武天皇)の逆転にあい、タルシャンとともに幽閉されてしまう。

木乃伊を復活させたゼウス(神武天皇)は皇太子として天の沼矛を携えた美邦を排除しようとする。そこへ駆けつけたのは、核兵器の発射を止めるべく、急行した國子だった。

 

スピード感が前半と後半で全く違います。

物語の背景説明に膨大な情報量を費やす前半は、物語の展開も緩やかで、新世界案内といった感じです。

一方で、後半は次から次へとイベントは起こるは、秘密が次々と明かされていくは、で、とにかくめまぐるしい。

キャラクターでいえば、モモコ武彦などのように前半登場のキャラクターはあくまで前半だけのキャラクターで、後半になるとどうも失速してしまうような印象です。

また、長丁場ということもあってか、少しずつキャラクターの描写が変わってきます。特に小夜子がそうですね。前半では全くの敵役というか、悪の権化的な扱いですが、後半は母性の強い女性の印象が極めて強くなっています。これは後半から登場する涼子の毒々しいまでの悪役ぶりとの対比を強調するためなのかもしれませんが・・・。

なぜ神武天皇が女性?とか、いろいろ不思議な点もありましたが、一番不思議に思ったのは美邦の特殊能力。あれって、何なんでしょう。最後まで特に解説もなく、どうもよくわかりませんでした。

もうひとつ、理解できなかったのは、メデューサが行う炭素を減らす仕組み。ちゃんと説明はされているんですが、どうも理解できません。

そうだ。あと、もうひとつ。メデューサが意識していたのは、仮想海面水位であるはずなのに、ラストで堤防の閘門を開けたところが、どうも釈然としませんでした。

どうもこれだけ長いと、いろいろわからないところが出てくるものです。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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『少年少女飛行倶楽部』 加納朋子

Syonensyojo 2009年、74冊目。加納朋子『少年少女飛行倶楽部』

うーん、ちょっとタイトル負けの内容。

「飛行クラブ」を巡る青春小説なんですが、どうも中身が薄い。

中学に入学した主人公が親友に誘われるようにして、正体不明の「飛行クラブ」に属することになり、(不平たらたら)無気力な部員らを引っ張りながら、熱気球による飛行を成し遂げるまでの話です。

 

中学1年の佐田海月(くーちゃん)は幼なじみの大森樹絵里(ジュジュ)にひきづられるように、謎のクラブ「飛行クラブ」に入部することになる。

”空を飛ぶことを目的とする”という、不可思議なクラブはまだ部としては認定されていなかった。

なにしろ、部員といえば、とにかく偉そうで何もしない部長斎藤神(カミサマ)と、斎藤の近所の同級生中村海星(野球部と兼部)の二人だけ。

5人揃わないと部にならないため、内申書のため仕方なく海月は部員探しに奔走する。

見つけたのは、入学直前に自殺未遂を起こしたと噂される少女仲居朋(るなるな)。

高所平気症のは変人の”カミサマ”部長にも臆せず、入部に同意する。

また、野球嫌いの野球部1年餅田球児中村は飛行クラブへ誘う。

こうして部員は5人揃ったが、顧問となった立木信長は全くやるきがない。新年度に入ってからの部活動に予算はつかず、海月たちは資金もなしに部活動を始めることとなる。

しかし、金もなく、部活動の方針もたたない中、部長の斎藤は不平をならすだけで、自身では何をするでもない。

見かねた海月は子ども向けに実施されるトランポリン教室に参加させるなど、斎藤にかわって部を引っ張る。

職場体験で派遣された先(スーパー星川)で熱気球を発見した海月は、店主星川に借用を願い出る。何とか借り受けることに成功した海月だったが、飛ばすためには球皮の修繕が必要だった。

アルバイト禁止の彼らは夏休みを利用しての古本回収や小動物の預かり等で、小金を貯めると、気球の修理にあてるのだった。

人のネガティブ情報を好んで探し回り吹聴する問題児戸倉良子(イライザ)も入部するなど、問題山積の飛行部だったが、文化祭でのテイク・オフを目指す海月だった。

しかし、顧問の立木は熱気球の話を聞くと目を剥き、猛反対する。何かあった際に立木の責任問題になるからだ。これに猛烈に反論する海月の剣幕に慄き、良子の囁く脅迫めいた言葉に、一旦は引き下がった立木だったが、星川に中止を要請することは容易に想像できた。

先手を打って星川に談判する海月たちのもとに、立木が現れた。立木の言葉にうなずく星川だったが・・・。

 

「飛行クラブ」という正体不明のクラブ名は『屋上ミサイル』の屋上部を彷彿とさせますが、どうもうまく調理できていない印象です。

屋上部と比較すると、やはり「飛行」ということで(作品中では範疇が定まらないことが連呼されていますが)それなりに活動が限定されてしまいますし、どうも活動へ至る道のりがどうも迂遠です。

キャラクターもどうもぱっとしない。主人公の海月こそ描写は細やかですが、変人の部長は単に極度に内向的な性格にしか見えず、その魅力がどうも伝わりません。極度のシスコンで、どうもひいてしまうような設定です。

友人の樹絵里にしても、(樹絵里はちょっとシリアスな部分もありますが)単なる変人の域を出ておらず、なかなかまとまりがありません。

他のキャラクターについても同様で、どうも薄っぺらい感じは否めません。

ストーリーが秀逸かといえば、必ずしもそうとはいえず、ラストも無理矢理盛り上げようという意図が見え見えで、ちょっと興を削がれてしまいます。だからといって、何も事件もなしに終わるには、ちょっとツライ展開ではありますが・・・。

お奨め度:★★☆☆☆

再読推奨:☆☆☆☆

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『バイアウト (上・下)』 真山仁

Buyout1Buyout2 2009年、72冊目・73冊目。真山仁『バイアウト (上・下)』

『ハゲタカ』の続刊。

今回は鐘紡の買収劇をモデルにした話と、海外有力投資ファンドとの攻防を巡る話の二本立て。

隠蔽されていた三葉銀行、政財界の不正を暴いたことで日本にいられなくなった鷲津が、日本を離れて放浪するところから始まります。

 

1年の海外放浪を追え帰国した鷲津を迎えたのは、鷲津の後任社長であるアラン・ウォードの死の知らせだった。

アランの死には不審な点が多く、自身の身代わりとなって殺されたのではないかと気に病む鷲津だった。

アランの後任としてアメリカから送り込まれたピーター・マイスキーは日本の流儀を無視し、次々と国内の布石を潰していっていた。

その余波は松平貴子のミカドホテルをも襲った。鷲津の仲介で、ミカドホテルの株式の75%を有するふるさとファンドが、ホライズン・キャピタルとの繋がりを無視し、ゴールドバーグ・コールズにミカド株を売却してしまったのだ。

日本へ戻った鷲津アランが手がけていた鈴紡の企業再生案件に乗り出す。

UTB銀行頭取となっていた飯島は、アルコール中毒で入院中の妻亜希子のもとに通う芝野を呼びつけると、鈴紡の名誉顧問岩田春雄に引き合わせると、鈴紡のCRO(最高事業再構築責任者)に就任させるのだった。

不良債権の処理のため、鈴紡の化粧品部門を月華に売却しようと画策するUTBコーポレート銀行だったが、鈴紡の中では意見が錯綜していた。月華への売却を支持するメインバンクUTB出身者らに対し、社長らによるMBOを狙うアイアン・オックス陣営、そして化粧品事業担当役員らによるMBOを狙うホライズン・キャピタル陣営である。

月華買収案が優位となるなかではあったが、組合・販売店会の支援を受けたホライズン勢が盛り返す。鷲津に対してはある種の思いを抱く芝野ではあったが、CROの責務として、UTBの影を排するべく、化粧品事業をホライズンに委ねるとともに、残った部分の民事再生法適用を画策する。

しかし、鈴紡の破綻はUTB破綻の引き金にもなりかねないと考えたUTBは、第2の産業蘇生機構であるニッポン・ルネッサンス機構(NRO)への救済に持ち込んでしまう。

歯噛みをする鷲津芝野だったが、如何ともすることはできなかった。

曙電機は老舗の総合電機メーカーではあったが、業績悪化のなかリストラクチャリングが急務。芝野もまたCROとして招聘され、再生に意欲的な諸星恒平社長のもと、再生作業に向かおうとする矢先、ゴールドバーグ・コールズよりベア・ハッグを仕掛けられる。

GCの背後には政府にもパイプを持つ世界最大の軍産ファンド、プラザ・グループの姿があった。曙電機の持つミリ波の技術を欲したプラザは、曙電機の特機部を買収しようとしたのだ。

悩んだ末、芝野鷲津に相談する。

鷲津芝野とともにNROの総裁に就いていた飯島を脅迫にも似た話法で、NROに特機部門を買い上げさせることに成功する。勿論、こっそりと商業価値の高いミリ波の技術などを他部に移して・・・。

煮え湯を飲まされたプラザ・グループが黙っているはずもない。KKLに圧力をかけると、鷲津をホライズン・キャピタルから解雇する。また、病院から一時自宅に戻っていた芝野の妻亜希子に酒を送りつけ、アルコール中毒の再発へ誘った。

諸星を叱咤激励しつつ、曙電機の再生に向けて取り組む芝野だったが、曙電機のテレビ事業を欲していたシャイン社長滝本誠一郎と組み、再度プラザ・グループは曙電機のTOBを狙う。

一方、曙電機買収失敗の煽りを食らってGCを解雇されたリン・ハットフォード鷲津を慕う人びととともに、鷲津に再戦を促した。鷲津を代表として、新たに組成されたファンド、「サムライ・キャピタル」もまた、曙電機のTOBを狙うのだった。

資金力、政治力に優れたプラザの前に窮地に陥る曙電機を前に、芝野鷲津は手を組み、これに立ち向かうのだった。

 

今回、ホライズン・キャピタル会長という肩書きを捨てることで、「ハゲタカ」と巷間揶揄される強欲外資の枠から外れることで、何となく行動と肩書きが近づいた感のある鷲津です。そのわりには、現在は改題されて『ハゲタカ2』というそうですが・・・。

結局のところラストは鷲津芝野の共闘にも近い形になっており、鷲津がマスコミに触れたように、「日本対アメリカ(外資)」というわかりやすい構造になって、読みやすくなっています。

しかし、あまりにも単純化されてしまって、逆に物語の厚みが薄くなってしまったような気がしてなりません。

キャラクターでは松平貴子がまたしても登場ですが、前作に比して更に印象が薄く、そもそも出て来る意味が不明。結局役に立ったのは、ラストでアランと付き合っていた女性の素性を鷲津に明かしたことくらいでしょうか。

アランの謎の死から始まった物語ですが、結局のところ最後まで真相は謎のまま終わってしまいました。次巻以降に期待です。

お奨め度:★★★☆☆

再読推奨:★★★☆☆

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