『サウンド・オブ・サイレンス』 五十嵐貴久
2011年、111冊目。五十嵐貴久『サウンド・オブ・サイレンス』
自身へのいじめから脱出しようとクラスメイト小野春香を陥れようとした夏子はそのクラスメイトが聴覚障碍者であることを知る。
耳が聞こえない春香の友人美紗と知り合った夏子は美紗が結成するダンスチームをサポートしていく。
懸命な練習の成果は・・・、という話。
中学時代にいじめにあった綾瀬夏子は高校での再生を図る。
うまくクラスに馴染めた頃、目についたクラスメイトがいた。
小野春香はとっつきにくく、無口。
周囲から浮き始めた春香をスケープゴートとすることで、自身をいじめのターゲットとすることから逃れようと考えた夏子は秘かに春香の評判を落としていく。
しかし、ある日、偶然、春香が友人と笑い合っているところを見かけた夏子は、その二人の間が無音であることに気付いた。
春香は聴覚障碍者だったのだ。
翌日、春香と話していた友人大森美紗と夏子は出会う。
美紗は先天性の障害で、一方春香は中途失聴者なのだという。
5歳の頃に髄膜炎になったことをきっかけに耳が聞こえなくなった春香は中学までこそ、ろう学校に行っていたものの、健常者との付き合いを求める家族の求めに応じて、高校は健常者の学校に進学したのだった。
また、健常者と同じ生活を送るために、敢えて耳が聞こえないことを隠していたのだ。
春香の無愛想なそぶりも耳が聞こえないことから来るものだったことを知った夏子は、己のやってきたことを後悔するが、最早取り返しはつかない。
高校3年だという美紗は、そんな夏子の葛藤を知ってか知らずか、クラスが同じなら友達だという理解のうえで、春香を説得して欲しいと頼むのだった。
美紗は春香とダンスのグループが組みたいのだが、春香が聞く耳を持たないのだという。
美紗との間に友情を育んだ夏子は、美紗のダンスの練習を手伝うかたわら、春香の家を根気よく訪問し、春香を誘う。
一方、ダンスグループを作るうえで、他のメンバーの必要性も感じていたとき、一人の女性と出会う。
小林澪は大学生。前年に交通事故で耳が聞こえなくなっていた。
大学のダンスサークルでレギュラーだった澪のダンスは美しい。
ガールズヒップホップを目指す美紗とジャズダンスを志向する澪の方向性は異なっていたが、同じ練習場を共有することで、グループを結成することにまとまる。
拒否を続けていた春香もまた澪の誘いを受けて、自身の本当の気持ちを母親に告げ、ダンスグループに参加することとなった。
更に、澪の元恋人でもある尾崎がコーチについたことで、少しずつ実力をつけていく三人。
夏子もまたマネージャーとして3人をサポートする。
澪の発案で参加した「第29回 ろうダンスバトルコンテスト」に向けて懸命の練習をする三人は、なんとその大会で優勝してしまう。
優勝で燃え尽き症候群に陥ってしまう3人だったが、次の問題が発生する。
美紗が尾崎に恋した挙句、尾崎と話し合う夏子に嫉妬をぶつける。気まずい雰囲気のなか、美紗がグループを脱退するかのように、連絡を絶つ。
春香や夏子のメールを送り続けて1ヵ月。漸くふっきれた美紗が復帰する。
次に尾崎が提案したのは、『東武自動車主催・第六回学生ダンスバトル』への出場。
これは聴覚障碍者の大会ではなく、健常者の大会だ。ハードルは高い。
厳しい練習が始まった。
一方、高校では夏子が春香と親しくしているのを見たクラスメイトから夏子への揶揄が始まる。それを見かねた春香は自身が聴覚障碍者であることを告白する。
これまで誰も気づかなかったこともあり、その告白は不審感をもって迎えられるが、事実を知ることでクラスメイトも春香らのダンスを応援するようになっていく。
そして迎えたダンスバトルの本番。
完璧なダンスを終えた3人を迎えた尾崎は入賞、優勝の可能性も口にするのだが・・・。
冒頭は「いじめ」を材料に、どちらかというと精神論・観念的、道徳的な色彩が強く、陰鬱な印象が強い。
ところが途中から、”耳が聞こえない”という一つの属性さえ除けば、ほぼ「スポーツ根性もの」であったり、「青春もの」というジャンルに様変わりする。
冒頭で読むのを止めてしまいそうになるけれど、ちゃんと読み続ければ途中から楽しさ、明るさが見えてくるといった構成になっている。途中で止めてしまうのは勿体ない。
比較的専門用語が出てきて、わからない部分も多々あるんだけれど、雰囲気だけでも十楽しめる。
読み終えた感想としては、非常に楽しかったという印象が強い。勿論、出来すぎという面もあって、人によっては白けてしまうかもしれないが、現実が厳しい分、こういう小説では明るい話である方がいいんでしょうね。
お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★☆☆
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